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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1247127
審判番号 不服2009-22279  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-16 
確定日 2011-11-16 
事件の表示 特願2005- 59418「燃料電池用改質器およびこれを含む燃料電池システム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月15日出願公開、特開2005-251750〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年3月3日(パリ条約による優先権主張 2004年3月3日)の出願であって、平成21年7月6日付けの拒絶査定に対して、同年11月16日に審判請求がされるとともに同日付けで手続補正がされ、当審において、平成22年10月22日付けで前置報告書に基づく審尋をしたところ、回答書の提出がなかったものである。
そして、その発明は、平成21年11月16日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
燃料、空気、水素ガスが流通するチャンネルを有し、熱伝導体からなるプレートタイプに形成される反応部を複数含み,
前記複数の反応部は,
燃料と空気の酸化触媒反応により熱エネルギーを発生する単数の熱エネルギー発生部と;
前記熱エネルギー発生部上に配置され,前記熱エネルギー発生部とは別途に燃料を受けるとともに,前記熱エネルギー発生部から熱を吸収して水素ガスを生成する水素ガス生成部と;
を含み,
前記反応部が積層されることを特徴とする,燃料電池用改質器。」(以下、これを「本願発明1」という。)

第2 原査定の理由の概要
原審における本願に対する拒絶査定の理由の1つは、概ね、本願発明1は、本願出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

<引用刊行物>
刊行物1 特開平10-236802号公報
刊行物2 特開2003-89502号公報

第3 刊行物1、2の記載事項
上記刊行物1、2には、以下の記載がある。
1.刊行物1
[1a]「【請求項1】 水とアルコール或いは炭化水素からなる液体原料を加熱する液体原料加熱部、
加熱した液体原料を蒸発させて改質原料ガスを生成する蒸発部、
この改質原料ガスを蒸発温度から改質温度までに過熱する蒸気過熱部、
過熱した改質原料ガスから水素リッチの改質ガスを改質触媒により生成する改質部、
触媒燃焼により改質熱を上記改質部に、蒸発熱を蒸発部および蒸気過熱部に供給する触媒燃焼部、
上記改質部で生成された改質ガス中のCOをシフト触媒により低減するシフト部、
このシフト部を出た改質ガス中のCOを触媒の酸化により低減するCO酸化部、
上記触媒燃焼による高温の燃焼ガスによる排熱を上記蒸気過熱部および蒸発部の熱源とする熱回収部の各要素を、周囲に給気・排気を行うマニホールド、内部に伝熱フィンを有した軽合金製の平板状の平板要素に形成し、これら平板要素を高温側から低温側へ触媒燃焼部、改質部、蒸気過熱部、熱回収部、シフト部、蒸発部、CO酸化部、液体原料加熱部の順序で互いに近接させて積層して一体化構造にすることを特徴とする燃料改質装置。」

[1b]「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば一般電源用の可搬型燃料電池、あるいは電気自動車に搭載する燃料電池等に必要な水素を生成するために用いられ、アルコール原料または炭化水素原料を水素リッチの改質ガスに変換する燃料改質装置に関するものである。」

[1c]「【0030】・・・平板の内部にプレス加工に適した軽合金製の伝熱フィンを用い、平板の外周部に打ち抜き加工に適したマニホールドを用いて平板要素の流路を構成し・・・」

[1d]「【0046】
【発明の実施の形態】実施の形態1.以下、この発明に係る燃料改質装置の実施の形態1を、液体原料をメタノールと水とした場合で説明する。図1中の左側のブロック図は本実施の形態に係る燃料改質装置の全体を示す構成図であり、構成要素の基本的な配置を示す。・・・
【0047】・・・
【0048】・・・図中、実線は液体原料、過熱蒸気の流れを示し、破線は改質ガスの流れ、一点鎖線は燃焼ガスの流れを示す。」

[1e]「【0056】なお、図1では、改質部4と蒸気過熱部3の間に複数個に分割した平板要素の触媒燃焼部6aを設け、蒸発部2とCO酸化部5の間に複数個に分割した平板要素の低温熱回収部7aを設けているが、平板要素の積層順序は図1に限定されるものではなく、各平板要素で適切な温度分布が実現されれば、分割した触媒燃焼部6a、低温熱回収部7aを設置しない構成としても良い。」

[1f]「【0079】本実施の形態に係る燃料改質装置の多層改質部4と触媒燃焼部6a,6bについて説明する。燃料改質装置の多層改質部4,触媒燃焼部6a,6bの構造を図6、図7に示す。図6は多層改質部4におけるメタノール・水の蒸気、改質ガス流れを表し、図7は触媒燃焼部6a,6bにおけるオフガス、空気、燃焼ガス流れを表す。」

[1g]「【0080】多層改質部4おいて・・・過熱蒸気供給マニホールド18より供給された液体原料は伝熱フィン27で個々に囲まれた複数の改質触媒33を通して改質ガス排気マニホールド19aへと改質ガスが抜ける。
【0081】・・・メタノール・水の過熱蒸気は、メタノールと水蒸気を改質触媒の作用により水素と二酸化炭素に変換し、水素リッチの改質ガスにする。」

[1h]「【0084】触媒燃焼部6aは図7に示すように、オフガスを供給する燃料室34a、空気を供給する空気室35aより構成する。燃料室34aと空気室35aの間に分散板37を設置し、分散板37を介してオフガスと燃焼用空気を燃焼部面内に分散供給する。各室34a,35a内には伝熱フィン27を設け、伝熱フィン27の内側に燃焼触媒36を充填する。
【0085】・・・オフガス燃焼に必要な電池オフガスと空気は、それぞれの供給マニホールドから別個に燃料室34a、空気室35aに供給し、分散板37の分散孔を介して面内で相互に拡散させながら燃焼を行わせる。
【0086】触媒燃焼部6a,6bの燃料室34aと空気室35aの温度は、水素濃度が高い燃料室の温度が高くなるので、燃焼熱を改質熱に有効に伝達するため、触媒燃焼部6a,6bと多層改質部4を積層する場合は、燃料室34aと改質部4が接するように配置する。オフガスと空気はそれぞれ上下2つの触媒燃焼部6a,6bに分配され、多層改質部4を両側から加熱する。下部の触媒燃焼部6bは燃料室34bと空気室35bから構成する。」

[1i]「【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態1による燃料改質装置の基本的構成を示す構成図と積層方向の温度分布を示す図である。
・・・
【図6】 本発明の実施の形態1に係る改質部の構造と改質ガスの流れを示す模式図である。
【図7】 本発明の実施の形態4に係る触媒燃焼部の構造とオフガス、空気、燃焼ガスの流れを示す模式図である。」

2.刊行物2
[2a]「【請求項1】 平板の積層構造により燃焼触媒を備えた燃焼部と、改質燃料を反応させて水素と二酸化炭素にする触媒を備えた改質部とを設けるとともに、上記燃焼部へ連通する通路と、改質部へ連通する通路とを設けたメタノール改質装置において、上記改質部で生成された副生成物としての一酸化炭素を二酸化炭素に酸化させる酸化部を設けたことを特徴とするメタノール改質装置。」

[2b]「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、燃料電池電気自動車に必要な燃料水素を高効率で発生させることができ、CO濃度を十分に低減するコンパクトなメタノール改質装置に関する。」

[2c]「【0011】図3に改質部12、気化、予熱部13,14、CO酸化部15およびCO酸化部冷却装置を組み込んだ改質器20について、CH_(3)OH(メタノール)と水とからなる改質燃料を反応させてH_(2)とCO_(2)にする改質ガスの流路21を図中の実線で示す。また、CH_(3)OHと空気とからなる燃焼燃料がCO_(2)と水に燃焼される燃焼排ガスの流路22を破線で示し・・・」

[2d]「【0012】・・・改質部12でも吸熱反応である改質反応に燃焼部11での反応熱が金属製薄板1B・・・を介して供給され、高い反応率で改質反応が進行する。」

第4 当審の判断
1.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、[1a]、[1b]によれば、液体原料加熱部、蒸発部、蒸気過熱部、改質部、触媒燃焼部、シフト部、CO酸化部、熱回収部の各要素を、軽合金製の平板状の平板要素に形成し、これら平板要素を高温側から低温側へ触媒燃焼部、改質部、蒸気過熱部、熱回収部、シフト部、蒸発部、CO酸化部、液体原料加熱部の順序で積層して一体化構造にした、燃料電池用の燃料改質装置が記載され、[1c]によれば、伝熱フィンを用いて平板要素の流路が構成されることが記載され、[1d]に記載された実施の形態1.では、図1によれば触媒燃焼部と改質部は、燃料改質装置の下から上に向かって、触媒燃焼部6b、改質部4、触媒燃焼部6aの順で積層配置され、[1h]によれば、触媒燃焼部6a、6bは、オフガスと空気を燃焼触媒の作用により燃焼を行わせ、燃焼熱を改質熱に伝達して改質部4を両側から加熱し、[1g]によれば、改質部4は、メタノール・水の過熱蒸気から改質触媒の作用により水素リッチの改質ガスを生成することが記載され、[1f]、図6、7によれば、伝熱フィンによる流路をオフガス、空気、及び燃焼ガスが流通する触媒燃焼部6a、6b、伝熱フィンによる流路をメタノール・水の蒸気、及び改質ガスが流通する改質部4が記載されているといえる。ここで、2つの触媒燃焼部6a、6bは、オフガスと空気の酸化触媒反応により熱エネルギー(燃焼熱)を発生する反応部といえるし、改質部4は、メタノール・水の過熱蒸気を受けるとともに、改質触媒作用により水素リッチのガスを生成する反応部といえる。
そこで、刊行物1の[1a]?[1d]、[1f]?[1i]の記載を総合すると、刊行物1には、以下の発明が記載されていることになる。

「メタノール・水の蒸気、オフガス、空気、燃焼ガス、水素リッチの改質ガスが流通する流路を有し、軽合金製の平板状の平板要素に形成される反応部を複数含み、前記複数の反応部は、オフガスと空気の酸化触媒反応により熱エネルギーを発生する上下に設置された2つの触媒燃焼部6a、6bと、前記2つの触媒燃焼部6a、6b間に配置され、前記触媒燃焼部6a、6bとは別途にメタノール・水の蒸気を受けるとともに、前記触媒燃焼部6a、6bから熱を吸収して、水素リッチの改質ガスを生成する改質部とを含み、前記反応部が積層される燃料電池用改質器。」(以下、「引用発明」という。)

2.本願発明1と引用発明との対比
引用発明の「メタノール」、「流路」、「軽合金製の平板状の平板要素」、「触媒燃焼部」、及び「改質部」は、それぞれ本願発明1の「燃料」、「チャンネル」、「熱伝導体からなるプレートタイプ」、「熱エネルギー発生部」、及び「水素ガス生成部」に相当する。
また、本願発明1の「燃料、空気、水素ガスが流通する」なる記載、「水素ガスを生成する水素ガス生成部」なる記載に関して、本願明細書の、「【0036】・・・液体燃料と水が混合された燃料を便宜上混合燃料と定義するものとする。」との記載、「【0064】第3反応部33は・・・第2反応部32で蒸発された混合燃料から水素ガスを発生させる機能を有している」、との記載、「【0058】・・・燃料と空気とが第1チャンネル31aを通過しながら燃焼されるときに発生する燃焼ガス」との記載、「【0081】・・・第3反応部33は,水蒸気改質触媒反応によって混合燃料から水素ガスを発生する。しかしながら・・・副生成物としての一酸化炭素が微量含有された水素ガスを生成する」との記載を考慮すれば、上記「燃料、空気、水素ガスが流通する」とは、水、燃焼ガス、一酸化炭素等の、「燃料、空気、水素ガス」以外の流体が流通することを妨げるものではないし、上記「水素ガスを生成する水素ガス生成部」では、水素ガスのみが生成しているものではないことが明らかである。
すると、両者は、
「燃料、空気、水素ガスが流通するチャンネルを有し、熱伝導体からなるプレートタイプに形成される反応部を複数含み、前記複数の反応部は、酸化触媒反応により熱エネルギーを発生する熱エネルギー発生部と;前記熱エネルギー発生部に隣接して配置され、前記熱エネルギー発生部とは別途に燃料を受けるとともに、前記熱エネルギー発生部から熱を吸収して水素ガスを生成する水素ガス生成部と;を含み、前記反応部が積層される燃料電池用改質器。」で一致し、次の点で相違する。

相違点:
(イ)本願発明1は、熱エネルギー発生部での酸化触媒反応が、燃料と空気の反応であるのに対し、引用発明は、オフガスと空気の反応である点

(ロ)本願発明1は、熱エネルギー発生部が単数であって、水素ガス生成部が、熱エネルギー発生部上に配置されるのに対し、引用発明は、熱エネルギー発生部が2つであって、水素ガス生成部が、上下に設置された2つの熱エネルギー発生部間に配置される点

3.相違点についての判断
3-1.相違点(イ)について
刊行物2の[2a]、[2b]、[2d]によれば、燃焼触媒を備えた燃焼部と、燃焼部での反応熱を吸収して改質燃料を水素と二酸化炭素に変換する改質部とを含む燃料電池用のメタノール改質装置が記載され、[2c]によれば、燃焼部と改質部とでは、改質燃料であるメタノールを共通して用いることが記載されている。
これらの記載から、燃料電池用改質装置の燃焼部(熱エネルギー発生部)において、燃焼触媒反応(酸化触媒反応)に、改質燃料であるメタノールと空気を用いることは、公知の事項と認められる。
そうであれば、引用発明において、熱エネルギー発生部での酸化触媒反応にオフガスと空気を用いることに替えて、改質燃料であるメタノールと空気を用いることは、上記公知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

3-2.相違点(ロ)について
刊行物1の[1e]によれば、平板要素の積層順序は図1に限定されるものではなく、分割した触媒燃焼部6aを設置しない構成としてもよいことが記載され、図1から、触媒燃焼部6aは、改質部(水素ガス生成部)4の上と下に設置された2つの触媒燃焼部(熱エネルギー発生部)6a、6bのうち、上に設置されたものであることが明らかである。
そうであれば、引用発明において、2つの熱エネルギー発生部のうち、水素ガス生成部の上のものを設置しない構成とすることは当業者にとって格別困難なことではない。

そして、本願発明1の奏する効果も、刊行物1、2の記載から予測することができる程度のものであって、格別顕著であるとは認められない。

したがって、本願発明1は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、原査定は妥当である。
したがって、請求項2?16に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-14 
結審通知日 2011-06-21 
審決日 2011-07-05 
出願番号 特願2005-59418(P2005-59418)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 能宏國島 明弘  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 山本 一正
田中 則充
発明の名称 燃料電池用改質器およびこれを含む燃料電池システム  
代理人 アイ・ピー・ディー国際特許業務法人  

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