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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1246007
審判番号 不服2009-8001  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-13 
確定日 2011-11-04 
事件の表示 特願2004-287498「情報処理装置および同装置で用いられるプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月13日出願公開、特開2006-101405〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【第1】経緯

[1]手続
本願は、平成16年9月30日の出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成20年 6月10日(起案日)
意見書 :平成20年 8月13日
手続補正 :平成20年 8月13日
拒絶査定 :平成21年 3月 9日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成21年 4月13日
手続補正(受付番号[書類番号]:50900764813)
:平成21年 4月13日
手続補正(受付番号[書類番号]:50900766224)
:平成21年 4月13日
上申書 :平成21年 4月14日
前置審査報告 :平成21年 6月26日(起案日)
審尋 :平成22年10月14日(起案日)
回答書 :平成22年10月29日

《平成21年4月13日付けの2つの手続補正について》
請求人は、平成21年4月13日付けの2つの手続補正(受付番号[書類番号]:50900764813の補正書による先の補正と、その後の受付番号[書類番号]:50900766224の補正書による補正)について、上申書(平成21年4月14日付け)で、
「【上申の内容】
平成21年4月13日提出の審判請求書と同時の手続補正書は[審判請求日]の記載に誤りがありました。
この審判請求日に記載の日付は、提出日であります。
本来4月13日とすべきところ、4月16日としてしましました。
その後、これに気づき、同日に審判番号を記載した手続補正書を提出しました。
この手続補正書は先に提出したものと全く同じ内容のものであります。
つきましては審判請求人として、先の審判請求日を記載の手続補正書に代えて審判番号を記載したものを採用して取り扱い戴けるよう、お願いいたします。」と述べている。
しかし、上記いずれの補正書に係る手続きも却下されているわけではないから、まず、受付番号[書類番号]:50900764813の補正書による補正(以下、単に「本件補正1」ともいう。)がなされ、その後に、受付番号[書類番号]:50900766224の補正書による補正(以下、単に「本件補正2」ともいう。)がなされたものと認められる。

[2]査定
原査定の理由は、概略、以下のとおりである。

〈査定の理由〉
本願の請求項1?10に係る各発明は、下記の引用文献1に記載された発明,及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

記(引用例)
引用文献1:特開平05-122681号公報
引用文献2:特開平10-210483号公報

【第2】補正の却下の決定1(本件補正1の補正却下)

本件補正1(平成21年4月13日付けの受付番号[書類番号]:50900764813の補正書による先の補正)について、次のとおり決定する。

《結論》
本件補正1(平成21年4月13日付けの受付番号[書類番号]:50900764813の補正書による補正)を却下する。

《理由》

【第2-1】本件補正1の内容

本件補正1は、特許請求の範囲について、以下の補正(補正事項A,B)をするものである。
すなわち、

補正事項A:補正前請求項1および請求項6における
「フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化された動画像ストリームをデコードするためのデコード処理」における「フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化された動画像ストリーム」を、
「フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化され、各画像に対応する複数の第1のユニットから構成される動画像ストリームであって、
前記第1のユニットに含まれる第1ヘッダ情報により、各画像が内包するスライスの種類を判別可能であり、
第1のユニットは、ヘッダ部とデータ部とから構成される、画像の一部を構成するスライスに関するデータを少なくとも格納可能な第2のユニットを複数含み、 各画像を構成するスライスは、画像内で予測符号化される第1のタイプ、他の1枚の画像を参照して予測符号化される第2のタイプ、他の複数の画像を参照して予測符号化される第3のタイプを含む複数のタイプのうちいずれのタイプであるかを、各スライスが有するスライスヘッダに含まれる第2ヘッダ情報により判別可能となっている動画像ストリーム」とする補正。

上記補正事項Aは、「動画像ストリーム」についてする、以下の補正事項A1?A4からなっている。
補正事項A1:「各画像に対応する複数の第1のユニットから構成される動画像ストリーム」とする補正。
補正事項A2:「前記第1のユニットに含まれる第1ヘッダ情報により、各画像が内包するスライスの種類を判別可能であり、」とする補正。
補正事項A3:「第1のユニットは、ヘッダ部とデータ部とから構成される、画像の一部を構成するスライスに関するデータを少なくとも格納可能な第2のユニットを複数含み、」とする補正。
補正事項A4:「各画像を構成するスライスは、画像内で予測符号化される第1のタイプ、他の1枚の画像を参照して予測符号化される第2のタイプ、他の複数の画像を参照して予測符号化される第3のタイプを含む複数のタイプのうちいずれのタイプであるかを、各スライスが有するスライスヘッダに含まれる第2ヘッダ情報により判別可能となっている動画像ストリーム」とする補正。

補正事項B:補正前請求項1および請求項6における
「ヘッダ情報内に含まれる、当該符号化画像が他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを示す情報を検出する」における「ヘッダ情報内に含まれる、当該符号化画像が他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを示す情報」、及び「前記検出された情報」を、 それぞれ、
「各前記第1のユニットに含まれる前記第2のユニットのヘッダ部内に含まれ、当該符号化画像が他の符号化画像から参照されない非参照画像であるか否かを示す、前記第1ヘッダ情報及び前記第2ヘッダ情報とは異なる第3ヘッダ情報」、及び「前記検出された第3ヘッダ情報」
とする補正。

【第2-2】本件補正1の適合性1 補正の範囲(第17条の2第3項)

上記補正事項A(A1?A4)、上記補正事項Bは、いずれも、請求人が審判請求書で説明するとおり、願書に最初に添付した明細書、図面の以下の記載を根拠とするものと認められ(下記ア?オ)、
したがって、本件補正1は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする補正であるといえ、
本件補正1は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

ア 補正事項A1(「各画像に対応する複数の第1のユニットから構成される動画像ストリーム」)は、
「【0057】
H.264のシーケンスの構造は、図6のように複数のアクセスユニット(AU)から構成されている。各アクセスユニットは1つの画面に対応している。各アクセスユニットは複数のNAL(Network Abstraction Layer)ユニットから構成されている。各NALユニットは図7に示すようにヘッダ部とデータ部に分かれている。NALユニットは図11のように32種類あり、ヘッダ部を解析することによってその種類を判別することができる。図8は図6のAUの構造に具体的なNALユニットの種類を当てはめて示した図である。図8中の各ブロックはNALユニットを示している。」
の記載に基づいている。

イ 補正事項A2(「前記第1のユニットに含まれる第1ヘッダ情報により、各画像が内包するスライスの種類を判別可能であり、」)は、
「【0063】
primary_pic_typeの番号は、図12に示されているように、符号化画面に含まれているスライスの種類を示している。primary_pic_typeが1,2,4,6,7のいずれかの番号であるならば、符号化画面はP(Predictive)スライスまたはB(Bi-predictive)スライスを含む。よって、ビデオ再生アプリケーションプログラム201は、primary_pic_typeが1,2,4,6,7のいずれかの番号であるならば(ステップS302のNO)、ステップS303のデコード処理をスキップして、当該デコード対象画面の処理を終了する。一方、primary_pic_typeが0,3,5のいずれかの番号であるならば(ステップS302のYES)、ビデオ再生アプリケーションプログラム201は、ステップS303のデコード処理を実行する。」、
【図8】(図6の動画像ストリームのアクセスユニットの構造を示す図)、
【図12】(図6の動画像ストリームに含まれるスライスの種類を説明するための図)、
の記載に基づいている。

ウ 補正事項A3(「第1のユニットは、ヘッダ部とデータ部とから構成される、画像の一部を構成するスライスに関するデータを少なくとも格納可能な第2のユニットを複数含み、」)は、
上記段落【0057】の「各アクセスユニットは複数のNAL...ユニットから構成されている。各NALユニットは図7に示すようにヘッダ部とデータ部に分かれている。」との記載、
【図8】(図6の動画像ストリームのアクセスユニットの構造を示す図)、
等の記載に基づいている。

エ 補正事項A4(「各画像を構成するスライスは、画像内で予測符号化される第1のタイプ、他の1枚の画像を参照して予測符号化される第2のタイプ、他の複数の画像を参照して予測符号化される第3のタイプを含む複数のタイプのうちいずれのタイプであるかを、各スライスが有するスライスヘッダに含まれる第2ヘッダ情報により判別可能となっている動画像ストリーム」)は、
「【0064】
動画ストリームにAU delimiterが含まれていないならば(ステップS301のNO)、ビデオ再生アプリケーションプログラム201は、NALヘッダのnal_unit_typeを参照して、デコード対象画面がIDR(Instantaneous Decoding Refresh)画面以外の画面であるかどうかを判別する(ステップS304)。IDR画面はIスライスを含む画面である。よって、もしデコード対象画面がIDR画面であるならば(ステップS304のNO)、ビデオ再生アプリケーションプログラム201は、ステップS303のデコード処理を実行する。デコード対象画面がIDR画面以外の画面であるならば(ステップS304のYES)、ビデオ再生アプリケーションプログラム201は、スライスヘッダの中にあるslice_typeを参照し、デコード対象画面に含まれる全てのslice_typeが0,1,3,5,6,8以外であるかどうかを判別する(ステップS305)。slice_typeの番号は、図13に示されているように、スライスの種類を示している。全てのslice_typeが0,1,3,5,6,8のいずれかであれば(ステップS305のNO)、ビデオ再生アプリケーションプログラム201は、ステップS303のデコード処理をスキップする。」、
【図8】(図6の動画像ストリームのアクセスユニットの構造を示す図)、
【図13】(図6の動画像ストリームに含まれるスライスタイプとスライスの種類との関係を示す図。)
等に基づく。

オ 補正事項B(「各前記第1のユニットに含まれる前記第2のユニットのヘッダ部内に含まれ、当該符号化画像が他の符号化画像から参照されない非参照画像であるか否かを示す、前記第1ヘッダ情報及び前記第2ヘッダ情報とは異なる第3ヘッダ情報」、及び「前記検出された第3ヘッダ情報」)は、
「【0060】
現在の負荷量がデコードパフォーマンスレベル1に対応するならば(図9のステップS201のYES)、ビデオ再生アプリケーションプログラム201は、図7に示すNALユニットのヘッダ中に含まれているnal_ref_idcを参照し、デコード対象画面が非参照画面であるかどうかを判断する(ステップS202)。nal_ref_idc=0 は、参照画面ではないことを示す。よって、ビデオ再生アプリケーションプログラム201は、nal_ref_idc=0であれば、ステップS203のデコード処理をスキップして、当該デコード対象画面の処理を終了する。nal_ref_idc=0 ではないデコード対象画面については、通常通り、ステップS203のデコード処理が実行される。」
に基づく。

【第2-3】本件補正1の適合性2 補正の目的(第17条の2第4項)

上記補正事項A(A1?A4)は、補正前の請求項1および請求項6に記載のあった特定事項である「フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化された動画像ストリーム」を限定するものであって、補正の前後において、産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
また、上記補正事項Bは、補正前の請求項1および請求項6に記載のあった特定事項である「ヘッダ情報内に含まれる、当該符号化画像が他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを示す情報」を限定するものであって、補正の前後において、産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。

したがって、本件補正1は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号で規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

【第2-4】本件補正1の適合性3 独立特許要件(第17条の2第5項)

そこで、独立特許要件について検討するに、補正後の請求項1に記載される発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。
本件補正1は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

本件補正1後の請求項1に記載される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由の詳細は、以下のとおりである。

《理由:独立特許要件に適合しない理由の詳細》

[1]補正後発明

本件補正1後の請求項1に記載された発明(以下「補正後発明1」という。)は、下記のとおりであると認められる。

記(補正後発明1)
フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化され、各画像に対応する複数の第1のユニットから構成される動画像ストリームであって、 前記第1のユニットに含まれる第1ヘッダ情報により、各画像が内包するスライスの種類を判別可能であり、 第1のユニットは、ヘッダ部とデータ部とから構成される、画像の一部を構成するスライスに関するデータを少なくとも格納可能な第2のユニットを複数含み、 各画像を構成するスライスは、画像内で予測符号化される第1のタイプ、他の1枚の画像を参照して予測符号化される第2のタイプ、他の複数の画像を参照して予測符号化される第3のタイプを含む複数のタイプのうちいずれのタイプであるかを、各スライスが有するスライスヘッダに含まれる第2ヘッダ情報により判別可能となっている動画像ストリームをデコードするためのデコード処理を実行する情報処理装置において、
前記動画像ストリーム内に含まれる符号化画像それぞれに対応する各前記第1のユニットに含まれる前記第2のユニットのヘッダ部内に含まれ、当該符号化画像が他の符号化画像から参照されない非参照画像であるか否かを示す、前記第1ヘッダ情報及び前記第2ヘッダ情報とは異なる第3ヘッダ情報を検出する検出手段と、
前記検出された第3ヘッダ情報に基づいて、デコード対象画像が前記動画像ストリームの中の他の符号化画像から参照されない非参照画像であるか否かを判別する手段と、
前記デコード対象画像が非参照画像である場合に、当該非参照画像に対する前記デコード処理の実行をスキップする制御手段とを具備することを特徴とする情報処理装置。

[2]刊行物の記載

下線は、当審決で注目箇所を示すために施した。
また、以下、「○1」、「○2」等の表記は、記号「○の中に数字を入れた記号」を示す(情報処理システムの能力上、同記号を表すことができないことによる)。

(1)刊行物1:「インプレス標準教科書シリーズ H.264/AVC教科書」、角野員也、菊池義浩、鈴木輝彦編、株式会社インプレス ネットビジネスカンパニー発行、2004年8月11日 初版第1刷発行(以下、「刊行物1」という)

摘示は、章等のタイトルを〈〉で示し、図・表はまとめて最後に示した。

(K1)〈メッセージ〉
「3 産業界の支持
H.264/AVCの初版が承認された2003年5月の数力月後には、既にそれを搭載する製品が現れました。最初の製品群はテレビ会議の領域で登場し、その市場ではH.264/AVCのサポートがもはや基本的な要件として確立しています。2003年において次にH.264/AVC採用が早かったのは、韓国のデジタル・マルチメディア放送「DMB(Digital Multimedia Broadcast)」です。その直後に、MPEG-2以来最初となる本格的な放送用符号化としてH.264/AVCを採用するとの、大きな発表がありました。2004年3月、日本放送協会、日本テレビ、東京放送、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京はH.264/AVC使用の計画を公表したのです。同時期に、DVDフォーラムは、新たなHD-DVDディスク・フォーマットのプレイヤには、H.264/AVCが要件の一つとなる予定であることを発表しました。これら二つの展開は、まさしく私たちが新たな標準に設定していた目標を実現するものです。」(vi頁、メッセージの項目3)

(K2)〈第1章〉(Q&Aで学ぶ新圧縮方式 『H.264/AVC』の基礎知識 ?H.261、MPEG-1/2/4からH。264/AVCまでの発展-)
「1 H.264とは?
・・・
本書の対象であるH.264の「H」は、オーディオ・ビジュアル(AV)・マルチメディア・システムの分野を示します。200番台はシステムを構成する要素を、260番台はその中の動画像符号化(動画像圧縮符号化ともいう。後述)を示しています。
動画像圧縮符号化標準については、図1-1に、H.26x(x:1,2,3,4)とMPEG-y(y:1,2,3,4,AVC)の標準の初版成立時期およびその定性的な圧縮符号化効率(圧縮度)を示します。
また表1-1に、これまでITU-Tで作成されてきた、HシリーズとしてのH.261(1990年)、H.262(1995年)、H.263(1996年)から最新のH.264(2003年)までのタイトル及び概要を示します。
2 AVCとは?
[1]AVCの正式名は「MPEG-4 Part10:AVC」
一方、H.264/AVCの「AVC」(Advanced Video Coding、高度動画像圧縮符号化標準)は、MPEG-4規格のパート10(「第10部」と言う意味)に位置づけられている標準なので、正式には「MPEG-4 Part10:Advanced Video Coding(略してMPEG-4 AVCとも言われる)」という標準名を略した表現です。
「MPEG-4 Part10:AVC」のMPEG(エムペグ。Moving Picture Experts Group、動画像符号化専門家グループ)とは、ISO/IEC JTCl という組織のマルチメディア符号化作業グループの呼び名で、グループと同時にそのグループで作った標準もその名で呼ばれています。ISO/IEC JTC1とは、ISO(International Organization for Standardization、国際標準化機構)とIEC(International Electrotechnical Commission、国際電気標準会議)という2つの国際標準化機関が合同で設立したJTCl(Joint Technical Committee 1、第1合同技術委員会)という組織です。
ISO/IEC JTC1によって標準化された動画像圧縮符号化標準は、表1-2に示すようにMPEG-1、MPEG-2、MPEG-4、MPEG-4AVCの4つがあります。
MPEG-4は、MPEGの作った第3番目のマルチメディア圧縮符号化標準を表しています(注:MPEG-1、MPEG-2の次のMPEG-3はその機能がMPEG-2に統合されたため、欠番となり存在しない)。
MPEG-4 Part10 とは、MPEG-4の規格書がPart1(識別番号:ISO/IEC 14496-1)から順番にパートの番号が振られて構成され、その10番目のパート(ISO/IEC 14496-10)ということです(現在普及している「MPEG-4ビジュアル(画像圧縮)」はパート2であり、その識別番号はISO/IEC 14496-2となっている)。
[2]AVCの識別番号は「ISO/IEC 14496-10」
このように、AVC(Advanced Video Coding、高度動画像圧縮符号化)とは、MPEG-4規格書Part10のタイトル名であり、2003年に標準化された最新の動画像圧縮符号化標準です。正式には、ISO/IEC 14496-10が標準の識別番号です。このうち「14496」の部分は分野には関係なく、標準が作られる順番に振られる番号(MPEG-4全体に振られた番号)で、「-10」はPart10(パート10)を表します。
「H.264とMPEG-4 AVC」とは、「H.262とMPEG-2」の関係と同じように技術的に同一の標準(前者は同一のテキスト、後者は同一の技術仕様を使用)です。とくにH.264/AVCは、ITU-TとISO/IEC JTCl という二つの標準化機関が合同で、特別にJVT(Joint Video Team、合同ビデオ・チーム)を結成して標準化作業を推進しましたので、結果に対し、それぞれの機関の方法に従って識別番号を与えています。」(3頁?5頁、図1-1,表1-1)

(K3)〈第2章〉(画像圧縮技術の発展とH.264/AVCを支える基礎技術 -DCT変換からハイブリッド符号化の仕組みまで-)
「2.8 画像圧縮符号化標準の歴史とその発展
画像圧縮符号化の標準化機関と、各標準が作られてきた経過については、第1章のQ&Aで説明しました。ここでは、1980年代後半から現在に至る、これらの画像圧縮符号化に関する標準の進化を図2-17に示します。
画像圧縮符号化標準の特徴は、大きく、
○1 符号化効率の向上
○2 機能性の向上
に分けられます。図2-17は、この2つの側面における各符号化標準の特性を定性的に示しています。棒グラフの長さはそれが大きければ効率や機能性が増していることを示し、必ずしも量的関係を示すものではないことにご注意下さい。
図2-17には、特徴的な技術がキーワードで記されています。符号化効率について、新しい標準は、過去の標準に盛り込まれている技術も利用することになるので、その新しい標準に追加された項目を示しています。時代が進むにつれて符号化効率の向上が期待されますが、符号化方式の評価はこの他にも機能性や実装の容易性を加味する必要があります。
次に、図2-17に示すH.264/AVCに先立って標準化されている、各画像圧縮符合化技術の概要を述べましょう。」(55頁?56頁、図2-17)

(K4)〈第3章〉(H.264/AVCはどのように標準化されたか?
-原型となったH.26LからJVTの基本方針、特許問題まで-)
「コラム1
Iピクチャ、Pピクチャ、Bピクチャ、双予測ピクチャ
従来のMPEG-1/2/4や、H.26Xなどの符号化方式においては、Iピクチャ、Pピクチャ、Bピクチャという3種類のピクチャが存在します。
1 Iピクチャ
Iピクチャ(Intra-Picture)とは、前後の画面とは関係なくその画面内(インドラ)だけで独立して符号化することによって得られる画面(ピクチャ)のことです。すなわち、時間方向の動き予測を行うことはなく、画面内の情報のみを用いて符号化処理を行います。Iピクチャは原画面と同じ順番に符号化されます。
2 Pピクチャ
Pピクチャ(Predictive-Picture)とは、画面間の順方向予測符号化によって得られる画面(ピクチャ)のことです。すなわち、IピクチャもしくはPピクチャを予測画像として、画面(フレーム)間予測を用いて符号化処理が行われます。ただし、一つのマクロブロックの予測に用いることができるのは、図1に示すように、時間軸上で、当該フレーム(予測画面:Pピクチャ)より過去に存在するマクロブロックを用いた順方向(単方向)の予測のみです。
3 Bピクチャ
これに対して、Bピクチャ(Bi-directional Predictiv-Picture)とは、過去と未来の双方向からの予測符号化によって得られる画面(ピクチャ)のことです。すなわち、IピクチャもしくはPピクチャを予測画像として、図2に示すように、時間軸上で、当該フレームより過去もしくは未来、もしくはその両方に存在するマクロブロックを用いた双方向予測が可能です。MPEG-1、2、H.261、H.263などの従来の符号化方式においては図2の通り、過去から1枚、未来から1枚という予測のみ可能であったことから、双方向予測(Bi-directional predictive)符号化画像と呼ばれていました。
4 H.264/AVCでは双予測ピクチャ
しかし、H.264/AVCにおいては、図3(1)、(2)に示すように、過去から2枚の予測であっても、未来から2枚の予測であってもよいため、双予測ピクチャ(Bi-predictivePrediction-picture、双予測符号化画面)と呼ばれるようになりました。
なお、PピクチャやBピクチャにおいても、イントラ符号化を行うマクロブロックを存在させることが可能です。また、Bピクチャにおいても、前方向予測のみ、もしくは後方向予測のみを行うマクロブロックを存在させることも可能です。
Bピクチャが存在する場合には、一般に、符号化の順番と表示の順番は、一致しないため、図4に示すような順序の入れ替えが必要となります。」(78頁?80頁、コラム,図1?4)

(K5)〈第4章〉(H.264/AVCの全体構成と「プロファイルとレベル」の規定)
「4.1 H.264/AVCの全体構成と特徴
最初に、H.264/AVCの全体的な構成を理解するために、図4-1および図4-2にH.264/AVCのエンコーダ(符号器)およびデコーダ(復号器)のブロック図を示します。H.264/AVCは、MPEG-2、MPEG-4など従来の動画像圧縮符号化方式と同様に、既に符号化された画像フレーム(参照フレーム:動き補償予測に用いられる画像フレーム)からの動きを推定して予測信号を作成し、残差信号(符号化する画像から予測信号を引き算した信号)を離散コサイン変換/量子化した後、エントロピー符号化(可変長符号化とも言う)を行う、「動き補償十DCT」(第2章参照)と呼ばれる技術をベースとしています。
しかし、H.264/AVCではこれらに次のようないろいろな工夫を加えることによって、従来の方式を大幅に上回る圧縮陛能を実現しています。
1 動き補償を改善する技術
図4-3に示すように、従来のMPEG方式に比べて、画像の処理単位をより小さなブロック・サイズ(4画素×4ライン=16画素まで)とし、細かな画素精度(1/4画素まで)で、きめ細かな動き補償を行います。また、複数の参照フレームの中から最適なものを選択して動き補償に用います。画像の明るさが時間的に変化するフェード画像などを効率的に予測するため、動き補償を行った信号に適応的に重み係数を掛け算して予測信号を生成します。
2 フレーム内の予測を効率的に行う技術
符号化フレーム内の信号のみを用いるフレーム(画面)内符号化モード(インドラ・モード)においても、符号化対象ブロックの周囲にある、既に符号化された信号から高度な予測を行います。また符号化する画像の性質に合わせて、さまざまな予測の方向(縦、横、斜め、直流成分のみなど)の中から最適なものを選択します。
3 視覚的な画質劣化を抑える技術
DCTを用いる画像圧縮符号化方式の欠点であったブロック境界の歪(ブロック境界付近で隣接するブロックと画素値が大きく異なるためにブロック状に見える歪)を抑えるために、フィルタ(ブロック歪除去フィルタ)を用います。また、DCTの処理単位も従来の方式より小さい4×4画素ブロック(図4-3)とし、視覚的な歪を目立ちにくくしています。
4 符号化する情報の性質に適応する技術
DCT/量子化をした後の信号をエントロピー符号化(可変長符号化)する際に周囲の情報をもとに可変長符号語表を切り替えるなどして、画像の性質に合った符号化を行います。また、さらに高い圧縮効率を得るために算術符号化(第1章Q。9参照)を行うモードも用意されています。」(82頁?83頁,図4-1,図4-2)

(K6)「2 H.264/AVCのプロファイルを構成するツール群
次に、H.264/AVCのプロファイルを構成する各ツール(要素技術)を整理しておきましょう。
[1]ベースライン・プロファイルのツール群
ベースライン・プロファイル(基本プロファイル)は、基本ツール群とエラー耐性向けのツール群から構成されています。これらのツールは、以後の章で詳しく説明します。
(1)基本ツール群
○1 I(Intra)スライス、P(Predictive)スライス
○2 イントラ(画面内)予測(イントラ・スライス内の空間予測)
○3 1/4画素精度動き補償
○4 可変ブロック・サイズ動き補償
○5 複数参照フレーム
○6 CAVLC〔Context-based Adaptive Variable Length Code、周囲の状況(Context :コンテキスト)に応じて適応的に符号化を行う可変長符号)
○7 4画素×4ライン整数DCT(4×4整数直交変換)
○8 フレーム・マクロブロック
○9 4:2:0色差フォーマット
○10 ループ内フィルタ(ループ・フィルタとも言う。量子化によって発生した画像の歪を平滑化するフィルタ)
(2)エラー耐性向けのツール群
○1 ASO(Arbitrary Slice Order)
○2 FMO(Flexible Macroblock Ordering)
○3 RS(Redundant Slice)
[2]メイン・プロファイルのツール群
メイン・プロファイルは、基本ツール群と高能率符号化ツール群から構成されています。次に高能率符号化ツール群を列挙します。
(1)高能率符号化ツール群
○1 I(Intra)スライス、P(Predictive)スライス、B(Bi-predictive)スライス
○2 重み付け予測(Weighted Prediction)
○3 フレーム/フィールド・マクロブロック
○4 CABAC〔Context-based Adaptive Binary Arithmetic Code、周囲の状況(Context:コンテキスト)に応じて適応的に符号化を行う、2値の算術符号〕〕
[3]拡張プロファイルのツール群
拡張プロファイルは、基本ツール群、一部の高能率符号化ツール群、ストリーミング用ツづレ群から構成されています。次に一部の高能率符号化ツール群とストリーミング用ツール群を、列挙します。」(87頁)

(K7)「4.5 H.264/AVCにおけるビット・ストリームの構成
1 NAL(ネットワーク抽象レイヤ)の機能
[1]NALユニットとは?
H.264/AVCでは、図4-7に示すように、動画像符号化処理そのものを扱うVCL(VideoCoding Layer、ビデオ符号化レイヤ)と、符号化された情報を伝送・蓄積する下位システムとの間にあるNAL(Network Abstraction Layer、ネットワーク抽象レイヤ)というレイヤ(層)が規定されており、VCLとNALが分離された構造となっているのが特徴です。
また、シーケンスやピクチャのヘッダ情報に相当する「パラメータ・セット」も、VCLで生成した情報から分離して扱えるようになっています。
さらにH.264/AVC(Advanced Video Coding)ファイル・フォーマット、RTP(Real-time Transport Protocol、MPEG-2システムなどの下位システムヘのビット・ストリームのマッピング(対応づけ)は、NALの一区切りである「NALユニット」を単位として行われます(詳細は第9章で説明)。
図4-8に示すようにNALユニットは基本的に
(1)NALヘッダ
(2)VCLで生成されたRBSP(Raw Byte Sequence Payload、ロー・バイト・シーケンス・ペイロード、動画像圧縮された生データ)
の2つから構成されています。NALヘッダには、そのNALユニットに参照ピクチャとなり得るスライスが含まれているかどうかを示す情報(nal_ref_idc)と、NALユニットの種類を示す識別子(nal_unit_type)が含まれています。
・・・
図4-8 H.264/AVCのNALユニットの構成 NALユニットは、NALヘッダとVCLで生成されたデータ(RBSP)で構成されます。NALユニットの長さを8ビット(バイト)の倍数にそろえるため、RBSPの最後にRBSPトレイリング・ビットをつけます。
|←─────── NALユニット ───────────→|
|NALヘッダ | RBSP | 100|

|←──── NALヘッダ ─────→|
|1| nal_ref_idc | nal_unit_type |
」(95?96頁,図4-8)

(K8)「[2]NALユニットの種類
表4-5に、NALユニットの種類を示しまず。次に表4-5の内容を簡単に解説しましょう。
(1)IDRピクチャ
IDR(Instantaneous Decoding Refresh、デコーダ復号動作の瞬時リフレッシュ)ピクチャとは、画像シーケンスの先頭のピクチャ(画面)です。IDRピクチャは、IスライスまたはSIスライス(スイッチングIスライス)からなり、参照ピクチャ・バッファの状態やフレーム番号、POC(Picture Order Count、ピクチャの出力順序を示す情報)など、ビット・ストリームを復号するために必要なすべての状態がリセットされます。
H.264/AVCでは、Iピクチャの後ろにある、PピクチャからIピクチャより前のピクチャを参照するフレーム間予測も許容されているので、状態を完全にリセットするには通常のIピクチャでは不十分で、IDRピクチャを用いる必要があります。
(2)SPS(シーケンス・パラメータ・セット)
SPS(Sequence Parameter Set)とは、プロファイル、レベルやシーケンス全体の符号化モードなど、シーケンス全体の符号化にかかわる情報が含まれたヘッダです。
(3)PPS(ピクチャ・パラメータ・セット)
PPS(Picture Parameter Set)とは、ピクチャ全体の符号化モード(例えば、エントロピー符号化モード、ピクチャ単位の量子化パラメータ初期値など)を示すヘッダ情報です。ただし、PPSはすべてのピクチャに付けられるわけではなく、PPSがない場合には、直前に存在したPPSをヘッダ情報として使います。
(4)SEI(補足的な付加情報)
SEI(Supplemental Enhancement Information)は、VCL(動画像符号化レイヤ)の復号に必須ではない付加情報を示すためのものです。HRD(Hypothetical Reference Decoder、仮想参照デコーダ。第7章7.2節参照)に関連する各ピクチャのタイミング情報、パン・スキャン機能(復号した画像の一部を切り出して表示する機能)に関する情報、ランダム・アクセスを行うのに便利な情報、ユーザーが独自に定義する情報(ユーザー・データ)などのSEIがあります。
(5)AUデリミタ
AUデリミタ(Access Unit Delimiter、アクセス・ユニットの先頭を示す情報)は、後述するアクセス・ユニットの先頭につけることができます。そのアクセス・ユニットに含まれるスライスの種類を示す情報が含まれています。
(6)EOS(シーケンスの終了)
EOS(End of Sequence)は、ひとつのシーケンスの終端を示します。
(7)EOS(ストリームの終了)
EOS(End of Stream)は、ストリーム全体の終端を示します。
(8)Filler Data(フイラー・データ)
フィラー・データ(Filler Data)は、ダミー・データ(形式を整えるための意味のないデータ)を挿入するために用います。
後述(第7章7.2節参照)のHRD規則を守るため、VCLで生成された符号量が少ない場合に、ビット・レートを決められた値に保つためのスタッフィング・データ(データの長さを調整するために挿入される意味をもたないデータ)として用いることも可能です。
[3]VCL NALユニットと非VCL NALユニット
なお、NALユニットには、次のVCL NALユニットと非VCL NALユニットがあります。
(1)VCL NALユニット
VCLで生成されたデータに相当するNALユニット(nal_unit_type=1?5)
(2)非VCL NALユニット
パラメータ・セット(SPSやPPS。後述)、SEI、AUデリミタなどのNALユニット(nal_unit_type≧6)

表4-5 H.264/AVCのNALユニットの種類
nal_unit_type | 識別子の内容
(NALユニット|
の種類を示す識|
別子) |
0 |未定義
1 |IDR以外のピクチャのスライス
2 |データ・パーティショニングAで符号化されたスライス
3 |データ・パーティショニングBで符号化されたスライス
4 |データ・パーティショニングCで符号化されたスライス
5 |IDRピクチャのスライス
6 |SEI(Supplemental Enhancement Information,
|VCLの付加情報)
7 |SPS(Sequence Parameter Set、
|シーケンス・パラメータ・セット)
8 |PPS(Picture Parameter Set、
|ピクチャ・パラメータ・セット)
9 |AUデリミタ(Access Unit Delimiter)
|アクセス・ユットの先頭につける開始符号)
10 |End of Sequence(シーケンスの終了)
11 |End of Stream(ストリームの終了)
12 |Filler Data(形式を整えるために挿入されるダミー
|・データ)
l3・・・23|将来のために使用
24・・・31|未定義

IDR:Instantanious Decoding Refresh、デコーダ動作の瞬時レフレッシュ」(96頁?98頁,表4-5)

(K9)「2 シーケンス、ピクチャとパラメータ・セット
MPEG-2やMPEG-4では、前述の図4-3に示したように、
シーケンス(圧縮された動画像全体)→GOP(複数の画面群)→ピクチャ(1枚の画面)
というシンタックス(画像情報の順序や符号化データ列などの設定ルールを示す規則)の階層構造が決められており、ビット・ストリーム(データ列)の中でI青報を並べる順序も、この階層構造に沿ったものでした。
例えば、シーケンス(圧縮された動画像全体)は必ずシーケンス・ヘッダから始まり、ピクチャの先頭には必ずピクチャ・ヘッダが付いていました。これに対し、H.264/AVCではこの制約が緩められており、ヘッダ情報に相当するパラメータ・セットは、「そのパラメータ・セットを参照するデータよりも前にデコーダ(復号器)に届かなければならない」、という制約があるだけです。下位システムによっては、パラメータ・セットとVCL NALユニットが分離されて送られることもあります(第9章参照)。
図4-9に示すようにH.264/AVCは1つのビット・ストリームの中で、複数のシーケンスを扱かうことができます。
シーケンスを識別するために、SPS(Sequence Parameter Set、シーケンス・パラメータ・セット)の中にSPS番号(seq_parameter_set_id)が付いており(図4-9のSPS#1、SPS#2など)、PPS(Picture Parameter Set)の中でSPS番号を指定することによって、どのシーケンスに属するかを識別します。また、PPSにも番号(pic_parameter_set_id)が付いており(図4-9のPPS#1、PPS#2など)、スライス・ヘッダの中でPPS番号を指定することによって、どのPPSを用いるかを識別します。 PPS番号、SPS番号をたどることによって、そのスライスがどのシーケンスに属するかがわかります。

3 スライス:H.264/AVCにおける符号化の基本単位
MPEG-2やMPEG-4では、ピクチャやVOP(Video Object Plane、ビデオ・オブジェクト・プレーン。フレーム(画面)に相当するもの〕をひとつの単位として、Iピクチャ(I-VOP)、Pピクチャ(P-VOP)、Bピクチャ(B-VOP)のようなピクチャ(VOP)ごとの符号化モードが決められていました〔図4-10(1)〕。
これに対しH.264/AVCは、スライスが符号化の基本単位となっており、スライスごとにスライスの種類を示す情報(slice_type)を付けます。表4-6にスライスの種類とその中に含まれるマクロブロックの種類(MBタイプ)を示します。また図4-10(2)に示すように1つのピクチャ内に異なる種類のスライスを混在させることも可能です。図4-10(2)の例では、ピクチャ内にIスライス、Pスライス、Bスライスという3種類の異なるスライスが混在しています。
なお、MPEG-2やMPEG-4と同様に、1つのピクチャに含まれるスライスがすべて同じ種類であることを明示的に示すには、AUデリミタを用いてそのピクチャに含まれる全スライスの種類をprimary_pic_type情報(プライマリ・ピクチャ・タイプ情報)で指定するか、slice_type (スライス・タイプ)の値が5?9のスライス〔表4-6の(注)参照〕を用います。

表4-6 H.264/AVCにおけるスライスの種類
slice_type|スライス | 概要 |MBタイプ
| の種類 | |
| |画面内符号化および参照ピクチャ|
0 |Pスライス|を1枚用いた画面間予測符号化を|I,P
| |行うスライス |
| |画面内符号化および参照ピクチャ|
1 |Bスライス|を1枚ないしは2枚用いた画用い|I,P,B
| |た画面間予測符号化を行うスライ|
| |ス |
2 |Iスライス|画面内符号化のみを行うスライス|I
| |ストリーム切り替えを行うための|
3 |Pスライス|を1枚用いた画面間予測符号化を|I,P,B
| |行うスライス |
| |画面内符号化および参照ピクチャ|
4 |SIスライ|特殊なPスライス |I,SI
|ス |(SはSwitchingの略) |

(注):slice_type=5?9のスライスも想定されている。これらは、そのスライスを含むピクチャ内のすべてのスライスが同一のスライス・タイプであることを示し、スライスの種類はslice_typeから5を引いたslice_typeと同じである。例えば、slice_type=6ならば6-5=1となり、表からそのピクチャはすべてBスライスとわかる。」(98頁?100頁,表4-6,表4-11)

(K10)「4 アクセス・ユニットとその構造
[1]アクセス・ユニットとは?
ビット・ストリーム中の情報をピクチャ単位にアクセスするために、いくつかのNALユニットをまとめた一区切りをアクセス・ユニットと呼びます。図4-11にアクセス・ユニットの構造を示します。図4-11で、アクセス・ユニットに必ず含まれるのは、主ピクチャ内の各スライスに相当するNALユニットだけで、他の情報はすべてのアクセス・ユニットに存在するわけではありません。ただし、これらの情報を用いる場合は、必ず図4-11に示す順序に並べなければなりません。
MPEG-2やMPEG-4と違い、ピクチャの先頭を一意に示すスタート・コード(同期符号)はなく、また、ピクチャ全体のヘッダに相当するPPS(Picture Parameter Set)もすべてのピクチャに存在するわけではありません。したがって、これをもとにピクチャの先頭を見つけることはできません。その代わりに、スライス・ヘッダの中にそのスライスがどのフレームに属するかを識別するために利用できるフレーム番号(frame_num)が付加されており、フレーム番号などのいくつかの情報が直前のNALユニットと異なるかどうかを調べてピクチャ境界を判定します。

[2]ピクチャ境界の判定規制とAUデリミタ
次にこのピクチャ境界の判定規則の概要を示します。
○1 フレーム番号(frame num)が異なる
○2 フレーム・ピクチャかフィールド・ピクチャかを示すプラグ(field_pic_flag)が異なる
○3 トップ・フィールドかボトム・フィールドかを示すプラグ(bottomfield_flag)が異なる
○4 フレーム番号(frame_num)が同じであるが、POC(Pidure Order Count、ピクチャの出力順序を示す情報)の値が異なる
○5 参照ピクチャかどうかを示す情報(nal_ref_idc)が異なる
○6 IDRピクチャであり、IDRの識別子(idr_pic_idc)が異なる
なお、オプションとしてアクセス・ユニットの先頭を示すAUデリミタ(Access Unit Delimiter)というNALユニットが規定されています。これを用いれば、上述の規則によるピクチャ境界判定を行わなくても、ピクチャの先頭を特定することができます。また、AUデリミタには主ピクチャに含まれるスライスの種類を示す情報(primary_pic_type)も含まれています。 符号化したデータをひとつの列として扱うMPEG-2システムを下位システムとして用いる場合には、アクセス・ユニットの先頭を容易に見つけられるようにすべてのアクセス・ユニットにAUデリミタを付けます(第9章の9.1節参照)。

図4-11 アクセス・ユニットの構造
すべてのアクセス・ユニットに含まれるのは、主ピクチャの中のスライスに相当するNALユニットだけです。オプションとして、アクセス・ユニットの先頭にAUデリミタ(アクセス・ユニット・デリミタ)を付けることもできます。
|AUデリミタ|SPS|PPS|SEI|主ピクチャ(通常のピクチャ)|冗長ピクチャ(第8章8.2参照)|EOS(シーケンスの終了)|EOS(ストリームの終了)|

AUデリミタ:Access Unit Delimiter、アクセス・ユニットの先頭
を示す開始符号
SPS :Sequence Parameter Set、その画像のプロファイルや
レベルなどシーケンス全体の符号化に関する情報を含む
ヘッダ
PPS :Picture Parameter Set、ピクチャ全体の符号化モード
を示すヘッダ
SEI :Supplemental Enhancement Information、各ピクチャの
タイミング情報やランダム・アクセス惰報などの付加情
報を含むヘッダ
EOS :End of Sequence、シーケンスの終了
EOS :End of stream、ストリームの終了
」(100頁行?101頁,図4-11)

(K11)〈第5章〉(H.264/AVCの中核となる圧縮符合化技術-その1 予測、変換、量子化-)
「本章では、画面内予測、動き補償を伴う画面間予測、直交変換と量子化について説明します.これらの技術はH。264/AVCの圧縮率を向上させるうえで、最も重要な技術です.
画面内予測、可変ブロック動き補償、1/4画素精度動き補償はMPEG-4でも導入されていますが、H.264/AVCでは性能が大きく改善されました.また、H.264/AVCで複数の参照ピクチヤからの予測や、重み付き予測などが新しく導入されました.さらに、直交変換のブロック・サイズや、動き補償の最小ブロック・サイズの大きさが、4×4と小さくなりました.
ここでは、このような新しい各技術について、従来のMPEG-4と比較しながらH.264/AVCの特徴を解説いたします。」(105頁)
「5.5 H.264/AVCにおけるBピクチャ
1 H.264/AVCのBピクチヤと双予測
MPEG-2のBピクチャは、双方向予測ピクチャ(Bi-directional Predictive Picture)のことで、表示順序で前方1枚の参照ピクチャ、後方1枚の参照ピクチャ、もしくはその2枚の参照ピクチャを同時に参照し2つのピクチャの平均値を予測ピクチャとし、対象ピクチャと予測ピクチャの差分データを符号化していました。
・・・
H.264/AVCでは、このようなMPEG-2の双方向予測の考え方を拡張し、表示順序で前方1枚、後方1枚という制約にとらわれず、前方や後方に関係なく任意の2枚の参照ピクチヤを予測のために参照可能となりました。これを「双予測ピクチヤ(Bi-predictive Picture)」と呼びますが、これも略して「Bピクチヤ」と呼びます。今後は、Bピクチヤは、この双予測ピクチヤのことを意味するものとします。

2 Bピクチヤの予測画像
[1]Bピクチヤの参照例
・・・
Bピクチヤでは、任意の参照ピクチヤから最大2枚を選択できますので、その2枚を「LO予測、L1予測」と呼んで区別をします。通常は、LO予測(List O Prediction、主として前方向予測に用いる予測)が前方予測、L1予測(List 1 Prediction、主として後方予測に用いる予測)が後方予測としてよく使われます。
・・・・
各ピクチヤで使用可能な符号化モードの一覧表を、表5-3に示します。」(121頁?124頁,表5-3,図5-18)

(K12)〈第6章〉(H.264/AVCの中核となる圧縮符合化技術-その2 デブロッキング・フィルタ、エントロピー符号化、他-)
「6.5 H.264/AVCにおける予測画像、復号画像の管理
1 参照ピクチヤ番号とは
H.264/AVCでは、複数の参照ピクチャの候補からブロック単位で任意のピクチャを参照した画面間予測が導入されています。そこで、ブロックごとにどの参照ピクチャを参照しているかを示す必要があります。参照ピクチャを指定するために各ピクチャに割り当てた識別番号を「参照ピクチャ番号」と呼びます。
図6-20にPピクチャの復号で使用する参照ピクチャ番号の規定値を示します。PピクチャではLO予測(主として前方向予測に使用される)だけが使われますので、参照ピクチャ番号もLO予測の参照ピクチャ番号です。参照ピクチャ番号は、復号順序で後のほうのピクチャに小さい番号が割り当てられ、例えば、一番最近に復号された参照ピクチャには、値「O」が割り当てられます。
図6-21にBピクチャの復号で使用する参照ピクチャ番号の規定値を示します。Bピクチャでは、LO予測とL1予測(主として後方向予測に使用される)が使われますので、参照ピクチャ番号もLO予測用とL1予測用で別々に参照ピクチャ番号が割り当てられます。」(166頁)
「3 復号ピクチヤ・バッフア(DPB)の仕組み
H.264/AVCでは、MPEG-2と比べて次のように非常に柔軟な画面間符号化が導入されています。
(1)複数の参照ピクチャの候補からブロック単位で任意のピクチャを参照した画面間予測
(2)Pピクチャで、表示順序で後方からの画面間予測
(3)Bピクチャで、表示順序で前方2枚のピクチャを参照した画面間予測、または後方2枚のピクチャを参照した画面間予測
このような柔軟な画面間予測を実現するためには、多くの参照ピクチャをメモリに格納するだけでなく、ビット・ストリームを復号する順序と表示(表示装置に出力)する順序を適切な順子に並べ替えるためのメモリが必要になります。
[1]ピクチャの並べ替えが必要な例を示します。メモリに格納されて後続のピクチャから参照されるピクチャを「参照ピクチャ」、後続のピクチャでは参照されないが表示されるべき順序に並び替えて表示されるタイミングまで一時的にメモリに格納されるピクチャを「非参照ピクチャ」と呼びます。
[2]具体的にどれだけのメモリが必要
次に、図6-24を用いて、図6-23の例がどれだけのメモリが必要かを説明します。ビット・ストリームに符合化されているのはピクチャI0、ピクチャP1、ピクチャB2、ピクチャB3、ピクチャB4の順序です。一方、表示は、ピクチャI0、ピクチャB3、ピクチャB2、ピクチャB4、ピクチャP1の順序です。
○1 まず、参照ピクチャI0を復号してメモリに格納します。
○2 次に、参照ピクチャP1を復号してメモリに格納します。
○3 次に、参照ピクチャB2を復号し、ピクチャI0を表示し、その後ピクチャB2をメモリに格納します。この動作は同じ時刻に行います。
○4 次に、非参照ピクチャB3を復号し、即座に復号したピクチャB3を表示します。
・・・」(169頁?170頁,図6-23,図6-24)

(K13)〈第9章〉(H.264/AVCをサポートするシステム技術-MPEG-2システム/MP4ファイル/RTP伝送-)
「ビデオやオーディオのビット・ストリームは、通常、フレームの サイズや表示時刻などのヘッダ情報を付加してシステム多重化され てから、伝送あるいは蓄積されます。システム多量化の方式は、放 送・蓄積・通信などの用途に応じて規定されており、H.264/AVCについても、これらのシステム多重化規格が標準化されています。
本章では、MPEG-2システム、MP4ファイル・フォーマット、RTP伝送などを解説しながら、H.264/AVCをサポートする放送、蓄積、および通信向けのシステム多重化の規格について、わかりやすく解説します。
9.1 MPEG-2システムを用いた伝送の仕組み
1 MPEG-2システムとは?
MPEG-2システム(MPEG-2 Systems)では、
○1 トランスポート・ストリーム(TS:Transport Stream)
○2 プログラム・ストリーム(PS:Program Stream)
という2種類の多重化方式が規定されています。
・・・
[1]MPEG-2のトランスポート・ストリーム(TS)とは?
MPEG-2のトランスポート・ストリームは、TS(トランスポート・ストリーム)パケットと呼ばれる188バイトの固定長のパケットを並べたもので、プログラムを構成するビット・ストリームの種類を示すプログラム情報、ビット・ストリーム、およびメディア間の同期をとるためのPCR(Program Clock Reference、プログラム時刻基準参照値)と呼ばれる基準クロック情報などが、すべてTSパケットによって伝送されます。
・・・
TSパケットは、4バイト(32ビット)の固定長ヘッダから始まり、ヘッダ内には、TSパケットが伝送するデータの種類を示す識別情報であるPID(Packet Indentifier:パケットのメディアの識別子)が格納されます。プログラムの一覧情報は、PAT〔Program Association Table、番組アソシエーション(統合)・テーブル)と呼ばれるセクションに心内され、PATを伝送するTSパケットのPIDは0と規定されています。ここで、セクションとは、MPEG-2 TSが伝送できるデータ形式の一つです。
[2]トランスポート・ストリームを受信する場合
・・・
[3]プログラム・ストリーム(PS)とは?
・・・
2 H.264/AVCデータの伝送
MPEG-2システムでは、ISO/IEC 13818-1/2000/AMD.3(AMD:Amendment)〔“Transport of AVC video data over ITU-T Rec H.222.0|ISO/IEC 13818-1 streams(H.222.0/13818-1 stream上でのAVCビデオデータの転送)”.〕において、H.264/AVCのビット・ストリームをトランスポート・ストリーム、およびプログラム・ストリームによって伝送する際の拡張について規定しています。ISO/IEC 13818-1:2000(E)〔“Generic coding of moving pictures and associated audio information:Systems(動画像と関連するオーディオ晴報の汎用符号化:システム)”〕に対する主な拡張、および追加項目は次のようになっています。
○1 アクセス・ユニットの構造定義
○2 デコーダ・モデルの拡張
○3 新規デスクリプタ(記述子)の導入
○4 アクセス・ユニットの復号・表示時刻の取得方法
[1]アクセス・ユニットの構造
H.264/AVC規格(ISO/IEC 14496-10、“Advanced Video Coding”)におけるアクセス・ユニットに次の制約を加えたものを、MPEG-2システムにおけるアクセス・ユニット(図9-3)として定義しています。
○1 バイト・ストリーム・フォーマットを使用する
○2 アクセス・ユニットには、Access Unit Delimiter NALユニットを必ず含める。Access Unit Delimiter NALユニットとは、アクセス・ユニットの先頭にけ加され、アクセス・ユニットの開始を示すNALユニットのことである。
○3 Access Unit Delimiter NALユニットに付加するzero_byteは1つとする。
・・・以下略」(209頁?213頁)

(K14)〈第12章〉H.264/AVCの付属資料(Annex)
-シンタックス&セマンテイックス/各種テ-ブル/SEI/VUI-
「3 アクセス・ユニット・デリミタ(Access Unit Delimiter)
表12-3(1)アクセス・ユニット・デリミタ(264頁)
primary_pic_type|そのピクチャに含まれるスライスの種類を指定

primary_pic_typeの定義を表12-3(2)に示す。
表12-3(2)プライマリ・ピクチャ・タイプ(primary_pic_type)
の定義(264頁)
primary_pic_type |そのピクチャに含まれるスライスの種類
0 | I
1 | I,P
2 | I,P,B
3 | SI
4 | SI,SP
5 | I,SI
6 | I,SI,P,SP
7 | I,SI,P,SP,B

表12-4(2)スライス・タイプ(slice_type)の定義(265頁?266頁行)
スライスタイプ | 定義
(slice_type) |
0 | P(Pスライス)
1 | B(Bスライス)
2 | I(Iスライス)
3 | SP(SPスライス)
4 | SI(SIスライス)
5 | P(Pスライス)
6 | B(Bスライス)
7 | I(Iスライス)
8 | SP(SPスライス)
9 | SI(SIスライス)
」(264頁?266頁,表12-3(1)(2),表12-4(1)(2))

次ページ以降に、図・表(ここまでに示していないものも含む)をまとめて示す。


(2)特開平10-210483号公報(刊行物2)
原査定の拒絶の理由に、引用文献2として引用された刊行物である特開平10-210483号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次に掲げる事項が記載されている。

〈発明の属する技術分野、従来の技術〉
(L1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、圧縮された動画像を再生する動画像再生装置とその方法に係り、特に、MPEG(Motion Picture Experts Group)と呼ばれる動画像圧縮技術によって圧縮された動画像データを同期再生するのに好適な動画像再生装置その方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】MPEG(Motion Picture Experts Group)と呼ばれる動画像圧縮技術(ISO 11172)によって圧縮された動画像データは、画像単位内で圧縮符号化されていてそれ自身の情報だけで画像を再構成することができるIピクチャ(フレーム内符号化画像)と、時間的に過去に位置する画像との相関およびその差分から画像を再構成することのできるPピクチャ(フレーム間順方向予測符号化画像)と、時間的に過去および未来に位置するIピクチャもしくはPピクチャとの相関および差分から画像を再構成することのできるBピクチャ(双方向予測符号化画像)とによって構成されている。そして、時系列的には、“I,B,B,P,B,B,P,B,B,・・・”のような順番に並んでいるが、上述したような各ピクチャの特性上、再生装置では、Iピクチャ、Pピクチャ、Bピクチャの順番で復号し、順番を入れ替えて再生している。
【0003】ところで、復号処理能力の低い再生装置で復号を行う場合、復号が再生に追いつかない場合がある。この場合、どこかの画像の復号を省略する必要があるが、IピクチャはPピクチャおよびBピクチャの復号に必要であり、PピクチャはBピクチャおよび時間的に後ろのPピクチャの復号に必要である。従って、同期信号に合わせて復号を行う再生装置では、復号が所定時間よりも遅れた場合に他のピクチャの復号に際して参照されることのないBピクチャの復号を省略することで、同期の調整を行っていた。」

(L2)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】復号処理能力の低い再生装置を使用した場合や伝送速度の低い通信回線などを介して動画像データを受信した場合に、Bピクチャの復号を省略しただけでは、復号が再生に追いつかず、復号の遅れに対して同期調整を行うことができないことがあった。
【0005】そこで本発明は、Bピクチャの復号を省略しても同期調整を行うことができない場合や、IピクチャとPピクチャのみで構成される動画像データ(ビットストリーム)が供給された場合でも同期調整を行うことができる動画像再生装置を値供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための手段として、以下に示す動画像再生装置及びその方法を提供しようとするものである。
1.画像単位内だけで圧縮符号化されたフレーム内符号化画像と時間的に過去の画像を参照して圧縮符号化されたフレーム間順方向予測符号化画像と時間的に過去と未来の画像を参照して圧縮符号化された双方向予測符号化画像とを含む動画像データを復号して再生する動画像再生装置であって、供給される前記動画像データのピクチャタイプを検出するピクチャタイプ検出手段と、このピクチャタイプ検出手段により検出された前記フレーム間順方向予測符号化画像の数と前記双方向予測符号化画像の数とを個別に数えるカウンタと、動画の再生が所定時間よりも遅れた場合に、この遅れ時間から同期再生に必要な復号省略画像の数を算出し、この復号省略画像の数だけ前記双方向予測符号化画像の復号を省略する内容のデコード制御信号を出力すると共に前記復号省略画像の数が前記双方向予測符号化画像の数よりも大きい場合に前記フレーム間順方向予測符号化画像の復号も省略する内容のデコード制御信号を出力する同期制御手段と、この同期制御手段から復号を行う内容のデコード制御信号が供給されたときに動画像データの復号を行う復号手段とを備えたことを特徴とする動画像再生装置。」

(L3)「【0043】以上説明したように、本発明の動画像再生装置は、復号処理が間に合わずに同期が取れなくなった際には、まず、Bピクチャの復号処理を省略し、それでも間に合わない場合には他の画像の復号処理への影響が最も小さいPピクチャから復号処理を省略するよう構成したので、処理能力の小さい復号装置や、転送レートの低い通信回線などから動画像データが供給される場合などでも、動画像の同期再生を行うことができる。さらに、IピクチャとPピクチャのみで構成されるBピクチャのない動画像データが供給された場合にも、構成を変更することなく同期再生を行うことができる。
【0044】
【発明の効果】本発明の動画像再生装置は、双方向予測符号化画像の復号処理を省略しても間に合わない場合には他の画像の復号処理への影響が最も小さいフレーム間順方向予測符号化画像から復号処理を省略するよう構成したので、処理能力の小さい復号装置や、転送レートの低い通信回線などから動画像データが供給される場合などでも、動画像の同期再生を行うことができるという効果がある。
【0045】さらに、フレーム内符号化画像とフレーム間順方向予測符号化画像のみで構成される双方向予測符号化画像のない動画像データが供給された場合にも、構成を変更することなく同期再生を行うことができる。」

[3]刊行物1に記載された発明(以下、「引用発明」という)

(1)刊行物1概要
刊行物1は、「H.264/AVC教科書」と題する、「H.264/AVC」
-「H.264/AVC」(正式名称:「MPEG-4 Part10:AVC」は、
MPEG-1(1991年)、MPEG-2(1995年)、MPEG-4(1998年)と発展し進化してきた動画像圧縮基準(標準)をベースに、標準化機関が合同で作成し、2003年5月に初版が承認された高度動画像圧縮符合化基準(標準)である{前掲(K1)?(K3),図1-1、表1-1,表1-2、図2-17}
-を解説するものである。

(2)H.264/AVCの圧縮符号化、動画像ストリーム

ア H.264/AVCは、前掲(K5)(K6),図4-1によれば、フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化するものであり、 {→(b1)}
その動画像ストリームは、以下のようになっている。

イ アクセスユニット、NALユニット{(K10)(K7)(K8),図4-8}
H.264/AVCの動画像ストリームは、
・「ピクチャ単位」の「アクセス・ユニット」が「一区切り」となっていて、 (→(b2))
・「一区切り」である「アクセス・ユニット」は、「いくつかのNALユニットをまとめた」ものである{前掲(K10)「4 アクセス・ユニットとその構造」}。 {→(b3)}

・「NALユニット」は、基本的には、
「NALヘッダ」と「VCLで生成されたデータ{RBSP(Raw Byte Sequence Payload、ロー・バイト・シーケンス・ペイロード、動画像圧縮された生データ)}」の2つから構成される{(K7),図4-8}が、
ウで後記するように、「VCLで生成されたデータ」は、nal_unit_type=1?5であるスライスデータを含むVCL NALユニットの場合に存在する(存在しない場合もある(非VCL NALユニット)}。{→(b4)}

ウ NAL(ユニット)、NALヘッダ、nal_unit_type、
nal_unit_type{(K7)(K8),図4-8,表4-5,(K10)}
「NALヘッダ」には、
「nal_ref_idc」(そのNALユニットに参照ピクチャとなり得るスライスが含まれているかどうかを示す情報)と、
「nal_unit_type」(NALユニットの種類を示す識別子)が含まれている{(K7)}。
・NALユニットには、表4-5に示す種類があり、nal_unit_type=1?5であるスライスデータを含むVCL NALユニットと、nal_unit_type≧6である非VCL NALユニットがある。
{(K8),表4-5,(K10)「 図4-11で、アクセス・ユニットに必ず含まれるのは、主ピクチャ内の各スライスに相当するNALユニットだけで、他の情報はすべてのアクセス・ユニットに存在するわけではありません。」等}
上記イを踏まえれば、
NALユニットは、NALヘッダのnal_unit_typeが1?5である場合は、ピクチャのスライスデータを含む。 {→(b4)}

エ AUデリミタ、primary_pic_type{(K9)(K10),表12-3(1)(2)}
・NALユニットには、nal_unit_type=9である「AUデリミタ」(Access Unit Delimiter、アクセス・ユニットの先頭を示す情報)があり{(K8)}、
・そのAUデリミタは、アクセス・ユニットの先頭につけるもので、「primary_pic_type」(表12-3(2)に示される「そのピクチャに含まれる全スライスの種類を示す情報」)を含む。 {→(b5)}
・AUデリミタは、MPEG-2システムを下位システムとして用いる場合には、アクセス・ユニットの先頭を容易に見つけられるようにすべてのアクセス・ユニットに付ける。
{このことは、以下の記載から明らかである。
(K9)「AUデリミタを用いてそのピクチャに含まれる全スライスの種類をprimary_pic_type情報(プライマリ・ピクチャ・タイプ情報)で指定するか・・・」、
(K10)「AUデリミタには主ピクチャに含まれるスライスの種類を示す情報(primary_pic_type)も含まれています。符号化したデータをひとつの列として扱うMPEG-2システムを下位システムに適用する場合には、ユニットの先頭を容易に見つけられるようにすべてのアクセス・ユニットにAUデリミタを付けます(第9章の9.1節参照)」、
(K13)「H.264/AVC規格(ISO/IEC 14496-10、“Advanced Video Coding”)におけるアクセス・ユニットに次の制約を加えたものを、MPEG-2システムにおけるアクセス・ユニット(図9-3)として定義しています。
○1 バイト・ストリーム・フォーマットを使用する
○2 アクセス・ユニットには、Access Unit Delimiter NALユニットを必ず含める。Access Unit Delimiter NALユニットとは、アクセス・ユニットの先頭にけ加され、アクセス・ユニットの開始を示すNALユニットのことである。」、
表12-3(1)(2)等}

オ スライスの種類、slice_type{(K9),表4-6,表12-4(1)(2)}
H.264/AVCでは、スライスが符号化の基本単位となっており、スライスごとに「slice_type」(表4-6,表12-4(2)に示すスライスの種類を示す情報)を、スライスヘッダとして付けるようになっている。
{(K9),表4-6,表12-4(1)(2)} {→(b6)}

(3)H.264/AVCの動画像ストリームのデコード{(K5),
図4-2}
前掲(K5),図4-2には、H.264/AVCの動画像ストリームをデコードするデコーダが認められる。 {→(a)}

(4)引用発明
以上によれば、補正後発明と対比する刊行物記載発明として、下記の発明(以下「引用発明」という。)を認定することができる。

記(引用発明)

(a)H.264/AVCの動画像ストリームをデコードする装置であって、
(b)デコードするH.264/AVCの動画像ストリームは、
(b1)フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化されたものであり、
(b2)ピクチャ単位のアクセス・ユニットが一区切りとなっており、
(b3)アクセス・ユニットは、いくつかのNALユニットをまとめたものであり、
(b4)NALユニットは、
nal_ref_idc(そのNALユニットに参照ピクチャとなり得るスライスが含まれているかどうかを示す情報)と、nal_unit_type(NALユニットの種類を示す識別子)を含むNALヘッダと、
nal_unit_typeが1?5である場合は、ピクチャのスライスデータを含む。
(b5)NALユニットには、nal_unit_typeが9であるAUデリミタがあり、AUデリミタは、アクセス・ユニットの先頭につけるもので、primary_pic_type(表12-3(2)に示される「そのピクチャに含まれる全スライスの種類を示す情報」)を含み、
(b6)スライスが符号化の基本単位となっており、スライスごとにslice_type(表4-6,表12-4(2)に示すスライスの種類を示す情報)を、スライスヘッダとして付けるようになっている、
(b)動画像ストリームであるもの。

[4]補正後発明1と引用発明との対比(対応関係)

〈補正後発明1(構成要件の分説)〉

補正後発明1は、以下のように、
デコード処理を実行する情報処理装置についての要件A0?A3と、
その情報処理装置が実行するデコード処理の対象である動画像ストリームについての要件B(B1?B5)
とに分説することができる。

補正後発明1(分説)
A0 動画像ストリームをデコードするためのデコード処理を実行する情報処理装置において、
A1 前記動画像ストリーム内に含まれる第3ヘッダ情報を検出する検出手段と、
A2 前記検出された第3ヘッダ情報に基づいて、デコード対象画像が前記動画像ストリームの中の他の符号化画像から参照されない非参照画像であるか否かを判別する手段と、
A3 前記デコード対象画像が非参照画像である場合に、当該非参照画像に対する前記デコード処理の実行をスキップする制御手段とを具備すること
A0 を特徴とする情報処理装置、であって、

B 前記動画像ストリームは、
B1 フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化され、各画像に対応する複数の第1のユニットから構成される動画像ストリームであって、
B2 前記第1のユニットに含まれる第1ヘッダ情報により、各画像が内包するスライスの種類を判別可能であり、
B3 第1のユニットは、ヘッダ部とデータ部とから構成される、画像の一部を構成するスライスに関するデータを少なくとも格納可能な第2のユニットを複数含み、
B4 各画像を構成するスライスは、画像内で予測符号化される第1のタイプ、他の1枚の画像を参照して予測符号化される第2のタイプ、他の複数の画像を参照して予測符号化される第3のタイプを含む複数のタイプのうちいずれのタイプであるかを、各スライスが有するスライスヘッダに含まれる第2ヘッダ情報により判別可能となっている動画像ストリーム、であって、
B5 前記動画像ストリーム内に含まれる符号化画像それぞれに対応する各前記第1のユニットに含まれる前記第2のユニットのヘッダ部内に含まれ、当該符号化画像が他の符号化画像から参照されない非参照画像であるか否かを示す、前記第1ヘッダ情報及び前記第2ヘッダ情報とは異なる第3ヘッダ情報がある、
B 動画像ストリームであるもの。

〈対応関係〉

(1)要件A0について
A0:「動画像ストリームをデコードするためのデコード処理を実行する情報処理装置において、」「を特徴とする情報処理装置」
引用発明の「(a)H.264/AVCの動画像ストリームをデコードする装置」も、「動画像ストリームをデコードするためのデコード処理を実行する情報処理装置」ということができるから、要件A0において、引用発明と相違しない。

(2)要件B(B1?B5)、デコードする「動画像ストリーム」について

ア 要件B1について
B1:「フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化され、各画像に対応する複数の第1のユニットから構成される動画像ストリームであって、」

ア-1 要件B1のうちの「フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化され、」「る動画像ストリームであって、」について
《補正後発明1》
補正後発明1の「動画像ストリーム」は、明細書の記載
{特に、「【0007】したがって、H.264/AVC規格で圧縮符号化された動画像ストリームをソフトウェアによってデコードするように設計されたパーソナルコンピュータにおいては、システムの負荷が増大すると、デコード処理自体に遅れが生じ、これによってスムーズな動画再生を実行できなくなる危険がある。」、
「【0008】
本発明は上述の事情を考慮してなされたものであり、動画像ストリームのデコードをスムーズに実行することが可能な情報処理装置およびプログラムを提供することを目的とする。」、
「【0018】ビデオ再生アプリケーションプログラム201は、圧縮符号化された動画像データをデコードおよび再生するためのソフトウェアである。このビデオ再生アプリケーションプログラム201は、H.264/AVC規格に対応するソフトウェアデコーダである。ビデオ再生アプリケーションプログラム201は、H.264/AVC規格で定義された符号化方式で圧縮符号化されている動画像ストリーム(例えば、デジタルTV放送チューナ123によって受信されたデジタルTV放送番組、光ディスクドライブ(ODD)122から読み出されるHD(High Definition)規格のビデオコンテンツ、など)をデコードするための機能を有している。」}
に照らせば、
H.264/AVC規格で定義された符号化方式で圧縮符号化されている動画像ストリーム、をいうものであることは明らかであるところ、
《引用発明》
引用発明の「デコードする装置」がデコードする動画像ストリームも、
(a)「H.264/AVCの動画像ストリーム」であり、
また、(b1)フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化されたものであるから、
要件B1のうちの「フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化され、」「る動画像ストリームであって、」といえることは明らかである。

ア-2 要件B1のうちの「各画像に対応する複数の第1のユニットから構成される」について
補正後発明1でいう「各画像に対応する複数の第1のユニットから構成される」動画像ストリーム、「第1のユニット」とは、明細書の記載(特に、上記【0007】【0008】【0018】に加え、上記【0057】)に照らせば、
それぞれ、
H.264/AVCの動画像ストリーム、同H.264/AVCの動画像ストリームの「アクセスユニット」をいうものであることは明らかであるところ、
引用発明の動画像ストリームも、「(a)H.264/AVCの動画像ストリーム」であって、「(b2)ピクチャ単位のアクセス・ユニット」が「一区切り」となったものであって、
その「(b2)ピクチャ単位のアクセス・ユニット」は、要件B1でいう「第1のユニット」に相当するものといえ、
引用発明の動画像ストリームも、「各画像に対応する複数の第1のユニットから構成される」といい得るものである。

ア-3 まとめ
以上によれば、引用発明(の動画像ストリーム)も要件B1を満たしていて、要件B1において補正後発明1と相違しない。

イ 要件B2について
B2:「前記第1のユニットに含まれる第1ヘッダ情報により、各画像が内包するスライスの種類を判別可能であり、」

補正後発明1でいう上記要件B2の「第1ヘッダ情報」とは、明細書の記載{特に上記段落【0063】,「primary_pic_type」}に照らせば、
H.264/AVCの動画ストリームの「primary_pic_type」をいうものであることは明らかであるところ、
引用発明の(b5)の「primary_pic_type(表12-3(2)に示される「そのピクチャに含まれる全スライスの種類を示す情報」)」も、H.264/AVCの動画ストリームの「primary_pic_type」であって、これにより各画像が内包するスライスの種類を判別可能である、といえるものである。
したがって、引用発明の(b5)の「primary_pic_type(表12-3(2)に示される「そのピクチャに含まれる全スライスの種類を示す情報」)」は、
要件B2でいう「第1ヘッダ情報」に相当するものといえ、
引用発明は、要件B2において補正後発明1と相違しない。

ウ 要件B3について
B3:「第1のユニットは、ヘッダ部とデータ部とから構成される、画像の一部を構成するスライスに関するデータを少なくとも格納可能な第2のユニットを複数含み、」

補正後発明1でいう「第1のユニット」は、上記の通り、同H.264/AVCの動画像ストリームの「アクセスユニット」をいうものであり、
上記要件B3でいう「第2のユニット」とは、明細書の記載{特に上記段落【0057】,図8,「NALユニット」}に照らせば、
H.264/AVCの動画ストリームの「NALユニット」をいうものであることは明らかであるところ、
引用発明の「アクセス・ユニット」、「NALユニット」も、H.264/AVCの動画ストリームの「アクセス・ユニット」、「NALユニット」であり(このことは明らかである)、
また、引用発明の「(b3)アクセス・ユニットは、いくつかのNALユニットをまとめたものであ」って、
その「NALユニット」は、
「(b4)(NALユニットは、)nal_ref_idc(そのNALユニットに参照ピクチャとなり得るスライスが含まれているかどうかを示す情報)と、nal_unit_type(NALユニットの種類を示す識別子)を含むNALヘッダと、
nal_unit_typeが1?5である場合は、ピクチャのスライスデータを含む。」ものであるから、
「ヘッダ部(NALヘッダ)とデータ部(ピクチャのスライスデータ)とから構成される、画像の一部を構成するスライスに関するデータを少なくとも格納可能な」ものである。
したがって、引用発明の「(b4)NALユニット」は、要件B3でいう「第2のユニット」に相当するものといえ、
引用発明の「アクセスユニット」(第1のユニット)も、
ヘッダ部(NALヘッダ)とデータ部(ピクチャのスライスデータ)とから構成される、画像の一部を構成するスライスに関するデータを少なくとも格納可能な第2のユニットを複数含み、といい得るものであり、
引用発明は、要件B3において補正後発明1と相違しない。

エ 要件B4について
B4:「各画像を構成するスライスは、画像内で予測符号化される第1のタイプ、他の1枚の画像を参照して予測符号化される第2のタイプ、他の複数の画像を参照して予測符号化される第3のタイプを含む複数のタイプのうちいずれのタイプであるかを、各スライスが有するスライスヘッダに含まれる第2ヘッダ情報により判別可能となっている動画像ストリーム、であって、」
要件B4でいう「第2ヘッダ情報」とは、明細書の記載{特に上記段落【0064】,図8,図13等}に照らせば、
H.264/AVCの動画ストリームの「slice_type」をいうものであることは明らかであるところ、
引用発明の(b6)の「slice_type(表4-6,表12-4(2)に示すスライスの種類を示す情報)」も、H.264/AVCの動画ストリームの「slice_type」であることは明らかであって、
また「スライスごとに」「スライスヘッダとして付けるようになって」いる。
そして、その「slice_type(表4-6,表12-4(2)に示すスライスの種類を示す情報)」も、
「各画像を構成するスライスは、画像内で予測符号化される第1のタイプ、他の1枚の画像を参照して予測符号化される第2のタイプ、他の複数の画像を参照して予測符号化される第3のタイプを含む複数のタイプのうちいずれのタイプであるかを、各スライスが有するスライスヘッダに含まれる第2ヘッダ情報により判別可能」とするものであることは、表4-6,表12-4(2)、「表4-6,表12-4(2)に示すスライスの種類を示す情報」としていることから明らかである。
したがって、引用発明の「slice_type(表4-6,表12-4(2)に示すスライスの種類を示す情報)」は、要件B4でいう「第2ヘッダ情報」に相当するものといえ、
引用発明の動画ストリーム(H.264/AVCの動画ストリーム)も、
B4「各画像を構成するスライスは、画像内で予測符号化される第1のタイプ、他の1枚の画像を参照して予測符号化される第2のタイプ、他の複数の画像を参照して予測符号化される第3のタイプを含む複数のタイプのうちいずれのタイプであるかを、各スライスが有するスライスヘッダに含まれる第2ヘッダ情報により判別可能となっている動画像ストリーム、であって、」といい得るものであり、
引用発明は、要件B4において補正後発明1と相違しない。

オ 要件B5について
B5:「前記動画像ストリーム内に含まれる符号化画像それぞれに対応する各前記第1のユニットに含まれる前記第2のユニットのヘッダ部内に含まれ、当該符号化画像が他の符号化画像から参照されない非参照画像であるか否かを示す、前記第1ヘッダ情報及び前記第2ヘッダ情報とは異なる第3ヘッダ情報がある、」(動画像ストリーム)
要件B5でいう「第3ヘッダ情報」とは、明細書の記載(特に上記段落【0060】)に照らせば、
H.264/AVCの動画ストリームにおける{primary_pic_type(前記第1ヘッダ情報)及びslice_type(前記第2ヘッダ情報)とは異なる}「nal_ref_idc」をいうものであることは明らかであるところ、
引用発明の、NALヘッダである(b4)「nal_ref_idc(そのNALユニットに参照ピクチャとなり得るスライスが含まれているかどうかを示す情報)も、
・primary_pic_type(前記第1ヘッダ情報)及びslice_type(前記第2ヘッダ情報)とは異なる、H.264/AVCの動画ストリームの「nal_ref_idc」であることは明らかであり、
・また「そのNALユニットに参照ピクチャとなり得るスライスが含まれているかどうかを示す情報」であるから、
「当該符号化画像が他の符号化画像から参照されない非参照画像であるか否かを示す、(前記第1ヘッダ情報及び前記第2ヘッダ情報とは異なる)第3ヘッダ情報」ともいい得るものであり、補正後発明1でいう「第3ヘッダ情報」に相当するものである。
したがって、引用発明は、要件B5においても補正後発明1と相違しない。

カ 要件A1?A3について
引用発明は、要件A1,A2,A3を備えない。
したがって、この点補正後発明1とは相違する。

[5]一致点、相違点

以上の対比結果によれば、補正後発明1と引用発明とは、

[一致点]
A0 動画像ストリームをデコードするためのデコード処理を実行する情報処理装置において、
A0 を特徴とする情報処理装置、であって、
とし、
B 前記動画像ストリームは、
B1 フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化され、各画像に対応する複数の第1のユニットから構成される動画像ストリームであって、
B2 前記第1のユニットに含まれる第1ヘッダ情報により、各画像が内包するスライスの種類を判別可能であり、
B3 第1のユニットは、ヘッダ部とデータ部とから構成される、画像の一部を構成するスライスに関するデータを少なくとも格納可能な第2のユニットを複数含み、
B4 各画像を構成するスライスは、画像内で予測符号化される第1のタイプ、他の1枚の画像を参照して予測符号化される第2のタイプ、他の複数の画像を参照して予測符号化される第3のタイプを含む複数のタイプのうちいずれのタイプであるかを、各スライスが有するスライスヘッダに含まれる第2ヘッダ情報により判別可能となっている動画像ストリーム、であって、
B5 前記動画像ストリーム内に含まれる符号化画像それぞれに対応する各前記第1のユニットに含まれる前記第2のユニットのヘッダ部内に含まれ、当該符号化画像が他の符号化画像から参照されない非参照画像であるか否かを示す、前記第1ヘッダ情報及び前記第2ヘッダ情報とは異なる第3ヘッダ情報がある、
B 動画像ストリームであるもの。

とする点で一致し、

[相違点]
補正後発明1が、
A1 前記動画像ストリーム内に含まれる第3ヘッダ情報を検出する検出手段と、
A2 前記検出された第3ヘッダ情報に基づいて、デコード対象画像が前記動画像ストリームの中の他の符号化画像から参照されない非参照画像であるか否かを判別する手段と、
A3 前記デコード対象画像が非参照画像である場合に、当該非参照画像に対する前記デコード処理の実行をスキップする制御手段とを具備する
とするのに対して

補正後発明1は、そのような手段を備えるとはしていない点。

で相違する。

[6]相違点等の判断(容易想到性の判断)

(1)相違点の克服

[相違点の克服]
引用発明が、
A1 前記動画像ストリーム内に含まれる第3ヘッダ情報を検出する検出手段と、
A2 前記検出された第3ヘッダ情報に基づいて、デコード対象画像が前記動画像ストリームの中の他の符号化画像から参照されない非参照画像であるか否かを判別する手段と、
A3 前記デコード対象画像が非参照画像である場合に、当該非参照画像に対する前記デコード処理の実行をスキップする制御手段とを具備する
とすること
で、上記[相違点]は克服され、補正後発明に至る。

(2)[相違点の克服]の容易想到性

ア 刊行物2発明(引用発明2)
原査定の拒絶の理由に、引用文献2として引用された刊行物である特開平10-210483号公報(刊行物2)には、前記「【第2-4】[2](2)」のとおりの事項が記載されており、
後記(【第4】[2])するように、刊行物2には、下記の発明(以下、「刊行物2発明」ともいう)が記載されていると認められる。

記(刊行物2発明)
(p)MPEG(MPEG1や2)動画像圧縮技術によって圧縮された動画像データ
-・画像単位内で圧縮符号化されていてそれ自身の情報だけで画像を再構成することができるIピクチャ(フレーム内符号化画像)と、
・時間的に過去に位置する画像との相関およびその差分から画像を再構成することのできるPピクチャ(フレーム間順方向予測符号化画像)と、
・時間的に過去および未来に位置するIピクチャもしくはPピクチャとの相関および差分から画像を再構成することのできるBピクチャ(双方向予測符号化画像)とによって構成されている、MPEG動画像圧縮技術によって圧縮された動画像データ-
を、処理能力の小さい復号装置で復号し再生する動画像再生装置において、
(q)復号処理能力の低い再生装置で復号を行う場合、復号が再生に追いつかないとき画像の復号を省略して同期調整するために、
(r)動画像データのピクチャタイプを検出するピクチャタイプ検出手段であって、少なくとも、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるBピクチャであるか、もしくは、他のピクチャの復号に必要であるIピクチャ又はPピクチャであるかを検出し得る検出手段を備え、
(s)復号処理能力の低い再生装置で復号を行う場合で、復号が所定時間よりも遅れた場合には、
上記ピクチャタイプ検出手段の検出結果に基づいて、
他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるBピクチャであるときには、その復号は省略し(双方向予測符号化画像であるからという理由からではなく、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるという理由からBピクチャの復号は省略し)、
他のピクチャの復号に必要であるIピクチャ又はPピクチャであるときには、復号するようにして再生するようにした動画像再生装置。

イ 容易想到性

イ-1 引用発明に刊行物2発明を適用することの動機付け
引用発明の(a)H.264/AVCの動画像ストリーム(前者)は、上記刊行物2発明の、MPEG(MPEG1や2)動画像圧縮技術によって圧縮された動画像データ(後者)よりも圧縮度が大きく複雑であって、そのデコード負荷も前者の方が後者より重いことは当業者に明らかであり、
また、H.264/AVCの動画像ストリームを、処理能力の小さい復号装置で復号(デコード)し再生する場合も普通に想定され、またそのような場合に、MPEG1や2と同様、復号が再生に追いつかなくなることも普通に想定されるものである。
したがって、刊行物2に接した当業者にとって、
引用発明のH.264/AVCの動画像ストリームのデコードについても、(処理能力の小さい復号装置で復号(デコード)し再生する場合等において、)復号が再生に追いつかないとき画像の復号を省略して同期調整するため{(q)}の解決手法を提供する刊行物2発明を適用しようとする動機付けがあるということができる。

イ-2 刊行物2発明の適用
刊行物2発明が採る、上記(q)「復号処理能力の低い再生装置で復号を行う場合、復号が再生に追いつかないとき画像の復号を省略して同期調整するため」の解決手法は、上記(r)と(s)であり、
その本質部分は、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャを省略するという手法であるところ、
H.264/AVCの動画像ストリームでは、刊行物2のMPEG1や2のBピクチャが他のピクチャを復号するのに他のピクチャから参照され得ないものであるのとは異なり、任意のピクチャを参照し得るようになっていて、Bピクチャも、他のピクチャを復号するのに他のピクチャから参照され得るピクチャである{このことは技術常識である。例えば、刊行物1の(K11),(K12),図6-23(ピクチャB2は参照されている)、特開2004-242286号公報(段落【0011】,【0022】?【0024】)等参照。}から、
単に、刊行物2のように、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャを省略するためにBピクチャの復号を省略すればよい、というものではなく、ピクチャタイプを検出してもそれだけでは他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるか否かを判別できないことは当業者に明らかである。

一方、H.264/AVCの動画像ストリームでは、参照ピクチャとなり得スライスが含まれているかどうかを示す情報を、NALユニットのヘッダの“nal_ref_idc”として指定するようになっており{引用発明(b4)}、このことは、当業者の技術常識でもある。
すなわち、参照ピクチャとなり得るスライスが含まれているかどうかを示す情報が、そもそも、H.264/AVCの動画像ストリームのNALユニットのヘッダに“nal_ref_idc”として用意されているのである。

そうすると、この“nal_ref_idc”を利用して、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるか否かを判別しようとすることは、当業者にごく自然な発想といえ、当業者が容易に想起し得ることということができる。

すなわち、引用発明に刊行物2発明を適用するとき、刊行物2発明が採った上記(r),(s)の「ピクチャタイプ検出手段」の代わりに、NALユニットのヘッダの“nal_ref_idc”を検出する手法を採り、
復号処理能力の低い再生装置で復号を行う場合で、復号が所定時間よりも遅れた場合には、
検出した“nal_ref_idc”に基づいて、デコード対象画像が他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるときには、その復号は省略し、
他のピクチャの復号に必要であるピクチャであるときには、復号するようにして再生するようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

そして、“nal_ref_idc”が、補正後発明1でいう「前記動画像ストリーム内に含まれる第3ヘッダ情報」といえることは前記のとおりであるのであるから、
引用発明に、刊行物2発明の上記A1,A2,A3を付加すること、
すなわち、
A1 前記動画像ストリーム内に含まれる第3ヘッダ情報を検出する検出手段と、
A2 前記検出された第3ヘッダ情報に基づいて、デコード対象画像が前記動画像ストリームの中の他の符号化画像から参照されない非参照画像であるか否かを判別する手段と、
A3 前記デコード対象画像が非参照画像である場合に、当該非参照画像に対する前記デコード処理の実行をスキップする制御手段を付加すること、
は、当業者が容易に想到し得ることである。

イ-3 まとめ(相違点の克服)
以上によれば、上記[相違点の克服]は、刊行物1、刊行物2、技術常識・周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

(3)まとめ{相違点等の判断(容易想到性の判断)}
補正後発明1は、上記刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された発明及び技術常識・周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

[7]まとめ(理由:独立特許要件不適合)
以上によれば、補正後の請求項1に係る発明は、上記刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された発明及び技術常識・周知事項等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

【第3】補正の却下の決定2(本件補正2の補正却下)
本件補正2(平成21年4月13日付けの受付番号[書類番号]:50900766224の補正書による先の補正)について、次のとおり決定する。

《結論》
本件補正2(平成21年4月13日付けの受付番号[書類番号]:50900766224の補正書による補正の補正書による補正)を却下する。

《理由》

本件補正2は、特許請求の範囲について補正をするものであって、その補正の内容は、前記本件補正1と全く同じである。

したがって、本件補正2は、本件補正1と同様、願書に最初に添付した明細書、図面の以下の記載を根拠とするものと認められ、また、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号で規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
また、独立特許要件についても、本件補正1後の請求項1に記載される発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないのと同じ上記理由により、
本件補正2後の請求項1に記載される発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。
本件補正2は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【第4】査定の当否(当審の判断)

[1]本願発明
平成21年4月13日付けの上記本件補正1、上記本件補正2はいずれも上記のとおり却下する。
本願の請求項1?10に係る各発明は、本願明細書及び図面(平成20年8月13日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面)の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載した事項により特定されるとおりのものと認められるところ、
その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は下記の通りである。

記(本願発明(請求項1))
フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化された動画像ストリームをデコードするためのデコード処理を実行する情報処理装置において、
前記動画像ストリーム内に含まれる符号化画像それぞれに対応するヘッダ情報内に含まれる、当該符号化画像が他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを示す情報を検出する検出手段と、
前記検出された情報に基づいて、デコード対象画像が前記動画像ストリームの中の他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを判別する手段と、
前記デコード対象画像が非参照画像である場合に、当該非参照画像に対する前記デコード処理の実行をスキップする制御手段とを具備することを特徴とする情報処理装置。

[2]引用刊行物の記載、引用発明2
原査定の拒絶の理由に、引用文献2として引用された刊行物である特開平10-210483号公報(刊行物2)には、前記「【第2-4】[2](2)」のとおりの事項が記載されている。

引用発明2として、刊行物2に「従来の技術」として記載されたものに基づいて刊行物記載発明(引用発明2)を認定する。

(1)刊行物2(前提、従来技術等)
ア 前提とする技術
前掲(L1)(段落【0001】)によれば、MPEGと呼ばれる動画像圧縮技術によって圧縮された動画像データを同期再生するのに好適な動画像再生装置に関するものである。

イ 前提とする動画像データ
前提とする動画像データは、MPEG動画像圧縮技術によって圧縮された動画像データであり、
・画像単位内で圧縮符号化されていてそれ自身の情報だけで画像を再構成することができるIピクチャ(フレーム内符号化画像)と、
・時間的に過去に位置する画像との相関およびその差分から画像を再構成することのできるPピクチャ(フレーム間順方向予測符号化画像)と、
・時間的に過去および未来に位置するIピクチャもしくはPピクチャとの相関および差分から画像を再構成することのできるBピクチャ(双方向予測符号化画像)とによって構成されている{(L1)段落【0002】}。
段落【0002】には、MPEGとして「動画像圧縮技術(ISO 11172)」、つまり、いわゆるMPEG1だけが記載されているが、動画像データが上記のように構成されていることは、MPEG1のみならず、MPEG2でも同じであることは、当業者に明らかな技術常識である。
{→(p)}
ウ 従来の技術
前掲(L1)(段落【0003】)「復号処理能力の低い再生装置で復号を行う場合、復号が再生に追いつかない場合がある。この場合、どこかの画像の復号を省略する必要があるが、IピクチャはPピクチャおよびBピクチャの復号に必要であり、PピクチャはBピクチャおよび時間的に後ろのPピクチャの復号に必要である。従って、同期信号に合わせて復号を行う再生装置では、復号が所定時間よりも遅れた場合に他のピクチャの復号に際して参照されることのないBピクチャの復号を省略することで、同期の調整を行っていた。」のであるから、
従来の技術として、
復号処理能力の低い再生装置で復号を行う場合、復号が再生に追いつかないときには、画像の復号を省略して同期調整するために、 {→(q)}
復号処理能力の低い再生装置で復号を行う場合で、復号が所定時間よりも遅れた場合には、
他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるBピクチャの復号は省略し、
他のピクチャの復号に必要であるIピクチャとPピクチャを復号するようにして再生する技術が示されている、ということができる。
ここに、省略するピクチャをBピクチャとしたのが、Bピクチャが双方向予測符号化画像であるからという理由からではなく、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるという理由からであることは、上記段落【0003】の記載から明らかである。 {→(s)}
そして、そのようにするためには、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるBピクチャであるか、もしくは、他のピクチャの復号に必要であるIピクチャまたはPピクチャであるかを、何らかの手法で検出しているものということができる。

エ ピクチャタイプ検出手段
刊行物2は上記ウの従来技術に対し、
「Bピクチャの復号を省略しただけでは、復号が再生に追いつかず、復号の遅れに対して同期調整を行うことができない場合や、IピクチャとPピクチャのみで構成される動画像データ(ビットストリーム)が供給された場合でも同期調整を行うことができる」{前掲(L2)【0004】}ようにするため、
「供給される前記動画像データのピクチャタイプを検出するピクチャタイプ検出手段」(【0006】)を設け、
まず、「復号処理が間に合わずに同期が取れなくなった際には、Bピクチャの復号処理を省略し」(この点は、上記従来の技術と同様である。)、「それでも間に合わない場合には他の画像の復号処理への影響が最も小さいPピクチャから復号処理を省略するよう構成」(【0043】)し、
「処理能力の小さい復号装置や、転送レートの低い通信回線などから動画像データが供給される場合などでも、動画像の同期再生を行うことができるという効果が奏する」{前掲(L2)(L3)}ようにしたことが示されており、
このものは、「供給される前記動画像データのピクチャタイプを検出するピクチャタイプ検出手段」の検出結果に基づいて、
「Bピクチャの復号処理を省略し、それでも間に合わない場合には他の画像の復号処理への影響が最も小さいPピクチャから復号処理を省略するよう構成」しているものということができる。

オ 従来の動画像再生装置
上記エのものと、その前提である上記ウの「従来の技術」を比較すれば、 上記「従来の技術」も、「供給される前記動画像データのピクチャタイプを検出するピクチャタイプ検出手段」であって、少なくとも、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるBピクチャであるか、もしくは、他のピクチャの復号に必要であるIピクチャ又はPピクチャであるかを検出し得る検出手段」を備えていて、 {→(r)}

同検出手段の検出結果に基づいて、上記ウのように再生{復号処理能力の低い再生装置で復号を行う場合で、復号が所定時間よりも遅れた場合には、
他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるBピクチャの復号は省略し、
他のピクチャの復号に必要であるIピクチャとPピクチャを復号するようにして再生}する、ものということができ、
従来装置としてそのような動画像再生装置を認めることができる。
{→(s)}

(2)引用発明2
以上によれば、引用発明2として、下記の発明を認定することができる。
記(引用発明2)
(p)MPEG(MPEG1や2)動画像圧縮技術によって圧縮された動画像データ
-・画像単位内で圧縮符号化されていてそれ自身の情報だけで画像を再構成することができるIピクチャ(フレーム内符号化画像)と、
・時間的に過去に位置する画像との相関およびその差分から画像を再構成することのできるPピクチャ(フレーム間順方向予測符号化画像)と、
・時間的に過去および未来に位置するIピクチャもしくはPピクチャとの相関および差分から画像を再構成することのできるBピクチャ(双方向予測符号化画像)とによって構成されている、MPEG動画像圧縮技術によって圧縮された動画像データ-
を、処理能力の小さい復号装置で復号し再生する動画像再生装置において、
(q)復号処理能力の低い再生装置で復号を行う場合、復号が再生に追いつかないとき画像の復号を省略して同期調整するために、
(r)動画像データのピクチャタイプを検出するピクチャタイプ検出手段であって、少なくとも、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるBピクチャであるか、もしくは、他のピクチャの復号に必要であるIピクチャ又はPピクチャであるかを検出し得る検出手段を備え、
(s)復号処理能力の低い再生装置で復号を行う場合で、復号が所定時間よりも遅れた場合には、
上記ピクチャタイプ検出手段の検出結果に基づいて、
他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるBピクチャであるときには、その復号は省略し(双方向予測符号化画像であるからという理由からではなく、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるという理由からBピクチャの復号は省略し)、
他のピクチャの復号に必要であるIピクチャ又はPピクチャであるときには、復号するようにして再生するようにした動画像再生装置。

[3]引用発明2と本願発明との対比(対応関係)

〈本願発明(分説)〉
本願発明は、以下のように、分説することができる。

記(本願発明(請求項1)、分説)
P フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化された動画像ストリームをデコードするためのデコード処理を実行する情報処理装置において、
Q 前記動画像ストリーム内に含まれる符号化画像それぞれに対応するヘッダ情報内に含まれる、当該符号化画像が他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを示す情報を検出する検出手段と、
R 前記検出された情報に基づいて、デコード対象画像が前記動画像ストリームの中の他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを判別する手段と、
S 前記デコード対象画像が非参照画像である場合に、当該非参照画像に対する前記デコード処理の実行をスキップする制御手段とを具備すること
P を特徴とする情報処理装置。

〈対応関係〉

(1)要件Pについて
P:「フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化された動画像ストリームをデコードするためのデコード処理を実行する情報処理装置において、」「を特徴とする情報処理装置。」

要件Pでいう「動画像ストリーム」は、明細書記載の「H.264/AVCの動画ストリーム」ももちろん含むものであるが、従来周知の「MPEG(1,2)動画像圧縮技術によって圧縮された動画像ストリーム」も含み得、排除されるものでないことは当業者に明らかであるところ、
引用発明2の「(p)動画像再生装置」が復号する動画像データ、すなわち、「・画像単位内で圧縮符号化されていてそれ自身の情報だけで画像を再構成することができるIピクチャ(フレーム内符号化画像)と、
・時間的に過去に位置する画像との相関およびその差分から画像を再構成することのできるPピクチャ(フレーム間順方向予測符号化画像)と、
・時間的に過去および未来に位置するIピクチャもしくはPピクチャとの相関および差分から画像を再構成することのできるBピクチャ(双方向予測符号化画像)とによって構成されている、MPEG動画像圧縮技術によって圧縮された動画像データ」(これが「ストリーム」といえることも技術常識である)も、
上記要件Pの「フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化された動画像ストリーム」と言えるものである。
また、引用発明2の、そのような「動画像データ」を「復号し再生する動画像再生装置」が「情報処理装置」といい得ることも明らかである。
したがって、引用発明2は、要件Pにおいては本願発明と相違しない。

(2)要件Qについて
Q:「前記動画像ストリーム内に含まれる符号化画像それぞれに対応するヘッダ情報内に含まれる、当該符号化画像が他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを示す情報を検出する検出手段と、」

引用発明2の「(r)動画像データのピクチャタイプを検出するピクチャタイプ検出手段であって、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるBピクチャであるか、もしくは、他のピクチャの復号に必要であるIピクチャ又はPピクチャであるかを検出し得る検出手段」は、ピクチャタイプを検出するものではあるものの、
(s)の「上記ピクチャタイプ検出手段の検出結果に基づいて、
他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるBピクチャであるときには、その復号は省略し(双方向予測符号化画像であるからという理由からではなく、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるという理由からBピクチャの復号は省略し)、
他のピクチャの復号に必要であるIピクチャ又はPピクチャであるときには、復号する」からすれば、
「当該符号化画像が他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを示す情報を検出」するものともいえるものである。
もっとも、検出する「当該符号化画像が他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを示す情報」が、「前記動画像ストリーム内に含まれる符号化画像それぞれに対応するヘッダ情報内に含まれる情報」であるとはしておらず、この点、本願発明と相違する。

(3)要件Rについて
R:「前記検出された情報に基づいて、デコード対象画像が前記動画像ストリームの中の他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを判別する手段と、」

上記(r)(s)及び上記(2)で検討したことからすれば、
引用発明2も、
(r)(ピクチャタイプ)「検出手段」の検出結果の情報に基づいて、デコード対象画像が前記動画像ストリームの中の他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを判別している、と言えることから、
「前記検出された情報に基づいて、デコード対象画像が前記動画像ストリームの中の他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを判別する手段」を備えているということができる。
したがって、引用発明2は、要件Rにおいては本願発明と相違しない。

(4)要件Sについて
S:「前記デコード対象画像が非参照画像である場合に、当該非参照画像に対する前記デコード処理の実行をスキップする制御手段とを具備すること」
引用発明2でも「(s)復号処理能力の低い再生装置で復号を行う場合で、復号が所定時間よりも遅れた場合には、
上記ピクチャタイプ検出手段の検出結果に基づいて、
他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるBピクチャであるときには、その復号は省略し(双方向予測符号化画像であるからという理由からではなく、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるという理由からBピクチャの復号は省略し)、
他のピクチャの復号に必要であるIピクチャ又はPピクチャであるときには、復号するようにして再生する」のであるから、
「前記デコード対象画像が非参照画像である場合に、当該非参照画像に対する前記デコード処理の実行をスキップする制御手段とを具備する」と言え、したがって、引用発明2は、要件Sにおいて、本願発明と相違しない。

[4]一致点、相違点

以上の対比結果によれば、本願発明と引用発明2とは、

[一致点]
P フレーム内符号化および動き補償フレーム間予測符号化を用いて圧縮符号化された動画像ストリームをデコードするためのデコード処理を実行する情報処理装置において、
Q’当該符号化画像が他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを示す情報を検出する検出手段と、
R 前記検出された情報に基づいて、デコード対象画像が前記動画像ストリームの中の他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを判別する手段と、
S 前記デコード対象画像が非参照画像である場合に、当該非参照画像に対する前記デコード処理の実行をスキップする制御手段とを具備すること
P を特徴とする情報処理装置。

とする点で一致し、

[相違点]
上記Q’の「検出手段」が検出する「当該符号化画像が他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを示す情報」が、
本願発明では、
前記動画像ストリーム内に含まれる符号化画像それぞれに対応するヘッダ情報内に含まれる、当該符号化画像が他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを示す情報
であるのに対して、
引用発明では、そのような情報とはしていない点

で相違する。

[5]相違点等の判断(容易想到性の判断)

(1)相違点の克服

[相違点の克服]
引用発明2の「(r)動画像データのピクチャタイプを検出するピクチャタイプ検出手段であって、少なくとも、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるBピクチャであるか、もしくは、他のピクチャの復号に必要であるIピクチャ又はPピクチャであるかを検出し得る検出手段」(「当該符号化画像が他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを示す情報を検出する検出手段」)を、
「前記動画像ストリーム内に含まれる符号化画像それぞれに対応するヘッダ情報内に含まれる」「情報」を検出する手段とすることで、
上記[相違点]は克服され、本願発明に至る。

(2)[相違点の克服]の容易想到性

《周知事項、技術常識》
MPEG1や2では、その符号化ストリームの、各画面に相当するピクチャ層のピクチャヘッダにおいて、ピクチャの符合化タイプI,P,Bを指定するようになっており{例えば、下記周知例1,2参照}、このことは周知かつ技術常識である。
記(周知例)
周知例1:中島,尾高,田原,「3-2-2 画像フォーマットとビットストリーム構成」テレビジョン学会誌 画像情報工学と放送技術 特集MPEG,1995年4月,Vol.49 No.4,p.437-443(特にp.440)
周知例2:藤原洋監修、マルチメディア通信研究会編、「ポイント図解式最新MPEG教科書」,アスキー出版局,1995年6月1日第1版第4刷発行,特に、p.110?p.116,p.155?p.161(特にp.161)

《容易想到性》
上記周知・技術常識に鑑みれば、MPEGストリームのピクチャヘッダに、検出すべきピクチャタイプの情報が用意されているのであるから、
その情報を、引用発明2の「(r)動画像データのピクチャタイプを検出するピクチャタイプ検出手段であって、少なくとも、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるBピクチャであるか、もしくは、他のピクチャの復号に必要であるIピクチャ又はPピクチャであるかを検出し得る検出手段」でのピクチャタイプの検出に利用しようとすることは、
当業者にごく自然な発想といえ、当業者が容易に想到し得るということができる。
そして、そのように利用すれば、
引用発明2の「(r)動画像データのピクチャタイプを検出するピクチャタイプ検出手段であって、少なくとも、他のピクチャを復号するのに参照されることがないピクチャであるBピクチャであるか、もしくは、他のピクチャの復号に必要であるIピクチャ又はPピクチャであるかを検出し得る検出手段」(「当該符号化画像が他の符号化画像から参照されていない非参照画像であるか否かを示す情報を検出する検出手段」)は、
「前記動画像ストリーム内に含まれる符号化画像それぞれに対応するヘッダ情報内に含まれる」「情報」を検出する手段、
となって、上記[相違点の克服]がなされて本願発明に至ることとなる。

すなわち、引用発明2を出発点として、上記[相違点の克服]をして本願発明に至ることは、引用発明2及び周知事項・技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

(3)まとめ(容易想到性判断)
本願発明は、上記刊行物2に記載された発明、周知事項・技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

【第5】むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、上記刊行物2に記載された発明、周知事項・技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項について特に検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-05 
結審通知日 2011-09-06 
審決日 2011-09-21 
出願番号 特願2004-287498(P2004-287498)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
P 1 8・ 575- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅原 道晴畑中 高行  
特許庁審判長 乾 雅浩
特許庁審判官 藤内 光武
梅本 達雄
発明の名称 情報処理装置および同装置で用いられるプログラム  
代理人 堀口 浩  

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