ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
---|---|
管理番号 | 1246680 |
審判番号 | 不服2008-17135 |
総通号数 | 145 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-01-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-07-03 |
確定日 | 2011-11-11 |
事件の表示 | 平成11年特許願第358045号「検査用薬剤製造販売方法および製造販売装置並びに検査用薬剤の供給方法および供給システム」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月26日出願公開、特開2001-172204〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成11年12月16日の出願であって、拒絶理由通知に応答して平成20年4月18日付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成20年5月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年7月3日に拒絶査定不服審判が請求され、平成20年8月1日付けで手続補正がなされた。その後、当審において平成23年6月22日付けで拒絶理由が通知され、平成23年8月23日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?18に係る発明は、平成23年8月23日付けの手続補正書の請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項2に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項2】 陽電子放出型薬剤の製造方法において、 注文受け手段が、陽電子放出型薬剤に関する、使用日時,使用場所,使用量,対象核種の少なくとも4つの情報を添えた注文を受け、処理手段が、前記対象核種が^(18)F以下の半減期の短い注文された対象核種であって、該対象核種の生成時間,該対象核種の輸送時間,核種濃度の調整と該対象核種の薬剤合成時間,薬剤の輸送時間及び薬剤輸送後の薬剤の投与までに要する時間を含むプロセス時間を算出し、算出されたプロセス時間および^(18)F以下の該対象核種の半減期の短い核種についての半減期をもとに該対象核種の粒子発生装置での生成開始時刻と該対象核種の輸送時間と薬剤の合成場所での核種濃度の調整と該対象核種の薬剤の合成時間、薬剤の輸送及び薬剤の輸送後の薬剤の投与を含むプロセスについての時間スケジュールであって、該対象核種輸送後の前記薬剤の合成場所での核種濃度の調整と該対象核種の薬剤の合成時間、薬剤の輸送及び薬剤の輸送後の薬剤の投与に要する時間による半減期に依存した放射能減衰に対応して薬剤の合成場所での合成時に、核種濃度の調整された該対象核種の薬剤中への投与量を決定する時間スケジュールを作成すること を特徴とする陽電子放出型薬剤の製造方法。」 3.引用例 当審の拒絶理由に引用された、本願出願前の刊行物である田代学、窪田和雄、伊藤正敏、佐々木英忠、Ernst MOSER、ドイツにおける臨床PET事情、核医学、1999.09.20発行、第36巻7号、761-772頁(以下、「引用例1」という。)には、次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。 [引用例1] (i)「ドイツにおけるPET施設数増加の原因として、他施設からアイソトープ供給を受けるサテライト施設の運営が活発であることと、RIの輸送・売買の自由度が高いことが挙げられる。」(761頁要旨2?4行) (ii)「当大学病院核医学科(当審注:Albert-Ludwigs大学核医学科のことである。)は1995年にサテライト施設としてPET診療を開始し、同大学病院内に導入されたサイクロトロンからアイソトープ供給を受けるようになった。」(761頁右欄9?11行) (iii)「RIの輸送・売買が可能であるとした場合、次に問題となるのはRIの価格であろう。RI減衰を考慮すると、注文時には輸送時間を計算に入れて多めに注文する必要がある。」(764頁右欄9?12行) (iv)「同報告(当審注:サテライト施設であるMuenster地区のWestfaelische Wilhelms大学における一年間の観察結果に基づいたLottesらの報告のことである。)のなかでLottesらは、1995年11月から1996年10月の一年間に施行されたPET検査433症例分のデータに基づいて諸経費を算出している。^(18)F-FDGの合成はUelich のResearch Centerに依頼しており、価格は71DM/100MBqであった。合計で474GBqの^(18)F-FDGが注文され、177回の輸送が行われた。他にメンテナンス経費、PET運転経費などを含めて総経費とした場合、^(18)F-FDG購入にかかった経費は、PET検査総経費の40.57%を占めるという結果が出た。また、そのうち輸送(約150km)による減衰損失分が占める割合は59%、施設に到着してから投与されるまでの損失分が19%であった。」(764頁右欄25?37行) (v)「Euro-PET社は、大学病院にスペースのリース料を支払い、Albert-Ludwigs大学病院核医学科はEuro-PET社に毎回の検査に必要な^(18)F-FDGや^(13)N-アンモニアの料金を支払って供給を受けているわけである。」(765頁右欄7?11行) (vi)「一方、Euro-PET社はドイツ内外の多数の施設にRIを販売提供することによって経営を営んでいる。」(765頁右欄23?25行) (vii)「同社の^(18)F-FDGの供給先は、同社による^(18)F-FDG合成の再現性の良さともあいまって、ドイツ国内のみならず、スイス、オーストリアを含めた十数箇所に及んでいる。例を挙げれば、国内輸送先の代表として、Oberhausen(約400km)、Koeln(約350km)などへ自動車で輸送、またはBerlinへ向け約5時間所要(直線距離で約600km)しての空輸も行われている。」(765頁右欄39行?766頁左欄6行) (viii)「多くの遠距離地域からの注文に対応すべく、Euro-PET社におけるサイクロトロン稼働は、最低、平日の週5回はAlbert-Ludwigs大学病院核医学科およびEuro-PET社のPET検査のために毎日運転するが、午後あるいは早朝にさらに1回から2回、追加運転が行われて輸送用のFDGが合成される。週あたり合計でおよそ10ないし12回程度の運転が行われ、週あたりの^(18)F-FDG合成量は200ないし300GBqである。」(766頁左欄17?25行) 4.対比、判断 引用例1には、上記摘示(ii)、(v)及び(vii)の記載からみて、「PET診療を行うサテライト施設に供給するために、注文を受けて^(18)F-FDGや^(13)N-アンモニアを製造する方法。」の発明(以下、「引用例1発明」ともいう。)が記載されていると認められる。 そこで、本願発明と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の^(18)F-FDG及び^(13)N-アンモニアは、本願明細書【0080】段落の表2にも記載されるように、いずれもPET(陽電子放出型CT)検査に用られる標識化合物であるから、本願発明の「陽電子放出型薬剤」に相当する。また、^(13)Nは^(18)Fよりも半減期の短い核種であるから、引用例1発明の^(18)F-FDG及び^(13)N-アンモニアの原料核種である^(18)F又は^(13)Nは、本願発明の「対象核種が^(18)F以下の半減期の短い注文された対象核種」及び「^(18)F以下の該対象核種の半減期の短い核種」に相当する。 そうすると、両者は「^(18)F以下の半減期の短い核種の陽電子放出型薬剤を注文を受けて製造する方法。」で一致し、以下の点で一応相違する。 <相違点> 1.本願発明が、「注文受け手段が、陽電子放出型薬剤に関する、使用日時,使用場所,使用量,対象核種の少なくとも4つの情報を添えた注文を受け」る工程を有するのに対して、引用例1発明にはそのような注文受け手段の具体的な規定がない点 2.本願発明が、「処理手段が、該対象核種の生成時間,該対象核種の輸送時間,核種濃度の調整と該対象核種の薬剤合成時間,薬剤の輸送時間及び薬剤輸送後の薬剤の投与までに要する時間を含むプロセス時間を算出し、算出されたプロセス時間および核種についての半減期をもとに該対象核種の粒子発生装置での生成開始時刻と該対象核種の輸送時間と薬剤の合成場所での核種濃度の調整と該対象核種の薬剤の合成時間、薬剤の輸送及び薬剤の輸送後の薬剤の投与を含むプロセスについての時間スケジュールであって、該対象核種輸送後の前記薬剤の合成場所での核種濃度の調整と該対象核種の薬剤の合成時間、薬剤の輸送及び薬剤の輸送後の薬剤の投与に要する時間による半減期に依存した放射能減衰に対応して薬剤の合成場所での合成時に、核種濃度の調整された該対象核種の薬剤中への投与量を決定する時間スケジュールを作成する」工程を有するのに対して、引用例1発明にはそのような規定がない点 上記相違点について検討する。 (A)相違点1について 引用例1発明において、陽電子放出型薬剤の製造・輸送は注文を受けて行われていると認められるが(摘示(iv)参照)、その注文内容には、少なくとも、(ア)^(18)F-FDG及び^(13)N-アンモニアのいずれの薬剤を(イ)どれだけの量で製造・輸送すべきか、及び(ウ)どのサテライト施設に輸送すべきかという情報が含まれる必要があるのは当然のことである。ここで、(ア)には陽電子放出型薬剤の対象核種(^(18)F又は^(13)N)の情報が必然的に含まれる。また、(イ)及び(ウ)は、PET検査を行うサテライト施設の側から見ると、それぞれ陽電子放出型薬剤の使用量及び使用場所の情報である。 また、引用例1発明においては、サテライト施設に輸送する時間の減衰損失だけでなく、サテライト施設内で投与されるまでの時間の減衰損失も課題として認識されているといえるから(摘示(iv)参照)、(エ)陽電子放出型薬剤が投与される時刻、すなわち使用日時の情報は重要なものとして認識されていたと認められる。 したがって、引用例1発明において、陽電子放出型薬剤の製造・輸送のための注文を受ける際に、「注文受け手段によって、陽電子放出型薬剤に関する、使用日時,使用場所,使用量,対象核種の少なくとも4つの情報を添えた注文を受け」ることは、格別の創意工夫を要したものとは言えず、当業者が容易に想到し得た事項である。 (B)相違点2について 相違点2にかかる本願発明の発明特定事項を、以下のように 「処理手段が、 (a)該対象核種の生成時間, (b)該対象核種の輸送時間, (c)核種濃度の調整と該対象核種の薬剤合成時間, (d)薬剤の輸送時間及び (e)薬剤輸送後の薬剤の投与までに要する時間 を含むプロセス時間を算出し、」(以下、「プロセス時間算出工程」ともいう。) 「算出されたプロセス時間および核種についての半減期をもとに (f)該対象核種の粒子発生装置での生成開始時刻と (g)該対象核種の輸送時間と (h)薬剤の合成場所での核種濃度の調整と該対象核種の薬剤の合成時間、 (i)薬剤の輸送及び (j)薬剤の輸送後の薬剤の投与 を含むプロセスについての時間スケジュールであって、 (k)該対象核種輸送後の前記薬剤の合成場所での核種濃度の調整と該対象核種の薬剤の合成時間、 (l)薬剤の輸送及び薬剤の輸送後の薬剤の投与に要する時間による (m)半減期に依存した放射能減衰に対応して薬剤の合成場所での合成時に、核種濃度の調整された該対象核種の薬剤中への投与量を決定する 時間スケジュールを作成する」(以下、「時間スケジュール作成工程」ともいう。) と区分して検討する。 (B-1)プロセス時間算出工程について 引用文献1には、陽電子放出型薬剤の注文を受けて輸送する際には、PET検診を行うサテライト施設への輸送にかかる時間や、サテライト施設に到着してから投与されるまでにかかる時間による減衰損失があることが記載されている(摘示(iv)参照)。また、RI(ラジオアイソトープ=放射性同位体;762頁左欄4?5行参照)減衰を考慮すると、注文時には輸送時間を計算に入れて多めに注文する必要があることが記載されている(摘示(iii)参照)。 これらの記載に加えて、RI減衰は放射性核種の生成直後から始まるものであることを考慮すると、核種の生成から被検者に投与するまでの時間は、注文された陽電子放出型薬剤の減衰に直接影響する要素であり、引用例1発明においては、当然考慮されていると認められる。そして、核種の生成から被検者に投与するまでの時間と認められるプロセス時間を、上記(a)該対象核種の生成時間、(b)該対象核種の輸送時間、(c)の該対象核種の薬剤合成時間、(d)薬剤の輸送時間及び(e)薬剤輸送後の薬剤の投与までに要する時間に分けて算出することは、核種の生成から被検者に投与するまでの時間の内訳を単に具体化しただけのことであり、そのように分けて算出することに格別の創意工夫が必要であったとは認められない。 そして、(c)の「核種濃度の調整」について検討すると、該調整は、薬剤中の核種濃度を調整する意味であると解される((h)も参照)。 ところで、引用例1には、「RI減衰を考慮すると、注文時に輸送時間を計算に入れて多めに注文する必要がある。」(摘示(ii)参照)ことや、、PET検査総経費のうち「輸送(約150km)による減衰損失分が占める割合は59%、施設に到着してから投与されるまでの損失分が19%」(摘示(iv)参照)であったことが記載されているから、当業者であれば、薬剤の輸送時間(及び施設に到着してから投与されるまでの時間)が長いほど、減衰量に応じた多量の核種が必要であると理解できるものの、該多めの注文においてその多量の核種を確保するための手段が、薬剤中の核種濃度によりなされるものか、核種濃度を一定にした薬剤の容量(人体への薬剤の投与容量)によりなされるものかは明らかにされていない。いずれも可能と思われるが、後者の薬剤の容量で調整しようとしても、半減期の短い核種を用いることを考慮すると、輸送時間(及び施設に到着してから投与されるまでの時間)が長ければ減衰量も多く、人体に投与するには適切でない程の多量の薬剤容量となる場合も想定されることから、そのような場合に、薬剤中の核種濃度を調整する(高める)ことにより対処することは、当業者が容易に思い至ることというべきであり、その際の薬剤中の核種濃度の調整の時期としては当然に薬剤の合成時と認められる。 そうすると、薬剤の輸送時間(及び施設に到着してから投与されるまでの時間)に合わせて、すなわち予想される減衰量に見合うように、薬剤合成時に「核種濃度の調整」を行うことは、当業者が容易に想到し得たことである。 以上のことから、引用例1発明において、相違点2にかかる事項の「プロセス時間算出工程」を設けることは、当業者が容易に想到し得たものである。 (B-2)時間スケジュール作成工程について ・(f)?(j)について 上記(B-1)において検討したとおり、核種の生成から被検者に投与するまでの時間は、引用例1発明において当然考慮されていると認められるから、算出されたプロセス時間および核種についての半減期をもとに、上記(f)の該対象核種の生成開始時刻、(g)該対象核種の輸送時間、(h)の該対象核種の薬剤の合成時間、(i)薬剤の輸送、及び(j)薬剤の輸送後の薬剤の投与を含むプロセスについての時間スケジュールを作成する工程を設けることは、核種の生成から被検者に投与するまでの時間の内訳を単に具体的にスケジュール化しただけのことであり、そのようにスケジュール化することに格別の創意工夫が必要であったとは認められない。 ・(f)の「該対象核種の粒子発生装置」について 粒子発生装置とはサイクロトロンや加速器などの核種を発生させる装置であると解される(明細書【0054】段落)ところ、引用例1発明においてもサイクロトロンが用いられている(摘示(viii)参照)から、核種の生成が粒子発生装置で行われることは明らかである。 ・(h)の「薬剤の合成場所での核種濃度の調整」について 上記(B-1)で検討したとおり、引用例1発明において、輸送時間(及び施設に到着してから投与されるまでの時間)に応じて薬剤中の核種の濃度を調整することは、当業者が容易に想到し得た事項であり、核種濃度の調整を薬剤の合成場所で行うのは当然のことである。 ・(k)?(m)について 「(k)該対象核種輸送後の前記薬剤の合成場所での核種濃度の調整と該対象核種の薬剤の合成時間、 (l)薬剤の輸送及び薬剤の輸送後の薬剤の投与に要する時間による (m)半減期に依存した放射能減衰に対応して薬剤の合成場所での合成時に、核種濃度の調整された該対象核種の薬剤中への投与量を決定する 時間スケジュールを作成する」 について検討すると、上記(B-1)において検討したとおり、核種の生成から被検者に投与するまでの時間は、引用例1発明において当然考慮されていると認められるから、(k)及び(l)のそれぞれの時間を考慮することは、核種の生成から被検者に投与するまでの時間の内訳を単に明らかにしただけのことであり、格別の創意工夫を要するものではない。 また、(k)の「該対象核種輸送後の前記薬剤の合成場所での核種濃度の調整」については、核種の「輸送」とは、生成した核種を薬剤合成装置まで運搬することを意味し、特に距離や時間を限定する意味を含まないと解される。実際、本願の明細書【0122】?【0123】段落及び図20のA及びBに記載されるように、核種の「運搬」には同一施設内の運搬も包含されている。一方、引用例1発明においては、核種の生成から^(18)F-FDGや^(13)N-アンモニア等の薬剤の合成までEuro-PET社内で行っていると認められるが(摘示(viii))、社内において生成した核種を薬剤合成装置まで運搬する必要があることは自明である。したがって、薬剤の合成を「対象核種輸送後」とする本願発明の特定は、引用例1発明との間で実質的な相違点とならない。 さらに、(m)については、上記(B-1)で検討したとおり、引用例1発明において、輸送時間(及び施設に到着してから投与されるまでの時間)に応じて薬剤中の核種の濃度(すなわち、核種の薬剤中への投与量)を調整することは、当業者が容易に想到し得た事項であり、核種濃度の調整を薬剤の合成場所で行うのは当然のことである。 以上のことから、引用例1発明において、相違点2にかかる事項の「時間スケジュール作成工程」を設けることは、当業者が容易に想到し得たものである。 (C)請求人の主張について ところで、請求人は平成23年8月23日付けの意見書において、以下のような主張をしている。 「これに対して、本願発明にあっては、患者である被検者への投与時刻の近い薬剤の合成場所での合成時に、該対象核種輸送後の前記薬剤の合成場所での核種濃度の調整と該対象核種の薬剤の合成時間、薬剤の輸送及び薬剤の輸送後の薬剤の投与に要する時間による半減期に依存した放射能減衰に対応して核種濃度の調整された該対象核種の薬剤中の投与量が決定されることとしている。このように、本願発明によれば、患者により近い核種輸送後の合成場所での合成時間におけるで薬剤中の投与量が決定される。… …本願発明のように、上述した薬剤の合成場所での合成時における核種の濃度を調整した該対象核種の薬剤中の投与量を決定する工程を備えることによって、明細書に記載した顕著な効果が得られる。すなわち、予め定めた核種の濃度調整と合成時間と合成後患者である被検者に投与するまでの時間を考慮することで、患者である被検者に投与する時により近い時点で患者に核種濃度が調整された適量の薬剤を投与することができる(23ページ段落【0072】)。このことによって、必要とされる放射能量を患者である被検者に投与するに当って薬剤量が増えることを防止することができ、あるいは薬剤量の増加を極力少なめとすることができることとなる。 したがって、本願発明にあっては核種の製造時に薬剤中への対象核種の薬剤中への投与量の調整を考慮する要はなく、上述したように、薬剤の合成場所での合成時における核種濃度の調整された該対象核種の薬剤中への投与量を決定するので、患者である被検者への投与時間が近い時点で濃度調整された核種投与量が精確に適量調整され得る。引用文献1(当審注:引用例1のことである。)記載の工程によるならば、本願発明で得られる濃度調整された核種投与量を精確に適量調整するという効果を得ることは困難といわなければならない。本願発明によれば患者によりやさしく必要十分な薬剤が投与されることになる。…」(平成23年8月23日付けの意見書参照) まず、「本願発明によれば、患者により近い核種輸送後の合成場所での合成時間におけるで薬剤中の投与量が決定される」との主張について検討すると、本願発明においては、薬剤合成から被検者への投与までの時間が短いことを特定する事項も、薬剤の合成場所が被検者への投与場所に近いことを特定する事項も見あたらない。すなわち、本願発明では「該対象核種輸送後の前記薬剤の合成場所での核種濃度の調整」と特定されているが、上記(B-2)で(k)について検討したように、核種の「輸送」は特に距離や時間を限定する意味を含まないと解され、同一施設内の運搬も包含される。このため、「該対象核種輸送後の前記薬剤の合成場所」が核種生成施設内にある場合もあり、患者に近いPET検査病院にあるとは限らない。 なお、核種の「輸送」の意味を核種生成施設外への運搬に限定して解釈しようとすれば、本願発明の発明特定事項である「薬剤の輸送後の薬剤の投与」は、薬剤の合成後に薬剤合成施設外に薬剤を運搬してから患者に投与することになり、薬剤の合成場所が患者に近いという請求人の主張と整合しない。 したがって、「本願発明によれば、患者により近い核種輸送後の合成場所での合成時間におけるで薬剤中の投与量が決定される」との主張は失当であるといわざるを得ない。 仮に、「合成場所」が、核種の製造施設ではなく、距離的に離れたサテライト施設(PET検査病院)内であって、被検者への投与までの時間が短い場所で核種の濃度調整を行うものであるとしても、そのことで核種投与量が精確になるとはいえない。 半減期が約2時間である^(18)Fを例にとると、核種量は2時間で50%、4時間で25%に減少するが、これは、薬剤を合成する時刻に依らない現象である。使用日時(これは本願発明においては既に注文時に添えられた情報である。)の2時間前に薬剤を合成する場合は、核種量が50%に減少することを勘案して濃度調整し、使用日時の4時間前に薬剤を合成する場合は、核種量が25%に減少することを勘案して濃度調整することになるが、いずれも要求される精度に変わりはなく、使用日時に近い時点で薬剤を合成するほうが核種投与量が精確になるとはいえない。したがって、請求人の主張はこの点においても採用できない。 以上、(A)?(C)で検討したとおりであり、上記相違点1?2にかかる本願発明の発明特定事項を併せ採用することも格別の相違工夫を要するものとは認められず、それら発明特定事項を併せ採用したことによって予想を超える格別の作用効果を奏しているとも認められない。 5.むすび 以上のとおり、本願請求項2に係る発明は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願はその余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-09-14 |
結審通知日 | 2011-09-16 |
審決日 | 2011-09-27 |
出願番号 | 特願平11-358045 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61K)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 菊池 美香 |
特許庁審判長 |
川上 美秀 |
特許庁審判官 |
田名部 拓也 大久保 元浩 |
発明の名称 | 検査用薬剤製造販売方法および製造販売装置並びに検査用薬剤の供給方法および供給システム |
代理人 | 高田 幸彦 |
代理人 | 高田 幸彦 |