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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1246919
審判番号 無効2011-800020  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-02-04 
確定日 2011-11-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第3995011号発明「発光ダイオード」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1 手続の経緯の概要
本件特許第3995011号に係る手続の経緯は以下のとおりである。

平成 3年11月25日 原出願(特願平3-336011号(以下「本件最初の原出願」という。))出願
平成 9年10月20日 分割出願(第1世代)(特願平9-306393号(以下「本件第1分割出願」という。))出願
平成10年12月28日 分割出願(第2世代)(特願平10-377128号(以下「本件第2分割出願」という。))出願
平成13年 9月 3日 分割出願(第3世代)(特願2001-313286号(以下「本件第3分割出願」という。))出願
平成15年 2月 4日 分割出願(第4世代)(特願2003-67318号(以下「本件第4分割出願」という。))出願
平成16年 9月27日 分割出願(第5世代)(特願2004-280288号(以下「本件第5分割出願」という。))出願
平成17年 5月30日 分割出願(第6世代)(特願2005-158166号(以下「本件第6分割出願」という。))出願
平成17年10月31日 分割出願(第7世代)(特願2005-317711号(以下「本件分割出願」という。))出願
平成18年 3月13日 拒絶理由(起案日)
平成18年 5月22日 手続補正書
平成18年 5月22日 意見書
平成18年 9月14日 拒絶理由(起案日)
平成18年11月20日 手続補正書
平成18年11月20日 意見書
平成19年 1月31日 拒絶査定(起案日)
平成19年 3月 8日 拒絶査定不服審判請求
平成19年 4月 9日 手続補正書
平成19年 6月29日 特許査定
平成19年 8月10日 登録
平成19年10月24日 特許公報発行
平成23年 2月 4日 無効審判請求
平成23年 4月27日 答弁書
平成23年 6月24日 弁駁書
平成23年 9月 1日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成23年 9月 1日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成23年 9月15日 口頭審理

2 本件特許発明
本件特許第3995011号の請求項1に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「基板上にn型及びp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子と、
電極となる第1のメタル及び第2のメタルと、
前記発光素子を包囲する樹脂と、
前記発光素子からの青色の可視光に励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を発して前記発光素子の色補正をする、前記樹脂中に含有されてなる蛍光染料又は蛍光顔料と、
前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させてn電極を付け、該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続させてなる金線と、を有する発光ダイオード。」(以下「本件特許発明」という。)

3 請求人の主張の概要
(1)本件第1分割出願は本件最初の原出願の当初明細書等の記載の範囲内で分割されたものではないから、分割要件を満たさず、その出願日は平成9年10月20日となる。そして、本件第1分割出願から6世代後の分割出願である本件特許出願(審決注:本件分割出願)も、本件最初の原出願の出願日の利益を享受することはできず、本件特許出願(審決注:本件分割出願)の出願日は現実の出願日である平成17年10月30日となるか、早くても平成9年10月20日である。その結果、本件特許発明(審決注:本件分割出願)は、本件最初の原出願の公開公報である甲第1号証(特開平5-152609号公報)に記載された発明と同一またはその発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。したがって、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(審判請求書4頁(3)、27頁)。
(2)本件第1分割出願の当初明細書等(下線は審決で引いた。)には、本件最初の原出願の当初明細書等と異なる以下の記載・・・がある(甲3)。
・・・【特許請求の範囲】の記載
【請求項1】
「 発光素子(11)と、この発光素子(11)からの波長により励起されて、励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍光染料又は蛍光顔料(5)とを有する発光ダイオードにおいて、
前記蛍光染料又は蛍光顔料(5)は、メタル上の発光素子(11)を包囲するよう配置されると共に、前記発光素子は、n型およびp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備え、
この窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子(11)は、メタルに対向する面の反対側に位置する同一面側に、一対の電極をワイヤボンドして接続しており、一方の電極は、窒化ガリウム系化合物半導体がエッチングされてn型層の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極であることを特徴とする発光ダイオード。」
【請求項2】
「 前記発光素子(11)が、青色の可視光を発光する窒化ガリウム系化合物半導体である請求項1に記載される発光ダイオード。」(審判請求書11頁(エ))
(3)上記・・・から明らかなように、本件第1分割出願の請求項1及び2(審決注:出願当初のもの。下線は審決で引いた。)において、本件最初の原出願で「一般式Ga_(x)Al_(1-x)N(但し 0≦X≦1である)で表される窒化ガリウム系化合物半導体」よりなるとされていた発光素子が、単に「窒化ガリウム系化合物半導体」を備えるとされている。この「一般式Ga_(x)Al_(1-x)N(但し0≦X≦1である)」の要件を削除した「窒化ガリウム系化合物半導体」は、一般式Ga_(x)Al_(1-x)N(但し0≦X≦1)で表される窒化ガリウム系化合物半導体(AlGaN素子)の上位概念であって「InGaN」をも含むものということになる。また、本件第1分割出願の請求項1及び2において、本件最初の原出願で発明特定事項(構成要件)とされていた「樹脂モールド」が削除されている・・・(審判請求書22頁?23頁4ア(サ))。
(4)・・・本件最初の原出願に係る発明は、専ら「一般式がGa_(x)Al_(1-x)N(但し0≦X≦1である。)で表される窒化ガリウム系化合物半導体」を念頭に置いてなされたもので、・・・本件最初の原出願の当初明細書等においては、発光素子として一般式Ga_(x)Al_(1-x)N(但し0≦X≦1)で表される窒化ガリウム系化合物半導体(AlGaN素子)以外のものは一切記載されていない。
・・・
ところが、本件第1分割出願の「窒化ガリウム系化合物半導体」は抽象的な上位概念としての「窒化ガリウム系化合物半導体」であって、「窒化ガリウム」を満たせばあらゆるものを包含するということになり、出願時(平成3年)に周知・慣用技術でなかった「InGaN」をも包含するというのであるから、「一般式Ga_(x)Al_(1-x)N(但し0≦X≦1である)で表される窒化ガリウム系化合物半導体」を「窒化ガリウム系化合物半導体」に変更することが、「発明の構成に関する技術的事項」の実質的変更に当たることは言うまでもない。
また、「樹脂モールド」の削除については、そもそも本件最初の原出願が「発光素子を樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオード」に関するものであり・・・、樹脂モールドが存しない発光ダイオードについての技術的事項は、本件最初の原出願の当初明細書等に記載がなく、またその記載からみて自明でもないから、要旨変更となる・・・。
したがって、本件第1分割出願は本件最初の原出願の当初明細書等の記載の範囲内で分割されたものではないから、分割要件を満たさず、その出願日は平成9年10月20日となる・・・。
また、以上によると、本件特許出願の出願日が、本件最初の原出願の出願日である平成3年11月25日まで遡及しないことは明らかで、本件特許出願の出願日は、せいぜい本件第1分割出願の出願日である平成9年10月20日ということになる・・・(審判請求書26頁?27頁)。
(5)そして、被請求人が主張するような分割要件の判断基準では、例えば親出願と、その適法な分割出願である子出願と、更にその適法な分割出願である孫出願があった場合、孫出願の出願日は親出願の出願日まで遡及するはずであるが、もし孫出願の出願手続がされた後に子出願について新規事項を追加する補正や訂正がなされて、子出願の出願日が親出願の出願日まで遡及しなくなると、孫出願の出願日も、もはや別出願であるはずの子出願の出願日に引っ張られる形で親出願の出願日まで遡及しなくなり、孫出願の法的安定性が害されることになる。このことは、特に、孫出願の出願人が子出願の出願人と異なっている場合や、孫出願に係る発明に対して利害関係を有する第三者がいる場合等に問題となる。
したがって、被請求人の主張は失当である・・・(審判事件弁駁書4頁、口頭審理陳述要領書4頁?5頁)。

4 被請求人の主張の概要
(1)請求人の主張する無効理由の要点は、以下の通りである。
本件特許は、最初の原出願(特願平3-336011)から7世代目の分割出願にあたるところ、第1世代の分割出願(特願平9-306393・・・)は、その出願当初の請求項1及び2が最初の原出願の当初明細書に記載された発明の要旨を変更するものであるから、不適法な分割であり、本件特許の出願日は早くても本件第1分割出願の現実の出願日である平成9年10月20日となり、本件特許の各請求項に係る発明は、平成5年6月18日に公開された最初の原出願の公開公報(甲第1号証:特開平5-152609号公報)に基づいて新規性進歩性が阻却される(答弁書3頁)。
(2)本件第1分割出願は、その出願経過において、平成10年11月27日付け手続補正書(乙第1号証)によって請求項1は大巾に補正され、請求項2は削除された後、登録に至っている(乙第2号証)(答弁書3頁)。
(3)分割出願出願経過において補正された場合、当該補正後の分割出願に基づいて分割適法性を判断すべきことは、補正の遡及効から当然であり、審査基準にもその旨明記されている・・・(答弁書4頁)。
(4)しかるに請求人は、本件第1分割出願の出願当初の明細書に記載された請求項1及び2に基づいて、分割が不適法であると主張しており、その主張の前提に誤りがある(答弁書4頁)。

5 当審の判断
(1)請求人の主張3(2)?(4)について
ア (本件第1)分割出願の分割要件を判断するにあたり、請求人が主張するように(上記3(3)及び(4))、当該(本件第1)分割出願の出願当初の特許請求の範囲の各請求項が(本件最初の)原出願の当初明細書に記載された発明の要旨を変更するか否かに基づいて判断をすることは、当該(本件第1)分割出願が、その出願経過において明細書、特許請求の範囲又は図面を補正することが認められており、また、実際に本件第1分割出願の特許請求の範囲がその出願経過において補正されたことを踏まえれば、適切とはいえない。(本件第1)分割出願につき、その明細書、特許請求の範囲又は図面がその出願経過において適法な補正がなされた場合には、当該補正された明細書、特許請求の範囲又は図面が分割時に願書に添付されていたものとして、当該分割出願の分割要件を判断すべきである。
イ よって、本件第1分割出願の出願当初の明細書に記載された請求項1及び2に基づき、本件第1分割出願は、本件最初の当初明細書等の記載の範囲内で分割されたものではないから、分割要件を満たさず、その出願日は平成9年10月20日となり、その結果、本件特許出願の出願日が本件最初の原出願の出願日である平成3年11月25日まで遡及しない、とする請求人の主張は採用することができない。
(2)請求人の主張3(5)について
ア 請求人は、上記3(5)のとおり、「被請求人が主張するような分割要件の判断基準では、例えば親出願と、その適法な分割出願である子出願と、更にその適法な分割出願である孫出願があった場合、孫出願の出願日は親出願の出願日まで遡及するはずであるが、もし孫出願の出願手続がされた後に子出願について新規事項を追加する補正や訂正がなされて、子出願の出願日が親出願の出願日まで遡及しなくなると、孫出願の出願日も、もはや別出願であるはずの子出願の出願日に引っ張られる形で親出願の出願日まで遡及しなくなり、孫出願の法的安定性が害される」と主張する。
イ 確かに、上記アのように、まず「親出願」が出願され、その後その適法な分割出願である「子出願」が出願され、更にその後にその適法な分割出願である「孫出願」が出願された場合には、当該「孫出願」の出願日は「親出願」の出願日まで遡及したものとして取り扱われる。そして、もし「子出願」につき、新規事項を追加する補正や訂正がなされた場合には、当該「子出願」についてはその出願日が「親出願」の出願日まで遡及したものとしては取り扱われない。
ウ しかしながら、前記「孫出願」について、その出願日の遡及が認められるか否かは、当該「孫出願」が、以下のような実体的要件を満たすか否かで判断されるものと解される。
(ア)原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明の全部を分割出願に係る発明としたものではないこと
(イ)分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であること
すなわち、分割出願である「孫出願」の出願日が、「親出願」の出願日まで遡及したものとみなされるか否かは、あくまで当該「孫出願」が、「親出願」及び「子出願」に対して上記(ア)及び(イ)の要件を満たすかどうかにより判断されるのであって、「子出願」の出願日が「親出願」の出願日まで遡及するかどうかと直接関係するものではない。
エ したがって、「もし孫出願の出願手続がされた後に子出願について新規事項を追加する補正や訂正がなされて、子出願の出願日が親出願の出願日まで遡及しなくなると、孫出願の出願日も、もはや別出願であるはずの子出願の出願日に引っ張られる形で親出願の出願日まで遡及しなくなり、孫出願の法的安定性が害される」との請求人の主張は採用できない。
(3)まとめ
上記(1)及び(2)のとおり、本件第1分割出願は本件最初の原出願の当初明細書等の記載の範囲内で分割されたものではなく、分割要件を満たさず、その出願日は平成9年10月20日となり、本件第1分割出願から6世代後の分割出願である本件分割出願も、本件最初の原出願の出願日の利益を享受することはできず、本件分割出願の出願日は現実の出願日である平成17年10月30日となるか、早くても平成9年10月20日である、とする請求人の主張は採用できない。

6 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-09-29 
出願番号 特願2005-317711(P2005-317711)
審決分類 P 1 113・ 113- Y (H01L)
P 1 113・ 121- Y (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉野 三寛居島 一仁門田 かづよ  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 稲積 義登
松川 直樹
登録日 2007-08-10 
登録番号 特許第3995011号(P3995011)
発明の名称 発光ダイオード  
代理人 高橋 綾  
代理人 鮫島 睦  
代理人 内島 裕  
代理人 大橋 君平  
代理人 近森 章宏  
代理人 伊藤 卓  
代理人 松田 純一  
代理人 言上 恵一  
代理人 古城 春実  
代理人 牧野 知彦  
代理人 西村 公芳  
代理人 田村 啓  
代理人 玄番 佐奈恵  

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