• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F24F
審判 全部無効 2項進歩性  F24F
管理番号 1246644
審判番号 無効2009-800158  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-07-17 
確定日 2011-10-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3962032号発明「蓄熱式暖房装置の通電制御システム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3962032号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3962032号の請求項1に係る発明についての出願は、平成16年4月19日に特許出願され、平成19年5月25日にその発明についての特許権の設定登録がなされたものである。

以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
1.平成21年 7月21日 本件無効審判の請求(差出日)
2.平成21年10月 9日 答弁書
3.平成21年10月 9日 訂正請求
4.平成21年11月24日 弁駁書
5.平成22年 2月 5日 口頭審理陳述要領書(請求人、被請求人)
6.平成22年 2月16日 口頭審理期日変更通知
7.平成22年 2月23日 書面審理通知
8.平成22年 3月10日 無効理由通知、職権審理結果通知
9.平成22年 4月12日 意見書
10.平成22年 4月12日 訂正請求
なお、10.の訂正請求により、3.の訂正請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされる。

第2 請求人主張の概要
請求人は、審判請求書において、「特許第3962032号の特許における請求項1を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、審判請求書、弁駁書、口頭審理陳述要領書をも総合すると、請求人が主張する無効理由、及び訂正請求について主張は、概略、次のとおりのものである。
1.無効理由1(36条6項2号又は36条4項1号違反)
請求項1の「Tn」、「Td(t)」、「Ts(t)」が不明確であり、発明が不明確である。(36条6項2号違反)また、夜間電力開始時刻ジャストにTnを求めることは技術的に不可能であり、実現不可能な構成である。(36条4項1号違反)

2.無効理由2(17条の2第3項違反)
「予測通電時刻Td(t)」及び「予測通電開始時刻Ts(t)」との記載は平成19年3月23日付け手続補正書によって追加された構成であるが、出願当初の明細書、図面等に記載された事項、又は記載されたに等しい事項とはいえない。

3.無効理由3(29条2項)
(1)本件特許発明は、甲第1号証に記載された事項と、甲第2号証等の周知・慣用技術を単に寄せ集めた発明であり、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件特許発明は、甲第3,4,5号証等の通電時刻設定及びその補正に際して、甲第1号証の式を用い、第1の予測通電時刻の設定には甲第2号証の放熱曲線を適用し、その他の差異は単なる設計事項として出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
[証拠方法]
(1)甲第1号証 : 社団法人電力電子学会(THE KOREAN INSTITUTE OF POWER ELECTRONICS)発行、韓国電力電子学術大会論文集;p921-924「Automatic Power Supply Time Controller for ThermalStorage-type Heating Appliances」(蓄熱式暖房機器の深夜電力供給時間自動制御装置開発(日本語訳))2003年7月14日論文集発行、2003年7月14日Web公開
(2)甲第2号証 : 特開2002-13823号公報
(3)甲第3号証 : 「通電制御型夜間蓄熱式電気床暖房認定要領」電気事業連合会業務部 平成10年10月発行
(4)甲第4号証 : 特開2001-90969号公報
(5)甲第5号証 : 特開平10-54573号公報
(6)甲第6号証 : 特開2001-147023号公報
(7)甲第7号証 : 特開2000-274712号公報
(8)甲第8号証 : 特開平11-141993号公報
(9)甲第9号証 : 特開平10-61958号公報
(10)甲第10号証 : 特開2001-174061号公報

4.訂正請求について
「所定時間」又は「一定時間」を「単位時間」とする訂正は請求の範囲を拡張又は変更するものである。「所定時間」又は「一定時間」を「単位時間」とすることは新規事項の追加である。

第3 当審が通知した無効理由の概要
1.無効理由1
本件発明に係る出願は、下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(1)請求項1において、「予測通電開始時刻Ts(t)」と「Ts(t)=0又はTs(t)がはじめて0以下」は整合せず、発明が明確でない。また、ここで、「予測通電開始時刻」との用語を用いているが、本件発明において、演算時に通電を開始できるか否かを決定して通電開始を行うものであるからことから、「通電開始時刻」を意味するものと認められ、発明が明確でない。
(2)「蓄熱体の単位時間あたりの平均下降温度」及び「蓄熱体の単位時間あたりの平均上昇温度」の「単位時間」と「Tnに所定の単位時間で数値を代入」及び「tに所定の単位時間で数値を代入」の「単位時間」は、本件発明において別の事項を表すものと認められ、発明が明確でない。
(3)「所定時間経過毎に補正計算を行って通電時刻を修正」とあるが、ここで求めているのは「通電開始時刻」と認められ、また、本件発明は演算時に通電を開始できるか否かを決定して通電開始を行うものであるからことから、「算出」しているものと認められ、発明が明確でない。

2.無効理由2
本件特許は、甲5発明及び甲第2号証、甲第1号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明についてなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

第4 被請求人主張の概要
被請求人は、答弁書において「本件請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、答弁書、意見書を総合すると、概略次のとおり主張する。

1.請求人の主張する無効理由1,2について
請求項1の訂正を行っており、指摘された無効理由1及び2は解消されている。

2.請求人の主張する無効理由3について
本件特許発明と甲第1号証は、本件特許発明が所定時刻までに使用者が設定した蓄熱体の目標温度に到達するように通電開始時刻を算出して制御するのに対し、甲第1号証では前日の蓄熱体の最高温度を目標温度としている点で相違する。また、本件特許発明の夜間電力開始時刻において通電開始時刻における蓄熱体の予測温度に基づいて第1の予測通電開始時刻を算出するのに対し、甲第1号証は、予測通電開始時刻を求めることなく、通電開始残熱量に基づいて通電開始時刻を算出している点で相違している。しかも、甲第1号証には、予測通電時刻を求めることについての記載もなければそのような示唆もない。
よって、本件特許発明は特許法第29条第2項に規定に違反するものではない。

3.当審が通知した無効理由1について
訂正により、無効理由通知の無効理由1で指摘された請求項1の記載不備は解消された。

4.当審が通知した無効理由2について
相違点1については、甲第2発明による蓄熱開始時刻の算出方法は、複数の蓄熱パターンと複数の放熱パターンのうち、ある周囲温度のときの蓄熱パターン及び放熱パターンにあてはめて蓄熱曲線及び放熱曲線の傾きを求めた上で蓄熱開始時刻を算出するものです。そして、この蓄熱パターン及び放熱パターンは、実験により得られたデータです。
これに対し、本件特許発明の平均下降温度は、当日の所定時刻から夜間電力開始時刻までの蓄熱体の温度データもしくは過去の温度データから求めたものであり、平均上昇温度は、前日の通電時間における蓄熱体の温度データもしくは過去の温度データから求めたものです。このように、当日や前日のデータを使用することにより、その日の気温や気候に応じて、より精度の高い予測通電開始時刻を算出することができます。
「計算機で算出するために計算式を本件発明のように変形することは、たとえば、甲1号証(923頁の式)に記載されている」とされていますが、923頁の式のTmaxは前日の蓄熱体の最高温度であるのに対し、本件特許発明のTmaxは任意に設定する蓄熱体の目標設定温度であります。すなわち、甲第2号証、甲第1号証のいずれについても、任意に設定する蓄熱体の目標設定温度に基づいて通電開始時刻を算出するということは記載されておりません。
尚、たとえ甲第2号証、甲第1号証の算出方法と本件発明の算出方法が異なるものではないとしても、本件発明は、夜間電力の時間内に、無駄のない熱効率を図るために高い精度で通電開始時刻を求めることができるという効果を奏するものであります。
相違点2については、甲第2号証に記載されたものは、一度蓄熱を停止した後に再度蓄熱を開始する際の蓄熱開始時刻を算出しているものであるが、本件発明の補正計算は、一度の通電により夜間電力の終了時刻に蓄熱体の温度が設定温度に達するように通電開始時刻を算出しているのであり、その算出の思想は、甲第2号証及び甲第5号証のいずれとも違うものと考えます。
尚、本件発明による補正計算は、夜間電力開始時刻前に算出した予測通電開始時刻が正確かどうかを確認するという意味もあり、本件発明は、夜間電力の通電開始時刻を高い精度をもって算出できるという効果を有するものであります。
したがって、本件発明は、特許法第29条第2項に規定する進歩性の要件も満たす発明であると考えます。

第5 訂正請求について
1.訂正事項
1)請求項1第4行目(特許公報第1頁第6行目)及び同第5行目(特許公報第1頁第7行目)に記載した「一定時間あたり」を「単位時間あたり」に訂正する。
2)請求項第9?10行目(特許公報第1頁第11?12行目)及び同第10行目(特許公報第1頁第12行目)に記載した「一定時間あたり」を「単位時間あたり」に訂正する。
3)請求項1第5?6行目(特許公報第1頁第7?8行目)に記載した「平均下降温度をKdとし、夜間電力開始時刻の蓄熱体の温度をT_(23)とした場合に」を「平均下降温度をKd、夜間電力開始時刻から予測通電開始時刻までの時間をTnとし、夜間電力開始時刻の蓄熱体の温度をT_(23)とした場合に」に訂正する。
4)請求項1第6?7行目(特許公報第1頁第8?9行目)に記載した「次の式Tsc=T_(23)-(Tn×Kd)から算出し」を「Tsc=T_(23)-(Tn×Kd)とし」に訂正する。
5)請求項1第7行目(特許公報第1頁第9行目)に記載した「予測通電時刻Td(t)」を「予測通電開始時刻」に訂正する。
6)請求項1第11?12行目(特許公報第1頁第13?14行目)に記載した「次の式Td(t)=S-Tn-(Tmax-Tsc)/Kpにおいて」を「Td(t)=S-Tn-(Tmax-Tsc)/Kpとし」に訂正する。
7)請求項1第12行目(特許公報第1頁第14行目)に記載した「Tnに所定単位で数値を代入して」を「Tnに所定時間の単位で数値を代入していき」に訂正する。
8)請求項1第13行目(特許公報第1頁第15行目)に記載した「予測通電時刻」を「予測通電開始時刻」に訂正する。
9)請求項1第14行目(特許公報第1頁第16行目)に記載した「予測通電開始時刻Ts(t)」を「通電開始時刻」と訂正する。
10)請求項1第16?17行目(特許公報第1頁第18?19行目)に記載した「tに所定単位で数値を代入していき」を「tに所定時間の単位で数値を代入していき」に訂正する。
11)請求項1第17行目(特許公報第1頁19行目)に記載した「Ts(t)=0又はTd(t)」を「Ts(t)=0又はTs(t)」に訂正する。
12)請求項1第21行目(特許公報第2頁3行目)に記載した「通電時刻を修正し」を「通電開始時刻を算出し」に訂正する。
13)明細書【0011】第5?6行目(特許公報第3頁第15?16行目)に記載した「Tnに所定単位で数値を代入していき」を「Tnに所定時間の単位で数値を代入していき」に訂正する。
14)明細書【0012】第3?4行目(特許公報第3頁第21?22行目)に記載した「tに所定単位で数値を代入していき」を「tに所定時間の単位で数値を代入していき」に訂正する。

2.訂正の適否についての判断
訂正事項1)?4),6),7),10)は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項5),8),9),11),12)は誤記の訂正を目的とするものであり、訂正事項13),14)は、特許請求の範囲の訂正に伴い明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。

そして、上記訂正事項はいずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもない。

したがって、上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第2号又は第3号に該当し、同条第5項において準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。

なお、請求人は弁駁書及び口頭審理陳述要領書において、「単位時間」の意味は「1秒」、「1分」、「1時間」というような単位としてとらえるべきものであるから新規事項にあたり、「一定時間」を「単位時間」と訂正すること(訂正事項1),2))は、訂正の要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、請求項の「所定時間毎」との記載及び明細書の「1分毎のデータをもとに演算をおこなってきたが、必ずしもこれに限定されるわけではない」(段落【0030】)との記載からみて、本件特許明細書において、単位を表すために「単位時間」との用語を用いているのではないことは明らかであり、請求人の主張は採用できない。

第6 本件特許発明
訂正請求については、上記第5で述べたとおり認められるので、本件特許発明は訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。(以下、「本件発明」という。)

「夜間電力を使用して蓄熱体に埋設された発熱体に通電することで夜間に蓄熱を行い、昼間にその熱を放熱することで暖房を行う蓄熱式床暖房装置及び床下暖房装置において、
夜間電力開始時に算出する予測通電開始時刻における蓄熱体の予測温度Tscを、当日の所定時刻から夜間電力開始時刻までの蓄熱体の単位時間あたりの平均下降温度もしくは過去の温度データから算出した蓄熱体の単位時間あたりの平均下降温度をKd、夜間電力開始時刻から予測通電開始時刻までの時間をTnとし、夜間電力開始時刻の蓄熱体の温度をT_(23)とした場合に、Tsc=T_(23)-(Tn×Kd)とし、次に、夜間電力開始時刻における予測通電開始時刻を、夜間電力開始時刻から予測通電開始時刻までの時間Tn、夜間電力開始時刻から蓄熱体が目標設定温度Tmaxに到達する目標時刻までの時間S、前日の通電時間における蓄熱体の単位時間あたりの平均上昇温度もしくは過去の温度データから算出した蓄熱体の単位時間あたりの平均上昇温度をKpとした場合に、Td(t)=S-Tn-(Tmax-Tsc)/Kpとし、Tnに所定時間の単位で数値を代入していき、Td(t)=0又はTd(t)がはじめて0以下になった時のTn値から夜間電力開始時刻における予測通電開始時刻を算出するとともに、
夜間電力開始後所定時間毎に補正によって算出される通電開始時刻を、夜間電力開始時刻から補正演算時刻までの経過時間をt、演算時の蓄熱体の温度をTcurとした場合、次の式Ts(t)=S-t-(Tmax-Tcur)/Kpにおいて、tに所定時間の単位で数値を代入していき、Ts(t)=0又はTs(t)がはじめて0以下になった時のt値から算出することで、
夜間電力開始時刻に、前日もしくは過去の蓄熱体の温度データと演算時の蓄熱体の温度から、蓄熱体が目標時刻に目標設定温度に到達して通電が終了するように発熱体への通電開始時刻を予測し、
その後所定時間経過毎に補正計算を行って通電開始時刻を算出し、その結果に従い発熱体への通電を制御することを特徴とする
蓄熱式暖房装置の通電制御システム。」

第7 当審の判断
1.請求人の主張する無効理由1,2及び当審が通知した無効理由1について
請求項1の「Tn」、「Td(t)」、「Ts(t)」、「単位時間」、「通電開始時刻」、「通電時刻を修正」等の指摘された不明確な記載は訂正により明確なり、「予測通電時刻Td(t)」及び「予測通電開始時刻Ts(t)」は「予測通電開始時刻」及び「通電開始時刻」と訂正された。また、夜間電力開始時刻ジャストにTnを求めることは技術的に不可能であり、実現不可能な構成である旨の請求人の主張は、技術常識を無視するものであり、採用できない。
したがって、請求人の主張する無効理由1,2及び当審が通知した無効理由1は、いずれも理由がない。

2.当審が通知した無効理由2について
(1)引用例発明
ア.請求人の提出した甲第5号証(特開平10-54573号公報)には、次の事項が図面と共に記載されている。
ア)「【発明の属する技術分野】本発明は、蓄熱材を用いて室内の暖房や冷房を行う技術に関するものであり、特に、蓄熱材への蓄熱課程を制御する技術に関する。
【従来の技術】室内の暖房や冷房を行って室内温度を調節するための温度調節システムとしては、例えば、蓄熱材を用いた床暖房システムが知られている。これは、蓄熱材に蓄積された温熱で床材を加温し、床から徐々に放熱させて暖房を行うシステムである。このシステムでは、例えば、床材の下に蓄熱材と電気ヒータが配置され、電気料金の安い深夜に電気ヒータに通電して蓄熱材への蓄熱を行い、昼間に蓄熱材からの放熱によって床材を加温する。」(段落【0001】?【0002】、下線は当審で付与。以下、同様。)
イ)「(実施形態1)図1は、本発明に係る温度調節システムの第1の実施形態を示す概略図である。この温度調節システムは蓄熱式の床暖房システムであり、蓄熱材10、電気ヒータ12及び温度センサ14が床材に埋設されている。・・・
・・・各電気ヒータ12は、蓄熱材ブロック10の上面に平行に設けられた複数の溝に埋設されており、蓄熱材10とともに玉砂利コンクリート2中に敷設されている。蓄熱材ブロック10の付近には、蓄熱材10の温度を測定するための温度センサ14が蓄熱材ブロック10の上面に載置されるようにして設置されている。・・・
各電気ヒータ12には、ゲート回路24を介して電力源22が電気接続されており、この電力源22から各電気ヒータ12へ発熱用電力を供給することが可能になっている。ゲート回路24は、電力源22から各電気ヒータ12への通電を許可又は禁止して電気ヒータ12への電力の供給を制御できるようになっている。ゲート回路24の制御端子には蓄熱制御装置20が接続されており、蓄熱制御装置20は、電力源22からケーブルヒータ12への通電のON/OFFを切り替えることができる。すなわち、この蓄熱制御装置20からゲート回路24に所定の制御信号が送られるとゲートが開状態又は閉状態にされ、電気ヒータへの通電が許可又は禁止されるようになっている。蓄熱制御装置20は温度センサ14に接続されており、温度センサ14からの出力電気信号を受信し、この信号に基づいて蓄熱材10の温度を測定できるようになっている。」(段落【0025】?【0027】)
ウ)「(実施形態4)次に、図8及び図9を参照しながら、本発明の第4の実施形態について説明する。本実施形態の床暖房システムも、蓄熱制御装置20の制御動作のみが上述の実施形態と異なるものであり、各構成要素の配置等は図1に示されるものと同様である。以下では、本実施形態の蓄熱制御装置を、符号20に添字dを付して表すことにする。
図8は、蓄熱制御装置20dの制御動作に関連した時刻を示すタイムチャートであり、図9は、蓄熱制御装置20dの制御動作を示すフローチャートである。図8において、T1はFB制御用の温度測定時刻、Ti(i=2、3、4…)はFF制御用の温度測定時刻を表す。また、Ts、Te、Ton、t、t′、tpowの意味は、上述の実施形態と同じである。
本実施形態の蓄熱制御装置20dが行う制御動作は、請求項5に係る発明の一形態であり、実施形態3の制御動作を改良したものである。以下、これを詳細に説明する。
本実施形態の蓄熱制御装置20dは、まず、暖房利用時間帯中のFB制御用温度測定時刻T1に温度センサ14を介して蓄熱材10の温度を測定し(図9のステップ401)、この測定温度Q1と前日の通電時間補正値Δtfb′を用いて当日の通電時間補正値tfbを算出する(ステップ402)。この算出には、上記の(4)式が用いられる。ここまでの制御動作は、実施形態3と同様である。
次に、蓄熱制御装置20dは、FF制御用の温度測定時刻T2(これは、深夜電力開始時刻Tsに等しい。)に蓄熱材10の温度を測定し(ステップ403)、この測定温度Q2から予測通電時間tffを算出する(ステップ404)。この算出は、上記(5)式に基づいて行われる。
続いて、制御装置20dは、予測通電時間tffに通電時間補正値Δtfbを加算して最終的な通電時間tを決定し(ステップ405)、深夜電力終了時刻Teからt時間分を逆算することにより通電開始時刻Tonを算出する(ステップ406)。この後、制御装置20dは、通電開始時刻Tonと現在の時刻T2とを比較する(ステップ407)。この比較の結果、Tonが現在の時刻T2より前の時刻である場合は、できるだけ長く通電時間を確保するため、制御装置20dは直ちにヒータ12への通電を開始する(ステップ410)。一方、Tonが現在の時刻T2以降の時刻であれば、制御装置20dは、時刻Tonと時刻T2との時間差を求め、この時間差(Ton-Ti)を所定の許容値αと比較する(ステップ408)。この結果、時間差(Ton-Ti)が許容値α以下であれば、制御装置20dは、直ちにヒータ12への通電を開始する(ステップ409)。いずれの場合も、この後、蓄熱制御装置20dは、深夜電力終了時刻Teにゲートを閉じ、電気ヒータ12への通電を終了させる(ステップ411)。また、上記の時間差(Ton-Ti)が許容値αよりも大きい場合は、制御装置20dは、次のFF制御用測定時刻T3に蓄熱材10の温度を測定し、以下、上記と同様の処理を繰り返す。
実施形態3では、測定開始時刻Tonが測定時刻T2よりも非常に遅い時刻である場合には、通電開始時刻Tonまでに生じる通常と異なる天候、外気温、風速などの外乱により通電開始時刻Tonという予測が精度の悪いものとなる可能性がある。これに対し、本実施形態では、複数の測定時刻(T2、T3、…)を設定し、これらの測定時刻における蓄熱材温度から求めた通電開始時刻Tonがその測定時刻にほぼ等しくなるまで(即ち、時刻差が許容値α以内になるまで)、時系列に沿って各測定時刻に温度測定を行い、その都度、通電開始時刻を算出し直すので、より適切な通電開始時刻に通電を開始して好適な蓄熱を行うことができる。」(段落【0062】?【0068】)
エ)「本発明者は、本実施形態の床暖房システムの効果を実験を行って確認した。実験は、1996年3?5月にかけて鉄筋コンクリートの平屋建て家屋で行った。実験にあたっては、ゲインG=25min/℃(=約0.417hr/℃)、FB基準温度Qfb=27℃、FF基準温度Qff=25℃と設定した。深夜電力開始時刻Tsは22時、深夜電力終了時刻Teは6時、FB制御用温度測定時刻T1は17時であり、各FF制御用温度測定時刻Ti(i=2、3、…)は、22時以降の10分おきの各時刻に設定され、許容値αは5分と設定されている。」(段落【0070】)

上記記載事項及び図示内容を総合し、本件発明の記載ぶりに則って整理すると以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。

「深夜電力を使用して蓄熱材10に埋設された電気ヒータ12に通電して夜間に蓄熱を行い、昼間に蓄熱材からの放熱によって暖房を行う蓄熱材を用いた床暖房システムにおいて、
暖房利用時間帯中のFB制御用温度測定時刻T1に蓄熱材10の温度を測定し、この測定温度Q1と前日の通電時間補正値Δtfb′を用いて当日の通電時間補正値tfbを算出し、深夜電力開始時刻Tsに蓄熱材10の温度を測定し、この測定温度Q2から予測通電時間tffを算出し、予測通電時間tffに通電時間補正値Δtfbを加算して最終的な通電時間tを決定し、深夜電力終了時刻Teからt時間分を逆算することにより通電開始時刻Tonを算出するとともに、
複数の測定時刻(T2、T3、…)を設定し、これらの測定時刻における蓄熱材温度から求めた通電開始時刻Tonがその測定時刻にほぼ等しくなるまで、時系列に沿って各測定時刻に温度測定を行い、その都度、通電開始時刻を算出し直し、より適切な通電開始時刻に通電を開始する
床暖房システムの蓄熱制御装置。」

イ.請求人の提出した甲第2号証(特開2002-13823号公報)には、次の事項が図面と共に記載されている。
ア)「【請求項1】 蓄熱材を加熱する加熱手段と、蓄熱材の温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段が検出した温度に基づいて前記加熱手段への通電を制御する制御手段とを備えた蓄熱制御装置において、
前記制御手段は、予め設定された蓄熱時間帯の開始時刻になったとき、前記温度検出手段にて検出されたその時の蓄熱材の温度と、目標蓄熱温度と、目標蓄熱完了時刻とから蓄熱開始時刻を演算決定し、この蓄熱開始時刻から前記加熱手段を通電発熱させるようにした蓄熱制御装置。
【請求項2】 前記制御手段の記憶部には、所定の周囲温度下にて蓄熱時間と蓄熱温度との関係を示す蓄熱特性データと、同じく所定の周囲温度下にて放熱時間と蓄熱温度との関係を示す放熱特性データが予め格納されており、
前記制御手段は、予め設定された蓄熱時間帯の開始時刻になったとき、前記温度検出手段にて検出されたその時の蓄熱材の温度と前記両特性データとから、蓄熱特性曲線及び放熱特性曲線の方程式をそれぞれ求めると共に、両方程式の解を算出し、この算出された時間後を蓄熱開始時刻とするようにした請求項1に記載の蓄熱制御装置。
【請求項3】 前記蓄熱時間帯は深夜電力時間帯であり、この深夜電力時間帯において熱負荷がかかったときは、これを熱負荷検知手段にて感知して加熱手段を通電発熱させ、熱負荷が無くなった時点で、深夜電力時間帯の開始時刻からの経過時間と、現在の蓄熱材の温度とから、その時点以降の蓄熱特性曲線と放熱特性曲線との方程式をそれぞれ求め、両方程式の交点を演算することにより、蓄熱開始時刻を決定するようにした請求項1又は請求項2に記載の蓄熱制御装置。」(【特許請求の範囲】)
イ)「【発明の属する技術分野】本発明は、比熱の大きな物質に熱を蓄えておき、後でこの顕熱を利用する蓄熱制御装置に関するものである。」(段落【0001】)
ウ)「【発明の実施の形態】以下、本発明を蓄熱制御装置に具体化した一実施形態を図1?図7に従って説明する。
図1に示すように、蓄熱制御装置11は蓄熱槽12、熱交換器13、貯湯槽14及び制御部15を備えている。」(段落【0010】?【0011】)
エ)「(制御部)前記制御部15は記憶部としてのROM51、RAM52、CPU53及び時計IC54を備えている。ROM51には、制御部15が実行する各種の制御プログラム、予め実験等により得られた蓄熱特性データ及び放熱特性データ等が格納されており、必要に応じて読み出される。この蓄熱及び放熱特性データの詳細な説明は後述する。RAM52はROM51の制御プログラムを展開して制御部15が各種処理を実行するためのデータ記憶領域、即ち作業領域である。CPU53はROM51に格納された制御プログラム、蓄熱特性データ及び放熱特性データ等のデータに基づいて各種演算を行い、この演算結果に基づいて蓄熱制御装置11の全体を制御する。
・・・
(蓄熱特性データ)前記蓄熱特性データは、ヒータ24を通電発熱させてからの時間経過と蓄熱温度上昇との関係を示した昇温パターンであり、周囲温度(外気温)毎に複数の昇温パターンがROM51に格納されている。具体的には、外気温が40℃、20℃、0℃、-20℃のときの昇温パターンが格納されており、図2(a)において、それぞれ直線U1?U4にて示されている。いずれの昇温パターンにおいても、蓄熱温度はほぼ直線状に上昇する。即ち、蓄熱温度は図2(a)における直線U1?U4の傾きに沿うように上昇する特性を有する。従って、蓄熱温度を所定温度だけ上昇させるにはどの程度の時間がかかるのかを、この蓄熱特性データから割り出し可能となっている。この昇温パターンは予め実験等により得られたデータを基にして作成されている。図2(b)は周囲温度20℃のときの実験データである。
(放熱特性データ)前記放熱特性データは、ヒータ24への通電を停止させてからの時間経過と蓄熱温度下降との関係を示した放熱パターンであり、周囲温度(外気温)毎に複数の放熱パターンがROM51に格納されている。具体的には、外気温が40℃、20℃、0℃、-20℃のときの放熱パターンが格納されており、図3(a)において、それぞれ直線D1?D4にて示されている。いずれの放熱パターンにおいても、蓄熱温度はほぼ直線状に下降する。即ち、蓄熱温度は図3(a)における直線D1?D4の傾きに沿うように下降する特性を有する。従って、蓄熱温度が所定時間後には何度になっているのかを、この放熱特性データから割り出し可能となっている。この放熱パターンは予め実験等により得られたデータを基にして作成されている。図3(b)は周囲温度20℃のときの実験データである。」(段落【0014】?【0018】)
オ)「次に、制御部15はROM51に記憶された蓄熱及び放熱特性データから周囲温度20℃での蓄熱曲線及び放熱曲線を求める(S3)。即ち、制御部15は下記の(式1)及び(式2)のように表される蓄熱曲線及び放熱曲線におけるa,b, c,dの値を求める。
蓄熱曲線 y=ax+b・・・(式1) 放熱曲線 y=cx+d・・・(式2) 但し、a, cは蓄熱及び放熱曲線の傾きであり一定である。b, dは深夜電力時間帯開始時の蓄熱温度(℃)、xは時間(h)、yは蓄熱温度(℃)である。」(段落【0025】?【0026】)
カ)「(2)ROM51には予め蓄熱及び放熱特性データを記憶させておいた。そして、深夜電力時間帯の開始時刻になったとき、温度検出センサ25にて検出された蓄熱温度と蓄熱及び放熱特性データとから蓄熱特性曲線及び放熱特性曲線の方程式をそれぞれ求めると共に、両方程式の解を算出し、この算出された時間後を蓄熱開始時刻とするようにした。このため、深夜電力時間帯の開始時刻になったとき、ヒータ24のON時刻が設定される。従って、蓄熱温度を常時監視する必要がない。
(3)深夜電力時間帯において放熱運転されたときは、運転停止された時点での深夜電力時間帯の開始時刻からの経過時間と、現在の蓄熱材の温度とから、その時点以降の蓄熱特性曲線と放熱特性曲線との方程式をそれぞれ求め、両方程式の交点を演算することにより、蓄熱開始時刻を決定するようにした。このため、深夜電力時間帯に放熱運転された場合においても、最適なヒータON時刻を求めることができる。」(段落【0039】?【0040】)

上記記載事項及び図示内容を総合すると以下の事項(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されている。

「蓄熱制御装置において、
蓄熱時間帯の開始時刻に、その時の蓄熱材の温度と、蓄熱時間と蓄熱温度との関係を示す蓄熱特性データと、放熱時間と蓄熱温度との関係を示す放熱特性データとから、蓄熱特性曲線及び放熱特性曲線の方程式をそれぞれ求めると共に、両方程式の解を算出し、この算出された時間後を蓄熱開始時刻とすること。
蓄熱曲線 y=a×x+b・・・(式1)
放熱曲線 y=c×x+d・・・(式2)
但し、a, cは蓄熱及び放熱曲線の傾きであり一定である。b, dは深夜電力時間帯開始時の蓄熱温度(℃)、xは時間(h)、yは蓄熱温度(℃)」

ウ.請求人の提出した甲第1号証(日本語訳:電力電子学術大会 論文集 2003.7.14?7.17「蓄熱式暖房機器の深夜電力供給時間自動制御装置開発」、921?924ページ)には、次の事項が記載されている。
ア)「深夜電力供給時間自動制御装置の基本アルゴリズムは、蓄熱式ボイラ及び温風器の蓄熱量(蓄熱平均温度)が現在の熱量から深夜電力機器の既存の温度調節器によって調節される目標熱量(温度)まで平均熱量(温度)の上昇率と目標値への到達時間を予測して深夜電力の終了時間に目標熱量(温度)に到達するように深夜電力機器の動作を制御するのである。自動制御装置の計算アルゴリズムは、次のダイアグラムに示されている通りである。最終蓄熱完了時間は供給(終了)時間である午前8時から余裕率として1時間30分を置いて午前06時30分に設定した。
自動制御装置は前日の蓄熱開始時間と温度を格納し、蓄熱が初めて終了される時間と温度を測定して格納する。蓄熱する間に温度が最高値に上がって既存の温度調節装置によって電気ヒーターへの電力供給が初めて遮断される瞬間、その時刻と温度を測定してこれをTmaxと名付けて保存する。そして蓄熱が始まる時間と温度をtmin、Tminと、蓄熱が終了する時間と温度をtmax、Tmaxとしたとき、蓄熱槽の温度上昇のための傾きKpは次の式のように表現できる。
Kp=(Tmax-Tmin)/(tmax-tmin)
ここで計算したKpとTmaxは、翌日の蓄熱時間の予測するために保存される。翌日に深夜電力が投入される瞬間から(深夜電力の時間帯に入ってから)自動装置は現在の時間と温度を1分単位で測定しながら、同時に次の日の蓄熱のために(次の日の暖房に必要な熱を蓄熱するために)は何時に蓄熱を始めるかを計算する。その計算方法は次の通りである。既存の深夜電力供給終了時間である午前8時から1時間30分の余裕率を考えて、次の日の蓄熱終了時間を(午前)6時30分で設定して、その時の蓄熱槽の温度が前の日の最高値であるTmaxに到達するようにする。そして、ここまで到達する傾きKpを持つ直線を決定することができるし、現在の時刻tと温度Tcurがこの直線の上にあるかを計算する。実際にCPUで計算する方法はちょっと違う方式で、深夜電力が投入された時間から(深夜電力の時間帯に入ってから)現在の時点までの時間をt△(t)、現在の時刻から翌日の蓄熱予想直線の上の同じ温度(Tcur)である点までの時間をtd(t)として次の式を利用して計算する。 t△(t)=510-td(t)-(Tmax-Tcur)/Kp このようになる理由は、t△(t)、td(t)そして(Tmax-Tcur)/Kpを全て足すと現在の時点とは関係なく深夜開始時刻から翌日の蓄熱終了時刻までの経過時間が510分になるからだ。このようにして翌日の蓄熱を始まるために制御スイッチをONさせてから自動制御装置は深夜電力供給のためにタイムスイッチがONになった時刻から経過時間を測定して現在の時刻をまた補正する。その理由は自動制御装置の内部時間発生器と深夜電力用タイムスイッチと時刻を同調させるためである。この全体のプロセスを簡単に整理すると次の通りである。
1)毎1分間隔で前の日の蓄熱曲線を測定。
2)傾き(Kp)及び最高温度(Tmax)を更新。
3)次の日の蓄熱プロセスを確定。
4)現在の温度(Tcur)と時間(t)でtd(t)を反復計算。
5)td(t)=0になると深夜電力供給開始。」(922?923ページ)

(2)対比
本件発明と甲5発明を対比すると、その用語の意味・機能・構成からみて、後者の「深夜電力」、「蓄熱材10」、「電気ヒータ12」は、前者の「夜間電力」、「蓄熱体」、「発熱体」に、それぞれ相当するから、後者の「深夜電力を使用して蓄熱材10に埋設された電気ヒータ12に通電して夜間に蓄熱を行」うことは、前者の「夜間電力を使用して蓄熱体に埋設された発熱体に通電することで夜間に蓄熱を行」うことに相当し、後者の「昼間に蓄熱材からの放熱によって暖房を行う」ことは、前者の「昼間にその熱を放熱することで暖房を行う」ことに相当する。また、後者の「蓄熱材を用いた床暖房システム」、「床暖房システムの蓄熱制御装置」は、前者の「蓄熱式床暖房装置及び床下暖房装置」、「蓄熱式暖房装置の通電制御システム」に、それぞれ相当する。
そして、後者の「深夜電力開始時刻Ts」、「複数の測定時刻(T2、T3、…)」は、前者の「夜間電力開始時」、「夜間電力開始後所定時間毎」に相当し、後者の「深夜電力開始時刻Ts」に算出する「通電開始時刻Ton」は、前者の「予測通電開始時刻」に、後者の「測定時刻における蓄熱材温度から求めた通電開始時刻Ton」は、前者の「夜間電力開始後所定時間毎に補正によって算出される通電開始時刻」に相当するから、後者の「暖房利用時間帯中のFB制御用温度測定時刻T1に蓄熱材10の温度を測定し、この測定温度Q1と前日の通電時間補正値Δtfb′を用いて当日の通電時間補正値tfbを算出し、深夜電力開始時刻Tsに蓄熱材10の温度を測定し、この測定温度Q2から予測通電時間tffを算出し、予測通電時間tffに通電時間補正値Δtfbを加算して最終的な通電時間tを決定し、深夜電力終了時刻Teからt時間分を逆算することにより通電開始時刻Tonを算出する」ことは、前者の「夜間電力開始時に算出する予測通電開始時刻における蓄熱体の予測温度Tscを、当日の所定時刻から夜間電力開始時刻までの蓄熱体の単位時間あたりの平均下降温度もしくは過去の温度データから算出した蓄熱体の単位時間あたりの平均下降温度をKd、夜間電力開始時刻から予測通電開始時刻までの時間をTnとし、夜間電力開始時刻の蓄熱体の温度をT_(23)とした場合に、Tsc=T_(23)-(Tn×Kd)とし、次に、夜間電力開始時刻における予測通電開始時刻を、夜間電力開始時刻から予測通電開始時刻までの時間Tn、夜間電力開始時刻から蓄熱体が目標設定温度Tmaxに到達する目標時刻までの時間S、前日の通電時間における蓄熱体の単位時間あたりの平均上昇温度もしくは過去の温度データから算出した蓄熱体の単位時間あたりの平均上昇温度をKpとした場合に、Td(t)=S-Tn-(Tmax-Tsc)/Kpとし、Tnに所定時間の単位で数値を代入していき、Td(t)=0又はTd(t)がはじめて0以下になった時のTn値から夜間電力開始時刻における予測通電開始時刻を算出する」ことと、「夜間電力開始時刻における予測通電開始時刻を算出する」ことで共通し、同様に、後者の「複数の測定時刻(T2、T3、…)を設定し、これらの測定時刻における蓄熱材温度から求めた通電開始時刻Tonがその測定時刻にほぼ等しくなるまで、時系列に沿って各測定時刻に温度測定を行い、その都度、通電開始時刻を算出し直」すことは、前者の「夜間電力開始後所定時間毎に補正によって算出される通電開始時刻Ts(t)を、夜間電力開始時刻から補正演算時刻までの経過時間をt、演算時の蓄熱体の温度をTcurとした場合、次の式Ts(t)=S-t-(Tmax-Tcur)/Kpにおいて、tに所定時間の単位で数値を代入していき、Ts(t)=0又はTs(t)がはじめて0以下になった時のt値から算出する」ことと、「夜間電力開始後所定時間毎に補正によって算出される通電開始時刻を算出する」ことで共通する。
さらに、後者の「暖房利用時間帯中のFB制御用温度測定時刻T1」の「温度」は、前者の「過去の蓄熱体の温度データ」に相当し、同様に後者の「最終的な通電時間tを決定し、深夜電力終了時刻Teからt時間分を逆算すること」は、前者の「蓄熱体が目標時刻に目標設定温度に到達して通電が終了するように発熱体への通電開始時刻を予測」することに相当するから、後者の「暖房利用時間帯中のFB制御用温度測定時刻T1に蓄熱材10の温度を測定し、この測定温度Q1と前日の通電時間補正値Δtfb′を用いて当日の通電時間補正値tfbを算出し、深夜電力開始時刻Tsに蓄熱材10の温度を測定し、この測定温度Q2から予測通電時間tffを算出し、予測通電時間tffに通電時間補正値Δtfbを加算して最終的な通電時間tを決定し、深夜電力終了時刻Teからt時間分を逆算することにより通電開始時刻Tonを算出する」ことは、前者の「夜間電力開始時刻に、前日もしくは過去の蓄熱体の温度データと演算時の蓄熱体の温度から、蓄熱体が目標時刻に目標設定温度に到達して通電が終了するように発熱体への通電開始時刻を予測」することに相当する。
また、後者の「測定時刻における蓄熱材温度から求めた通電開始時刻Tonがその測定時刻にほぼ等しくなるまで、時系列に沿って各測定時刻に温度測定を行い、その都度、通電開始時刻を算出し直し、より適切な通電開始時刻に通電を開始する」ことは、前者の「補正計算を行って通電開始時刻を算出し、その結果に従い発熱体への通電を制御する」ことに相当する。

そうすると、本件発明と甲5発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「夜間電力を使用して蓄熱体に埋設された発熱体に通電することで夜間に蓄熱を行い、昼間にその熱を放熱することで暖房を行う蓄熱式床暖房装置及び床下暖房装置において、
夜間電力開始時刻における予測通電開始時刻を算出するとともに、
夜間電力開始後所定時間毎に補正によって算出される通電開始時刻を算出することで、
夜間電力開始時刻に、前日もしくは過去の蓄熱体の温度データと演算時の蓄熱体の温度から、蓄熱体が目標時刻に目標設定温度に到達して通電が終了するように発熱体への通電開始時刻を予測し、
その後所定時間経過毎に補正計算を行って通電開始時刻を修正し、その結果に従い発熱体への通電を制御する
蓄熱式暖房装置の通電制御システム。」

<相違点1>
夜間電力開始時刻における予測通電開始時刻の算出について、本件発明では「夜間電力開始時に算出する予測通電開始時刻における蓄熱体の予測温度Tscを、当日の所定時刻から夜間電力開始時刻までの蓄熱体の単位時間あたりの平均下降温度もしくは過去の温度データから算出した蓄熱体の単位時間あたりの平均下降温度をKd、夜間電力開始時刻から予測通電開始時刻までの時間をTnとし、夜間電力開始時刻の蓄熱体の温度をT_(23)とした場合に、Tsc=T_(23)-(Tn×Kd)とし、次に、夜間電力開始時刻における予測通電開始時刻を、夜間電力開始時刻から予測通電開始時刻までの時間Tn、夜間電力開始時刻から蓄熱体が目標設定温度Tmaxに到達する目標時刻までの時間S、前日の通電時間における蓄熱体の単位時間あたりの平均上昇温度もしくは過去の温度データから算出した蓄熱体の単位時間あたりの平均上昇温度をKpとした場合に、Td(t)=S-Tn-(Tmax-Tsc)/Kpとし、Tnに所定の単位時間で数値を代入していき、Td(t)=0又はTd(t)がはじめて0以下になった時のTn値から夜間電力開始時刻における予測通電開始時刻を算出する」ものであるのに対して、甲5発明では「暖房利用時間帯中のFB制御用温度測定時刻T1に蓄熱材10の温度を測定し、この測定温度Q1と前日の通電時間補正値Δtfb′を用いて当日の通電時間補正値tfbを算出し、深夜電力開始時刻Tsに蓄熱材10の温度を測定し、この測定温度Q2から予測通電時間tffを算出し、予測通電時間tffに通電時間補正値Δtfbを加算して最終的な通電時間tを決定し、深夜電力終了時刻Teからt時間分を逆算することにより通電開始時刻Tonを算出」するものである点。
<相違点2>
補正によって算出される通電開始時刻の算出について、本件発明では「予測通電開始時刻Ts(t)を、夜間電力開始時刻から補正演算時刻までの経過時間をt、演算時の蓄熱体の温度をTcurとした場合、次の式Ts(t)=S-t-(Tmax-Tcur)/Kpにおいて、tに所定の単位時間で数値を代入していき、Ts(t)=0又はTs(t)がはじめて0以下になった時のt値から算出する」のに対して、甲5発明では「複数の測定時刻(T2、T3、…)を設定し、これらの測定時刻における蓄熱材温度から求めた通電開始時刻Tonがその測定時刻にほぼ等しくなるまで、時系列に沿って各測定時刻に温度測定を行い、その都度、通電開始時刻を算出」するものである点。

(3)判断
<相違点1について>
本件発明と甲2記載事項を対比すると、後者の「蓄熱時間帯の開始時刻」は前者の「夜間電力開始時刻」に、同様に、後者の「その時の蓄熱材の温度」は前者の「蓄熱体の温度」「T_(23)」、に相当する。また、後者の「放熱時間と蓄熱温度との関係を示す放熱特性データ」及び「蓄熱時間と蓄熱温度との関係を示す蓄熱特性データ」は、前者の「当日の所定時刻から夜間電力開始時刻までの蓄熱体の単位時間あたりの平均下降温度もしくは過去の温度データから算出した蓄熱体の単位時間あたりの平均下降温度」「Kd」及び「前日の通電時間における蓄熱体の単位時間あたりの平均上昇温度もしくは過去の温度データから算出した蓄熱体の単位時間あたりの平均上昇温度」「Kp」と、「蓄熱体の単位時間あたりの平均下降温度」及び「蓄熱体の単位時間あたりの平均上昇温度」の限りで一致する。
ところで、甲2記載事項において、xは時間であり、yは蓄熱体の温度であるから、夜間電力開始時刻をx=0とし、通電終了時刻(目標設定温度になる時刻)をx=Sとすると、本件発明では、x=0ではy=T_(23) であり、x=Sではy=Tmaxとなる。
そうすると、甲2記載事項の(式1)y=a×x+bは、本件発明ではy=Kp×x+Tmax-Kp×Sと、同じく(式2)y=c×x+dは、本件発明ではy=-Kd×x+T_(23)と表されるものであり、
両方程式の解は、x=(T_(23)+Kp×S-Tmax)/(Kd+Kp)となるが、
このxの値は本件発明のTsc=T_(23)-(Tn×Kd)及びTs(t)=S-t-(Tmax-Tcur)/Kpにおいて、Ts(t)=0となった時のTnの値に等しいものであり、甲2記載事項の両方程式の解を算出すること、すなわちxの値を算出することは、実質的に本件発明のTd(t)=0の時のTnを求めていることに他ならない(甲参考資料2参照)。そして、本件発明の数式のようにして計算することは、計算機で行うに際し、当業者が行う変形にすぎず(甲第1号証参照。)、また、「蓄熱体の単位時間あたりの平均下降温度」及び「蓄熱体の単位時間あたりの平均上昇温度」として、過去のデータを使用する程度のことは設計事項といえるから、夜間電力開始時刻における予測通電開始時刻の算出を上記相違点1に係る本件発明の特定事項とすることは、甲2記載事項及び甲第1号証に基づいて当業者が容易になし得たことである。
なお、被請求人は、甲第2号証、甲第1号証のいずれについても、任意に設定する蓄熱体の目標設定温度に基づいて通電開始時刻を算出するということは記載されていない旨主張しているが、本件発明においても蓄熱体の目標設定温度を任意に設定する旨の特定はなされていないものであり、また、目標値を任意に設定するようなことは当業者が適宜なし得ることである。

<相違点2について>
甲第2号証に記載された、深夜電力時間帯において熱負荷がかかったときに、熱負荷が無くなった時点で行う蓄熱開始時刻を決定のための算出は、夜間電力開始後の算出であるから、本件発明の補正計算に相当するといえる。そして、甲第2号証では、熱負荷が無くなった時点で行う蓄熱開始時刻の決定は、蓄熱材の温度と蓄熱特性曲線と放熱特性曲線との方程式をそれぞれ求め、両方程式の交点を演算することにより、蓄熱開始時刻を決定することで行われるものであって、夜間電力開始時刻における予測通電開始時刻の算出と異なるところはない。
そうすると、補正によって算出される通電開始時刻の算出を上記相違点2に係る本件発明の特定事項とすることは、上記相違点1と同様に、甲第2号証及び甲第1号証に基づいて当業者が容易になし得たことである。
なお、被請求人は、本件発明の補正計算は、一度の通電により夜間電力の終了時刻に蓄熱体の温度が設定温度に達するように通電開始時刻を算出しているのであり、その算出の思想は、甲第2号証及び甲第5号証のいずれとも違う旨主張しているが、甲第5発明は、補正計算により、一度の通電により夜間電力の終了時刻に蓄熱体の温度が設定温度に達するように通電開始時刻を算出しているものである。

そして、本件発明が奏する作用効果についてみても、甲5発明及び甲第2号証、甲第1号証から、当業者が予測しうる程度のものである。

したがって、本件発明は、甲5発明及び甲第2号証、甲第1号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)まとめ
してみると、本件発明は、甲5発明及び甲第2号証、甲第1号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第8 むすび
以上のとおり、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求人の主張する無効理由3について検討するまでもなく、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
蓄熱式暖房装置の通電制御システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気料金が安価である夜間電力の時間帯に蓄熱体に埋設した発熱体に通電することで発生する熱を蓄熱し、蓄熱された熱は昼間に放熱されて暖房を行う蓄熱式暖房装置の通電制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄熱式床暖房装置もしくは蓄熱式床下暖房装置は、床もしくは床下の一部を構成する蓄熱体に埋設された発熱体に通電して発熱させることで蓄熱を行い、その熱の放熱により住宅等の暖房を行うものである。この場合、蓄熱には安価な夜間電力が使用され、深夜に蓄熱を行い、昼間にその熱を放熱して暖房を行うのが一般的である。このような暖房システムは、ランニングコストが非常に安価であり、尚且つ快適な暖房が得られるという効果を奏すものである。
【0003】
しかし、夜間電力時間帯にずっと通電をしていては蓄熱体や床面が高温になってしまい快適な暖房が得られず、また必要以上の電力を消費してしまい不経済であることから、通電を制御する必要があった。
【0004】
そこで、夜間電力開始後に通電を開始し、蓄熱体や床面が目標設定温度に到達したら通電を終了するように通電を制御しているのが一般的である。
【0005】
しかしながら、本来、たとえ夜間電力時間帯であっても電力消費が平均化されるのが望ましく、なるべくなら電力消費が少ない早朝に通電するのが好ましいとされているが、上記従来方法では、夜間電力開始後に電力消費が同時に行われるというピーク現象を生じる問題があった。
【0006】
また最近では、前記問題を解決するために、外気温、蓄熱体の温度、前日の通電時間等のデータから通電開始時間を予測し、通電を制御するシステムがいくつか提案されているが、正確に予測して通電制御するのは非常に困難であった。
【特許文献1】特開H10-61958号公報
【特許文献2】特開2000-274712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、夜間電力時間帯において、蓄熱体が所定時刻に目標設定温度に到達するように通電開始時刻をより正確に予測設定して通電を制御しようとする点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、夜間電力を使用して蓄熱体に埋設された発熱体に通電することで発熱させて蓄熱を行い、その熱を昼間に放熱することによって暖房を行う蓄熱式床暖房装置もしくは蓄熱式床下暖房装置において、まず夜間電力開始時刻に、前日もしくは過去の蓄熱体の温度データから予測通電開始時刻を求め、その結果に従い発熱体への通電を制御することで、目標時刻に蓄熱体の温度が目標設定温度に到達して通電が終了するようにしようとするものである。
【0009】
しかし、夜間電力開始時刻に予測通電開始時刻を算出し、その結果に従って通電を制御するだけでは、外気温の影響などで通電開始時刻と蓄熱体の温度の関係に多少の誤差が生じてしまうことがある。そこで、夜間電力開始時刻に予測通電開始時刻を算出した後、所定時間経過ごとに補正計算をして予測通電開始時刻を修正する。
【0010】
これらの演算には前日もしくは過去の蓄熱体の温度データを利用する。例えば放熱時における所定時間の蓄熱体の1分あたりの平均下降温度と蓄熱時における蓄熱体の1分あたりの平均上昇温度である。
【0011】
夜間電力開始時に求める予測通電開始時刻は、夜間電力開始時刻から予測通電開始時刻までの時間をTn(分)、夜間電力開始時刻から蓄熱体が目標設定温度Tmaxに到達する目標時刻までの時間をS(分)、予測通電開始時刻における蓄熱体の予測温度Tsc、前日もしくは過去の通電時間における蓄熱体の平均上昇温度をKpとした場合、次の式Td(t)=S-Tn-(Tmax-Tsc)/Kpにおいて、Tnに所定時間の単位で数値を代入していき、Td(t)=0、またはTd(t)がはじめて0以下になった時のTn値を算出することで求めることとする。
【0012】
夜間電力開始後所定時間経過毎に補正によって算出される予測通電開始時刻は、夜間電力開始時刻から補正演算時刻までの経過時間をt(分)、演算時の蓄熱体の温度をTcurとした場合、次の式Ts(t)=S-t-(Tmax-Tcur)/Kpにおいて、tに所定時間の単位で数値を代入していき、Ts(t)=0又はTd(t)がはじめて0以下になった時のt値を算出することで求めることとする。
【0013】
尚、夜間電力開始時に算出する予測通電開始時刻における蓄熱体の予測温度Tscは、当日もしくは過去における所定時刻から夜間電力開始時刻までの蓄熱体の平均下降温度をKdとし、夜間電力開始時刻の蓄熱体の温度をT_(23)とした場合、次の式Tsc=T_(23)-(Tn×Kd)から算出することとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の蓄熱式暖房装置の制御システムによれば、以下のような効果を奏することができる。
【0015】
昼中の放熱時における蓄熱体の下降温度データと、前日の通電時における蓄熱体の上昇温度データと、演算時の蓄熱体の温度データ等から蓄熱体の目標設定温度に必要な電気量の通電時間を制御することにより、蓄熱体に必要な熱量だけを蓄熱することができるので、消費電力及び電気料金を著しく低減することができる。
【0016】
通電開始時刻をなるべく電力消費の少ない早朝とし、夜間電力終了時刻の一定時間前には蓄熱体が目標設定温度に到達して通電が終了するので、夜間電力時間帯に電力消費が同時に行われるというピーク現象を解消し、電力消費を平均化することができる。
【0017】
所定時刻から夜間電力開始時刻までの前日もしくは過去の蓄熱体の下降温度データと、前日もしくは過去の通電時における蓄熱体の上昇温度データと、演算時の蓄熱体の温度データから、まず夜間電力開始時刻に予測通電時刻を算出し、その後所定時間経過毎に予測通電時刻を修正して、その結果に従い通電を制御するので、より精度の高い通電制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して説明するが、本発明は必ずしも以下の例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
図1は蓄熱式暖房装置の構成を示す図であり、図2は本発明の一実施例のフローチャート図、図3は本発明の制御システムに基づく蓄熱体の温度変化の一例を示す概略図、図4は実施例における蓄熱体、室温、発熱体、床面、蓄熱体表面、外気温それぞれの温度変化を示す図である。
【0020】
図1に示すように、本実施例の蓄熱式暖房装置は、例えばコンクリート等からなる床下の一部を構成する蓄熱体1と、複数本のシーズヒータ等をユニット化してなる所定数の発熱体ユニット3と、蓄熱体の温度を測定するセンサー4と、発熱体への通電を制御する制御部2から構成される。制御部2内にはマイクロコンピュータが内蔵され、蓄熱体の温度データを記憶するとともに、その温度データ等から目標設定温度に必要な通電時間を算出する。夜間電力を使用して発熱体へ通電することにより蓄熱体に熱が蓄熱され、その熱を昼間放熱することで暖房を行うものである。
【0021】
次に、図2?図3を参照して、本実施例における制御の過程を説明する。尚、夜間電力時間帯は一般的な午後11時から午前7時までとする。通電時間はなるべく早朝にずれ込んだほうが電力消費のピーク現象を解消するためにはよいと考えられるが、夜間電力終了時刻までに少しの余裕をもたせるために、通電終了の目標時刻を6時30分として、夜間電力時間を23時から6時30分までの450分間とする。
【0022】
まず、夜間電力開始時刻である23時に第1の予測通電開始時刻を算出する。夜間電力開始時刻から予測通電開始時刻までの時間をTn(分)、使用者が設定した蓄熱体の目標設定温度をTmax、予測通電開始時刻における蓄熱体の予測温度をTsc、前日もしくは過去の通電時間における蓄熱体の1分あたりの平均上昇温度をKpとして、23時から蓄熱体が目標設定温度Tmaxに到達する時刻6時30分までの時間450(分)であるから、次の式Td(t)=450-Tn-(Tmax-Tsc)/Kpにより、Tnに1分単位で代入していき、Td=0又はTd(t)がはじめて0以下になった時のTn値を求めることにより予測通電開始時刻を算出する。つまり、23時からTn分後の時刻が第1の予測通電開始時刻である。
【0023】
尚、予測通電開始時刻における蓄熱体の予測温度Tsc値はTsc=T_(23)-(Tn×Kd)の式により算出される。T_(23)は23時における蓄熱体の温度、Kdは20時から23時までの蓄熱体の1分あたりの平均下降温度であり、20時の蓄熱体の温度をT_(20)とすると、Kd=(T_(20)-T_(23))/180の式から算出される。
【0024】
以下に示す表1は、20時の蓄熱体の温度28℃、23時の蓄熱体の温度27℃、蓄熱体の目標設定温度35℃、前日の通電開始時の蓄熱体温度22℃、前日の通電時間を23時-4時33分までの333分とした場合、前日における蓄熱体の1分あたりの平均上昇温度Kp=0.039、当日の20時から23時までの蓄熱体の1分あたりの平均下降温度Kd=0.005であり、この場合の23時における予測通電開始時刻の演算過程を表したものである。Tnに1分単位で代入していき、Td(t)値が0又は最初に0以下になった時のTnの値を求めることで予測通電開始時刻を算出する。すなわち、表1より夜間電力開始時刻23時から、Td(t)が最初に0以下になった時のTn値が218であるから、23時から218分後、2時38分が予測通電開始時刻となる。
【0025】
【表1】

【0026】
23時以降は1分毎に次の式Ts(t)=450-t-(Tmax-Tcur)/Kpにより予測通電開始時刻を補正する。tは23時から補正演算時刻までの経過時間、Tmaxは使用者が設定した蓄熱体の目標設定温度、Tcurは補正演算時刻における蓄熱体の温度、Kpは前日もしくは過去の通電時間における蓄熱体の1分あたりの平均上昇温度であり、tに1分単位で代入していき、Ts(t)=0又はTs(t)が最初に0以下になった時のt値を求めることにより予測通電開始時刻を補正する。つまり、23時からt分後の時刻が補正された通電開始時刻である。
【0027】
前記補正された通電開始時刻と実際の時刻が一致した場合、発熱体へ通電が開始されることになる。通電開始後、蓄熱体は午前6時30分前後に目標設定温度に到達して通電が終了し、その約30分後の午前7時には夜間電力が終了する。
【0028】
通電中は蓄熱体の温度はマイクロコンピュータに記憶され、この日の通電時間における蓄熱体の温度データが翌日の通電開始時間の予測に用いられる。
【0029】
通電終了後は、蓄熱体による放熱がなされ、暖房が行われることになる。放熱中も蓄熱体の温度はマイクロコンピュータに記憶され、所定時間から夜間電力開始時刻までの蓄熱体の1分あたりの平均下降温度データ、本実施例においては20時から23時までの蓄熱体の1分あたりの平均上昇温度データが翌日以降の通電開始時刻の予測に利用される。
【0030】
以上の一実施例においては、1分毎のデータをもとに演算をおこなってきたが、必ずしもこれに限定されるわけではない。また、蓄積されたデータから任意の日数の平均値を算出し、その平均値をもとに演算することも可能である。
【0031】
図4は、蓄熱体内部、蓄熱体表面、床面、室温、外気温それぞれの温度変化を示す図である。蓄熱体は通電開始時刻にもっとも低い温度になり、通電終了後もっとも高い温度になるが、室温はほぼ一定に保たれている。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、蓄熱式床暖房装置及び蓄熱式床下暖房装置に限らず、夜間電力を使用する蓄熱型装置において、所定の時刻に通電が終了するように正確に通電時刻を制御できるので、電力消費のピーク現象を解消できるとともに、ランニングコストの低減も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例における蓄熱式暖房措置の構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施例のフローチャート図である。
【図3】本発明の制御システムに基づく蓄熱体の温度変化の一例を示す概略図である。
【図4】一実施例における蓄熱体、室温、発熱体、床面、蓄熱体表面、外気温それぞれの温度変化を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 蓄熱体
2 制御部
3 発熱体ユニット
4 センサー
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
夜間電力を使用して蓄熱体に埋設された発熱体に通電することで夜間に蓄熱を行い、昼間にその熱を放熱することで暖房を行う蓄熱式床暖房装置及び床下暖房装置において、夜間電力開始時に算出する予測通電開始時刻における蓄熱体の予測温度Tscを、当日の所定時刻から夜間電力開始時刻までの蓄熱体の単位時間あたりの平均下降温度もしくは過去の温度データから算出した蓄熱体の単位時間あたりの平均下降温度をKd、夜間電力開始時刻から予測通電開始時刻までの時間をTnとし、夜間電力開始時刻の蓄熱体の温度をT_(23)とした場合に、Tsc=T_(23)-(Tn×Kd)とし、次に、夜間電力開始時刻における予測通電開始時刻を、夜間電力開始時刻から予測通電開始時刻までの時間Tn、夜間電力開始時刻から蓄熱体が目標設定温度Tmaxに到達する目標時刻までの時間S、前日の通電時間における蓄熱体の単位時間あたりの平均上昇温度もしくは過去の温度データから算出した蓄熱体の単位時間あたりの平均上昇温度をKpとした場合に、Td(t)=S-Tn-(Tmax-Tsc)/Kpとし、Tnに所定時間の単位で数値を代入していき、Td(t)=0又はTd(t)がはじめて0以下になった時のTn値から夜間電力開始時刻における予測通電開始時刻を算出するとともに、夜間電力開始後所定時間毎に補正によって算出される通電開始時刻を、夜間電力開始時刻から補正演算時刻までの経過時間をt、演算時の蓄熱体の温度をTcurとした場合、次の式Ts(t)=S-t-(Tmax-Tcur)/Kpにおいて、tに所定時間の単位で数値を代入していき、Ts(t)=0又はTs(t)がはじめて0以下になった時のt値から算出することで、夜間電力開始時刻に、前日もしくは過去の蓄熱体の温度データと演算時の蓄熱体の温度から、蓄熱体が目標時刻に目標設定温度に到達して通電が終了するように発熱体への通電開始時刻を予測し、その後所定時間経過毎に補正計算を行って通電開始時刻を算出し、その結果に従い発熱体への通電を制御することを特徴とする蓄熱式暖房装置の通電制御システム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2010-05-24 
結審通知日 2010-05-28 
審決日 2010-06-09 
出願番号 特願2004-123077(P2004-123077)
審決分類 P 1 113・ 537- ZA (F24F)
P 1 113・ 121- ZA (F24F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長崎 洋一  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 佐野 遵
豊島 唯
登録日 2007-05-25 
登録番号 特許第3962032号(P3962032)
発明の名称 蓄熱式暖房装置の通電制御システム  
代理人 衡田 直行  
代理人 中川 邦雄  
代理人 柿崎 喜世樹  
代理人 衡田 直行  
代理人 柿崎 喜世樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ