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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
管理番号 1247476
審判番号 不服2008-27062  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-23 
確定日 2011-11-24 
事件の表示 特願2002-158110「積層体」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月 2日出願公開、特開2003-340982〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願は、平成14年5月30日になされた特許出願であり、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成20年 4月11日付け 拒絶理由通知
平成20年 6月24日 意見書・手続補正書
平成20年 9月18日付け 拒絶査定
平成20年10月23日 本件審判請求
平成20年11月25日 手続補正書
平成20年12月 3日付け 手続補正指令
平成21年 1月 7日 手続補正書(審判請求理由補充書)
平成21年 1月19日付け 前置審査移管
平成21年 5月11日付け 拒絶理由通知
平成21年 7月10日 意見書
平成21年11月 6日付け 前置報告書
平成21年11月13日付け 前置審査解除
平成22年12月20日付け 審尋
平成23年 3月 7日付け 応対記録

第2 本願に係る発明について

本願に係る発明は、平成20年6月24日付け及び平成20年11月25日付けの各手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、それらの内、請求項1に係る発明は下記のものである。
「2つの樹脂層を備えた積層体であって、
第1の樹脂層が導電性樹脂を基体樹脂とする樹脂層であって、アニオンの取込み及び放出することにより伸縮可能な樹脂層であり、
第2の樹脂層が導電性樹脂を基体樹脂とする樹脂層であって、カチオンの取込み及び放出することにより伸縮可能な樹脂層であり、
第1の樹脂層と第2の樹脂層の間に、導電性薄膜を備えることを特徴とする積層体。」(以下「本願発明」という。)

第3 前置審査における拒絶理由の概要

前置審査において、平成21年5月11日付け拒絶理由通知書により、概略以下の内容を含む拒絶理由が通知された。

「 理 由
・・(中略)・・
2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

3.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・・(中略)・・
<理由2,3>
・請求項1-4:引用文献1
引用文献1には、ポリアニリンやポリピロール等の導電性高分子を有する層を、電解質部を介して積層すること、上記高分子は伸縮機能を有すること、電解質部は固体状であってもよいこと、上記構成を有する積層体は、アクチュエータとして人工筋肉等に用いられることが記載されており、本願の当初明細書の発明の詳細な説明等をみれば、上記導電性高分子は、アニオン等の取込みおよび放出することにより伸縮可能な樹脂であると認められるところ、引用文献1に記載された発明も請求項1,2に係る発明で規定する構成を満足しているといえ、実質的な差異は認められない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2000-133854号公報
・・(後略)」
(以下、上記引用文献1.を「引用例」という。)

第4 引用例に記載された事項
上記引用例には、以下の事項が記載されている。

(ア)
「【請求項1】 ポリアニン、ポリピロール等のπ共役型高分子材料でなる伸縮素子と、該伸縮素子に電圧を印加するための電源部及び電圧印加部と、電流を伸縮素子から外部に導通させるための電解質部と、を有し、電圧印加部に正の電位を印加すると伸縮素子が伸張し、電圧印加部に負の電位を印加すると伸縮素子が収縮するようになしたアクチュエータ本体に、伸縮素子の伸縮によって直線的に動作される移動部を設けてなるアクチュエータ。
・・(中略)・・
【請求項3】 電解質部の両側に伸縮素子を接合一体化して板状積層体を形成し、一方の伸縮素子に対応する電圧印加部に正の電位を印加すると共に、他方の伸縮素子に対応する電圧印加部に負の電位を印加することにより、一方の伸縮素子が伸張すると同時に他方の伸縮素子が収縮して、同板状積層体が屈曲変形されるようになし、該屈曲変形によって移動部が直線的に動作されるようになしたことを特徴とする請求項1記載のアクチュエータ。
・・(後略)」
(【特許請求の範囲】)

(イ)
「【発明の属する技術分野】
本発明は、電解質部の環境内で電圧を印加すると伸縮する伸縮素子によって直線的な動作を得るアクチュエータに関するものである。」
(【0001】)

(ウ)
「本発明は、上記従来の技術における問題を悉く解決するために発明されたもので、その課題は、直線的な動作を確実に得ることができ、しかも、該動作された後の形態を、繰り返し電圧印加し続けることなく持続させることができるアクチュエータを提供することである。」
(【0005】)

(エ)
「本発明の請求項3記載のアクチュエータは、上記請求項1記載のアクチュエータにおいて、電解質部の両側に伸縮素子を接合一体化して板状積層体を形成し、一方の伸縮素子に対応する電圧印加部に正の電位を印加すると共に、他方の伸縮素子に対応する電圧印加部に負の電位を印加することにより、一方の伸縮素子が伸張すると同時に他方の伸縮素子が収縮して、同板状積層体が屈曲変形されるようになし、該屈曲変形によって移動部が直線的に動作されるようになしたことを特徴とする。
したがって、この場合は特に、電圧印加部に正、負の電位が印加されることによって、板状積層体の一方の伸縮素子が伸張すると同時に他方の伸縮素子が収縮し、これにより該板状積層体が屈曲変形されることによって移動部は直線的に動作されるので、電圧印加部に正、負逆の電位を印加して同板状積層体を反対側へ屈曲変形させる際にも同様の動作力が発生し、簡単な機構でもって移動部を確実に往復運動させることができる。」
(【0010】?【0011】)

(オ)
「【発明の実施の形態】
図1は、本発明の請求項1?4に対応する一実施形態を示し、該実施形態のアクチュエータは、ポリアニン、ポリピロール等のπ共役型高分子材料でなる伸縮素子1と、該伸縮素子1に電圧を印加するための電源部2及び電圧印加部3と、電流を伸縮素子1から外部に導通させるための電解質部4と、を有し、電圧印加部3に正の電位を印加すると伸縮素子1が伸張し、電圧印加部3に負の電位を印加すると伸縮素子1が収縮するようになしたアクチュエータ本体5に、伸縮素子1の伸縮によって直線的に動作される移動部6を設けてなる。
・・(中略)・・又、電解質部4の両側に伸縮素子1a、1bを接合一体化して板状積層体8を形成し、一方の伸縮素子1aに対応する電圧印加部3aに正の電位を印加すると共に、他方の伸縮素子1bに対応する電圧印加部3bに負の電位を印加することにより、一方の伸縮素子1aが伸張すると同時に他方の伸縮素子1bが収縮して、同板状積層体8が屈曲変形されるようになし、該屈曲変形によって移動部6が直線的に動作されるようになしている。・・(中略)・・
電解質部3は銀イオン導電性結晶その他の固体電解質でなり、該電解質部3の両側にポリアニン、ポリピロール等のπ共役型高分子材料でなる伸縮素子1a、1bが接合一体化されて板状積層体8は形成されている。この場合、電解質部3として、陰イオンとしてある程度の分子量を有する、例えば、SO_(4)^(2-)を生じるH_(2)SO_(4)、Na_(2)SO_(4)や、Cl^(-)を生じるHCLや、F^(-)を生じるHPF_(6)、HBF_(4)等を採用することも可能ではあるが、電解質部3がイオン溶液のように流体となる場合には密封状態で用いる必要があるので、固体電解質を使用することが好ましい。」
(【0022】?【0024】)

(カ)
「両板状積層体8はその下端で移動部6にて結合一体化され、同上端では電圧印加部3b、3b間のスペーサ9を介して結合一体化されており、該スペーサ9と移動部6との間にスプリングでなるバイアス機構7が圧縮状態で張設されている。この場合、前記上端側に電源部2及び電圧印加部3が設けられ、該上端側が固定されて、前記下端の移動部6が上下方向に動作される。
したがって、該実施形態のアクチュエータにおいては、電圧印加部3に正、負の電位が印加されることによってπ共役型高分子材料でなる伸縮素子1は酸化還元反応作用により強力に伸縮し、すなわち、電圧印加部3に正の電位を印加すると伸縮素子1のイオンドーピング量が増大して該伸縮素子1は伸張し、逆に、電圧印加部3に負の電位を印加すると伸縮素子1のイオンドーピング量が減少して該伸縮素子1は収縮し、これによって確実にアクチュエータ本体5に設けられる移動部6が直線的に動作される。しかも、同伸縮素子1はその伸張或いは収縮された状態を電圧印加部3に正、負逆の電位が印加されるまで保持するので、動作されたアクチュエータ本体5の形態を繰り返し電圧印加し続けることなく確実に持続させることができる。このような変形動作をなす該実施形態のアクチュエータは、例えば、超小型ロボット用の人工筋肉等の動力発生機構として好適に利用することができる。」
(【0025】?【0026】)

(キ)
「又、該実施形態のアクチュエータにおいては、外側の電圧印加部3aに負の電位が印加されて伸縮素子1aが収縮され、内側の電圧印加部3bに正の電位が印加されて伸縮素子1bが伸張されて、図1(a)に示す如く、両板状積層体8は伸展状態となり、その際、バイアス機構7によって移動部6が動作される下方への力が発生されるので、充分な動作力を得ることができる。又、外側の電圧印加部3aに正の電位が印加されて伸縮素子1aが伸張され、内側の電圧印加部3bに負の電位が印加されて伸縮素子1bが収縮されて、図1(b)に示す如く、両板状積層体8は屈曲状態となり、その際、前記バイアス機構7の発生力に抗し支障なく移動部6は前記と逆の上方へ動作される。
又、該実施形態のアクチュエータにおいては、電圧印加部3に正、負の電位が印加されることによって、板状積層体8の一方の伸縮素子1a(1b)が伸張すると同時に他方の伸縮素子1b(1a)が収縮し、これにより該板状積層体8が屈曲変形されることによって移動部6は直線的に動作されるので、電圧印加部3に正、負逆の電位を印加して同板状積層体8を反対側へ屈曲変形させる際にも同様の動作力が発生し、簡単な機構でもって移動部6を確実に往復運動させることができる。しかも、この場合、上記板状積層体8が対向配置されて両者の端部で結合一体化され、該結合部分に同板状積層体8の板面と略沿う方向で直線的に動作される移動部6が設けられているので、該移動部6を両側の板状積層体8の屈曲変形によって確実に安定した状態で上下方向に往復運動させることができる。」(【0027】?【0028】)

(ク)【図1】(第7頁左下段)




第5 当審の判断

1.引用例に記載された発明について
上記引用例には、「ポリアニン、ポリピロール等のπ共役型高分子材料でなる伸縮素子と、・・電流を伸縮素子から外部に導通させるための電解質部と、を有し、」「電解質部の両側に伸縮素子を接合一体化して」なる「板状積層体」が記載されている(摘示(ア)参照)。
そして、当該「板状積層体」において、「伸縮素子」の層、「電解質部」の層及び「伸縮素子」の層がこの順で積層されていることも記載されている(摘示(オ)及び(ク)参照)。
さらに、「伸縮素子」が「イオンドーピング量」の増大又は減少により伸張又は収縮し、当該「イオンドーピング量」の増大及び減少が正負の電位の印加により起こることも記載されている(摘示(カ)参照)。
なお、技術常識からみて、「π共役型高分子材料」は「樹脂」の範ちゅうに属するものであり、「ポリアニン」は「ポリアニリン」の誤記であるものと認められる。
してみると、上記引用例には、上記(ア)?(ク)の記載からみて、本願発明に倣い表現すると、
「2つの樹脂層を備えた積層体であって、
第1の樹脂層がポリアニリン、ポリピロール等のπ共役型高分子材料でなる層であって、イオンドーピング量の増減により伸縮可能な樹脂層であり、
第2の樹脂層がポリアニリン、ポリピロール等のπ共役型高分子材料でなる層であって、イオンドーピング量の増減により伸縮可能な樹脂層であり、
第1の樹脂層と第2の樹脂層の間に、電解質からなる層を備えることを特徴とする積層体」
に係る発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

2.検討

(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「電解質からなる層」は、樹脂層である伸縮素子から電流を外部に導通させるためのものである(摘示(ア)参照)から、導電性を有することが明らかであり、また、層状なる形状をとるものであるから、実質的に「薄膜」なる形状であるということができる。
してみると、引用発明における「電解質からなる層」は、本願発明における「導電性薄膜」に相当する。
そして、引用発明における「2つの樹脂層を備えた積層体であって、・・第1の樹脂層と第2の樹脂層の間に、電解質からなる層を備えることを特徴とする積層体」は、本願発明における「2つの樹脂層を備えた積層体であって、・・第1の樹脂層と第2の樹脂層の間に、導電性薄膜を備えることを特徴とする積層体」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「2つの樹脂層を備えた積層体であって、第1の樹脂層と第2の樹脂層の間に、導電性薄膜を備えることを特徴とする積層体」
で一致し、以下の2点で一応相違するかに見える。

相違点1:「第1の樹脂層」につき、本願発明では「導電性樹脂を基体樹脂とする樹脂層であって、アニオンの取込み及び放出することにより伸縮可能な樹脂層」であるのに対して、引用発明では「ポリアニリン、ポリピロール等のπ共役型高分子材料でなる層であって、イオンドーピング量の増減により伸縮可能な樹脂層」である点
相違点2:「第2の樹脂層」につき、本願発明では「導電性樹脂を基体樹脂とする樹脂層であって、カチオンの取込み及び放出することにより伸縮可能な樹脂層」であるのに対して、引用発明では「ポリアニリン、ポリピロール等のπ共役型高分子材料でなる層であって、イオンドーピング量の増減により伸縮可能な樹脂層」である点

(2)上記各相違点に係る検討
上記相違点1及び2につき併せて検討する。
引用発明における「ポリアニリン、ポリピロール等のπ共役型高分子材料」が、「導電性樹脂」であることは、当業者に自明である。
また、本願発明における「第1の樹脂層」に関する「アニオンの取込み及び放出すること」及び「第2の樹脂層」に関する「カチオンの取込み及び放出すること」は、いずれもアニオン又はカチオンなるイオンが、樹脂層中にドーピングされるかドーピングが解除されて樹脂層中から排出されるか、すなわち、樹脂層中のイオンドーピング量が増減することを意味する点で技術思想を一にするものである。
してみると、引用発明における「イオンドーピング量の増減により伸縮可能な樹脂層」は、アニオン又はカチオンなるイオンの取込み及び放出することにより伸縮可能な樹脂層であると認めることができる。
したがって、引用発明における「ポリアニリン、ポリピロール等のπ共役型高分子材料でなる層であって、イオンドーピング量の増減により伸縮可能な樹脂層」は、本願発明における「導電性樹脂を基体樹脂とする樹脂層であって、アニオンの取込み及び放出することにより伸縮可能な樹脂層」又は「導電性樹脂を基体樹脂とする樹脂層であって、カチオンの取込み及び放出することにより伸縮可能な樹脂層」と区別することができず、実質的に同一のものであるというほかはない。
よって、上記相違点1及び2は、いずれも実質的な相違点ではない。

3.小括
したがって、上記相違点1及び2に係る事項は、いずれも実質的なものでないから、本願発明は、上記引用例に記載された発明である。

第6 まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-28 
結審通知日 2011-09-29 
審決日 2011-10-12 
出願番号 特願2002-158110(P2002-158110)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 家城 雅美  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 橋本 栄和
小出 直也
発明の名称 積層体  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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