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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A61M
管理番号 1246230
審判番号 無効2010-800147  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-08-24 
確定日 2011-11-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第2588375号発明「医療器具を挿入しその後保護する安全装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2588375号の請求項1、3、5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 理 由
I.手続の経緯
(1)本件特許第2588375号に係る発明についての出願は、平成6年11月15日に特許出願され、平成8年12月5日にその発明について特許の設定登録がなされた。
(2)これに対し、請求人は、平成22年8月24日に本件特許無効審判を請求し、被請求人は、平成22年12月9日付けで答弁書を提出した。
(3)その後、請求人は平成22年3月24日付けで口頭審理陳述要領書を提出し、被請求人は、平成23年3月24日付けで口頭審理陳述要領書を提出した。
(4)平成23年4月7日に口頭審理が実施された。
(5)その後、被請求人は平成23年4月21日付けで上申書を提出し、請求人は、平成23年4月27日付けで上申書を提出した。

II.本件発明
本件特許の請求項1、3、5に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」、「本件発明3」、「本件発明5」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、3、5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】 カニューレの如き医療器具を患者の体内へ挿入し且つその後患者の体内にあった該装置の部分に人が接触しないように保護するための安全装置において、
患者を穿刺し、前記医療器具を患者の体内の適所へ案内して搬送する中空針であって、少なくとも1つの鋭利な端部を有する軸を具備する中空針と、
人の指が届かないように、少なくとも前記針の鋭利な端部を包囲するようになされた中空のハンドルと、
前記鋭利な端部を前記ハンドルから突出させた状態で前記軸を前記ハンドルに固定する固定手段と、
前記固定手段を解除し、前記針の鋭利な端部を人の指が届かないように前記ハンドルの中へ実質的に永続的に後退させる解除/後退手段であって、前記針の軸よりも実質的に短い距離だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な解除/後退手段と、
前記後退のエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段とを備えることを特徴とする安全装置。
【請求項3】 請求項1の安全装置において、前記エネルギ吸収手段が、
前記針と前記ハンドルの内部孔とのうちの一方に固定された表面と、
前記針と前記内部孔とのうちの他方に担持されて前記表面に圧接し、前記後退の間に摩擦を生ずる要素とを備えることを特徴とする安全装置。
【請求項5】 請求項1の安全装置において、
前記中空のハンドルは、前記針がそれに向かって後退する端部構造を有し、
前記エネルギ吸収手段は、前記針と前記端部構造とうちの一方に固定されて前記端部構造に対する前記針の衝撃の一部を吸収する押し潰し可能な要素を有することを特徴とする安全装置。」

III.当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、「特許第2588375号発明の特許請求の範囲の請求項1、3、5に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、」(請求の趣旨)との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第6号証を提出し、無効とすべき理由を次のように主張している。
(1)無効理由1
本件発明1、本件発明3及び本件発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項により、無効とされるべきものである。

(2)無効理由2
本件発明1、本件発明3及び本件発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術、甲第5号証並びに甲第4号証及び甲第6号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項により、無効とされるべきものである。

(3)無効理由3
本件発明1、本件発明3及び本件発明5は、甲第6号証に記載された発明及び甲第1号証?甲第4号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項により、無効とされるべきものである。

[証拠方法]
・甲第1号証:特開平3-15481号公報
・甲第2号証:米国特許第5211629号明細書
・甲第3号証:米国特許第4927414号明細書
・甲第4号証:国際公開92/18187号
・甲第5号証:特表平3-502421号公報
・甲第6号証:米国特許第4828548号明細書

2.被請求人の主張
被請求人は、請求人主張の無効理由1乃至無効理由3は何れも成立せず、本件審判の請求は成り立たない旨主張している。

IV.甲号証記載事項
(1)-1 甲第1号証の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平3-15481号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(ア)「カニューレを患者の中に挿入しその後で患者内にあった装置部分との接触から人々を保護するに当たって使用される安全装置であって、
前記患者に突き刺し前記カニューレを前記患者内の定位置に案内し運ぶための針であって、少なくとも1つの鋭い端を備えた軸を有する針と、
前記人々の指が届かないように前記針の少なくとも鋭い端を封包するようになされた中空ハンドルと、
前記鋭い端がハンドルから突出した状態で前記軸をハンドルに固着するための手段と、
前記固着手段を解除し且つ前記人々の指が届かないように前記針の鋭い端をハンドル内へ実質的に永久的に後退させるための手段とから成り、
前記解除および後退手段は針の軸よりも実質的に短い振幅の単純な一体運動により手動で作動可能であることを特徴とする安全装置。」(特許請求の範囲、請求項1)
(イ)「ハンドル10は好ましくはポリカーボネート等のプラスチックから射出成形されたものだが、必ずしもそうでなくてもよい。」(10頁左下欄7行?9行)
(ウ)「孔12の後端の近くには、内方に円錐台状のストッパ表面14が形成されて孔12を僅かに挟めている。孔12の極端には、ハンドル10の後端にて開口する短い端部13がある。」(11頁左上欄12行?16行)
(エ)「キャリヤブロック30はきわめて狭い中心穴を有し、この穴の中に針50がきっちりと把持されている。同じくデルリン製のブロック30は針上に圧嵌、縮嵌および/または接合するか、あるいは定位置に成形してよい。キャリヤブロック30の外側は円形的に対称である。それは真円筒形でもよい突出筒31を有する。この筒31の後端には前端が筒31に対して半径方向に拡大された円錐台状のストッパ部分32がある。このストッパ部分はブロック30の後端に向けて内方にテーパしている。
ストッパ部分の円錐台状の後面は針を完全に後退させた時にハンドル10の前述した内側円錐台状ストッパ部分13に対して着座するようになされている。」(11頁左下欄16行?右下欄11行)
(オ)「第6図に示すように、キャリヤブロック・ストッパ部分232はラッチシリンダ241の後部における内側ストッパ表面244と係合する。次いで針はハンドル210およびラッチシリンダ240内に完全に後退した状態に保持される。」(15頁左下欄12行?17行)
(カ)また、上記記載事項(エ)の「・・・ストッパ部分の円錐台状の後面は針を完全に後退させた時にハンドル10の前述した内側円錐台状ストッパ部分13に対して着座するようになされている」、上記記載事項(オ)の「・・・次いで針はハンドル210およびラッチシリンダ240内に完全に後退した状態に保持される。」及び図1?図6より、「中空ハンドルは、針がそれに向かって後退する端部構造を有する」といえる。

(1)-2 甲第1号証に記載された発明
上記記載事項及び図示事項を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「カニューレを患者の中に挿入しその後で患者内にあった装置部分との接触から人々を保護するに当たって使用される安全装置であって、
前記患者に突き刺し前記カニューレを前記患者内の定位置に案内し運ぶための針であって、少なくとも1つの鋭い端を備えた軸を有する針と、
前記人々の指が届かないように前記針の少なくとも鋭い端を封包するようになされた中空ハンドルと、
前記鋭い端がハンドルから突出した状態で前記軸をハンドルに固着するための手段と
前記固着手段を解除し且つ前記人々の指が届かないように前記針の鋭い端をハンドル内へ実質的に永久的に後退させるための手段とから成り、前記解除および後退手段は針の軸よりも実質的に短い振幅の単純な一体運動により手動で作動可能であり、
前記中空ハンドルは、前記針がそれに向かって後退する端部構造を有する、
ことを特徴とする安全装置。」

(2)-1 甲第2号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(米国特許第5211629号明細書)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(『』内は、仮訳として請求人の提出した訳文を援用したもの。)
(キ)「BACKGROUND OF THE INVENTION
This invention relates generally to the art of syringes and more particularly to a syringe which reduces the likelihood of unintentional puncture or pricking of human skin. In recent history, the transmission of contagious diseases, particularly those brought about exclusively by the co-mingling of human body fluids, has been of great technological interest. One of the particular problems has been associated with the use and disposal of hypodermic syringes, particularly among healthcare professionals. There have been various devices developed for the destruction of the needles or cannula used in such syringes. Additional devices have been developed for capping of syringes which attempt to minimize the likelihood of accidental puncture. The accidental puncture or pricking of a finger, or any other part of the body, after the treatment of a patient with a contagious disease, particularly a deadly contagious disease, results in a high likelihood of transmission of that disease. Various syringes have been developed in the prior art to attempt to minimize the likelihood of accidental puncture after patient treatment.
One such device is described in U.S. Pat. No. 4,973,316 to Dysarz wherein a needle is retracted into the barrel of the syringe after the use thereof. Another such device is described in U.S. Pat. No. 4,921,486 to DeChellis, et al. One of the earlier patents in this regard was U.S. Pat. No. 2,460,039 issued to Scherer, et al. Various other prior art devices exist as well in the patent literature. While all such devices seek the same goal of preventing accidental puncture, considerable room for improvement exists. 」(明細書1欄1行?35行)『本発明の背景
本発明は概して注射器の技術に関し、特に故意でない穿刺ないし人の皮膚への刺し傷の可能性を減ずる注射器に関する。最近の歴史において、伝染病の伝染、特に人の体液の混合によって起こるものには,大きな技術的関心が寄せられている。特別な問題の一つは,皮下注射器の使用と廃棄とに関連しており,特にヘルスケア専門職の間のものである。このような注射器で使用される針ないしカニューレの破壊のために、種々の装置が開発されている。偶発的な穿刺の可能性を極小化する試みとして、注射器にキャップするための追加的な装置も開発されている。伝染病、特に致死性伝染病の患者を処置した後の偶発的穿刺ないし指または他の体の部位への刺し傷は、そのような病気の伝染の高い可能性をもたらす。患者の処置の後の偶発的穿刺の可能性を減ずるために,種々の注射器が先行技術において開発されてきた。
そのような装置の一つは、Dysarzに対する米国特許4,973, 316に記載されており、針はその使用の後に注射器のバレルの中に引き込まれるというものである。他のそのような装置としては、 DeChellisに対する米国特許4,921,486に記載されているものである。この点でより早期の特許の一つとしては、Schererらに対して発行された米国特許2,460,039である。他の種々の先行技術の装置が特許文献に表れている。このような装置の全てが偶発的穿刺の防止という同一のゴールを目指しているが、相当程度の改良の余地を残している。』
(ク)「SUMMARY OF THE INVENTION
It is thus an object of this invention to provide a novel hypodermic syringe which minimizes the likelihood of accidental puncture.
It is a further object of this invention to provide such a syringe which, after utilization, isolates the used needle so as to render such needle harmless.
It is a further and more particular object of this invention to provide such a hypodermic syringe which is operable utilizing only one hand. 」(明細書1欄36行?46行)『本発明の概要
それゆえ本発明の目的は、偶発的穿刺の可能性を極小化する新規な皮下注射器を提供することである。
本発明の更なる目的は、使用の後に針を無害化するべく使用済み針を分離する注射器を提供することである。
本発明の更なる、そしてより特別な目的は、片手だけで使用可能な皮下注射器を提供することである。』
(ケ)「The sequence of operation will now be described with regard to FIG. 1 and FIGS. 16 through 23. As can be seen, FIG. 1 is a cross-sectional view of safety syringe 1. For normal syringe operating forces safety syringe 1 operates as any conventional syringe. For use, the syringe is filled from an ampule in a normal manner, as standard procedure dictates. Once filled, the injection cycle is accomplished, again according to standard practice. At completion of the injection cycle, plunger 7 is just mating with base 11, as shown in FIG. 16, and all fluids, which can be, are expended from syringe 1. Before the syringe is released, or discarded, by the user, the needle retraction cycle should be accomplished.
At the beginning of the needle retraction cycle, syringe 1 is usually held between the index finger and the middle finger at support flange 81, with the thumb resting on thumb push 45, presumably the same as the syringe was held at completion of the injection cycle. Plunger 7 is just mated with base II at rupturable boot 43, as shown in FIG. 16.
With reference to FIG. 17, force is applied between finger support flange 81 and thumb push 45. This force is transmitted along plunger 7 to deformable base 11 and sacrificial support means 31. As the force increases sufficiently, the liquid tight seal between barrel 5 and deformable base is broken, and sacrificial support means 31 begin to fracture.
As shown in FIG. 18 further force is applied at plunger 7. Sacrificial support means 31 are severed and deformable base II moves forward, further compressing energy storage means 21. Deformable base 11 moves forward until circular flange 17, on needle head 13 which is in translation with base 11, comes into contact With the end of needle passageway 23.
With reference now to FIG. 19 enlarged needle head 13 is blocked by passageway 23, and continued force at plunger 7 causes deformable base 11 to deform and move around circular flange 17 on enlarged needle head 13. As deformable base 11 moves forward, enlarged needle head 13 begins to protrude from base 11 and come into contact with web 79 of rupturable boot 43 on plunger 7. Continued force causes further translation of base 11 and enlarged needle head 13 to penetrate web 79 of rupturable boot 43, positioning enlarged needle head 13 just inside hollow 41 of plunger 7 while circular flange 17 remains embedded within deformed base 11, as shown in FIG. 19.
With reference to FIG. 20, continued translation of deformable base 11 cause circular flange 17 to eventually lose contact with deformable base 11, creating a trigger-like release of circular flange 17. Upon this trigger-type action, energy stored within energy storage means 21 is released and imparted to needle 3 to project needle 3 into hollow 41 of plunger 7, as illustrated in FIG. 21.
Referring now to FIG. 22, it is seen that needle 3, at its enlarged head 13, contacts capturing means 49 which deforms to permit enlarged needle head 13 to pass through the constriction formed by capturing means 49. This is further illustrated in FIG. 23 where needle 3 is shown captured within hollow 41 of plunger 7. At this point, it should be noted that plunger thumb push 45 has been locked within the mating section 47 of barrel 5. As syringe 1 is tilted downward, fluids remaining in needle 3 flow within hollow 41, down the exterior side of passageway 23 to absorbent means 51 where the fluids are absorbed and prevented from being released from the interior of syringe 1.
An optional capturing means is illustrated in FIG. 24 wherein a plunger 61 has a constricted head portion 63 adjacent to a contacting portion 65. As illustrated in FIG. 25, needle 3 is lodged within the constricted portion 63 as a result of needle 3 being projected from deformable base 11. FIG. 24(a) is a view of plunger 61 taken along line G--G of FIG. 24 showing the constricted head portion 63. Other capturing means may also by utilized.
It is thus seen that this invention provides a novel syringe apparatus which is operable by a single hand and which upon completion of injection captures the utilized needle and renders such harmless within the plunger of the syringe.」(明細書5欄46行?6欄59行)『図1および図16ないし23に関して、動作の手順を説明する。見ての通り、図1は安全注射器1の断面図である。通常の注射器を動作する力によって、安全注射器1は従来の注射器と同様に動作する。使用のためには,通常の方法で、標準的な手続きが要求するようにして、アンプルから注射器が満たされる。一旦満たされると、標準的な実務に従って注射サイクルが実行される。注射サイクルの完了の際、図16に示すように、プランジャ7はちょうど基部11に当接し、全ての液体は注射器1から使い切られる。注射器を使用者が手放すか廃棄する以前に、針収納サイクルが実行される。
針収納サイクルの始めに,おそらくは注射サイクルの完了の際に注射器が保持されるのと同様に,注射器1は人差し指と中指により支持フランジ81で保持され、親指が親指プッシュ45に当てられている。プランジャ7は、図16に示すように、可裂ブーツ43において基部11にちょうど当接している。
図17を参照するに、指支持フランジ81と親指プッシュ45との間に力が加えられる。この力はプランジヤ7に沿って変形可能基部11および犠牲的支持手段31に伝えられる。力が十分に増加すると、バレル5と変形可能基部との間の液密シールが破られ、犠牲的支持手段31は破れ始める。
図18に示すように、更なる力がプランジャ7に加わる。犠牲的支持手段31は切断され、変形可能基部11は前方に移勤し、エネルギ蓄蔵手段21をさらに圧縮する。変形可能基部11は、基部11と並進する針ヘッド13に乗っている円形フランジ17が針通路23の端に接するようになるまで,前方へ移動する。
図19を参照するに、拡大針ヘッド13は通路23によりブロックされ,プランジャ7へ継続的にかかる力は、変形可能基部11を変形させて拡大針ヘッド13上の円形フランジ17の周りに移動せしめる。変形可能基部11が前方へ移動すると、拡大針ヘッド13は基部11から突出して可裂ブーツ43のウェブ79と接するようになる。継続する力は,基部11を更に並進させ,拡大針ヘッド13に可裂ブーツ43のウェブ79を貫通させ、拡大針ヘッド13をプランジヤ7の空洞41内にちょうど位置させるが、円形フランジ17は図19に示すように変形可能基部11内に埋め込まれたままである。
図20を参照するに、変形可能基部11が継続的に並進することは、円形フランジ17に変形可能基部11との接触を遂には失わせ、円形フランジ17の誘発的な解放を生ぜしめる。この誘発型動作により、エネルギ蓄蔵手段21に蓄えられたエネルギが解放されて針3に加えられ、図21に図示されるように針をプランジャ7の空洞41内に投げ出させる。
図22を参照するに、針3はその拡大ヘッド13において捕獲手段49に接し、拡大針ヘッド13が捕獲手段49による締め付けを通過するように捕獲手段が変形する。これは図23にも図示されており、図中で針3はプランジャ7の空洞41内に捕獲されているように示されている。この点で、プランジャ親指プッシュ45がバレル5の嵌合部47内にロックされることを特筆しておく。注射器1が下方に傾くと、針3に残っている液体は空洞41内に流れ出し、通路23の外側を吸収手段51へと降りていき、ここで液体が吸収されて注射器の内部から放出されない。
オプション的な捕獲手段が図24に図示されており,図中でプランジャ61は接触部65に隣接して収縮ヘッド部63を有している。図25に図示されているごとく、針3が変形可能基部11から投げ出される結果、針3は収縮部63内に留め置かれる。図24(a)は、図24のG-G線に沿って取られたプランジャ61の図であって、収縮ヘッド部63を示している。また他の捕獲手段も利用可能である。
従って本発明が、片手で操作でき、注射の完了により使用後の針を捕獲し、注射器のプランジャ中で無害化する、新規な注射器を提供することが示された。』

(2)-2 甲第2号証に記載された技術事項
上記記載事項及び図示事項を総合すると、甲第2号証には次の技術事項が記載されている。
「注射器において、片手で操作でき、注射の完了により使用後の針3を捕獲し、偶発的穿刺の可能性を極小化するために、注射後に、プランジャを前方に移動させて拡大針ヘッド13を解放し、エネルギ蓄蔵手段21により針3をプランジャの空洞内に投げ出させ、拡大針ヘッド13が捕獲手段49を変形させて通過する、あるいは、針3が収縮ヘッド部63を通過することにより、針3をプランジャの空洞内に捕獲する技術」

(3)甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(米国特許第4927414号明細書)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(『』内は、仮訳として請求人の提出した訳文を援用したもの。)
(コ)「The outer end of the tongue 47 is thus dragged through the inner window as shown in FIG. 12, pulling the inner end of the tongue out of the retention slot 91 in the carrier front section 43.
The carrier structure and needle are thereby freed to fly rearward into the retraction barrel 20, under the influence of the spring 48. This action is facilitated by the outward-tapered forward section 25 of the retraction barrel, which relieves the close fit of the carrier rear section within the barrel immediately as the carrier structure starts back.
As the carrier structure reaches the retaining fingers 97 near the rear of the retraction barrel, the tapered surface 95 of the rear section 44 pushes these retaining fingers 97 apart to allow passage of the carrier. The fingers then spring inward again to capture the front edge of the rear section 44 as FIG. 13 illustrates. 」(14欄40行?57行)『したがって、図12に示されているように、突起47の外側の端部は、内側の窓から引きずり出される。これにより、この突起の内側の端部が、搬送部の前側の部分43における保持用のスロット91から外に引っ張り出される。
これにより、搬送構造および針が解放され、スプリング48の影響を受けて、引き込みバレル20に向かって後ろ向きに飛ぶ。この動作は、後ろ向きにテーパーのつけられている引き込みバレルの前側の部分25によって、促進される。この部分は、搬送構造が後ろに下がり始めた直後に、この搬送部における、バレル内にきつくはめ込まれている後側の部分を解放する。
搬送構造が,引き込みバレルの後側の近傍において保持フィンガー97に到達すると、後側の部分44のテーパーのつけられた表面95が、これら複数の保持フィンガー97をばらすように押圧し、これにより、搬送部が通過できるようになる。そして、これらのフィンガーは、再び内側に跳ね戻り、図13に示すように,後側の部分44の前側のエッジを捕獲する。』

(4)甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(国際公開92/18187号)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 (『』内は、仮訳として請求人の提出した訳文を援用したもの。)
(タ)「According to another aspect of this invention, a syringe or sampler body is made as a one-piece moulding complete with a main elongate cylindrical chamber to take a plunger slidably, a forward or extension chamber beyond end of plunger movement to house a spring and a holder for a hollow needle capable of passing through that forward or extension chamber, and internal integral latching formations for the needle holder to retain it with the spring compressed in the forward or extension chamber and acting on the needle holder.」(5頁下から5行?6頁5行)『本発明のもう1つの特徴によれば、注射器又はサンプラー本体は一体成形されており、プランジャーを摺動可能に受け入れる細長い主円筒室とプランジャー動作領城端を越えた所に配置され、バネと中空針用ホルダーを収容して、中空針が前方又は延出室を貫通するように形成された前方又は延出室と、針ホルダー用の内部一体形成されたラッチ部材とから構成され、バネは前記前方又は延出室内に圧縮設置されて針ホルダーを付勢している。』
(チ)「It is further envisaged and preferred herein, and can be seen as a yet further aspect of invention, for there to be simple but effective positive retention of a retracted needle in the plunger interior, particularly by way of integrally mouldable and moulded internal formations. Specifically, the plunger can have interior effective capture formations that may be as simple as progressively tapered formations, such as fins, ribs or even flats. Such tapered formations will effectively grip thus slow and stop a hub or holder of the retracting needle and can be located so that a double-ended needle will not reach and penetrate outside the plunger.」(11頁下から2行?12頁10行)『本発明のさらに別の特徴として、一体に成形されたプランジャーの内部部材により、退却した針が簡単にしかも効果的で確実に保持される。プランジャーの内部に形成した捕捉部材は、例えばフィン、リブ、又は平坦面等、テーパーをつけた単純な部材として構成できる。そのようなテーパーをつけた単純な部材として構成できる。そのようなテーパー付部材は、退却針のハブ又はホルダーの動きをゆるめ、停止させ、そして効果的に把持するように、しかも両端を尖らせた針がプランジャーの外に突き出ないように配置形成することができる。』
(ツ)「The end of the plunger 5 facing the needle 15 is shown closed by a plug 35 that seals relative to the interior of the plunger 5 and has latching fingers 37 engaging the end of the plunger 5. The ends of the fingers 37 are tapered to provide surfaces 39 that cooperate with the tapered faces 27 of the body fingers 21 when the plunger 5 is pushed into the body 1 to its maximum extent. The plug fingers 37 will then also flex radially inwardly, and the space between them is preferably also occupied by a soft rubber infill 30.」(14頁1行?10行)『針15に面するプランジャー5の端部はプラグ35によって閉じられている。プラグ35はプランジャー5の内部をシールし、プランジャー5の端部に係合するプラグフィンガー37を有する。フィンガー37の端部はテーパーが付けられて、表面39を形成する。このテーパー付表面39は、プランジャー5が本体1内に最大限に押し込まれたとき,本体フィンガー21のテーパー付表面27と協働する。プラグフィンガー37は半径方向内方にたわむので、フィンガー間のスペースは軟らかいゴム充填物30で満たすのが好ましい。』
(テ)「There are two possibilities for activating retraction of the needle. One option is for the collar 41 to be removed before commencement of discharge and for the plunger to be moved through the discharge operation until the teeth 39,27 contact and disengage the respective latching fingers 37,21 so that the spring 33 urges the needle 15 to the left in FIG. 1 and the plug 35 moves with the needle 15 into the plunger 5 which, in turn, becomes locked in the body 1 by cooperating engagement of the teeth 43 and recesses 45. Alternatively, the collar can be removed later, after injection use of the hypodermic syringe, and the needle withdrawal from the recipient before final movement of the plunger 5 to trigger retraction of the needle 15.
The materials employed in construction of the plunger can be low friction plastics, and it is readily possible to employ a compression spring 33 that will exert sufficient force to retract the needle 15 from recipient tissue as well as drive it within the plunger 5. A bleed hole 47 near the outer end of the plunger 5 avoids imposing undue restriction on movement of the plug 35 and needle 15 down the plunger 5.」(14頁下から5行?15頁17行)『針を引っ込めるには2つのやり方がある。1つの方法は、薬液放出開始前にカラー41を取り除き,プランジャーを押し込んで薬液放出動作を行ない、その結果、歯39、 27が接触しフィンガー37、21解放させる。これにより、バネ33は針15を図1の左方向へ押し込み,プラグ35は針15と共にプランジャー5内部へ進入する。ここでプランジャー5は、歯43と凹部45が係合することにより,本体1に固定される。もう1つの方法は、皮下注射器を使用して、患者から針を抜き取った後、カラーを取り除き、プランジャー5を最後部に移動して針15を退却させるようにする。
プランジャーの構成材料は摩擦の少ないプラスチック材を使うことができる。圧縮バネ33が針15を患者の組織から引き抜き、かつプランジャー5内に押し込むだけの十分な力を持つように設定することは容易にできる。プランジャー5の外端近くに設けたブリード穴47は、プラグ35と針15がプランジャー5内を移動するのを妨げることがないようにするために設けてある。』
(ト)「It will also be noted that Figures 2 to 4 shown tapered inward formations 105F of the interior of the plunger 105, which may be fins or ribs or, and preferably, flats to grip the needle holder or hub 117 when it is forcibly retracted by action of the spring 133.」(20頁下から4行?21頁1行)『さらに図2?4にはプランジャー105の内部に内側に傾斜したテーパー部105Fが示されている。これはバネ133の力で、針ホルダー又はハブ117が強制的に退却させられる時に、針ホルダー又はハブ117を把持するためのフィン、又はリブ、あるいは平坦部で構成できる。』

(5)甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(特表平3-502421号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
(ナ)「従来提案されているように、弾力によって針が注射器中へ突然に引き込む形式の物は針に付着していた物質が使用者の手にかかったり,使用者が覆面を着用していなかった場合には使用者の目にかかるおそれがある。又弾力によって針が後退する衝撃が注射器に作用し,その結果注射器を取り落とす事故を引き起こし、様々な危険な状況を生じさせる。」(2頁右上欄4行?10行)

(6)甲第6号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証(米国特許第4828548号明細書)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(『』内は、仮訳として請求人の提出した訳文を援用したもの。)
(ニ)「This invention overcomes or reduces the disadvantages and drawbacks associated with previous methods and devices designed to reduce the risk of unintended puncture by disposable needles and in addition provides for less exposure to disease.
Briefly described, the present invention embodies a safety catheter assembly having provision to withdraw the needle into a container automatically after use, not requiring that the user of the syringe take any specific extra action to effect the sheathing of the needle. This arrangement avoids the potential of human error and insures that in each and every case of needle use, the needle will be disposed of in a safe manner.
In a preferred embodiment of the invention there is provided a sealed container under a vacuum therein containing a slidable piston. A needle for making the skin puncture to facilitate entry of the intravenous catheter is connected at its proximal end to a blood collection chamber which is in turn connected to the piston, both of which are contained within the sealed container. The needle passes through the catheter to facilitate the insertion of the latter. When the needle is to be removed, the sealed container is separated from the catheter releasing any friction force caused by a rubber seal located at the proximal end of the catheter. Once free of the seal the needle is automatically pulled into the container rendering it incapable of accidentially causing further skin puncture. At the same time the hole in the seal left from the needle is self sealing so that no blood may leak from it.
In another embodiment, a spring may be utilized instead of a vacuum. 」(1欄下から3行?2欄29行)『本発明は、使い捨て針による意図せざる穿刺のリスクを軽減するために設計された以前の方法および装置と関連した不利益および欠点を克服し、または軽減し、さらには疾病への曝露を減ずる。
端的に述べると、本発明は使用後に針を自動的に容器中へ引き込むための構成を有する安全カテーテル組立体を具現化しており、針を覆うために注射器の使用者がいかなる特別な余分の動作を取ることも必要としない。この取り合わせは人的過誤の潜在的可能性を回避し、針の使用のいずれの場合においても針を安全な形で廃棄しうることを確実にする。
本発明の好適な実施形態においては、その中に摺動可能なピストンを含む真空状態の密封容器が備えられている。皮下カテーテルを入れる便宜のための皮膚穿刺を行うための針は、その基端において血液収集チャンバに接続されており、次いでこれはピストンに接続されており、またこの両方が密封容器中に収納されている。針はカテーテルを貫いており、後者の挿入を容易にしている。針が取り除かれる時には、密封容器はカテーテルから分離し、カテーテルの基端に位置したラバーシールによる摩擦力を解放する。シールが自由になると、針は容器内へと引かれ、偶発的にさらに皮膚を穿刺することが無くなる。同時に針から離れたシール中の穴は、血液が漏れないように自らをシールする。
他の実施形態においては,真空の代わりにバネが利用される。』
(ヌ)「Referring to FIG. 2, there is shown a safety catheter assembly 30 embodying the principles of this invention. Catheter assembly 30 consists of a cylindrical container 32, needle 34, blood collection chamber 36 within container 32, and intravenous catheter 14, with a hub 15, on the proximal end of which is mounted seal 38. Assembly 30, except for a protective covering, is illustrated in FIG. 2 in the form it is assembled and delivered and ready for use.
Cylindrical container 32 is a sealed unit containing a rubber piston 42 at one end to which is attached on its right side as shown sight chamber 36 which receives and is attached to the proximal end of needle 34 which extends out of container 32, passing through a port 44 in end wall 45 of container 32, and through catheter 14 terminating with its tip 46 exposed for use. Container 32 is under a negative pressure, that is there as a partial vacuum within. 」(3欄31行?48行)『図2を参照するに、本発明の原理を具現化する安全カテーテル組立体30が示されている。カテーテル組立体30は、円筒容器32と、容器32中の血液収集チャンバ36と、ハブ15を有する静脈カテーテル14とを備え、この基端に取り付けられているのはシール38である。組立体30は、保護カバーを除いて、組み立てられ、引き渡されて、使用の準備ができた状態で、図2に示されている。
円筒容器32はその一端にラバーピストン42を含む密封装置であって図示の通り前記一端の右側に装着されているのは、容器32の外側へ伸びて容器32の端壁45の開口44を通りカテーテル14を通って使用のために露出した先端46で終わる針34の基端を受容し、またこれに装着された、可視チャンバ36である。容器32は、部分的な真空となった負圧にされている。』
(ネ)「In the use of the apparatus shown in FIG. 2, the professional or technician uses assembly 30 in a conventional manner to place catheter 14 in the arm or other suitable location in the patient. When blood return is visible in blood collection chamber 36 it confirms that the blood vessel has been entered and the distal end of the catheter 14 is located properly, then catheter hub 15 is partially separated from container 32. That is, the professional or technician grasps hub 15 stabilizing it against the patients arm as he pulls it away from container 32. ・・・ Catheter 14 may now be completely advanced into the vein as is the common manner of placement. Once catheter 14 is properly positioned in a vein, container 32 is completely removed from hub 15 and seal 38 thereby removing friction from seal 38 in passageway 38a on needle 34. This results in piston 42, collection chamber 36 and needle 34 automatically retracting into container 32 due to the ambient pressure on the right side of piston 42 and a vacuum on its left side. 」(4欄9行?30行)『図2に示された装置を使用する際には、専門家ないし技術者は組立体30を従来の方法でカテーテル14を患者の腕ないし他の適宜の場所に置くために使用する。血液の戻りが血液収集チャンバ36において目視されると、血管に挿入されたこと及びカテーテルの遠位端が適切に位置したことが確認され、カテーテルハブ15は容器32から部分的に離される。・・・カテーテル14が血管中に適切に位置すると、容器32はハブ15及びシール38から完全に取り除かれ、針34に対する通路38aの摩擦をシール38から取り除く。このことは、ピストン42の右側にかかる大気圧および左側にかかる真空によって、ピストン42、収集チャンバ36および針34が自動的に容器32内に引込むことを結果としてもたらす。』
(ノ)「Instead of using a vacuum to actuate piston 42, as seen in FIG. 7, a spring 62 mounted between piston 64 and end wall 66 of container 68 may be utilized to drive piston 64 to the left after seal 72 is detached from recess 74. 」(4欄59行?63行)『ピストン42を駆動するために真空を使用する代わりに、図7に見られるように、シール72が窪み74から離された後にピストン64を左右に駆動するために、ピストン64と容器68の端壁66との間に装着されたバネ62を利用してもよい。』

V.無効理由に対する当審の判断
1.無効理由1(本件発明1)について
1-1.対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、後者における「カニューレを患者の中に挿入しその後で患者内にあった装置部分との接触から人々を保護するに当たって使用される安全装置」が、その機能・作用等からみて前者における「カニューレの如き医療器具を患者の体内へ挿入し且つその後患者の体内にあった該装置の部分に人が接触しないように保護するための安全装置」に相当し、同様に、「患者に突き刺し前記カニューレを前記患者内の定位置に案内し運ぶための針であって、少なくとも1つの鋭い端を備えた軸を有する針」が「患者を穿刺し、前記医療器具を患者の体内の適所へ案内して搬送する中空針であって、少なくとも1つの鋭利な端部を有する軸を具備する中空針」に、「人々の指が届かないように前記針の少なくとも鋭い端を封包するようになされた中空ハンドル」が「人の指が届かないように、少なくとも前記針の鋭利な端部を包囲するようになされた中空のハンドル」に、「前記鋭い端がハンドルから突出した状態で前記軸をハンドルに固着するための手段」が「前記鋭利な端部を前記ハンドルから突出させた状態で前記軸を前記ハンドルに固定する固定手段」に、及び「前記固着手段を解除し且つ前記人々の指が届かないように前記針の鋭い端をハンドル内へ実質的に永久的に後退させるための手段とから成り、前記解除および後退手段は針の軸よりも実質的に短い振幅の単純な一体運動により手動で作動可能であり」が「前記固定手段を解除し、前記針の鋭利な端部を人の指が届かないように前記ハンドルの中へ実質的に永続的に後退させる解除/後退手段であって、前記針の軸よりも実質的に短い距離だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な解除/後退手段」に、それぞれ相当している。
したがって、両者は、
「 カニューレの如き医療器具を患者の体内へ挿入し且つその後患者の体内にあった該装置の部分に人が接触しないように保護するための安全装置において、
患者を穿刺し、前記医療器具を患者の体内の適所へ案内して搬送する中空針であって、少なくとも1つの鋭利な端部を有する軸を具備する中空針と、
人の指が届かないように、少なくとも前記針の鋭利な端部を包囲するようになされた中空のハンドルと、
前記鋭利な端部を前記ハンドルから突出させた状態で前記軸を前記ハンドルに固定する固定手段と、
前記固定手段を解除し、前記針の鋭利な端部を人の指が届かないように前記ハンドルの中へ実質的に永続的に後退させる解除/後退手段であって、前記針の軸よりも実質的に短い距離だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な解除/後退手段と、を備える安全装置。」の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:本件発明1では、前記後退のエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段を備えるのに対し、引用発明では、そのような構成を備えていない点。

1-2.判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
甲第2号証には「注射器において、片手で操作でき、注射の完了により使用後の針3を捕獲し、偶発的穿刺の可能性を極小化するために、注射後に、プランジャを前方に移動させて拡大針ヘッド13を解放し、エネルギ蓄蔵手段21により針3をプランジャの空洞内に投げ出させ、拡大針ヘッド13が捕獲手段49を変形させて通過する、あるいは、針3が収縮ヘッド部63を通過することにより、針3をプランジャの空洞内に捕獲する技術」が記載されており、甲第2号証のFIG.22には、後退する針3の拡大針ヘッド13が捕獲手段49を変形させて通過するところが示されており、甲第2号証のFIG.25には、後退する針3の拡大針ヘッド13が収縮ヘッド部63に捕獲されているところが示されている。捕獲手段49あるいは収縮ヘッド部63は針が通過する際、部材の変形や針との接触により、針の後退エネルギの一部を吸収するものである。よって、甲2号証に記載された技術の「捕獲手段49」あるいは「収縮ヘッド部63」は、「針の後退のエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段」といえる。そして、引用発明と甲2号証に記載された技術とは「針と針の後退手段とを有する医療用器具の安全装置」という同一の技術分野に属するから、引用発明に甲第2号証に記載された技術を適用し、相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

この点につき被請求人は、平成23年3月24日付け口頭審理陳述要領書において、「したがって、甲第2号証に記載されたプランジャ7に接した当業者が、プランジャ7を備えていない引用発明1に適用しようなどと考えるはずもないし、引用発明1にあっては、そもそも針がハンドル内へ実質的に永久的に後退されるので、甲第2号証に記載されたような捕獲手段49のような構造を採用する必要がなく、同号証に記載された技術を引用発明1に適用することに動機付けられることはない。
また、仮に、当業者が、甲第2号証に記載されたプランジヤ7の技術を引用発明1に適用しようとしても、どのような設計変更をすればよいか、例えば、プランジャ7と、キャリヤブロック30の後端に位置する半径方向に拡大された円錐台状のストッパ部分32との取り合いの設計が困難であることを考えても、このような適用に当業者が動機付けられることは全くない。」(口頭審理陳述要領書6頁6行?16行)及び「このように、甲第2号証に記載された技術と引用発明1とは、解除/後退手段の構造がまったく異なるのであるから、バレル5の長手軸に対して直交する方向に沿って、針の軸よりも実質的に短い距離だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な、引用発明1に係るラッチ40を、甲第2号証に記載された、プランジャー7の長手軸に沿って、針3の軸よりも長い距離だけ動作するプランジャー7に代えることは、不可能であり、当業者をして、甲第2号証に記載された技術を引用発明1に適用する動機付けなどあるはずがない。
仮に、当業者が、甲第2号証に記載されたプランジャ7による解除/後退手段を備えた技術を引用発明1に適用しようとした場合には、引用発明1の「針の軸よりも実質的に短い距離だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な」ラッチ40による解除/後退手段が、甲第2号証のプランジャ7による解除/後退手段に置換されることとなる。しかしながら、本件特許発明1は、引用発明1と同様に、「前記固定手段を解除し、前記針の鋭利な端部を人の指が届かないように前記ハンドルの中へ実質的に永続的に後退させる解除/後退手段であって、前記針の軸よりも実質的に短い距離だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な解除/後退手段」との構成要件を備えているのである。したがって、甲第2号証に記載された技術を引用発明1に適用することができたとしても、引用発明1の解除/後退手段を甲第2号証のプランジャ7に代えた後、さらに「・・・前記針の軸よりも実質的に短い距離だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な解除/後退手段」に代えなければ、本件特許発明1を得ることはできない。」(口頭審理陳述要領書7頁下から7行?8頁14行)と主張している。しかしながら、上記に記載したとおり引用発明と甲2号証に記載された技術とは「針と針の後退手段とを有する医療用器具の安全装置」という同一の技術分野に属するから、引用発明に甲2号証に記載された技術を適用する動機付けはあるといえるし、引用発明に甲2号証に記載された技術を適用するに際しては、プランジャ7全体を適用する必要はなく、「針の後退のエネルギを吸収するための吸収手段」を適用すればよい。引用発明と甲第2号証に記載された技術とは共に針の後退手段を有するものであるので、針の後退に伴い生じるエネルギを対象とするエネルギ吸収手段のみを適用する点に格別困難性はない。よって、被請求人の主張は採用できない。

そして、本件発明1による効果も、引用発明及び甲第2号証に記載された技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

1-3.むすび
本件発明1は、引用発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

2.無効理由1(本件発明3)について
2-1.対比
本件発明3と引用発明とを対比すると、請求項3は請求項1を引用しているので、上記「V.1 1-1」で検討した本件発明1と引用発明と同様の相当関係にあり、両者は、
「 カニューレの如き医療器具を患者の体内へ挿入し且つその後患者の体内にあった該装置の部分に人が接触しないように保護するための安全装置において、
患者を穿刺し、前記医療器具を患者の体内の適所へ案内して搬送する中空針であって、少なくとも1つの鋭利な端部を有する軸を具備する中空針と、
人の指が届かないように、少なくとも前記針の鋭利な端部を包囲するようになされた中空のハンドルと、
前記鋭利な端部を前記ハンドルから突出させた状態で前記軸を前記ハンドルに固定する固定手段と、
前記固定手段を解除し、前記針の鋭利な端部を人の指が届かないように前記ハンドルの中へ実質的に永続的に後退させる解除/後退手段であって、前記針の軸よりも実質的に短い距離だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な解除/後退手段と、を備える安全装置。」の点で一致する。そして、両者は、以下の点で相違している。

相違点1:本件発明3では、前記後退のエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段を備えるのに対し、引用発明では、そのような構成を備えていない点。
相違点2:本件発明3では、前記エネルギ吸収手段が、前記針と前記ハンドルの内部孔とのうちの一方に固定された表面と、前記針と前記内部孔とのうちの他方に担持されて前記表面に圧接し、前記後退の間に摩擦を生ずる要素とを備えるのに対し、引用発明では、そのような構成を備えていない点。

2-2.判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
「V.1 1-2」の相違点1ついての判断と同様である。
(2)相違点2について
甲第2号証には「注射器において、片手で操作でき、注射の完了により使用後の針3を捕獲し、偶発的穿刺の可能性を極小化するために、注射後に、プランジャを前方に移動させて拡大針ヘッド13を解放し、エネルギ蓄蔵手段21により針3をプランジャの空洞内に投げ出させ、拡大針ヘッド13が捕獲手段49を変形させて通過する、あるいは、針3が収縮ヘッド部63を通過することにより、針3をプランジャの空洞内に捕獲する技術」が記載されており、甲第2号証のFIG.25には、後退する針3の拡大針ヘッド13が収縮ヘッド部63を通過するところが示されている。収縮ヘッド部63は針が通過する際、針の拡大針ヘッド13との接触により、その間で摩擦が生じ針の後退エネルギの一部を吸収するものである。よって、甲2号証に記載された技術の「収縮ヘッド部63」は、「プランジャ空洞内(ハンドルの内部孔)に設けられた、針の後退の間に摩擦を生ずる要素」といえる。そして、引用発明と甲2号証に記載された技術とは「針と針の後退手段とを有する医療用器具の安全装置」という同一の技術分野に属するから、引用発明に甲第2号証に記載された技術を適用し、相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

この点につき被請求人は、平成23年3月24日付け口頭審理陳述要領書において、「しかしながら、針が捕獲手段を変形させて通過するとき及び針が収縮ヘッド部を通過するときにおいて、請求人が主張するような、有意な摩擦を生じて針の後退速度を遅くするような機能を有していないことが明らかである。従って、捕獲手段49は、本件特許発明3のエネルギ吸収手段に相当するものではない。また、針3が収縮部63を通過することも、「後退のエネルギの一部」を吸収するものではなく、本件特許発明3のエネルギ吸収手段に相当しない。
上記より、甲第2号証に記載された技術を引用発明1に適用しても本件特許発明3を得ることはできず、本件特許発明3は、引用発明1及び甲第2号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。」(口頭審理陳述要領書12頁17行?13頁2行)と主張している。しかしながら、上記に記載のとおり、『甲第2号証のFIG.25には、後退する針3の拡大針ヘッド13が収縮ヘッド部63を通過するところが示されている。収縮ヘッド部63は針が通過する際、針の拡大針ヘッド13との接触により、その間で摩擦が生じ針の後退エネルギの一部を吸収するものである。よって、甲2号証に記載された技術の「収縮ヘッド部63」は、「プランジャ空洞内(ハンドルの内部孔)に設けられた、針の後退の間に摩擦を生ずる要素」といえる。』から、被請求人の主張は採用できない。

そして、本件発明3による効果も、引用発明及び甲第2号証に記載された技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

2-3.むすび
本件発明3は、甲1発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

3.無効理由1(本件発明5)について
3-1.対比
本件発明5と引用発明とを対比すると、請求項5は請求項1を引用しているので、上記「V.1 1-1」で検討した本件発明1と引用発明との相当関係に加えて、引用発明の「前記中空ハンドルは、前記針がそれに向かって後退する端部構造を有する」は本件発明5の「前記中空のハンドルは、前記針がそれに向かって後退する端部構造を有し」に相当するので、両者は、
「 カニューレの如き医療器具を患者の体内へ挿入し且つその後患者の体内にあった該装置の部分に人が接触しないように保護するための安全装置において、
患者を穿刺し、前記医療器具を患者の体内の適所へ案内して搬送する中空針であって、少なくとも1つの鋭利な端部を有する軸を具備する中空針と、
人の指が届かないように、少なくとも前記針の鋭利な端部を包囲するようになされた中空のハンドルと、
前記鋭利な端部を前記ハンドルから突出させた状態で前記軸を前記ハンドルに固定する固定手段と、
前記固定手段を解除し、前記針の鋭利な端部を人の指が届かないように前記ハンドルの中へ実質的に永続的に後退させる解除/後退手段であって、前記針の軸よりも実質的に短い距離だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な解除/後退手段と、を備え、 前記中空のハンドルは、前記針がそれに向かって後退する端部構造を有する安全装置。」の点で一致する。そして、両者は、以下の点で相違している。

相違点1:本件発明5では、前記後退のエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段を備えるのに対し、引用発明では、そのような構成を備えていない点。
相違点3:本件発明5では、前記エネルギ吸収手段は、前記針と前記端部構造とうちの一方に固定されて前記端部構造に対する前記針の衝撃の一部を吸収する押し潰し可能な要素を有するのに対し、引用発明では、そのような構成を備えていない点。

3-2.判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
「V.1 1-2」の相違点1ついての判断と同様である。
(2)相違点3について
甲第2号証には「注射器において、片手で操作でき、注射の完了により使用後の針3を捕獲し、偶発的穿刺の可能性を極小化するために、注射後に、プランジャを前方に移動させて拡大針ヘッド13を解放し、エネルギ蓄蔵手段21により針3をプランジャの空洞内に投げ出させ、拡大針ヘッド13が捕獲手段49を変形させて通過する、あるいは、針3が収縮ヘッド部63を通過することにより、針3をプランジャの空洞内に捕獲する技術」が記載されており、甲第2号証のFIG.22には、後退する針3の拡大針ヘッド13がプランジャの端部に設けられた捕獲手段49を変形させて通過するところが示されている。また、甲第2号証のFIG.22には、捕獲手段49が羽根状である点も示されている。本件明細書【0137】に「エネルギ吸収手段の他の形態も同様に本発明の範囲に入る。例えば、フラッシュ室の後方に設けられる押し潰し可能なタイプのフィルタ62’(図1a)の如き押し潰し可能な要素を上述の親水性又は同様なフィルタに置き換えることができる。・・・そうではなく、精密成形された羽根の形態の押し潰し可能な要素又は同様なものを使用することもできる。」を参照すると、甲2号証に記載された技術の「捕獲手段49」は、「針の後退するプランジャの端部(ハンドルの端部構造)に設けられた、針の衝撃の一部を吸収する羽根の形態の押し潰し可能な要素」といえる。そして、引用発明と甲2号証に記載された技術とは「針と針の後退手段とを有する医療用器具の安全装置」という同一の技術分野に属するから、引用発明に甲第2号証に記載された技術を適用し、相違点3に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

この点につき被請求人は、平成23年3月24日付け口頭審理陳述要領書において、「しかしながら、甲第2号証に記載された捕獲手段は、上述したとおり、針3がその拡大ヘッド13が後方に移動する際には、当該捕獲手段49を確実に通過するが、一旦捕獲手段49を通過した後は、これが初期位置に復帰することにより拡大ヘッド13が捕獲手段49に引っかかって前方に移動しないものであって、「変形」するものではあるが、「押し潰し可能な」ものでないことは明らかである。
上記より、甲第2号証に記載された技術を引用発明1に適用しても本件特許発明5を得ることはできず、本件特許発明5は、引用発明1及び甲第2号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。」(口頭審理陳述要領書13頁11行?19行)と主張している。しかしながら、上記に記載のとおり、本件明細書【0137】に「・・・そうではなく、精密成形された羽根の形態の押し潰し可能な要素又は同様なものを使用することもできる。」を参照すると、甲2号証に記載された技術の「捕獲手段49」は、「針の衝撃の一部を吸収する羽根の形態の押し潰し可能な要素」といえるから、被請求人の主張は採用できない。

そして、本件発明5による効果も、引用発明及び甲第2号証に記載された技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

3-3.むすび
本件発明5は、引用発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

VI.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、本件発明3及び本件発明5についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当するから、その他の無効理由について検討するまでもなく無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-03 
結審通知日 2011-06-08 
審決日 2011-06-27 
出願番号 特願平6-280754
審決分類 P 1 123・ 121- Z (A61M)
最終処分 成立  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 蓮井 雅之
寺澤 忠司
登録日 1996-12-05 
登録番号 特許第2588375号(P2588375)
発明の名称 医療器具を挿入しその後保護する安全装置  
代理人 山田 徹  
代理人 田中 成志  
代理人 豊岡 静男  
代理人 豊岡 静男  
代理人 片山 英二  
代理人 森 修一郎  
代理人 中村 閑  
代理人 高松 俊雄  
代理人 高松 俊雄  
代理人 森 修一郎  
代理人 本多 広和  
代理人 櫻井 義宏  
代理人 櫻井 義宏  
代理人 田中 成志  
代理人 山田 徹  
代理人 杉山 共永  
代理人 平出 貴和  
代理人 平出 貴和  
代理人 日野 真美  
代理人 黒川 恵  
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