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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1247714
審判番号 不服2010-23700  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-21 
確定日 2011-12-01 
事件の表示 特願2007- 58804「窒化物半導体発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月25日出願公開、特開2008-226906〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年3月8日の出願であって、拒絶理由の通知に応答して平成21年8月21日に手続補正がされたが、平成22年7月20日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年10月21日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明は、平成21年8月21日に補正された本願の請求項1に記載された次のとおりのもの(以下「本願発明」という。 )と認められる。
「基板と、前記基板上に形成された、第1のn型窒化物半導体層と、発光層と、p型窒化物半導体層と、p型窒化物半導体トンネル接合層と、n型窒化物半導体トンネル接合層と、第2のn型窒化物半導体層と、を含み、
前記p型窒化物半導体トンネル接合層と前記n型窒化物半導体トンネル接合層とはトンネル接合を形成しており、
前記n型窒化物半導体トンネル接合層はInを含んでおり、
前記n型窒化物半導体トンネル接合層の一方の面は前記p型窒化物半導体トンネル接合層の一方の面と接し、前記n型窒化物半導体トンネル接合層の他方の面は該n型窒化物半導体トンネル接合層よりもバンドギャップの大きい層と接しており、
前記n型窒化物半導体トンネル接合層と前記n型窒化物半導体トンネル接合層よりもバンドギャップの大きい層との界面と、前記p型窒化物半導体トンネル接合層と前記n型窒化物半導体トンネル接合層との界面と、の最短距離が40nm未満であり、
前記n型窒化物半導体トンネル接合層中のn型ドーパントの濃度が5×10^(19)/cm^(3)未満であることを特徴とする、窒化物半導体発光素子。」

第3 引用例の記載事項と引用発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-128502号公報(以下「引用例」という。)には図とともに以下の記載がある。
「【0007】
図1Aは、本発明の実施形態による単一発光領域を有する発光装置を示す。図1Aに示す装置は、空孔拡散層としてトンネル接合を組み込んだ「VRCLED」又は「VCSEL]である。発光する活性領域3は、n型層2とp型層4とを分離する。活性領域3は、例えば、単一発光層か、又は、本明細書において引用により組み込まれる2001年11月2日出願の「インジウムガリウム窒化物の分離閉じ込めヘテロ構造発光装置」という名称の米国特許出願一連番号10/033,349により詳細に説明された分離閉じ込めヘテロ構造のような、交替する量子井戸層及びバリア層の多重量子井戸構造とすることができる。n型層は、例えば、SiドープされたAlGaNであり、p型層4は、例えば、MgドープされたAlGaNであり、活性領域は、例えば、InGaN多重量子井戸構造であるとしてもよい。トンネル接合100は、p型層4の上に形成される。
【0008】
トンネル接合100は、p++層とも呼ばれる高度にドープされたp型層5と、n++層とも呼ばれる高度にドープされたn型層6とを含む。p++層5は、例えば、Mg又はZnのようなアクセプタを用いて約10^(18)cm^(-3)から約5×10^(20)cm^(-3)までの濃度にドープされたInGaN又はGaNとすることができる。いくつかの実施形態では、p++層5は、約2×10^(20)cm^(-3)から約4×10^(20)cm^(-3)までの濃度にドープされる。n++層6は、例えば、Si又はGeのようなアクセプタを用いて約10^(18)cm^(-3)から約5×10^(20)cm^(-3)までの濃度にドープされたInGaN又はGaNとすることができる。いくつかの実施形態では、n++層6は、約7×10^(19)cm^(-3)から約9×10^(19)cm^(-3)までの濃度にドープされる。トンネル接合100は、通常は非常に薄く、例えば、トンネル接合の厚さは、全体で約2nmから約100nmの範囲であり、p++層5とn++層6の厚さは、それぞれ約1nmから約50nmの範囲とすることができる。いくつかの実施形態では、p++層5とn++層6の厚さは、それぞれ約25nmから約35nmの範囲としてもよい。p++層5とn++層6の厚さは必ずしも同じである必要はない。一実施形態では、p++層5は、15nmのMgドープされたInGaNであり、n++層6は、30nmのSiドープされたGaNである。p++層5とn++層6は、勾配を付けたドーパント濃度を有することができる。例えば、下に重なるp層4に隣接するp++層5の一部分のドーパント濃度は、下に重なるp型層のドーパント濃度から、p++層5の所望のドーパント濃度まで勾配を付けることができる。同様に、n++層6のドーパント濃度は、p++層5に隣接する最大値からn型層7に隣接する最小値まで勾配を付けてもよい。トンネル接合100は、電流を逆バイアスモードで導電する時にトンネル接合100が低い直列電圧降下を示すように、十分に薄く十分にドープされるように製造される。いくつかの実施形態では、トンネル接合100全体に亘る電圧降下は、約0.1Vから約1Vである。
【0009】
第2のn型層7は、トンネル接合100の上に形成される。正の電気接点9は、n型層7に取り付けられ、負の電気接点10は、n型層2に取り付けられる。図1Aに示す装置は、「VRCLED」又は「VCSEL]であり、従って、それはまた、n型層2の下に下部分散ブラッグ反射器(DBR)1を含む。「DBR」1は、誘電体であるか、又は、現場でIII族窒化物材料から形成することができる。上部「DBR」8は、n型層7上で形成される。当業者には明らかなように、図1Aに示す装置は、「DBR」1及び8のない発光ダイオードとして製造されてもよい。」

上記記載が参照する引用例の【図1A】からは、n型層2、活性領域3、p型層4、p++層5、n++層6、第2のn型層7、の順で積層されていることが看取できる。

上記記載の【0007】には「n型層は、例えば、SiドープされたAlGaNであり」とあるから、「n型層2」と「n型層7」は「SiドープされたAlGaN」であってもよい。

上記記載の【0007】には「p型層4は、例えば、MgドープされたAlGaNであり」とあるから、「p型層4」は、「MgドープされたAlGaN」であってもよい。

上記記載の【0007】には「発光する活性領域3」とあるから、「活性領域3」は「発光する活性領域3」である。

上記記載の【0008】には、「p++層5は、例えば、Mg又はZnのようなアクセプタを用いて約10^(18)cm^(-3)から約5×10^(20)cm^(-3)までの濃度にドープされたInGaN又はGaNとすることができる。」及び「p++層5とn++層6の厚さは、それぞれ約25nmから約35nmの範囲としてもよい。」とあるから、「p++層5」は「Mg又はZnのようなアクセプタを用いて約10^(18)cm^(-3)から約5×10^(20)cm^(-3)までの濃度にドープされたInGaNであり約25nmから約35nmの厚みのp++層5」であってもよい。

上記記載の【0008】には、「n++層6は、例えば、Si又はGeのようなアクセプタを用いて約10^(18)cm^(-3)から約5×10^(20)cm^(-3)までの濃度にドープされたInGaN又はGaNとすることができる。」及び「p++層5とn++層6の厚さは、それぞれ約25nmから約35nmの範囲としてもよい。」とあるから、「n++層6」は「Si又はGeのようなアクセプタを用いて約10^(18)cm^(-3)から約5×10^(20)cm^(-3)までの濃度にドープされたInGaNであり約25nmから約35nmの厚みのn++層6」であってもよい。

上記記載の【0008】には「トンネル接合100は、p++層とも呼ばれる高度にドープされたp型層5と、n++層とも呼ばれる高度にドープされたn型層6とを含む。」とあるから、「トンネル接合100」は「p++層5」と「n++層6」とを含む。
上記記載の【0009】には「図1Aに示す装置は、「DBR」1及び8のない発光ダイオードとして製造されてもよい。」とあるから、図1Aに示された発光装置は、分散ブラッグ反射器(DBR)のない発光ダイオードであってもよい。

上記記載より、引用例には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「SiドープされたAlGaNであるn型層2、発光する活性領域3、MgドープされたAlGaNであるp型層4、Mg又はZnのようなアクセプタを用いて約10^(18)cm^(-3)から約5×10^(20)cm^(-3)までの濃度にドープされたInGaNであり約25nmから約35nmの厚みのp++層5、Si又はGeのようなアクセプタを用いて約10^(18)cm^(-3)から約5×10^(20)cm^(-3)までの濃度にドープされたInGaNであり約25nmから約35nmの厚みのn++層6、SiドープされたAlGaNである第2のn型層7、の順に積層され、
前記p++層5と前記n++層6とを含むトンネル接合100を有する、
発光ダイオード。」

第4 対比
本願発明と引用発明とを比較する。
引用発明の「SiドープされたAlGaNであるn型層2」、「発光する活性領域3」、「MgドープされたAlGaNであるp型層4」、「SiドープされたAlGaNである第2のn型層7」及び「トンネル接合100」は、それぞれ、本願発明の「第1のn型窒化物半導体層」、「発光層」、「p型窒化物半導体層」、「第2のn型窒化物半導体層」及び「トンネル接合」に相当する。

引用発明において、「Mg又はZnのようなアクセプタを用いて約10^(18)cm^(-3)から約5×10^(20)cm^(-3)までの濃度にドープされたInGaNであり約25nmから約35nmの厚みのp++層5」及び「Si又はGeのようなアクセプタを用いて約10^(18)cm^(-3)から約5×10^(20)cm^(-3)までの濃度にドープされたInGaNであり約25nmから約35nmの厚みのn++層6」は、ともに「トンネル接合100」に含まれているのであるから、それぞれ、本願発明の「p型窒化物半導体トンネル接合層」及び「n型窒化物半導体トンネル接合層」に相当する。

引用発明の各層は窒化物半導体で形成されているから、引用発明の「発光ダイオード」は、本願発明の「窒化物半導体発光素子」に相当する。

引用発明において、「トンネル接合100」が「p++層5」と「n++層6」とを含んでいることは、本願発明において、「p型窒化物半導体トンネル接合層とn型窒化物半導体トンネル接合層とはトンネル接合を形成して」いることに相当する。

引用発明において、「n++層6」が「InGaN」であることは、本願発明において、「n型窒化物半導体トンネル接合層はInを含んで」いることに相当する。

AlGaNのバンドギャップはInGaNのバンドギャップより大きいから、引用発明において、「SiドープされたAlGaNである第2のn型層7」は、「InGaNであり約25nmから約35nmの厚みのn++層6」よりバンドギャップの大きい層である。

引用発明における各層の積層順から、「n++層6」は、一方の面が「n++層6よりバンドギャップの大きい層」である「第2のn型層7」と接しており、他方の面は「p++層5」と接している。

引用発明において、「n++層6」と「n++層6よりバンドギャップの大きい層」である「第2のn型層7」との界面と、「p++層5」と「n++層6」との界面との最短距離は、「n++層6」の厚みにほかならないから約25nmから約35nmであり、40nm未満である。

以上のことから、本願発明と引用発明とは、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点1>及び<相違点2>で相違する。
<一致点>
「第1のn型窒化物半導体層と、発光層と、p型窒化物半導体層と、p型窒化物半導体トンネル接合層と、n型窒化物半導体トンネル接合層と、第2のn型窒化物半導体層と、を含み、
前記p型窒化物半導体トンネル接合層と前記n型窒化物半導体トンネル接合層とはトンネル接合を形成しており、
前記n型窒化物半導体トンネル接合層はInを含んでおり、
前記n型窒化物半導体トンネル接合層の一方の面は前記p型窒化物半導体トンネル接合層の一方の面と接し、前記n型窒化物半導体トンネル接合層の他方の面は該n型窒化物半導体トンネル接合層よりもバンドギャップの大きい層と接しており、
前記n型窒化物半導体トンネル接合層と前記n型窒化物半導体トンネル接合層よりもバンドギャップの大きい層との界面と、前記p型窒化物半導体トンネル接合層と前記n型窒化物半導体トンネル接合層との界面と、の最短距離が40nm未満である、
窒化物半導体発光素子。」

<相違点1>
本願発明は、「基板と、前記基板上に形成された、第1のn型窒化物半導体層と・・・を含み」と特定されているのに対して、引用発明は該特定を有しない点。

<相違点2>
本願発明は「n型窒化物半導体トンネル接合層中のn型ドーパントの濃度が5×10^(19)/cm^(3)未満である」と特定されているのに対して、引用発明は該特定を有しない点。

第5 判断
1 <相違点1>について
発光ダイオードを製造する際に、基板の上に各半導体層を形成することは本願の出願前に周知である。
例えば、引用例の【0002】には「スタックには、多くの場合、基板の上に形成され、例えばSiでドープされた1つ又はそれ以上のn型層、1つ又は複数のn型層の上に形成された発光又は活性領域、及び、活性領域の上に形成され、例えばMgでドープされた1つ又はそれ以上のp型層が含まれる。」(下線は審決にて付与した。以下同様。)との記載がある。
また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-319703号公報には以下の記載がある。
「【請求項1】 第1のn型III族窒化物半導体積層構造,p型III族窒化物半導体積層構造,第2のn型III族窒化物半導体積層構造を少なくとも有するIII族窒化物半導体積層構造が、基板上に形成されており、第1のn型III族窒化物半導体積層構造には正電極が設けられ、第2のn型III族窒化物半導体積層構造には負電極が設けられ、第1のn型III族窒化物半導体積層構造のn型III族窒化物半導体層とp型III族窒化物半導体積層構造のp型III族窒化物半導体層とによるトンネルダイオードを有し、また、第2のn型III族窒化物半導体積層構造とp型III族窒化物半導体積層構造とによる発光領域を有していることを特徴とする半導体装置。」

よって、引用発明において、本願発明の<相違点1>に係る構成を備えることは、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。
また、該構成を備えることによる効果は、当業者が予測し得る程度のものである。

2 <相違点2>について
引用発明の「n型窒化物半導体トンネル接合層」(n++層6)のn型ドーパントである「Si又はGeのようなアクセプタ」の濃度は「約10^(18)cm^(-3)から約5×10^(20)cm^(-3)まで」である。
一方、本願発明の「n型窒化物半導体トンネル接合層」中のn型ドーパントの濃度は、「5×10^(19)/cm^(3)未満」であり、これは「約10^(18)cm^(-3)から5×10^(19)/cm^(3)未満」の範囲を含んでいる。
よって、「約10^(18)cm^(-3)から5×10^(19)/cm^(3)未満」の範囲において、引用発明と本願発明は、n型窒化物半導体トンネル接合層」中のn型ドーパントの濃度が一致しており、<相違点2>は実質的な差異ではない。

3 小括
上記1及び2より、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-29 
結審通知日 2011-10-04 
審決日 2011-10-19 
出願番号 特願2007-58804(P2007-58804)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 謙仁  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 北川 創
吉野 公夫
発明の名称 窒化物半導体発光素子  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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