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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1246849
審判番号 不服2009-24865  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-15 
確定日 2011-11-10 
事件の表示 特願2003-544789「電子顕微鏡用測定デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月22日国際公開,WO03/43051,平成17年 4月14日国内公表,特表2005-509864〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は,平成14年11月12日( パリ条約による優先権主張 平成13年11月12日,スウェーデン国)を国際出願日とする出願であって,平成20年11月18日付けで拒絶理由通知書が出され,平成21年2月23日付けで手続補正がなされたが,同年9月15日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年12月15日付けで拒絶査定不服審判が請求されると共に,同日付で手続補正がなされたものである。
これに対し,当審において平成23年1月27日付けで拒絶理由を通知したところ(発送日:同年2月2日),指定された応答期間内である同年5月19日付けで発明の詳細な説明の段落【0001】を補正することを内容とする手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本件請求項1?15に係る発明は,平成21年12月15日付け手続補正及び平成23年5月19日付け手続補正で補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて,その請求項1?15に記載された事項により特定される発明と認められる。そして,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次の事項により特定される発明である。
「【請求項1】
調査対象のサンプル(4)を保持するためのサンプル・ホルダー(3)と,
前記サンプル・ホルダー(3)の近くに配置されている硬質の材料でできているナノインデンテーション・チップ(5)と,
前記ナノインデンテーション・チップ(5)を前記サンプル(4)の表面に接触させ,力を加えるように配置される位置決めデバイス(7)と,
からなり,
それにより前記サンプル(4)と前記チップ(5)との間の相互作用が測定されるように構成される,電子顕微鏡(2)で使用するための測定デバイス(1)であって,
さらに,前記サンプル(4)および前記チップ(5)の相互作用エリアの近くに位置していて,前記サンプル(4)と前記チップ(5)との間の相互作用による力を直接測定するように配置されている力センサ(6)を備え,
前記ナノインデンテーション・チップ(5)と前記サンプル(4)の視覚化は前記サンプル(4)と前記チップ(5)との間の前記相互作用の期間に実行される,
ことを特徴とする測定デバイス。」

第3 引用刊行物
平成23年1月27日付けの当審の拒絶理由に引用され,本願優先権主張日前に頒布された刊行物であるA.M.Minor and J.W.Morris, Jr., “Quantitative in situ nanoindentation in an electron microscope”, APPLIED PHYSICS LETTERS, 10 SEPTEMBER 2001, Vol.79, No.11, p.1625-1627(以下,「刊行物1」という。),及び,特開平7-71951号公報(以下,「刊行物2」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。
なお,下線は当審にて付記したものである。また,翻訳は当審にて翻訳したものである。
1 刊行物1記載の事項
(刊1-ア)“In nanoindentation, a material surface is indented with a small diamond pyramid that has a tip radius in the range 50-400nm. This method of hardness testing has become an important tool for both scientific research and materials characterization.”(第1625頁左欄第1-5行)
(翻訳)
「ナノインデンテーションでは,50-400nmのレンジのチップ半径を有する小さなダイアモンドピラミッドによって,物質表面は圧刻される。硬度を試験するこの方法は,科学的研究及び材料の評価の双方にとって,重要なツールとなった。」

(刊1-イ)“The interpretation of nanoindentation data is not always clear. For example, since most metals form native oxides,yielding under the nanoindenter may be governed by a fracture of the oxide film rather than the onset of plastic deformation in the material itself. It is difficult to resolve such issues when the microstructure of the material can only be studied after the fact. However, the recent development of a unique in situ stage for transmission electron microscopy (TEM) has made it possible to image nanoindentation in real time. The force-displacement relation can be measured simultaneously with a calibrated piezoceramic control element.”(第1625頁左欄第11-22行)
(翻訳)
「ナノインデンテーションデータの解釈は,いつも明りょうであるとは限らない。例えば,ほとんどの金属が自然の酸化物を形成するので,ナノ圧刻子の下での降伏は,材料自体中の塑性変形によるものではなく酸化膜の破砕によって引き起こされているかもしれない。その材料の微細構造が,その降伏の後にのみ研究され得るような場合には,そのような問題の解決は困難である。しかし,近年のTEM(透過電子顕微鏡)のユニークなその場での観察の発展は,リアルタイムでのナノインデンテーションイメージを作成することを可能とした。力-変位の関係は,較正された圧電セラミック制御エレメントで同時に測定される。」

(刊1-ウ)“During in situ nanoindentation, as we practice it, a three-sided diamond pyramid indenter approaches the sample in a direction normal to the electron beam (Fig.1). ”(第1625頁左欄第23-25行)
(翻訳)
「その場でのナノインデンテーションの間中,電子ビームに直角な方向に,三側面をもつダイアモンドピラミッド圧刻子(indenter)は,サンプルに近づく(Fig.1参照)。」

(刊1-エ)“The indenter is mounted on a piezoceramic actuator, which both controls its position and forces it into the edge of the sample. The piezoceramic actuator is also used to measure the force developed as a function of both voltage and displacement during the test. Both the displacement of the indenter and the voltage applied to the piezoceramic actuator can be measured experimentally, and after determining the relationship between them, the force can be calculated directly.The actuator characteristic must be calibrated in order to do this.”(第1625頁左欄第32行-同頁右欄第8行)
(翻訳)
「圧刻子(indenter)は,圧電セラミックアクチュエータに搭載され,該アクチュエータは,その位置とサンプルエッジへの力をコントロールする。圧電セラミックアクチュエータは,テストの間中,電圧および変位の関数として生じるところの力を測定するようにも用いられる。インデンターの変位量および圧電セラミックアクチュエータに加えられた電圧の両方は,実験的に測定することができ,また,それらの関係を決定した後に,力は直接計算され得る。アクチュエータの特性は,これをするために較正されねばならない。」

(刊1-オ)“In the present work, the voltage-force-displacement characteristic of the actuator was found by bending microscale silicon cantilevers in situ in the TEM. Conveniently, for a given voltage, the force on the actuator is linearly related to the displacement. Thus, during a nanoindentation test, the voltage on the actuator is measured electronically, the displacement is measured by direct observation in bright-field TEM, and the force is computed from the actuator characteristic. ”(第1625頁右欄第8行-同頁右欄第16行)
(翻訳)
「本研究では,アクチュエータの電圧-力-変位の特性は,TEM下で,その場で,マイクロスケールのシリコンのカンチレバーの撓みによって求められる。便利なことに,与えられた電圧において,アクチュエータに作用する力は,変位に対して線形な関係がある。よって,ナノインデンテーションのテスト中,アクチュエータに印加される電圧は,電子的に測定され,変位は,明視野のTEMでの直接観察によって測定され,そして,力は,アクチュエータの特性から計算される。」

ここで,摘記事項(刊1-オ)に,「本研究では,アクチュエータの電圧-力-変位の特性は,TEM下で,その場で,マイクロスケールのシリコンのカンチレバーの撓みによって求められる。便利なことに,与えられた電圧において,アクチュエータに作用する力は,変位に対して線形な関係がある。よって,ナノインデンテーションのテスト中,アクチュエータに印加される電圧は,電子的に測定され,変位は,明視野のTEM(当審注:「TEM」は,透過電子顕微鏡を意味する。)での直接観察によって測定され,そして,力は,アクチュエータの特性から計算される。」と記載されており,アクチュエータの特性,すなわち,アクチュエータの電圧-力-変位の特性から,力,すなわち,サンプルと圧刻子との間に生じる力が計算されていることが理解される。

(刊行物1記載の発明)
前記摘記(刊1-ア)?(刊1-オ)からみて,刊行物1には,次の発明(以下,「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「調査対象のサンプルと,
前記サンプルの近くに配置されているダイヤモンドでできているナノインデンテーション圧刻子であって,圧電セラミックアクチュエータに搭載され,前記圧電セラミックアクチュエータは,その位置とサンプルエッジへの力をコントロールするよう構成された,圧刻子と,
それにより前記サンプルと前記圧刻子との間の力と変位を測定するために,あらかじめ前記圧電セラミックアクチュエータの電圧-力-変位の特性を求めておき,前記圧電セラミックアクチュエータに電圧を加えその位置とサンプルエッジへの力をコントロールし,前記圧電セラミックアクチュエータに印加される電圧を電子的に測定し,変位を明視野の透過電子顕微鏡での直接観察で,前記圧刻子と前記サンプルの間に生じる力を,前記アクチュエータの電圧-力-変位の特性から計算する透過電子顕微鏡で使用する手段を有し,
前記圧刻子と前記サンプルの視覚化は,リアルタイムで実行されることを特徴とする測定デバイス。」

2 刊行物2記載の事項
刊行物2には,以下の事項が記載されている。
(刊2-ア)「【0006】
【作用】以上のように構成された制御方法により走査型探針顕微鏡を制御することにより,物質表面の各測定点において,物質表面とカンチレバーの固定端との間の距離を変化させ,カンチレバーの自由端のたわみ量の変化,すなわち探針と物質表面との間に働く力の変化を測定することにより,様々な情報が得られる。……。さらに,試料表面の各測定点において,探針を試料表面に接触した状態で,探針と物質表面との間に生じる力を変化させ,物質表面の変位量を測定することにより,物質表面の硬度や弾性率が原子・分子レベルで測定される。」

(刊2-イ)「【0007】
【実施例】<第1の実施例>本発明の走査型探針顕微鏡の制御方法の第1の実施例を図1を用いて説明する。図1において,探針1は窒化シリコンで形成され,ピラミッド形状をしている。この探針1は,長さ200μm,ばね定数0.03N/mのカンチレバー2の自由端2a近傍に取り付けられている。カンチレバー2はその固定端2bにおいて支持フレーム等(図示せず)に固定されている。試料3は,X軸,Y軸,Z軸の3方向にそれぞれ変位可能な圧電体4,5,6により構成されたチューブ型の微動機構50上に載置されている。試料3の水平面内の走査および垂直方向の位置制御は,コンピュータ7と圧電体駆動装置8とにより電圧を発生し,発生した各方向の電圧をそれぞれX軸,Y軸およびZ軸方向の圧電体4,5,6に印加することにより行う。カンチレバー2の自由端2aのたわみ量は,出力5mWの半導体レーザー9から出射されたレーザー光をレンズ10によりカンチレバー2の自由端2aの背面2cに集光し,背面2cからの反射光を2分割フォトダイオード11により検出する光てこを用いて測定する。2分割フォトダイオード11の各素子の出力は,プリアンプ121を通してコンピュータ7に入力される。2分割フォトダイオード11の各素子からプリアンプ121を通してコンピュータに入力される電圧をそれぞれ,a,bとすると,たわみ量は,(a-b)で与えられる。」

(刊2-ウ)「【0012】なお,探針1としてダイヤモンドの小片を用い,薄膜カンチレバー2の自由端2aの近傍に接着されている。カンチレバー2の固定端2bを試料3に相対的に接近させ,探針1が試料3から斥力を受けカンチレバー2の自由端2aに発生するたわみ量に相当する2分割フォトダイオード11からのコンピュータ7への入力値が2V(たわみ量40nmに相当)以上になった時点で,Z軸方向の圧電体6を駆動し,探針1を試料3からZ軸方向に引き離た。その後,X軸方向の圧電体4またはY軸方向の圧電体5を駆動してカンチレバー2を次の測定点に移動させ,再度カンチレバー2の固定端2bを試料3の表面接近させる操作を繰り返した。これら一連の操作において,探針1が試料3の表面に接触した位置(図4中,23で示す)までの接近距離と,探針1が試料3の表面に接触した後のカンチレバー2の自由端2aのたわみ量の接近距離に対する変化量とをそれぞれ測定し,その測定結果を画像化した。図5に,べん毛フック部分とべん毛繊維部分をガラス基板上に並べ,測定した時の断面形状を示す。図5において,(a)は探針1の試料3の表面への接触位置の測定結果,すなわち試料3の表面の凹凸像に相当する断面像であり,(b)はカンチレバー2の自由端2aの接近距離に対する変化量,すなわち試料3の表面の硬度分布像に相当する。(a)に示す凹凸像からは,べん毛フック,べん毛繊維とも高さが約200オングストローム程度であり,見分けがつかなかったが,(b)に示す硬度分布像を同時に観察することにより,それぞれの材料を特定することが可能であった。」

(刊2-エ)【図1】


(刊2-オ)「【0011】<第2の実施例及びそれに関する実験例>次に,本発明の走査型探針顕微鏡の制御方法の第2の実施例に関して,ガラス基板上に固定されたバクテリアべん毛の形状観察および硬さ測定を行った場合における,具体的な制御方法について説明する。なお,本実施例では上記実施例1と同様に,図1に示した走査型探針顕微鏡本体の構成をそのまま利用している。図4に,ガラス基板部分,ベん毛フック部分とベん毛繊維部分の各部分を測定点とし,カンチレバー2の固定端2bを試料3に接近させた場合における,カンチレバー2の自由端2aのたわみ量の変化を示す。縦軸はカンチレバー2の自由端2aのたわみ量,すなわち探針1と試料3の表面との間に働く力,横軸はカンチレバー2の固定端2bを試料3の側へ相対的に接近させた距離である。カンチレバー2の固定端2bを試料3の表面に相対的に接近させると,カンチレバー2の自由端2aには小さな引力によりたわみ(図4中,21で示す)が発生する。その後,探針1と試料3の表面とが接触し,斥力によるたわみ(図4中,22で示す)が現れる。試料表面の材料の差異により,探針1が試料3の表面に接触した後のカンチレバー2の自由端2aのたわみ量の接近距離に対する変化量が異なる。これは,各材料が,ガラス基板,べん毛フック,べん毛繊維の順に硬く,弾性率が異なるなるため,探針1から斥力を受けたときの試料3の表面の変位量が異なってくるためである。従って,カンチレバー2の自由端2aのたわみ量の接近距離に対する変化量を各測定点ごとに測定すれば,観察試料表面の硬度あるいは弾性率の分布を測定することが可能となる。」

(刊2-カ)【図4】


摘記(刊2-ア)に「試料表面の各測定点において,探針を試料表面に接触した状態で,探針と物質表面との間に生じる力を変化させ,物質表面の変位量を測定することにより,物質表面の硬度や弾性率が原子・分子レベルで測定される」と記載されているから,探針と試料表面は接触しており,更に,探針と物質表面との間に生じる力が変化されることで,硬度や弾性率が測定されることが理解される。
摘記(刊2-イ)「半導体レーザー9から出射されたレーザー光をレンズ10によりカンチレバー2の自由端2aの背面2cに集光し,背面2cからの反射光を2分割フォトダイオード11により検出する光てこを用いて測定する。」及び摘記(刊2-ア)「カンチレバーの自由端のたわみ量の変化,すなわち探針と物質表面との間に働く力の変化を測定する」との記載事項が刊行物2にある。
以上のことから,刊行物2には,次の発明(以下,「刊行物2発明」という。)が記載されていると認められる。
「探針と試料表面を接触させ,探針と物質表面との間に生じる力が変化されることで,硬度や弾性率測定する走査型探針顕微鏡の力センサであって,半導体レーザー9から出射されたレーザー光をレンズ10によりカンチレバー2の自由端2aの背面2cに集光し,背面2cからの反射光を2分割フォトダイオード11により検出する光てこを用いて,カンチレバー2の自由端2aのたわみ量を測定し,カンチレバーの自由端のたわみ量の変化,すなわち探針と物質表面との間に働く力の変化を測定する力センサ。」

第4 対比
本願発明と刊行物1発明を対比する。
1 刊行物1発明の「ダイヤモンド」及び「ナノインデンテーション圧刻子」は,それぞれ本願発明の「硬質の材料」及び「ナノインデンテーション・チップ(5)」に相当する。
よって,刊行物1発明の「前記サンプルの近くに配置されているダイヤモンドでできているナノインデンテーション圧刻子」と,本願発明の「前記サンプル・ホルダー(3)の近くに配置されている硬質の材料でできているナノインデンテーション・チップ(5)」とは,「硬質の材料でできているナノインデンテーション・チップ」という点で共通する。
刊行物1発明の「圧電セラミックアクチュエータは,その位置とサンプルエッジへの力をコントロールするよう構成され」ているから,その機能および構造からみて,本願発明の「前記ナノインデンテーション・チップ(5)を前記サンプル(4)の表面に接触させ,力を加えるように配置される位置決めデバイス(7)」に相当する。

2 刊行物1発明の「透過電子顕微鏡」は,本願発明の「電子顕微鏡」に包含される。
刊行物1発明は,「前記圧刻子と前記サンプルの間に生じる力を,前記アクチュエータの電圧-力-変位の特性から計算する」ものであり,かかる前記圧刻子と前記サンプルの間に生じる力は,本願発明の「前記サンプル(4)と前記チップ(5)との間の相互作用」に包含される。
また,刊行物1発明の「測定デバイス」は,透過電子顕微鏡で使用するものである。
そうすると,刊行物1発明が,本願発明の「それにより前記サンプル(4)と前記チップ(5)との間の相互作用が測定されるように構成される,電子顕微鏡(2)で使用するための測定デバイス(1)」に相当する構成を具備することは明らかである。
他方,刊行物1発明は,「前記圧刻子と前記サンプルの間に生じる力を,前記アクチュエータの電圧-力-変位の特性から計算する」ものであって,直接力を測定するものではない。
そうすると,刊行物1発明の「それにより前記サンプルと前記圧刻子との間の力と変位を測定するために,あらかじめ前記圧電セラミックアクチュエータの電圧-力-変位の特性を求めておき,前記圧電セラミックアクチュエータに電圧を加えその位置とサンプルエッジへの力をコントロールし,前記圧電セラミックアクチュエータに印加される電圧を電子的に測定し,変位を明視野の透過電子顕微鏡での直接観察で,前記圧刻子と前記サンプルの間に生じる力を,前記アクチュエータの電圧-力-変位の特性から計算する透過電子顕微鏡で使用する手段を有」することと,本願発明の「それにより前記サンプル(4)と前記チップ(5)との間の相互作用が測定されるように構成される,電子顕微鏡(2)で使用するための測定デバイス(1)であって,
さらに,前記サンプル(4)および前記チップ(5)の相互作用エリアの近くに位置していて,前記サンプル(4)と前記チップ(5)との間の相互作用による力を直接測定するように配置されている力センサ(6)を備え」ることとは,「それにより前記サンプルと前記チップとの間の相互作用が測定されるように構成される,電子顕微鏡で使用するための測定デバイスであって,前記サンプルと前記チップとの間の相互作用による力を測定する手段を備え」る点で共通する。

3 刊行物1発明における「前記圧刻子と前記サンプルの視覚化は,リアルタイムで実行」することについて,摘記事項(刊1-オ)に「よって,ナノインデンテーションのテスト中,アクチュエータに印加される電圧は,電子的に測定され,変位は,明視野のTEMでの直接観察によって測定され,そして,力は,アクチュエータの特性から計算される。」と記載されているから,リアルタイムとは,サンプルに圧刻子が圧刻するナノインデンテーションのテスト中,すなわち,両者が相互作用をなしている期間に透過電子顕微鏡での視角化がなされているものである。
そうすると,「前記圧刻子と前記サンプルの視覚化は,リアルタイムで実行されることを特徴とする測定デバイス」は,本願発明の「前記ナノインデンテーション・チップ(5)と前記サンプル(4)の視覚化は前記サンプル(4)と前記チップ(5)との間の前記相互作用の期間に実行される,ことを特徴とする測定デバイス」に相当する。

以上のことを総合すると,両発明との間には,次の(一致点)並びに(相違点1)及び(相違点2)がある。

(一致点)
「硬質の材料でできているナノインデンテーション・チップと
前記ナノインデンテーション・チップを前記サンプルの表面に接触させ,力を加えるように配置される位置決めデバイスと,からなり,
それにより前記サンプルと前記チップとの間の相互作用が測定されるように構成される,電子顕微鏡で使用するための測定デバイスであって,前記サンプルと前記チップとの間の相互作用による力を測定する手段を備え,
前記ナノインデンテーション・チップと前記サンプルの視覚化は前記サンプルと前記チップとの間の前記相互作用の期間に実行される,ことを特徴とする測定デバイス。」

(相違点1)
本願発明が「測定デバイスがサンプル・ホルダー」を備えているのに対して,刊行物1発明は,サンプル・ホルダを備えているか不明であり,ナノインデンテーション・チップが,本願発明では「サンプル・ホルダーの近く」に配置されているのに対し,刊行物1発明は,サンプル・ホルダーを備えているか不明であって,圧刻子との配置関係が不明な点。

(相違点2)
前記サンプルと前記チップとの間の相互作用による力を測定する手段が,本願発明では「前記サンプル(4)および前記チップ(5)の相互作用エリアの近くに位置していて,前記サンプル(4)と前記チップ(5)との間の相互作用による力を直接測定するように配置されている力センサ(6)」であるのに対して,刊行物1発明は,サンプルと圧刻子の間に生じる力を直接測定するように配置されている力センサを具備しておらず,本願発明の位置決めデバイスに相当する圧電セラミックアクチュエータに印加される電圧を電子的に測定し,変位を明視野の透過電子顕微鏡での直接観察で,前記圧電セラミックアクチュエータの電圧-力-変位の特性から計算する手段である点。

第5 検討・判断
1 相違点1について
刊行物1発明は,摘記事項(刊1-ウ)及び(刊1-エ)に記載のように,透過電子顕微鏡の下で,圧刻子とサンプルの間に生じる力の測定を行うものである。ナノインデンテーション及びTEM(透過電子顕微鏡)において,サンプルをサンプル・ホルダーで保持して,試験や観察を行うことは常套手段であって,特に圧刻子とサンプルの間に生じる力の測定は,サンプルが保持されないとサンプルがずれて測定が困難になることから,刊行物1発明において,サンプルが保持されている,すなわち,サンプル・ホルダを備えることは明白である。
そして,その場合,サンプル・ホルダーの近くに,圧刻子が,配置されているのは,当然のことである。
したがって,相違点1は,実質的に相違点とはいえない。

2 相違点2について
相違点2に記載の本願発明の特定事項にかかる「直接測定するように配置」されている力センサについて,その意味するところを検討する。
(1)本件明細書及び図面から把握される力センサの配置及び測定の態様について
本願発明の「前記サンプル(4)および前記チップ(5)の相互作用エリアの近くに位置していて,前記サンプル(4)と前記チップ(5)との間の相互作用による力を直接測定するように配置されている力センサ(6)」のの解釈について,本件明細書及び図面を参酌すると,本件明細書及び図面には,次のような記載がある。
(本-ア)「【0010】本発明によれば,力センサ6は,サンプル4とインデンテーション・チップ5との間のインデンテーションのエリアの近くに設置される。この力センサ6は,その間の相互作用によるチップとサンプルとの間の力を直接測定するように配置される。本発明の第1の実施形態によれば,力センサ6は,図7に概略示すようにサンプルと一緒に配置される。図7の場合には,位置決めデバイスは,図1および図2の場合のように,サンプルではなく,インデンテーション・チップ5を移動するように配置されることに留意されたい。他の実施形態の場合には,図1,図2および図6に示すように,力センサ6はインデンテーション・チップ5と一緒に配置される。ここでも,図6の場合には,位置決めデバイスは,図1および図2の場合のように,サンプルではなく,インデンテーション・チップ5を移動するように配置されることに留意されたい。
本質的には,力センサ6は,図1および図2に示すように,カンチレバーのような柔軟な構造10,またはチップ5またはサンプル4に機械的に接触している膜(例えば,以下にさらに詳細に説明する図4に示すような)を備える。そのため,チップ5またはサンプル4が加えるすべての力は,上記柔軟な構造10に移動する。力センサ6は,また,柔軟な構造10に加わる力を測定するように配置されていて,それによりチップ5とサンプル4との間の相互作用による力を直接測定することができる力測定素子9を備える。力測定素子9を実行する種々の方法については以下に説明する。」
また,本件明細書の段落【0013】及び図5に,本願発明の「力センサ(6)」の具体例として,次のような記載がある。
(本-イ)「【0013】図5を参照しながら,力センサ6の第2の実施形態について以下に説明する。この実施形態の場合には,光ファイバのような光導波管20が測定デバイス内部に配置される。光導波管の一方の端部20’には,光源21および干渉分析装置22が配置されている。光導波管の他方の端部20”は,上記柔軟な構造10の近く,しかしある距離を置いて配置されている。この配置は,上記光導波管からの光が,本質的に上記柔軟な構造10により反射され,光導波管20内に再度入るようになっている。光導波管の端部20”と柔軟な構造10との間の距離および光源が発生する光の波長により,元の光ビームと反射した光ビームにより干渉パターンが形成されるが,このパターンは,光導波管の端部20”と柔軟な構造10との間の距離により異なる。チップ5とサンプル4との間の力の相互作用により柔軟な構造が移動すると,柔軟な構造10と光導波管の端部20”との間の距離が変化し,この変化は干渉分析装置22により検出されるが,これは相互作用の力の測定値である。」
(本-ウ) 【図5】


ア 本願発明の力の測定の態様について
摘記(本-ア)から,チップ5またはサンプル4が加えるすべての力は,柔軟な構造10に移動すること,及び,力センサ6は,柔軟な構造10に加わる力を測定するものであることが把握できる。
摘記(本-イ)及び(本-ウ)から,チップ5とサンプル4との間の力の相互作用により柔軟な構造10と光導波管の端部20”との距離が変化することが理解される。光導波管の端部20”の位置は変化することはないから,柔軟な構造10の位置が変化,すなわち,移動することで,距離が変化するものといえる。そして,摘記(本-イ)及び(本-ウ)から,力の測定の態様は,柔軟な構造の距離の変化を,力の測定値として測定している態様が理解され,これが本願発明の「直接測定」に包含されていることは明白である。

イ 本願発明の力センサの配置の態様について
本願発明の「前記サンプル(4)および前記チップ(5)の相互作用エリアの近くに位置していて,前記サンプル(4)と前記チップ(5)との間の相互作用による力を直接測定するように配置されている力センサ(6)」における,「前記サンプル(4)および前記チップ(5)の相互作用エリアの近くに位置していて」,「配置され」ることについて,摘記(本-イ)及び(本-ウ)の実施例を参酌する。図5(摘記(本-ウ))の如く,柔軟な構造10のチップ5の反対側,すなわち,裏面に光ビームが照射されており,この位置に光ビームが照射されるものが,本願発明でいう「前記サンプル(4)および前記チップ(5)の相互作用エリアの近くに位置していて」,「配置され」ていることに包含されていることは明白である。

(2)刊行物2発明の力センサの配置及び測定の態様について
ア 刊行物2発明の力センサの測定の態様について
刊行物2発明は,たわみ量の変化,すなわち,柔軟な構造であるカンチレバー2aの変位を,探針と物質表面との間に働く力の変化として測定する測定手段であるということができる。

イ 刊行物2発明の力センサの配置の態様について
摘記(刊2-エ)からも明らかなように,カンチレバーの自由端2aには,探針1が設けられており,カンチレバーの裏面にはレーザーが集光されている。そうすると,柔軟な構造であるカンチレバーの自由端2aの裏面にレーザー光が照射されているものである。

(3)本願発明と刊行物2発明との対比
刊行物2発明の「カンチレバー2の自由端2a」は,たわむから,柔軟な構造ということができる。
また,刊行物2発明の「探針」は,摘記(刊2-オ)に「探針1と試料3の表面とが接触し,斥力によるたわみ(図4中,22で示す)が現れる。試料表面の材料の差異により,探針1が試料3の表面に接触した後のカンチレバー2の自由端2aのたわみ量の接近距離に対する変化量が異なる。」と記載され,図4(摘記(刊2-カ))によると,べん毛繊維,べん毛フックは,ガラスよりも近接距離に対するたわみ量の変化が小さい。これは,探針1がべん毛繊維やべん毛フックに食い込んでいることを意味する。
よって,刊行物2発明の「探針」は,機能及び構造からみて,本願発明の「インデンテーション・チップ(5)」に相当する。

そうすると,刊行物2発明の「探針と試料表面を接触させ,探針と物質表面との間に生じる力が変化されることで,硬度や弾性率測定する走査型探針顕微鏡の力センサであって,半導体レーザー9から出射されたレーザー光をレンズ10によりカンチレバー2の自由端2aの背面2cに集光し,背面2cからの反射光を2分割フォトダイオード11により検出する光てこを用いて,カンチレバー2の自由端2aのたわみ量を測定し,カンチレバーの自由端のたわみ量の変化,すなわち探針と物質表面との間に働く力の変化を測定する力センサ」と,本願発明の「前記サンプル(4)および前記チップ(5)の相互作用エリアの近くに位置していて,前記サンプル(4)と前記チップ(5)との間の相互作用による力を直接測定するように配置されている力センサ(6)」とは,「前記サンプル(4)と前記チップ(5)との間の相互作用による力を測定するように配置されている力センサ(6)」という点で共通する。
そして,力センサが,本願発明では「前記サンプル(4)および前記チップ(5)の相互作用エリアの近くに位置してい」て,「直接測定するように配置されている」のに対して,刊行物2発明は,直接測定するか否か不明な点で一応相違する。
しかしながら,本願明細書【0013】及び図5に記載の本願発明に包含される発明の態様と刊行物2発明を対比すると,
(i)測定の態様
本願発明は,「第5 2(1)ア 本願発明の力の測定の態様について」で言及したように,力センサは,「柔軟な構造の距離の変化を,相互作用の力の測定値として測定しているものである。
他方,刊行物2発明は,「第5 2(2)ア 刊行物2発明の力の測定の態様について」で言及したように,「柔軟な構造であるカンチレバー2aの変位を,探針と物質表面との間に働く力の変化として測定する測定」するものである。
測定の態様において,両者の間に差異はなく,刊行物2発明の「力センサ」も本願発明でいう力を「直接測定」しているということができる。

(ii)配置の態様
上記「第5 2(1)イ 本願発明の力センサの配置の態様について」で言及したように,力センサの配置は,柔軟な構造10のチップ5の反対側,すなわち,裏面に光ビームを照射するものが本願発明に包含されるということができる。
他方,刊行物2発明は上記「第5 2(2)イ 刊行物2発明の力センサの配置の態様について」で言及したように,柔軟な構造であるカンチレバーの自由端2aの裏面にレーザー光が照射されているものである。
配置において,両者の間に差異はない。

(4)相違点2についての小括
相違点2における本願発明の特定事項,すなわち,本願発明に包含される本願明細書記載の実施例の力センサの配置及び測定の態様と,刊行物2発明は,実質的に相違することがない。よって,上記一応の相違点は,単なる表現の差異にすぎず,実質的に相違点ではない。よって,相違点2記載の本願発明の特定事項は,刊行物2に記載されているということができる。
そして,刊行物1発明も刊行物2発明もインデンテーションチップとサンプルとの間の相互作用による力を測定する手段を有する点で共通しており,相互作用による力を測定する手段として種々の手段が存在することは技術常識であって,その何れを採用するかは当業者が適宜選択し得るものであるから,刊行物1発明において,サンプルとチップとの間の相互作用による力を測定する測定手段を,刊行物2記載の測定手段に置換することにより,相違点2に記載の本願発明の特定事項のごとくすることは,当業者が容易になし得たことである。

3 効果について
本願発明によってもたらされる効果は,刊行物1及び刊行物2記載の技術的事項から予測される範囲内のものであって,格別顕著なものでない。

4 請求人の主張について
請求人は,平成23年5月19日付けの意見書2頁3?5行において,「刊行物2は画像について開示しておりません。・・・」と主張する。
しかしながら,刊行物2には「これら一連の操作において,探針1が試料3の表面に接触した位置(図4中,23で示す)までの接近距離と,探針1が試料3の表面に接触した後のカンチレバー2の自由端2aのたわみ量の接近距離に対する変化量とをそれぞれ測定し,その測定結果を画像化した。」(摘記(刊2-ウ))と記載されていることからも明らかなように画像について開示されている。
よって,請求人の主張は失当である。

第6 むすび
以上のように本願発明は,刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-09 
結審通知日 2011-06-15 
審決日 2011-06-29 
出願番号 特願2003-544789(P2003-544789)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡▲辺▼ 純也西村 直史  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 岡田 孝博
石川 太郎
発明の名称 電子顕微鏡用測定デバイス  
代理人 齋藤 和則  

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