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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C |
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管理番号 | 1246051 |
審判番号 | 不服2010-24583 |
総通号数 | 144 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-12-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-11-01 |
確定日 | 2011-11-04 |
事件の表示 | 特願2006- 52413号「セラミックス摺動部材を用いた純水用ポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年9月13日出願公開、特開2007-232013号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、平成18年2月28日の出願であって、平成22年7月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年11月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その審判の請求と同時に明細書及び特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。 II.平成22年11月1日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年11月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。 「純水または超純水により潤滑される摺動面をそれぞれ有し、該摺動面が互いに摺動して軸を回転自在に支承する回転側部材と固定側部材とを備え、 前記回転側部材及び前記固定側部材の少なくとも一方を、20%以上のβ-SiCを含むSiC製としたセラミックス摺動部材を用いた純水用ポンプ。」(なお、下線部は補正箇所を示す。) 上記補正は、新規事項を追加するものではなく、補正前の請求項1(平成22年7月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1)に記載された発明を特定するために必要な事項である「純水用回転機械」を「純水用ポンプ」と限定したものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2.引用例の記載事項 (1)特開2003-201987号公報 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-201987号公報(以下、「引用例1」という。)には、「キャンドモータポンプ」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。 ア.「【0004】 【発明が解決しようとする課題】上述したように、全周流型キャンドモータポンプにおいては、環状空間を流れる取扱液によりキャンドモータを冷却すると共に、ロータとステータとの間の小さなギャップに取扱液の一部を循環させてモータの冷却及び軸受の潤滑を行っている。しかしながら、純水用途のポンプでは、ロータの周囲に微粒子や溶出イオンが蓄積し、これらがある時点で大量に流出することで、吐出口から吐出される取扱液の純水レベルが確保されず問題となることがある。また、取扱液に小さな気泡または溶存ガスが含まれる場合、ポンプの連続運転時間の経過と共に遠心分離作用によってロータの周囲に空気が滞留し、軸受の潤滑不良による破損を引き起こすことがある。 【0005】本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、ロータの周囲における微粒子や溶出イオンの蓄積及び空気の滞留を防止することができ、万が一、軸受が破損した場合でも、ポンプから吐出される取扱液に破損した軸受の破片が混入することを防止できるキャンドモータポンプを提供することを目的とする。」 イ.「【0006】 【課題を解決するための手段】このような従来技術における問題点を解決するために、本発明の一態様は、内部にモータステータを収容したモータフレームと、該モータフレームの外側に設けられ該モータフレームとの間に取扱流体が流れる環状空間を形成する外筒とを備えたキャンドモータポンプであって、主軸の一方の端部には、吸込口から上記環状空間に取扱液を導く吸込側ケーシングと、上記取扱液を昇圧する羽根車とを設け、主軸の他方の端部には、上記環状空間からの取扱液を吐出口に導く吐出側ケーシングを設け、上記吐出側ケーシングの吐出口に連通する吐出空間とは分離されたロータ室を形成し、上記ロータ室内の取扱液を上記吐出空間の取扱液とは別に排出するドレン配管を上記ロータ室に接続したことを特徴とするキャンドモータポンプである。 【0007】このような構成により、ロータの周囲に蓄積した微粒子や溶出イオンは吐出空間の取扱液とは別に外部に排出されるので、吐出側ケーシングの吐出口から吐出される取扱液の純水レベル等を確保することができる。また、ロータの周囲に空気が滞留することが防止されるため、軸受の潤滑不良による破損を防止することができる。更に、万が一、これらの軸受が破損した場合でも、吐出側ケーシングの吐出口から吐出される取扱液に破損した軸受の破片が混入するのを防止することができる。」 ウ.「【0019】上記軸受ブラケット20はモータフレーム側板5に設けられたいんろう5aに弾性材からなるガスケット30を介して挿入されている。また、軸受ブラケット20はこのガスケット30を介してモータフレーム側板5に当接している。なお、スラスト軸受22,23,24、ラジアル軸受21及びスリーブ27の材料は、セラミック材料の一種であるシリコンカーバイド(SiC)であり、軸受ブラケット20及びスラストディスク25,26の材料はステンレス鋼である。」 エ.「【0023】吸込側ケーシング40の吸込口40aから吸い込まれた取扱液は、羽根車13によって昇圧された後、モータフレーム1と外筒2との間の環状空間50に導かれる。この環状空間50に導かれた取扱流体は、ステータ4の外周部を効果的に冷却する。環状空間50を流れた取扱液は吐出空間52を通って吐出側ケーシング41に導かれ、吐出側ケーシング41の吐出口41aから吐出される。 【0024】また、一部の取扱流体は軸受21,22,23,24,32及びスリーブ27,34の潤滑及び冷却を行い、同時にステータ4の内周部とロータ7を冷却し、上述したロータ室51に至る。ロータ室51の取扱液は、ドレン配管63を通って、吐出空間52の取扱液とは別に外部に排出される。従って、ロータの周囲に蓄積した微粒子や溶出イオンは、吐出空間52の取扱液とは別に外部に排出されることとなり、吐出側ケーシング41の吐出口41aから吐出される取扱液の純水レベル等を確保することができる。また、ロータの周囲に空気が滞留することが防止されるため、軸受21,22,23,24,32の潤滑不良による破損を防止することができる。更に、万が一、これらの軸受が破損した場合でも、吐出側ケーシング41の吐出口41aから吐出される取扱液に破損した軸受の破片が混入するのを防止することができる。なお、微粒子や空気の混入の度合いに応じてドレン配管63のバルブ62を調整することが好ましい。」 オ.上記イ.エ.の記載及び図1の取扱液の流れ方向を表す矢印から、スリーブ27とラジアル軸受21は、純水により潤滑される摺動面を有することが看取される。 これら記載事項(及び図示内容)を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「純水により潤滑される摺動面をそれぞれ有し、該摺動面が互いに摺動して軸を回転自在に支承するスリーブ27とラジアル軸受21とを備え、スリーブ27及びラジアル軸受21にSiCを用いたキャンドモータポンプ。」 (2)特公平2-51864号公報 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特公平2-51864号公報(以下、「引用例2」という。)には、「炭化珪素質摺動部材」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。 カ.「摺動部材に要求される性質すなわち摺動特性としては、密度、硬質および熱伝導率が大きく、また摩擦係数および摩耗量の小さいことであり、炭化珪素を主成分とする焼結体は硬度、熱伝導率および摩耗量等の諸性質において摺動部材として適することが知られているが、摩擦係数が一般に高いことから、これを低くするため潤滑剤との併用が試みられ、上述のように種々の提案がなされて来た。 ところで、炭化珪素にはα型とβ型があることは知られているが、従来工業的にはアチソン法により製造されたα型炭化珪素のみが使用されている。一方、β型炭化珪素は学術的に試料として化学気相反応沈積法で製造されたものが用いられているが、工業的には非常に高価であるため実用されたことはなかつた。本発明者はβ型炭化珪素の工業的製造方法ならびに装置を発明して初めてβ型炭化珪素の工業的生産を開始し、初めてβ型炭化珪素の製造コストが低減され、コストの低廉なβ型炭化珪素を主体とする焼結体を製造し、この焼結体について種々の特性を研究したところ、α型炭化珪素を出発原料として得られる焼結体は擬球状すなわちアスペクト比が小さい比較的粗大な結晶粒よりなる構造を有するのに対し、β型炭化珪素を出発原料として得られる焼結体は比較的均一な粒径を有する板状すなわちアスペクト比の大きな結晶が相互に交差し、その間隙をさらに微細な粒径を有する結晶粒で埋められた微細構造を有する。 従つて、β型炭化珪素焼結体はα型のそれに対して高強度および耐熱衝撃性に優れることが判つた。 ところで、本発明者らは上記2種の焼結体を摺動部材として用いる場合の摺動特性を比較実験したところ、乾式条件下では両者間においてそれほどの差異は認められなかつたが、特に湿式条件下で、かつ高負荷時では摩擦係数および耐摩耗性において著しく相異し、β型のそれはα型のそれに比して極めて良好な摺動特性を有していることを新規に知見して本発明を完成するに至つた。 前記炭化珪素質焼結体の少なくとも50重量%がβ型炭化珪素よりなる炭化珪素質焼結体の摺動特性が良好な理由としては、β型炭化珪素はその結晶構造が立方晶系であり、強度、硬度、熱伝導率などの諸物性に異方性が少ないことに基因するものと考えられる。 また、前記β型炭化珪素の含有量を50重量%以上に限定する理由は、β型炭化珪素の含有量が50重量%より少ないと、すなわちα型炭化珪素の含有量が50重量%より多いと、後述するように実質的に摩擦係数が高くなり摩耗量が多くなるからである。」(第2ページ左欄第25行?右欄第32行) キ.「本発明の摺動部材は湿式条件下での使用に特に適するものであり、前記湿式条件とは前記摺動部材が使用される状態において、摺動部材と被摺動部材との摺動面間の少なくとも一部に液体が介在している条件をいう。 前記湿式条件を満足させる液体としては、摺動時の摺動部材と被摺動部材との摺動面間の少なくとも一部にその液体の1分子層を形成させることのできる物質であれば有利に使用することができ、例えば水、油、フレオン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、ペンタノール、イソペンチルアルコール、アリルアルコール、フエノール、クレゾール、アンモニアなどの1種または2種以上を有利に使用することができる。なお、上記液体中に各種の微粉状固体物質が混入したスラリー状の液体および各種化学物質が混入した液体も使用することができる。」(第3ページ左欄第38行?右欄第11行) 3.対比 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「純水」は、その意味又は機能などからみて、前者の「純水または超純水」に相当し、以下同様に、「スリーブ27」は「回転側部材」に、「ラジアル軸受21」は「固定側部材」に、「キャンドモータポンプ」は「純水用ポンプ」にそれぞれ相当し、本願補正発明と引用発明とは、セラミックス摺動部材を「SiC」とする点で共通するものであるから、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は、 [一致点] 「純水または超純水により潤滑される摺動面をそれぞれ有し、該摺動面が互いに摺動して軸を回転自在に支承する回転側部材と固定側部材とを備え、 前記回転側部材及び前記固定側部材の少なくとも一方を、SiC製としたセラミックス摺動部材を用いた純水用ポンプ。」である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点] 本願補正発明は、セラミックス摺動部材について「回転側部材及び前記固定側部材の少なくとも一方を、20%以上のβ-SiCを含むSiC製」とするものであるのに対し、引用発明のセラミックス摺動部材について、引用例1にはβ-SiCの配分割合について記載されておらず、β-SiCを含むものであるか否かについても不明である点 4.判断 上記相違点について検討する。 引用例1には、純水用途のポンプの軸受の潤滑不良の防止を課題とする旨の記載がある。(上記摘記事項ア.を参照。) 引用例2には、湿式条件下において摺動部材にβ型炭化珪素を所定重量%以上含有させることにより、炭化珪素質摺動部材の摺動特性を良好なものとする技術事項が記載されている。 引用例2には、本願補正発明のように、β型炭化珪素を含んだ摺動部材を、純水または超純水中で使用する旨の記載はないが、特に湿式条件下において、β型炭化珪素を含んだ摺動部材の摺動特性は、α型のそれに比して極めて良好である(上記摘記事項ウ.を参照。)ことが当時から知られていたことを鑑みれば、β型を含まない炭化珪素にて形成された摺動部材の使用時に良好な摺動特性が得られなかった湿式条件下の使用環境において、β型炭化珪素を含んだ摺動部材の使用を試みることに、格別な創意は認められず、引用発明のように純水用途のポンプの軸受の潤滑不良の防止を課題とするものに、引用例2に記載のβ型炭化珪素を含んだ摺動部材を適用することは、当業者が容易に想到し得たことであり、その適用に特段の阻害事由も認められない。 また、引用例2に記載の発明は、摺動部材にβ型炭化珪素を所定重量%含有させることにより所定の効果を得るものであり、引用発明に適用するに際し、摺動部材中のβ型炭化珪素の配分割合をどのように設定するかは、必要とされる摺動特性等を考慮して、当業者が適宜設定すべき設計事項に過ぎない。 そして、本願補正発明の効果も、引用発明、引用例2に開示された事項から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用例2に開示された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 III.本願発明について 1.本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係 る発明は、平成22年7月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのもの であると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「純水または超純水により潤滑される摺動面をそれぞれ有し、該摺動面が互いに摺動して軸を回転自在に支承する回転側部材と固定側部材とを備え、 前記回転側部材及び前記固定側部材の少なくとも一方を、20%以上のβ-SiCを含むSiC製としたセラミックス摺動部材を用いた純水用回転機械。」 2.引用例の記載事項 引用例1及び引用例2の記載事項並びに引用発明は、前記II.2.に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、前記II.1.の本願補正発明における「純水用ポンプ」を「純水用回転機械」に拡張したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3.及び4.に記載したとおり、引用発明及び引用例2に開示された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明及び引用例2に開示された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び引用例2に開示された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-09-02 |
結審通知日 | 2011-09-06 |
審決日 | 2011-09-21 |
出願番号 | 特願2006-52413(P2006-52413) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小野 孝朗、西尾 元宏 |
特許庁審判長 |
川本 真裕 |
特許庁審判官 |
川上 溢喜 所村 陽一 |
発明の名称 | セラミックス摺動部材を用いた純水用ポンプ |
代理人 | 廣澤 哲也 |
代理人 | 渡邉 勇 |
代理人 | 小杉 良二 |