• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 D21F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 D21F
管理番号 1247395
審判番号 不服2008-22443  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-02 
確定日 2011-11-21 
事件の表示 特願2002-339878「継ぎ合せ抄紙機の布における継目の増強法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年6月13日出願公開、特開2003-166189〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年11月22日(パリ条約に基づく優先権主張2001年11月23日、米国)の出願であって、平成20年6月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年9月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
平成20年3月10日付けの手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、本願の請求項1ないし63に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし63に記載された事項によって特定されるものと認める。その請求項1の記載は、次のとおりである。(以下、請求項1に記載された事項によって特定される発明を「本願発明」という。)
「機械上で継ぎ合せ可能な抄紙機の布において、前記布は:
機械方向(MD)糸のシステムと第一の機械に直交する方向(CD)糸のシステム;前記MD糸のシステムの前記糸は第一織パターンで前記第一CD糸のシステムの前記糸と織合わせられて、一定の長さ、一定の幅、二つの縦の縁及び二つの横の縁を持つ長方形の状態に抄紙機の布の素地を形成しており、前記MD糸は前記抄紙機の布の前記長さの方向に前記二つの横の縁の間を連続的に行ったり来たりして伸長して、前記MD糸は更に、前記二つの横の縁の各々に沿って継ぎ合せループを形成しており;
第二CD糸のシステム;前記第二CD糸のシステムの前記糸は、前記第一CD糸のシステムと前記継ぎ合せループとの間で前記抄紙機の布の前記二つの横の縁の一つに沿う第一領域で前記MD糸のシステムの前記糸と第二織パターンで織合わせられており、ここで前記第二CD糸のシステムの2本以上の第二CD糸があり、前記第一領域は前記素地と以下の点の少なくとも一つの点で異なる:
a)前記第二CD糸の少なくとも若干の糸のデニールは前記第一CD糸のデニールと異なり;
b)前記第二CD糸の少なくとも若干の糸の間隔は前記第一CD糸の間隔と異なり;及び
c)少なくとも前記第二織パターンは前記第一織パターンと異なる、より成っている上記機械上で継ぎ合せ可能な抄紙機の布。」

3.拒絶査定の理由
原審の拒絶査定の理由は、概略、次のとおりと認める。
「この出願は、次の理由2又は理由3によって拒絶すべきものである。
[理由2]この出願の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された、下記《引用文献一覧》の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、この出願の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された、下記《引用文献一覧》の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
《引用文献一覧》
引用文献1.国際公開第01/4411号
引用文献2.特表平06-504591号公報
引用文献3.国際公開第00/12816号
引用文献4.国際公開第00/12813号
[理由3]この出願の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記《引用出願》の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
《引用出願》
特願2000-388930号(特開2002-194690号) 」

4.引用文献の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献2(特表平06-504591号公報)には、図面と共に次の記載がある。
a「1.製紙機…用の織成織地であって、2個の端部端縁のそれぞれに沿って複数個のシームループをループシームに設けてエンドレス織成織地を形成した織成織地において、前記端部端縁の少なくとも一方に少なくとも1個のストリング例えばエクストラヤーンスレッド(30)のような材料を設け、このエクストラヤーンスレッド(30)を、織地の正規のスレッド系(V1?V4)に隣接する前記一方の端縁に平行に延在させ、また織地の一方の第1側面に対向して前記シームループ(11?14)のこのような部分にのみ結合したことを特徴とする織成織地。」(請求の範囲第1項(2頁左上欄3?12行))
b「10.前記ストリング材料を、前記織地の前記正規スレッド系に隣接する前記端部端縁にほぼ平行な2個又はそれ以上のエクストラヤーンスレッド(30)により形成し、前記エクストラヤーンスレッド(30)のすべてを、前記織地の前記第1側面に対向する前記シームループ(11?14)の前記部分にのみ織り合わせた請求項1乃至9のうちのいずれか一項に記載の織成織地。」(請求の範囲第10項(2頁左下欄7?13行))
c「本発明は、製紙機又はセルロース製造機又はボード製造機用の織成織地であって、2個の端部端縁のそれぞれに沿って複数個のシームループをループシームに設けてエンドレス織成織地を形成した織成織地に関するものである。 特に、本発明は、このようなループシームを織成織地の残りの部分に適合させることにより、ループシームにおいてペーパーウェブにマーク(跡)が付くのを防止するようループシームを改善する。」(3頁左上欄6?13行)
d「図1は、既知の2層織成織地の実施例における経糸に平行な断面図であり、図2は図1のII-II線上の断面図である。図1の織成織地は、図面の紙面方向に延びている経糸スレッドV1、V2、V3、V4と、図面の紙面に直交する方向に延びており、また2層に分布した緯糸スレッド1?8とを有する。経糸スレッドV1?V4は比較的真っ直ぐな緯糸スレッド1?8の周りにクリンプし、各経糸スレッド、例えばV1を、緯糸スレッドの2個のレイヤL1、L2に対して周期的に「オーバー→中間→アンダー→中間」のパターンで配置する(図8の平面Aの左方参照)。 図3は図1及び図2における2層織地をいわゆるラウンド織成技術で織成する方法を線図的に示し、この場合、上述のタイプのシームループ11、11’を織地に同時に織り込む。図3の緯糸は1→2→2’→1’の順序で織り込む。いわゆるトップクロスの緯糸スレッド1、2は経糸スレッドに平行なシームスレッド10の周りのシームループ11を形成する。いわゆるボトムクロスの緯糸スレッド1’、2’は経糸スレッドに平行なシームスレッド10の周りのシームループ11’を形成する。図3の左方へのトップクロスとボトムクロスとの間の移行において、緯糸は織機端縁で不規則部分を形成する。 図4は、シームスレッド10を取り除いた状態のシームループ11及びループ11に近接する4個の経糸スレッドV1?V4の線図的拡大図を示す。 図5は、図1?図4による2層織成織地の端部端縁間の仕上がりループシームを線図的に示す。上述のように、シームループ11、11’はシームスレッド10の周りに緯糸1?8を織り込むことによって形成する。織成作業中に使用する以下に「織成シームスレッド」と称するシームスレッド10は、代表的には1.2?1.7の直径である。この織成シームスレッドはシームループから取り外してから織成織地を製紙機に取り付ける。製紙機におけるシームの最終結合のためには、僅かに小さい直径、例えば0.7mmの直径のシームスレッド10を通常使用し、ループに容易に挿通できるようにする。最終ループシームの周りの領域(図5参照)は、従って、織機に直接形成したシーム(図3参照)と比較するとより大きな空所を有する。この増加した空所を図5に示し、シーム領域は領域01、02、01により構成し、領域02は最終ループシームのシームスレッド10が占める領域であり、領域02の両側の2個の領域01、01は、それぞれシーム領域のこの増加した空所を生ずるループ11、11’の部分を表す。図5のシームをより簡素化して示した図6においては経糸スレッド及び緯糸スレッドにより構成した織成織地を20で示す。」(3頁右上欄3?左下欄15行)
e「図5は、点線26によりシーム領域の領域01の既知の空所減少技術を示す。製紙機のシームスレッド10によって織成織地を互いに結合した後、1個又はそれ以上の充填ヤーンスレッド26を領域01のシームループに通過させる。このようなスレッド26の使用により上述の問題P1及びP3(透水性及び通気性の変動に係わる)をある程度軽減する。充填ヤーンスレッドの使用は、しかし、スレッド26を挿入する前にバットの針通しを行うため、問題P2(バット係止不良)を解決せず、また充填ヤーンスレッド26を完全にシームループ11、11’内に配置し、従って、厚さ減少2×ΔTを排除することしができないため、問題P4(減少した厚さの問題)を解決しない。更に、充填ヤーンスレッドは、他の問題(P5)も生ずる。即ち、この技術は時間がかかり、このことは、ダウンタイムがコストに極めて決定的に影響するため特に深刻である。」(3頁右下欄下から2行?4頁左上欄12行)
f「図13には、織機の一部を線図的に示し、どのようにして1個以上のエクストラヤーンスレッドを本発明により挿入することができるかを示す。図13の参照符号40は、多数の垂直リードワイヤ42を有するリード(おさ)を示す。2個のワイヤ間の空間は、慣習的に「デント(dent)」と称され、図13では参照符号44で示す。各デントには8本の経糸即ち、トップクロスのための4本及びボトムクロスのための4木の経糸を収容する。経糸はヘッドル(図示せず)によって上方及び下方に案内される。トップクロスのために4本のエクストラヤーンスレッド30?33を設け、ボトムクロスのために4本のエクストラヤーンスレッド30’?33’を設ける(図13参照)。これら8本のエクストラヤーンスレッドのすべては、シームループ11、11’が織り込まれているシームスレッド10と同一のデント44内に配置する。 図13は、例えば、トップクロスのエクストラヤーンスレッド33及びボトムクロスのエクストラヤーンスレッド30’を対応の緯糸又はループ部分に結合せず、それぞれ矢印で示すように上方又は下方に摺動することを示す。 多くの又は太いエクストラヤーンスレッドを挿入する場合、シームスレッド10とは異なるデントにこれらエクストラヤーンスレッドを配置するとよい、この例を図14に示し、この点以外は図13と同様である。 図15には、図13又は図14により製造した織成織地における完成したループシームを示し(基本的に図13及び図14のどちらの実施例でも同一の最終結果が得られる)、参照符号46、46’は、エクストラヤーンスレッド30?33及び30’?33’がそれぞれとる領域に対応し、図5の従来技術の領域01に相当する。」(5頁右下欄下から5行?6頁左上欄下から6行)
g 図1ないし図3、図5、及び図15は次のとおりである。

(2)以上の記載並びに図1ないし図6、図8、及び図13ないし図15によれば、引用文献2には、次の発明が記載されていると認める。(以下、「引用発明」という。)
《引用発明》
「製紙機用の織成織地であって、経糸スレッドV1、V2、V3、V4と、緯糸スレッド1?8とを有し、
緯糸スレッド1?8の2個の端部端縁のそれぞれに沿って複数個のシームループ11、11’をループシームに設けてエンドレス織成織地を形成した織成織地において、
正規のスレッド系(V1?V4)である経糸スレッドV1?V4は、緯糸スレッドの2個のレイヤL1、L2に対して周期的に「オーバー→中間→アンダー→中間」のパターンで配置され、
2層織地をラウンド織成技術で織成したものであり、
前記端部端縁の少なくとも一方に4本のエクストラヤーンスレッド30?32を設け、このエクストラヤーンスレッド30?32を、織地の正規のスレッド系(V1?V4)に隣接する前記一方の端縁に平行に延在させ、また織地の一方の第1側面に対向したレイヤL1にのみ結合するパターンで配置した織成織地。」

5.対比
(1)本願発明と引用発明とを対比すると、次のとおりである。
a.引用発明の「製紙機用の織成織地」は、本願発明の「抄紙機の布」に相当する。
b.引用発明の「緯糸スレッド1?8」は、本願発明の「機械方向(MD)糸のシステム」に相当する。
c.引用発明の「経糸スレッドV1、V2、V3、V4」は、本願発明の「第一の機械に直交する方向(CD)糸のシステム」に相当する。
d.引用発明の「正規のスレッド系(V1?V4)である経糸スレッドV1?V4は、緯糸スレッドの2個のレイヤL1、L2に対して周期的に『オーバー→中間→アンダー→中間』のパターンで配置され」は、本願発明の「前記MD糸のシステムの前記糸は第一織パターンで前記第一CD糸のシステムの前記糸と織合わせられて」という要件を満たす。
e.引用発明は、製紙機用の織成織地であるから、「一定の長さ、一定の幅、二つの縦の縁及び二つの横の縁を持つ長方形の状態に」「素地を形成して」いることは、明らかである。したがって、引用発明は、本願発明の「一定の長さ、一定の幅、二つの縦の縁及び二つの横の縁を持つ長方形の状態に抄紙機の布の素地を形成しており」という要件を満たす。
f.引用発明が「2層織地をラウンド織成技術で織成したもの」であることは、本願発明の「前記MD糸は前記抄紙機の布の前記長さの方向に前記二つの横の縁の間を連続的に行ったり来たりして伸長して」という要件を満たす。
g.引用発明が「緯糸スレッド1?8の2個の端部端縁のそれぞれに沿って複数個のシームループ11、11’をループシームに設けてエンドレス織成織地を形成した織成織地」であることは、本願発明の「機械上で継ぎ合せ可能な抄紙機の布」という要件、及び「前記MD糸は更に、前記二つの横の縁の各々に沿って継ぎ合せループを形成しており」という要件を満たす。
h.引用発明の「エクストラヤーンスレッド30?32」は、本願発明の「第二CD糸のシステム」に相当する。
i.引用発明の「織地の正規のスレッド系(V1?V4)に隣接する前記一方の端縁」は、本願発明の「前記第一CD糸のシステムと前記継ぎ合せループとの間で前記抄紙機の布の前記二つの横の縁の一つに沿う第一領域」に相当する。
j.引用発明が「エクストラヤーンスレッド30?32を」「織地の一方の第1側面に対向したレイヤL1にのみ結合するパターンで配置した」ことは、本願発明の「前記第二CD糸のシステムの前記糸は」「前記MD糸のシステムの前記糸と第二織パターンで織合わせられており」との要件を満たす。
k.引用発明の「4本のエクストラヤーンスレッド30?32」は、本願発明の「前記第二CD糸のシステムの2本以上の第二CD糸があり」との要件を満たす。
l.引用発明において、「正規のスレッド系(V1?V4)である経糸スレッドV1?V4は、緯糸スレッドの2個のレイヤL1、L2に対して周期的に『オーバー→中間→アンダー→中間』のパターンで配置され」ており、かつ、「エクストラヤーンスレッド30?32を」「織地の一方の第1側面に対向したレイヤL1にのみ結合するパターンで配置した」ことは、本願発明の「c)少なくとも前記第二織パターンは前記第一織パターンと異なる」との要件を満たす。したがって、引用発明は、本願発明の「第一領域は前記素地と以下の点の少なくとも一つの点で異なる:a)前記第二CD糸の少なくとも若干の糸のデニールは前記第一CD糸のデニールと異なり;b)前記第二CD糸の少なくとも若干の糸の間隔は前記第一CD糸の間隔と異なり;及びc)少なくとも前記第二織パターンは前記第一織パターンと異なる」との要件を満たす。

(2)上記a?lを総合すると、引用発明は、本願発明が特定する全ての要件を満たすから、引用発明は、本願発明である。したがって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
なお、仮に、引用発明と本願発明とに相違する点があったとしても、その相違点は、当業者が容易に推考し得たことである。したがって、仮に、引用発明と本願発明とに相違する点があったとしても、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

6.引用文献1について
引用文献1(国際公開第01/4411号)にも、本願発明が特定する全ての要件を満たす発明が記載されている。したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
請求人は、平成20年11月19日付けで補正された審判請求書の[請求の理由]の欄の「5.本願発明と各引用文献との対比」「(1)理由2」「(j)」において「(j)原査定は、上記(d)の通り、『ペアであるから2本以上であることは自明である』と認定する。 しかしながら、本審判請求人は、この認定にも反論する。本願請求項2に記載の通り、第三CD糸のシステムにおいて2本以上の第三CD糸があることを示唆も教示もしていない。特に、引用文献1は、上記(d)で反論したように、上記3.(1)(ii)の通り、"a first pair of additional yarns"と明確に開示しており、"pair"と記載していることから、本願発明において必要とされる2本以上であるとは解し得ない。用語"pair"の意味は、当業者において「2」として一般的に知られており、原査定で認定したような2本以上として解釈することは、誤りである。」と主張している。
しかしながら、日本語の「以上」とは、「法律・数学などでは、基準の数量を含みそれより上。」(広辞苑第6版、同第4版)という意味、換言すれば「(基準の数量)と等しいか、又は、(基準の数量)より多い」という意味である。したがって、「2」が「2本以上」に該当することは明らかである。 "pair" すなわち2は、2本以上であるとは解し得ない旨の請求人の主張は、日本語の「以上」の意味を誤解若しくは曲解した主張であり、失当であるから、採用できない。

7.引用出願について
(1)引用出願(特願2000-388930号)の願書に最初に添付された明細書又は図面にも、本願発明が特定する全ての要件を満たす発明が記載されている。したがって、本願発明は、引用出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

(2)請求人は、審判請求書の[請求の理由]の欄の「5.本願発明と各引用文献との対比」「(2)理由3」「(b)」において「(b)本願発明と引用文献5(審決注:引用出願のこと)に記載の発明との差異は、単なる付加又は転換ではない。即ち、引用文献5は、機械方向に縦糸を使用し、機械を横切る方向に横糸を使用するものである(引用文献5の全記載参照)。一方、本願発明並びに請求項1及び2に記載の発明によると、横糸は、機械方向のヤーンを形成し、縦糸は、機械を横切る方向の糸を形成する(例えば、本願請求項1等参照)。この本願発明と引用文献5に記載の発明との2つの構造における差異は、単なる付加又は転換ではない。事実、この2つの構造は、技術的に正反対のものである。」と主張している。
しかしながら、この主張は、自らの発明である本願発明が特定する事項を誤解又は曲解した主張であり、失当である。請求人は、「請求項1」「に記載の発明によると、横糸は、機械方向のヤーンを形成し、縦糸は、機械を横切る方向の糸を形成する(例えば、本願請求項1等参照)」と主張しているが、「横糸は、機械方向のヤーンを形成し、縦糸は、機械を横切る方向の糸を形成する」ことは、本願請求項1に記載されていない。したがって、請求人の上記主張は、本願発明が特定する事項を誤解又は曲解したことに基づく主張であるから失当であり、採用できない。
さらに、請求人の主張は、引用出願の記載内容を誤解又は曲解した主張であり、失当である。例えば、引用出願の明細書段落0007に
「本発明においては、抄紙機上の経糸の折り返しにより形成される接合ループに芯線を通して両端部を接合するようにした製紙用シーム付き織物を製造するにあたり、織機上の耳部に接合ループが形成されるように織り上げる機織工程を有し、この機織工程において、耳部を保持するテンプル(伸子)の位置を調整して抄紙機上の緯糸となる整経糸の間隔を狭めることにより、接合ループの近傍に抄紙機上の緯糸が地の部分より密に配置された密領域を形成するものとした。より望ましくは、筬(リード)の1羽に通す整経糸の本数(入り)を部分的に増やすと良い。」(下線は当審で付与)
と記載されているから、引用出願に記載された発明では、抄紙機上の緯糸、すなわち、CD糸が、織機上の整経糸、すなわち経糸であることが明白である。
そうすると、「引用文献5は、機械方向に縦糸を使用し、機械を横切る方向に横糸を使用するものである」という請求人の主張は、引用出願の記載内容を誤解又は曲解したことに基づく主張であることが明らかであり、失当であるから、採用できない。

(3)請求人は、審判請求書の[請求の理由]の欄の「5.本願発明と各引用文献との対比」「(2)理由3」「(c)」において
ア「引用文献5は、本願請求項1及び2に記載の特徴を示唆も教示もしていない。特に、引用文献5は、本願発明に記載の通りの、ループが、横糸で形成され、継目近傍の部分が、縦糸から形成されていることを、示唆も教示もしていない。」、及び
イ「引用文献5は、本願請求項1及び2に記載の通りの異なるデニール又は織パターンの糸で形成された布の異なる部分を示唆も教示もしていない。継目近傍の領域が『密』であってもよい旨の単なる開示は、これらの領域が、本願請求項1及び2に記載の通りの異なるデニール又は織パターンを有してもよいことを示唆又は教示するものではない。」
と主張している。
上記主張アは、上記(2)で指摘したとおり、本願発明が特定する事項を誤解又は曲解し、かつ、引用出願の記載内容を誤解又は曲解した主張であるから、失当であり、採用できない。
上記主張イについて検討すると、本願発明は、「第一領域は前記素地と以下の点の少なくとも一つの点で異なる:a)前記第二CD糸の少なくとも若干の糸のデニールは前記第一CD糸のデニールと異なり;b)前記第二CD糸の少なくとも若干の糸の間隔は前記第一CD糸の間隔と異なり;及びc)少なくとも前記第二織パターンは前記第一織パターンと異なる」(下線は当審で付与)ことを要件とするもの、すなわち、要件a)b)c)の少なくとも一つを満たすことを要件とするものである。
そして、引用出願に記載の発明は、継目近傍の領域が「密」であるから、前記要件b)を満たすものである。したがって、引用出願に前記要件a)又はc)が記載されているか否かにかかわらず、引用出願に記載の発明は、本願発明の「第一領域は前記素地と以下の点の少なくとも一つの点で異なる:a)前記第二CD糸の少なくとも若干の糸のデニールは前記第一CD糸のデニールと異なり;b)前記第二CD糸の少なくとも若干の糸の間隔は前記第一CD糸の間隔と異なり;及びc)少なくとも前記第二織パターンは前記第一織パターンと異なる」という要件を満たすから、この点において、本願発明と引用出願に記載の発明とに差異はない。

(4)請求人は、審判請求書の[請求の理由]の欄の「5.本願発明と各引用文献との対比」「(2)理由3」「(d)」において「(d)また、引用文献5及び『密』な継目領域について、この継目領域は、布の本体とは異なる均一な密度を有することを意味する。しかしながら、本願における『密度』に影響すると教示する実施例においては、ヤーンの寸法及び間隔に関して、本体から実際の継目ループに移動するにつれ、即ち、フェザリングの場合、緩徐に密度が変化するというひとつの効果を取得する(本願明細書段落番号0040?0041参照)。引用文献5は、このような特徴について、教示していない。」と主張している。
しかしながら、「本体から実際の継目ループに移動するにつれ、即ち、フェザリングの場合、緩徐に密度が変化する」構成は、本願発明の実施態様の一例であって、本願発明を特定する事項ではない。したがって、本願発明の実施態様の一例の構成が、引用出願に記載の発明と相違するからといって、本願発明と引用出願に記載の発明とが相違することにはならない。

(5)以上のとおり、本願発明と引用出願に記載の発明とが相違するとの請求人の主張は、いずれも理由がない。そして、上記(1)で指摘したとおり本願発明は、引用出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

8.むすび
以上のとおりであって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当するから、又は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものである。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
原査定は妥当である。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-24 
結審通知日 2011-06-28 
審決日 2011-07-11 
出願番号 特願2002-339878(P2002-339878)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (D21F)
P 1 8・ 113- Z (D21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊地 則義  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 紀本 孝
熊倉 強
発明の名称 継ぎ合せ抄紙機の布における継目の増強法  
代理人 山下 穣平  
代理人 永井 道雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ