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審決分類 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 A01M
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 A01M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A01M
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 A01M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01M
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A01M
管理番号 1248325
審判番号 不服2010-13629  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-22 
確定日 2011-08-04 
事件の表示 特願2004-506866「揮散装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月 4日国際公開、WO03/99343〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2002年12月27日(優先権主張 2002年5月27日,2002年12月6日)を出願日とする国際出願であって,平成22年3月12日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年6月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。
その後,平成23年2月23日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年4月7日付けで回答書が提出された。

第2 平成22年6月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年6月22日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲の請求項1を次のとおりに補正しようとする補正事項を含むものである。
(補正前:平成21年1月9日付け手続補正により補正された特許請求の範囲)
「【請求項1】
有効成分を含有する液体製剤を収容する貯留容器と、該貯留容器から液体製剤を吸液する吸液機構と、該吸液機構に吸液された前記液体製剤の有効成分を揮散させる揮散機構と、有効成分の揮散を調整する調整手段とを備え、
前記液体製剤は、薬剤濃度が0.2?20重量部となるようにグリコール類、低級アルコール若しくは3-メチル-3-メトキシン-1-ブタノールの少なくとも一種或いはこれに水を加えて調整したものからなり、
前記吸液機構は、フェルト芯、素焼芯、パルプ芯、無機質成形芯、繊維芯、樹脂製吸液部材より選ばれた少なくとも一種からなり、
揮散機構は、吸液速度が40時間以下の吸液芯、体積を160mm^(3)としたとき50分後の吸液量が7.5g以上の揮散用担体、揮散用担体の重量が24g/m^(2)以上の揮散部の何れか一種からなることを特徴とする揮散装置。」
(補正後)
「【請求項1】
有効成分を含有する液体製剤を収容する貯留容器と、該貯留容器から液体製剤を吸液する吸液機構と、該吸液機構に吸液された前記液体製剤の有効成分を揮散させる揮散機構と、有効成分の揮散を調整する調整手段とを備え、
前記揮散機構は前記調整手段を兼ね、
前記液体製剤は、薬剤濃度が0.2?20重量部となるようにグリコール類(低級アルコール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノールを除く)、低級アルコール(3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノールを除く)若しくは3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノールの少なくとも一種に水を加えて調整したものからなり、
前記吸液機構は、フェルト芯、素焼芯、パルプ芯、無機質成形芯、又は樹脂製の吸液部材からなる吸液芯を用い、
前記吸液芯はその一端から他端に前記液体製剤が達する吸液速度が1?40時間であり、
前記揮散機構は、前記吸液芯と接する揮散用担体であり、
前記揮散用担体は、密度が0.15?0.25g/cm^(3)の本体又は面積を32cm^(2)とし厚さを5mmとしたとき50分後の吸液量が7.5g以上の本体とこれらの本体から立ち上げられ該本体と同じ材質からなる立ち上げ部位とからなり、
前記立ち上げ部位が前記調整手段として機能することを特徴とする非加熱型の揮散装置。」

2 補正の適否の判断1(補正の目的の適否)
上記補正事項には,「吸液速度が40時間以下の吸液芯」を,「吸液芯はその一端から他端に前記液体製剤が達する吸液速度が1?40時間であり」とする補正事項が含まれる。
そこで,この補正の目的について検討する。
補正前の明細書には「吸液速度」の定義について次のように記載されている。
「該吸液部材は吸液速度が1?40時間、好ましくは8?21時間であるのが望ましい。この吸液速度とは、液温25℃のn-パラフィン液中に直径7mm×長さ70mmの吸液芯をその下部より15mmまで浸漬し、芯順(当審注:芯上部の誤記と認められる。)にn-パラフィンが達するまでの時間を測定することにより求められた値を意味する。」(段落【0013】)
この記載によれば,補正前の請求項1記載の吸液芯の「吸収速度」は,特定の直径及び長さとしたときのn-パラフィン液の到達速度が40時間以下であることを示している。
一方,補正後の請求項1記載の吸液芯の「吸収速度」は,吸液芯の一端から他端に液体製剤が達する時間であり,液体製剤はn-パラフィン液とは異なるから,補正後の請求項1記載の吸液芯の「吸収速度」は,補正前の「吸収速度」とは異なるものである。
したがって,「吸液速度が40時間以下の吸液芯」を「吸液芯はその一端から他端に前記液体製剤が達する吸液速度が1?40時間であり」とする補正は特許請求の範囲の減縮,明りょうでない記載の釈明又は誤記の訂正のいずれを目的とする補正にも該当しないから,本件補正は,平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成14年改正前特許法」という。)第17条の2第4項の規定に違反する。

3 補正の適否の判断2(新規事項の有無)
本件補正後の請求項1に係る発明を特定する「吸液芯はその一端から他端に前記液体製剤が達する吸液速度が1?40時間であり」するとの事項は,願書に最初に添付された明細書(以下、「当初明細書」という。)及び図面の範囲内でなされたものではない。
すなわち,当初明細書には,吸液芯の吸液速度に関して,
「該吸液部材は吸液速度が1?40時間、好ましくは8?21時間であるのが望ましい。この吸液速度とは、液温25℃のn-パラフィン液中に直径7mm×長さ70mmの吸液芯をその下部より15mmまで浸漬し、芯順(当審注:芯上部の誤記と認められる。)にn-パラフィンが達するまでの時間を測定することにより求められた値を意味する。」(国際公開03/099343の12頁11?14行参照)
と記載され,吸液芯の「吸収速度」は,特定の直径及び長さとしたときのn-パラフィン液の到達速度であることが定義されており,使用する液体製剤や,吸液芯の大きさに対応して,一端から他端に,液体製剤が達する吸液速度を測定することは記載されていない。
また,当初明細書における,本体と立ち上げ部位とからなる揮散用担体を用いた実施例1には,吸液芯を「直径6.5mm、長さ35mm」とすること,溶媒としてエタノールを使用することが記載されており,吸液芯の直径及び長さも,液体製剤の組成も,上記の評価方法の対象と異なっており,しかも実施例1の吸液芯の吸液速度については何ら記載されていない。また,吸液速度については図面にも何ら記載されていない。
そうすると,「吸液芯はその一端から他端に前記液体製剤が達する吸液速度が1?40時間であり」とする補正事項は,当初明細書および図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。
したがって,本件補正は,平成14年改正前特許法第17条の2第3項の規定に違反する。

4 むすび
以上のとおり,本件補正は,平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願の特許請求の範囲
平成22年6月22日付けの手続補正は上記のとおり却下され,本願明細書について平成21年4月10日付けでなされた手続補正は,平成22年3月12日付けで補正の却下の決定がなされているので,本願の請求項1ないし16に係る発明は,平成21年1月9日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載されたものと認められ,そのうち請求項1には,前記「第2 1(補正前)」のとおり記載されている。

2 原査定の拒絶の理由の概要
(1)原査定の拒絶の理由の「理由1」は次のようなものである。
「理由 1
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(A,B省略)
C.請求項1には、「揮散機構は、吸液速度が40時間以下の吸液芯、体積を160mm^(3)としたとき50分後の吸液量が7.5g以上の揮散用担体、揮散用担体の重量が24g/m2以上の揮散部の何れか一種からなる」(下線部は審査官が付与)と記載されている。
(1)上記記載における二つの「揮散用担体」は、同じものを指しているのか否か(すなわち、2つめの「揮散用担体」は、「前記揮散用担体」と同じことと解して良いのか否か)が不明である。そして、ここでは、3者のうちから一種を選択することを意図しているのか、2者のうちから一種を選択することを意図しているのか、文意が不明なものとなっている。
(2)「揮散機構は、吸液速度が40時間以下の吸液芯・・・」とあるが、吸液芯は揮散機構といえるのかが判然としない。(「吸液芯」という表記、および「吸液速度」という作用効果の記載、そして、請求項1に記載の「フェルト芯」「・・芯」・・等が吸液機構に属することからみて、「吸液芯」を揮散機構のものとして解釈して良いのか。)」

(2)原査定の拒絶の理由の「理由3」は,この出願の請求項1?10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1?10に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 査定の「理由1 C.」についての判断
請求項1には,「揮散機構は、吸液速度が40時間以下の吸液芯、体積を160mm^(3)としたとき50分後の吸液量が7.5g以上の揮散用担体、揮散用担体の重量が24g/m^(2)以上の揮散部の何れか一種からなる」と記載されているが,請求項1には,「吸液機構と、該吸液機構に吸液された前記液体製剤の有効成分を揮散させる揮散機構と」と記載されており,吸液機構である「吸液芯」と「揮散機構」との関係が不明瞭であり,両者は別のものか,両者を兼ねるものも「揮散機構」に含まれるのか明確でない。
その結果,「・・・何れか一種からなる」は,何と何から選択されるのか明確でない。
すなわち,上記記載は,
「揮散機構は,揮散機構を兼ね吸液速度が40時間以下の吸液芯,体積を160mm^(3)としたとき50分後の吸液量が7.5g以上の揮散用担体,揮散用担体の重量が24g/m^(2)以上の揮散部の何れか一種からなる」とも、
「吸液機構として吸液速度が40時間以下の吸液芯を用いるか,又は,揮散機構として,体積を160mm^(3)としたとき50分後の吸液量が7.5g以上の揮散用担体,あるいは,揮散用担体の重量が24g/m^(2)以上の揮散部の何れかを用いる」とも,
「吸液速度が40時間以下の吸液芯を用い,揮散機構は,体積を160mm^(3)としたとき50分後の吸液量が7.5g以上の揮散用担体,揮散用担体の重量が24g/m^(2)以上の揮散部の何れかからなる」とも,解釈でき,発明を特定する事項が明確でない。

また,「揮散用担体」,「揮散部」の定義が不明で,「揮散用担体」と「揮散部」の関係も不明であり,揮散機構が「揮散用担体」であるものと、揮散機構が「揮散部」であるものとの差異が不明である。
すなわち,揮散用担体は,吸液量か重量のいずれかの要件を満たしていればよいのか,吸液量を規定した揮散用担体と,揮散用担体の重量を規定した揮散部は,異なる構造のものなのか不明である。

したがって,本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は,特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない。

4 査定の「理由3」についての判断
(1)本願発明
上記のとおり,請求項1に係る発明は,不明確であるので,明細書及び図面の記載を参酌すると,明細書及び図1?5に示される第1の実施態様には,吸液芯から直接,薬剤を揮散させるもの,すなわち,揮散機構を兼ねる,吸液速度が40時間以下の吸液芯が記載されており,「吸液速度が40時間以下の吸液芯」は,吸液芯が揮散機構を兼ねたものと解される。
また,明細書及び図22?28に示される第4の実施態様には,吸液芯の上部に揮散部を設けた態様が記載され,「揮散部(揮散用担体)」(段落【0063】等参照)と記載され,【表3】には,重量が24g/m^(2)以上の揮散用担体を揮散部としたものが記載されており,揮散部と揮散用担体は同じものと解される。
そして,明細書及び図面には,上記第1,第4実施態様の他に,図6?8に示される第2の実施態様として,面積を32cm^(2)とし,厚さを5mmとしたとき50分後の吸液量が7.5g以上の揮散用担体を介して揮散させるものが記載されている。
したがって,請求項1の「揮散機構は、吸液速度が40時間以下の吸液芯、・・・吸液量が7.5g以上の揮散用担体、・・・重量が24g/m^(2)以上の揮散部の何れか一種からなる」とは,「揮散機構」は、揮散機構を兼ね「吸液速度が40時間以下の吸液芯」,「・・・吸液量が7.5g以上の揮散用担体」又は「・・・重量が24g/m^(2)以上の揮散部」の3種の何れか一種の意味と解釈した。
さらに,本願明細書には,段落【0030】に「揮散用担体35は、・・・面積を32cm^(2)とし、厚さを5mmとしたとき(つまり、体積を160mm^(3))前記揮散用担体の50分後の吸液量が7.5g以上であるように構成されている。」と記載されているが,面積を32cm^(2)とし,厚さを5mmとしたときの体積は16000mm^(3)であり,請求項1の「体積を160mm^(3)としたとき」は,「16000mm^(3)」の誤記と認められる。
また,「3-メチル-3-メトキシン-1-ブタノール」は「3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール」の誤記と認められる。

したがって,明細書及び図面の記載を参酌して請求項1に係る発明を次のものと認定する。
「有効成分を含有する液体製剤を収容する貯留容器と、該貯留容器から液体製剤を吸液する吸液機構と、該吸液機構に吸液された前記液体製剤の有効成分を揮散させる揮散機構と、有効成分の揮散を調整する調整手段とを備え、
前記液体製剤は、薬剤濃度が0.2?20重量部となるようにグリコール類、低級アルコール若しくは3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノールの少なくとも一種或いはこれに水を加えて調整したものからなり、
前記吸液機構は、フェルト芯、素焼芯、パルプ芯、無機質成形芯、繊維芯、樹脂製吸液部材より選ばれた少なくとも一種からなり、
揮散機構は、吸液速度が40時間以下の吸液芯、体積を16000mm^(3)としたとき50分後の吸液量が7.5g以上の揮散用担体、又は揮散用担体の重量が24g/m^(2)以上の揮散部の何れか一種からなることを特徴とする揮散装置。」(以下、「本願発明」という。)

(2)刊行物の記載内容
1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された特開昭59-25755号公報(以下、「刊行物1」という。)には,次の事項が記載されていると認められる。
(1a)「本発明は液体芳香剤を入れた容器に挿着する発散機構に関し、詳しくは、芳香剤を吸い上げる柱状繊維束とその柱状繊維束の頂部に密着させた羊毛フェルトから成る発散機構に関する。」(1頁左下欄11?14行)
(1b)「この香料は液体方向剤中に1?20重量%含有されていればよいが、好ましくは3?15重量%である。」(3頁右上欄7?9行)
(1c)「(3) 前記2種類の液体芳香剤で、前記19個の発散機構の発散の強さと発散の安定性を測定した。
・・・2種類の液体芳香剤の組成は、
(1)(原文は丸数字、以下同様)・・・
(2)香料(・・・)15重量%、水35重量%、界面活性剤(・・・)20重量%、エチルアルコール30重量%
である。」(3頁右下欄2?13行)
(1d)「ここで、吸上げ部(11)はポリプロピレン40重量%およびポリエステル60重量%から成る柱状繊維束で、密度は0.26g/cm^(3)、外形は8mm、長さは56mmである。このような長さの吸上げ部(11)をガラス容器(31)の底部に到達するまで挿入すると前記吸上げ部(11)の頂面がガラス容器(31)の口部上面より約1mm突出した形となる。
また、発散部(11)として用いた羊毛フェルトは外形16mm、厚さ6mmの円板状体であるが材質、密度等はそれぞれ以下に示すものである。」(4頁左上欄6?15行)
(1e)「第2図および第3図において(32)は容器本体(31)の上部中央より情報へ突出した筒状の口部であり、前記容器口部(32)には吸上げ部(13)が貫挿状体に装着されている。(41)は・・・蓋本体であり、前記蓋本体(41)は容器口部(32)に対する羅号筒部(43)の上端にフランジ部(45)が設けられるとともにフランジ部(45)の内周縁にキャップ状の上部(47)が連設されてなる。前記蓋本体(41)の上部(47)にはこれに相応する天蓋(51)が摺接回動可能に被嵌されており、図の場合、天蓋(51)の下面中央に・・・係合突部(53)を設けて前記係合突部(53)を前記蓋本体上部(47)の中央に有する孔(49)に押入係合している。前記蓋本体(41)の上部(47)と天蓋(51)にはそれぞれ互いに合致する同形の芳香剤発散用の窓(48)および(55)が適数開設されている。前記窓48)および(55)は天蓋(51)の回動操作によって当該窓の位置をずらせたり合致させることにより開閉できるようになっている。」(6頁左上欄13行?右上欄13行)
(1f)「本発明の利用例は上記のように構成されており、蓋本体(41)の上部(47)およびこれに嵌合した天蓋(51)に設けた芳香剤発散用の窓(48)および(55)を、必要に応じて天蓋(51)を回動操作して開閉することにより、芳香剤の発散の程度を好みに合うように調整できるとともに不必要なときの芳香剤の発散を防ぐことができる。」(6頁左下欄10?17行)

これらの記載および図面の記載によれば、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「香料を含有する液体芳香剤を収容する容器本体(31)と,該容器本体(31)から液体芳香剤を吸液する吸上げ部と,該吸上げ部に吸液された前記液体芳香剤の香料を発散させる発散部と,香料の発散を調整するための,蓋本体(41)の上部(47)およびこれに嵌合した天蓋(51)に設けた芳香剤発散用の窓(48)および(55)とを備え,
前記香料は,濃度が1?20重量部となるようにエチルアルコールに水を加えて調整したものからなり,
前記吸上げ部は,ポリプロピレン40重量%およびポリエステル60重量%から成る柱状繊維束からなり,
前記発散部は羊毛フェルトからなる,
液体芳香剤発散装置。」

2)原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された特開平9-276385号公報(以下,「刊行物2」という。)には,次の事項が記載されていると認められる。
(2a)「【0014】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。本実施形態は、本発明の揮散性薬剤徐放器を液体芳香剤徐放器に適用したものである。
【0015】(第1実施形態)第1実施形態の液体芳香剤徐放器1は、図1および図2に示すように、液体芳香剤(液体の薬剤の一例)Aを内部に収容し、かつ、口元部2aを下方に向ける略密閉された倒立型の容器2と、口元部2aの下方位置に配設された揮散紙(揮散体に相当)3と、容器2内の液体芳香剤Aを揮散紙3に供給する供給体10とを備えたものである。
【0016】また、この液体芳香剤徐放器1は、揮散紙3を上面に備える台座5と、この台座5の外周に嵌まって容器2を支持し、かつ、複数の窓孔6aを有するカバー6と、口元部2aに下方から螺着されると共にカバー6の中央部の凹部6bに上方から嵌合した下側キャップ7と、容器2の上端部に嵌合した上側キャップ8とを備える。」
(2b)「【0020】また、供給体10としては、吸液性を有するものであれば特に限定されないが、具体例としては、多孔質焼結体、発泡体、パルプ等が挙げられる。なお、多孔質焼結体と発泡体を比較した場合、多孔率の調節が容易であるという点から多孔質焼結体が好ましい。」
(2c)「【0022】揮散紙3は、図2に示すように、台座5の内形に合わせて台座5の底部上面に敷設されている。揮散紙3としては、多孔質焼結体や発泡体等の多孔質材あるいは濾紙などが挙げられるが、吸液性を有するものであれば特に制限されない。」
(2d)「【0023】以上のような構成を有する第1実施形態によれば、次のような作用・効果が得られる。容器2内の液体芳香剤Aは、吸液性を有する供給体10を通って揮散紙3に供給される。これにより、供給体10および揮散紙3の内部には液体芳香剤Aが飽和する。そして、揮散紙3における液体芳香剤Aの揮散に応じて容器2内の液体芳香剤Aが供給体10を介して揮散紙3に随時補給されることにより、容器2内の液体芳香剤Aは、カバー6の窓孔6aを通じて、従来と同様、大気中に徐々に放出される。」
(2e)「【0037】最後に、溶剤としては、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシ3-メチルブタノール、イソパラフィン、ジペンテン等が例示される。」
(2f)「【0038】
【実施例】次に、実施例により本実施形態の液体芳香剤徐放器1、11、21に充填される液体芳香剤Aを下記の如く種々の組成比で配合し、調製した。
(実施例1)
香料 2 重量%
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 2
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 1
エタノール 5
BHT 微量
黄色1号 微量
水 残量
合計100
【0039】(実施例2)
香料 1 重量%
ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル 1.5
アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム 0.5
エタノール 3
ジヒドロキシベンゾフェノン 微量
緑色201号 微量
水 残量
合計100.0
【0040】(実施例3)
香料 10 重量%
エタノール 20
3-メトキシ3-メチルブタノール 40
BHT 微量
緑色201号 微量
水 残量
合計100
【0041】(実施例4)
香料 6 重量%
プロピレングリコール 10
イソパラフィン 40
BHT 微量
赤色106号 微量
3-メトキシ3-メチルブタノール 残量
合計100」

これらの記載及び図面の記載によれば,刊行物2には次の発明が記載されていると認められる。
「香料を含有する液体芳香剤を収容する容器2と、該容器2から液体芳香剤を吸液する供給体10と、該供給体10に吸液された前記液体芳香剤の有効成分を揮散させる揮散紙とを備え、
前記液体芳香剤は、香料の濃度が1?10重量%となるように,エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシ3-メチルブタノール、イソパラフィン、ジペンテンの少なくとも一種に水を加えて調整したものからなり、
前記供給体10は、多孔質焼結体、発泡体、パルプ等からなり、
前記揮散紙は、前記供給体10と接するものである非加熱型の液体芳香剤徐放器。」(以下,「刊行物2記載の発明」という。)

(3)判断
1)刊行物1記載の発明との対比・判断
本願発明と刊行物1記載の発明を対比する。
ア 刊行物1記載の発明の「香料」は,本願発明の「有効成分」または「薬剤」に相当し,同様に,「液体芳香剤」は「液体薬剤」に,「容器」は「貯留容器」に,「発散部」は「揮散機構」に,「エチルアルコール」は「低級アルコール」に,「液体芳香剤発散装置」は「揮散装置」に相当する。
イ 刊行物1記載の発明の「吸上げ部」は,本願発明の「吸液機構」に相当し,「ポリプロピレン40重量%およびポリエステル60重量%から成る柱状繊維束」は,「樹脂製の吸液部材からなる」ものに相当する。
ウ 刊行物1記載の発明の「香料」の濃度と,本願発明の「薬剤濃度」とは「1?20重量%」の範囲で重複する。
エ 刊行物1記載の発明において「芳香剤発散用の窓(48)および(55)」は,発散量を調整するものであるから,本願発明の「調整手段」に相当する。

したがって,両者は,次の点で一致する。
「有効成分を含有する液体製剤を収容する貯留容器と、該貯留容器から液体製剤を吸液する吸液機構と、該吸液機構に吸液された前記液体製剤の有効成分を揮散させる揮散機構と、有効成分の揮散を調整する調整手段とを備え、
前記液体製剤は、薬剤濃度が1?20重量部となるように低級アルコールに水を加えて調整したものからなり、
前記吸液機構は、樹脂製の吸液部材からなる、揮散装置。」

また,両者は,次の点で相違する。
[相違点1]
揮散機構が,本願発明では,吸液速度が40時間以下の吸液芯,体積を16000mm^(3)としたとき50分後の吸液量が7.5g以上の揮散用担体,又は揮散用担体重量が24g/m^(2)以上の何れか一種からなるのに対し,刊行物1記載の発明は,羊毛フェルトであって,吸液速度,吸液量,重量が限定されていない点。

上記相違点1について検討する。
ア 刊行物1記載の発明の揮散機構である,「羊毛フェルト」は,薬剤を揮散させる部材であるから「揮散用担体」あるいは「揮散部」に相当するといえる。
一方,本願発明の揮散機構において,「体積を16000mm^(3)としたとき50分後の吸液量が7.5g以上の揮散用担体」を選択する場合について検討すると,上記特定は,揮散用担体が,体積を16000mm^(3)としたとき50分後の吸液量が7.5g以上の物性のものであること特定するものである。
しかし,本願発明において揮散装置に用いる揮散用担体の体積は何ら限定されておらず,例えば,本願明細書の段落【0040】の実施例1では,一辺長が71mmの揮散用担体,段落【0043】の実施例2では,一辺長が78mmの揮散用担体を用いたことが記載されており,実際の揮散量は揮散用担体の体積により異なるから,このような物性のものに限定した点に技術的な意義は認められない。
そうすると,刊行物1記載の発明において,揮散機構を,必要な揮散量と揮散機構の体積,揮散機構に薬液を供給する吸液部材の吸液能力に応じて,体積を16000mm^(3)としたとき50分後の吸液量が7.5g以上の揮散用担体とすることは,適宜なしうる程度のことである。

イ また,本願発明の揮散機構において,「揮散用担体の重量が24g/m^(2)以上の揮散部」を選択する場合について検討すると,本願明細書の段落【0057】?【0058】には,吸液部(吸液機構)により揮散用担体(揮散部)へ供給する液体製剤の供給量を調整することが記載されており,揮散量は,吸液部(吸液機構)により異なるから,特に,「揮散用担体の重量が24g/m^(2)以上の揮散部」を選択することに格別の技術的意義は認められない。
そうすると,刊行物1記載の発明において,揮散機構を,必要な揮散量と揮散機構の体積,揮散機構に薬液を供給する吸液部材の吸液能力に応じて,「揮散用担体の重量が24g/m^(2)以上の揮散部」とすることは,適宜なしうる程度のことである。

ウ 刊行物1記載の発明の「羊毛フェルト」は,それ自体,吸い上げ部から薬剤を吸い上げるから「吸液芯」ともいうことができる。
一方,本願発明の揮散機構において「吸液速度が40時間以下の吸液芯」を選択する場合について,その技術的意義を検討すると,「吸液速度が40時間以下」とは,吸液芯を直径7mm×長さ70mmとした場合の,n-パラフィン液の吸収速度で,吸液芯の物性を特定したにすぎない。
そして,実際の吸液量は吸液芯の大きさ,薬剤の溶媒により異なるところ,本願発明は,吸液芯の大きさ,薬剤の溶媒は何ら限定されておらず,例えば,本願明細書の段落【0040】の実施例1では,溶媒をエタノールとしたことが記載されており,吸液芯をこのような物性のものに限定した点に技術的な意義は認められず,刊行物1記載の発明において,揮散機構として,吸液速度が40時間以下の吸液芯を採用することは,吸液芯の大きさ,薬剤の種類,必要な揮散速度に応じて適宜選択しうる程度のことである。

そして本願発明の効果は,刊行物1記載の発明から予測できる程度のものであって格別顕著なものとはいえない。
したがって,本願発明は,刊行物1記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2)刊行物2記載の発明との対比・判断
本願発明と刊行物2記載の発明を対比する。
刊行物2記載の発明の「香料」は,本願発明の「有効成分」または「薬剤」に相当し,同様に,「液体芳香剤」は「液体薬剤」に,「液体芳香剤徐放器」は「揮散装置」に相当し,刊行物2記載の発明の「香料」の濃度と,本願発明の「薬剤濃度」は「1?10重量%」の範囲で重複する。
刊行物2記載の発明の「供給体10」は,本願発明の「吸液機構」に相当し,「多孔質焼結体」からなる供給体10は「無機質成形芯」に相当し,「発泡体」からなる供給体10は「無機質成形芯」又は「樹脂製吸液部材」に相当する。
刊行物2記載の発明の「揮散紙」は,本願発明の「揮散機構」に相当する。
刊行物2記載の発明の「エタノール、プロパノール」は「低級アルコール」であり,「エチレングリコール、プロピレングリコール」等は「グリコール類」であり、
「3-メトキシ3-メチルブタノール」は,「3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール」である。

したがって,両者は,次の点で一致する。
「有効成分を含有する液体製剤を収容する貯留容器と、該貯留容器から液体製剤を吸液する吸液機構と、該吸液機構に吸液された前記液体製剤の有効成分を揮散させる揮散機構とを備え、
前記液体製剤は、薬剤濃度が1?10重量部となるようにグリコール類、低級アルコール若しくは3-メチル-3-メトキシン-1-ブタノールの少なくとも一種に水を加えて調整したものからなり、
前記吸液機構は、パルプ芯、無機質成形芯、樹脂製吸液部材より選ばれた少なくとも一種からなる,揮散装置。」

また,両者は,次の点で相違する。
[相違点2A]
本願発明は,有効成分の揮散を調整する調整手段とを備えているのに対し
刊行物2記載の発明は,このような調整手段を有していない点。
[相違点2B]
揮散機構が,本願発明では,吸液速度が40時間以下の吸液芯,体積を16000mm^(3)としたとき50分後の吸液量が7.5g以上の揮散用担体,又は揮散用担体の重量が24g/m^(2)以上の揮散部の何れか一種からなるのに対し,刊行物2記載の発明は,揮散紙であって,吸液速度,吸液量,重量が限定されていない点。

上記相違点について検討する。
相違点2Aについて検討すると,刊行物2記載の発明において,揮散用担体の大きさや,吸液芯の大きさや長さを調整し揮散量を調整すること,あるいは刊行物1記載の発明のように,容器の開口を調整し,揮散量を調整することは,当業者が適宜なしうることである。

上記相違点2Bについて検討する。
ア 刊行物2記載の発明の揮散機構である,「揮散紙」は,薬剤を揮散させる部材であるから「揮散用担体」あるいは「揮散部」に相当するといえる。
一方,本願発明の揮散機構において,「体積を16000mm^(3)としたとき50分後の吸液量が7.5g以上の揮散用担体」を選択する場合について検討すると,前記1)アで述べたとおり,このような物性のものに限定した点に技術的な意義は認められず,刊行物2記載の発明において,体積を16000mm^(3)としたとき50分後の吸液量が7.5g以上のものとすることは,必要な揮散量と揮散用担体の体積に応じて適宜決めうる程度のことである。

イ また,本願発明の揮散機構において,「揮散用担体の重量が24g/m^(2)以上の揮散部」を選択する場合について検討すると,前記1)イで述べたとおり,このような物性のものに限定した点に技術的な意義は認められない。
そして,本願明細書の表3の実施例をみると,書道用の紙,濾紙等,吸水性のよい紙とされているものはいずれも重量が24g/m^(2)以上であり,刊行物2記載の発明において,揮散用担体(揮散紙)として,この様な吸水性の良いことが知られている24g/m^(2)以上の紙を使用することは当業者が容易になしうることである。

また,本願発明の効果は,刊行物2記載の発明,あるいは刊行物2記載の発明及び刊行物1記載の発明から予測できる程度のものであって,格別顕著なものとはいえない。
したがって,本願発明は,刊行物2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,又は,刊行物2記載の発明に刊行物1記載の発明を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおり,本願は,特許請求の範囲の請求項1の記載が特許法第36条第6項第2号の要件を満たしておらず,また,本願発明は,同法29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-25 
結審通知日 2011-06-01 
審決日 2011-06-17 
出願番号 特願2004-506866(P2004-506866)
審決分類 P 1 8・ 574- Z (A01M)
P 1 8・ 121- Z (A01M)
P 1 8・ 537- Z (A01M)
P 1 8・ 561- Z (A01M)
P 1 8・ 573- Z (A01M)
P 1 8・ 572- Z (A01M)
P 1 8・ 571- Z (A01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西田 秀彦  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 土屋 真理子
宮崎 恭
発明の名称 揮散装置  
代理人 市川 利光  
代理人 小栗 昌平  
代理人 本多 弘徳  

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