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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D21F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D21F
管理番号 1245986
審判番号 不服2008-1799  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-23 
確定日 2011-11-04 
事件の表示 平成10年特許願第356175号「紙料ウェッブを製造する機械」拒絶査定不服審判事件〔平成11年9月7日出願公開、特開平11-241288〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成10年12月15日(パリ条約に基づく優先権主張1997年12月18日(DE)ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成19年10月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年1月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に、同時に明細書の特許請求の範囲を対象とする手続補正がなされたものである。

第2.平成20年1月23日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
本件手続補正を却下する。
〔理由〕
1.補正後の本願発明
本件手続補正により、明細書の特許請求の範囲の請求項1は、
「引延ばされた圧搾ニップ(4)を形成するためにシュー形圧搾ユニット(2)と乾燥胴(3)とから成る少なくとも1つのプレスを備えた形式の、紙料ウェッブ(1)を製造する機械において、紙料ウェッブ(1)と一緒に少なくとも1本の透水性かつ吸水性のベルト(5)が圧搾ニップ(4)を通ってガイドされており、かつ該圧搾ニップ(4)の手前で前記ベルト(5)が少なくとも1つのサクション装置(6)を介してガイドされており、この場合、紙料ウェッブ(1)がベルトの外面に位置している形式のものにおいて、前記サクション装置(6)が、ベルトから、場合によっては紙料ウェッブからさえも充分な水分を除去することにより、圧搾ニップ(4)において搾出された水を吸収するのに充分な吸水能がベルト(5)に与えられていることを特徴とする、紙料ウェッブを製造する機械。」
と補正された。
上記補正は、補正前(出願時)の請求項1に記載された発明を特定する事項である「紙料ウェッブ(1)と共に少なくとも1本の透水性かつ吸水性のベルト(5)が圧搾ニップ(4)を通ってガイドされており、かつ該圧搾ニップ(4)の手前で前記ベルト(5)が少なくとも1つのサクション装置(6)を介してガイドされており」について、限定する「この場合、紙料ウェッブ(1)がベルトの外面に位置している形式のものにおいて、前記サクション装置(6)が、ベルトから、場合によっては紙料ウェッブからさえも充分な水分を除去することにより、圧搾ニップ(4)において搾出された水を吸収するのに充分な吸水能がベルト(5)に与えられている」との事項を付加すると共に、「共に」を「一緒に」と補正するものである。
そして、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではない。したがって、上記補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件手続補正後の上記請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.特許法第36条について
補正後の請求項1に「場合によっては」と記載されているが、どのような条件のときが「場合」に該当するのか、不明である。また、請求項1に「充分な水分を除去」、「充分な吸水能」と記載されているが、どの程度の水分が除去されることで「充分な」水分が除去されるというか、また、どの程度の水が吸収されることで「充分な」吸水能を有するというか、「充分な」という語の客観的指標が不明である。したがって、補正後の請求項1に記載された発明は明確でなく、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
なお、請求人は、平成22年10月7日付け回答書の[回答の内容](1)において、『「充分な吸水能」とは、「圧搾ニップ(4)において搾出された水を吸収するのに」充分な吸水能であり、その程度は明確であると思料します。』と主張している。しかしながら、請求人のこの主張を考慮しても「圧搾ニップ(4)において搾出された水」をどの程度吸収すれば、「充分な吸水能」になるのか、その客観的指標が依然として不明である。したがって、「その程度は明確である」との請求人の主張は採用できない。

3.特許法第29条について
(1)補正後の請求項1に記載された「ベルトから、場合によっては紙料ウェッブからさえも」については、「ベルトから、又はベルトと紙料ウェッブの双方から」という意味であると解する余地がないとはいえない。また、補正後の請求項1に記載された「充分な水分を除去」、「充分な吸水能」については、これらは客観的な技術的事項を特定する記載ではなく、「圧搾ニップ(4)の手前で前記ベルト(5)が少なくとも1つのサクション装置(6)を介してガイドされており、この場合、紙料ウェッブ(1)がベルトの外面に位置している」という技術的事項によって奏される作用効果を願望的に記載したものであると解する余地がないとはいえない。そして、上記のように解した場合には、特許請求の範囲の記載が明確でないものの、その不明確な程度は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件違反として拒絶すべきほどのものではないと解する余地が全くないとはいえない。
そこで、補正後の請求項1の記載を上記のように解した場合に、本願補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

(2)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第97/16593号(以下、「引用例1」という。)には、次の記載がある(日本語訳は当審による。)。
a「The present invention relates to the pressing and drying
sections of papermaking machines in general and to dryers for
tissue in particular.」(1頁4?5行)
(本発明は、一般的に、抄紙機の圧搾部及び乾燥部に関し、特にティッシュ用の乾燥機に適している。)
b「Referring more particularly to FIGS. 1-3 wherein like
numbers refer to similar parts, a tissue dryer 20 is shown in
FIG. 1. The dryer 20 employs a cylindrical press roll 22 which
forms an extended nip 24 with a shoe 26.」(5頁2?4行)
(類似の部分に対して同様な符号が付された図1?3を参照して、詳細に説明する。図1には、ティッシュ用の乾燥機20が示されている。乾燥機20は、圧搾ロール22とシュー26とを備えており、これらで延長ニップ24を形成する。)
c「An altemative embodiment impulse dryer 60 is shown in
FIG. 2. The impulse dryer 60 has a press roll 62 which is located
below an enclosed extended nip press 64.」(7頁27?29行)
(他の実施例として、力積(インパルス)型乾燥機60が図2に示されている。インパルス型乾燥機60は、閉鎖型延長ニップ圧搾機64と、その下方に配置された圧搾ロール62を備えている。)
d「In the impulse dryer 60, the web 36 is transferred from the
forming wire or fabric 76 to the press felt 74 by a suction pick-up
roll 78 which employs a suction gland 80 to effect the transfer of
the web 36.」(8頁11?13行)
(紙料ウェッブ36は、サクションピックアップロール78によって、抄紙網又は抄紙用織物76からフェルト74に移され、インパルス型乾燥機60へ移送される。サクションピックアップロール78は、紙料ウェッブ36をフェルト74に移す作用をなす、サクション部80を備えている。)
e.図2から、サクションピックアップロール78から延長ニップまでの部分では、紙料ウェッブ36がフェルト74の外面に位置していることが見て取れる。
以上の記載並びに図1及び図2によれば、引用例1には、次の発明が記載されているといえる。(以下、「引用発明1」という。)
《引用発明1》
「延長ニップを形成するシュー形圧搾機64と圧搾ロール62とから成る形式の、紙料ウェッブ36を製造する抄紙機において、
紙料ウェッブ36と一緒にフェルト74が延長ニップを通ってガイドされており、かつ
該延長ニップの手前でフェルト74がサクションピックアップロール78を介してガイドされており、紙料ウェッブ36がフェルト74の外面に位置している、抄紙機。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「延長ニップ」、「シュー形圧搾機64」、「紙料ウェッブ36」及び「製造する抄紙機」は、それぞれ本願補正発明の「引延ばされた圧搾ニップ(4)」、「シュー形圧搾ユニット(2)」、「紙料ウェッブ(1)」及び「製造する機械」に相当する。
引用発明1の「圧搾ロール62」は、インパルス型乾燥機60のロールであるから、本願補正発明の「乾燥胴(3)」に相当する。
引用発明1の「フェルト74」及び「サクションピックアップロール78」は、それぞれ本願補正発明の「透水性かつ吸水性のベルト(5)」及び「サクション装置(6)」に相当する。
引用発明1は、シュー形圧搾機64と圧搾ロール62とによって、1つの圧搾部を形成しているから、本願補正発明の「少なくとも1つのプレスを備えた形式」との要件を満たす。また、引用発明1は、サクションピックアップロール78を備えているから、本願補正発明の「少なくとも1つのサクション装置」との要件を満たす。
そうすると、本願補正発明と引用発明1とは、できるだけ本願補正発明に倣って記載すれば、次の一致点で一致する。
《一致点》
「引延ばされた圧搾ニップを形成するためにシュー形圧搾ユニットと乾燥胴とから成る少なくとも1つのプレスを備えた形式の、紙料ウェッブを製造する機械において、紙料ウェッブと一緒に少なくとも1本の透水性かつ吸水性のベルトが圧搾ニップを通ってガイドされており、かつ該圧搾ニップの手前で前記ベルトが少なくとも1つのサクション装置を介してガイドされており、この場合、紙料ウェッブがベルトの外面に位置している形式の、紙料ウェッブを製造する機械。」
そして、本願補正発明と引用発明1とは、次の相違点1で相違する。
《相違点1》
本願補正発明は、サクション装置(6)が、ベルトから、場合によっては紙料ウェッブからさえも充分な水分を除去することにより、圧搾ニップ(4)において搾出された水を吸収するのに充分な吸水能がベルト(5)に与えられているのに対して、引用発明1は、このような構成を備えることを特定していない点。

(4)相違点の検討
上記(1)で述べたとおり、相違点1に係る本願補正発明の記載は、客観的な技術的事項を特定する記載ではなく、「圧搾ニップ(4)の手前で前記ベルト(5)が少なくとも1つのサクション装置(6)を介してガイドされており、この場合、紙料ウェッブ(1)がベルトの外面に位置している」という技術的事項によって奏される作用効果を願望的に記載したものである。
そうすると、相違点1は、実質的な相違点ではないから、本願補正発明は引用発明1と同一である。
仮に、相違点1に係る本願補正発明の構成が、技術的意味をもつと仮定しても、それは、「サクション装置の使用によって、ベルトから、場合によっては紙料ウェッブからさえも充分な水分を除去することが可能であるので、ベルトの吸水能は、圧搾ニップにおいて搾出された水を吸収するのに充分である。更に紙料ウェッブへの逆給湿も低下される。結果的に、ただ1つの圧搾ニップで事足りる単純な構造の機械が得られる。」(本願明細書段落0006?0007参照)程度のものである。そして、引用発明1のサクションピックアップロール78は、その構造上、フェルト74から、又はフェルト74と紙料ウェッブ36の双方から、ある程度の水分を除去すると認められるし、引用発明1は、ただ1つの圧搾ニップで紙料ウェッブ36の乾燥が事足りるものである(例えば、引用例1の6頁5?7行(後記摘記事項g)及び7頁25?26行参照)。そうすると、本願補正発明も引用発明1も、「ただ1つの圧搾ニップで事足りる」という同様な作用効果を奏するものであるから、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。また、仮に、実質的に相違するとしても、当業者が適宜なし得る単なる設計変更に過ぎないものである。
したがって、本願補正発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、又は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、あるいは、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。よって、本件手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
上記のとおり、本件手続補正は却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、出願当初の明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1は次のとおり記載されている。
「引延ばされた圧搾ニップ(4)を形成するためにシュー形圧搾ユニット(2)と乾燥胴(3)とから成る少なくとも1つのプレスを備えた形式の、紙料ウェッブ(1)を製造する機械において、紙料ウェッブ(1)と共に少なくとも1本の透水性かつ吸水性のベルト(5)が圧搾ニップ(4)を通ってガイドされており、かつ該圧搾ニップ(4)の手前で前記ベルト(5)が少なくとも1つのサクション装置(6)を介してガイドされることを特徴とする、紙料ウェッブを製造する機械。」
(以下、請求項1に係る発明を、「本願発明」という。)

2.原審の拒絶の理由
原審が、本願を拒絶した理由は、概要次のとおりと認める。
「この出願の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1.国際公開第97/16593号
引用例3.実願昭58-121906号(実開昭60-32397号)のマイクロフィルム
引用例4.米国特許第5556511号明細書
引用例5.米国特許第3013938号明細書
引用例6.米国特許第3846228号明細書 」
なお、「引用例2」は欠番である。

3.引用例の記載事項
引用例1には、上記第2.3(2)で指摘した事項及び次の記載がある。
f「A tissue web 36 leaves a former (not shown) on top of a
press felt or forming fabric 38 and is conveyed by the forming
fabric 38 directly into the extended nip 24 of the impulse dryer 20.
The web 36 and felt 38 are pressed against the hot surface 40 of
the roll 22, bringing the web 36 into direct contact with the roll
surface 40.」(5頁13?17行)
(ティッシュのウェッブ36は、不図示の前工程から、フェルト又は抄紙用織物38の上へと移され、抄紙用織物38によって直接、インパルス型乾燥機20の延長ニップ24へ移送される。ウェッブ36とフェルト38は、ロール22の高温の表面40に押し付けられ、ウェッブ36は表面40と直接接触する。)
g「The dry web 36 is then scraped from the roll surface 40 by
a doctor blade 50 mounted to a doctor back 52.」(6頁5?7行)
(乾燥したウェッブ36は、ドクターバック52に取り付けられたドクターブレイド50によって、ロール表面40から掻き取られる。)
以上の記載及び図1によれば、引用例1には、次の発明が記載されているといえる。(以下、「引用発明A」という。)
《引用発明A》
「延長ニップ24を形成するシュー26と圧搾ロール22とを備え、圧搾ロール22が高温の表面40を備えて、該表面40でティッシュのウェッブ36を乾燥する機械において、
紙料ウェッブ36と一緒にフェルト38が延長ニップ24を通ってガイドされている、機械。」

4.対比
本願発明と引用発明Aとを対比すると、引用発明Aの「延長ニップ24」、「シュー26」、「ティッシュのウェッブ36」及び「フェルト38」は、それぞれ本願発明の「引延ばされた圧搾ニップ(4)」、「シュー形圧搾ユニット(2)」、「紙料ウェッブ(1)」及び「透水性かつ吸水性のベルト(5)」に相当する。
引用発明Aの「圧搾ロール22」は、高温の表面40を備えてティッシュのウェッブ36を乾燥するものであるから、本願発明の「乾燥胴(3)」に相当する。
引用発明Aの「乾燥する機械」は、ティッシュのウェッブを製造する機械の一部である限りにおいて、本願発明の「製造する機械」に相当する。
引用発明Aは、延長ニップ24を備えるから、本願発明の「少なくとも1つのプレスを備えた形式」との要件を満たす。
そうすると、本願発明と引用発明Aとは、できるだけ本願発明に倣って記載すれば、次の一致点で一致する。
《一致点》
「引延ばされた圧搾ニップを形成するためにシュー形圧搾ユニットと乾燥胴とから成る少なくとも1つのプレスを備えた形式の、紙料ウェッブを製造する機械において、紙料ウェッブと共に少なくとも1本の透水性かつ吸水性のベルトが圧搾ニップを通ってガイドされている、紙料ウェッブを製造する機械。」
そして、本願発明と引用発明Aとは、次の相違点Aで相違する。
《相違点A》
本願発明は、圧搾ニップ(4)の手前で前記ベルト(5)が少なくとも1つのサクション装置(6)を介してガイドされるのに対して、引用発明Aは、そのような構成を備えていない点。

5.相違点の検討
相違点Aについて検討すると、紙料ウェッブとプレス用フェルトとが、圧搾ニップの手前でサクション装置を介してガイドされる構成は、例えば、引用例1(上記摘記事項d参照)、引用例4(米国特許第5556511号明細書。ピックアップ用サクション装置5を参照)、特開昭47-4006号公報(図2及びその説明に記載された真空帯域18や、図1及びそのその説明に記載されたハイドロフォイル真空箱10を参照)に記載されており、周知である。したがって、相違点Aに係る本願発明の構成は、引用発明Aに上記周知の技術的事項を適用することにより、当業者が容易に推考し得たことである。
そして、本願発明が奏する効果も、引用発明A及び周知の技術的事項から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明は、引用発明A及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第4.付記
1.本願発明及び本願補正発明について
本願発明は、第2.3で述べたのと同様の理由で、引用発明1と同一でもある。本願補正発明は、第3.4?5で述べたのと同様の理由で、引用発明A及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもある。

2.補正案について
(1)補正案発明
請求人は、平成22年10月7日付けの回答書において、特許請求の範囲の請求項1の補正案として、次の補正案を示している。
「引延ばされた圧搾ニップ(4)を形成するためにシュー形圧搾ユニット(2)と乾燥胴(3)とから成る少なくとも1つのプレスを備えた形式の、紙料ウェッブ(1)を製造する機械において、紙料ウェッブ(1)と一緒に少なくとも1本の透水性かつ吸水性のベルト(5)が圧搾ニップ(4)を通ってガイドされており、かつ該圧搾ニップ(4)の手前で前記ベルト(5)が少なくとも1つのサクション装置(6)を介してガイドされており、この場合、紙料ウェッブ(1)がベルトの外面に位置している形式のものにおいて、
前記サクション装置(6)がサクションローラであって、該サクションローラにベルト(5)が巻掛けられてガイドされており、紙層形成部においてベルト(5)が、紙料フローボックス(8)から紙料懸濁液を受容するために使用されており、
前記サクション装置(6)が、ベルト及び紙料ウェッブから水分を除去することにより、圧搾ニップ(4)において搾出された水を吸収するのに充分な吸水能がベルト(5)に与えられていることを特徴とする、紙料ウェッブを製造する機械。」(以下、「補正案発明」という。)

(2)対比
そこで、この補正案発明の特許性について一応の見解を示す。
補正案発明の「引延ばされた圧搾ニップ(4)を形成するために…形式のものにおいて」という記載で特定される事項、及び「サクション装置(6)がサクションローラであって、該サクションローラにベルト(5)が巻掛けられてガイドされており」という記載で特定される事項は、引用発明1も備えている事項である。
よって、補正案発明と引用発明1とは、次の相違点ア、イで相違し、その余の点で一致する。
《相違点ア》
補正案発明は、紙層形成部においてベルト(5)が、紙料フローボックス(8)から紙料懸濁液を受容するために使用されているのに対し、引用発明1は、そのような構成を備えていない点。
《相違点イ》
補正案発明は、サクション装置(6)が、ベルト及び紙料ウェッブから水分を除去することにより、圧搾ニップ(4)において搾出された水を吸収するのに充分な吸水能がベルト(5)に与えられているのに対し、引用発明1は、そのような構成を備えることを特定していない点。

(3)相違点の検討
相違点アについて検討すると、圧搾部まで紙料ウェッブを搬送するベルトを、紙層形成部において紙料フローボックスから紙料懸濁液を受容するために使用することは、例えば、前記特開昭47-4006号公報や、引用例6(米国特許第3846228号明細書)に記載されており、周知である。また、このような構成において、圧搾ニップの手前でベルトが少なくとも1つのサクション装置を介してガイドされることも、前記特開昭47-4006号公報や、引用例6に記載されている。したがって、相違点アに係る補正案発明の構成は、引用発明1に上記周知の技術的事項を適用することにより、当業者が容易に推考し得たことである。
相違点イについて検討すると、上記第2.3(4)で述べたのと同様な理由により、実質的な相違点ではないか、又は、当業者が適宜なし得る単なる設計変更に過ぎないものである。
したがって、補正案発明は、引用発明1及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第5.むすび
以上のとおりであって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
原査定は妥当である。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-25 
結審通知日 2011-06-02 
審決日 2011-06-15 
出願番号 特願平10-356175
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D21F)
P 1 8・ 575- Z (D21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須藤 康洋  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 亀田 貴志
紀本 孝
発明の名称 紙料ウェッブを製造する機械  
代理人 久野 琢也  
代理人 矢野 敏雄  

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