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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1247145
審判番号 不服2010-16682  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-23 
確定日 2011-11-16 
事件の表示 特願2003-517674「電子ビーム処理」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月13日国際公開、WO03/12551、平成16年12月16日国内公表、特表2004-537758〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成14年7月27日(パリ条約による優先権主張 平成13年7月27日 米国)の出願であって、平成16年1月27日付けで特許法第184条の5第1項の規定による書面が提出されるとともに特許法第184条の4第1項の規定による明細書、特許請求の範囲及び図面の翻訳文が提出され、平成21年8月28日付けで拒絶理由が通知され、平成22年2月26日付けで手続補正がなされ、同年3月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年7月23日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。



2.本願発明

本願の請求項1乃至39に係る発明は、平成22年2月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至39に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項25に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「 金属物質をエッチングする方法であって、
電子ビーム活性化エッチング液ガスを金属物質を有する表面に向けて照射する工程と、
電子ビームを金属物質に向けて照射する工程であって、電子ビームが電子ビーム活性化エッチング液ガスと前記金属物質の間の反応を誘起し、それによって、電子ビームが照射される箇所において前記表面から前記金属物質をエッチングするものとからなる方法。」



3.引用発明

3-1.刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第98/047172号(以下「引用例」と言う。)には、以下の技術事項が記載(当審注:当審による邦訳)されている。(引用箇所の表示に際しては、各葉の上部中央の数字を頁番号と見立てた。なお、第1頁については頁番号の数字が記載されていないが、第2頁の1つ前の頁を第1頁とした。)
(後述の「3-2.引用発明の認定」において引用した邦訳文の記載に下線を付した。)

記載事項a.請求項1
「 基板上にパターン付けされた半透明薄膜を備えたワークから余剰部分を除去するのに集束粒子ビーム装置を用いる方法であって、
集束粒子ビームで前記ワークの前記余剰部分を照射する段階と、
前記照射する段階と同時に、エッチングガスを前記余剰部分の選択した近接個所に導入する段階と、
前記エッチングガスが臭素と水蒸気とを含み、
前記半透明薄膜から選択した部分が除去された時点で、前記照射する段階
を中止する段階と、
を包含する方法。」

記載事項b.第1頁第4行乃至第6行
「 本発明は、一般的には集束イオンビーム加工に関するものであり、又より特定すれば、例えばフォトマスク、X線マスクあるいはレティクルなどのような、基板上にパターン付けした不透明薄膜を有するワークの修理に関する。」

記載事項c.第3頁第2行乃至第4頁第4行
「 本発明は、基板上にパターン付けされた半透明薄膜を備えたワークから余剰部分を除去するのに集束粒子ビーム装置を用いる方法を提供する。本発明の一様態では、(i)XおよびY方向に移動可能な可動ステージ上に前記ワークを載置する段階と、(ii)基板上にパターン付けされた半透明薄膜を備えたワークの選択された表面部分を集束粒子ビームで走査する段階と、(iii)前記ワーク走査段階の結果として前記ワークから放出された粒子の強度を検出する段階と、(iv)前記粒子の検出強度に基づいて、前記パターン付けされた薄膜の形状を特定する段階と、(v)前記パターン付けされた薄膜の形状に基づいて、前記パターン付けされた薄膜の余剰部分を特定する段階と、(vi)前記集束粒子ビームで前記余剰部分をエッチングする段階と、(vii)前記エッチングする段階と同時に、前記余剰部分の選択した近接部分へエッチングガスを導入する段階と、を含む。前記エッチングガスには、臭素が含まれる。前記エッチングガスは、水蒸気を更に含んでも良い。製造業者は、クロムに基づく薄膜およびケイ化モリブデンに基づく薄膜を含む様々な半透明薄膜を前記基板にパターン付けできる。製造業者は、水晶を含む様々な材料から基板を作製できる。
本発明の一様態では、上述の方法は、(i)前記導入する段階に引き続いて、前記集束粒子ビームで前記基板の選択した部分を走査する段階と、(ii)前記基板の前記選択した部分による電磁放射の高透過率を確保するように、前記の基板を走査する段階と同時に、クリーンアップガスを加えて前記基板の前記選択した部分の表層を除去する段階とを、更に含むことができる。製造業者は、二弗化キセノンのようなフッ素を基とするクリーンアップガスを用いることができる。
本発明の別の様態では、前記走査する段階と同時に、前記選択した表面部分の選択した近接部分へ、臭素を含むエッチングガスを導入する段階、を更に含んでも良い。
ここで用いられる臭素という用語は、その骨格構造内に臭素原子を含むあらゆる化合物を包含する。上述の化合物は、ガス補助エッチングに用いられる条件下で、臭素分子を生成できる化合物が好ましい。
ここで用いられるクロム薄膜という用語は、クロム薄膜およびクロム酸素薄膜を包含する。
ここで用いられるケイ化モリブデン薄膜という用語は、ケイ化モリブデン薄膜およびケイ化モリブデン窒素酸素薄膜を包含する。
ここで用いられる粒子ビームという用語は、イオンビーム、電子ビーム、中性粒子ビーム、X線ビーム、およびワークを結像したりエッチングするのに適したそれ以外のあらゆる有効放射を包含する。更に、以下で詳しく説明するように、粒子ビームという用語には、市販の集束イオンビーム(FIB)装置によって発生されるガリウムイオンビームや、ガス場イオン源(GFIS)によって発生される不活性ガス(例えば、ヘリウムやアルゴン)イオンビームなどのイオンビームが含まれるものとする。」

記載事項d.第4頁第30行乃至第5頁第21行
「 基板表面上を粒子の集束ビームで走査することによって、基板粒子、即ち原子、イオンおよび分子を物理的にスパッター除去する。このスパッタリング加工は、粒子ビームの影響下で基板材料と反応して反応体種(このような化学種は、ビームのみによって生成される粒子よりも揮発性が高い)を形成する気相エッチング剤を導入することで改善される。こうした揮発性の反応生成物は、基板表面から容易に除去でき、従ってスパッタリング加工の効率を高める。不透明欠陥の修理などの作業に有益な選択的エッチングを行うことができる。気相エッチング剤の使用によって、水晶基板など一方の物質の除去が抑制されている一方、例えばクロム薄膜などの別の物質を集束粒子ビームにより除去する能力が強化されて、選択的エッチングが起こる。例えば、水晶基板に比べて、不透明クロム薄膜に対して選択的であるエッチング剤によって、ある厚さのクロム薄膜を除去するのに必要なビーム線量は、同じ厚さの水晶を除去するよりも少ない線量で可能である。このような選択的エッチングによって、より少ない粒子ビーム線量で、余剰部分の周辺から除去される(川床効果)基板がより少なく、また基板の汚染がより少なく済むように、基板上にパターン付けした不透明薄膜の余剰部分が、より迅速に且つより完全に除去される。
図1で示されているのは、基板上にパターン付けした不透明薄膜を修理するための本発明による集束粒子ビーム、即ち、集束イオンビーム(FIB)装置10の一実施例である。図1の装置10には、イオンカラム12、真空チャンバ22、反応物質送出装置34、およびユーザ制御ステーション50が含まれる。この装置10は、基板上にパターン付けした不透明薄膜を有するワークに精密なミリング加工を施すことができる集束粒子ビームシステムである。ワークは真空チャンバ22内に配置され、その上にカラム12で発生させたイオンビームを作用させて、ワークを結像させ、ミリング加工を施す。理解しやすいように、図4および5で、製造業者がチャンバ22内に配置して、装置10を用いて加工することができる一つのタイプのワークを部分的に示す。製造業者は、ここに模式的に示されたような集束粒子ビーム装置を用いて本発明を実施することができる。FIB装置の二つの本発明の実施例は、マサチューセッツ州ピーボデイのMicrion社が発売しているMicrion FIB装置の9100および8000モデルを改良したものである。」

記載事項e.第6頁第28行乃至第7頁第9行
「 同様に、反応物質送出装置34も、臭素ガスなどの反応物質を、真空チャンバ22の内部に、又より詳しく言えばチャンバ22内のワーク表面に近接するところに、送出するのに適切な装置であれば従来の如何なる反応物質送出装置でもよい。反応物質送出装置34は、ワーク30の表面に反応物質を送出することができ、ワーク表面のエッチングあるいは結像の性能を高める。
図示されている反応物質送出装置34は、ワーク表面に反応物質を送出するためのノズルとして形成された末端部を有する液体送出導管44に液体が伝わるように結合されているタンク36を含む。図示されている反応物質送出装置34には、ワーク30表面に送出される反応物質の導管44内部での送出圧を測定するために導管44に接続されている圧力計40が備わっている。圧力計40は、更に電動弁要素42に接続している。電動弁要素44は、液体送出導管44を通るタンク36の反応物質の流量を増減できるように選択的に制御可能である。図1で示されている圧力計40および電動弁42の組合せによって、フィードバック制御システムが構成される。このシステムにおいては、圧力計40によって導管44内部の送出圧が計測され、また選択送出圧を維持できるように反応物質の流量を増減するための電動弁42が選択的に制御される。」

記載事項f.第12頁第32行乃至第13頁第8行
「 臭素および水蒸気補助エッチングの半透明欠陥修理に関する利点には、次が含まれる。
・クロムを基にした薄膜を除去するのに必要なガリウム線量が、非ガス補助スパッタエッチングに比べて2.0乃至2.2倍少なくてすむ。
・下にある基板への損傷が非常に小さくなり、水晶表面は平坦で平滑な状態を維持し、オーバーエッチは1乃至5ナノメートルである。
・半透明欠陥の周辺の川床の深さは、非ガス補助スパッタエッチングに比べて明らかに減少し、臭素補助エッチング加工による川床は5乃至25ナノメートルであり、純スパッタリングエッチングによる80乃至100ナノメートルの川床に比べれば大きな改善である。
・透明水晶基板中の打込みガリウムの減少、つまり汚染(%Tの減少)の減少。
・修理された部分及びその周りの%T(透過)は、365ナノメートルの波長において97%を超えた。」


3-2.引用発明の認定

記載事項a乃至f及び各図を考慮して引用例に記載された発明を整理し、分説して記載すると、下記のとおりとなる(以下「引用発明」といい、また、分説された構成を「構成要件A」などという。)。

「A 基板上にパターン付けされた半透明薄膜を備えたワークから余剰部分を除去するのに集束粒子ビーム装置を用いる方法であって、

B ワーク表面に反応物質を送出するためのノズルとして形成された末端部を有する液体送出導管と、

C 臭素ガスなどの反応物質をワーク表面に送出する反応物質送出装置と、を有し、

D 半透明薄膜は、クロムに基づく薄膜およびケイ化モリブデンに基づく薄膜を含む様々な半透明薄膜であり、

E 基板上にパターン付けされた半透明薄膜を備えたワークの選択された表面部分を集束粒子ビームで走査する段階と、

F 前記ワーク走査段階の結果として前記ワークから放出された粒子の強度を検出する段階と、

G 前記粒子の検出強度に基づいて、前記パターン付けされた薄膜の形状を特定する段階と、

H 前記パターン付けされた薄膜の形状に基づいて、前記パターン付けされた薄膜の余剰部分を特定する段階と、

I 集束粒子ビームで前記ワークの前記余剰部分を照射する段階と、

J 前記照射する段階と同時に、エッチングガスを前記余剰部分の選択した近接個所に導入する段階と、
を含み、

K 基板上にパターン付けした不透明薄膜の余剰部分が、より迅速に且つより完全に除去され、

L エッチングガスには、臭素が含まれ、

M 基板表面上を粒子の集束ビームで走査することによって、基板粒子、即ち原子、イオンおよび分子を物理的にスパッター除去し、このスパッタリング加工は、粒子ビームの影響下で基板材料と反応して反応体種(このような化学種は、ビームのみによって生成される粒子よりも揮発性が高い)を形成する気相エッチング剤を導入することで改善され、

N 粒子ビームという用語は、イオンビーム、電子ビーム、中性粒子ビーム、X線ビーム、およびワークを結像したりエッチングするのに適したそれ以外のあらゆる有効放射を包含する、
方法。」



4.対比

本願発明と引用発明を対比する。

引用発明の構成要件Dから、引用発明の「半透明薄膜」は金属物質を含み、また、引用発明の構成要件H及びKから、引用発明の「余剰部分」は「半透明薄膜」の一部であるといえるから、引用発明の「余剰部分」は、本願発明の「金属物質」に相当する。
本願明細書【0056】等の記載からして、本願発明の「エッチングする」とは、選択的に物質を取り除くことを意味していると解される。よって、引用発明の「余剰部分を除去する」ことは、本願発明の「エッチングする」に相当する。
本願明細書【0024】等の記載からして、本願発明の「電子ビーム活性化エッチング液ガス」とは、電子ビームの照射により、化学反応を誘起して欠陥物質を取り除く作用を有する気体であると解される。一方、引用発明の構成要件C、L及びMから、引用発明の「反応物質」及び「エッチングガス」としての「臭素」は、粒子ビームの影響下で基板と反応して余剰物質を除去する作用を有している。また、本願明細書【0033】等の記載から、本願発明の「液ガス」とは、搬送中は液体であり、照射が行われる(低圧)空間において気体となるものを意味すると解される。一方、引用発明の構成要件Bから、引用発明の「反応物質」としての「臭素」は、搬送中は液体であるといえ、余剰部分に導入される空間において気体となることは明かである。さらに、引用発明の「(半透明薄膜の余剰部分に)導入する」と本願発明の「(金属物質を有する表面に)照射する」は、共に“対象に向けて気体を供給する”ことを意味しており、単なる表現上の差異に過ぎない。これらの点から、引用発明の「エッチングガスを前記余剰部分の選択した近接個所に導入する段階」と、本願発明の「電子ビーム活性化エッチング液ガスを金属物質を有する表面に向けて照射する工程」とは、「ビーム活性化エッチング液ガスを金属物質を有する表面に向けて照射する工程」である点で一致する。
引用発明の「集束粒子ビームで前記ワークの前記余剰部分を照射する段階」と本願発明の「電子ビームを金属物質に向けて照射する工程」とは、「ビームを金属物質に向けて照射する工程」である点で一致する。
引用発明の「基板表面上を粒子の集束ビームで走査することによって、基板粒子、即ち原子、イオンおよび分子を物理的にスパッター除去し、このスパッタリング加工は、粒子ビームの影響下で基板材料と反応して反応体種(このような化学種は、ビームのみによって生成される粒子よりも揮発性が高い)を形成する気相エッチング剤を導入することで改善され」ることと本願発明の「電子ビームが電子ビーム活性化エッチング液ガスと前記金属物質の間の反応を誘起し、それによって、電子ビームが照射される箇所において前記表面から前記金属物質をエッチングする」こととは、「ビームがビーム活性化エッチング液ガスと前記金属物質の間の反応を誘起し、それによって、ビームが照射される箇所において前記表面から前記金属物質をエッチングする」ことである点で一致する。

したがって、引用発明と本願発明とは、

「 金属物質をエッチングする方法であって、
ビーム活性化エッチング液ガスを金属物質を有する表面に向けて照射する工程と、
ビームを金属物質に向けて照射する工程であって、ビームがビーム活性化エッチング液ガスと前記金属物質の間の反応を誘起し、それによって、ビームが照射される箇所において前記表面から前記金属物質をエッチングするものとからなる方法。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明では、「電子ビーム」を用いているのに対し、引用発明では「集束粒子ビーム」を用いている点。



5.判断

引用発明の構成要件Nには、粒子ビームとして、電子ビームを用いることが示唆されている。
よって、引用発明に触れた当業者であれば、引用発明の集束粒子ビームとして電子ビームを用いることにより、相違点に係る構成を得ることは、容易に想到できたものといえる。

また、本願発明による効果は、引用発明から当業者が予測し得る範囲のものに過ぎない。

なお、請求人は審判請求書において、引用例に記載の発明について、“スパッタリングによるものであり、電子ビームを用いることは想定されていない”等主張している。しかしながら、引用発明の粒子ビームは、気相エッチング剤が基板材料と反応して反応体種を形成することに影響を与えるものであり(構成要件M)、また、引用発明は、ワークを結像したりエッチングするのに適した粒子ビームとして電子ビームを示唆するものである(構成要件N)。そうしてみると、引用発明に接した当業者においては、粒子ビームとして電子ビームを用いることが容易に想定できるものであり、請求人の主張は採用できない。



6.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-16 
結審通知日 2011-06-21 
審決日 2011-07-04 
出願番号 特願2003-517674(P2003-517674)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 秋田 将行大熊 靖夫  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 吉川 陽吾
樋口 信宏
発明の名称 電子ビーム処理  
代理人 山口 邦夫  

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