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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1247502 |
審判番号 | 不服2010-2459 |
総通号数 | 145 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-01-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-02-04 |
確定日 | 2011-11-24 |
事件の表示 | 特願2000-334471「液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月17日出願公開、特開2002-139623〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成12年11月1日の出願であって、当審において、平成23年4月26日付けで通知した拒絶の理由に対して、同年6月27日付けで手続補正書および意見書が提出されたものである。 本願の請求項1-4に係る発明、上記手続補正書により補正された特許請求の範囲1-4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】 偏光フィルムと、 偏光フィルムに接着され、厚さ方向をZ軸としてその軸方向における屈折率をnz、Z軸に垂直な面内の一方向をX軸としてその軸方向における屈折率をnx、Z軸とX軸に垂直な方向をY軸としてその軸方向における屈折率をnyとし、X軸が面内の最大屈折率方向としたとき、|nx-ny|、|nx-nz|及び|nz-ny|の各屈折率差が3/10^(4)以下であるアクリル系ポリマーの透明フィルムと、 透明フィルム側に形成され、nx≒ny>nzの屈折率異方性を示し厚さが10μm以下の透明層を有することを特徴とする偏光板を、 垂直配向型液晶セルの両側に前記透明層をセル側として有し、かつセル両側の前記偏光板がクロスニコルに配置されてなることを特徴とする液晶表示装置。」 2.引用刊行物の記載事項 これに対して、当審において通知した拒絶理由で引用された、 刊行物1:国際公開第00/39631号(上記拒絶理由における「文献1」) 刊行物2:特開平06-059122号公報(上記拒絶理由における「文献3」) には、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものであり、刊行物1の日本語訳はパテントファミリーである特表2002-533784号公報から抜粋したものである。 (1)刊行物1 (1a) 「The undesirable viewing angle dependency can be reduced by disposing in the cell a compensator with a layer having a negative uniaxial optical anisotropy. In the case of the VAN cell, the optical anisotropy of the non-driven state is such that the refractive index nx, ny in the cell plane is smaller than the refractive index nz in the direction perpendicular to the plane, i. e. nz > nx = ny, and can thus be compensated by a second birefringent layer but with negative optical anisotropy, i. e. with nz < nx = ny. In the same way, the driven state of a HAN cell or of a normally white TN cell can be compensated.」(第1頁第17-24行) (日本語訳:望ましくない視角依存を、負の光学一軸異方性を有する層を持つ補償板をセル中に配列することによって、減少できる。VANセルの場合、非駆動状態の光学異方性は、セル平面の屈折率n_(x)、n_(y)が、その平面に対して垂直な方向の屈折率n_(z)よりも小さく、即ち、n_(z)>n_(x)=n_(y)であるので、負の光学異方性ではなく第2の複屈折層によって、即ち、n_(z)<n_(x)=n_(y)で補償できる。同じ方法で、HANセル又はノーマリホワイトTNセルの駆動状態を、補償できる。) (1b) 「A second LCP layer was then spincoated, oriented and crosslinked in the same manner as described above, leading to a total thickness of the multi-layer of 6.5 μm.」(第6頁第22-23行) ( 日本語訳:次に、第2のLCP層を、スピンコートし、上に記述したのと同様の方法で配向し、架橋し、全厚さ6.5μmの多重層にした。) (1c) 「In a further experiment, this compensating layer was cemented to a VAN cell. the optical anisotropy of which was Δn*d = 420 nm. Viewing angle dependency measurements using a spatial photometer ("EZ-contrast"of ELDIM) proved a considerably better viewing angle char acteristic of the VAN cell with the compensating layer compared to the non-compensated cell. The same can be seen from Figures 1 to 3, where Figure 1 shows the viewing angle characteristic of an LPPoriented two-domain VAN-LCD in the off-state, Figure 2 shows the same cell. but with an additional compensating layer according to the invention, and Figure 3 shows for comparison the empty cell without compensating layer between crossed polarisers.」(第7頁第3-11行) ( 日本語訳:更なる実験で、この補償層を、光学異方性がΔn*d=420nmのVANセルに接着した。立体光度計(ELDIMの「EZ-contrast」)を使用する視角依存測定は、非補償セルと比較して、補償層を有するVANセルのかなりよい視角の性質を提供した。同じことが図1?3から分り、ここで、図1は、オフ状態のLPP配向2ドメインVAN-LCDの視角の性質を示し、図2は、同じセルであるが、本発明による追加の補償層を有するものを示し、図3は、比較のために、交差した偏光子の間に補償層が無い空のセルを示す。) これらの記載事項によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 「偏光子と、 n_(z)<n_(x)=n_(y)の負の光学一軸異方性を示し厚さ6.5μmの補償板と、 VANセルと、を有し、 前記補償板を前記VANセルに接着し、かつ、交差した偏光子の間に前記VANセルを配置した液晶表示装置」 (2)刊行物2 (2a)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、偏光特性に優れる偏光板、及びそれを用いたコントラストに優れる液晶表示装置に関する。 【0002】 【発明の背景】TFT型や階調表示のFSTN型の如き高コントラストを実現した液晶表示装置に、そのコントラストを実質的に低下させることなく適用できる偏光板が求められている。偏光度が95%程度の従来の偏光板では(特開昭55-35325号公報、特開昭60-191204号公報)、コントラストの低下を招いてかかる高コントラストを充分に活かすことができない。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】従って本発明は、液晶セルの高コントラストを実質的に損なうことなく適用できる偏光板の開発を課題とする。本発明者らは前記課題を克服するため鋭意研究する中で、従来の偏光板における問題は、偏光フィルムと透明保護層との作業上避けることができない光軸のズレと、透明保護層の微小な光学異方性(複屈折等)に基づくことを究明した。 【0004】すなわち、水分の侵入防止等による耐久性の向上を目的として偏光フィルムには透明保護層が設けられ、その透明保護層は正面に基づく位相差で15?20nmの微小な光学的異方性を示す程度であり、それを用いて偏光度が95%程度の偏光板としTN型等の液晶表示装置に適用してもコントラストの低下問題なく充分に実用できる。しかし、偏光度が99%以上の高精度な偏光フィルムに適用すると、かかる透明保護層の微小な光学的異方性が誘発する偏光の乱れが液晶表示装置のコントラストを大幅に低下させる原因となり、その偏光の乱れの防止ないし抑制には、透明保護層の光学的異方性を平面方向に厚さ方向を加えた三次元レベルで高度に制御する必要のあることを究明した。厚さ方向の光学特性は、斜めからの視点の場合に特に影響する。 【0005】 【課題を解決するための手段】本発明は、偏光フィルムの少なくとも片側に、自平面に対する法線から30度以内の視角範囲において8nm以下の位相差を示す透明保護層を有してなり、可視光透過率が35%以上で、偏光度Pが式:P=√({Tp-Tc}/{Tp+Tc})≧0.990(ただし、Tpは平行透過率、Tcは直交透過率である。)を満足することを特徴とする偏光板、及びその偏光板の片側に少なくとも1枚の位相差フィルムを積層してなることを特徴とする偏光板、並びに前記の偏光板を当該位相差を示す透明保護層を介して液晶セルの少なくとも片側に配置してなることを特徴とする液晶表示装置を提供するものである。 【0006】 【作用】前記の三次元レベルで光学特性を制御した透明保護層とすることにより、従来の接着積層技術を用いても偏光フィルムの偏光特性を高度に維持し、偏光度が99%以上の高精度な偏光板を得ることができる。またその偏光板を用いてコントラストの高さ、視野角の広さ、表示品位に優れる液晶表示装置を得ることができる。」 (2b) 「【0008】図1に例示の如く、透明保護層を偏光フィルム2の片側のみに設ける場合、その透明保護層1は自平面に対する法線から30度以内の視角範囲において8nm以下の位相差を示すもので形成される。透明保護層を偏光フィルム2の両側に設ける場合、その両側の透明保護層は図2に例示の如く前記の位相差特性を示すもの1とすることもできるし、図3に例示の如くその一方3を前記位相差特性を示さないものとすることもできる。 【0009】自平面に対する法線から30度以内の視角範囲において8nm以下の位相差を示す透明保護層において、好ましい位相差は5nm以下、就中3nm以下である。かかる位相差が8nmを超える場合、偏光フィルムの吸収軸と透明保護層の光軸とのズレにより偏光度が著しく低下する。なお前記の位相差は、波長550nmの光に基づく複屈折光のセナルモン法により求めた値による。自平面に対する法線から30度以内の視角範囲における位相差は、測定試料を傾斜配置して前記に準じ測定することができる。」 (2c) 「【0011】透明保護層の形成材としては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性などに優れるものが好ましく用いうる。その代表例としては、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、アセテート系樹脂の如きポリマーなどがあげられる。なお位相差に特に制約がない透明保護層(3)については、一軸や二軸等で処理した延伸フィルムなどで形成することもできる。また防眩処理層、反射防止層、電磁波シールド層、帯電防止層、ハードコート層等の機能層を設けることもできる。」 (2d)「【0017】本発明の偏光板は、可視光透過率が35%以上で、偏光度が0.990以上のものであり、例えばSTNセル、TFTセル、TNセル、FLCセル、SHセル等を用いた液晶表示装置などの種々の光学系装置に好ましく用いることができる。その場合、自平面に対する法線から30度以内の視角範囲において8nm以下の位相差を示す透明保護層側が視認側の反対側となるように、従って当該透明保護層側が液晶セル等の適用対象側となるように偏光板を用いることにより、高コントラストで視角特性に優れるものとすることができる。」 (2e)「【0018】なお液晶表示装置などにあっては複屈折等を補償するため位相差フィルムが配置される場合もあるがその場合、本発明においてはその位相差フィルムを必要に応じて予め偏光板と接着し、積層体として用いることもできる。図4に、偏光板4の片側に位相差フィルム5を積層してなるタイプの偏光板を例示した。位相差フィルムは、位相差等の光学特性を制御するため2種以上の位相差フィルムを積層することもでき、従って1枚又は2枚以上の位相差フィルムを積層することができる。 【0019】位相差フィルムとしては、熱可塑性ポリマー等からなるフィルムを一軸や二軸(完全二軸を含む)、さらにはそれ以上の多軸で延伸処理したもの、熱可塑性ポリマーをプレス法で面内配向させたもの、三次元方向の屈折率を制御したもの、液晶ポリマーを垂直ないし水平方向に配向させたものや捩じれ配向させたものなどの適宜なフィルムを用いることができる。」 (2f)「【0021】本発明の液晶表示装置は、上記した偏光板を液晶セ ルの片側又は両側に配置したものである。かかる液晶表示装置を図5?図7に例示した。4が偏光板、5が位相差フィルム、6が液晶セルである。図例より明らかな如く、偏光板や位相差フィルムは適宜な組合せで必要な枚数を液晶セルの片側又は両側に用いることができる。また液晶セルとしても、例えば表示用と補償用を組合せたものなど、2枚以上を用いることもできる。なお偏光板の吸収軸と位相差フィルムの光軸は、任意な交差角度、例えば0?180度の範囲に設定してよい。」 3.対比・判断 本願発明と刊行物1記載の発明とを対比する。 (ア)刊行物1記載の発明の「偏光子」は、技術常識に鑑みれば、偏光フィルムと該偏光フィルムに接着された透明フィルムとを有していることは自明な事項であるので、前記「偏光子」は、本願発明の偏光フィルムと透明フィルムとを有する「偏光板」に相当する。 (イ)刊行物1記載の発明の「n_(z)<n_(x)=n_(y)の負の光学一軸異方性を示し厚さ6.5μmの補償板」は、本願発明の「nx≒ny>nzの屈折率異方性を示し厚さが10μm以下の透明層」に相当する。 (ウ)刊行物1記載の発明における「VANセル」は、本願発明の「垂直配向型液晶セル」に相当する。 (エ)刊行物1記載の発明の「交差した偏光子」は、本願発明の「クロスニコルに配置されてなる」「偏光板」に相当する。 (オ)刊行物1記載の発明の透明層は垂直配向型液晶セルに接着したもので偏光板の間に配置されるものであるから、当該透明層は偏光板よりも垂直配向型セル側に配置されたものである。 したがって、両者は、 「偏光フィルムと、 偏光フィルムに接着された透明フィルムと、を有する偏光板と、 nx≒ny>nzの屈折率異方性を示し厚さが10μm以下の透明層と、を有し、 垂直配向型液晶セルに前記透明層をセル側として有し、かつセル両側の前記偏光板がクロスニコルに配置されてなる液晶表示装置。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 本願発明では、透明フィルムが「厚さ方向をZ軸としてその軸方向における屈折率をnz、Z軸に垂直な面内の一方向をX軸としてその軸方向における屈折率をnx、Z軸とX軸に垂直な方向をY軸としてその軸方向における屈折率をnyとし、X軸が面内の最大屈折率方向としたとき、|nx-ny|、|nx-nz|及び|nz-ny|の各屈折率差が3/10^(4)以下であるアクリル系ポリマー」であるのに対して、引用例1記載の発明では、当該構成を備えていない点。 (相違点2) 本願発明では、透明層が透明フィルム側に形成され偏光板を構成しているのに対して、刊行物1記載の発明では透明層を垂直配向型液晶セルに接着している点。 (相違点3) 本願発明1では垂直配向型液晶セルの両側に透明層を有する偏光板を配置しているのに対して、刊行物1記載の発明では透明層が1層だけであり垂直配向型セルの片側のみに配置されている点。 そこで、相違点について検討する。 (相違点1について) 刊行物2には、高コントラストを実現した液用表示装置において、偏光板の透明保護層、すなわち、本願発明の透明フィルムにおける微小な光学異方性(複屈折等)が偏光の乱れを誘発して液晶表示装置のコントラストを大幅に低下させる課題があり、当該課題を解決するために該透明フィルムの光学異方性を平面方向に厚さ方向を加えた三次元レベルで高度に制御する必要あり、特に、厚さ方向の光学特性は斜めからの視点の場合に特に影響することが記載されている。(上記(2a)参照) そして、刊行物2には、透明フィルムの光学異方性を平面方向に厚さ方向を加えた三次元レベルで高度に制御する際に、自平面に対する法線から30度以内の視角範囲における位相差を3nm以下とすること、当該透明フィルムを構成しうる材料としてアクリル系樹脂が記載されている。(上記(2b)-(2d)参照) 刊行物1記載の発明において、偏光板を構成する透明フィルムが上記刊行物2に記載された課題を有することは当業者ならばすぐ気が付く程度の事項であり、当該課題を解決するために、刊行物2に記載されたアクリル系樹脂を選択して偏光の乱れが許容範囲となる程度に光学異方性が三次元レベルで高度に制御された透明フィルムを用いることに格別の困難性はない。当該透明フィルムの光学異方性を三次元レベルで高度に制御する際に各屈折率差|nx-ny|、|nx-nz|および|nz-ny|が小さいほど好ましいことは上記刊行物2の記載から自明な事項にすぎず、その上限を3/10^(4)とすることに臨界的意義は見出せない。 (相違点2について) 刊行物2には、偏光板の透明フィルム上に液晶ポリマーを配向させた位相差フィルム(本願発明の「透明層」に相当)を積層してなるタイプの偏光板がも記載されている。(上記(2e)参照) 刊行物1記載の発明において、透明層を配置する際に、垂直配向型液晶セルに接着する構成に代えて、偏光板の透明フィルム上に接着する構成とすることは当業者が容易に想到しうるものである。 (相違点3について) 刊行物2には、偏光板や透明層は適宜な組合せで必要な枚数を液晶セルの片側又は両側に用いることができることが記載されている。(上記(2f)参照) 刊行物1記載の発明において、上記刊行物2の記載に基づいて、透明層を垂直配向型液晶セルの両側に設ける構成とすることは当業者が容易に想到しうるものである。 (平成23年6月27日付け意見書における主張について) 上記意見書において請求人は、刊行物2および本願発明の効果について、つぎの点を主張している。 (主張1:刊行物2の記載について) 「アクリル系ポリマーの透明フィルムによって、|nx-ny|、|nx-nz|及び|nz-ny|の各屈折率差が3/10^(4)以下を実現できる点については、全く記載も示唆もされていません。」(第2頁の「3)本願発明の特徴」「2)引用文献2」) 「引用文献3には透明保護層の例としてアクリル樹脂が例示されています。しかし、各屈折率の値について検討しますと、本願発明とはかなり相違します。まず、引用文献3の表1には、正面位相差が2.0nm、法線方向でのから30度傾斜した方向での位相差が4.0nmで、厚みが50μmの保護フィルムが記載されています。しかし、この保護フィルムは、|nx-ny|が4/10^(4)であり、また、|nx-nz|は3.3/10^(4)であると計算されます。 このように、引用文献3には、『|nx-ny|、|nx-nz|及び|nz-ny|の各屈折率差が3/10^(4)以下である』ことが記載されているとは言えず、この物性を満たしうる材料として、『アクリル系ポリマーの透明フィルム』が使用できる点についても記載されていません。」(第3頁21-30行) (主張2:本願発明の効果について) 「『垂直配向型液晶セル用の偏光板に、nx≒ny>nzの屈折率異方性を示し厚さが10μm以下の透明層を用いて光学補償を行う際に、偏光板を構成するTAC等の透明保護フィルムを用いる代わりに、透明層が形成されて各屈折率差が6/10^(4)以下であるアクリル系ポリマーの透明フィルムを直接接着すること』を特徴とし、この構成によって、『垂直配向型液晶セルの偏光板の吸収軸に対し45度の方位角で法線に対して斜め方向でのコントラストを高める』という特有の効果を奏します。」(第3頁下から15行目-下から8行目) (A)主張1について まず、刊行物2に関する上記主張1について検討する。 刊行物2には、アクリル系ポリマーの透明フィルムによって|nx-ny|、|nx-nz|及び|nz-ny|の各屈折率差が3/10^(4)以下とすることが直接的に記載されていない点は上記主張の通りである。 しかし、刊行物2には、三次元レベルで光学特性を制御した透明フィルムの材料として、アクリル系ポリマーを用いうることが記載されており、上記(相違点1)で検討したとおり各屈折率差を、どの程度とするかは当業者が適宜なし得る事項にすぎない。 また、本願の発明の詳細な説明には|nx-ny|、|nx-nz|及び|nz-ny|の各屈折率差が3/10^(4)以下とする透明フィルムの材料として、 「【0011】透明フィルムを形成する高分子は、適宜なものであってよく、特に限定はない。ちなみにその例としてはシクロオレフィン系ポリマーやノルボルネン系ポリマー、脂環式オレフィン系ポリマーやカーボネート系ポリマー、アリレート系ポリマーやイミド系ポリマー、エステル系ポリマーやアクリル系ポリマー、スルホン系ポリマーやそれらポリマーの2種又は3種以上を混合したポリマーなどがあげられる。」と記載されている。 さらに、その実施例において 「【0028】 【実施例】実施例1 アクリプレン(商品名、三菱レーヨン社製)の30%トルエン溶液を用いてキャスト法にて厚さ80μmの透明フィルムを得た。これはその│nx-ny│、│nx-nz│及び│nz-ny│の各屈折率差が1/10^(4)のものであった。次にその透明フィルムの片面にポリビニルアルコールのラビング配向膜を形成し、その上にコレステリック液晶(大日本インキ社製、CB-15)を塗布し乾燥させてnx≒ny>nzの屈折率異方性を示す厚さ5μmのコーティング膜からなる透明層を形成して光学シートを得た。」 と記載されている。上記アクリプレンは、アクリル系モノマーであると認められる。 本願の発明の詳細な説明および上記意見書からは、アクリル系ポリマーが他の材料と比べて格別な優位性を有していることは見出せない。さらに、本願の発明の詳細な説明には市販されている公知なアクリル系ポリマーを用いて、特殊な製造方法を用いずに透明フィルムの│nx-ny│、│nx-nz│及び│nz-ny│の各屈折率差を3/10^(4)以下とすることができることが記載されており、当該記載からはアクリル系ポリマーにおいて上記各屈折率差を達成することが困難であった事情も見出せない。 したがって、アクリル系ポリマーを用いた透明フィルムにおいて上記各屈折率差を達成できることに技術的な困難性はなく、当業者であればすぐに気が付く程度の事項にすぎない。もし、上記技術的な困難性があるとすれば、本願の発明の詳細な説明には当該困難性を解消する点がなんら記載されていないため、当該本願の発明の詳細な説明は当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、特許法第36条第4項に規定される実施可能要件をみたしていないものとなる。 よって、上記主張1は当を得たものではなく、採用することができない。 (B)主張2について 上記主張2における「透明層が形成されて各屈折率差が6/10^(4)以下」との記載は本願発明の構成「透明層が形成されて各屈折率差が3/10^(4)以下」と異なっているが、当該記載は明らかな誤記であり後者の記載が意見書においてなされているものと認定して検討する。 刊行物2には、上記(相違点1について)で述べたとおり、透明フィルムにおける微小な光学異方性(複屈折等)による偏光の乱れが生じコントラストが低下することを防止するために、自平面に対する法線から30度以内の視角範囲における位相差を3nm以下とすることが記載されている。 刊行物2に記載された発明は、斜め方向における位相差を小さくして当該 方向における偏光の乱れを抑制し、その結果として、その方向におけるコントラストの低下を防止するものであることは、当業者には明らかな事項である。当該斜め方向を45°としてコントラストを評価する程度のことは当業者が適宜設定しうる事項にすぎない。 よって、上記主張2は当を得たものではなく、進歩性の判断を左右するものではない。 (まとめ) よって、本願発明は、刊行物1、2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-09-22 |
結審通知日 | 2011-09-27 |
審決日 | 2011-10-12 |
出願番号 | 特願2000-334471(P2000-334471) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 池田 周士郎、中村 理弘 |
特許庁審判長 |
木村 史郎 |
特許庁審判官 |
金高 敏康 西村 仁志 |
発明の名称 | 液晶表示装置 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |