• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1246713
審判番号 不服2011-7408  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-08 
確定日 2011-11-10 
事件の表示 特願2006-339382「半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月29日出願公開、特開2007- 81436〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成9年10月16日(特許法第41条に基づく優先権主張 平成8年10月18日)に出願した特願平9-283388号特許出願の一部を分割して平成18年12月18日に新たな特許出願としたものであって、平成22年12月13日に手続補正書が提出されたが、平成23年1月4日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年4月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日に手続補正書が提出され、その後、同年6月15日付けで審尋がなされ、同年8月22日に回答書が提出されたものである。

第2.平成23年4月8日に提出された手続補正書による補正についての却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年4月8日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成23年4月8日に提出された手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし4を、補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に補正するとともに、明細書の補正を行うものであり、補正前後の請求項1は各々以下のとおりである。

(補正前)
【請求項1】
一対の主表面を有する半導体基体と、該基体内に位置する第1導電形の第1の半導体領域と、該第1の半導体領域上に位置する第2導電形の第2の半導体領域と、該第2の半導体領域内に伸び、該第2の半導体領域のキャリア濃度より高いキャリア濃度を有する複数個の第2導電形の第3の半導体領域と、該第3の半導体領域内に位置する第1の導電形の第4の半導体領域と、該第4の半導体領域内に位置する第2の導電形の第5の半導体領域と、前記第1の半導体領域と前記第2の半導体領域とに挟まれ、前記第2の半導体領域のキャリア濃度より高いキャリア濃度を有する第2導電型の第6の半導体領域と、前記第2、第3、第4及び第5の半導体領域の表面上に形成されたゲート絶縁膜と、該絶縁膜上に形成されたゲート電極と、前記第4の半導体領域と第5の半導体領域に低抵抗接触したエミッタ電極と、前記第1の半導体領域に低抵抗接触したコレクタ電極とを備え、
前記第3の半導体領域のシートキャリア濃度が1×10^(12)cm^(-2)以下であり、かつ、前記第3の半導体領域の厚さが4μm以下であることを特徴とする半導体装置。

(補正後)
【請求項1】
一対の主表面を有する半導体基体と、該基体内に位置する第1導電形の第1の半導体領域と、該第1の半導体領域上に位置する第2導電形の第2の半導体領域と、該第2の半導体領域内に伸び、該第2の半導体領域のキャリア濃度より高いキャリア濃度を有する複数個の第2導電形の第3の半導体領域と、該第3の半導体領域内に位置する第1の導電形の第4の半導体領域と、該第4の半導体領域内に位置する第2の導電形の第5の半導体領域と、前記第1の半導体領域と前記第2の半導体領域とに挟まれ、前記第2の半導体領域のキャリア濃度より高いキャリア濃度を有する第2導電型の第6の半導体領域と、前記第2、第3、第4及び第5の半導体領域の表面上に形成されたゲート絶縁膜と、該絶縁膜上に形成されたゲート電極と、前記第4の半導体領域と第5の半導体領域に低抵抗接触したエミッタ電極と、前記第1の半導体領域に低抵抗接触したコレクタ電極とを備え、
前記第3の半導体領域のシートキャリア濃度が1×10^(12)cm^(-2)以下であり、かつ、前記第3の半導体領域のシートキャリア濃度が2×10^(14)cm^(-3)での厚さが4μm以下であることを特徴とする半導体装置。

2.補正事項の整理
本件補正による補正事項を整理すると以下のとおりである。
(補正事項1)
補正前の請求項1の「前記第3の半導体領域の厚さが4μm以下である」を、補正後の請求項1の「前記第3の半導体領域のシートキャリア濃度が2×10^(14)cm^(-3)での厚さが4μm以下である」と補正すること。

(補正事項2)
明細書の発明の詳細な説明において、補正前の段落【0016】の「前記第3の半導体領域の厚さが4μm以下である」を、補正後の段落【0016】の「前記第3の半導体領域のシートキャリア濃度が2×10^(14)cm^(-3)での厚さが4μm以下である」と補正すること。

3.補正の目的の適否、及び新規事項の追加の有無についての検討
(1)補正事項1について
補正事項1は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「第3の半導体領域」について、本件補正前は「厚さが4μm以下である」としていたものを、本件補正後は「シートキャリア濃度が2×10^(14)cm^(-3)での厚さが4μm以下である」とするものであるが、当初明細書等のうち、特に段落【0022】の「n層23の厚さは、図2で示すキャリア濃度2×10^(14)cm^(-3)での厚さtで規定されている。図4から、n層23は降伏電圧に関係なく、薄いほどオン電圧の低減に有効で、特に4μm以下にすることが好ましい。これは、同じシートキャリア濃度では薄いほど単位体積当たりのキャリア濃度が高くなり、ホールの蓄積効果が高まるためである。」との記載に照らし、本件補正後の「シートキャリア濃度」が、「キャリア濃度」の誤記であることは明らかである。したがって、補正事項1は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「第3の半導体領域」について、本件補正前は「厚さが4μm以下である」としていたものを、本件補正後は「シートキャリア濃度が2×10^(14)cm^(-3)での厚さが4μm以下である」ではなく、「キャリア濃度が2×10^(14)cm^(-3)での厚さが4μm以下である」とする補正事項と解し、そのように誤記の読替え(下線は読替え箇所)をすべきものであるから、補正事項1は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(以下「特許法第17条の2第3項」という。)に掲げる要件を満たすものである。
また、補正事項1は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「第3の半導体領域」について、本件補正前は「厚さが4μm以下である」としていたものを、本件補正後は「キャリア濃度が2×10^(14)cm^(-3)での厚さが4μm以下である」として、厚さを定義付けるために基準とする「キャリア濃度」を具体的に限定するものであるから、補正事項1は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(以下「特許法第17条の2第4項」という。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)補正事項2について
補正事項2は、明細書の発明の詳細な説明の記載を、請求項に関する補正事項1と同様に補正したものである。そして、すでに上記(3-1)において検討した補正事項1と同じく、補正事項2も、本件補正後の「シートキャリア濃度」を「キャリア濃度」の誤記として読替えるべきものであるから、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(3)補正の目的及び新規事項の追加の有無についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものであり、かつ、そのうちの請求項1についての補正は、同法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としている。
したがって、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項(以下「特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項」という。)の規定(独立特許要件)を満たし、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かにつき更に検討する。

4.独立特許要件(容易想到性)についての検討
(1)本件補正後の発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものであるが、上記第2.1.の「補正後」に記載した請求項1のうち、「シートキャリア濃度」は「キャリア濃度」の明らかな誤記であり、以下のとおり読み替えて認定する。(下線は読替え箇所)

「 【請求項1】
一対の主表面を有する半導体基体と、該基体内に位置する第1導電形の第1の半導体領域と、該第1の半導体領域上に位置する第2導電形の第2の半導体領域と、該第2の半導体領域内に伸び、該第2の半導体領域のキャリア濃度より高いキャリア濃度を有する複数個の第2導電形の第3の半導体領域と、該第3の半導体領域内に位置する第1の導電形の第4の半導体領域と、該第4の半導体領域内に位置する第2の導電形の第5の半導体領域と、前記第1の半導体領域と前記第2の半導体領域とに挟まれ、前記第2の半導体領域のキャリア濃度より高いキャリア濃度を有する第2導電型の第6の半導体領域と、前記第2、第3、第4及び第5の半導体領域の表面上に形成されたゲート絶縁膜と、該絶縁膜上に形成されたゲート電極と、前記第4の半導体領域と第5の半導体領域に低抵抗接触したエミッタ電極と、前記第1の半導体領域に低抵抗接触したコレクタ電極とを備え、
前記第3の半導体領域のシートキャリア濃度が1×10^(12)cm^(-2)以下であり、かつ、前記第3の半導体領域のキャリア濃度が2×10^(14)cm^(-3)での厚さが4μm以下であることを特徴とする半導体装置。」

(2)引用例の記載と引用発明
(2-1)本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である欧州特許出願公開第0735591号明細書(以下、「引用例1」という。)には、図1ないし図3とともに以下の事項が記載されている。

a.「本発明は、二重拡散されたMOS技術の(DMOS)デバイス(例えば、DMOSFET、縦型DMOSFET又は「VDMOSFET」、IGBTなど)のための改良された構造及びその製造工程に関する。」(第2ページ第3行及び第4行の訳文)

b.「パワーVDMOSFETの主たる問題は、軽くドープされた高抵抗のエピタキシャル層が、パワーデバイスが高いオン抵抗RDSon(デバイスが導通状態の時のドレイン・ソース端子間の抵抗値)を有する原因となってしまうことである。RDSonの値が高いことは、大きな電力損失につながる。」(第2ページ第29行及び第31行の訳文)

c.「以上に述べた技術の状況を考慮して、本発明は、ブレークダウン電圧値に影響を与えることなく、オン抵抗の低減を可能にしたDMOSデバイス構造を提供することを目的する。」(第2ページ第39行及び第40行の訳文:なお、原文に記載の“wich”は“which”の誤記と認定。)

d.「本発明により、DMOS技術のパワーデバイスのオン抵抗RDSonを低減することが可能となる。つまり、軽くドープしたボディー領域のまわりにあるエンハンスメント領域の存在が、例えばJFET成分Rjfetのような、RDSonの主成分を小さくする。そのようなRDSonの低減は、ブレークダウン電圧の低下を伴わずに得られる。それどころか、実験結果はエンハンスメント領域の存在がデバイスのブレークダウン電圧を高めることを示している。」(第2ページ第48行ないし第52行の訳文)

e.「図1は、本発明によるDMOSデバイス構造、特に縦型の二重拡散されたMOSFET(VDMOSFET)の断面図である。一般に行われているように、軽くドープした半導体層1(ドレイン層)が、重くドープした半導体基板2上に形成され、複数の基本セル3が、その軽くドープしたドレイン層1の中に形成される。既に引用した米国特許5,382,538号に示されるように、基本セルは、重くドープした領域5及び環状のソース領域6を囲む軽くドープしたボディー領域4を備えている。そのソース領域6は、それぞれのボディー領域4内部において、チャネル領域を定める。N-チャネルVDMOSFETの場合には、基板2、軽くドープしたドレイン層1及びソース領域6がN導電型である一方、ボディー領域4及び領域5がP導電型となる。P-チャネルデバイスの場合には、その導電型がすべて逆転される。また、基板2の導電型を、軽くドープしたドレイン層1のそれと逆にすれば、N-チャネルあるいはP-チャンネルの絶縁ゲートバイポーラトランジスター(IGBT)の構造とすることができる。
薄いゲート酸化膜層8によって下部の半導体領域と絶縁されたポリシリコン・ゲート7が、隣接した基本セル3間に伸び、そして、ソース金属層10が重くドープした領域5およびソース領域6とコンタクトをとることを可能にするため、個々の基本セル3の中央部上にコンタクト窓が提供される誘電体層9によってカバーされる。さらに、ドレイン金属層11が基板2の底に備えられる。
ボディー領域4は、軽くドープしたドレイン層と同じ導電型であり、しかし、より重くドープしたエンハンストメント領域12によって、それぞれ囲まれる。」(第3ページ第8行ないし第24行の訳文)

f.「ボディー領域4のまわりにあるエンハンスメント領域12の存在は、今から論じられるように、いくつかの長所を持つ。
第1に、VDMOSFETのオン抵抗RDSonが低減される。つまり、エンハンスメント領域12の存在が、隣接した基本セル間におけるドレイン層1の部分のドーパント・イオンの総量を増加(それ故に、RDSonのいわゆるRjfetと呼ばれる成分の低減を決定する。)し、基板2へ電子が流れるための好ましい経路を作り、それ故に、ドレイン層1に関連した、RDSonのいわゆるRdrift成分の低減を決定する。RDSonのRdrift成分は、中/高電圧用のVDMOSFET(ブレークダウン電圧BVDSS>250ボルト)において、最も重要な成分である。
RDSonのRjfet成分の低減は、隣接したセル間の間隔を縮小すること、いいかえればセル密度を増加することを可能にする。これは、単位面積当たりのチャンネル長さを増加させ、ゲート-ドレイン寄生容量の値を低減する。
ボディー接合深さと同様に、チャンネル長さや、対応するRDSonのRチャネル成分も低減する。
第2に、エンハンストメント領域12の存在が、VDMOSFETのブレークダウン電圧BVDSSを高める。これは図3を参照して検証することができる。この図では、ボディー領域4とドレイン層1の間の接合からの距離x'の関数としてのブレークダウンのドレイン領域1に沿った電界のプロフィールが、2つの異なる事例に示される。曲線Aは、500ボルトのブレークダウン電圧BVDSSを備える典型的なVDMOSFETにおける、従来の一様にドープされたドーパント濃度2*10^(14)原子/cm^(3)(抵抗率は22オーム*cmに等しい)の半導体層1を参照する。曲線Bは、曲線Aの場合と同じドーパント濃度の半導体層1を有し、しかし、その場所にはエンハンスメント領域12が備えられた本発明の構造を参照する。
曲線Aの場合、電界Eは、ボディー領域4とドレイン層1との間の接合(x'=x'a)において(ブレークダウンが生じる)極大値Ecritに達する。そして、基板2と接するドレイン層1の表面へ向かって移動するにしたがい、傾斜-dE/dxで直線的に減少し、電界の値はEcrit-W*dE/dxとなる。(Wは、いわゆる「残余のドレイン層」と呼ばれる厚さ、すなわち、基板2とボディー領域4とドレイン層1の接合との距離である。)
本発明の場合、電界Eは、ボディー領域4端からの距離x'にしたがい、直線的には減少せず、また、曲線Aより常に高い値になる。図2に示されるように、エンハンストメント領域12のドーパント濃度がドレイン層1のドーパント濃度に比べて無視できるようになるポイントPにおいて、電界がEcritの値に達する時か、ボディー/ドレイン接合(x'=0)において、電界がエンハンストメント領域12のEcritの値を超過する時かの、どちらかが先に起こる時点で、ブレークダウンが生じる。
ポイントPは、ボディー領域4とエンハンスメント領域12との間の接合から数ミクロンのところ(x'p)に位置する。
このように得られたブレークダウン電圧の値の増加分△BVは、電界の曲線によって境界が定められたエリアの増加に相当する。曲線Bのx'=0とx'=x'pとの間に含まれる部分を直線近似して、
△BV=(E max-Ecrit)*x'p/2+x'p*(W-x'p)*dE/dx
が得られる。
ドレイン層1に厚みを与えてBVをより高くするVDMOSFET構造の代わりに、BVの与えられた値に対し、より薄いドレイン層1と、それ故により低いRDSonを持つVDMOSFETが得られるであろうことは明白である。」(第3ページ第29行ないし第4ページ第9行の訳文)

(2-2)ここにおいて、図1に例示された「DMOSデバイス構造」において、「半導体基板2」、「半導体層1(ドレイン層)」、「エンハンストメント領域12」、「軽くドープしたボディー領域4及び重くドープした領域5」及び「ソース領域6」が、それぞれ「N導電型」、「N導電型」、「N導電型」、「P導電型」及び「N導電型」であることは、その図1に記された導電型の符号により明らかである。
また、摘記事項e.の「基板2の導電型を、軽くドープしたドレイン層1のそれと逆にすれば、…(中略)…絶縁ゲートバイポーラトランジスター(IGBT)の構造とすることができる。」という記載は、図1に例示された「DMOSデバイス構造」に関し、その構造における「半導体基板2」の導電型を「半導体層1」の導電型とは逆、つまりは「P導電型」とした「絶縁ゲートバイポーラトランジスター(IGBT)」を示唆していると認められる。
また、摘記事項e.の「複数の基本セル3が、その軽くドープしたドレイン層1の中に形成される。」という記載及び「薄いゲート酸化膜層8によって下部の半導体領域と絶縁されたポリシリコン・ゲート7が、隣接した基本セル3間に伸び、そして、ソース金属層10が重くドープした領域5およびソース領域6とコンタクトをとることを可能にするため、個々の基本セル3の中央部上にコンタクト窓が提供される誘電体層9によってカバーされる。」という記載を併せ読めば、図1に示されるN-チャネルDMOSデバイス構造の右と左にそれぞれ記載された「基本セル3」は一体につながっているものでなく、個々に分離され、それぞれ「半導体層1」内に伸びているものと理解される。そして、それら複数個の「基本セル3」を構成する「エンハンスメント領域12」も、「半導体層1」内に伸び、また複数個存在するものと認められる。
さらに、図1には、「薄いゲート酸化膜層8」が、「半導体層1」、「エンハンスメント領域12」、「ボディー領域4」及び「ソース領域6」の表面上に形成されている構造が記載されている。

(2-3)したがって、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「P導電型の半導体基板2と、
前記半導体基板2上に形成されたN導電型の軽くドープした半導体層1と、
前記半導体層1内に伸び、前記半導体層1より重くドープした複数個のN導電型のエンハンスメント領域12と、
前記エンハンスメント領域12によってそれぞれ囲まれたP導電型の軽くドープしたボディー領域4及び重くドープした領域5と、
前記ボディー領域4内部においてチャネル領域を定めるN導電型のソース領域6と、
前記半導体層1、前記エンハンスメント領域12、前記ボディー領域4及びソース領域6の表面上に形成された薄いゲート酸化膜層8と、
さらに前記薄いゲート酸化膜層8によって下部の半導体領域と絶縁されたポリシリコン・ゲート7と、
前記重くドープした領域5及びソース領域6とコンタクトをとるソース金属層10と、
前記半導体基板2の底部に備えられたドレイン金属層11とを備える絶縁ゲートバイポーラトランジスター。」

(3)本願補正発明と引用発明との対比
(3-1)引用例1の図1に例示された「DMOSデバイス構造」に照らし、引用発明の「P導電型の半導体基板2と、前記半導体基板2上に形成されたN導電型の軽くドープした半導体層1と」からなる積層体は、その全体として「一対の主表面を有する」積層体を構成するものと認められ、また、当該積層体をして「半導体基体」とし、「半導体層1」が、それぞれその「半導体基体」内に存在する構造とみなすことができる。すなわち、引用発明は、「一対の主表面を有する半導体基体と、該基体内に位置するP導電型の半導体基板2と」を備えているとも言い替え可能と認められる。
また、引用発明における「前記半導体基板2上に形成されたN導電型の軽くドープした半導体層1」から、「N導電型の軽くドープした半導体層1」は「前記半導体基板2上」に位置するものと認められる。
また、引用発明における「前記エンハンスメント領域12によってそれぞれ囲まれたP導電型の軽くドープしたボディー領域4及び重くドープした領域5」から、「P導電型の軽くドープしたボディー領域4及び重くドープした領域5」は「前記エンハンスメント領域12」内に位置するものと認められる。
また、引用発明における「前記ボディー領域4内部においてチャネル領域を定めるN導電型のソース領域6」から、「N導電型のソース領域6」は「前記ボディー領域4」内に位置するものと認められる。
また、引用発明における「軽くドープした」及び「重くドープした」とは、それぞれ「キャリア濃度を低くドープした」及び「キャリア濃度を高くドープした」という意味に解され、つまり、引用発明の「前記半導体層1内に伸び、前記半導体層1より重くドープした複数個のN導電型のエンハンスメント領域12」のキャリア濃度は、「前記半導体層1」より高いものと認められる。
また、引用発明における「前記薄いゲート酸化膜層8によって下部の半導体領域と絶縁されたポリシリコン・ゲート7」から、「ポリシリコン・ゲート7」は「前記薄いゲート酸化膜8」上に形成されたものと認められる。
また、引用発明における「P導電型」及び「N導電型」は、それぞれ本願補正発明の「第1導電形」又は「第1の導電形」及び「第2導電形」又は「第2の導電形」に相当する。
また、引用例1の図1に例示される「DMOSデバイス構造」の態様を「絶縁ゲートバイポーラトランジスター(IGBT)」の態様へと変更した場合、当該図1の「DMOSデバイス構造」において「ソース」及び「ドレイン」の機能を果たす部分は、「絶縁ゲートバイポーラトランジスター(IGBT)」において、それぞれ「エミッタ」及び「コレクタ」の機能を果たすものと認められる。
また、引用発明における「前記重くドープした領域5及びソース領域6とコンタクトをとるソース金属層10」は、「重くドープした領域5およびソース領域6」に対し「電極」として機能するよう「接触」しているものと認められる。
また、引用発明における「前記半導体基板2の底部に備えられたドレイン金属層11」は、「半導体基板2」に対し、「電極」として機能するよう「接触」しているものと認められる。
そして、以上の検討結果を踏まえるに、引用発明の「半導体基板2」、「半導体層1」、「エンハンストメント領域12」、「軽くドープしたボディー領域4及び重くドープした領域5」、「ソース領域6」、「薄いゲート酸化膜層8」、「ポリシリコン・ゲート7」、「ソース金属層10」、「ドレイン金属層11」及び「絶縁ゲートバイポーラトランジスター」は、それぞれ本願補正発明の「第1の半導体領域」、「第2の半導体領域」、「第3の半導体領域」、「第4の半導体領域」、「第5の半導体領域」、「ゲート絶縁膜」、「ゲート電極」、「エミッタ電極」、「コレクタ電極」及び「半導体装置」に相当するものである。

(3-2)以上を総合すると、本願補正発明と引用発明とは、
「一対の主表面を有する半導体基体と、
該基体内に位置する第1導電形の第1の半導体領域と、
前記第1の半導体領域上に位置する第2導電形の第2の半導体領域と、
前記第2の半導体領域内に伸び、前記第2の半導体領域のキャリア濃度より高いキャリア濃度を有する複数個の第2導電形の第3の半導体領域と、
該第3の半導体領域内に位置する第1の導電形の第4の半導体領域と、
該第4の半導体領域内に位置する第2の導電形の第5の半導体領域と、
前記第2,第3,第4及び第5の半導体領域の表面上に形成されたゲート絶縁膜と、
さらに該絶縁膜上に形成されたゲート電極と、
前記第4の半導体領域と第5の半導体領域に接触したエミッタ電極と、
前記第1の半導体領域に接触したコレクタ電極とを備えることを特徴とする半導体装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願補正発明は、「前記第1の半導体領域と前記第2の半導体領域とに挟まれ、前記第2の半導体領域のキャリア濃度より高いキャリア濃度を有する第2導電型の第6の半導体領域」を備えているのに対して、引用発明は、そのような領域を備えていない点。

(相違点2)
本願補正発明は、「エミッタ電極」及び「コレクタ電極」が、それぞれ接触対象物に対して「低抵抗」に接触しているのに対し、引用発明では、「ソース金属層10」及び「ドレイン金属層11」に関し、それぞれ接触対象物に対する接触状態が「低抵抗」であるかどうかは直接開示されていない点。

(相違点3)
本願補正発明は、「前記第3の半導体領域のシートキャリア濃度が1×10^(12)cm^(-2)以下であり、かつ、前記第3の半導体領域のキャリア濃度が2×10^(14)cm^(-3)での厚さが4μm以下である」のに対し、引用発明では、そのような第3の半導体領域に関する「シートキャリア濃度」及び「2×10^(14)cm^(-3)」という所定の「キャリア濃度」によって定義される「厚さ」の2点について、何ら範囲特定がなされていない点。

(4)相違点についての当審の判断
(4-1)相違点1について
「絶縁ゲートバイポーラトランジスター(IGBT)」に関する技術分野において、一般には「バッファ層」とも呼ばれる本願補正発明の「第6の半導体領域」に相当するものを設けた構造は、例えば、本願の優先権主張の日前の平成6年3月4日に頒布された刊行物である特開平6-61497号公報(以下、「周知文献1」という。)の段落【0007】にも、当該周知文献1の図22に関し「N^(+) バッファ層2は、N^(-) 層4に注入されるホールを制御するライフ・タイム・キラーとして設けられ、N^(+) バッファ層2の存在によりターンオフ時間を短縮することができる。また、N^(+) バッファ層2はIGBTのオフ状態時に生じるPベース領域5とN^(-) 層4との界面出形成されるPN接合がN^(-) 層側に伸びる空乏層を抑制する機能も備えているため、N^(-) 層2の厚みを薄くすることができる。」という記載(これは平成8年2月6日付けの手続補正書(平成9年2月14日に特許庁公報に掲載)に記載された内容のとおり、「N^(+) バッファ層2は、N^(-) 層4に注入されるホールを制御するライフ・タイム・キラーとして設けられ、N^(+) バッファ層2の存在によりターンオフ時間を短縮することができる。また、N^(+) バッファ層2はIGBTのオフ状態時に生じるPベース領域5とN^(-) 層4との界面で形成されるPN接合からN^(-) 層側に伸びる空乏層を抑制する機能も備えているため、N^(-) 層4の厚みを薄くすることができる。」という趣旨の記載であることは明らかである。)がなされているとおり、本願の優先権主張の日前の当業者における周知技術である。
したがって、引用発明において、「バッファ層」に関する上記周知技術を適用し、「前記第1の半導体領域と前記第2の半導体領域とに挟まれ、前記第2の半導体領域のキャリア濃度より高いキャリア濃度を有する第2導電型の第6の半導体領域」を備えた構造とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

(4-2)相違点2について
引用発明の「ソース金属層10」及び「ドレイン金属層11」は、それぞれ接触対象となる半導体領域との間で電気的導通を取る目的で設けられているのであるから、それらを対象物と「低抵抗」に接触させることは、電極としての役割に照らし当業者が当然考慮すべきことであるから、上記相違点2は実質的なものではなく、また、仮に実質的なものであったとしても当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(4-3)相違点3について
(4-3-1)本願明細書の段落【0022】における「図3は、その検討結果で、図2に示すn層23のシートキャリア濃度N23とオン電圧、及び降伏電圧の関係を示している。この図からシートキャリア濃度が高いほどオン電圧を低減できることが分かる。しかし、シートキャリア濃度が1×10^(12)cm^(-2)以上になると降伏電圧が著しく低下することも分かる。このことから、n層23のシートキャリア濃度は1×10^(12)cm^(-2)以下にすることが好ましい。一方、図4は、シートキャリア濃度が1×10^(12)cm^(-2)の時のn層23の厚さとオン電圧、及び降伏電圧の関係を示す。n層23の厚さは、図2で示すキャリア濃度2×10^(14)cm^(-3)での厚さtで規定されている。図4から、n層23は降伏電圧に関係なく、薄いほどオン電圧の低減に有効で、特に4μm以下にすることが好ましい。これは、同じシートキャリア濃度では薄いほど単位体積当たりのキャリア濃度が高くなり、ホールの蓄積効果が高まるためである。」という記載や、段落【0024】における「また、図8で示した半導体装置202ではn^(+ )層24を用いているため、伝導度変調は生じないが、本発明では伝導度変調をn層23でより促進することができるため、低オン電圧化に有効である。さらに、半導体装置202では、耐圧を確保するための好適なn層231の条件が示されておらず、上述したように伝導度変調を有するIGBTでは低オン電圧と耐圧を確保する好適なn層23の条件があることは本発明者が発見した新規な知見である。」という記載に照らし、本願補正発明のように「前記第3の半導体領域のシートキャリア濃度が1×10^(12)cm^(-2)以下であり、かつ、前記第3の半導体領域のキャリア濃度が2×10^(14)cm^(-3)での厚さが4μm以下である」とする範囲特定は、低オン電圧の実現と耐圧確保とのバランスをとることを意図したものと解される。しかしながら、本願補正発明では特定されない「第2の半導体領域」の厚みやキャリア濃度及び「第4の半導体領域」の具体的形状やキャリア濃度等の要素とは無関係に、第3の半導体領域に関する「シートキャリア濃度」及び「2×10^(14)cm^(-3)」という所定の「キャリア濃度」によって定義される「厚さ」の2つのパラメータのみを範囲特定したことによって格別の効果が奏されると当業者が理解出来る程度にまで、本願明細書の発明の詳細な説明には十分な説明がなされてなく、また、そのように、第3の半導体領域に関する「シートキャリア濃度」及び「2×10^(14)cm^(-3)」という所定の「キャリア濃度」によって定義される「厚さ」の2つのパラメータのみを範囲特定したことによって格別の効果が奏されることは常識的にみて考え難いことであるから、第3の半導体領域の「シートキャリア濃度」の上限値「1×10^(12)cm^(-2) 」、及び「2×10^(14)cm^(-3)」という所定の「キャリア濃度」によって定義される「厚さ」の上限値「4μm」は、いずれも臨界的意義があるものとは認められない。

(4-3-2)そして、前記第2.4.(2)(2-1)の摘記事項f.及び図1ないし3の内容に基づき、本願補正発明の「第3の半導体領域」に対応する引用発明の「エンハンストメント領域12」の作用について検討すると、

ア 摘記事項f.に「ボディー領域4のまわりにあるエンハンスメント領域12の存在は、今から論じられるように、いくつかの長所を持つ。」、「第1に、VDMOSFETのオン抵抗RDSonが低減される。」及び、「第2に、エンハンストメント領域12の存在が、VDMOSFETのブレークダウン電圧BVDSSを高める。」とあるように、引用例1には、「エンハンストメント領域12」の存在により、「オン抵抗RDSonが低減される」ことと「ブレークダウン電圧BVDSSを高める」ことの作用が共に奏される、すなわち、上で述べた「低オン電圧の実現」と「耐圧確保」の2つと同様の視点が開示されているものと認められる。

イ そして、摘記事項f.には「エンハンスメント領域12の存在が、隣接した基本セル間におけるドレイン層1の部分のドーパント・イオンの総量を増加(それ故に、RDSonのいわゆるRjfetと呼ばれる成分の低減を決定する。)し、基板2へ電子が流れるための好ましい経路を作り、それ故に、ドレイン層1に関連した、RDSonのいわゆるRdrift成分の低減を決定する。」とあるところ、これは、「エンハンスメント領域12」中の「ドーパント・イオン」の濃度が、仮に当該領域がない場合の「隣接した基本セル間におけるドレイン層1の部分」の「ドーパント・イオン」の濃度より、相対的に高くなっていることを意味するものと認められる。そして、「ドーパント・イオン」の濃度が増加すると、「キャリア濃度」も増加することは本願出願時の技術常識であり、すなわち、「エンハンスメント領域12」の「キャリア濃度」を、それがない場合の「隣接した基本セル間におけるドレイン層1の部分」の「キャリア濃度」よりも相対的に高くする結果として、「オン抵抗」を低減するために好ましい電流経路が作られ、ここに「エンハンスメント領域12」における「キャリア濃度」と「オン抵抗RDSonが低減される」との間に明らかな相関関係があることは、当業者であれば当然に理解可能なことと認められる。

ウ また、摘記事項f.には「図2に示されるように、エンハンストメント領域12のドーパント濃度がドレイン層1のドーパント濃度に比べて無視できるようになるポイントPにおいて、電界がEcritの値に達する時か、ボディー/ドレイン接合(x'=0)において、電界がエンハンストメント領域12のEcritの値を超過する時かの、どちらかが先に起こる時点で、ブレークダウンが生じる。」とあるところ、これは、「ポイントP」においてブレークダウンが起こるにせよ、「ボディー/ドレイン接合(x'=0)」においてブレークダウンが起こるにせよ、そのどちらのブレークダウン特性も「エンハンストメント領域」の「ドーパント濃度」分布との間に、明らかな相関関係があることを示唆しており、「ドーパント濃度」が増加すると、「キャリア濃度」も増加することが本願出願時の技術常識であることに鑑みるに、「エンハンスメント領域12」における「キャリア濃度」分布と「ブレークダウン電圧BVDSSを高める」こととの間に明らかな相関関係があることは、当業者であれば当然に理解可能なことと認められる。

(4-3-3)してみれば、引用発明である「絶縁ゲートバイポーラトランジスター」を具体化するに際し、「低オン電圧の実現」と「耐圧確保」との両立を図るべく、「エンハンストメント領域12」の「キャリア濃度」をその分布も含めて調整することは、当業者の通常の創作能力を発揮の範囲内であって、また、そのような調整の一環として、本願補正発明のように「第3の半導体領域のシートキャリア濃度が1×10^(12)cm^(-2)以下であり、かつ、前記第3の半導体領域のキャリア濃度が2×10^(14)cm^(-3)での厚さが4μm以下」とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(4-3-4)なお、審判請求人は、平成23年8月22日に提出した回答書において、
「本願の図3から判りますように、降伏電圧は『第3の半導体領域のシートキャリア濃度が1×10^(12)cm^(-2) 以下』において、シートキャリア濃度が0、即ち第3の半導体領域を備えない場合とほぼ同じ値を示しています。つまり、『1×10^(12)cm^(-2) 以下』という数値範囲は、第3の半導体領域を備える場合の降伏電圧を第3の半導体領域に依存することなく設定でき、第3の半導体領域を備えた半導体装置の高耐圧化を容易ならしめるという技術的意義を有しています。しかも、本願の図3に開示したように、『1×10^(12)cm^(-2) 以下』という数値範囲とその外の数値範囲とでは、降伏電圧が第3の半導体領域に依存する程度に顕著な差異があります。」
「降伏電圧やオン電圧が第3の半導体領域に依存する度合いは、第3の半導体領域内における電界の状態に関係し、この電界の状態は、第3の半導体領域内の不純物濃度に左右されることは半導体技術分野における技術常識であり、当業者にとっては自明なことです。
従って、降伏電圧とオン電圧の値自体は他の条件に左右されるので『第3の半導体領域のシートキャリア濃度』を決定しただけで一意的に決まるものでもないと推論できても、『第3の半導体領域に依存する度合い』まで同様であると推論することは難しいものと思料いたします。
上述したことから明らかなように、本願の請求項1に係る発明における『前記第3の半導体領域のシートキャリア濃度が1×10^(12)cm^(-2) 以下であり、かつ、前記第3の半導体領域の厚さが4μm以下』という事項は、目的に応じて当業者が適宜定めるべきものではなく、その数値自体に臨界的意義を有するものであると考えます。」
などと述べ、本願補正発明が「十分進歩性を有する」旨を主張するが、本願明細書及び図面全体の記載及び本願の優先権主張の日前の技術常識に照らしても、「第2の半導体領域」の厚みやキャリア濃度及び「第4の半導体領域」の具体的形状やキャリア濃度等、降伏電圧とオン電圧の値自体を左右する他の条件を何ら特定せずとも、必ず図3のように「降伏電圧は『第3の半導体領域のシートキャリア濃度が1×10^(12)cm^(-2) 以下』において、シートキャリア濃度が0、即ち第3の半導体領域を備えない場合とほぼ同じ値を示」す結果が得られ、かつ、降伏電圧やオン電圧が第3の半導体領域に依存する度合いも常に同様であるとまで当業者が十分に理解できるものとは認められず、第3の半導体領域の「シートキャリア濃度」の上限値「1×10^(12)cm^(-2) 」、及び「2×10^(14)cm^(-3)」という所定の「キャリア濃度」によって定義される「厚さ」の上限値「4μm」のそれぞれに、何らも臨界的意義が認められないのは明らかであるから、本願補正発明の進歩性に関し、これら数値に臨界的意義があることを前提とする審判請求人の上記主張は採用できない。

(4-4)相違点についての判断についてのまとめ
以上のとおり、本願補正発明の上記相違点1?3に係る構成は、周知技術を勘案することにより、引用発明に基づき、当業者が容易に想到し得たものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)独立特許要件についての判断のまとめ
本件補正は、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

5.補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
平成23年4月8日に提出された手続補正書による手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成22年12月13日に提出された手続補正書による手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
そして、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載されている事項により特定される、上記第2.1.の「補正前」の箇所に記載したとおりのものである。

一方、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由に引用された引用例1(欧州特許出願公開第0735591号明細書)には、上記第2.4.(2)で認定したとおりの事項、及び発明(引用発明)が記載されているものと認められる。
そして、本願発明に対して技術的限定を付加した発明である本願補正発明は、上記第2.4.において検討したとおり、周知技術を勘案することにより、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、周知技術を勘案することにより、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることは明らかである。
したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-09 
結審通知日 2011-09-13 
審決日 2011-09-27 
出願番号 特願2006-339382(P2006-339382)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 雅彦  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 市川 篤
近藤 幸浩
発明の名称 半導体装置  
代理人 ポレール特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ