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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 C10M
管理番号 1245994
審判番号 不服2008-18263  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-17 
確定日 2011-11-04 
事件の表示 平成 9年特許願第246719号「ディーゼルエンジン用潤滑油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 3月26日出願公開、特開平11- 80771〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成 9年 9月11日の出願であって、平成19年 3月 2日付けで拒絶理由が通知され、同年 4月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年 6月12日に拒絶査定され、これに対して同年 7月17日に拒絶査定不服審判が請求され、同年 7月25日に請求の理由についての手続補正書及び明細書についての手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の発明は、平成19年 4月26日付け及び平成20年 7月25日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載されたとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりである。

「100℃における動粘度が5?40mm^(2)/sである潤滑油基油に、組成物全量基準で、(1)過塩素酸法による全塩基価が140?220mgKOH/gであるアルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属濃度換算で0.1?2.5質量%ならびに(2)(a)過塩素酸法による全塩基価が220mgKOH/gを超え、400mgKOH/g以下であるアルカリ土類金属サリシレートおよび/または(b)過塩素酸法による全塩基価が80?200mgKOH/gであるアルカリ土類金属スルホネートをアルカリ土類金属濃度換算で0.01?1質量%含有してなるディーゼルエンジン用潤滑油組成物。」
(以下、「本願発明」という。)

3 原査定の拒絶理由の概要
現査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた以下の特許出願1の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない、という理由を含むものである。

特許出願1:特願平8-294674号(拒絶査定における「引用出願6」に同じ。以下、「先願」ともいう。)

4 先願及びその明細書の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特願平8-294674号は、本願の出願日前である平成 8年10月17日に出願され、本願の出願日後である平成10年 5月12日に出願公開されたものであって、その願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。特開平10-121082号公報参照)には、以下の事項が記載されている。

1a 【特許請求の範囲】
【請求項1】鉱油もしくは合成潤滑油あるいは両者の混合物の基油に、(A)塩酸法で測定した塩基価および過塩素酸法で測定した塩基価がともに300?400mgKOH/gであって、前者の後者に対する比が0.95以上である過塩基性アルカリ土類金属フェネ-トを1?30質量%、(B)塩基価200mgKOH/gを越え、350mgKOH/g以下の過塩基性アルカリ土類金属サリシレ-トを0.5?15質量%、(C)塩基価100?200mgKOH/gの過塩基性アルカリ土類金属サリシレ-トを0.5?15質量%、および(D)非イオン系界面活性剤0.1?5質量%を含有させてなることを特徴とする舶用エンジン油組成物。

1b 【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、舶用エンジン油組成物に関し、更に詳しくは、高硫黄分燃料を使用する舶用ディーゼルエンジンの硫酸に対する腐食防止性が要求される分野において、その能力を最大限に発揮しうる舶用エンジン油組成物に関する。

1c 【0018】?【0019】
本発明における必須成分の一つであるB成分の過塩基性アルカリ土類金属サリシレ-トは、塩基価が200mgKOH/gを越え、350mgKOH/g以下であり、特に好ましくは250mgKOH/g?350mgKOH/gである。更に本発明における必須成分の一つであるC成分の過塩基性アルカリ土類金属サリシレ-トは、塩基価が100?200mgKOH/gであり、好ましくは150?200mgKOH/gである。上記のアルカリ土類金属サリシレ-トは、カルシウム塩、マグネシウム塩等があるが、好ましくはカルシウム塩である。B成分は炭素数20?30のα-オレフィン、C成分は14?18のα-オレフィンを用い、フェノ-ルをアルキル化してアルキル金属塩とし、コルベ-シュミット反応でカルボキシル基を導入し、複分解等によりアルカリ土類金属塩とした物が使用される(特公昭61-24560号公報、特公昭61-24651号公報等参照)。なお、過塩基性型は、中性型を二酸化炭素で処理することにより製造される。
また、上記過塩基性アルカリ土類金属サリシレ-トの配合割合は、各々0.5?15質量%、好ましくは0.5?10質量%である。過塩基性アルカリ土類金属サリシレ-トの配合割合が少なすぎると効果が十分でなく、逆に多すぎても添加量の割に効果の向上が得られない。また、A成分の上記過塩基性アルカリ土類金属フェネート、B成分の過塩基性アルカリ土類金属サリシレ-ト、C成分の過塩基性アルカリ土類金属サリシレ-トの配合割合は、各成分の塩基価比で、A:(B+C)=10:1?1:1であり、好ましくは7:1?1:1である。また、B成分、C成分の配合割合は、各成分の塩基価比で、B:C=1:4?4:1であり、好ましくはB:C=1:2?2:1である。

1d 【0022】
本発明においては、上記A成分、B成分、C成分およびD成分を鉱油系潤滑油もしくは、合成系潤滑油あるいは両者の混合物からなる基油に混合する。基油は、通常の潤滑油粘度を有するものであり、粘度指数が85?140のものが好適である。鉱油系潤滑油の場合は、例えば鉱油系潤滑油留分を溶剤精製、水素化精製など適宜組み合わせて精製したものを用いればよい。合成系潤滑油としては、例えば炭素数3?12のα-オレフィンの重合体であるα-オレフィンオリゴマー、ジオクチルセバケートを始めとするセバケート、アゼレート、アジペートなどの炭素数4?12のジアルキルジエステル類、1-トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールと炭素数3?12の一塩基酸から得られるエステルを始めとするポリオールエステル類、炭素数9?40のアルキル基を有するアルキルベンゼン類などが挙げられる。上記鉱油系潤滑油及び合成系潤滑油はそれぞれ1種単独であるいは2種以上を混合して使用することができる。

1e 【0025】?【0028】
【実施例】次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの例によっては何ら限定されるものではない。実施例では、基油に、必須成分及び種々の添加剤を配合してエンジン油組成物を調整し、硫酸中和性試験、ピストン清浄性、ピストンリングの腐食摩耗を評価した。各実施例、各比較例のエンジン油組成物の調製に用いた基油、必須成分及び添加剤の種類並びに各評価試験は次の通りである。
(1)基油
SAE40(アメリカ自動車技術者協会による自動車用潤滑剤の粘度番号が40で、100℃の動粘度が12.5?16.3mm^(2)/sの鉱油)で粘度指数が100の基油を使用した。
(2)カルシウムフェネートA(TBN350mgKOH/g)
攪拌器、ガス導入管および温度計を装着した1リットルオートクレーブに、純度99.75%のドデシルフェノール552.21g(2.1モル)、純度94.9%の酸化カルシウム41.38g(0.7モル)および硫黄6.74g(0.21モル)(酸化カルシウム1モル当たり0.3モル)、ステアリン酸4.98g(0.0175モル)(酸化カルシウム1モル当たり0.025モル)を封入し、攪拌した。得られた懸濁液に、エチレングリコール65.20g(1.05モル)を125℃で添加し、これを130℃でゲージ圧約3.0気圧の加圧、密閉の条件下、約3.0時間攪拌後、該反応系内を徐々に減圧しながら、生成した水、一部の未反応のエチレングリコールおよび少量のドデシルフェノールを留去することにより、液状蒸留残留物618.3gが得られた。この際の最終留出温度は140℃(3mmHg)であった。次に、該蒸留残留物618.3gに水5.04g(0.28モル)(酸化カルシウム1モル当たり0.4モル)を添加した後、温度150℃で減圧状態から30分間二酸化炭素を吸収させた。この時のオートクレーブへの二酸化炭素の供給速度は、0.315リットル/minとした。次いで、178℃に昇 温し、ゲージ圧5.0気圧になるまで再び二酸化炭素で加圧し、2.0時間保持して反応生成物648.3gを得た。この反応生成物648.3gに希釈剤として150ニュートラル油117.37gを加えた。この反応生成物を1リットル三口梨型フラスコに698.27g移し、減圧蒸留して少量のエチレングリコールおよび未反応のドデシルフェノールの大部分を留去して、蒸留残留物182.35gを得た。その際の最終留出温度は225℃(1.5mmHg)であった。その後、この蒸留残留物を多量のヘキサンで希釈し、遠心分離により不溶解物12.59gを除去後、多量に加えたヘキサンを蒸留除去することにより得られた過塩基性硫化カルシウムフェネートを使用した。また、その性状を下に示す。
性状
(i)塩基価 塩酸法 352mgKOH/g
過塩素酸法 352mgKOH/g
(ii)塩基価の比(塩酸法/過塩素酸法) 1.0
(iii)脂肪酸量 2.8質量%
(iv)粘度(100℃) 432mm^(2)/s
(v)色相(ASTM色)* L3.0Dil
*:JIS-K-2580(石油製品色試験方法)に規定する方法で行った。
(3)カルシウムサリシレートB(TBN300mgKOH/g)
炭素数20?30のαーオレフィンでフェノールをアルキル化し、次いでコルベ-シュミット反応でカルボキシル基を導入した後、複分解などによりカルシウム塩としたものを使用した。
(4)カルシウムサリシレートC(TBN170mgKOH/g)
炭素数14?18のαーオレフィンでフェノールをアルキル化し、次いでコルベ-シュミット反応でカルボキシル基を導入した後、複分解などによりカルシウム塩としたものを使用した。
(5)ポリオキシエチレン系の非イオン系界面活性剤
ポリオキシエチレン系の非イオン系界面活性剤として、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを使用した。
(6)アルケニルこはく酸イミド
分子量が30?3000のポリオレフィンを無水マレイン酸と反応させた後ポリアミンを用いてイミド化したもの、あるいは得られたイミドに芳香族ポリカルボン酸を作用させて残りのアミノ基を一部アミド化したもの(例えば、分子量900のポリブテンを無水マレイン酸と反応させた後に、テトラエチレンペンタミンでイミド化したもの、あるいはこれにトリメリット酸を作用させたものが挙げられる)等を使用した。
(7)消泡剤
シリコーン系消泡剤(市販添加剤)を使用した。
(8)市販カルシウムフェネート
(i)塩基価 塩酸法 175mgKOH/g
過塩素酸法 250mgKOH/g
(ii)塩基価の比(塩酸法/過塩素酸法) 0.7

1f 【0030】?【0036】
実施例1?11
前記の基油にカルシウムフェネートA、カルシウムサリシレートB、カルシウムサリシレートC、ポリオキシエチレン系の非イオン系界面活性剤を表1、2及び3に示す割合(質量%)で配合し、舶用エンジン油組成物を調製した。得られた舶用エンジン油組成物の硫酸中和性試験の結果は表1、2及び3下段に示す通りである。なお、表中バランスとは、エンジン油に配合されている各成分の合計量が100質量%になるように、基油の量を選定する意味である。
比較例1?4
上記の基油および添加剤を配合して舶用エンジン油組成物を調製した。配合割合(質量%)を表4上段に、硫酸中和試験の結果は表4下段に示す。
実施例12及び比較例5、6
前記の基油にカルシウムフェネートA、カルシウムサリシレートB、カルシウムサリシレートC、ポリオキシエチレン系の非イオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンノニルフェニルエ-テル)、アルケニルこはく酸イミドおよび消泡剤を、表5に示す割合(質量%)で配合した、舶用エンジン油組成物を調製し、台上エンジンを用い、シリンダーライナー、ピストンリングの腐食摩耗評価及びピストン清浄性評価を実施した。その結果を表5に示す。なお、表5中の評価結果は、比較例6を1.0とした時の比として示した。

表1



表2



表3



表4



表5


5 先願発明
先願明細書には、「鉱油もしくは合成潤滑油あるいは両者の混合物の基油に、(A)塩酸法で測定した塩基価および過塩素酸法で測定した塩基価がともに300?400mgKOH/gであって、前者の後者に対する比が0.95以上である過塩基性アルカリ土類金属フェネ-トを1?30質量%、(B)塩基価200mgKOH/gを越え、350mgKOH/g以下の過塩基性アルカリ土類金属サリシレ-トを0.5?15質量%、(C)塩基価100?200mgKOH/gの過塩基性アルカリ土類金属サリシレ-トを0.5?15質量%、および(D)非イオン系界面活性剤0.1?5質量%を含有させてなることを特徴とする舶用エンジン油組成物」(摘記1a)が記載されている。
さらに、基油としては「通常の潤滑油粘度を有する基油」であるものを用いること(摘記1d)、該(B)である過塩基性アルカリ土類金属サリシレートの好ましい塩基価は「250mgKOH/g?350mgKOH/g」であること(摘記1c)、該(C)である過塩基性アルカリ土類金属サリシレートの好ましい塩基価は「150?200mgKOH/g」であること(摘記1c)が、それぞれ記載されている。

してみると、先願明細書には、
「通常の潤滑油粘度を有する、鉱油もしくは合成潤滑油あるいは両者の混合物の基油に、(A)塩酸法で測定した塩基価および過塩素酸法で測定した塩基価がともに300?400mgKOH/gであって、前者の後者に対する比が0.95以上である過塩基性アルカリ土類金属フェネ-トを1?30質量%、(B)塩基価250mgKOH/g?350mgKOH/gの過塩基性アルカリ土類金属サリシレ-トを0.5?15質量%、(C)塩基価150?200mgKOH/gの過塩基性アルカリ土類金属サリシレ-トを0.5?15質量%、および(D)非イオン系界面活性剤0.1?5質量%を含有させてなることを特徴とする舶用エンジン油組成物」
に係る発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。

6 対比
本願発明と先願発明を対比する。
先願発明の「通常の潤滑油粘度を有する」「基油」は、本願発明の「潤滑油基油」に相当する。
先願発明の「過塩素酸法で測定した塩基価」は、本願発明の「過塩素酸法による全塩基価」に相当する。
先願発明の「過塩基性アルカリ土類金属サリシレート」は、本願発明の「アルカリ土類金属サリシレート」に相当する。
先願発明の「(C)塩基価150?200mgKOH/gの過塩基性アルカリ土類金属サリシレ-ト」は、本願発明の「(1)過塩素酸法による全塩基価が140?220mgKOH/gであるアルカリ土類金属サリシレート」に含まれる。
先願発明の「(B)塩基価250mgKOH/g?350mgKOH/gの過塩基性アルカリ土類金属サリシレ-ト」は、本願発明の「(2)(a)過塩素酸法による全塩基価が220mgKOH/gを超え、400mgKOH/g以下であるアルカリ土類金属サリシレート」に含まれる。
先願明細書【0001】(摘記1b)に「高硫黄分燃料を使用する舶用ディーゼルエンジンの硫酸に対する腐食防止性が要求される分野において、その能力を最大限に発揮しうる舶用エンジン油組成物」であることが示されているから、先願発明の「舶用エンジン油組成物」とは、本願発明の「ディーゼルエンジン用潤滑油組成物」に相当する。

してみると、本願発明と先願発明とは
「潤滑油基油に、過塩素酸法による全塩基価が150?200mgKOH/gのアルカリ土類金属サリシレートならびに過塩素酸法による全塩基価250mgKOH/g?350mgKOH/gの過塩基性アルカリ土類金属サリシレ-トを含有してなるディーゼルエンジン用潤滑油組成物」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。

(相違点1)「潤滑油基油」が、本願発明では「100℃における動粘度が5?40mm^(2)/sである」ことが規定されるのに対し、先願発明は「通常の潤滑油粘度を有する」とのみ規定されている点
(相違点2)「アルカリ土類金属サリシレート」の含有量が、本願発明では成分(1)として「アルカリ土類金属濃度換算で0.1?2.5質量%」、成分(2)として「アルカリ土類金属濃度換算で0.01?1質量%」と規定するのに対して、先願発明では成分(C)として「0.5?15質量%」、成分(B)として「0.5?15質量%」、と規定する点


7 判断
(1)相違点1について
先願明細書には使用される基油の動粘度についての一般的な記載はなされていないが(摘記1d)、実施例には、潤滑油基油として「SAE40」すなわち「100℃の動粘度が12.5?16.3mm^(2)/sの鉱油」を使用することが記載されている(摘記1e)。
したがって、先願発明の「通常の潤滑油粘度」とはこの程度の100℃における動粘度の値を有するものを含むものといえ、該動粘度の数値は、本願発明の規定する範囲に含まれるものであるので、相違点1は実質的な相違ではない。

(2)相違点2について
先願明細書には使用される過塩基性アルカリ土類サリシレートの含有量は示されているが、カルシウム濃度換算での含有量の記載はない。そこで実施例(摘記1f)を参照すると、「CaサリシレートB」として、TBN300mgKOH/gのものを、配合割合で最小で0.6質量%?最大で3.3質量%、「CaサリシレートC」として、TBN170mgKOH/gのものを、配合割合で最小で1.1質量%?最大で5.9質量%含有させたものが記載されている。
ここで「TBN」とは、JIS-K2501でいう「全塩基価」であることは技術常識であり、対象のCaサリチレート1gに含まれる全塩基性成分を中和するのに要する塩酸又は過塩素酸と当量の水酸化カリウムのmg数と定義される。
先願発明の「過塩基性アルカリ金属サリシレート」であるCaサリシレートの「塩基性成分」は【0018】(摘記1c)の製造方法より炭酸カルシウムであると考えられるから、その前提で計算すると、TBN300mgKOH/gのCaサリシレートBのカルシウム量は107mg/gとなり、実施例の上記配合割合でのCa換算濃度を計算すると0.064?0.35質量%となる。また、CaサリシレートCについても同様に計算すると、TBN170mgKOH/gであるからカルシウム量は60.7mg/gであり、実施例の上記配合割合でのCa換算濃度は0.067?0.36質量%となる。
上記6に示したように、本願発明の成分(1)は「アルカリ土類金属濃度換算で0.1?2.5質量%」であるところ、対応する先願発明の「CaサリシレートC」は、上記計算結果より、実施例1?12においてカルシウム濃度換算で0.067(四捨五入すれば0.1)?0.36質量%含有させることが示されており、先願発明の実施例での含有量は本願発明で規定する範囲内のものである。
また、上記6に示したように、本願発明の成分(2)は「アルカリ土類金属濃度換算で0.01?1質量%」であるところ、対応する先願発明の「CaサリシレートB」は、上記計算結果より、実施例1?12においてカルシウム濃度換算で0.064?0.35質量%含有させることが示されており、先願発明の実施例での含有量は本願発明で規定する範囲内のものである。
以上のとおり、先願発明のCaサリシレートC及びCaサリシレートBの、組成物全量基準でのアルカリ土類金属濃度換算での含有量は、いずれもそれぞれ本願発明の規定するアルカリ土類金属サリシレート成分(1)及び成分(2)(a)のアルカリ土類金属濃度換算での含有量範囲に含まれるものであるので、相違点2も実質的な相違ではない。

8 まとめ
以上のとおり、上記一応の相違点は、両発明において実質的な相違点といえるものではないので、本願発明は、先願発明と同一であるといえる。そして、本願発明の発明者が先願発明の発明者と同一ではなく、また、本願の出願の時において、その出願人が先願である特許出願1の出願人と同一でもないから、本願発明は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

9 請求人の主張について
(1)審判請求書における主張について
請求人は、審判請求書の手続補正書(平成20年 7月25日付け)の第4頁「・理由3について」の項で、「(1)引用文献4、5は、カルシウムサリシレート(TBN100?200、実施例170)、カルシウムサリシレート(TBN200?350、実施例300)並びにカルシウムフェネート(TBN400?500、実施例444)の3成分を必須成分とする舶用エンジン油組成物に関する発明であるのに対し、本願請求項1は低TBNのアルカリ土類金属サリシレートと高TBNのアルカリ土類金属サリチレート、または低TBNのアルカリ土類金属サリチレートとアルカリ土類金属スルホネートの組合せに関する発明であって、構成上同一発明ではありません。(2)引用出願6の当初明細書には、・・・(中略)・・・が記載されている。・・・(中略)・・・。本願請求項2は、・・・(中略)・・・に補正したため、引用出願6に係る発明の構成と異なるものとなりました。したがって、補正後の本願請求項1及び2に係る発明は、本引用出願の当所明細書に記載された発明と同一ではありません。」と主張する。
前半の主張(1)は、「引用文献4、5」に対するものとして示されており、本審決で「先願発明」とした「引用出願6」に対するものではない。
しかしながら、「引用出願6」に対する後半の主張(2)には「本願請求項1」に対比しての主張が実質的になされていない一方、「引用出願6」も主張(1)に指摘された「引用文献4、5」同様に、3成分が規定されるとともに、TBN170のカルシウムサリシレートとTBN300のカルシウムサリシレートを含む3成分含有物が実施例とされているものである。
よって、上記の構成上同一発明ではないという主張が「引用出願6」についてもなされたとして検討すると、確かに、本願発明(「本願請求項1」)はディーゼルエンジン用潤滑油組成物に含有される金属清浄剤の組み合わせを規定したものであるが、本願発明の規定は、その特定の材料以外の成分の含有を妨げるものとはなっていない。したがって、請求人の該主張をもってしても、本願発明は、依然として、先願発明(「引用出願6」)と同一のものであるという判断に変わりはない。
(2)回答書における主張について
請求人は、平成20年 7月25日付け手続補正で削除された「耐摩耗性が向上した」点を、前置審尋で不適法な補正であると指摘されたことを受けて、補正案として、請求項1に「耐摩耗性が向上した」点を追加したものを示す。
しかし、たとえ該「耐摩耗性が向上した」点が追加されたとしても、拒絶査定に示したように「かかる事項は組成物を何ら限定するものではない」ことに変わりはないので、本願発明は先願発明と同一のものであるという判断に変わりはない。

9 結論
以上のとおりであるので、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないので、本願は、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-16 
結審通知日 2011-08-23 
審決日 2011-09-20 
出願番号 特願平9-246719
審決分類 P 1 8・ 16- Z (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂井 哲也  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 東 裕子
橋本 栄和
発明の名称 ディーゼルエンジン用潤滑油組成物  
代理人 秋元 輝雄  

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