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審決分類 |
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 E02D |
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管理番号 | 1247724 |
審判番号 | 不服2011-18055 |
総通号数 | 145 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-01-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-08-22 |
確定日 | 2011-12-01 |
事件の表示 | 特願2010-270283「既存建物の補強方法及び既存建物の補強構造」拒絶査定不服審判事件〔平成23年3月3日出願公開、特開2011-43049〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成19年3月15日に出願した特願2007-67455号の一部を平成22年12月3日に新たな特許出願としたものであり,審査段階における手続の経緯は,以下のとおりである。 平成23年 1月 5日 拒絶理由通知 平成23年 2月28日 意見書及び補正書提出(請求人) 平成23年 4月11日 拒絶理由通知<最後> 平成23年 6月 9日 意見書提出(請求人) 平成23年 7月20日 拒絶査定 そして,平成23年7月20日付け拒絶査定に対し,同年8月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 第2 平成23年2月28日付け手続補正 平成23年2月28日付けの手続補正は,特許請求の範囲の請求項1を,以下のとおりに補正する補正事項を含むものである。 「既存建物の補強方法であって、 アンカーを、その一端が前記アンカーの定着地盤に定着されるように、かつ、前記アンカーの前記一端の側に、前記定着地盤より上側の上側地盤に定着される定着長部が形成され、前記定着長部より上側に、前記上側地盤に定着されない自由長部が形成されるように打設するアンカー打設工程と、 前記アンカーの他端を前記既存建物の構造体に、前記アンカーに緊張力が付与されない状態で定着するアンカー設置工程と、 を備えることを特徴とする既存建物の補強方法。」 そして,上記補正事項によって,請求項1に係る発明を特定する「アンカー打設工程」について,「アンカーの一端の側に、定着地盤より上側の上側地盤に定着される定着長部が形成され、定着長部より上側に、上側地盤に定着されない自由長部が形成される」ことが付加された。 第3 平成23年4月11日付けの拒絶理由通知<最後> 拒絶査定の根拠となる平成23年4月11日付けの拒絶理由通知による拒絶の理由は,以下のとおりである。 理 由 平成23年2月28日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 記 (1)請求項1、2について 補正後の請求項1、2には、「アンカーの前記一端の側に、前記定着地盤より上側の上側地盤に定着される定着長部が形成され、前記定着長部より上側に、前記上側地盤に定着されない自由長部が形成され」と記載されているが、以下のとおりである。 出願人は意見書の「2.補正の内容及び根拠」の(5)において『「先端部(段落0012における「下端」と言える)の上側にアンカー定着長部が設けられ、アンカー定着部より上側にアンカー自由長部が設けられている」点が図示』と主張するが、本願の図2(A)の「先端部」は「アンカー定着長部」の先にある部分であり、通常一般に「先端部」だけでもって「定着地盤4に定着され」るものではなく<例えば、特開2001-146742号公報(図1)、及び特開平11-181769号公報(図2)>、さらに本願の図3の(C)、(D)をみると、アンカーの先端部がアンカーの定着地盤4に定着され、かつ、前記アンカーの先端部の上側に定着長部が形成されて、定着長部は全て定着地盤4に定着されていることが、記載及び図示されている。 したがって、上記請求項1、2の記載は願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載したいずれの事項の記載を参酌しても、そのようなことに該当する記載はなく、また当初明細書等の記載から自明な事項であるとも認められない。 よって、上記補正は新規事項を追加するものである。 第4 請求人の主張 請求人は,平成23年4月11日付けの拒絶理由<最後>の理由(特許法第17条の2第3項違反)に対して,平成23年6月9日付けの意見書及び審判請求書において,以下のように反論している。 ・図2(A)では,永久アンカー20は長尺であるため,その中間部分を省略して示しているが,アンカー定着部は,破断線の上側まで延びるように示されており,破断線の上側は,アンカーの上端であるから,アンカー定着部は,永久アンカー20の上端まで設けられている。 ・段落【0012】には,永久アンカー20の下端が定着地盤に定着されている旨が記載されている。 これらの点を総合すると,アンカー定着長部は,定着地盤4に定着されている永久アンカー20の下端よりも上側まで設けられ,その上にアンカー自由長部が設けられているということができるから,補正により付加された「アンカーの一端の側に,定着地盤より上側の上側地盤に定着される定着長部が形成され,定着長部より上側に,上側地盤に定着されない自由長部が形成され」ているという構成は,当初明細書の段落【0012】及び【図2】の記載から自明な事項である。 第5 当審の判断 1.本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲,明細書及び図面の記載事項 補正後の請求項1に付加された「アンカーの一端の側に、定着地盤より上側の上側地盤に定着される定着長部が形成され、定着長部より上側に、上側地盤に定着されない自由長部が形成される」という特定事項に関する記載として,本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲,明細書及び図面には,以下の記載がある。 (1)段落【0012】 「図1に示すように、本実施形態の耐震補強構造10は、既存建物1のべた基礎2の下方の地盤3の少なくとも一部を地盤改良することにより形成された地盤改良部30と、下端が定着地盤4に定着され、緊張力が導入された状態で又は緊張力が導入されない状態で(本実施の形態においては緊張力が導入された状態)上端が既存建物1のべた基礎2に固定された永久アンカー20とで構成される。」 (2)段落【0014】,【0015】 「図2は、永久アンカー20の詳細な構成を示す図であり、(A)は鉛直断面図、(B)はアンカー自由長部であるA-A´断面図、(C)はアンカー定着長部であるB-B´断面図である。同図に示すように、永久アンカー20は、掘削孔29に挿入された、表面に螺旋状の凹凸を有する円筒状のコルゲートシース21と、コルゲートシース21内に充填されたインナーグラウト23と、インナーグラウト23内に埋設された複数のPC鋼より線22と、掘削孔29の内壁とコルゲートシース21の外周との間に充填されたアウターグラウト24と、PC鋼より線22をべた基礎2に固定する定着具25と、を備える。また、コルゲートシース21内には、グラウトを充填するためのグラウトホース26が挿通されており、インナーグラウト23に埋め殺しされている。 なお、定着具25を使用せずに、PC鋼より線22をグラウトによりべた基礎2に定着固定してもよい。 図2(B)に示すように、アンカー自由長部のPC鋼より線22にはアンボンドチューブ27が囲繞されており、このアンボンドチューブ27は、PC鋼より線22とインナーグラウト23との付着を妨げている。 これに対して、図2(C)に示すように、アンカー定着長部のPC鋼より線22にはアンボンドチューブ27が囲繞されておらず、PC鋼より線22とインナーグラウト23との間で付着力が確保される。インナーグラウト23とアウターグラウト24の間には、コルゲートシース21が介装されているが、コルゲートシース21の表面に凹凸が設けられているため、インナーグラウト23と、周囲の地盤と一体となったアウターグラウト24との間で力の伝達が行われる。したがって、既存建物1のべた基礎2からPC鋼より線22に伝達された緊張力は、アンカー定着長部においてインナーグラウト23及びアウターグラウト24を介して定着地盤4に伝達され、これにより、この緊張力に抵抗することができる。」 (3)【図2】(A)?(C) (4)【図3】(A)?(D) 2.記載事項の認定及び判断 上記記載事項(1)?(4)を含む本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲,明細書及び図面から,以下のことが認められる。 (1)段落【0012】には,永久アンカー20の下端が定着地盤4に定着されることが記載されているのみであって,アンカー20の「定着長部」や「自由長部」の構成や範囲等については,何ら記載はされていない。 (2)段落【0014】,【0015】には,アンカー自由長部については,PC鋼より線22にはアンボンドチューブ27が囲繞されており,PC鋼より線22とインナーグラウト23との付着を妨げていることが,また,アンカー定着長部については,PC鋼より線22にはアンボンドチューブ27が囲繞されておらず、PC鋼より線22とインナーグラウト23との間で付着力が確保され,既存建物1のべた基礎2からPC鋼より線22に伝達された緊張力は,アンカー定着長部においてインナーグラウト23及びアウターグラウト24を介して定着地盤4に伝達されることが記載されているのみであって,アンカー定着長部が定着地盤より上側の上側地盤に定着されることについて,記載も示唆もされていない。 (3)【図2】(A)には,既存建物のべた基礎2に定着具25により固定されたPC鋼より線22を備える永久アンカー20が,その中間部分が省略されて記載されており(省略した部分が破断線として示されている。),該永久アンカー20は,上方(定着具側)より「アンカー自由長部」,「アンカー定着長部」,「先端部」,「削孔余長」と分類されている。 そして,「アンカー自由長部」と「アンカー定着長部」との境は,永久アンカーを省略した「破断線」と同程度の位置に示されている。 また,破断線の上側のアンカー22は破断線の下側のアンカー22より太く示されている。 (4)【図3】(C),(D)には,べた基礎2に設けられた貫通孔31より,定着地盤4に永久アンカー20を打設し,永久アンカー20の先端を定着地盤4に定着させていることが示されており,永久アンカー20の定着長部が全て定着地盤4の範囲にあることが示されている。 (5)そして,本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲,明細書及び図面の上記記載事項(1)?(4)以外にも,「アンカーの一端の側に,定着地盤より上側の上側地盤に定着される定着長部が形成され」ていることを示す記載はない。 以上(1)?(5)から判断して,本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲,明細書及び図面には,「アンカー定着長部」について,「アンカーの一端の側に,定着地盤より上側の上側地盤に定着される定着長部が形成され」るという構成は記載も示唆もされてはいない。 加えて,「アンカー定着長部」が定着地盤より上側の上側地盤にまでは至らないことを示唆する記載(【図3】(C),(D))がある。 3.請求人の主張に対して 請求人は,【図2】(A)について,アンカー定着部が破断線の上側まで延びるように示されている旨主張しているが,【図2】(A)において,「アンカー自由長部」と「アンカー定着長部」との境は,永久アンカーを省略した「破断線」と同程度の位置に示されており,かつ「破断線」の上下においてアンカー22の太さが異なって示されていることから,アンカー定着長部とアンカー自由長部との境は破断線で省略された適宜の箇所にあると解釈するのが自然であるし,アンカー定着長部を定着具25に近接した箇所にまで延ばすことが当該技術分野において技術常識ではないので,【図2】(A)から,アンカー定着長部が破断線の上側にまで伸びているとする請求人の主張には無理がある。 まして,上記【図3】(C),(D)には,永久アンカー20の定着長部が全て定着地盤4の範囲にあることが示されているので,本願の明細書の段落【0012】及び【図2】の記載から,補正により付加された「アンカーの一端の側に,定着地盤より上側の上側地盤に定着される定着長部が形成され,定着長部より上側に,上側地盤に定着されない自由長部が形成され」るという構成は自明であるとする請求人の主張は妥当性を欠いている。 なお,上記【図3】(C),(D)についての判断は,平成23年4月11日付けの拒絶理由通知<最後>においてもなされているが,それに対して,請求人は,何ら反論していない。 4.まとめ したがって,本願の平成23年2月28日付けの手続補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであり,これらに記載した事項の範囲内においてしたものではない。 第6 むすび 以上より,本願の平成23年2月28日付けの手続補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-10-03 |
結審通知日 | 2011-10-04 |
審決日 | 2011-10-18 |
出願番号 | 特願2010-270283(P2010-270283) |
審決分類 |
P
1
8・
55-
Z
(E02D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 苗村 康造 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
宮崎 恭 仁科 雅弘 |
発明の名称 | 既存建物の補強方法及び既存建物の補強構造 |
代理人 | 一色国際特許業務法人 |
代理人 | 一色国際特許業務法人 |