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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1247662
審判番号 不服2010-17480  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-19 
確定日 2011-11-30 
事件の表示 特願2009-118003「直流モータ(DCモータ)において回転子(ロータ)に永久磁石を使用し固定子(ステータ)に電磁石を使用して整流子により固定子の電流を切り換えるモータ。」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月 4日出願公開、特開2010-252614〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は,平成21年 4月20日の特許出願であって,平成22年 4月 8日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年 7月19日付けで本件審判請求がなされるとともに,手続補正(前置補正)がなされたものである。

II.平成22年 7月19日付けの手続補正の却下
[補正却下の決定の結論]
平成22年 7月19日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
直流モータ(DCモータ)において,
整流子の横に(整流子の電流を外部に取り出すための)スリップリング(整流子の等分数)を取付け,整流子で切り換った電流を前記スリップリングを通して固定子の巻線コイルに流す構造をした整流子。」
と補正された。
上記補正は,本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「整流子で切り換った電流を固定子に流す構造をした整流子」を「整流子で切り換った電流を前記スリップリングを通して固定子の巻線コイルに流す構造をした整流子」と限定するものであって,この限定した事項は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載されており,補正後の請求項1に記載された発明は,補正前の請求項1に記載された発明と,産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから,上記補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例及びその記載事項
原査定の平成21年11月18日付けの拒絶理由で引用された,本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-60982号公報(以下「引用例」という。)には,「直流ブラシモータ」に関し,図面とともに以下の事項が記載または示されている。

a:「【請求項1】
回転軸と一体的に回転する永久磁石が設けられたインナロータと,
所定距離を隔てて前記永久磁石を囲繞する外部側に設けられ,且つ前記永久磁石と対向する表面に複数のスロットが形成されるアウタステータと,
前記アウタステータの前記各スロットに各々配置された複数のステータコイルと,
前記インナロータと同軸に配設された整流部と,
前記整流部の一方の端部に接触すると共に,前記各ステータコイルにそれぞれ電気的に接続された複数のコイル接続用ブラシと,
前記整流部の他方の端部に接触すると共に,前記整流部に直流電流を流す2つの電流供給用ブラシと,
を有することを特徴とする直流ブラシモータ。
【請求項2】
請求項1記載の直流ブラシモータにおいて,
前記整流部は,前記各電流供給用ブラシに電気的に接続され且つ複数の整流子片を有する整流子を含み,
前記整流子片は,前記インナロータが前記アウタステータに対して相対的な回転運動を行う場合,前記インナロータの回転角度に対応して,前記直流電流を流す前記コイル接続用ブラシを切り換える
ことを特徴とする直流ブラシモータ。」

b:「【技術分野】
【0001】
本発明は,ブラシとコイルとを有する直流ブラシモータに関する。」

c:「【発明の効果】
【0015】
上述したように,本発明に係る直流ブラシモータによれば,アウタステータにステータコイルが配置されているので,前記ステータコイルの放熱面積は,従来の直流ブラシモータにおけるコイルの放熱面積と比較して大きくなる。そのため,本発明に係る直流ブラシモータでは,ステータコイルから熱が発生しても,前記アウタステータを介して外部に効率よく放熱することができる。
【0016】
また,本発明に係る直流ブラシモータでは,放熱を妨げるエアギャップや永久磁石を介さずに,ステータコイルから発生する熱をアウタステータから外部に放熱するので,従来技術に係る直流ブラシモータと比較して,放熱作用を妨げる邪魔部材がなく効率よく放熱することができる。
【0017】
さらに,前記インナロータに前記永久磁石を配置することにより,前記インナロータの慣性力が低減され,前記インナロータの回転運動を利用してシリンダ,クランプ,歯車等を駆動することが容易となり,これらの装置を迅速に加速あるいは減速することが可能となる。」

d:「【0018】
本発明に係る直流ブラシモータについて,好適な実施の形態を挙げ,添付の図面を参照しながら以下に説明する。
【0019】
図1は,本実施の形態に係る直流ブラシモータ10の軸線方向に沿った縦断面図であり,図2は,図1のII-II線に沿った概略構成断面図であり,図3は,整流部を示す概略構成断面図であり,図4は,図1のIV-IV線に沿った概略構成断面図である。
【0020】
直流ブラシモータ10は,シャフト12とシャフト12表面に配置された2つの永久磁石14a,14b(N極及びS極)とを備えたインナロータ16と,前記インナロータ16の外側にエアギャップ18を介して永久磁石14a,14bに対向配置された略円筒状のアウタステータ20と,前記アウタステータ20の内側表面に形成された2つのスロット22に各々配置され,且つ表面が樹脂24でモールドされたステータコイル26(第1及び第2コイル26a,26b)と,永久磁石14a,14bから離間してシャフト12表面に配置された略円筒状の整流部28と,アウタステータ20を収容する略円筒状のモータハウジング30と,一端がスプリング32を介してモータハウジング30の内表面に接続され,且つ他端が整流部28表面に接触する電流供給用ブラシ34(第1及び第2電流供給用ブラシ34a,34b)及びコイル接続用ブラシ36(第1及び第2コイル接続用ブラシ36a,36b)とを有する。」

e:「【0025】
また,図3及び図4に示すように,第1コイル26aは第1コイル接続用ブラシ36aに接続され,第2コイル26bは第2コイル接続用ブラシ36bに接続されている。
【0026】
整流部28は,略円弧状の導電材料からなる整流子片42(第1及び第2整流子片42a,42b)と,略円環状の導電材料からなり且つシャフト12の外周面に嵌合するスリップリング45(第1及び第2電流供給用リング45a,45b)とから構成される。
【0027】
この場合,第1整流子片42aと第2整流子片42bとの間は2つの絶縁部43により絶縁され,第1及び第2整流子片42a,42b並びに各絶縁部43の両端は,シャフト12表面に配置した状態で,締付リング44によってシャフト12上に固定され,これにより整流子が構成される。また,締付リング44と第1電流供給用リング45aと第2電流供給用リング45bとの間は,複数の円環状の絶縁部47によって各々絶縁されている。さらに,各リング45a,45bの内周面と各絶縁部47の内周面とには,シャフト12の軸線方向に図示しない2つの切欠が互いに離間して形成され,前記各切欠に表面が絶縁物で被覆された銅線49a,49b(図3参照)が配置されている。銅線49aは,第1電流供給用リング45aと第1整流子片42aとを接続し,銅線49bは,第2電流供給用リング45bと第2整流子片42bとを接続している。
【0028】
これにより,略円筒状の整流部28がシャフト12表面に構成される。
【0029】
また,第1及び第2整流子片42a,42bの個数は,第1及び第2コイル26a,26bの個数と一致しており,第1及び第2整流子片42a,42bは,シャフト12の中心軸に対して180°間隔で配置されている。」

f:「【0034】
また,本実施の形態に係る直流ブラシモータ10では,図5に示すように,変形例に係る整流部28aについて,整流子片42a,42bを第1及び第2電流供給用ブラシ34a,34bに接触させて配置し,且つ,第1電流供給用リング45aを第1コイル接続用ブラシ36aに接触させて配置すると共に,第2電流供給用リング45bを第2コイル接続用ブラシ36bに接触させて配置するとよい。」

g:「【0045】
なお,上述した説明では,第1及び第2コイル接続用ブラシ36a,36bに第1及び第2コイル26a,26bを接触させた状態で,直流電源48から整流部28に直流電流を流した場合について説明したが,例えば,第1及び第2整流子片42a,42bの代わりに3つ以上の複数の整流子片を配置し,前記各整流子片に3つ以上のコイルを接触させた状態で,直流電源48から前記各整流子片に前記直流電流を流してもインナロータ16が回転することは勿論である。」

h:「【0046】
また,整流部28aが図5に示す構成である場合,シャフト12の回転によってN極磁石14a及びS極磁石14b(図1及び図2参照)の位置が変化すれば,第1及び第2整流子片42a,42bは,前記位置の変化に対応して,接触する第1及び第2電流供給用ブラシ34a,34bを切り換える。これにより,直流電源48(図3参照)から第1及び第2整流子片42a,42bに直流電流を流せばインナロータ16を回転させることができる。また,インナロータ16が回転運動を行っている際に,このインナロータ16に発生するトルクの時間的な変動を抑制することが可能となる。」

i:図5には,「整流子片42a,42bからなる整流子の軸方向にスリップリング45(第2電流供給用リング45b,第1電流供給用リング45a)を取り付けた整流部28a」及び「スリップリング45は整流子片42a,42bと同数であること」が示されている。
また,摘記事項f,h及び図5によれば,「スリップリング45(第1電流供給リング45a,第2電流供給リング45b)は,整流子片42a,42bからなる整流子に供給された電流を第1コイル接続用ブラシ36a,第2コイル接続用ブラシ36bを介してステータコイル26(第1コイル26a,第2コイル26b)に流しており,インナロータ外に取り出していること」は明らかである。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例の図3の整流部の変形例を示す図5を採用したものには,以下の発明(以下「引用例に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。
「直流ブラシモータ10において,
整流子片42a,42bからなる整流子の軸方向に,整流子片42a,42bからなる整流子に供給された電流をインナロータ外に取り出す,スリップリング45を取付け,該スリップリング45は整流子片42a,42bと同数であり,整流子片42a,42bは,位置の変化に対応して接触する第1及び第2電流供給用ブラシ34a,34bを切り換え,前記スリップリング45は,整流子片42a,42bからなる整流子に供給された電流を第1コイル接続用ブラシ36a,第2コイル接続用ブラシ36bを介してステータコイル26に流した,整流部28a。」

3.発明の対比・判断
本願補正発明と引用例に記載された発明とを対比すると,後者の「直流ブラシモータ10」は前者の「直流モータ(DCモータ)」に相当し,以下同様に,「整流子片42a,42bからなる整流子」は「整流子」に,「整流子片42a,42bからなる整流子の軸方向に」は「整流子の横に」,「ステータコイル26」は「固定子の巻線コイル」に,それぞれ相当する。
また,後者の「整流子片42a,42bからなる整流子に供給された電流をインナロータ外に取り出す,スリップリング45」は,「(整流子の電流を外部に取り出すための)スリップリング」に相当し,後者の「スリップリング45は整流子片42a,42bと同数であ」る態様は,前者の「スリップリング(整流子の等分数)」に相当する。
そして,「整流子片42a,42bは,位置の変化に対応して接触する第1及び第2電流供給用ブラシ34a,34bを切り換え」ることにより,「電流が,整流子で切り換わ」ることから,後者の「整流子片42a,42bは,位置の変化に対応して接触する第1及び第2電流供給用ブラシ34a,34bを切り換え,前記スリップリング45は,整流子片42a,42bからなる整流子に供給された電流を第1コイル接続用ブラシ36a,第2コイル接続用ブラシ36bを介してステータコイル26に流した,整流部28a」は,「整流子片42a,42bからなる整流子」を主体として考えると,前者の「整流子で切り換った電流をスリップリングを通して固定子の巻線コイルに流す構造をした整流子」に相当する。
そうすると,両者は,
「直流モータ(DCモータ)において,
整流子の横に(整流子の電流を外部に取り出すための)スリップリング(整流子の等分数)を取付け,整流子で切り換った電流をスリップリングを通して固定子の巻線コイルに流す構造をした整流子。」
の点で一致し,両者の発明特定事項の間に差異は認められない。

したがって,本願補正発明は,引用例に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明の記載事項
平成22年 7月19日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成22年 1月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
直流モータ(DCモータ)において,
整流子の横に(整流子の電流を外部に取り出すための)スリップリング(整流子の等分数)を取付け,整流子で切り換った電流を固定子に流す構造をした整流子。」

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は前記II.2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は,前記II.1.で検討した本願補正発明の「整流子で切り換った電流を前記スリップリングを通して固定子の巻線コイルに流す構造をした整流子」を「整流子で切り換った電流を固定子に流す構造をした整流子」としたものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項よりも更に限定した発明特定事項を備える本願補正発明が前記II.3.に記載されたとおり,引用例に記載された発明であるから,本願補正発明の上位概念発明である本願発明も本願補正発明と同様の理由で引用例に記載された発明である。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-17 
結審通知日 2011-09-06 
審決日 2011-09-21 
出願番号 特願2009-118003(P2009-118003)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02K)
P 1 8・ 113- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 和人  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 藤井 昇
槙原 進
発明の名称 直流モータ(DCモータ)において回転子(ロータ)に永久磁石を使用し固定子(ステータ)に電磁石を使用して整流子により固定子の電流を切り換えるモータ。  

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