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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 C07F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07F
管理番号 1247639
審判番号 不服2008-16813  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-02 
確定日 2011-11-30 
事件の表示 特願2002-581474「特にカップリング剤として使用できるポリスルフィドオルガノキシシラン、それらを含有するエラストマー組成物及びそのような組成物から製造されたエラストマー製物品」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月24日国際公開、WO02/83719、平成17年2月3日国内公表、特表2005-503337〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、2002年4月8日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理 2001年4月10日 フランス(FR)〕を国際出願日とする出願であって、平成20年3月31日付けで拒絶査定がなされ、同年7月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付け及び同年8月1日付けで手続補正がなされ、その後、平成22年7月20日付けの審尋に対し、平成23年1月27日付けで回答書の提出がなされたものである。

そして、平成20年7月2日付けの手続補正は、補正前の請求項1?3、5?6及び8?14を削除するとともに、従属形式で記載されていた補正前の請求項4及び6の記載を独立形式による記載に改めて補正後の請求項1及び2としたものであり、同年8月1日付けの手続補正は、前記補正後の請求項2のみを削除するものであることから、これらの手続補正は、何れも平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」を目的とするものに該当する。
また、これらの手続補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものであるから、同法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
したがって、本願の特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明は、平成20年8月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「補強用充填剤としての白色充填剤とを含有するエラストマー組成物の加硫速度促進方法であり、エラストマー組成物へ;
次式(III):【化1】

(ここで、記号xは3.5±0.1?4.5±0.1の範囲の整数又は分数である。)のプロピレン結合単位を持つポリスルフィドモノオルガノキシシランを加えることを含む方法。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、理由1として、『この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。』という理由を含むものであって、当該「下記の請求項」として「請求項1?23」が指摘され、当該「下記の刊行物」として「特開2000-313773号公報」が「刊行物1」として提示されており、
原査定の備考欄には、『先の刊行物1には、ビス-(3-[ジメチルエトキシシリル]-プロピル)テトラスルファン、珪酸、合成ゴムを含有するゴム混合物が記載されており、これによってゴムの加硫を行うことは明らかである。当該刊行物に加硫速度促進については記載されていないが、具体的な方法として異なる所はない。…なお、当該刊行物1には、ビス-(3-[ジメチルエトキシシリル]-プロピル)テトラスルファンの具体的な製造実施例は記載されていないが、化学名は明示されており、先に示した刊行物4?8にも記載された公知の製造方法によって製造できることは明らかであるから、当該スルファンは実質的に刊行物1に記載されていると認められる。』との指摘がなされているものである。

3.刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1
本願優先権主張日前に頒布された刊行物である上記「刊行物1」には、次の記載がある。

摘記1a:請求項6
「合成ゴム、充填剤としてのケイ酸および次の2つのオルガノシランポルスルファンのうちの1つ:ビス-(3-[ジメチルエトキシシリル]-プロピル)テトラスルファンまたはビス-(3-[ジメチルエトキシシリル]-プロピル)ジスルファンを含有している、請求項1から5までのいずれか1項記載のゴム混合物。」

摘記1b:段落0002
「硫黄を含有する有機ケイ素化合物、例えば…ビス-(3-[トリエトキシシリル]-プロピル)テトラスルファンを、シランカップリング剤または強化添加剤として、酸化物充填ゴム混合物中で、とりわけトレッドの製造および自動車タイヤの他の部品の製造のために使用することは公知である…。」

摘記1c:段落0025
「本発明によるゴム混合物の加硫は、100?200℃、好ましくは130?180℃の温度で、場合により10?200バールの圧力下に行ってよい。」

摘記1d:段落0032
「デグッサ社(Degussa AG)製のケイ酸VN3は、175m^(2)/gのBET表面積を有する。参照例1のTESPD(ビス-(3-[トリエトキシシリル]プロピル)ジスルファン)を、ドイツ連邦共和国特許第19541404号明細書に従って製造する。例2のシランであるビス-(3-[ジメチルエトキシシリル]プロピル)ジスルファンを、技術水準により、クロロジメチルシランと塩化アリルとのヒドロシリル化、引続きエタノール分解およびドイツ連邦共和国特許出願公開第19734295号明細書に記載されている方法に類似した硫黄化により製造する。」

摘記1e:段落0037
「TESPD 5.8phrでの比較例1を変更して、例2の混合物に、等モル量の計量供給に相当するビス-(3-[ジメチルエトキシシリル]プロピル)ジスルファン4.3phrを添加する。」

(2)参考例A
本願優先権主張日前に頒布された刊行物であって、本願優先権主張日前の一般的な技術水準を示すために「参考例A」として提示する「特開平8-302070号公報」には、次の記載がある。

摘記A1:段落0002
「シリカを用いたゴム組成物は、カーボンブラックを用いたゴム組成物と比較して、着色が容易であるという理由から、着色ゴム、白色ゴム用途に広く用いられており、また室温域以上の温度領域におけるエネルギー損失が小さいという特性から、タイヤ用途などにも使用されている。」

摘記A2:段落0009及び0015
「本発明の(C)成分はシランカップリング剤である。…
本発明のゴム組成における(C)成分の含有量は、(A)成分100重量部あたり1?15重量部、好ましくは2?10重量部である。(C)成分が過少であると加硫速度及び加硫物の機械的強度が低下し、一方(C)成分が過多であると機械的強度の低下及び生産コストの増加を招く。」

(3)参考例B
本願優先権主張日前に頒布された刊行物であって、本願優先権主張日前の一般的な技術水準を示すために「参考例B」として提示する「特開平11-263878号公報」には、次の記載がある。

摘記B1:段落0002
「タイヤの低燃費性やグリップ性能に対する市場の要求から、タイヤを構成するゴム組成物には補強材としてシリカが用いられているが、シリカの分散性に劣り、粘度が上昇し、さらに加硫速度が遅くなるという加工上の問題、およびウェットグリップ性に劣るという性能上の問題を解消するため、併せてシランカップリング剤が配合されている。」

摘記B2:段落0020?0021
「つぎに、本発明において用いるシランカップリング剤としては、従来からシリカとともに用いられているものであればよいが、補強性と加工性の両立という点から、式(2):Z-R-S_(n)-R-Z…(式中、Rは炭素数1?18の2価の炭化水素基、nは2?8の整数、Zは-Si(R^(1))_(2)R^(2)、…(ただし、R^(1)炭素数1?4のアルキル基、…R^(2)は炭素数1?8のアルコキシ基…)である)で示されるものであるのが好ましい。…
前記式(2)…中、…R^(1)はメチル…であり、R^(2)は…エトキシ…である。また、Rは…プロピレンなどの炭素数1?18の2価の炭化水素基である。」

摘記B3:段落0053
「シリカ … デグッサ社製のUltrasil VN3」

(4)刊行物5
原査定の拒絶理由通知において「刊行物5」として提示された刊行物であって、刊行物1に係る特許出願(優先日:1999年4月3日)の出願時における技術水準を示すための「特開昭50-108225号公報」には、次の記載がある。

摘記5a:請求項1
「一般式:
Z-Alk-S_(x)-Alk-Z (I)
R^(1)
/
〔式中Zは基:-Si-R^(1),…
\
R^(2)
を表わし、ここでR^(1)は炭素原子数1?4の直鎖状又は分子鎖状アルキル基…を表わし、…かつR^(2)は炭素原子数1?8の直鎖又は分枝状の炭素鎖を有するアルコキシ基…を表わし、その際R^(1)及びR^(2)はその都度同じものか又は異なるものであつて良く、Alkは…炭素原子数1?10の直鎖又は分枝状の炭素鎖を有する二価の炭化水素基であり、かつxは2.0?6.0の数値である〕の硫黄含有有機珪素化合物を製造するに当り、一般式:
Z-Alk-SH (II)
〔式中Z及びAlkは前記のものを表わす〕の化合物を硫黄と反応させることを特徴とする、硫黄含有有機珪素化合物の製法。」

摘記5b:第5頁右上欄第10行?左下欄第2行
「3,3’-ビス-(メチルブチルエトキシシリルプロピル)-テトラスルフイド、…4,4’-ビス-(ジメチルエトキシシリル-1-ペンチル)-テトラスルフイド」

(5)参考例C
刊行物1に係る特許出願の出願時における技術水準を示すために「参考例C」として提示する「特開平7-304905号公報」には、次の記載がある。

摘記C1:段落0031
「実施例1
C_(2)H_(5)OSi(CH_(3))_(2)-CH_(2)-S_(4)-CH_(2)-Si(CH_(3))_(2)OC_(2)H_(5) の製造
無水エタノール300ml中Na_(2)S_(4) 43.5g(0.25モル)にクロロメチルジメチルエトキシシラン76g(0.5モル)を室温で添加し、混合物を室温で14時間撹拌した。次いで沈殿したNaClを濾過により除去し、濾液を真空下に蒸発させて濃縮した。低粘度の黄色の油88gを得た。」

4.刊行物1に記載された発明
摘記1aの「合成ゴム、充填剤としてのケイ酸および…ビス-(3-[ジメチルエトキシシリル]-プロピル)テトラスルファン…を含有している…ゴム混合物。」との記載、及び摘記1cの「本発明によるゴム混合物の加硫」との記載からみて、刊行物1には、
『合成ゴム、充填剤としてのケイ酸およびビス-(3-[ジメチルエトキシシリル]-プロピル)テトラスルファンを含有しているゴム混合物の加硫。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

5.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「合成ゴム…を含有しているゴム混合物」は、エラストマーがゴム状の弾力性を有する材料を意味し、混合物が組成物の範疇に含まれることから、本願発明の「エラストマー組成物」に相当し、
引用発明の「充填剤としてのケイ酸」は、摘記1dの「デグッサ社…製のケイ酸VN3」との記載及び摘記B3の「シリカ … デグッサ社製のUltrasil VN3」との記載を参酌するに、引用発明の具体例における「ケイ酸」としては「シリカ」が用いられており、摘記B1の「ゴム組成物には補強材としてシリカが用いられている」との記載及び摘記A1の「シリカを用いたゴム組成物…白色ゴム用途に広く用いられており」との記載並びに本願明細書の段落0052の「補強用白色充填剤は…シリカからなる」との記載を参酌するに、シリカがゴム組成物の補強剤として白色ゴム用途に用いられることは当業者にとって技術常識の範囲内であって、引用発明の具体例において用いられている「デグッサ社…製のケイ酸VN3」が「補強用白色充填剤」に該当することは自明であることから、本願発明の「補強用充填剤としての白色充填剤」に相当し、
引用発明の「ビス-(3-[ジメチルエトキシシリル]-プロピル)テトラスルファン」は、CAS登録番号が298689-48-2の公知化合物(以下、「MESPT」と略記することがある。)であって、本願発明の式(III)において、記号xが4の「プロピレン結合単位を持つポリスルフィドモノオルガノキシシラン」に相当し、
引用発明の「加硫」は、本願発明の「加硫速度促進方法」と同様に、方法のカテゴリーに属するものである。

そして、本願発明の「エラストマー組成物へ;次式(III)…のプロピレン結合単位を持つポリスルフィドモノオルガノキシシランを加えることを含む」という工程は、本願明細書の段落0063の「ある種の物品を製造するためには、…第一段階では、加硫剤と随意の加硫促進剤及び(又は)加硫活性剤を除いて、必要な成分の全て、或いは同様の除外を適用した必要な成分の一部が導入され、混合される。」との記載、並びに同段落0087及び0089の「MESPTをベースとしたカップリング剤。…下記の工程1及び2を100rpm/分で回転するブラベンダー型の密閉式ミキサーで実施する。種々の成分を以下に示す順序で、時間及び温度で導入する。…工程1:…t0…SBR及びBRゴム…t0+1,5分…1/3シリカ+カップリング剤+可塑剤…t0+2,5分…2/3シリカ+ステアリン酸+微結晶質ワックス…工程2:」との記載からみて、SBRゴムなどの合成ゴムとシリカとを予め混合した後に、別工程でシランカップリング剤を混合させることを意味するものではなく、
他方、摘記1bの「硫黄を含有する有機ケイ素化合物…を、シランカップリング剤…として、酸化物充填ゴム混合物中で…使用する」との記載、及び摘記1eの「例2の混合物に、…ビス-(3-[ジメチルエトキシシリル]プロピル)ジスルファン4.3phrを添加する」との記載からみて、刊行物1に記載された発明のシランカップリング剤としてのビス-(3-[ジメチルエトキシシリル]プロピル)ジスルファン(以下、「MESPD」と略記することがある。)は、ゴム混合物に添加されるものと認められることから、引用発明は、「ゴム混合物へ;MESPTを加えることを含む」ものであると認められる。

してみると、本願発明と引用発明は、「補強用充填剤としての白色充填剤とを含有するエラストマー組成物へ;次式(III):【化1】

(ここで、記号xは3.5±0.1?4.5±0.1の範囲の整数又は分数である。)のプロピレン結合単位を持つポリスルフィドモノオルガノキシシランを加えることを含む方法。」である点において一致し、
方法が、本願発明においては「加硫速度促進方法」に関するものであるのに対して、引用発明においては「加硫」に関するものである点においてのみ一応相違している。

6.判断
上記相違点について検討する。
本願発明の「加硫速度促進方法」について、本願明細書の段落0015の「特にビス(モノエトキシジメチルシリルプロピル)テトラスルフィド(MESPTと省略する。)…が、…早い加硫速度を、…可能にさせ」との記載からみて、その「加硫速度」の促進は、専らエラストマー組成物に本願発明の式(III)のプロピレン結合単位を持つポリスルフィドモノオルガノキシシラン(MESPT)を加える工程を含むことによって達成されるものと認められる。
しかして、引用発明の「加硫」も、ゴム混合物にシランカップリング剤としての「MESPT」を添加する工程を含むものであって、その余の工程についても、本願発明と引用発明とに相違する点はないから、本願発明の「加硫速度促進方法」と引用発明の「加硫」という「方法」の発明とを対比した場合に、その工程等に何ら異なるところがない。
してみると、本願発明と引用発明とを実質的に区別することはできない。

また、例えば、摘記A2の「(C)成分はシランカップリング剤である。…(C)成分が過少であると加硫速度及び加硫物の機械的強度が低下」との記載、及び摘記B1の「加硫速度が遅くなるという加工上の問題…を解消するため、併せてシランカップリング剤が配合されている。」との記載にあるように、硫黄を含有する有機ケイ素化合物からなるシランカップリング剤の配合によって加硫速度が遅くなるという問題が解消されることは単なる技術常識にすぎないものと認められるから、引用発明の「MESPT」というシランカップリング剤を添加したゴム混合物の加硫が、実質的に「加硫速度促進方法」を意味しているに等しいものと認められる。

したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

7.請求人の主張について
(1)二者択一の記載について
請求人は、平成23年1月27日付けの回答書において、『審査官殿の指摘された刊行物1の請求項1では、ビス-(3-[ジメチルエトキシシリル]-プロピル)テトラスルファン(MESPT)は総括的に記載された広い範囲のオルガノシランの一種に過ぎず具体的に記載されていないから当業者には容易に認識できない。刊行物1の請求項6ではMESPTは、ビス-(3-[ジメチルエトキシシリル]-プロピル)ジスルファン(MESPD)と並記して例示されており(刊行物1請求項6)、かつ刊行物1の実施例は全てMESPDに関するものである。』と主張し、
平成20年9月16日付けで手続補正された審判請求書の請求の理由において、『実施例で実際にその効果を検討されているのはビス-(3-[ジメチルエトキシシリル]プロピル)ジスルファン及び参考例としてのビス-(3-[トリエトキシシリル]プロピル)ジスルファンのみであり(刊行物1「0032」?「0039」例2)、テトラスルファン化合物は製造されておらず、その効果は確認されていない。』と主張している。
しかしながら、摘記1aに示されるように、刊行物1の請求項6には、オルガノシランの選択肢として、「MESPD」と「MESPT」の2種類のオルガノシランのみが記載されているところ、このように特許請求の範囲の欄に二者択一の選択肢として記載されている「MESPT」については、その発明の詳細な説明に実施例レベルでの開示がなくても、刊行物1に実質的に記載されていると認定するのが合理的かつ妥当である。
したがって、請求人の「MESPT」が刊行物1に実質的に記載されていないとの主張は採用できない。

(2)MESPTの製造可能性について
請求人は、同回答書において、『刊行物1には、ビス-(3-[ジメチルエトキシシリル]-プロピル)テトラスルファンの具体的な製造実施例は記載されていない。そして、本願出願時に本願発明で使用する特定のポリスルフィド化合物の製造方法は全く知られていなかった。このポリスルフィド化合物は、本件明細書に記載の方法、例えば本願出願時の請求項5?10に記載の製造方法により初めて製造できるものである。これは、刊行物4?8において、3,3’-ビス(メチルブチルエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(刊行物5)等の具体的記載はあっても、ビス(モノエトキシジメチルシリルプロピル)テトラスルフィドは記載されていないことからもうかがえる。』と主張し、
同請求の理由において、『なお、審査基準第II部第2章1.5.3には「ある発明が、当業者が当該刊行物の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、物の発明の場合はその物を作れることが明らかであるように刊行物に記載されていないときは、その発明を「引用文献」とすることができない。」とある。』と主張している。
しかしながら、例えば、刊行物5には、「3,3’-ビス-(メチルブチルエトキシシリルプロピル)-テトラスルフイド」や「4,4’-ビス-(ジメチルエトキシシリル-1-ペンチル)-テトラスルフイド」などの種々のビス-(ジアルキルエトキシシリルアルキル)テトラスルフィド(摘記5b)を、その請求項1に記載のとおりの製法(摘記5a)によって製造できることが記載されており、参考例Cにも、ビス(ジメチルエトキシシリルアルキル)テトラスルフィドを製造する具体例(摘記C1)が記載されているところ、刊行物1に係る特許出願の出願時における技術水準からみて、刊行物1に記載された「MESPT」を製造し得ることは明らかである。
したがって、請求人の本願出願時にMESPTの製造方法は全く知られていなかったとの主張は採用できない。

(3)選択発明について
請求人は、同回答書において、『審査官殿は、『たとえ「加硫速度促進」されることが刊行物1において認識されていなくても、実際に行う「方法」の発明としてみた場合に、その工程等に何ら異なるところはなく、両方法を区別することはできない。なお、加硫速度促進方法の効果についても、「方法」として異なるものでない以上、当該効果の認識の有無により異なる発明であるということはできない。』と説示された。しかし、刊行物1ではMESPTを実際に使用しておらず、その効果も認識されていない。本願発明は予測できない効果を発見してなされた選択的発明であり、従来技術の課題を解決するために特定のポリスルフィド化合物を使用する本願発明の加硫速度促進方法は、刊行物1には記載されていないといえる。』と主張し、
同請求の理由において、『このように、刊行物1では本願発明の課題は意識されておらず、本願発明の極めて優れた加硫速度促進効果は刊行物1の記載から当業者は全く認識できないものであり、本願発明の特定のビス(モノエトキシジメチルシリルプロピル)ポリスルフィド及びその製造又は入手方法も刊行物1には記載されていなかった。そのため、刊行物1の記載から当業者は本願発明の加硫速度促進方法を容易に想起することはできず、本願発明の効果は当業者の予測の範囲外であった。』と主張している。
しかしながら、刊行物1の請求項6に記載された発明は、MESPDとMESPTとを二者択一の選択肢としているものであって、刊行物1にはMESPTを使用する加硫方法についての発明が実質的に記載されており、本願発明が刊行物1に記載された発明であることは、上記に検討したとおりであるところ、発明特定事項において区別できない本願発明と刊行物1に記載された発明とに、作用効果ないし解決される課題の点において相違する点は認められない。
したがって、請求人の本願発明が選択発明であり、当業者にとって予測し得ない効果を有するとの主張は採用できない。

なお、『特許制度は,「創作」を保護する制度であり(特許法1,2条参照),「発見」自体は,保護の対象としていない。他方,特定の発明の作用効果は,客観的には,すべて,当該発明の構成の必然的な結果であり(逆にいえば,当該構成の必然的な結果でないものを当該発明の作用効果とすることはできない。),構成とは別の要素として存在し得るものではない。そうだとすると,構成自体は既に公知となっている発明についてはもちろん,構成自体についての容易推考性の認められる発明についても,その作用効果のみを理由に特許性が認められるということは,本来あり得ないことである,ということもできるであろう。…特許制度は上記のとおり「創作」を保護するものであって「発見」を保護するものではない,ということを前提にする限り,構成自体の推考は容易であると認められる発明に特許性を認める根拠となる作用効果は,当該構成のものとして,予測あるいは発見することの困難なものであり,かつ,当該構成のものとして予測あるいは発見される効果と比較して,よほど顕著なものでなければならないことになるはずである。』とされているところ(参考判決:平成12年(行ケ)第312号)、
本願明細書の段落0086?0097の記載を参酌するに、硫黄含有量の相違を補った対照例4(MESPD)と例3(MESPT)との比較においては(段落0096)、完全加硫の90%に相当する加硫状態を得るに必要な時間T-90が、本願発明の実施例に相当する例3のものでは5.79分であるのに対して、本願発明の範囲外の対照例4のものでは5.48分となっている(段落0091)ことから、本願発明のシランカップリング剤(MESPT)は、刊行物1の例2で使用されているシランカップリング剤(MESPD)の場合と比較して、硫黄含有量の条件を等しくした場合において、加硫速度の促進がもたらされておらず、
加硫物の機械的性質について「165℃で30分間均一に加硫」した「加硫物の機械的性質」についても、例えば、300%モジュラスが、対照例4の11.7に対して、例3は11.2と低下しており(段落0093)、硫黄含有量の相違を補っていない対照例2(MESPD)と例3(MESPT)との比較においては(段落0095)、例えば、破断点伸びが、対照例2の500に対して、例3は450と低下していることから、その機械的性質においても一部の項目において劣るものであることが理解されることから、本願発明に格別予想外の顕著な効果がなく、選択発明を論ずる余地がないことは明らかである。

8.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-29 
結審通知日 2011-07-05 
審決日 2011-07-19 
出願番号 特願2002-581474(P2002-581474)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C07F)
P 1 8・ 571- Z (C07F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨永 保  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 木村 敏康
松本 直子
発明の名称 特にカップリング剤として使用できるポリスルフィドオルガノキシシラン、それらを含有するエラストマー組成物及びそのような組成物から製造されたエラストマー製物品  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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