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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) E04B
管理番号 1246291
判定請求番号 判定2011-600035  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2011-12-22 
種別 判定 
判定請求日 2011-08-12 
確定日 2011-11-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第4472726号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「免震建物構造」は、特許第4472726号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 判定請求人の請求の趣旨及び被請求人の答弁の趣旨
判定請求人は,請求の趣旨として,判定請求書に添付したイ号図面ならびにその説明書に示す「免震建物構造」(以下,「イ号物件」という。)は,特許第4472726号(以下,「本件特許」という。)の請求項1に係る発明(以下,「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する,との判定を求め,他方,被請求人は,答弁の趣旨として,イ号物件は,本件特許発明の技術的範囲に属さないとの判定を求めている。
なお,本件特許は請求人の所有する特許であり,イ号物件は被請求人が平成22年6月に作成した兵庫県立淡路病院の図面番号S-14,S-20,S-56に図示されている免震建物構造である。


第2 本件特許発明
本件特許発明は,本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
上部躯体と下部躯体との間に免震装置が設置された免震建物構造であり、下部躯体に設置された免震装置の上面で、上部躯体の最下階のプレキャストコンクリートの梁の端部と現場打ち鉄筋コンクリートの連結部とが一体接合され、前記プレキャストコンクリートの梁の端部から突出した下端筋が前記連結部内で定着することによって連結部と梁が一体接合されたことを特徴とする免震建物構造。」

そして,本件特許発明を構成要件に分説すると次のとおりである。
「A.上部躯体と下部躯体との間に免震装置が設置された免震建物構造であり、
B.下部躯体に設置された免震装置の上面で、上部躯体の最下階のプレキャストコンクリートの梁の端部と現場打ち鉄筋コンクリートの連結部とが一体接合され、
C.前記プレキャストコンクリートの梁の端部から突出した下端筋が前記連結部内で定着することによって連結部と梁が一体接合されたこと
D.を特徴とする免震建物構造。」(以下,「構成要件A」等という。)

第3 イ号物件
1.イ号図面の図1乃至図3,及び,イ号図面の説明書の記載事項
請求書に添付された「イ号図面」及び「イ号図面の説明書」には,以下の事項が記載されている。
(1a)「イ号図面の説明書」には,以下の記載がある。
「イ号図面は、株式会社安井建築設計事務所が作成した「県立淡路病院建築工事」に係る建造物「免震建物構造」の設計図の一部をコピーしたものであり、その設計図に図番と符号とを付加したもので、図1は同免震建物構造の平面図であり、図2は同免震建物構造の側面図であり、図3の枠で囲んだ部分は同免震建物構造における免震装置が取り付けられた構造の断面図である。
図1?2の免震建物構造において、免震建物1は、上部躯体2と下部躯体3との間に免震装置4が設置された構造であり、免震装置4の設置に関しては、図3に示したように、下部躯体3に設置された免震装置4の上面で、上部躯体2の最下階の現場打ち鉄筋コンクリートの梁5の端部とプレキャストコンクリートの連結部(フーチング)6とが一体接合され、現場打ち鉄筋コンクリートの梁5には腹筋7と上端筋8と下端筋9とが配設され、これら上下端筋8、9は、連結部6内に設けた鉄筋10、11とを繋ぐ12、13ことによって連結部6と梁5とがー体接合された構造である。」(1頁2?14行)

(1b)「イ号図面」の図3には,上部躯体2の最下階(1FL)の梁(G2)と免震装置上面に設置された連結部6との接合部が記載されている。
上部躯体2の連結部6は,免震装置4の上面に側外方にはみ出した状態で設置されており,連結部6の内部に設けられた鉄筋10及び11は,現場打ちの梁(G)内に埋設され定着される鉄筋8,9と継ぎ手を介して連結され,連結部6と現場打ちの梁(G)とは,免震装置4の上面の側外方にはみ出した位置においてー体接合されていることが記載されている。

2.イ号物件の特定
当審は,以上の記載事項(1a),(1b)から,イ号物件を分節して次のように特定する。
(イ号物件)
「a.上部躯体2と下部躯体3との間に免震装置4が設置された免震建物構造であり,
b.下部躯体3に設置された免震装置4の上面から側外方にはみ出した位置で,上部躯体2の最下階の現場打ち鉄筋コンクリートの梁5の端部と免震装置上面に設置されたプレキャストコンクリートの連結部6とが一体接合され,
c.前記プレキャストコンクリートの連結部6内に設けた鉄筋10、11が前記現場打ち鉄筋コンクリート梁5内で定着することによって連結部と梁が一体接合された
d.免震建物構造。」(以下,「構成a」等という。)


第4 属否の検討
1.本件特許発明の構成要件A及びDについて
イ号物件の構成a及びdは,本件特許発明の構成要件A及びDをそれぞれ充足していることは明らかである。

2.本件特許発明の構成要件Bについて
本件特許発明の構成要件Bは,「上部躯体の最下階の梁」が「プレキャストコンクリートの梁」であること,及び,「連結部」が「現場打ち鉄筋コンクリートの連結部」であることを含んでおり,さらに,「免震装置の上面で,プレキャストコンクリートの梁の端部と現場打ち鉄筋コンクリートの連結部とが一体接合」されることを含んでいる。
そして,本件特許明細書の段落【0006】には,
「・・・また柱および梁がプレキャストコンクリートであるため、現場におけるコンクリート打設工事をすることなく柱に梁を取り付けることが可能になり、上部躯体の構築作業を効率良く行うことができるとともに、工場生産による品質の高い部材とすることができる。・・・」と,梁がプレキャストコンクリートであることの効果が記載されている。

これに対して,イ号物件の構成bにおいては,「上部躯体の最下階の梁」は,現場打ち鉄筋コンクリートの梁であるから,本件特許発明の構成要件Bの「上部躯体の最下階のプレキャストコンクリートの梁」とは相違している。
さらに,イ号物件の構成bにおいて,梁の端部と連結部とが一体接合される位置は,「免震装置の上面から側外方にはみ出した位置」であり,梁の端部と連結部とが一体接合される位置についても,本件特許発明の構成要件Bとイ号物件の構成bとの間には相違がある。

したがって,イ号物件の構成bは,本件特許発明の構成要件Bを充足しない。

3.本件特許発明の構成要件Cについて
本件特許発明の構成要件Cは,「プレキャストコンクリートの梁」を備えることが前提となっているが,イ号物件の「上部躯体の最下階の梁」が現場打ち鉄筋コンクリートの梁であって「プレキャストコンクリートの梁」と相違していることは上記「2.本件特許発明の構成要件Bについて 」に記載のとおりである。

したがって,イ号物件の構成cは,「上部躯体の最下階の梁」が「プレキャストコンクリートの梁」であることが前提である本件特許発明の構成要件Cを充足しない。


4.請求人の主張(均等論の適用)について
請求人は,梁を現場打ちコンクリートにしたことによる特別な効果がない限り,連結部と梁のいずれか一方をプレキャストにし,他方を現場打ちコンクリートにするということは,単なる選択的事項(どちらを選んでも均等技術)であって,実質的な相違点とはならない旨主張している(判定請求書6頁3?6行)。

そこで,イ号物件が均等なものとして,本件特許発明の技術的範囲に属するか否かについて検討する。

本件における均等論の適用については,
ア)本件特許発明の構成要件B,Cとイ号物件の構成の異なる部分が,発明の本質的な部分ではないこと。
イ)本件特許発明の構成要件B,Cとイ号物件の構成の異なる部分を置き換えても,本件特許発明の目的を達成でき,同一の作用効果を奏すること。
ウ)本件特許発明の構成要件B,Cとイ号物件の構成の異なる部分を置き換えることが,当業者にとって容易であること。
エ)イ号物件が,本件特許の出願時における公知技術と同一又は公知技術から容易に推考できたものでないこと。
オ)イ号物件が,本件特許発明の出願手続において,特許請求の範囲から意識的に除外されたものではない等特段の事情がないこと。
の5つの要件を満たすことが必要となる(最高裁 平成6年(オ)第1083号)が,まず,上記要件ア)を満たすか否か検討する。

本件特許発明は,上部躯体と免震装置とが現場打ち鉄筋コンクリートの梁で接合されている従来の免震建物構造では,現場作業が多くて工期が長く,梁のスパンを長くできずにひび割れも発生しやすいことを課題とし,また,前記課題を解決するためにプレキャストコンクリート製の連結ブロックに免震装置とプレキャストプレストレスコンクリート梁とを接合する免震建物構造は従来よりあるものの,該免震建物構造では,連結ブロックと梁との連結に多くのPC鋼線を必要とし,プレストレス導入力による軸変形量が大きくなり,免震装置が免震機能を失ってしまうことを課題としたものであって,梁はプレキャストコンクリートであることを前提として,プレキャストコンクリートの梁の端部から突出した鉄筋を現場打ちコンクリートの連結部内で定着することによって連結部と梁とを一体接合したものである。
そして,本件特許明細書の段落【0019】には,本件特許発明の実施の形態として,プレキャストコンクリートの梁の端部を免震装置上面に載置し,ボルトにより固定する施工法がその作用とともに記載されているし,上述したように,段落【0006】には,梁がプレキャストコンクリートであることによる本件特許発明の効果も記載されている。
そうすると,本件特許発明の構成要件B,Cにおける,梁をプレキャストコンクリートの梁とする構成は,発明の本質的部分である。

したがって,均等論を適用するための上記要件ア)を満たすものではないから,上記他の要件イ)?オ)について検討するまでもなく,イ号物件は均等なものとして,本件特許発明の技術的範囲に属するということはできない。

5.まとめ
以上より,イ号物件は,本件特許発明の構成要件B及びCを充足していない。


第5 むすび
以上のとおりであるから,イ号図面並びにその説明書に示す「イ号物件」は,本件特許の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。
 
別掲
イ号図面 図3

 
判定日 2011-11-09 
出願番号 特願2007-133875(P2007-133875)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新井 夕起子  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 土屋 真理子
宮崎 恭
登録日 2010-03-12 
登録番号 特許第4472726号(P4472726)
発明の名称 免震建物構造  
代理人 三上 結  
代理人 特許業務法人東京アルパ特許事務所  
代理人 山田 正紀  
代理人 小杉 佳男  
代理人 渡邉 昭彦  

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