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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01G
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A01G
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A01G
管理番号 1247427
審判番号 不服2010-26088  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-01 
確定日 2011-11-25 
事件の表示 特願2004-362021「植物栽培具」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月 8日出願公開、特開2006-141375〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成16年11月16日の出願であって,平成22年7月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年11月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。
その後,平成23年5月16日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年6月29日付けで回答書が提出された。

第2 平成22年11月1日付け(平成22年11月2日受付)の手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成22年11月1日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正には,次の補正事項が含まれる。
(1)補正事項1
特許請求の範囲の請求項1を次のとおりに補正する。
(補正前:平成22年5月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲)
「【請求項1】
底部材を有し上開口部に向かって狭まった形状の側面部よりなり、作物や草花などを栽培する培養土を収納する通気性と吸非水性が良い丈夫な不織布や布等の袋と、袋上開口部に設けられた上開口部緊縛手段と、側面に設けられた複数の支柱ホルダーとよりなり、その開口部緊縛手段は上開口部に設けられた紐通し穴に通された紐からなる植物袋栽培具。」
(補正後)
「【請求項1】
底面部と側面部よりなり、作物栽培の培養土を収納する、通気性と吸排水性が良い丈夫な不織布や布等の袋と、袋上開口部に設けられた上開口部緊縛手段は、上開口部に設けられた紐通し穴に通された紐からなり、紐を緊縛すると土圧が増すことを特徴とする植物栽培具。」

(2)補正事項2
明細書の【発明が解決しようとする課題】を次のとおりに補正する。
「従来の植物栽培具は、大量の培養土を必要とする芋類特にさつま芋に関しては地上で生産し収穫しようとする考えや栽培器具がなかった。また、家庭菜園では、大型プランターや肥料袋、麻袋等の空袋を利用しで栽培すると上開口部が開放されているので大量の培養土を必要とし、少ない培養土で栽培すると芋の肥大がしないため、屋上やベランダで簡単に栽培することができない。本発明の栽培具は大量の培養土を使用しなくても、芋類が肥大化し簡単に栽培することができる植物に良い環境の栽培具を提供する。」(段落【0003】)

(3)補正事項3
明細書の【発明の効果】を次のとおりに補正する。
「本発明の請求項1に記載の植物栽培具は、材質に丈夫で柔軟な不織布や布等を使用すると繰り返し栽培でき、通気性と吸排水性が良く植物に好環境を作ることになり、根腐れや病気になりにくくする。また、袋上開口部に紐通し穴を設け、穴に通された紐を緊縛すると土圧が増すこととなる。特にさつま芋や山芋等には土圧が増すと芋の肥大を促す要因となる作用効果がある。このことにより、培養土を減らすことができ、小面積で大量生産を可能とする。また家庭でもベランダや屋上でさつま芋等が簡単に栽培できる。」(段落【0005】)

(4)補正事項4
明細書の【発明を実施するための最良の形態】を次のとおりに補正する。
「本発明の栽培具の実施する為の形態図を参照して説明する。
植物栽培具を形成するために柔軟な材質で、繰り返し使用することができる丈夫な不織布や布等を使用する。袋1の大きさや形状材質は栽培する作物7により決める。袋の側面部10には複数の支柱ホルダー4を縫い付けて底面部と縫い合わせる。袋1の上開口部9に紐3を通すための紐通し穴2をつくる。紐3を結べるように紐通し口を開け上部を折り返し、紐3が通すことができる幅をとり側面部10に縫い付ける。紐通し穴2に紐3を通す。上記の栽培具を使用する時には、栽培袋1に培養土6を入れ植物の種を播いたり苗を植え付け、栽培作物7に必要な面積だけを残して袋1の上開口部9に通されている紐3を緊縛し結ぶ。紐3を緊縛するこのことにより土圧を増すことができ、芋類さつま芋や山芋等芋の肥大を促す要因となる。支柱ホルダー4の支柱通し穴5に支柱8を通しその支柱8を互いに袋側面部10の内側方向に傾斜させてその交点を縛りさつま芋や山芋のつる等を巻きつける。このことにより、従来畑で這わせて栽培していたさつま芋を立体的に栽培することができるため、小面積で大量の培養土を使用することなく栽培が可能となる。その後の灌水をはじめとする栽培管理作業は、従来からの露地栽培と同じようにする。」(段落【0006】)

2 補正の適否の判断1(補正の目的の適否)
上記補正事項1には,補正前の請求項1を特定するために必要な事項である「側面部」についての「上開口部に向かって狭まった形状」との限定事項,及び「側面に設けられた複数の支柱ホルダー」との発明特定事項を削除しようとする補正を含むものであり,これらの補正は,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とする補正にも該当しない。
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項の規定に違反する。

3 補正の適否の判断2(新規事項の有無)
補正事項1?4によれば,補正後の請求項1に係る発明は,芋類を簡単に栽培することができる植物に良い環境の栽培具を提供することを課題としたものであって,袋の上開口部に通されている紐を緊縛し結ぶと土圧を増すことができる構成のものであり,さつま芋や山芋等の芋類芋の肥大を促すことができる効果を奏するものと認められる。
しかしながら,上記課題,構成及び作用効果は,願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されておらず,補正事項1?4は,当初明細書等に記載された事項の範囲内でなされたものではない。

すなわち,当初明細書には,紐の呪縛に関して,
「【0009】袋上部が栽培物の大きさだけ残して緊縛してあるので、栽培中に雑草が生えなくなるので栽培管理作業が大変楽くになる。」及び
「【0010】…更に、袋(1)の上部に設けられた紐通し穴(2)に通された紐(3)を緊縛して袋(1)の上開口部(9)を締め、上開口部(9)の大きさをを作物の栽培に必要な面積に固定する。…」
と記載され,紐を緊縛する目的は,栽培中に雑草が生えなくするように,上開口部(9)の大きさを作物の栽培に必要な面積にするためであることが記載されているが,土圧を増すためのものであることは記載されていない。
また,栽培袋で栽培する植物としては「作物や草花等」(段落【0001】,【0006】)と記載されているだけであって,特にさつま芋や山芋等の芋を栽培することは記載されていない。
さらに,当初図面にも,植物として,芋類を栽培することは示されていない。
したがって,上記補正事項1?4に示される課題,構成及び作用効果は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。

なお,請求人は,回答書等において,「紐を緊縛(きつく縛るとの意味)すれば中の土圧が増すことは明らかです。さらに土圧を増せばいも類が大きく育つことは周知の事項です。」と主張しているが,上記のとおり,当初明細書には,栽培袋で芋類を栽培することは何ら記載されておらず,また,段落【0009】【0010】の記載によれば,袋は,必要な面積の開口部を開けた状態で緊縛されるものであって,土圧が増すように緊縛することは記載されていない。
したがって,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第3項の規定に違反する。

4 むすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年11月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成22年5月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載から見て,次のとおりのものと認める。
「底部材を有し上開口部に向かって狭まった形状の側面部よりなり、作物や草花などを栽培する培養土を収納する通気性と吸排水性が良い丈夫な不織布や布等の袋と、袋上開口部に設けられた上開口部緊縛手段と、側面に設けられた複数の支柱ホルダーとよりなり、その開口部緊縛手段は上開口部に設けられた紐通し穴に通された紐からなる植物袋栽培具。」
なお,特許請求の範囲の請求項1には「吸非水性」と記載されているが「吸排水性」の誤記と認められるので,上記のとおり認定した(以下,上記発明を,「本願発明」という。)。

2 引用刊行物
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である実願昭63-153056号(実開平1-155340号公報(以下,「刊行物1」という。)には,図面と共に,次の事項が記載されている。
(1a)「<産業上の利用分野>
本考案は、植物育成用の人工土壌を収容する用具に関し、植物育成の管理手間を省力化しながら、根腐れ、水腐れをなくして植物を円滑に育成できるうえ、袋に土壌を収容するために、傾けて置いても水漏れの心配がなく、観葉植物のような鉢植え形態を初めとして装飾方法が自由で、軽量にして輸送の容易なものを提供する。」(明細書1頁19行?2頁6行)
(1b)「<実施例>
以下、本考案の人工土壌を利用した植物育成用具の実施例を図面に基いて説明する。
図面は、植物育成用具の斜視図であって、当該用具は合成樹脂製の袋1とこれに収納される人工土壌2から成り、樹脂袋1は、透明にしてこしが強く、底面3がO状に開脚して立置可能となるとともに、底面3を左右両側面4に沿って押し縮めると折り畳み可能になるように形成する。
そして、樹脂袋1の上端を大きく二つに切欠いて、その基端部に開口部5を設け、袋内に多孔状無機物とイオン交換体を物理的に混合した組成物を投入し、肥料及び水分をこの組成物に注いで肥効分等を吸着させたのち、苗や種子を定植して(挿芽や挿木でも良い)、上記開口部5を緩く紐6で縛って空気の出入を良好に確保する。」(同10頁10行?11頁5行)

これらの記載事項及び図面に示された内容を総合すると,上記刊行物1には,次の発明が記載されていると認められる。
「底面3を有し,上端に開口部5を有する側面4よりなり,人工土壌2を収納する合成樹脂製の袋1と,開口部5を縛る紐6とよりなる,袋状の植物育成用具。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である特開2004-248515号公報(以下,「刊行物2」という。)には,図面と共に,次の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】
少なくとも底面を内側に折り込み、全体として平袋の形態をなし、且つ内側に折り込んだ底面を出現させることによって自立可能となる袋体であって、
当該袋体の周面乃至縁部には、自立状態の袋体に沿って立設する支柱を設置する支柱設置部が設けられている袋体。」
(2b)「【0009】
上記袋体は、支柱設置部が形成されていることから、立設状態における袋体を支持するべく支柱を設けることができる。この支柱設置部は、袋体の立設方向に沿って延伸する袋体の縁部に形成することができ、また縁部の厚さ方向に貫通し、前記支柱を挿通可能な大きさに形成されている1又は2以上の孔部として形成することができる。このように形成することにより、支柱設置部を簡易に製造することができる。その他にもこの支柱設置部は、袋体の立設方向に沿って延伸する袋体の縁部を中空状に形成することもできる。この場合、支柱はこの中空に形成された部分を貫通して立設し、袋体を支持することができる。・・・」
(2c)「【0011】
本発明の袋体に於いて、その中に折り込まれる底面は、通気性及び通水性を有する部材を用いて形成されることが望ましい。即ち、多孔性フィルムや不織布などを用いて底面が形成されることが望ましい。その際、袋体の周面を形成する部分は、底面と同じように通気性及び通水性を有する部材を用いて形成することもできるが、望ましくは従来の例により合成樹脂フィルムなどにより形成する。何故ならば、本発明に係る袋体を後述のプランターとして使用する場合、立設状態における側面からは、栽培に際して供与した水がそれ程漏れ出ないことが望ましい為である。但し、この側面には、袋体の内容物である培養土やその他の土の乾燥を防ぐことができ、且つ栽培に際して供与した水の漏洩が許容できる程度の微細な開口(即ち貫通孔)を設けることが望ましい。これは特に培養土を収容する場合等には、微生物の活性化を保つための通気口が存在することが望ましい為である。・・・」
(2d)「【0017】
更に本発明に係る袋体では、底面と対向して存在する上部(即ち、立設状態において植物を植え込む側)が開閉自在に形成されていることが望ましい。これにより植物を植えた後、根付くまでの間は、この上部を閉じておけば、温室同様の効果を得ることができる。このように袋体上部を開閉自在とする構造としては、該袋体の上部内面に開閉自在のファスナーを設けるか、或いは開口した袋口を閉じるための紐体を設けるなど、各種袋体に於いて袋口を閉じるために使用されている公知の構造を採用することができる。」

(3)刊行物3
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-18921号公報(以下,「刊行物3」という。)には,図面と共に,次の事項が記載されている。
(3a)「【請求項1】 通気性を有する織物を用いて形成された、上端開放で土が収容される有底袋状体を具える織物製プランターであって、該有底袋状体の上端側の部分は剛性が高められており、該剛性が高められた部分に持ち手の端部分が取着され、又、前記有底袋状体の内面側の上端寄り部位に、収容する土の上端高さを明示するための目印が付されていることを特徴とする織物製プランター。」
(3b)「【0012】又前記有底袋状体2の側面部16の外面側17に、前記白色の外側の片部10の下側に位置させて、上下に、支柱19を挿通状態で保持するための支柱保持部20,20が設けられている。該支柱保持部20は、本実施の形態においては、織物製の保持布片21の両端部分22,22を前記側面部16に縫着して設けられている。」
(3c)「【0038】(3) 又プランターの外面側に、前記目印よりも下側に位置させて支柱保持部を設ける場合は、野菜の成長に合わせて、支柱保持部に支柱を挿通状態にしてこれを安定的に支持させることができる。・・・」

3 対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比する。
本願発明における「底部材を有し上開口部に向かって狭まった形状の側面部よりなり」は構成が明確ではないが,「底部材と,上開口部に向かって狭まった形状の側面部とよりなり」あるいは「底部材と,上開口部に向かって狭まった形状の側面部を有し」の意味と解釈すると,刊行物1記載の発明の「底面3」,「側面4」は,それぞれ,本願発明「底面部」,「側面部」に相当し,以下,同様に,
「開口部5」が「上開口部」に,
「紐6」が「上開口部緊縛手段」,「開口部緊縛手段」または「紐」に,
「袋状の植物育成用具」が「植物袋栽培具」に,
「人工土壌2」が「作物や草花などを栽培する培養土」に,それぞれ,相当する。
また,刊行物1記載の発明の「合成樹脂製の袋1」と,本願発明の「通気性と吸非水性が良い丈夫な不織布や布等の袋」とは,「袋」である点で共通する。

したがって,両者は,次の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「底面部を有し,上開口部を有する側面部よりなり,作物や草花などを栽培する培養土を収納する袋と,袋上開口部に設けられた上開口部緊縛手段と,その開口部緊縛手段は,上開口部に設けられた紐からなる植物袋栽培具。」

<相違点1>
側面部が,本願発明では,上開口部に向かって狭まった形状であるのに対して,刊行物1記載の発明では,このような限定のない点。
<相違点2>
袋が,本願発明では,通気性と吸排水性が良い丈夫な不織布や布等であるのに対して,刊行物1記載の発明では,合成樹脂製である点。
<相違点3>
本願発明は,側面に設けられた複数の支柱ホルダーを有するのに対し,刊行物1記載の発明は,このような支柱ホルダーを有していない点。
<相違点4>
紐が,本願発明では,上開口部に設けられた紐通し穴に通されているのに対し,刊行物1記載の発明では,紐通し穴に通されていない点。

4 判断
まず,各相違点について検討する。

(1)相違点1について
刊行物1には,袋の上開口部を緩く紐で縛ることが記載され(記載事項(1b)),結果として,刊行物1の図面に示されるように,袋の底面から上開口部に向かって狭まった状態にして植物を栽培するものである。
そして,植物袋栽培具の底面を広くし,結果的に上開口部に向かって狭まった状態にすると,植物袋栽培具を安定することは容易に想到しうることであって,刊行物1記載の発明の袋の側面部を,当初から上開口部に向かって狭まった形状にすることは,当業者が容易に想到しうることである。

(2)相違点2について
刊行物1記載の発明は,根腐れ、水腐れをなくして植物を円滑に育成できるようにすることを目的とするものであるところ,刊行物2,3には,植物袋栽培具を通気性と吸排水性を有する不織布等で形成することが記載されており,また,この不織布等が培養土を入れても破れない丈夫なものであることは明らかである。
したがって,刊行物1記載の発明の袋に,刊行物2,3記載の発明を適用して,通気性と吸排水性の良い丈夫な不織布等を採用し,相違点2の本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得ることである。
なお,刊行物1記載の発明は,傾けて置いても水漏れの心配がない用具を提供することも目的とするものであるが,そのための手段として,水分を多孔質無機体に吸着させるものであり,栽培袋を通気性と吸排水性を有するものとしても,水分を多孔質無機体に吸着させていれば,水が多量に漏れる虞はないから,栽培袋を通気性と吸排水性を有するものとすることが困難であるとはいえない。

(3)相違点3について
植物袋栽培具において,複数の支柱ホルダーを袋の側面に設けることは,刊行物2,3に記載されている。
すなわち,刊行物2には,袋体に沿って立設する支柱を設置する支柱設置部を設けることが記載され,刊行物3には,袋体の側面に,植物の支柱を挿通状態で保持するための支柱保持部を設けることが記載されており,刊行物1記載の発明において,側面に複数の支柱ホルダーを設け,支柱ホルダーに支柱を挿入して袋を安定させたり,植物の支柱とすることは,刊行物2,3記載の発明に基づいて,当業者が容易になし得ることである。

(4)相違点4について
刊行物1には,上開口部を紐で縛って上開口部を狭める点が記載されており,一般に,袋の上開口部を紐で縛る場合,袋に紐通し穴を設けることは,巾着に見られるように普通に行われていることであり,刊行物1記載の発明において,上開口部緊縛手段を,予め上開口部に設けられた紐通し穴に通された紐からなるものとすることは,当業者が適宜なし得ることである。

次に,本願発明の作用効果について検討すると,
「畑や花壇のような栽培に必要な土地がない一般家庭でも、庭先や屋上など幅広い場所での栽培が可能となる。」(段落【0005】),「袋の形状を変えたり、栽培する作物や草花等に合わせて、袋の材質をそれに適合するようなものを使用すれば、多種多様な作物や草花等の栽培が可能になる。」(段落【0006】)との効果は,刊行物1ないし3記載の発明も有する効果であり,
「支柱ホルダーに支柱を差し込み、その先端を地面に埋めれば袋を地面に安定して固定することができる。また、支柱の形状が半円形のものなどを使用すれば、その上にビニール袋などを被せて栽培物の雨避けができる。」(段落【0008】),「栽培中の水の補給は袋の上から適量を散水するだけで済む」(段落【0009】)との効果は,刊行物2,3記載の発明から予測できることであり,
「袋上部が栽培物の大きさだけ残して緊縛してあるので、栽培中に雑草が生えなくなるので栽培管理作業が大変楽くになる。」(段落【0009】)との効果は,上部を緊縛する刊行物1記載の発明も有する効果である。
なお,明細書には「袋が可燃性の材質であので、栽培が終了した後は必要に応じて燃えるゴミとして処理ができるため、環境にやさしい栽培法であるといえる。」(段落【0007】)との効果も記載されているが,特許請求の範囲には,袋の材質が可燃性であることは記載されておらず,このような効果は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。また,袋を燃えるゴミとして処理可能な材質とすることは適宜なし得る程度のことでもある。
以上のとおり,本願発明の作用効果は,刊行物1ないし3記載の発明から当業者が予測しうる程度のことである。

したがって,本願発明は,刊行物1ないし3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

<付言>
請求人は,回答書において,次の補正案を提示している。
「請求項1(補正案)
底部材を有し上開口部に向かって狭まった形状の側面部よりなり、作物や草花などを栽培する培養土を収納する通気性と吸排水性が良い丈夫な不織布や布等の袋と、袋上開口部に設けられた上開口部緊縛手段と、側面に設けられた複数の支柱ホルダーとよりなり、その開口部緊縛手段は上開口部に設けられた紐通し穴に通された紐からなり、空間を残して袋上部を紐により緊縛できることを特徴とする植物栽培具。」

上記補正案に係る発明は,本願発明に「空間を残して袋上部を紐により緊縛できる」という特定事項を付加したものであり,ここで,「空間を残して」とは,当初明細書の段落【0004】の「(2)種まきや苗植えに必要な空間部分を残して袋上部を締められる紐が通せる穴溝部を設ける」との記載から,袋上部を紐により緊縛した際に,開口部が形成されることであると認められるが,このような植物栽培具の構成は,本願発明と実質的に変わるものではなく,上記補正案によっても,上記結論は左右されない。
 
審理終結日 2011-09-12 
結審通知日 2011-09-20 
審決日 2011-10-05 
出願番号 特願2004-362021(P2004-362021)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01G)
P 1 8・ 561- Z (A01G)
P 1 8・ 572- Z (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村田 泰利  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 鈴野 幹夫
仁科 雅弘
発明の名称 植物栽培具  

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