• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06K
管理番号 1246761
審判番号 不服2009-14129  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-06 
確定日 2011-11-08 
事件の表示 特願2006-507786「製品の真偽を確認するための非接触式通信タグ、携帯型タグリーダー、そして、製品の真偽情報の提供方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月14日国際公開、WO2004/088579、平成18年 9月28日国内公表、特表2006-522404〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2004年3月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年4月1日、韓国)を国際出願日とする出願であって、平成18年1月18日付けで手続補正がなされ、平成20年9月9日付けで拒絶理由通知がなされ、平成21年1月15日付けで手続補正がなされたが、同年3月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月6日に審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。そして、同年9月18日付けで審査官から前置報告がなされ、平成22年11月30日付けで当審より審尋がなされ、平成23年3月4日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成21年8月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年8月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成21年8月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成21年1月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】
製品に設置されて製品情報を提供する非接触式通信タグにおいて、
タグリーダーと無線でデータを交換し、前記タグリーダーから受信された電力信号から電源を生成して供給する非接触式通信部と、
前記製品情報並びに前記製品情報を暗号化するための暗号キー又は暗号キーを生成するためのシード値を含む暗号キー関連情報が保存される保存部と、
前記暗号キー関連情報に基づいて、前記製品情報を暗号化する暗号化部を含み、
前記非接触式通信部は前記暗号化された製品情報及び前記製品情報の暗号化に使用された前記暗号キー関連情報を特定するのに必要な暗号キー特定情報を前記タグリーダーに伝送することを特徴とする非接触式通信タグ。」
(以下、「補正前の請求項1」という。)を、

「【請求項1】
製品に設置されて前記製品の真偽を確認するための製品情報を提供する非接触式通信タグにおいて、
タグリーダーと無線でデータを交換し、前記タグリーダーから受信された電力信号から電源を生成して供給する非接触式通信部と、
前記製品情報並びに前記製品情報を暗号化するための暗号キー又は暗号キーを生成するためのシード値を含む暗号キー関連情報が保存される保存部と、
前記暗号キー関連情報に基づいて、前記製品情報を暗号化する暗号化部を含み、
前記非接触式通信部は前記暗号化された製品情報及び前記製品情報の暗号化に使用された前記暗号キー関連情報を特定するのに必要な暗号キー特定情報を前記タグリーダーに伝送することを特徴とする非接触式通信タグ。」
(以下、「補正後の請求項1」という。)
に補正することを含むものである。

2.補正の適否
2-1.新規事項の有無、補正の目的要件
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされており、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
そして、本件補正の補正前の請求項1についてなされた補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮(請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の請求項に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるもの)を目的とするものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合する。

2-2.独立特許要件
補正前の請求項1についてなされた補正は、特許法17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とすることから、補正前の請求項1についてなされた補正、すなわち補正後の請求項1(以下「補正後の発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)以下に検討する。

(1)補正後の発明
前記補正前の請求項1についてなされた補正により、補正後の発明は、前記「1.補正の内容」の「補正後の請求項1」に記載された以下のものと認められる。

「製品に設置されて前記製品の真偽を確認するための製品情報を提供する非接触式通信タグにおいて、
タグリーダーと無線でデータを交換し、前記タグリーダーから受信された電力信号から電源を生成して供給する非接触式通信部と、
前記製品情報並びに前記製品情報を暗号化するための暗号キー又は暗号キーを生成するためのシード値を含む暗号キー関連情報が保存される保存部と、
前記暗号キー関連情報に基づいて、前記製品情報を暗号化する暗号化部を含み、
前記非接触式通信部は前記暗号化された製品情報及び前記製品情報の暗号化に使用された前記暗号キー関連情報を特定するのに必要な暗号キー特定情報を前記タグリーダーに伝送することを特徴とする非接触式通信タグ。」

(2)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-291079号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【0012】
【発明の実施の形態】1 第1の実施の形態
本発明の1の実施の形態としてのアクセスシステム1について説明する。アクセスシステム1は、部材や製品に固体識別情報や履歴情報を記憶する無線ICタグをメディアとて添付又は埋め込むことにより、「物」に「情報」を付加して、物の生産、物流、販売、使用、回収リサイクルのライフサイクルの各ステージ又は全体に渡って、「物」と「情報」とを一体として管理するためのシステムである。
1.1 アクセスシステム1の構成
アクセスシステム1は、図1に外観を示すように、記憶領域を有する無線ICタグ10が添付された物品と、携帯型リーダライタ20とから構成されている。無線ICタグ10は、125KHz帯、13MHz帯又は2.4GHz帯の周波数帯域において通信を行うことができる無線ICタグのうちいずれか1である。携帯型リーダライタ20は、上記無線ICタグ10に記録されている情報を読み出し、読み出した情報を携帯型リーダライタ20に装着されている記録媒体30に書き込む。また、携帯型リーダライタ20は、無線ICタグ10に情報を書き込む。」

(イ)「【0023】プロトコルタイプテーブル142は、携帯型リーダライタ20が有している複数個の通信方式を示すプロトコルタイプを含んでいる。この図に示すように、携帯型リーダライタ20は、「フリーアクセスプロトコル」、「片方向認証プロトコル」、「双方向認証プロトコル」及び「ステージ別アクセスプロトコル」を含んでいる。「フリーアクセスプロトコル」、「片方向認証プロトコル」、「双方向認証プロトコル」については、後述する。また、「ステージ別アクセスプロトコル」については、出願人は、「特願2000-37134」において、そのプロトコルの詳細を提案しているので、ここでは説明を省略する。」

(ウ)「【0050】記録媒体30に記憶されている情報の一例を図10に示す。この図に示すように、記録媒体30は、配送実績テーブル181を有している。配送実績テーブル181は、配送番号、配送先名、配送先住所及び配送実績日からなる組を複数個有している。
1.3 無線ICタグ10aの構成
無線ICタグ10の一例として、フリーアクセスプロトコルを有する無線ICタグ10aの構成について、説明する。
【0051】無線ICタグ10aは、長さ30mm、幅5mm、厚さ0.5mmの板状に成形された樹脂内に、ICチップ部とアンテナ部201とが、封入されて形成されている。ICチップ部200の寸法は、縦1mm、横1mm、厚さ0.25ミクロンである。なお、無線ICタグの形成方法については、特開平8-276458号公報に記載されているので、詳細の説明を省略する。
【0052】無線ICタグ10aの通信可能な距離は、1m程度以内であり、通信速度は、10?20m秒/byteである。無線ICタグ10aは、図11に示すように、アンテナ部201とICチップ部とから構成され、ICチップ部は、復調部202、変調部203、電源部204、命令解読部205、タグタイプ記憶部206、制御部207、識別コード記憶部208、入出力部209及びメモリ部210を含む。
(1)識別コード記憶部208
・・・(中略)・・・
(2)メモリ部210
メモリ部210は、1Kバイトの記憶容量を有し、EEprom(Electoric Erasable and Programmable ROM)とヒューズROMとから構成される。ここで、ヒューズROMは、一度データを書き込むと消去することができないタイプのメモリである。ヒューズROMを用いることにより、データの改竄を防ぐことができる。
【0053】メモリ部210は、図12に一例として示すように、非プロテクト部231とプロテクト部232とワンタイム部233とから構成される。非プロテクト部231及びプロテクト部232は、EEpromから構成され、ワンタイム部233は、前記ヒューズROMから構成される。非プロテクト部231は、情報の読み書きが制限なく行える領域であり、プロテクト部232は、一定の条件の元に情報の読み書きが許可される領域であり、ワンタイム部233は、一度情報を書き込むと消去することができない領域である。
【0054】メモリ部210は、また、生産ステージ領域222、物流ステージ領域223、販売ステージ領域224、サービスステージ領域225、回収リサイクルステージ領域226及び共通領域227から構成される。生産業者は、生産の工程において、無線ICタグに生産に関する情報を生産ステージ領域222に書き込み、又は無線ICタグから参照することにより、製品の生産管理を行う。物流業者は、製品の輸送の過程において、無線ICタグに輸送に関する情報を物流ステージ領域223に書き込み、又は無線ICタグから参照することにより、製品の輸送管理を行う。同様にして、販売業者、サービス業者及び回収リサイクル業者は、それぞれの業務のプロセスにおいて、無線ICタグにそれぞれの業務に関する情報を販売ステージ領域224、サービスステージ領域225及び回収リサイクルステージ領域226に書き込み、又は無線ICタグから参照することにより、製品の業務管理を行う。
【0055】生産ステージ領域222には、非プロテクト部において、「メーカ名」、「品名」及び「品番」が記録され、プロテクト部において、「製番」、「製造日」、「工場名」、・・・、「生産センタ電話番号」及び「環境負荷物質情報」が記録されている。 ・・・(中略)・・・
【0056】 ・・・(中略)・・・
(3)電源部204
電源部204は、アンテナ部201と接続され、アンテナ部201から電力信号を受け取り、受け取った電力信号を電荷として蓄積する。また、無線ICタグ10aの各構成部に電力を供給する。」

(エ)「【0078】… 制御部207は、アンテナ部201、復調部202及び命令解読部205を介して、アクセス命令を受け取る(ステップS142)。制御部207は、アクセス命令を入出力部209へ出力し、入出力部209はアクセス命令に従ってアクセスを実行し、アクセス結果を制御部207へ出力し、制御部207は、アクセス応答命令を生成し(ステップS143)、制御部207は、変調部203及びアンテナ部201を介してアクセス応答命令を出力する(ステップS144)。」

(オ)「【0092】 ・・・(中略)・・・
1.10 アクセスシステムの変形例
無線ICタグ10と携帯型リーダライタ20とは、両者の間の通信のセキュリティを確保するために、通信されるデータを暗号化するとしていもよい。無線ICタグ10と携帯型リーダライタ20とは、暗号化及び対応する復号化のためのプログラムを記憶しており、一方の装置は、データを暗号化して送信し、他方の装置は、暗号化されたデータを受信して復号する。…」

(ア)の段落【0012】における記載「アクセスシステム1は、部材や製品に固体識別情報や履歴情報を記憶する無線ICタグをメディアとて添付又は埋め込むことにより、「物」に「情報」を付加して、物の生産、物流、販売、使用、回収リサイクルのライフサイクルの各ステージ又は全体に渡って、「物」と「情報」とを一体として管理するためのシステムである。」、(ウ)の段落【0054】における記載「メモリ部210は、また、生産ステージ領域222、物流ステージ領域223、販売ステージ領域224、サービスステージ領域225、回収リサイクルステージ領域226及び共通領域227から構成される。」及び(ウ)の段落【0055】における記載「生産ステージ領域222には、非プロテクト部において、「メーカ名」、「品名」及び「品番」が記録され、プロテクト部において、「製番」、「製造日」、「工場名」、・・・、「生産センタ電話番号」及び「環境負荷物質情報」が記録されている。」からすると、引用文献には、製品に埋め込まれてメーカ名、品名、品番、製番、製造日、工場名、・・・、生産センタ電話番号、及び環境負荷物質情報からなる製造情報を提供する無線ICタグに関する発明が記載されていると解される。なお、前記無線ICタグは、前記製造情報が記憶される手段を含む。

(ア)の段落【0012】における記載「無線ICタグ10は、125KHz帯、13MHz帯又は2.4GHz帯の周波数帯域において通信を行うことができる無線ICタグのうちいずれか1である。携帯型リーダライタ20は、上記無線ICタグ10に記録されている情報を読み出し、読み出した情報を携帯型リーダライタ20に装着されている記録媒体30に書き込む。また、携帯型リーダライタ20は、無線ICタグ10に情報を書き込む。」及び(ウ)の段落【0056】における記載「電源部204は、アンテナ部201と接続され、アンテナ部201から電力信号を受け取り、受け取った電力信号を電荷として蓄積する。また、無線ICタグ10aの各構成部に電力を供給する。」からすると、前記無線ICタグは、携帯型リーダライタと無線でデータを交換し、前記携帯型リーダライタから受信された電力信号から電源を生成して供給する手段(以下、「無線通信手段」という)を含むと解される。
(ウ)の段落【0054】における記載「… 生産業者は、…無線ICタグから参照することにより、製品の生産管理を行う。物流業者は、…無線ICタグから参照することにより、製品の輸送管理を行う。同様にして、販売業者、サービス業者及び回収リサイクル業者は、…無線ICタグから参照することにより、製品の業務管理を行う。」及び(オ)の段落【0092】における記載「無線ICタグ10と携帯型リーダライタ20とは、両者の間の通信のセキュリティを確保するために、通信されるデータを暗号化するとしていもよい。無線ICタグ10と携帯型リーダライタ20とは、暗号化及び対応する復号化のためのプログラムを記憶しており、一方の装置は、データを暗号化して送信し、他方の装置は、暗号化されたデータを受信して復号する。」からすると、前記無線通信手段は前記暗号化された製造情報を前記携帯型リーダライタに伝送するものであって、前記暗号化された製造情報は前記携帯型リーダライタにより復号される、態様を含むと解される。その際、前記無線ICタグは、製造情報を暗号化するための暗号キーを記憶する手段を含むこと、及び前記暗号キーに基づいて、前記製造情報を暗号化する手段(以下、「暗号化手段」という)を含むことは、当業者にとって自明である。

そして、前記製造情報を記憶する手段と前記暗号キーを記憶する手段とを併せて構成する手段を、以下、「記憶手段」ということとする。

したがって、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

製品に埋め込まれてメーカ名、品名、品番、製番、製造日、工場名、・・・、生産センタ電話番号、及び環境負荷物質情報からなる製造情報を提供する無線ICタグにおいて、
携帯型リーダライタと無線でデータを交換し、前記携帯型リーダライタから受信された電力信号から電源を生成して供給する無線通信手段と、
前記製造情報並びに前記製造情報を暗号化するための暗号キーが記憶される記憶手段と、
前記暗号キーに基づいて、前記製造情報を暗号化する暗号化手段を含み、
前記無線通信手段は前記暗号化された製造情報を前記携帯型リーダライタに伝送するものであって、前記暗号化された製造情報は前記携帯型リーダライタにより復号されることを特徴とする無線ICタグ。

(3)対比
補正後の発明は「製品情報を暗号化するための暗号キー又は暗号キーを生成するためのシード値を含む暗号キー関連情報」が保存されるとするものであるから、補正後の発明は「製品情報を暗号化するための暗号キーを含む暗号キー関連情報」と「製品情報を暗号化するための暗号キーを生成するためのシード値を含む暗号キー関連情報」のいずれかが保存されるものである。
そこで、前者の「製品情報を暗号化するための暗号キーを含む暗号キー関連情報」が保存される補正後の発明と引用発明とを比較する。
引用発明の「埋め込まれて」、「メーカ名、品名、品番、製番、製造日、工場名、・・・、生産センタ電話番号、及び環境負荷物質情報からなる製造情報」、「無線ICタグ」、及び「携帯型リーダライタ」は、それぞれ、補正後の発明の「設置されて」、「製品情報」、「非接触式通信タグ」、及び「タグリーダー」に相当する。
引用発明の「無線通信手段」、「記憶」、「記憶手段」、及び「暗号化手段」は、それぞれ、補正後の発明の「非接触式通信部」、「保存」、「保存部」、及び「暗号化部」に相当する。
引用発明の「製造情報を暗号化するための暗号キー」は、補正後の発明の「製品情報を暗号化するための暗号キーを含む暗号キー関連情報」に相当する。

よって、補正後の発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、相違している。

(一致点)
製品に設置されて製品情報を提供する非接触式通信タグにおいて、
タグリーダーと無線でデータを交換し、前記タグリーダーから受信された電力信号から電源を生成して供給する非接触式通信部と、
前記製品情報並びに前記製品情報を暗号化するための暗号キーを含む暗号キー関連情報が保存される保存部と、
前記暗号キー関連情報に基づいて、前記製品情報を暗号化する暗号化部を含み、
前記非接触式通信部は前記暗号化された製品情報を前記タグリーダーに伝送することを特徴とする非接触式通信タグ。

(相違点1)
「非接触式通信部」について、補正後の発明の「非接触式通信部」は前記暗号化された製品情報及び前記製品情報の暗号化に使用された前記暗号キー関連情報を特定するのに必要な暗号キー特定情報を前記タグリーダーに伝送するのに対して、引用発明の「無線通信手段」は前記暗号化された製造情報を前記携帯型リーダライタに伝送する点。

(相違点2)
「製品情報」について、補正後の発明の「製品情報」は製品の真偽を確認するためのものであるのに対して、引用発明の「製造情報」は製品の真偽を確認するためのものであるかどうか、不明な点。

(4)判断
相違点1について検討する。
データの送信側が、伝送するデータを送信側の有する暗号キーで暗号化し、前記暗号化されたデータをデータの受信側に伝送し、前記受信側で伝送された前記暗号化されたデータを復号するための構成として、前記送信側が、データを暗号化するための暗号キーを保存し、伝送するデータを前記暗号キーに基づいて暗号化し、前記暗号化されたデータ及び前記データの暗号化に使用された前記暗号キーを特定するのに必要なキーインデックスを前記受信側に伝送し、前記受信側は、前記伝送されたキーインデックスにより暗号キーを特定し、前記特定された暗号キーを使用して、前記暗号化されたデータを復号する構成は、当業者にとって、周知の技術(以下、「周知技術」という)である。
(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-221624号公報における記載
「【0020】
… 図1において、1は非接触ICカードのCPUである。
…(中略)…
【0024】本発明の、非接触ICカードと地上機アンテナで双方に交信されるメッセージは、図2のようになっている。基本構成は、暗号化の際に使用されたKeyを指し示すKey番号(Keyインデックス)9と、そのKeyで暗号化された機密データ10の集まりで1つのパケットが構成される事になる。
…(中略)…
【0027】… 非接触ICカードは、任意のKey番号を選択し、そのKeyで示されたKeyメモリの内容、すなわち暗号Key自体を、暗号アルゴリズム実行器に入力する。
【0028】それと同時に、送信したいメッセージも一緒に、暗号アルゴリズム実行器に入力する。その結果として、機密Keyで暗号化されたメッセージをえる事ができる。このように、解読可能な平文から機密Keyを用いてメッセージを暗号化する動作を、暗号処理と呼ぶ。」、
及び特開2002-290396号公報における記載
「【0024】このアクセスポイント2とパーソナルコンピュータ3との双方に共有される暗号鍵は、たとえば4つまで一時に設定可能であり、複数の暗号鍵が設定された場合、送信側は、その中のどれかを用いて暗号化を行う。この時、送信側は、何番目の暗号鍵を使用したかを示す情報をパケットに格納して転送する。一方、受信側は、このパケットに格納された情報で示される番号の暗号鍵を用いて復号を実行する。」等参照。)

してみれば、引用発明に前記周知技術を適用することで、引用発明の「無線通信手段」が、前記暗号化された製造情報及び前記製造情報の暗号化に使用された前記暗号キーを特定するのに必要なキーインデックス(「暗号キー特定情報」に相当)を携帯型リーダライタに伝送するように構成することは、当業者であれば、容易に想到し得たことである。
よって、相違点1は格別のものではない。

相違点2について検討する。
前記引用文献の段落【0023】において引用された同一出願人の「特願2000-37134」に対応する特開2001-307055号公報を参照すると、
「【0084】各領域に情報が記録されているメモリ部216の一例を図18に示す。この図において、メモリ部216の内容をステージ領域毎に示している。生産ステージ領域には、非プロテクト部において、「メーカ名」、「品名」及び「品番」が記録され、プロテクト部のライトワンス部において、「製番」、「製造日」及び「工場名」が記録されている。」、
「【0154】(15)衣服の製造業者は、その製造業者名を記録している無線ICタグを製造した衣服に添付し、仕入れ業者は、無線ICタグに記録されている製造業者名をリーダライタ30により読み出すことにより、衣服の製造業者名を確認することができる。これにより、ニセモノを誤って購入することを防止できる。また、高級衣料品や高級装飾品などの高級ブランド品に、無線ICタグを添付することにより、高級ブランド品の偽物の流通を防止することができる。」(以下、「引用文献で引用された文献に記載された事項」という)と記載されている。
すなわち、無線ICタグに記録されている製造情報を製品の真偽を確認するために利用する態様が記載されている。
してみると、引用発明においても、「製造情報」を製品の真偽を確認するために利用することは、当業者であれば、適宜なし得たことである。
よって、上記相違点2は格別のものではない。

上記で検討したごとく、相違点1及び相違点2は格別のものではなく、そして、補正後の発明の構成によってもたらされる効果も、当業者であれば当然に予測可能なものに過ぎず格別なものとは認められない。

したがって、補正後の発明は引用発明、周知技術、及び引用文献で引用された文献に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、補正後の発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定により準用する特許法第126条第5項の規定に適合していないから、前記補正前の請求項1についてする補正を含む本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
平成21年8月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成21年1月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「製品に設置されて製品情報を提供する非接触式通信タグにおいて、
タグリーダーと無線でデータを交換し、前記タグリーダーから受信された電力信号から電源を生成して供給する非接触式通信部と、
前記製品情報並びに前記製品情報を暗号化するための暗号キー又は暗号キーを生成するためのシード値を含む暗号キー関連情報が保存される保存部と、
前記暗号キー関連情報に基づいて、前記製品情報を暗号化する暗号化部を含み、
前記非接触式通信部は前記暗号化された製品情報及び前記製品情報の暗号化に使用された前記暗号キー関連情報を特定するのに必要な暗号キー特定情報を前記タグリーダーに伝送することを特徴とする非接触式通信タグ。」

(1)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献およびその記載事項は、前記「第2.平成21年8月6日付けの手続補正についての補正却下の決定 」の「2.補正の適否」の「2-2.独立特許要件」の「(2)引用文献」に記載したとおりである。

(2)対比
本願発明は、前記「第2.平成21年8月6日付けの手続補正についての補正却下の決定 」の「2.補正の適否」の「2-2.独立特許要件」の「(1)補正後の発明」に記載された補正後の発明の発明特定事項「前記製品の真偽を確認するための製品情報」から「前記製品の真偽を確認するための」を削除し、「製品情報」としたものである。
そして、本願発明は、前記「第2.平成21年8月6日付けの手続補正についての補正却下の決定 」の「2.補正の適否」の「2-2.独立特許要件」の「(3)対比」に記載したのと同様に、本願発明は「製品情報を暗号化するための暗号キー又は暗号キーを生成するためのシード値を含む暗号キー関連情報」が保存されるとするものであるから、本願発明は「製品情報を暗号化するための暗号キーを含む暗号キー関連情報」と「製品情報を暗号化するための暗号キーを生成するためのシード値を含む暗号キー関連情報」のいずれかが保存されるものである。
そこで、前者の「製品情報を暗号化するための暗号キーを含む暗号キー関連情報」が保存される本願発明と引用発明とを比較すると、本願発明と引用発明とは、前記「第2.平成21年8月6日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2.補正の適否」の「2-2.独立特許要件」の「(3)対比」に記載したと同様の理由で、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、相違している。

(一致点)
製品に設置されて製品情報を提供する非接触式通信タグにおいて、
タグリーダーと無線でデータを交換し、前記タグリーダーから受信された電力信号から電源を生成して供給する非接触式通信部と、
前記製品情報並びに前記製品情報を暗号化するための暗号キーを含む暗号キー関連情報が保存される保存部と、
前記暗号キー関連情報に基づいて、前記製品情報を暗号化する暗号化部を含み、
前記非接触式通信部は前記暗号化された製品情報を前記タグリーダーに伝送することを特徴とする非接触式通信タグ。

(相違点1’)
「非接触式通信部」について、補正後の発明の「非接触式通信部」は前記暗号化された製品情報及び前記製品情報の暗号化に使用された前記暗号キー関連情報を特定するのに必要な暗号キー特定情報を前記タグリーダーに伝送するのに対して、引用発明の「無線通信手段」は前記暗号化された製造情報を前記携帯型リーダライタに伝送する点。

(3)判断
相違点1’は、前記「第2.平成21年8月6日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2.補正の適否」の「2-2.独立特許要件」の「(4)判断」の相違点1と同様の理由で、引用発明に前記周知技術を適用することで、引用発明の「無線通信手段」が、前記暗号化された製造情報及び前記製造情報の暗号化に使用された前記暗号キーを特定するのに必要なキーインデックス(「暗号キー特定情報」に相当)を携帯型リーダライタに伝送するように構成することは、当業者であれば、容易に想到し得たことである。
よって、相違点1’は格別のものではない。

そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、当業者であれば当然に予測可能なものに過ぎず格別なものとは認められない。

したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、本願の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-23 
結審通知日 2011-05-31 
審決日 2011-06-21 
出願番号 特願2006-507786(P2006-507786)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06K)
P 1 8・ 575- Z (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村田 充裕  
特許庁審判長 赤川 誠一
特許庁審判官 清木 泰
石井 茂和
発明の名称 製品の真偽を確認するための非接触式通信タグ、携帯型タグリーダー、そして、製品の真偽情報の提供方法  
代理人 高田 武志  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ