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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1247067
審判番号 不服2010-2450  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-04 
確定日 2011-11-17 
事件の表示 特願2002-337432「蓄電池」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月22日出願公開、特開2003-234105〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年11月21日(優先権主張 平成13年12月3日)の出願であって、平成21年3月4日付けで拒絶理由通知書が送付され、同年5月11日付けで意見書が提出されたものの、同年10月29日付けで拒絶査定されたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として請求されたもので、平成22年2月4日付けで審判請求書及び願書に添付した明細書又は図面についての手続補正書が提出され、その後、平成23年3月24日付け審尋が送付され、これに対し、同年5月18日付け回答書が提出されている。

第2 本願発明
本願発明は、平成22年2月4日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、これを「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「金属シートに、一定間隔ごとに途切れたスリットの連なりをこれらのスリットの途切れ部が千鳥状に配置されるように多数幅方向に並べて形成し、この金属シートを幅方向に引き伸ばして展開することにより、この幅方向に隣接するスリット間からなる各格子桟を途切れ部からなる各結節部を介して網状に繋げ格子体としたエキスパンド格子を極板に用いる蓄電池において、
各結節部におけるスリットの切断面に沿った最大断面の結節部断面積が、各格子桟における長手方向に直交する断面の格子桟断面積の2倍以上であり、かつ前記格子桟断面積が1.0mm^(2 )以上、3.5mm^(2) 以下であることを特徴とする蓄電池。」

第3 原査定の理由の概要
原審の拒絶査定の理由1は以下のとおりのものである。

「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


刊行物1;特開2000-348734号公報 」

第4 引用例とその記載事項
原審の拒絶査定の理由1に引用された刊行物1(以下、これを「引用例」という。)には次の記載がある。

(a);
「【請求項1】 鉛合金からなる四辺形の網目状部が形成され、この少なくとも1辺に集電部が備えられた格子体を用いた鉛蓄電池であって、前記網目状部は骨部とこの骨部と骨部とを結ぶ結節部とからなり、前記骨部はねじれており、前記骨部の幅(A)と前記結節部の幅(B)とが、1.0A≦B≦3.0Aとなっていることを特徴とする鉛蓄電池。
(省略)
【請求項3】 互いに平行な複数条のスリットを断続的に鉛シートの長手方向に沿って千鳥状になるよう形成するとともに、互いに平行に隣接しあうスリットにより形成される線条部を鉛合金シート面から表裏両方向に交互に凸状に突出するよう塑性変形させた後、この鉛合金シートを幅方向へ展開伸張することにより形成した網目部を格子体として用いる鉛蓄電池の製造法において、前記線条部の幅(A)と前記スリットとスリットとの間の幅(B)との関係が1.0A≦B≦3.0Aとしたことを特徴とする鉛蓄電池の製造法。」

(b);
「【0008】
【実施例】ここでロータリーエキスパンド方式について簡単に説明する。図1に示すように、円周部に凸状加工刃1を所定のピッチで配置した円盤状カッター2(2’)を、所定の間隔で複数枚重ね合わせたロール3(3’)の対に鉛合金シート4を通過させ、シートに凸状加工刃1が押し付けられることにより、図2に示すような格子骨となる線条部5が鉛合金シート4の面に対して上下方向に互いに逆向きの湾曲状に塑性変形される。このような構成により鉛合金シート4は回転するロール対3(3’)間を通過する際に円盤状カッター2(2’)によりせん断を受け、スリットが千鳥状に形成される。線条部5が形成された鉛合金シート4を幅方向に展開伸張して図3に示したような格子体が形成される。図3に9で示される幅が格子骨の幅寸法(A)であり、10で示される幅が結節部の幅寸法(B)である。通常、これ以降の段階で活物質となるペーストが充填された後に、所定の寸法に切断されて極板が形成される。
【0009】前記したロータリーエキスパンド方式にて10種類の鉛蓄電池用正極格子体(格子体A?J)を格子骨の幅寸法(A)と、結節部の幅寸法(B)を表1に示した通り変化させて作成した。鉛合金シートは合金Pb?0.06wt%Ca-2.0wt%Snからなる鋳造板(15mm厚み)をそれぞれ冷間圧延し、厚さ1.0mmの鉛合金シートとして使用した。」

(c);
「【0010】
【表1】
格子記号 格子骨の幅寸法(A) 結節部の幅寸法(B) B/A
格子A 1.0mm 0.8mm 0.8
格子B 1.0mm 1.0mm 1.0
格子C 1.0mm 2.0mm 2.0
格子D 1.0mm 3.0mm 3.0
格子E 1.0mm 3.5mm 3.5
格子F 1.5mm 0.8mm 0.8
格子G 1.5mm 1.0mm 1.0
格子H 1.5mm 2.0mm 2.0
格子I 1.5mm 3.0mm 3.0
格子J 1.5mm 3.5mm 3.5 」

(d);
「【0011】表1に示した格子体についてエキスパンド網目部の結節部におけるクラックの発生率を顕微鏡観察した。この結果を表2に示す。」

(e);
「【0012】 【表2】
格子記号 結節部でのクラック発生率(%) 備考
格子A 87 従来例
格子B 3 本実施例
格子C 0 本実施例
格子D 0 本実施例
格子E 0 格子骨部で骨折れが発生
格子F 18 従来例
格子G 0 本発明例
格子H 0 本発明例
格子I 0 本発明例
格子J 0 格子骨部で骨折れが発生」

(f);
「【0013】表2に示した結果から、本発明による結節部の幅寸法(B)を格子骨の幅寸法(A)の1.0倍以上にすることによりクラックの発生を抑制することが確認された。また、格子EおよびJについては結節部のクラックは発生しないが、結節部の強度が強すぎて格子骨部で骨切れを起こしてしまうことが確認された。結節部におけるクラックの発生を抑制する効果は、結節部の幅寸法(B)を格子骨の幅寸法(A)の1.0倍以上にすることにより得られるが3.0倍を超えると副作用として骨切れを生じることが確認された。」

(g);
「【0023】
【図面の簡単な説明】
(省略)
【図2】一般的なロータリー式エキスパンド加工工程により鉛合金シートにスリット形成された状態を示す図
(省略) 」

第5 当審の判断

1 引用例に記載された発明
引用例の(a)の請求項1には、「鉛合金からなる四辺形の網目状部が形成され、この少なくとも1辺に集電部が備えられた格子体を用いた鉛蓄電池であって、前記網目状部は骨部とこの骨部と骨部とを結ぶ結節部とからなり、前記骨部はねじれており、前記骨部の幅(A)と前記結節部の幅(B)とが、1.0A≦B≦3.0Aとなっていることを特徴とする鉛蓄電池」が記載されている。
ここで、上記(a)の請求項3によれば、この鉛蓄電池の格子体の「鉛合金からなる四辺形の網目状部」は、「互いに平行な複数条のスリットを断続的に鉛シートの長手方向に沿って千鳥状になるよう形成するとともに、互いに平行に隣接しあうスリットにより形成される線条部を鉛合金シート面から表裏両方向に交互に凸状に突出するよう塑性変形させた後、この鉛合金シートを幅方向へ展開伸張することにより形成」されたものであることが認められる。
一方、引用例の(b)?(f)によれば、表1には、ロータリーエキスパンド方式にて格子骨の幅寸法(A)と、結節部の幅寸法(B)を変化させて作成した10種類の鉛蓄電池用正極格子体(格子体A?J)が記載されており、また、表2には、表1に示した格子体について結節部のクラック発生率及び格子骨部での骨折れの発生の有無が示されており、そして、上記表1及び表2には、上記請求項1に記載された鉛蓄電池に用いられる格子体の実施例の一つとして、格子骨の幅寸法(A)が1.0mmであり、結節部の幅寸法が3.0mmである格子Dが記載されている。
以上によれば、引用例には、上記請求項1に記載された鉛電池において、格子体として、上記格子Dを用いた鉛蓄電池についての次の発明(以下、これを「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「互いに平行な複数条のスリットを断続的に鉛シートの長手方向に沿って千鳥状になるよう形成するとともに、互いに平行に隣接しあうスリットにより形成される線条部を鉛合金シート面から表裏両方向に交互に凸状に突出するよう塑性変形させた後、この鉛合金シートを幅方向へ展開伸張することにより網目状部が形成され、この少なくとも1辺に集電部が備えられた格子体を用いた鉛蓄電池において、
前記網目状部は骨部とこの骨部と骨部とを結ぶ結節部とからなり、前記骨部の幅が1.0mmであり、前記結節部の幅が3.0mmである鉛蓄電池。」

2 本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「鉛シート」は、互いに平行な複数条のスリットを長手方向に沿って断続的に千鳥状になるよう形成したものであり、これを換言すると、一定間隔ごとに途切れたスリットの連なりをこれらのスリットの途切れ部が千鳥状に配置されるように多数幅方向に並べて形成したものといえるから、本願発明の「金属シート」に相当する。
そして、引用発明の「格子体」は、上述のとおり、スリットを形成した金属シート(鉛シート)を、幅方向へ展開伸張することにより網目状に形成された格子体であるから、本願発明の「エキスパンド格子」に相当し、また、この格子体は、少なくとも1辺に集電部が備えられたものであるから、電極として用いられるものであることは明らかである。
一方、引用発明の「骨部」及び「結節部」は、網目状部、すなわち、格子体を構成するものであり、そのうち、結節部は、摘記(g)のロータリー式エキスパンド加工工程により鉛合金シートにスリット形成された状態を示す図2から明らかなとおり、上記金属シートのスリットの途切れ部からなるといえるから、それぞれ、本願発明の「格子桟」及び「途切れ部からなる結節部」に相当する。
以上を本願発明の記載振りに則り整理すると、両者は、「金属シートに、一定間隔ごとに途切れたスリットの連なりをこれらのスリットの途切れ部が千鳥状に配置されるように多数幅方向に並べて形成し、この金属シートを幅方向に引き伸ばして展開することにより、この幅方向に隣接するスリット間からなる各格子桟を途切れ部からなる各結節部を介して網状に繋げ格子体としたエキスパンド格子を極板に用いる蓄電池」である点で一致し、以下の点で一応の相違がみられる。

相違点;
(イ)本願発明では、各結節部におけるスリットの切断面に沿った最大断面の結節部断面積が、各格子桟における長手方向に直交する断面の格子桟断面積の2倍以上であるのに対して、引用発明では、各結節部におけるスリットの切断面に沿った最大断面の結節部断面積が、各格子桟における長手方向に直交する断面の格子桟断面積の2倍以上であるか否か不明である点
(ロ)本願発明では、前記格子桟断面積が1.0mm^(2 )以上、3.5mm^(2) 以下であるのに対して、引用発明では、前記格子桟断面積が1.0mm^(2 )以上、3.5mm^(2) 以下であるか否か不明である点

3 相違点についての判断
上記相違点(イ)及び(ロ)について併せて検討する。

(1)上記「1」で認定したとおり、引用発明では、格子桟(骨部)の幅が1.0mmであり、結節部の幅が3.0mmである。しかしながら、引用例には、格子桟及び結節部の厚さについて直接記載されていない。そこで、引用例の記載をさらに検討すると、引用例の(b)には、ロータリーエキスパンド方式で製造した表1に示した格子体A?Jについて、「鉛合金シートは合金Pb?0.06wt%Ca-2.0wt%Snからなる鋳造板(15mm厚み)をそれぞれ冷間圧延し、厚さ1.0mmの鉛合金シートとして使用した」と記載されている。この記載によれば、引用発明が用いた格子体(表1の格子体D)は、厚さ1.0mmの鉛合金シートをロータリーエキスパンド方式にて製造したものであることが認められる。
(2)ここで、以下に述べるとおり、厚さ1.0mmの鉛合金シートを用いてロータリーエキスパンド方式にてエキスパンド格子を製造した場合、形成された格子の格子桟及び結節部の厚さは、鉛合金シートと同じ1.0mmであると認められるから、引用発明においても、格子桟及び結節部の厚さは、鉛合金シートの厚さと等しく、1.0mmであると解するのが合理的である。
ア 特開2001-6687号公報には、4種のPb-Ca-Sn合金からなる鋳造板(15mm厚み)をそれぞれ冷間圧延し、厚さ1.0mmの鉛合金シートを作成し、これらのシートを使用してロータリーエキスパンド方式により作成した鉛蓄電池用正極格子体について、その格子体の格子桟(格子骨)の厚みは、1.0mmであることが記載されている(【0017】?【0019】参照)、また、特開2002-117861号公報には、蓄電池に用いられるエキスパンド格子について、エキスパンド格子は、例えば、Pb-Ca-Sn合金の鋳造物を圧延、押出等の塑性加工をし、更に圧延加工を施しシートとし、次にこのシートにエキスパンド加工を施すことにより製作できるが、この加工には、例えば、ロータリー等の従来の方法を用いることができること、そして、シート厚さは1mmであり、シートにエキスパンド加工を施すことにより製作したエキスパンド格子の結節部(ノード部)の厚さは1mmであることが記載されている(【0018】?【0020】参照)。
以上の記載によれば、厚さ1.0mmの鉛合金シートを用いてロータリーエキスパンド方式にてエキスパンド格子を製造した場合、変形により格子の格子桟及び結節部の厚さは実質的に変わることはなく、形成された格子の格子桟及び結節部の厚さは、鉛合金シートと同じ1.0mmであることが認められる。
イ ところで、請求人は、ロータリエキスパンド格子の結節部は、鉛合金シートへのスリット形成時にロールによって加圧成形されて変形することから、結節部の厚さは、鉛合金シートの厚さがそのまま維持されることはないと主張する(平成21年5月11日付け意見書)。
しかし、特開平3-204126号公報には、バッテリーに用いられる格子状電極をロータリーエキスパンド方式によって製造する技術が記載されており、「図面の簡単な説明」によれば、第9図は結節部を形成する状態を部分的に示す縦断正面図である。そして、この第9図から明らかなとおり、鉛合金シート(ストリップ)から結節部bを形成する際、結節部bの左右端部は、それぞれ上下の円板状カッター1の刃部5によりせん断され、そして、せん断された結節部bの右端部が下方の円板状カッター1により押し上げられるとともに、左端部が上方の円板状カッター1に押し下げられることにより、結節部bは段差のある形状に変形されている。
このように、ロータリーエキスパンド方式により結節部を形成する際、結節部の変形は、円板状カッターによってその左右の端部を、それぞれ上面又は下面の一方の面から押して段差のある形状に変形するものであって、圧延による変形のように、上下のロールによって金属板の同一部分を上下両面から圧下することにより板の厚さ方向に押し潰し、その厚さを減少する変形ではないことからみて、その変形により結節部の厚さが実質的に減少することはないと解しても不合理はない。したがって、ロータリーエキスパンド格子の結節部の厚さは、鉛合金シートの厚さが実質的に維持されているというべきである。
(3)以上のとおり、引用発明の格子桟の幅及び結節部の幅は、それぞれ、1.0mm及び3.0mであり、一方、厚さは、鉛合金シートの厚さと等しく、1.0mmであると解するのが合理的であるから、引用発明において、格子桟における長手方向に直交する断面の格子桟断面積は1.0mm^(2)(幅1.0mm×厚さ1.0mm)であり、結節部におけるスリットの切断面に沿った結節部断面積は3.0mm^(2)(幅3.0mm×厚さ1.0mm)となり、すなわち、引用発明では、前記結節部断面積が、前記格子桟断面積の3倍であり、かつ前記格子桟の断面積が1.0mm^(2)であるということができる。
したがって、引用発明においても、本願発明と同様に、各結節部におけるスリットの切断面に沿った最大断面の結節部断面積が、各格子桟における長手方向に直交する断面の格子桟断面積の2倍以上であり、かつ、前記格子桟断面積が1.0mm^(2 )以上、3.5mm^(2) 以下であると認められる。
よって、上記相違点(イ)及び(ロ)は、いずれも実質的な相違ではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明である。
したがって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-13 
結審通知日 2011-09-20 
審決日 2011-10-04 
出願番号 特願2002-337432(P2002-337432)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 113- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸 智之松岡 徹  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 野田 定文
山本 一正
発明の名称 蓄電池  

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