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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K |
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管理番号 | 1246874 |
審判番号 | 不服2010-21899 |
総通号数 | 145 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-01-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-09-29 |
確定日 | 2011-11-10 |
事件の表示 | 特願2004- 41292「リニア同期モータ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 2日出願公開、特開2005-237079〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成16年2月18日の出願であって、平成22年6月25日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月29日に拒絶査定不服審判請求がなされると共に、同日付手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。 2.本件補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] (1)補正後の本願の発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「平行に離間して配置された一対のヨークと、 前記各ヨークの対向面に長手方向に沿ってそれぞれ配置された複数個の永久磁石と、 前記一対のヨーク間に前記ヨークと平行に配置されたセンターヨークと、 前記センターヨークの外周に沿って移動可能に、前記外周と遊嵌状態で配置された、環状の三相コイルと を備えた、 軸方向磁束形の励磁構造を持つ、コアレス形リニア同期モータであって、 前記各永久磁石はそれぞれ、前記ヨークの対向位置においては同一極性の永久磁石が配置され、前記ヨークの長手方向においては相異なる極性の永久磁石が交互に配置され、 前記三相コイルの長手方向の寸法は、前記永久磁石の1個分の長手方向の寸法と同一であり、 前記三相コイルは、前記センターヨークの長手方向に沿ってU相コイル、-W相コイルおよびV相コイルの相順で配列されたもので構成されており、U相コイル、V相コイル、-W相コイルに印加する電流の位相差を4π/3(ラジアン)とし、-W相コイルに印加される電流の位相がV相コイルに印加される電流の位相からみて2π/3(ラジアン)ずれており、 または、前記三相コイルは、前記センターヨークの長手方向に沿って、-U相コイル、W相コイルおよび-V相コイルの相順で配列されたもので構成されており、-U相コイル、-V相コイル、W相コイルに印加する電流の位相差を4π/3(ラジアン)とし、W相コイルに印加される電流の位相が-V相コイルに印加される電流の位相からみて2π/3(ラジアン)ずれている、 コアレス形リニア同期モータ。」 と補正された。 なお、上記手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の末尾に「コアレス形・リニア同期モータ」と記載されているが、これは「コアレス形リニア同期モータ」の明らかな誤記と認められるため、同請求項1の補正内容を上記のように認定した。 上記補正は、実質的に、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「センターヨークの長手方向に沿ってU相コイル、-W相コイルおよびV相コイルの相順で配列されたもので構成されて」いる「三相コイル」について「U相コイル、V相コイル、-W相コイルに印加する電流の位相差を4π/3(ラジアン)とし、-W相コイルに印加される電流の位相がV相コイルに印加される電流の位相からみて2π/3(ラジアン)ずれて」いる態様に限定し、「センターヨークの長手方向に沿って、-U相コイル、W相コイルおよび-V相コイルの相順で配列されたもので構成されて」いる「三相コイル」について「-U相コイル、-V相コイル、W相コイルに印加する電流の位相差を4π/3(ラジアン)とし、W相コイルに印加される電流の位相が-V相コイルに印加される電流の位相からみて2π/3(ラジアン)ずれて」いる態様に限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (2)引用例 a)原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-238240号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、リニアモータに係り、特に、位相制御駆動リニアモータに関する。」 ・「【0008】 【発明の実施形態】以下、本発明に係る、位相制御駆動リニアモータ、特に、三相同期駆動リニアモータの実施の一形態を図1乃至図4に基づいて説明する。ここで、前述した図7乃至図11に示した従来技術と同一の部材には、同一の符号を付すものとする。図1において、本実施例に係る、リニアモータは、断面略E字状のヨーク1を備え、上片(サイドヨーク)12,下片(サイドヨーク)13及びセンターヨーク16を具備する構成となっている。サイドヨーク12,13の内面には、図1に示すように、対向する磁石の磁極が同一で、かつ、それぞれ長手方向に隣接する磁石の磁極が異なるように、N極,S極,N極・・・・・・S極の配列で永久磁石50が設けられ、磁気回路が構成されている。この磁気回路内には、センターヨーク16をそれ自身の空洞部に挿通してなる可動コイル3が設けられており、可動コイル3を構成する各コイル部材に所定の位相の電流を印可することにより、図中A方向に可動する構成となっている。可動コイル3は、具体的には、図2に示すように、接着剤等を塗布した導線を中央部に空洞5を設けた、中空形状に多層巻きした、通称、ウエッド巻きしたコイル部材3A1,3A2,・・・・,3C2を6個を非磁性体の絶縁部材9、例えば、ガラスエポキシ樹脂や絶縁処理(硬質アルマイト処理)されたアルミ合金で接合して、一体化した構成となっている。 【0009】この可動コイル3は、図3に示すように、位相差120度の三相交流で同期駆動されるように構成するため、各相をU相、W相、V相とし、コイル部材3A1が[+U],3A2が[-U],3B1が[+W],3B2が[-W],3C1が[+V],3C2が[-V]相に対応するように、電流が印可されるようになっている。 【0010】+U相,-U相は位相がπ(180度)異なる。 【0011】同様に、+W相,-W相及び+V相,-V相も各々位相が180度異なるように電流が印可されるようになっている。そして、可動コイル30の長手方向の寸法Tがサイドヨーク12,14に設けられた磁石50のN極,S極の単位磁石4組分の寸法Sと等しくなるように構成されている。 【0012】ここで、本実施例の動作原理を説明する。図5は、三相交流リニアモータの動作原理1であり、図6は、本発明に係る三相交流リニアモータの動作原理2を示す図面である。図3に示すように、本発明に用いられるリニアモ-タは、4個の永久磁石6と6個の中空コイル2を動作単位として構成されている。 【0013】ここでは基本原理を説明するために図5に示すように永久磁石6を6-2?6-5の4個、(または6-8?6-11の4個)と、一体となって移動する3個の中空移動コイル2を動作単位としている。 【0014】図5に示すとおり、永久磁石6-3から出力された磁束は、センターサイドヨーク5を経由して、永久磁石6-2又は、永久磁石6-2及び永久磁石6-4に入力される。また、永久磁石6-9から出力された磁束は、センターサイドヨーク5を経由して、永久磁石6-8又は、永久磁石6-8及び永久磁石6-10に入力される。 【0015】同様にして永久磁石6-5から出力された磁束は、センターサイドヨーク5を経由して、永久磁石6-4又は、永久磁石6-4及び永久磁石6-6に入力される。また、永久磁石6-11から出力された磁束は、センターサイドヨーク5を経由して、永久磁石6-10又は、永久磁石6-10又は、永久磁石6-12に入力される。 【0016】永久磁石6-2及び永久磁石6-8の左側を起点として位置角(磁場の位相角)を設定する。位置角は、磁極方向に隣接する永久磁石毎にπ進むものと定める。また、永久磁石6-2及び永久磁石6-8の左側を起点として右方向(X軸方向)へ一体となって移動する3個のコイル部材(中空コイル2)の移動する距離をxと定める。コイル部材3A1が距離xだけX軸方向へ移動したときに鎖交する磁束数を Ba=Bm・sin(x)・・・(1式) コイル部材3B1が距離xだけX軸方向へ移動したときに鎖交する磁束数を Bb=Bm・sin(x-4π/3)・・・(2式) コイル部材3C1が距離xだけX軸方向へ移動したときに鎖交する磁束数を Bc=Bm・sin(x-8π/3)=Bm・sin(x-2π/3) ・・・(3式) とおく。ここでBmは永久磁石の最大磁束密度とし、各コイル部材の位置ズレを上記位置角で表す。上記図3に示すコイル部材に3A1に三相交流の+U相、コイル部材3B1に+W、コイル部材3C1に+Vがそれぞれ供給されている。したがって、コイル部材3A1に流れる電流は、 Ia=Im・sin(ωt) ・・・(4式) コイル部材3A1に流れる電流は、 Ib=Im・sin(ωt-4π/3)・・・(5式) コイル部材3A1に流れる電流は、 Ic=Im・sin(ωt-2π/3)・・・(6式) となる。以上求めた(1式)から(6式)より永久磁石6-1?6-6の界磁磁束とコイル部材に流れる電流が鎖交することによって3個のコイル部材(3A1,3B1,3C1に働く推力Fは次式で表される。 F=Ba・Ia+Bb・Ib+Bc・Ic =Bm・Im・{sin(x)・sin(ωt)+ sin(x-4π/3)・sin(ωt-4π/3)+ sin(x-2π/3)・sin(ωt-2π/3)} 同期の場合 ωt=xであるから F=Bm・Im・{sin^(2) (x)+sin^(2) (x-4π/3)+ sin^(2) (x-2π/3) ・・・(途中省略)・・・ =(3/2)・Bm・Im・・・(7式) 以上、永久磁石6-1?6-6の界磁磁束と3個のコイル部材3A1,3B1,3C1に働く推力Fについて説明した。また、3個のコイル部材3A1,3B1,3C1には、永久磁石6-7?6-12の界磁磁束との鎖交によっても推力Fが同一方向に働くが、上述と同様の理論なので説明を省略する。 【0017】ここで、留意すべき点は以下の通りである。すなわち、4個の永久磁石6-2?6-5に対して3個のコイル部材3A1,3B1,3C1が一組となって動作する。これ以外の組み合わせでは、駆動電流の位相角とコイル部材の位置角が一致しないので推力リップルが大きくなる。次に、本発明に係る三相同期リニアモータの動作原理を図6に示す基本原理2に基づいて詳細に説明する。上述した基本原理1は、位置角にして2π/3の長さをもつ3個のコイル部材3A1,3B1,3C1がそれぞれお互いに位置角=4π/3の間隔をおいて配置されていたのに対し、本実施例(基本原理2)では、その間隔の中に位置角にして2π/3の長さをもつ、3個のコイル部材3A2,3B2,3C2が配置されている。さらに、図3に示すように、コイル部材3A1に+U相、コイル部材3A2に-U相、同様に、コイル部材3B1に+W相、コイル部材3B2に-W相、コイル部材3A3に+V相、コイル部材3B3に-V相の電流が印可されるように接続されている。 【0018】本実施例の場合、同一コイル部材3A1,3A2,・・,3C2は同一方向巻きの同一コイル部材からなり、これらを巻き方向が同じになるように図3のように配列して、例えば隣接するコイル部材3A1と3A2の場合には、コイル部材3A1の巻きはじめの端をKS1,巻き終わりの端をKE1,同様にコイル部材3A2の巻き始めの端をKS2,巻き終わりの端をKE2とすれば、コイル部材3A1,3A2の接続は、KE1-KE2を接続するようになっている。回路的には、KS1-KE1-KE2-KS2で電気回路が成立している。これによって、三相交流のU相の場合、コイル部材3A1に+U相、コイル部材3A2に-U相を印可したのと同様になる。以下、W相,V相も同様である。ここで三相交流の+U,-U相は逆相を意味しており、位相差π(180度)である。同様に+W,-W相及び+V相,-V相も同様である。かかる接続を採用することによりコイル部材3A2,3B2,3C2に印可される駆動電流の位相は2π/3遅れる。一方、コイル部材3A2,3B2,3C2は、コイル部材3A1,3B1,3C1の後ろに接続されるので、位置角も2π/3遅れる。したがって,上記(7式)を満足する。その結果コイル部材3A1,3B1,3C1に働く推力とコイル部材3A2,3B2,3C2に働く推力は同一方向となる。 【0019】すなわち、本実施例のリニアモータは、上記基本原理1で説明した3個のコイル部材3A1,3B1,3C1からなるリニアモータの可動コイルの容積を増加させることなく、2組の可動コイルを直列接続したのと等価となる。 【0020】この構成は、課題3,4を解決するために採用した構成で、主に、可動コイルに生じるN×I[通称:アンペアーターン]により、不要な方向の磁場を抑制し、磁気回路内の推力発生磁場の乱れを小さくすると共に、アンペアーターンによる、ヨーク10内に発生する渦電流を抑制して、ヨークの温度上昇を防ぎ、磁石50の温度特性により磁場の低下を防ぐ効果がある。 【0021】つまり、コイル部材3A1の駆動電流Imsin(ωt)によって励起される磁束をHA1とすると、コイル部材3A2の駆動電流は、-I・sin(ωt)によって励起される磁束をHA2となり磁束の向きが反転してうち消し合うことになる。同様に、コイル部材3B1,3B2及び3C1と3C2に励起される磁束も同様の結果となり、ヨーク内に発生する渦電流の発生を抑制できる。」 ・「【0032】 【発明の効果】本発明は、以上のように構成されているので、位相制御駆動リニアモータにおいて、磁場の利用効率が高く、しかもヨークの発熱を押され、可動コイルを小型化でき安定した推力を得ることが出来るリニアモータを提供できる。」 ・図6には、軸方向磁束形の励磁構造を持つリニアモータの基本動作原理が示されている。 これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。 「平行に離間して配置された一対のサイドヨーク12,14と、 前記各サイドヨーク12,14の対向面に長手方向に沿ってそれぞれ配置された複数個の永久磁石50と、 前記一対のサイドヨーク12,14間に前記サイドヨーク12,14と平行に配置されたセンターヨーク16と、 前記センターヨーク16の外周に沿って移動可能に、前記外周を空洞部に挿通してなる、三相交流で同期駆動される中空形状の可動コイル3と を備えた、 軸方向磁束形の励磁構造を持つ、中空形状の可動コイル3を有する三相同期リニアモータであって、 前記各永久磁石50はそれぞれ、前記サイドヨーク12,14の対向位置においては同一極性の永久磁石が配置され、前記サイドヨーク12,14の長手方向においては相異なる極性の永久磁石が交互に配置され、 前記三相交流で同期駆動される中空形状の可動コイル3の長手方向の寸法は、前記永久磁石50の4個分の長手方向の寸法と同一であり、 前記三相交流で同期駆動される中空形状の可動コイル3は、前記センターヨーク16の長手方向に沿ってU相コイル、-U相コイル、W相コイル、-W相コイル、V相コイルおよび-V相コイルの相順で配列されたもので構成されている、 中空形状の可動コイル3を有する三相同期リニアモータ。」 b)同じく、引用された特開2002-291220号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はリニアモータに関する。」 ・「【0030】図3をも参照して、ステータ10とムーバ20の内部構造について説明する。ステータ10は、中空軸状のセンターコア11と、センターコア11の周囲に装着された複数のコイル12と、複数のコイル12の外周側をカバーするように組み合わされたパイプ13(筒状体)とを含む。コイル12は制御ドライバー40のモータ接続端子に接続されたU相コイル、V相コイル、W相コイルを含み、これらの各コイルはセンターコア11の周囲にその磁極軸がセンターコア11の軸芯に平行になるようにしてムーバ20の走行範囲のほぼ全長にわたって装着されている。 【0031】ムーバ20は、コイル12を囲むことができるような環状の複数の永久磁石21と、これら複数の永久磁石21を収容している磁石ケース22とを含む。複数の永久磁石21は、同じ長さ寸法を持ち、しかも隣接する磁極が互いに反対向きになり、かつ磁極軸がセンターコア11の軸芯に平行になるように直列的に組合わされて磁石ケース22に収容されている。コイル12、永久磁石21のサイズは、推力、リニアモータ全体の大きさ等の条件により変わるが、すべての永久磁石21は軸方向の寸法が等しく、また軸方向の寸法がコイル12の磁極軸方向の寸法の3倍の長さになるように作られる。」 ・「【0043】図4は、U相コイル、W相コイル、V相コイルの基本構成を示す。3つのU相コイルU1、W相コイルW1、V相コイルV1がスター結線されている。各コイルは巻き始め端S、巻き終り端Eを有し、2つのコイルの巻き終り端Eと1つのコイルの巻き始め端S、ここではW相コイルW1の巻き始め端Sとがコモン端子に共通接続される。 【0044】図5は、3つのU相コイル、W相コイル、V相コイルを1組とする基本構成を3組、すなわち合計9個のコイルを備える場合の接続と制御ドライバー40を使用する場合の接続例を示す。ここでは、U相コイルについては第1のコイルU1の巻き始め端Sを制御ドライバー40のU端子に接続し、第1のコイルU1の巻き終り端Eを第2のコイルU2の巻き終り端Eに接続している。そして、第2のコイルU2の巻き始め端Sを第3のコイルU3の巻き始め端Sに接続し、第3のコイルU3の巻き終り端Eをコモン端子に接続している。同様に、W相コイルについては第1のコイルW1の巻き終り端Eを制御ドライバー40のV端子に接続し、第1のコイルW1の巻き始め端Sを第2のコイルW2の巻き始め端Sに接続している。そして、第2のコイルW2の巻き終り端Eを第3のコイルW3の巻き終り端Eに接続し、第3のコイルW3の巻き始め端Sをコモン端子に接続している。一方、V相コイルについては第1のコイルV1の巻き始め端Sを制御ドライバー40のW端子に接続し、第1のコイルV1の巻き終り端Eを第2のコイルV2の巻き終り端Eに接続している。そして、第2のコイルV2の巻き始め端Sを第3のコイルV3の巻き始め端Sに接続し、第3のコイルV3の巻き終り端Eをコモン端子に接続している。 【0045】簡単に言えば、図5のように9個のコイルを備える場合には、2つの相については3つのコイルのうちの中間のコイルをその両側のコイルと巻き始め端S、巻き終り端Eを逆にして接続し、残りの1つの相については3つのコイルのうちの両側のコイルをそれらの間のコイルと巻き始め端S、巻き終り端Eを逆にして接続している。 【0046】これを12個以上、すなわち4組以上の複数の組のコイルを有する場合について言えば、複数組における複数のU相コイル、複数のW相コイル、複数のV相コイルはそれぞれ相毎に直列接続されて制御ドライバー40にスター結線により接続される。しかも、2つの相における複数のコイルは奇数組における磁極に対して偶数組における磁極が反対向きになるように接続され、残りの1つの相における複数のコイルは奇数組における磁極が前記2つの相における複数のコイルの前記奇数組における磁極と反対向きであり、偶数組における磁極は前記2つの相における複数のコイルの前記偶数組における磁極と反対向きになるように接続されることになる。 【0047】図6は、上記のようなU相コイル、W相コイル、V相コイルに接続される制御ドライバー40の電圧波形を示している。言うまでも無く、U相、V相、W相の電圧波形はそれぞれ120度の位相差を持つ。 【0048】図7は、図5の各コイルに図6の電圧を発生する制御ドライバー40を接続した場合について、図6のタイミング〔1〕、〔2〕、〔3〕において各コイル端部に誘起される磁極の変化を示した図である。」 ・「【0063】図15は永久磁石の他の例を示す。つまり、上記の形態においては、永久磁石21はその中心軸方向、すなわち中心軸方向と平行に着磁されているが、本例による永久磁石21´は径方向、すなわち中心軸に向かって放射状(径方向)に着磁されている。勿論、本例でも複数の永久磁石21´が直列的に組み合わされるものであり、1個当たりの長さはコイル12(図3)の磁極軸の寸法の3倍の長さに作られる。そして、隣り合う永久磁石21´は互いに反対の磁極が対向するように組み合わされる。」 ・「【0065】図16は、上記のような永久磁石21´の組合わせ体の外周を磁性体による筒状、ここでは円筒状のアウターヨーク61でカバーするようにした例である。なお、本図ではコイルは図示を省略している。このようなアウターヨーク61は、アウターヨーク61の外部周辺の磁気シールド効果が得られる。つまり、本リニアモータの外部への漏洩磁束の低減を持ち、かつ、効率的な磁気回路が構成され、リニアモータとして推力の向上が得られる。」 ・「【0084】(3)環状あるいはU形状の永久磁石の内側にわずかなギャップを介して電磁石コイルが収容配置されているので、電磁石コイルの磁束を有効に永久磁石に作用させることができる。特に、環状の永久磁石の場合には電磁石コイルの磁束の利用効率は非常に高く、高推力を得ることができる。」 ・図3、図4、図5及び図7には、三相コイルの組をなす3つのコイル12の長手方向の寸法が、永久磁石21の1個分の長手方向の寸法と同一とした態様、及び、三相コイルの奇数組を、センターコア11の長手方向に沿ってU相コイルU1、-W相コイルW1およびV相コイルV1の相順で配列されたもので構成する態様が示されている。 (3)対比 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、その機能・作用からみて、後者における「サイドヨーク12,14」は前者における「ヨーク」に相当し、以下同様に、「外周を空洞部に挿通してなる」態様は「外周と遊嵌状態で配置された」態様に、「三相交流で同期駆動される中空形状の可動コイル3」は「環状の三相コイル」に、「中空形状の可動コイル3を有する三相同期リニアモータ」は「コアレス形リニア同期モータ」に、それぞれ相当している。 また、後者の「三相交流で同期駆動される中空形状の可動コイル3の長手方向の寸法は、永久磁石50の4個分の長手方向の寸法と同一」である態様と前者の「三相コイルの長手方向の寸法は、永久磁石の1個分の長手方向の寸法と同一」である態様とは、「三相コイルの長手方向の寸法は、永久磁石の所定の長手方向の寸法と同一」であるとの概念で共通している。 さらに、後者の「三相交流で同期駆動される中空形状の可動コイル3は、センターヨーク16の長手方向に沿ってU相コイル、-U相コイル、W相コイル、-W相コイル、V相コイルおよび-V相コイルの相順で配列されたもので構成されている」態様と前者の「三相コイルは、センターヨークの長手方向に沿ってU相コイル、-W相コイルおよびV相コイルの相順で配列されたもので構成されており、U相コイル、V相コイル、-W相コイルに印加する電流の位相差を4π/3(ラジアン)とし、-W相コイルに印加される電流の位相がV相コイルに印加される電流の位相からみて2π/3(ラジアン)ずれており、または、前記三相コイルは、前記センターヨークの長手方向に沿って、-U相コイル、W相コイルおよび-V相コイルの相順で配列されたもので構成されており、-U相コイル、-V相コイル、W相コイルに印加する電流の位相差を4π/3(ラジアン)とし、W相コイルに印加される電流の位相が-V相コイルに印加される電流の位相からみて2π/3(ラジアン)ずれている」態様とは、「三相コイルは、センターヨークの長手方向に沿って所定の相コイルの相順で配列されたもので構成されている」との概念で共通している。 したがって、両者は、 「平行に離間して配置された一対のヨークと、 前記各ヨークの対向面に長手方向に沿ってそれぞれ配置された複数個の永久磁石と、 前記一対のヨーク間に前記ヨークと平行に配置されたセンターヨークと、 前記センターヨークの外周に沿って移動可能に、前記外周と遊嵌状態で配置された、環状の三相コイルと を備えた、 軸方向磁束形の励磁構造を持つ、コアレス形リニア同期モータであって、 前記各永久磁石はそれぞれ、前記ヨークの対向位置においては同一極性の永久磁石が配置され、前記ヨークの長手方向においては相異なる極性の永久磁石が交互に配置され、 前記三相コイルの長手方向の寸法は、前記永久磁石の所定の長手方向の寸法と同一であり、 前記三相コイルは、前記センターヨークの長手方向に沿って所定の相コイルの相順で配列されたもので構成されている、 コアレス形リニア同期モータ。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] 三相コイルの長手方向の寸法が同一である、「永久磁石の所定の長手方向の寸法」に関し、本願補正発明は、「永久磁石の1個分の長手方向の寸法」であるのに対し、引用発明は、「永久磁石の4個分の長手方向の寸法」である点。 [相違点2] 三相コイルが、センターヨークの長手方向に沿って配列されたもので構成されている「所定の相コイルの相順」に関し、本願補正発明は、「U相コイル、-W相コイルおよびV相コイルの相順」で、「U相コイル、V相コイル、-W相コイルに印加する電流の位相差を4π/3(ラジアン)とし、-W相コイルに印加される電流の位相がV相コイルに印加される電流の位相からみて2π/3(ラジアン)ずれており」、または、「-U相コイル、W相コイルおよび-V相コイルの相順」で、「-U相コイル、-V相コイル、W相コイルに印加する電流の位相差を4π/3(ラジアン)とし、W相コイルに印加される電流の位相が-V相コイルに印加される電流の位相からみて2π/3(ラジアン)ずれている」としているのに対し、引用発明は、かかる相順及び位相差とされていない点。 (4)判断 上記相違点1及び2について以下検討する。 例えば、引用例2にも開示されているように、三相コイル(「三相コイルの組をなす3つのコイル12」が相当)の長手方向の寸法を、永久磁石の1個分の長手方向の寸法と同一とし、三相コイル(「三相コイルの奇数組」が相当)を、センターヨーク(「センターコア11」が相当)の長手方向に沿ってU相コイル(「U相コイルU1」が相当)、-W相コイル(「-W相コイルW1」が相当)およびV相コイル(「V相コイルV1」が相当)の相順で配列されたもので構成することで、高推力を得るようにすることは、リニアモータの分野における周知技術である。 また、通常、三相コイルにおいて、各相コイルに印加する電流の位相差は各相コイル間で2π/3(ラジアン)であるから、上記周知技術において、U相コイル、-W相コイルおよびV相コイルの相順で配列された三相コイルにおいては、(U相)-(-W相)間、(-W相)-(V相)間および(V相)-(U相)間で上記位相差がいずれも2π/3(ラジアン)となるものであり、これを、U相コイル、V相コイルおよび-W相コイルの順でみれば、(U相)-(V相)間、(V相)-(-W相)間および(-W相)-(U相)間の上記位相差がいずれも4π/3(ラジアン)になることが明らかである。 引用発明において、高推力の確保は当然に要求されるべき課題であるといえるから、かかる課題の下に、三相コイルと永久磁石との寸法関係及び三相コイルの相順配列に上記周知技術を採用することで、上記相違点1及び2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。 そして、本願補正発明の全体構成により奏される作用効果も、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)むすび 以上のとおりであって、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。 3.本願の発明について 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成22年3月8日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「平行に離間して配置された一対のヨークと、 前記各ヨークの対向面に長手方向に沿ってそれぞれ配置された複数個の永久磁石と、 前記一対のヨーク間に前記ヨークと平行に配置されたセンターヨークと、 前記センターヨークの外周に沿って移動可能に、前記外周と遊嵌状態で配置された環状の三相コイルと を備えた、 軸方向磁束形の励磁構造を持つ、コアレス形リニア同期モータであって、 前記各永久磁石はそれぞれ、前記ヨークの対向位置においては同一極性の永久磁石が配置され、前記ヨークの長手方向においては相異なる極性の永久磁石が交互に配置され、 前記三相コイルの長手方向の寸法は、前記永久磁石の1個分の長手方向の寸法と同一であり、 前記三相コイルは、前記センターヨークの長手方向に沿ってU相コイル、-W相コイルおよびV相コイル、または、-U相コイル、W相コイルおよび-V相コイルの相順で配列されたもので構成されている、 コアレス形リニア同期モータ。」 (1)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明は、実質的に、前記「2.(1)」で検討した本願補正発明から 「センターヨークの長手方向に沿ってU相コイル、-W相コイルおよびV相コイルの相順で配列されたもので構成されて」いる「三相コイル」について「U相コイル、V相コイル、-W相コイルに印加する電流の位相差を4π/3(ラジアン)とし、-W相コイルに印加される電流の位相がV相コイルに印加される電流の位相からみて2π/3(ラジアン)ずれて」いる態様への限定を省き、「センターヨークの長手方向に沿って、-U相コイル、W相コイルおよび-V相コイルの相順で配列されたもので構成されて」いる「三相コイル」について「-U相コイル、-V相コイル、W相コイルに印加する電流の位相差を4π/3(ラジアン)とし、W相コイルに印加される電流の位相が-V相コイルに印加される電流の位相からみて2π/3(ラジアン)ずれて」いる態様への限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)及び(4)」に記載したとおり、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、本願は、同法第49条第2号の規定に該当し、拒絶をされるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-08-18 |
結審通知日 | 2011-08-23 |
審決日 | 2011-09-28 |
出願番号 | 特願2004-41292(P2004-41292) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H02K)
P 1 8・ 575- Z (H02K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 森山 拓哉、當間 庸裕 |
特許庁審判長 |
仁木 浩 |
特許庁審判官 |
冨江 耕太郎 大河原 裕 |
発明の名称 | リニア同期モータ |
代理人 | 佐藤 隆久 |