ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23K 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A23K |
---|---|
管理番号 | 1246883 |
審判番号 | 不服2010-26110 |
総通号数 | 145 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-01-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-11-19 |
確定日 | 2011-11-10 |
事件の表示 | 特願2006-60911「養鶏飼料並びに卵」拒絶査定不服審判事件〔平成19年3月8日出願公開,特開2007- 54041〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は,平成18年3月7日(特許法第41条の規定による優先権主張:平成17年7月29日)の出願であって,平成22年8月20日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年11月19日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同時に提出された手続補正書により特許請求の範囲の補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。 その後,平成23年4月8日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年5月10日に回答書が提出されたものである。 第2.本件補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 本件補正は,特許請求の範囲を,以下のように補正しようとするものである(下線は,補正の適否の判断に関係する箇所に当審にて付与)。 「【請求項1】 市販の養鶏用標準配合飼料1000kg当り、ヨウ素(Iとして)を28g?130g含有する基礎配合飼料に、ヨウ素による鶏生体のストレス解消と産卵率向上を目的として、バチルスサブチルス、乳酸菌及びビール酵母からなるプロバイオティクスと、ビタミンB_(1) 、ビタミンB_(6)、ビタミンB_(12)、コリン、葉酸及びイノシトールの混合体からなるビタミンBコンプレックスとを混合してなることを特徴とする養鶏飼料。 【請求項2】 <略> 【請求項3】 請求項1に記載の養鶏飼料を、常法で鶏に給餌して産卵させた卵の可食部100gあたり、ヨウ素0.6mg?2.3mgを含有する卵に、ビタミンBコンプレックスから選択された、人の脂質代謝ないし神経機能活性組成物として、コリン0.26g?0.34gと、葉酸0.1mg?0.17mgと、及びイノシトール18mg?30mgとが、ヨウ素との相乗効果を得る素材として含有されていること、を特徴とする卵。」 2.補正の適否の判断 本件補正は,請求項3に係る発明の「卵」について,「可食部100gあたり、ヨウ素0.6mg?2.3mgを含有する」と特定するものである。 しかしながら,願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲(以下,「当初明細書等」という。)には,ヨウ素の含有量を「0.6mg?2.3mg」とすることについて記載されていない。 すなわち,当初明細書等には,卵の可食部100g当たりのヨウ素の含有量について,特許請求の範囲の【請求項5】,並びに,段落【0022】及び【0081】の【表4】に「1.2mg?1.5mg」とすることが記載され,測定値の平均値として,段落【0076】に「1.4mg」のものが記載されているのみである。また,段落【0080】欄には,「卵の各成分の含有量は,…『別表4』の範囲で調整することができる。医薬的効果を得るためなど,必要に応じて増加させることができる。」との記載はあるものの,本件補正は,【表4】に記載された数値範囲の下限値を下げるものであり,また,上限値を増加させる場合においても,その値を「2.3mg」とすることが,当業者に自明であったとも言えない。 してみると,本件補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することによって導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであって,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないので,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「改正前特許法」という。)第17条の2第3項の規定に違反している。 3.むすび 以上のとおり,本件補正は,改正前特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3.本願発明について 1.本願発明の認定 本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?8に係る発明は,平成22年4月5日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものと認める。 「市販の配合飼料1000kg当り、ヨウ素(Iとして)を28g?130g含有する基礎配合飼料に、ヨウ素による鶏生体のストレス解消と産卵率向上を目的として、バチルスサブチルス、乳酸菌、ビール酵母からなるプロバイオティクスと、ビタミンB_(1) 、ビタミンB_(6)、ビタミンB_(12)、コリン、葉酸、及びイノシトールの混合体からなるビタミンBコンプレックスとを混合させたこと、を特徴とする養鶏飼料。」 2.引用例 (1)引用例1 原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である 特開2003-18977号公報(以下,「引用例1」という。) には,次の事項が記載されている。 (1a)「【請求項5】 穀類を主とする基礎飼料1000kgに対して、 イノシトール 40g?75g、 ヨウ素 90g?120g、 ビタミンE 130g?150g、 ビタミンB_(1) 28g?33g、 ビタミンB_(6) 28g?33g、 ビタミンB_(12) 28mg?40mg、 が配合されていること、を特徴とするイノシトール高濃度含有飼料。」 (1b)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、イノシトール高濃度含有卵並びに飼料に係り、特に卵黄によるコレステロール値の上昇を抑制させると共に、イノシトールによって脂肪代謝を促進させることのできるイノシトール高濃度含有卵、並びに鳥の飼料に関する。」 (1c)「【0029】上記基礎飼料に添加物を混合した配合飼料を、産卵鶏20羽に対し、1日当り100gあて給餌し続け、…」 (1d)「【0044】なお、この発明は、前記形態例に限定されるものではなく、基礎飼料、添加物には、表記以外の素材を添加して補強することができる。…」 (1e)「【0045】 【発明の効果】 【0046】?【0049】<略> 【0050】(5) 請求項5に記載された発明は、基礎飼料の配合と、卵に含有させるべき配合物の量を、実験的なデータに基づいて配合した飼料なので、効率よく配合物を卵に移行させ、かつ鶏の健康も向上させることができる効果がある。」 これらの記載事項を総合すると,引用例1には以下の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「基礎飼料1000kg当たり,ヨウ素を90g?120gと,鶏の健康を向上させることができる,ビタミンE,ビタミンB_(1),ビタミンB_(6),ビタミンB_(12)及びイノシトールからなる添加物を混合した産卵鶏用配合飼料。」 (2)引用例2 原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である 特公昭61-59092号公報(以下,「引用例2」という。) には,次の事項が記載されている。 (2a)「特許請求の範囲 1 鶏に、セルロース分解菌、ヘミセルロース分解菌、タンパク質分解菌、脂肪分解菌、リグニン分解菌、ペクチン質分解菌及び炭水化物分解菌を含み、かつ上記セルロース分解菌、タンパク質分解菌、炭水化物分解菌のうち少くもいずれか一つがバチルス・ズブチリス菌を含有する発酵微生物を混入してなる飼料を供与して飼育することを特徴とする改良された鶏卵の生産方法。」(第1頁左欄第1?9行目) (2b)「近年、採卵養鶏において、ケージを使用した多数羽飼育が広く行われているが、こうしたケージ飼育による単位面積当りの飼育数を高い水準に維持したまま、更に産卵率、1羽当りの採卵量を上げると共に、卵の品質を向上させ、卵殻を丈夫にして破卵率を低下させ、優良な卵を効率よく多量に生産することが望まれている。また、従来病気の発生を予防するためにサルフア剤や抗生物質等の薬剤が多用されているが、耐性菌や人体への移行の弊害も考えられ、こうした薬剤を使用することのない養鶏方法が望ましい。」(第1頁左欄第13?23行目) (2c)「本発明者等は飼料に発酵微生物を加え、これによつて鶏を飼育すると、鶏の健康を維持、向上させることができ体力のある鶏によつて品質の優良な卵を更に多く得られることを見出し、これに基づいて本発明を完成したものである。」(第1頁左欄第24行目?同頁右欄第2行目) (2d)「この発酵微生物は、そのまま用いてもよい…」(第2頁左欄第17行目) (2e)「本発明によつて飼育した場合、餌の喰い込みが早く、鶏の体力が増して、生存率が高くなり、採卵量も多くなつて採卵が効率化した。…そしてその卵そのものも卵量が増え、卵質が向上し、破卵率も低下した。…抗生物質等の薬剤も特に使用することもなく飼育を続けることができた。」(第2頁左欄第30行目?同頁右欄第11行目) これらの記載事項を総合すると,引用例2には以下の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「バチルス・ズブチリス菌を含有する発酵微生物を混入してなる養鶏飼料。」 (3)引用例3 原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である 特開昭48-80368号公報(以下,「引用例3」という。) には,次の事項が記載されている。 (3a)「2.特許請求の範囲 無機ヨウ素化合物とヨードリノール酸、あるいは無機ヨウ素化合物とリノール酸を主成分とし、必要に応じさらに乳酸菌および酵母菌を混和して成る養鶏飼料添加物。」(第4頁左上欄第4?8行目) (3b)「本発明はニワトリの飼料添加物無機ヨウ素化合物とヨードリノール酸、あるいは無機ヨウ素化合物とリノール酸を主成分とする添加物に関するものである。」(第4頁左上欄第10?13行目) (3c)「通常の養鶏飼料は炭水化物とタンパク質、カルシウムを主とするが、本発明の添加物は、この通常の飼料に添加するものである。」(第4頁左下欄第16?18行目) (3d)「本添加物は無機ヨウ素化合物、たとえばヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなど、およびリノール酸あるいはヨードリノール酸を主成分とし、これに乳酸菌と酵母菌を添加する。」(第4頁左下欄第19行目?同頁右下欄第2行目) (3e)「なお本添加物配合の飼料で養鶏することによつて本発明の本来の目的である有機ヨード含有の鶏卵を得るほかにニワトリの健康産卵率の向上がみられる。」(第4頁右下欄第12?15行目) (3f)「乳酸菌は飼料の腸内腐敗と異常発酵によるアミン類などの生成を防止して、ヨウ素のリン脂質結合を正常化するために添加する。酵母は乳酸菌の発育のために好ましい。」(第6頁右上欄第5?8行目) これらの記載事項を総合すると,引用例3には以下の発明(以下,「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。 「無機ヨウ素化合物を添加した飼料に,乳酸菌および酵母菌を混和して成る養鶏飼料。」 (4)引用例4 原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である 特開平7-179388号公報(以下,「引用例4」という。) には,産卵用雌鳥の基礎飼料の成分として含まれる「ビタミン前混合物」に関して,次の事項が記載されている(下線は,当審にて付与)。 (4a)「【0033】表1<略> * 飼料kg当たり:ビタミンA8000国際単位、ビタミンD_(3) 1800国際単位、ビタミンE60mg,ビタミンK_(3) 1.3mg、ビタミンC200mg、ビタミンB_(1) 4mg、ビタミンB_(2) 11.8mg、ビタミンB_(6) 8mg、ビタミンB_(12)0.04mg,ビオチン0.06mg、パントテン酸カルシウム48mg、ニコチン酸104mg、葉酸2mg、コリン1950mgを含有。」 (5)引用例5 原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である 特開平6-276960号公報(以下,「引用例5」という。) には,発明の目的及び鶏の飼料の「飼料添加物」に関して,次の事項が記載されている(下線は,当審にて付与)。 (5a)「【0004】 【発明が解決しようとする課題】従って本発明の目的は、鶏の飼育全期間に有効であり、特に体脂肪の蓄積や脂肪肝の発生を防止し、肉質を向上させるとともに鶏卵中のコレステロール量を低下させ、産卵率および卵殻強度を増加させる鶏飼料を提供することである。」 (5b)「【0021】 【表4】<略> 飼料添加物 ノシヘプタイド、サリノマイシンナトリウム 、ビタミンA、ビタミンD_(3) 、ビタミンE、 パントテン酸、葉酸、ビタミンB_(12)、ビタミ ンK_(3) 、ビタミンB_(1) 、ビタミンB_(2) 、ビタミンB_(6) 、ニコチン酸、コリン、炭酸マンガン、硫酸鉄、硫酸銅、炭酸亜鉛、硫酸コバルト、ヨウ素酸カルシウム、メチオニン、リジン、エトキシン」 3.対比 本願発明と引用発明1とを対比すると,引用発明1の「基礎飼料」は,本願発明の「市販の配合飼料」に相当し,同様に,「産卵鶏用配合飼料」は「養鶏飼料」に相当する。 また,引用発明1の「ビタミンE,ビタミンB_(1),ビタミンB_(6),ビタミンB_(12)及びイノシトールからなる添加物」と,本願発明の「ビタミンB_(1) 、ビタミンB_(6)、ビタミンB_(12)、コリン、葉酸、及びイノシトールの混合体からなるビタミンBコンプレックス」とは,「ビタミンB_(1) 、ビタミンB_(6)、ビタミンB_(12)及びイノシトールを含む混合体からなるビタミンBコンプレックス」である点で共通する。 してみると,両発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 [一致点] 「市販の配合飼料1000kg当り、ヨウ素を90g?120g含有し,ビタミンB_(1) 、ビタミンB_(6)、ビタミンB_(12)及びイノシトールを含む混合体からなるビタミンBコンプレックスとを混合させた養鶏飼料。」 [相違点1] 飼料に混合される添加物について,本願発明では,「ビタミンBコンプレックス」とともに,「バチルスサブチルス、乳酸菌、ビール酵母からなるプロバイオティクス」も混合されるのに対して,引用発明1では,「ビタミンBコンプレックス」は混合されているものの,「プロバイオティクス」が混合されていない点。 [相違点2] 「ビタミンBコンプレックス」について,本願発明では「ビタミンB_(1) 、ビタミンB_(6)、ビタミンB_(12)、コリン、葉酸、及びイノシトール」の混合体であるのに対して,引用発明1では「ビタミンE,ビタミンB_(1),ビタミンB_(6),ビタミンB_(12)及びイノシトール」の混合体であり,引用発明1は本願発明と比べて,「ビタミンE」が余計に混合され,「コリン」及び「葉酸」が混合されてない点。 [相違点3] 本願発明における「ヨウ素による鶏生体のストレス解消と産卵率向上を目的として」との記載は,「物」の発明としての「養鶏飼料」を特定する事項として,必ずしも明確ではないが,「プロバイオティクス」及び「プロバイオティクス」からなる添加物の添加量等について特定しようとしているものと認定すると,飼料への添加物の添加について,本願発明では「ヨウ素による鶏生体のストレス解消と産卵率向上を目的」とするものであると特定されているのに対し,引用発明1では「鶏の健康を向上させることができる」ものではあるものの,本願発明のような目的のものであるか不明な点。 4.判断 上記各相違点について以下に検討する。 (1)相違点1について 引用例1の上記摘記事項(1e)には,引用発明1の養鶏飼料により,鶏の健康を向上させる効果があることが記載されるとともに,摘記事項(1d)には,引用発明1の養鶏飼料に他の添加物を添加することについても示唆されている。 一方,引用例2の上記摘記事項(2c)及び(2e)には,引用発明2の養鶏飼料により,鶏の健康を維持・向上させることができる旨が開示され,引用例3の上記摘記事項(3e)にも,引用発明3の養鶏飼料により,ニワトリの健康産卵率の向上がみられることが記載されている。 また,酵母菌としてビール酵母は,きわめて一般的なものである。 引用発明1?3は,いずれも養鶏飼料に関するものであり,且つ,鶏の健康向上を図るという共通の作用・効果を有するものであって,さらに,引用例1には,引用発明1の養鶏飼料に他の添加物を添加することについて示唆されているから,引用発明1の養鶏飼料に,引用発明2の養鶏飼料の添加物であるバチルス・ズブチリス菌と,引用発明3の養鶏飼料の添加物である乳酸菌および酵母菌とを寄せ集めて適用することは当業者が容易に想到し得た事項であり,また,引用発明3の酵母菌としてビール酵母を採用することは,当業者が適宜なし得た事項である。 (2)相違点2について 本願明細書においても,「ビタミンBコンプレックス」に「ビタミンE」を添加しない実施例1,及び,これを添加した実施例2が開示されているように,「ビタミンE」を添加するか否かは,当業者が適宜選択し得た事項である。 また,養鶏用飼料に,ビタミンB_(1) ,ビタミンB_(6)及びビタミンB_(12)とともに,「コリン」及び「葉酸」を添加することは,例えば引用例4の上記摘記事項(4a)や引用例5の上記摘記事項(5b)に開示されるように周知技術である。 してみると,引用発明1の「ビタミンBコンプレックス」から,「ビタミンE」を除き,上記周知技術を適用して,「コリン」及び「葉酸」を追加することにより,上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。 (3)相違点3について 養鶏飼料の配合において,鶏の健康や産卵率の観点について考慮することは技術常識であり,上記(1)欄に記載したように,引用発明1?3においても,これらの観点について考慮しているとともに,引用例5の上記摘記事項(5a)においても言及されている。 してみると,上記(1)及び(2)欄に記載した引用発明1への引用発明2及び3並びに引用例4及び5に開示されるような周知技術の添加物を追加するに当たり,その添加量等をストレス解消や産卵率向上を達成できるように調整することは,当業者が適宜なし得た事項である。 (4)審判請求人の主張について (イ)上記相違点1に対する主張 審判請求人は,回答書において,上記相違点1に関連して,「『引用文献1』…の内容は、『卵黄によるコレステロール値を抑えるために、卵にイノシトールを多く含ませた』というだけのものであり、『腸内の細菌叢バランスを改善し、体調を良くする効果を付加する』ことの必然性についての示唆は全くありません。 従って、この『引用文献1』に、『上記周知技術を適用』するという行為は、本願明細書を見た者が、その記載に基づいて行うということになり、本願明細書を見ることなしに、『引用文献1』に『引用文献2?4の発酵菌』を添加する必然性はなく、このご説示は根拠が全くなく失当と思います。」(回答書「2-2」欄)と主張している。 しかしながら,引用例1には,「イノシトール高濃度含有卵」の発明のみならず,上述のように「養鶏飼料」の発明も開示され,上記摘記事項(1e)では,当該飼料を利用することによる鶏の健康の向上についても着目している。また,養鶏飼料において,鶏の健康向上に配慮することは,摘記事項(1e)の記載をみるまでもなく,上記(3)欄に記載したように技術常識であり,鶏の健康に寄与する飼料添加物について開示する文献が存在する場合に,このような文献に開示された飼料添加物を,既存の飼料に追加しようとすることは,当業者が通常有する創作能力の発揮に当たる。上記のとおり,引用例2及び3には,それぞれ引用発明2及び3として,鶏の健康に寄与する飼料添加物が開示されているのだから,これを引用発明1に適用することは,当業者が容易に想到し得た事項であると言わざるをえない。 (ロ)上記相違点2に対する主張 審判請求人は,回答書において,上記相違点2に関連して,上記引用例4及び5には,「『飼料添加物』の中に、『葉酸、コリン』の名が羅列されているというだけで、『使用量』についての記載は全くありません。 従って、『葉酸、コリン』が、この発明において、どの程度効果を示したかという点についてすら、全く触れていないものであり、技術の片鱗も見られません。 すなわち、それをどのように使用し、どのような効果を上げたかの記載がないものは、単なる品名の羅列であり、『技術』とは言い得ないものと思われます。 」(回答書「2-3」欄)と主張している。 しかしながら,葉酸及びコリンが動物の健康維持のための飼料添加物として有用なことは技術常識であり,引用例4及び5は,葉酸及びコリンを添加した飼料を例示するために挙げたものにすぎず,これらの引用例に,葉酸及びコリン添加の有用性についての言及がないこともって,技術の片鱗も見いだせないなどとの主張は,採用できるものではない。 また,添加量等(上記主張における「使用量」)の調整については,上記(3)欄に記載したように,当業者が適宜なし得た事項である。 なお,葉酸及びコリンの有用性に係る技術常識について開示した文献が必要ならば,以下の文献などを参照されたい。 須藤浩著,「飼料学講義」,第10版,株式会社養賢堂,昭和52年11月20日(特許庁資料館受入:昭和55年1月24日),第52?54頁(特に,「G.コリン(Choline)」節及び「I.フォール酸(葉酸,Folic acid, Folacin)」節) (ハ)「プロバイオティクス」の定義等に係る主張 審判請求人は,審判請求書において,「『プロバイオティックス』の意味は、単に『有用菌』という意味ではなく、『共生関係により、腸内の細菌叢バランスを改善する、宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物と、それらの増殖促進物質』という綜合的なものであり『菌』の種類も『共生関係』がなければならず、これを維持するためには『共生関係を維持し、増殖を促進させる物質』がなければならない、ということになります。 本発明において、『共生関係を維持し増殖促進させる』ために菌の配分量は、 バチルスサブチルス 200gプラスマイナス10%、 乳酸菌 8gプラスマイナス10%、 ビール酵母 200gプラスマイナス10%、としてあり、これを示唆する内容は、引用文献に記載されておりません。」(審判請求書3.「5」欄)と主張している。 しかしながら,本願発明には上記主張のような菌の配分量は特定されておらず,上記主張は請求項1の記載に基づくものではなく,明細書の記載に基づくものであるから採用できない。 また,引用例2の上記摘記事項(2e)の記載,及び,引用例3の上記摘記事項(3f)の記載から,引用発明2及び3において養鶏飼料に添加された菌が,生きた状態で宿主たる鶏の腸内おいて,宿主に有益な作用をもたらしていることは当業者にとって自明であり,この意味において,引用発明2及び3において養鶏飼料に添加された菌は,本願発明の「プロバイオティックス」に相当するものである。 さらに,菌どうしの共生についても,上記摘記事項(3f)には,乳酸菌と酵母との共生関係について言及があるとともに,原査定時に提示された本願優先日前に頒布された刊行物である 特開2001-149023号公報 の段落【0018】?【0020】には,乳酸菌,酵母菌及び無機栄養細菌類が共生関係を樹立することが開示され,このような酵母菌として,段落【0032】に「サッカロミセス・セリビジェー」,すなわち,ビール酵母が挙げられ,無機栄養細菌類として,段落【0033】に「バチラス・ズブティリス」が挙げられていることから,上記(1)欄に記載した「引用発明2の養鶏飼料の添加物であるバチルス・ズブチリス菌と,引用発明3の養鶏飼料の添加物である乳酸菌および酵母菌とを寄せ集め」ることにより,菌どうしに共生関係が生まれることも明らかである。 よって,上記配分量以外の主張についても採用できない。 (ニ)「プロバイオティクス」の技術水準に係る主張 審判請求人は,回答書において,「すなわち、この『プロバイオティクス』の用語及び技術思想は、本願発明において着想されているものであり、引用文献2の出願時に、その様な技術は存在していなかったものであります。 特に『プロバイオティクス』についての解説をしたのは、本願明細書が最初であり、前例はありません。従って、それに対する知見は、出願前の業界には存在しておりません。」(回答書「2-1」『「引用文献2」について』欄)と述べている。 しかしながら,飼料にプロバイオティクスを添加すること有用性については,平成元年に刊行された下記の文献中に,同文献の発行前に行われた様々な取り組みを報告する形で開示されている。 R. FULLER 「A Review Probiotics in man and animals」 Journal of Applied Bacteriology, 1989年, 66号, p.365-378 同文献には,「プロバイオティクス」を「A live microbial feed supplement which beneficially affects the host animal by improving its intestinal microbial balance(当審訳:腸内微生物バランスを改善することにより宿主動物に有益に影響する生きた微生物の飼料サプリメント)」(第366頁第5?6行目)と定義したうえで,プロバイオティクスを家禽飼料に適用すること(第367頁の下から6?3行目),鶏飼料に適用すること(第370頁の下から24?19行目)について開示されるとともに,プロバイオティクスが市場に流通していることについても開示されている(第367頁の下から2?1行目)。 引用例2及び3に「プロバイオティクス」という文言が記載されていないことは事実であり,また,これらの引用例に開示された技術的事項について「プロバイオティクス」という用語を以て観念できたどうかは定かではないが,本願優先日における技術水準的からして,引用例2及び3に「プロバイオティクス」が開示されているとは言えないとの主張は採用できるところではない。そして,引用発明2及び3において養鶏飼料に添加された菌が,生きた状態で宿主たる鶏の腸内おいて,宿主に有益な作用をもたらしていることは当業者にとって自明であることについては,上記(ハ)欄に記載したとおりである。 (5)効果の予測性について 審判請求人は,審判請求書及び回答書を通じて,本館発明の飼料添加物の組み合わせによる相乗効果や,数値限定の臨界的意義について縷々主張するものの,本願明細書には,本願発明のプロバイオティクスとビタミンBコンプレックスを全て混合した養鶏飼料と,これらを全て混合しなかった養鶏飼料(普通餌)との対比結果が記載されるのみで,普通餌との対比における本願発明の効果が,本願発明の飼料添加物の成分どうしの相乗効果や添加物の配合割合によって奏される予測し得ない格別ものであることを説明していない。 また,審判請求書及び回答書における説明も,プロバイオティクスのみ添加した場合又はビタミンBコンプレックスのみ添加した場合,並びに,バチルスサブチルス、乳酸菌及びビール酵母の一部を欠いた場合又はビタミンBコンプレックス成分の一部を欠いた場合等と本願発明との対比に基づくものではなく,一般的且つ定性的なものにすぎない。 してみると,本願発明について,格別な効果を推認できる事実は存在せず,添加物の各成分によって奏される公知の効果,及び,成分の組み合わせによる公知の効果以上の,格別の効果があるとは認められない。 (6)まとめ したがって,本願発明は,引用発明1?3並びに引用例4及び5に開示されるような周知技術とに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおり,本願発明は,引用発明1?3並びに引用例4及び5に開示されるような周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-09-08 |
結審通知日 | 2011-09-13 |
審決日 | 2011-09-27 |
出願番号 | 特願2006-60911(P2006-60911) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A23K)
P 1 8・ 561- Z (A23K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松本 隆彦 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
鈴野 幹夫 仁科 雅弘 |
発明の名称 | 養鶏飼料並びに卵 |
代理人 | 竹沢 荘一 |
代理人 | 中馬 典嗣 |