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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F |
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管理番号 | 1247513 |
審判番号 | 不服2010-12352 |
総通号数 | 145 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-01-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-06-08 |
確定日 | 2011-11-24 |
事件の表示 | 特願2003-416180「液晶表示装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月30日出願公開、特開2005-173439〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成15年12月15日に特許出願したものであって、平成21年11月25日付けで手続補正がなされたが、平成22年2月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年6月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされたものである(以下、平成22年6月8日になされた手続補正を「本件補正」という。)。 第2 本件補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 本件補正は、補正前の請求項2の 「一対の電極の形成された2枚の平行基板の間隙に、液晶と、光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性物質とを含む液晶組成物を配置し、その後当該重合性物質を重合させ、液晶層を形成する液晶表示装置の製造方法において、 当該液晶組成物が、1重量ppm以上、かつ、重量基準で当該重合性物質と同濃度以下のラジカル捕捉物質を含有し、 当該液晶組成物を、当該液晶組成物中の液晶の液晶状態から等方性状態への相転移点以上で熱処理し、ついで、当該相転移点未満に降温してから当該液晶組成物を重合させる、 液晶表示装置の製造方法。」 を、以下のように補正して、新たな請求項1とすることを含むものである。 「一対の電極の形成された2枚の平行基板の間隙に、液晶と、光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性物質とを含む液晶組成物を配置し、その後当該重合性物質を重合させ、液晶層を形成する液晶表示装置の製造方法において、 当該液晶組成物が、1重量ppm以上、かつ、重量基準で当該重合性物質と同濃度以下のラジカル捕捉物質を含有し、 電圧無印加下、当該液晶組成物を、当該液晶組成物中の液晶の液晶状態から等方性状態への相転移点以上で熱処理し、ついで、当該相転移点未満に降温してから当該液晶組成物を重合させる、 液晶表示装置の製造方法。」 2 本件補正の目的 (1)液晶組成物を、当該液晶組成物中の液晶の液晶状態から等方性状態への相転移点以上で熱処理し、ついで、当該相転移点未満に降温してから当該液晶組成物を重合させる態様に関して、本願明細書には、以下の記載がある。 ア「【0011】 本発明の他の一態様によれば、一対の電極の形成された2枚の平行基板の間隙に、液晶と、光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性物質とを含む液晶組成物を配置し、その後重合性物質を重合させ、液晶層を形成する液晶表示装置の製造方法において、液晶組成物を、液晶組成物中の液晶の液晶状態から等方性状態への相転移点以上で熱処理し、ついで、相転移点未満に降温してから液晶組成物を重合させる液晶表示装置の製造方法が提供される。相転移点以上での熱処理を1時間以上行うことが好ましい。」 イ「【0037】 (4)液晶状態から等方性状態への相転移点以上で熱処理を行う方法 不純物が液晶組成物中で不均一に分布しないようにする観点からは、液晶組成物を基板間に配置した後、使用された液晶の液晶状態(例えばネマチック状態)から等方性状態への相転移点(以下、単に相転移点と言う場合がある)以上で熱処理を行い、ついで、この相転移点未満に降温してから液晶組成物を重合させることが有用である。 【0038】 重合させる前に、相転移点以上の温度で熱処理を行うことで、不純物を液晶組成物中に拡散させることができる。そこで、液晶組成物中の不純物濃度が、たとえばほぼ均一となるまで熱処理を行った後に相転移点より低い温度に降温し、重合性化合物の重合を始めれば、不純物と重合性化合物との反応が起こっても、ポリマー中に含まれる不純物の濃度を均一にでき、このため、プレチルト角に対する不純物の影響も均一化でき、表示むらが問題とならなくなるものと考えられる。 【0039】 この方法では、相転移点以上の温度での熱処理を行う際に、不純物の液晶組成物中への拡散が妨げられるほどの重合が、その熱により起こらないことが重要である。なお、相転移点以上の温度としてどの程度の値を選択するかは実情に応じて任意に定めることができる。相転移点以上の温度に保つ時間も実情に応じて任意に定めることができるが、1時間以上行うことが好ましい。」 ウ「【0062】 [実施例4](方法(4)について) 酸化防止剤を使用せず、紫外線照射も電圧印加もない状態で、パネルを100℃で10時間熱処理(アニール)し、その後パネルを室温に冷却してから、電圧印加と紫外線照射とを行った以外は実施例1と同様にして液晶パネルを作製した。 【0063】 この結果、この液晶パネルでは、中間色表示において、図1のような表示むらは発生しなかった。」 エ「【0073】 (付記7) 一対の電極の形成された2枚の平行基板の間隙に、液晶と、光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性物質とを含む液晶組成物を配置し、その後当該重合性物質を重合させ、液晶層を形成する液晶表示装置の製造方法において、 当該液晶組成物を、当該液晶組成物中の液晶の液晶状態から等方性状態への相転移点以上で熱処理し、 ついで、当該相転移点未満に降温してから当該液晶組成物を重合させる 液晶表示装置の製造方法。」 オ「【0082】 (付記16) 一対の電極の形成された2枚の平行基板の間隙に、液晶と、光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性物質とを含む液晶組成物を配置し、その後当該重合性物質を重合させ、液晶層を形成する液晶表示装置の製造方法において、 当該液晶組成物を、当該液晶組成物中の液晶の液晶状態から等方性状態への相転移点以上で熱処理し、 ついで、当該相転移点未満に降温してから当該液晶組成物を重合させる 付記9に記載の液晶表示装置の製造方法。」 (2)上記ア?オの記載のうち、電圧無印加下で行うことが説明されているのは、ウのみであって、本願明細書には、電圧印加のない状態で、熱処理を行い、降温してから、電圧印加と紫外線照射(すなわち液晶組成物の重合)とを行う態様のみが記載されているものと認められる。 そうすると、本件補正後の請求項1の「電圧無印加下」との要件は、「当該液晶組成物を、当該液晶組成物中の液晶の液晶状態から等方性状態への相転移点以上で熱処理し、ついで、当該相転移点未満に降温」する工程について特定するものと解される。 すなわち、上記1の補正は、補正前の請求項2における「当該液晶組成物を、当該液晶組成物中の液晶の液晶状態から等方性状態への相転移点以上で熱処理し、ついで、当該相転移点未満に降温し」との工程について、「電圧無印加下」との特定を付加して、特許請求の範囲の減縮を行うものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。 3 独立特許要件について 本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。 (1) 引用刊行物の記載 ア 引用刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-109393号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。 (ア)「【請求項1】 それぞれ電極を有する2枚の基板間に誘電率異方性が負の液晶層が挟持され、その液晶層に2種以上の微小領域が共存する液晶表示装置であって、少なくとも一方の基板上の電極に開口部を有し、その開口部の位置に液晶の初期配向を制御するための第二の電極を有することを特徴とする液晶表示装置。」 (イ)「【請求項7】 請求項1記載の液晶表示装置の製造方法であって、それぞれ電極を有する2枚の基板を有し、その少なくとも一方の基板上に、開口部を有する電極を備え、その開口部の位置に液晶の初期配向を制御するための第二の電極が設けられた空パネルに液晶を注入する工程、開口部を有する電極と該電極に対向する電極との間に印加される電圧以上の電圧を第二の電極と該電極に対向する電極との間に印加して液晶の初期配向を制御する工程を有することを特徴とする液晶表示装置の製造方法。」 (ウ)「【0022】本発明の液晶表示装置の製造方法は、制御電極(第2の電極)に所定の電圧を印加することによって、液晶の初期配向を制御する。この液晶の初期配向の制御は、室温で制御電極に電圧を印加するだけであってもよいが、加熱により液晶層を等方相にした後、制御電極に電圧を加えながら温度を降下させることにより行うことが好ましい。あるいは、制御電極に電圧を印加して液晶の初期配向を制御した後に、液晶中に少量混合した重合性モノマー又はオリゴマーを高分子化することにより行うことが好ましい。さらに、上記温度制御と高分子化をともに行ってもい。これらによって、初期の液晶配向をさらに確実なものとすることができる。 【0023】なお、室温で制御電極に電圧を印加して初期配向を制御する場合(温度制御を行わず高分子化は行う場合)は、電圧印加後に高分子化反応を起こさせることが好ましいが、電圧印加前に高分子化反応を起こさせてもよい。また、温度制御と高分子化をともに行う場合は、モノマー又はオリゴマーの反応は、等方相に加熱する前に起こさせてもよいし、加熱中に起こさせてもよいし、冷却後に起こさせてもよい。」 (エ)「【0026】本発明に使用するモノマー、オリゴマーとしては、光硬化性モノマー、熱硬化性モノマー、あるいはこれらのオリゴマー等のいずれも使用することもでき、また、これらを含むものであれば他の成分を含んでいてもよい。本発明に使用する光硬化性モノマー、オリゴマーは、可視光線により反応するものだけでなく、紫外線により反応する紫外線硬化モノマー等を含み、操作の容易性からは特に後者が望ましい。」 イ 引用刊行物2 同じく特開2002-287153号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【0067】次に、液晶に、ポリマー分散体51を形成し得る所定の濃度の高分子前駆体を均一に混合させた混合物を調製し、この混合物を液晶セルのシール材の一部に形成された液晶注入孔から液晶セル内に、真空注入法などの方法により注入することにより、所定の濃度の高分子前駆体を含有する液晶層50を形成する。その後、液晶注入孔を熱硬化性接着剤や光硬化性接着剤からなる封止材により封止する。 【0068】液晶セル内に液晶と高分子前駆体との混合物を注入した後、液晶分子50aは配向膜40、60の表面形状に従って配向する。なお、ポリイミドなどの配向性高分子からなる配向膜に比較して、無機斜方蒸着膜からなる配向膜40、60の液晶分子50aに対する配向規制力は弱いが、液晶を注入した後の初期において液晶層50内のすべての液晶分子50aを良好に配向することができる程度の配向規制力は有している。 【0069】高分子前駆体としては、それ自身が液晶相を持つものを用いることができ、例えば液晶性紫外線硬化型モノマーあるいはそれらのオリゴマーを用いることができる。用いる高分子前駆体の詳細な構造については後述する。液晶層50を図4に示した初期配向状態とした後、液晶層50内に含有された高分子前駆体からポリマー分散体51を形成する。高分子前駆体として、紫外線硬化型モノマーあるいはそれらのオリゴマーを用いた場合には、液晶セルに、例えば300?400nm程度の紫外線を3?15mW/cm^(2)程度の強度で、10?60分間程度照射し、高分子前駆体を重合して高分子化することにより、初期配向状態の液晶分子50a間に、図4に示した所定の形状を有するポリマー分散体51を容易に形成することができる。最後に、液晶セルの外側に偏光子15、偏光子25を取り付けることにより、上記構造の液晶装置が製造される。」 (イ)「【0077】また、上記高分子前駆体には、光吸収剤、脱励起剤、抗酸化剤のうちから選択される一種または二種以上の添加剤を添加してもよい。上記光吸収剤としては、例えば、光吸収帯域が270?450nmに存在するものを用いることができ、具体的には、ベンゾトリアゾール、ヒンダードアミン、セラミック粒子などを使用できる。上記脱励起剤としては、ビフェニル、カルバゾール、ベンゾフェノンなどを用いることができる。上記抗酸化剤としては、ヒドロキノン、2,5-ジ-tert.-ブチルヒドロキノン、フェノール類、リン化合物、硫黄化合物などを用いることができる。上記のような添加剤の添加量は、上記高分子前駆体の0.1?10重量%程度とすることが望ましい。」 ウ 引用刊行物3 同じく特開2003-253265号公報(以下「引用刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【0009】 【発明の実施の形態】本発明の調光層形成材料は、液晶組成物及びラジカル重合性組成物からなる。本発明に使用する液晶組成物は、通常この技術分野で液晶相と認識される相を示す組成物であり、中でも、液晶相としてネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶、カイラルネマチック液晶、カイラルスメクチック液晶を発現するものが好ましい。そのような液晶相を示す組成物としては、例えば、安息香酸エステル系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、ビフェニル系、ターフェニル系、フェニルシクロヘキサン酸系、ピリミジン系、ピリジン系、ジオキサン系、シクロヘキサンシクロヘキサンエステル系、トラン系、アルケニル系、フルオロ系、シアノ系、ナフタレン系等の液晶化合物からなる組成物や、該液晶化合物を含有する組成物が挙げられる。 【0010】本発明に使用するラジカル重合性組成物はラジカル重合性化合物と重合開始剤とを含有する。ラジカル重合性化合物は、必須成分としてラジカル重合性基を有する紫外線吸収剤又はラジカル重合性基を有する酸化防止剤を含有する以外は特に限定はなく、公知慣用の化合物を使用することができる。例えば、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレートや、テトラエチレングリコールビスマレイミド等の化合物が挙げられる。」 (イ)「【0022】本発明で使用するラジカル重合性基を有する酸化防止剤とは、通常酸化防止剤として使用されている化合物に、ラジカル重合性基を導入したものである。酸化防止剤として使用されている化合物としては、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、亜リン酸エステル、イオウ系化合物等が挙げられる。中でも、ヒンダードフェノールおよび亜リン酸エステルが好ましい。」 エ 引用刊行物4 本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-179101号公報(以下「引用刊行物4」という。)には、以下の事項が記載されている。 (ア)【0026】本発明の液晶表示素子の製造方法について、更に詳細に説明する。本発明の(製造方法1)及び(製造方法2)において、複数の画素電極層と配向制御膜を有する基板間に、液晶性(メタ)アクリレートを含有する光硬化性組成物及びネマチック液晶を含有する液晶組成物を注入する。更に、注入した液晶組成物がネマチック液晶相を示す状態において、各複数の画素電極間にそれぞれ異なった電圧を印加して液晶組成物中に含有されるネマチック液晶と液晶性(メタ)アクリレートの傾き角を制御する。この時の各画素電極ごとのネマチック液晶と液晶性(メタ)アクリレートの傾き角は、各画素ごとに要求される干渉色に基づいて制御する必要がある。この各複数の画素電極間にそれぞれ異なる電圧を印加した状態で、透明性を有する基板の側から紫外線又は電子線等のエネルギー線を照射して液晶性(メタ)アクリレートを含有する光硬化性組成物を光硬化させて、液晶性(メタ)アクリレートの傾きを固定化する。このように電圧を印加した状態で光硬化性組成物を硬化させて、液晶性(メタ)アクリレートの傾きを固定化することで、電圧を印加していない状態でも、各複数の画素電極層間のネマチック液晶の傾き角を制御し、これによって角画素ごとに異なる干渉色を呈色させることが可能になる。 (イ)「【0036】次に、液晶セル(A)を100℃に保ちながら、液晶組成物(L-1)を等方性液体相のまま注入し、その後徐々に温度を25℃まで下げることにより、液晶組成物(L-1)を等方性液体相からネマチック相まで相転移させた。次に、3つの画素電極層間に1.2V、1.5V、2.9Vの周波数1kHzの正弦波を印加して、それぞれの画素電極層間に挟まれた液晶組成物(L-1)の傾き角を制御した。この状態で、中心波長365nmで強度40mW/cm^(2)の紫外線を照射して液晶組成物中に含有される光硬化性組成物を光硬化させた。」 (2) 引用発明 ア 上記(1)ア(ア)及び(イ)によれば、引用刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「それぞれ電極を有する2枚の基板間に誘電率異方性が負の液晶層が挟持され、その液晶層に2種以上の微小領域が共存する液晶表示装置であって、少なくとも一方の基板上の電極に開口部を有し、その開口部の位置に液晶の初期配向を制御するための第二の電極を有する液晶表示装置の製造方法であって、 それぞれ電極を有する2枚の基板を有し、その少なくとも一方の基板上に、開口部を有する電極を備え、その開口部の位置に液晶の初期配向を制御するための第二の電極が設けられた空パネルに液晶を注入する工程、開口部を有する電極と該電極に対向する電極との間に印加される電圧以上の電圧を第二の電極と該電極に対向する電極との間に印加して液晶の初期配向を制御する工程を有する液晶表示装置の製造方法。」 イ 同(ウ)によれば、引用刊行物1には、「液晶の初期配向の制御は」、「温度制御」すなわち「加熱により液晶層を等方相にした後、制御電極に電圧を加えながら温度を降下させること」と、「高分子化」すなわち「制御電極に電圧を印加して液晶の初期配向を制御した後に、液晶中に少量混合した重合性モノマー又はオリゴマーを高分子化すること」をともに行ってもよいこと、この場合、「モノマー又はオリゴマーの反応」すなわち高分子化は冷却後に起こさせてもよいことが記載されている。 また、同(エ)によれば、上記「重合性モノマー又はオリゴマー」は、光硬化性であってよいものと認められる。 ウ 以上によれば、引用刊行物1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「それぞれ電極を有する2枚の基板間に誘電率異方性が負の液晶層が挟持され、その液晶層に2種以上の微小領域が共存する液晶表示装置であって、少なくとも一方の基板上の電極に開口部を有し、その開口部の位置に液晶の初期配向を制御するための第二の電極を有する液晶表示装置の製造方法であって、 それぞれ電極を有する2枚の基板を有し、その少なくとも一方の基板上に、開口部を有する電極を備え、その開口部の位置に液晶の初期配向を制御するための第二の電極が設けられた空パネルに液晶を注入する工程、 加熱により液晶層を等方相にした後、制御電極に電圧を加えながら温度を降下させることにより液晶の初期配向を制御し、冷却後に、液晶中に少量混合した光硬化性モノマー又はオリゴマーを高分子化する工程 を有する液晶表示装置の製造方法。」 (3) 対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「それぞれ電極を有する2枚の基板」は、本願補正発明の「一対の電極の形成された2枚の平行基板」に相当する。 イ 引用発明の「光硬化性モノマー又はオリゴマー」は、本願補正発明の「光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性物質」に相当する。 そして、引用発明は、「空パネルに液晶を注入する工程」及び「液晶中に少量混合した重合性モノマー又はオリゴマーを高分子化する工程」を有するものであるから、本願補正発明の「一対の電極の形成された2枚の平行基板の間隙に、液晶と、光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性物質とを含む液晶組成物を配置し、その後当該重合性物質を重合させ、液晶層を形成する」構成を有しているといえる。 ウ 引用発明は、「加熱により液晶層を等方相にした後、制御電極に電圧を加えながら温度を降下させる」ものであるから、「加熱により液晶層を等方相に」する際には、電圧が加えられていないと解される。 したがって、引用発明は、「電圧無印加下、液晶組成物を、当該液晶組成物中の液晶の液晶状態から等方性状態への相転移点以上で熱処理し、」「ついで、当該相転移点未満に降温してから」「当該液晶組成物を重合させる」点で、本願補正発明と一致する。 なお、上記2(2)のとおり、本願補正発明における「当該相転移点未満に降温」する工程は、「電圧無印加下」で行われるものと解される。 エ 以上によれば、本願補正発明と引用発明とは、 「一対の電極の形成された2枚の平行基板の間隙に、液晶と、光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性物質とを含む液晶組成物を配置し、その後当該重合性物質を重合させ、液晶層を形成する液晶表示装置の製造方法において、 電圧無印加下、当該液晶組成物を、当該液晶組成物中の液晶の液晶状態から等方性状態への相転移点以上で熱処理し、ついで、当該相転移点未満に降温してから当該液晶組成物を重合させる、 液晶表示装置の製造方法。」 である点で一致し、以下の点a、bで相違するものと認められる。 a 本願補正発明は、液晶組成物が、1重量ppm以上、かつ、重量基準で当該重合性物質と同濃度以下のラジカル捕捉物質を含有するものであるのに対して、引用発明は、少量のモノマー又はオリゴマーを含む液晶が、ラジカル捕捉物質を含有するものであるのか不明である点(以下「相違点1」という。) b 本願補正発明は、電圧無印加下、当該液晶組成物を、相転移点未満に降温するものであるのに対して、引用発明は、制御電極に電圧を加えながら温度を降下させる点(以下「相違点2」という。) (4) 判断 ア 上記相違点1について (ア)上記(1)イ及びウによれば、引用刊行物2ないし3には、液晶組成物とともに重合性組成物を用いる液晶材料において、抗酸化剤を添加する技術が記載されていることが認められ、抗酸化剤として、引用刊行物2にはフェノール類、引用刊行物3にはヒンダードフェノールが示されていることが認められる。 (イ)してみれば、液晶が、少量のモノマー又はオリゴマー、すなわち重合性物質を含む引用発明においても、上記(ア)の技術を適用して、フェノール系の抗酸化剤を添加することは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことであり、その際、抗酸化剤の濃度をどの程度とするかは、当業者が設計上適宜定めるべきことであって、これを1重量ppm以上、かつ、重量基準で当該重合性物質と同濃度以下とすることに格別の困難を要するものとは認められない。 (ウ)そして、本願明細書の 「ラジカル捕捉物質としては、本発明の趣旨に反しない限りどのようなものを使用してもよく、具体的効果により適宜選択することができるが、一般的に酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤としては、フェノール系、芳香族アミン系(強く着色する場合がある)等の酸化防止剤を例示することができる。特に、フェノール系酸化防止剤が好ましい。具体的には、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のフェノール系化合物である、Irganox1076,Irganox1010,Irganox1141等を挙げることができる。」(【0028】参照) との記載によれば、フェノール系等の酸化防止剤、すなわち上記(イ)のフェノール系の抗酸化剤は、本願補正発明の「ラジカル捕捉物質」に相当するものと認められる。 また、本願補正発明において、ラジカル捕捉物質の濃度を、「1重量ppm以上、かつ、重量基準で当該重合性物質と同濃度以下」とすることに、設計的事項の域を超える程の技術的意義があるものとは認められない。 (エ)以上によれば、引用発明において、引用刊行物2ないし3に記載の技術を適用して、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことというべきである。 イ 上記相違点2について 上記(1)エによれば、引用刊行物4には、 「液晶セル(A)を100℃に保ちながら、液晶組成物(L-1)を等方性液体相のまま注入し、その後徐々に温度を25℃まで下げることにより、液晶組成物(L-1)を等方性液体相からネマチック相まで相転移させた。次に、3つの画素電極層間に1.2V、1.5V、2.9Vの周波数1kHzの正弦波を印加して、それぞれの画素電極層間に挟まれた液晶組成物(L-1)の傾き角を制御した。この状態で、中心波長365nmで強度40mW/cm2の紫外線を照射して液晶組成物中に含有される光硬化性組成物を光硬化させた。」 との記載があり、等方性液体層から徐々に温度を下げてネマチック層まで相転移させた後に電圧を印加して、液晶組成物の傾き角すなわち液晶の初期配向を制御する技術が記載されているものと認められる。 したがって、引用発明において、電圧を加えながら温度を降下させることにより液晶の初期配向の制御を行う方法に代えて、引用刊行物4に記載の上記技術を適用して、液晶組成物を等方性液体相から徐々に温度を下げてネマチック相まで相転移させ、その後電圧を印加して液晶の初期配向を制御し、これにより相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。 ウ 本願補正発明の効果について 本願補正発明が全体として奏する効果についてみても、格別顕著なものとは認められない。 エ 小括 以上の検討によれば、本願補正発明は、引用発明、引用刊行物2ないし3及び引用刊行物4に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4 補正却下の決定についてのむすび 以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであって、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成21年11月25日付け手続補正後の明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2、1において、補正前のものとして示したとおりのものである。 2 刊行物の記載及び引用発明 前記第2、3(1)アないしウ及び(2)のとおりである。 3 対比及び判断 前記第2、3(3)での検討に照らして、本願発明と引用発明とは、相違点1と同様の点で相違し、その余の点において一致するものと認められる。 そして、前記第2、3(4)アで検討したとおり、引用発明において、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物2ないし3に記載の技術に基づいて、当業者が容易に想到し得る程度のことであるから、同様の理由により、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の構成とすることも、当業者が容易に想到し得る程度のことである。 よって、本願発明も、引用発明及び引用刊行物2ないし3に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用刊行物2ないし3に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-06-21 |
結審通知日 | 2011-06-28 |
審決日 | 2011-07-13 |
出願番号 | 特願2003-416180(P2003-416180) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02F)
P 1 8・ 575- Z (G02F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山口 裕之 |
特許庁審判長 |
服部 秀男 |
特許庁審判官 |
北川 創 吉野 公夫 |
発明の名称 | 液晶表示装置およびその製造方法 |
代理人 | 土井 健二 |
代理人 | 林 恒徳 |
代理人 | 土井 健二 |
代理人 | 林 恒徳 |