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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01N
管理番号 1248397
審判番号 無効2010-800212  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-11-15 
確定日 2011-11-28 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4536223号発明「ハエ誘引剤及びハエ取り用トラップ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4536223号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成11年12月13日 先の特許出願
(特願平11-353154号)
平成12年 6月23日 本件特許に係る特許出願
(特願2000-189595号。
先の特許出願に基づく優先権主張を伴う。)
平成22年 6月25日 特許権の設定登録
(特許第4536223号)
平成22年11月15日 請求人 :特許無効審判請求書・
甲第1?8号証提出
平成23年 2月 4日 被請求人:答弁書・訂正請求書・
乙第1?5号証提出
平成23年 3月16日 審理事項通知書
平成23年 3月24日 請求人 :口頭審理陳述要領書(1)提出
平成23年 3月25日 被請求人:上申書・
乙第6?9号証提出
平成23年 4月 7日 請求人 :口頭審理陳述要領書(2)提出
平成23年 4月 8日 被請求人:口頭審理陳述要領書・
乙第10?12号証提出
平成23年 4月15日 被請求人:上申書提出
平成23年 4月18日 被請求人:上申書・
乙第13号証提出
平成23年 4月22日 請求人 :口頭審理陳述要領書(3)・
甲第9号証提出
平成23年 4月22日 第1回口頭審理
平成23年 4月26日 請求人 :上申書・
甲第10号証提出
平成23年 6月13日(発送日) 無効理由通知書・職権審理結果通知書
平成23年 7月13日 被請求人:意見書・訂正請求書提出
平成23年 8月29日 請求人 :上申書提出
平成23年 9月26日(発送日) 審理終結通知


第2 平成23年 7月13日付け訂正請求について
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
平成23年 7月13日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを求める、というものであり、その訂正内容は、以下の「(1)特許請求の範囲についての訂正」及び「(2)明細書についての訂正」からなるものと認められる(以下、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、請求項2及び請求項3を、それぞれ、「訂正前請求項1」、「訂正前請求項2」及び「訂正前請求項3」という。)。
なお、先にされた平成23年 2月 4日付け訂正請求は、本件訂正請求がされたため、特許法第134条の2第4項の規定により、取り下げられたものとみなされた。

(1)特許請求の範囲についての訂正
ア 訂正1
訂正前請求項1における、「アセトイン及び/又は黒酢」を、「黒酢」に訂正するとともに、さらに「果実、果実加工品、及び醸造酒からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用」するものと訂正する。

イ 訂正2
訂正前請求項2において、「併用」されるとしていた「純米酢、穀物酢からなる群から選ばれる少なくとも1種の酢」及び「蒸留酒及び酒粕」を削除し、また、「併用」される「果実及び果実加工品」を、「メロン、イチゴ、バナナ、パイン、ピーチ、パッション、アプリコット、パパイヤ、梨、ガバァ及びハイビスカスからなる群より選択される少なくとも1種の果実;該果実の加工品」と訂正するとともに、同じく「併用」される「醸造酒」を、「紹興酒及びワインからなる群から選択される少なくとも1種の醸造酒」と訂正する。

ウ 訂正3
訂正前請求項3において、上記訂正1及び訂正2のとおりの訂正をする。
(審決注:訂正前請求項3は、訂正前請求項1及び訂正前請求項2を直接又は間接に引用するものである。そうすると、上記訂正1及び訂正2に伴い、訂正後請求項3についても、上記訂正1及び訂正2のとおりの訂正をすることになる。)

(2)明細書についての訂正
エ 訂正4
本件特許明細書の段落【0004】において、「アセトインと黒酢」を「黒酢」に訂正するとともに、「併用」するものとして、「選択された特定の酢」及び「蒸留酒及び酒粕」を削除し、さらに「果実及び果実加工品」として「メロン、イチゴ、バナナ、パイン、ピーチ、パッション、アプリコット、パパイヤ、梨、ガバァ及びハイビスカスからなる群より選択される少なくとも1種の果実;該果実の加工品」と訂正する。

オ 訂正5
本件特許明細書の段落【0014】?【0021】において、「実施例1」?「実施例5」を、それぞれ「参考実施例1」?「参考実施例5」に訂正する。

2 訂正請求の適否について
(1)特許請求の範囲についての訂正1?3の適否
ア 訂正1について
(ア)訂正1は、訂正前請求項1において「有効成分」として規定された「アセトイン及び/又は黒酢」を、「黒酢」のみに限定するとともに、「ハエ誘引剤」の成分としてさらに「果実、果実加工品、及び醸造酒からなる群から選ばれる少なくとも1種」を「併用」したものに限定するものである。よって、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるといえる。
したがって、訂正1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
(イ)「黒酢」は、訂正前請求項1において単独で成立し得る選択肢の一つとして規定されていたものであるから、「有効成分」として、「アセトイン及び/又は黒酢」から、「黒酢」のみを規定することは、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(ウ)「ハエ誘引剤」の成分としてさらに「果実、果実加工品、及び醸造酒からなる群から選ばれる少なくとも1種」を「併用」したものに限定することは、訂正前請求項2において併用することが規定されていた成分の一部を併用するものに規定したことであるので、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(エ)このような訂正1は、実質上特許請求の範囲を拡張するものではなく、訂正前請求項1に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるといえるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
(オ)したがって、訂正1は、特許法第134条ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の要件に適合するものである。

イ 訂正2について
(ア)訂正2は、訂正前請求項2において「併用」されるとしていた「純米酢、穀物酢からなる群から選ばれる少なくとも1種の酢」及び「蒸留酒及び酒粕」を削除し、また、「併用」される「果実及び果実加工品」を、「メロン、イチゴ、バナナ、パイン、ピーチ、パッション、アプリコット、パパイヤ、梨、ガバァ及びハイビスカスからなる群より選択される少なくとも1種の果実;該果実の加工品」と訂正するとともに、同じく「併用」される「醸造酒」を、「紹興酒及びワインからなる群から選択される少なくとも1種の醸造酒」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるといえる。
したがって、訂正1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
(イ)「黒酢」は、訂正前請求項1において単独で成立し得る選択肢の一つとして規定されていたものであるから、「有効成分」として、「アセトイン及び/又は黒酢」から、「黒酢」のみを規定することは、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(ウ)「ハエ誘引剤」の成分の「果実、果実加工品」として、「メロン、イチゴ、バナナ、パイン、ピーチ、パッション、アプリコット、パパイヤ、梨、ガバァ及びハイビスカスからなる群より選択される少なくとも1種の果実;該果実の加工品」と訂正することは、これら果実類の名称が本件特許明細書の段落0007に例示されるものの一部分であり、またこれら果実の加工品は本件特許明細書の実施例6?17に例示されていることから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(エ)「ハエ誘引剤」の成分の「醸造酒」として、「紹興酒及びワインからなる群から選択される少なくとも1種の醸造酒」と訂正することは、これら醸造酒類の名称が本件特許明細書の段落0007に例示されるものの一部分であり、またこれら醸造酒類は本件特許明細書の実施例18?19に例示されていることから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(オ)このような訂正2は、実質上特許請求の範囲を拡張するものではなく、訂正前請求項2に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるといえるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
(カ)したがって、訂正2は、特許法第134条ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の要件に適合するものである。

ウ 訂正3について
(ア)訂正3は、訂正前請求項3について、これらが訂正前請求項1及び訂正前請求項2を直接に又は間接に引用するものであるから、訂正前請求項1及び訂正前請求項2についてするのと同じ内容の訂正をするものである。
(イ)そして、訂正1及び訂正2について上記ア及びイと同じ理由が適用できるから、訂正3は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものであるといえる。

(2)明細書についての訂正4?5の適否
ア 訂正4について
(ア)訂正4は、本件特許明細書の訂正前請求項1?3を引き写した記載部分について、訂正1?3と同じ内容の訂正をするものである。
(イ)そうすると、訂正4は、訂正1?3に伴い不整合となって明りょうでない記載となる記載を明りょうにするためのものであるといえ、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(ウ)そして、訂正4は、上記(1)ア?ウで説示したものと同一の理由により、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張するものでもない。
(エ)したがって、訂正4は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

イ 訂正5について
(ア)訂正5は、訂正1?3により、実施例ではなくなった「実施例1」?「実施例5」を、それぞれ「参考実施例1」?「参考実施例5」と訂正するものである。
(イ)そうすると、訂正5は、訂正1?3に伴い不整合となって明りょうでない記載となる記載を明りょうにするためのものであるといえ、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(ウ)そして、訂正5は、上記(1)ア?ウで説示したものと同一の理由により、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張するものでもない。
(エ)したがって、訂正5は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

3 訂正請求についてのまとめ
上記のとおり、訂正1?5は、特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、本件特許明細書(本件特許に係る願書に添付した明細書)に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
すなわち、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。
したがって、本件訂正請求は、適法であるものといえる。
よって、本件訂正を認める。


第3 本件発明
本件訂正請求は上記第2で説示したとおり適法であるから、特許第4536223号の請求項1ないし3に係る発明は、平成23年 7月13日付け訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし3(以下、それぞれ「訂正発明1」ないし「訂正発明3」といい、あわせて「本件訂正発明」ともいう。)に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】
黒酢を有効成分とし、果実、果実加工品、及び醸造酒からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用したことを特徴とするハエ誘引剤

【請求項2】
メロン、イチゴ、バナナ、パイン、ピーチ、パッション、アプリコット、パパイヤ、梨、ガバァ及びハイビスカスからなる群より選択される少なくとも1種の果実;該果実の加工品;ならびに紹興酒及びワインからなる群から選択される少なくとも1種の醸造酒;からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用したことを特徴とする請求項1記載のハエ誘引剤

【請求項3】
請求項1又は請求項2のハエ誘引剤を誘引剤としたハエ取り用トラップ


第4 請求人の主張した無効理由及び当審で通知した無効理由
1 請求人の主張した無効理由
(1)請求人の主張の概要
ア 審判請求書における主張
請求人は、審判請求書において、概略、以下の主張をした。

「[a] 本件特許の請求項1に記載された発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、あるいは、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
[b] 本件特許の請求項1ないし3に記載された発明は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
[c] 本件特許の請求項1に記載の発明特定事項のうち「黒酢」については、発明の詳細な説明には、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。」

イ 口頭審理における主張
請求人は、口頭審理において、新規性違反に関する無効理由[a]及び実施可能要件違反に関する無効理由[c]のうち請求項2に対しての主張を撤回するとともに、「本件審判において主張する無効理由は、以下の(1)及び(2)のとおりである」として、概略、以下の主張をした。

「(1)無効理由2
訂正発明1(審決注:平成23年 2月 4日付け訂正請求による。)は、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証ないし甲第7号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、訂正発明2及び3(審決注:平成23年 2月 4日付け訂正請求による。)は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第8号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1?3に係る発明についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2)無効理由3
訂正発明1(審決注:平成23年 2月 4日付け訂正請求による。)に記載の発明特定事項のうち「黒酢」について、発明の詳細な説明には、その製造方法、成分、入手先等が記載されていないため、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると言えないので、請求項1に係る発明についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1号第4号に該当し、無効とすべきである。」

ウ 平成23年 8月26日付け上申書における主張
請求人は、平成23年 7月13日付け訂正請求については、「当該訂正を認め、これについては争わない」との見解を示すとともに、「訂正発明1乃至3は、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、依然として特許法第29条第2甲の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当する」点を主張する。

(2)証拠方法
請求人は、証拠方法として、第1に指摘したそれぞれの時点において、甲第1号証ないし甲第10号証を提出した。
ア 甲第1号証
A. S. West、"Chemical Attractants for Adult Drosophila Species",
Journal of Economic Entomology、August 1961、 Vol.54、 No.4、 pp.677-681
イ 甲第2号証
S. H. Hutner、H. M. Kaplan and E. V. Enzmann, "Chemicals
attracting Drosophila", The American Naturalist, November-December
1937, Vol.71, No.737, pp.575-581
ウ 甲第3号証
小泉幸道ほか、「中国酢の遊離アミノ酸・有機酸・香気成分について」、日本食品工業学会誌、1985年4月、第32巻、第4号、pp.288?294
エ 甲第4号証
小泉幸道ほか、「中国酢の一般成分・糖組成・無機成分について」、日本食品工業学会誌、1985年2月、第32巻、第2号、pp.108?113
オ 甲第5号証
特開平3-127766号公報
カ 甲第6号証
柳田藤治、「壺酢-酢造りの原点を探る」、化学と生物、1990年4月25日、第28巻、第4号、pp.271?276
キ 甲第7号証
芳賀登、石川寛子監修、「全集 日本の食文化 第五巻 油脂・調味料・香辛料」、1998年7月5日発行、雄山閣出版株式会社
ク 甲第8号証
渡辺隆夫、「ポピュラー・サイエンス ショウジョウバエ物語」、第1版、1995年4月20日発行、裳華房
ケ 甲第9号証
「HOPO PCO NEWS」、January 1992 No.184、鵬図商事株式会社
コ 甲第10号証
「食酢品質表示基準」、制定 平成12年12月19日農林水産省告示第1668号、最終改正 平成20年10月16日農林水産省告示第1507号

2 当審で通知した無効理由
(1)無効理由の概要
当審で口頭審理後の平成23年 6月13日(発送日)に通知した無効理由の概要は、以下のとおりである。
ア 無効理由4
請求項1?3に係る発明(審決注:平成23年 2月 4日付け訂正請求によるもの。以下同じ)は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証、甲第1、3、8号証及び刊行物1?6に記載された発明及び技術常識に基づいて、本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1?3に係る発明についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

イ 無効理由5
請求項1?3に係る発明(審決注:平成23年 2月 4日付け訂正請求によるもの。以下同じ)は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証、甲第1、6、8号証及び刊行物1?6に記載された発明及び技術常識に基づいて、本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1?3に係る発明についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

ウ 無効理由6
請求項1?3に係る発明(審決注:平成23年 2月 4日付け訂正請求によるもの。以下同じ)は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1、甲第1?3、6、8号証及び刊行物2?6に記載された発明及び技術常識に加えて乙第1号証に記載された技術常識に基づいて、本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1?3に係る発明についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)証拠方法
上記無効理由4?6に係る証拠方法は、以下のとおりである。
ア 甲第1号証
A. S. West、"Chemical Attractants for Adult Drosophila Species",
Journal of Economic Entomology、August 1961、 Vol.54、 No.4、 pp.677-681
イ 甲第2号証
S. H. Hutner、H. M. Kaplan and E. V. Enzmann, "Chemicals
attracting Drosophila", The American Naturalist, November-December
1937, Vol.71, No.737, pp.575-581
ウ 甲第3号証
小泉幸道ほか、「中国酢の遊離アミノ酸・有機酸・香気成分について」、日本食品工業学会誌、1985年4月、第32巻、第4号、pp288?294
エ 甲第6号証
柳田藤治、「壺酢-酢造りの原点を探る」、化学と生物、1990年4月25日、第28巻、第4号、pp.271?276
オ 甲第8号証
渡辺隆夫、「ポピュラー・サイエンス ショウジョウバエ物語」、第1版、1995年4月20日発行、裳華房
カ 刊行物1
雑誌「太陽」(No.205 特集 大発明・珍発明500集、広中平祐・小島直記・渋沢秀雄・真鍋博・都筑道夫・豊沢豊雄)、第42頁「身近な発明300」のうちの「ハエ取りビン」の項、昭和55年5月12日発行、平凡社
キ 刊行物2
山内一世ほか、「^(13)C-NMR法による黒酢の分析」、日本食品工業学会誌、1994年9月、第41巻、第9号、pp.600?605
ク 刊行物3
福光健二、「ハエの防除法」、畜産の研究、第53巻、第1号、pp.220?224、1999年
ケ 刊行物4
竹井誠、「ハエ」、昭和39年7月10日発行、石崎書店
コ 刊行物5
大正13年実用新案出願公告第5325号
サ 刊行物6
西川勢津子、吉川翠、「害虫追い出し百科」、1997年6月30日、第1刷、株式会社近代文芸社
シ 乙第1号証
「食品産業&食生活データブック 2006年版」、pp.73、2006年1月10日 第1刷、株式会社生活情報センター

(以下、甲第1号証等は「甲1」等のように略記する場合がある)


第5 被請求人の反論の要点
被請求人が提出した答弁書、上申書、口頭審理陳述要領書、口頭審理における主張及び意見書による全主張によれば、被請求人は、無効理由1?6はいずれも理由がなく、訂正発明1?3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないので同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものではないこと、また、訂正発明1?3についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものではないので同法第123条第1項第4号に該当せず無効とすべきものではないこと、を主張すると認められる。


第6 当審の判断
当審は、訂正発明1?3についての特許は、無効理由A(上記無効理由6に対応)及び無効理由B(上記無効理由4及び5に対応)によって無効とすべきものであると判断する。その理由は、以下のとおりである。

1 無効理由Aについて
無効理由Aの概要は、訂正発明1?3は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1、甲第1?3、6、8号証及び刊行物2?6に記載された発明及び技術常識並びに乙第1号証に記載された技術常識に基づいて、本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、よって、訂正発明1?3についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、というものである。

(1)刊行物
無効理由Aに係る刊行物は、上記「第4 2(2)」の証拠方法ア?シに示した甲1?3,6,8及び刊1?6である。

(2)刊行物の記載事項
(2-1)甲1(なお記載事項の摘記にあたっては、該当箇所を請求人が審判請求書にて提示した翻訳文により行う。)
(摘記1a)677頁左欄要約第1行?第6行(翻訳文第1頁「要約」の項第1段落)
「Drosophila種用のエサとしての化学誘引剤の開発を述べる。まず広範囲の化合物を密閉容器内でバイアルトラップによりテストした。より可能性の高い化合物および混合物を、密閉室内でボトルトラップに入れることによりテストした。これらの室内テストにより、いずれの単体化合物よりも混合物の方が効果的であることが示された。」

(摘記1b)677頁左欄本文第1行?第5行(翻訳文第1頁本文第1段落)
「一般に、Drosophilaキイロショウジョウバエは、発酵した果物の臭いに誘引されるとされている。分布に関するフィールドスタディーでは通常、つぶしたバナナ、メロンまたはその他の果物をトラップ内に置いて、適切な場所に曝す。」

(摘記1c)677頁右欄第8行?第14行(翻訳文第2頁第2段落)
「Hutnerら(1937)は、多種類の化合物を調査する中で、さらにいくつかの物質、特にジアセチル、アセチルメチルカルビノール、アセトアルデヒド、およびインドールが非常に高い誘引性を有することを発見した。誘引性化合物の混合物は天然のエサと比べてもあまり劣らなかった。インドール、アセトアルデヒド、およびアセチルメチルカルビノールは有効な混合物を形成した。」

(摘記1d)677頁右欄第25行?678頁左欄11行(翻訳文第2頁第4段落?第5段落)
「臭覚計による試験:・・・臭覚計を用いた予備的実験の結果で後に価値があったものの一部を以下に示す。
液体モルトエキス(25%)はD.melanogaster、D.virilis、およびD.pseudoobscuraに対して非常に誘引力が高かった。10%モルトもほぼ同じくらい効果的であった。5%モルトはD.virilisのみに対してかなり誘引性があった。エチルアルコール(1%)はD.melanogasterおよびD.pseudoobscuraに対して適度に誘引性があった。0.01%ジアセチルはD.virilisおよびD.pseudoobscuraに対して適度に誘引性があった。0.001%ジアセチルは多少誘引性が低く、0.1%では明らかに誘引性が低かった。アセトアルデヒド(0.01%)はD.virilisに対して非常に誘引性が高く、0.001%では多少誘引性が低かった。0.01%インドールはD.virilisに対して適度に誘引性があり、0.001%ではほとんど否定的な応答を引き起こし、0.1%では明らかに忌避作用があった。」

(摘記1e)678頁左欄下から6行?3行(翻訳文第3頁第5段落)
「反復テストではかなりの多様性が見られた。これらの多様性は一部にはサイズの相違、年齢の相違、および1ロット100匹のハエのうちの性別の割合の相違による可能性がある。」

(2-2)甲2(なお記載事項の摘記にあたっては、該当箇所を請求人が審判請求書にて提示した翻訳文により行う。)
(摘記2a)575頁第10行?第13行(翻訳文第1頁第1段落)
「(1)Drosophila用の通常の人工培地、すなわちバナナまたはコーンミール-酵母に産卵された卵は、精製(「半合成」)培地に移されたときに結果を不明瞭にする物質を有している可能性がある。」

(摘記2b)576頁第16行?第21行(翻訳文第2頁第2段落)
「このため、Drosophila melanogasterを誘引する臭いの研究に着手した。誘引剤として食物にとって効果的な臭いは昆虫の産卵に対しても刺激剤となることがすぐに判明した。化学物質の誘引性テストに選んだ方法は、その化学物質を飼料として取り付けたトラップで捕獲されたハエの数であった。」

(摘記2c)576頁第23行?第34行(翻訳文第2頁実験手順の項)
「トラップとして、折りたたんだ濾紙で作成した漏斗を半パイントのミルクボトルのネック部分に差し込んで、ボトルの縁に接着テープで固定した。漏斗底部の小さな穴を入口とした。ボトル内で、水分を含んだペーパータオル片にテストする化学物質を塗布した。・・・その後、・・・500匹以上のハエを放し、約12時間後に各トラップに捕獲された昆虫の数を数えた。」

(摘記2d)578頁第3行?第6行(翻訳文第4頁本文)
「簡潔に述べると、いくつかの化学物質が特に誘引剤として効力があることがわかった。ジアセチル、アセトアルデヒドおよびインドールである。アセチルメチルカルビノール(同義語:アセトイン、3-ヒドロキシ-2-ブタノン)はジアセチルと同等の誘引性があった。」

(摘記2e)578頁TABLE III(翻訳文第4頁「表III」)




(摘記2f)578頁下から2行?579頁第1行(翻訳文第5頁本文第1段落)
「最後の数回の実験で、誘引性化学物質の混合物は天然飼料に比べてあまり劣っていないことが判明した。表IIIに2つの実験を示す。」

(摘記2g)577頁第5行?第12行(翻訳文第2頁結果の項)
「Burrow(1907)がエチルアルコール-酢酸混合物でDrosophila誘引に成功したことに鑑みて、最初は、これら2つの物質に加えて酢酸エチルおよびその同族体が天然基質の誘引性のほとんどを引き起こすのではないかと考えた。これらのみを用いた場合、非常に効果的であった(表I、実験B)が、天然飼料と競わせた場合はほとんど効力を示さなかった(表I、実験A)。」

(2-3)甲3
(摘記3a)第288頁 タイトル
「中国酢の遊離アミノ酸・有機酸・香気成分について」

(摘記3b)第288頁左欄?右欄
「前報^(1))において筆者らは、中国の食酢製造方法等について解説すると共に、中国酢11点の一般成分、糖組成、無機成分について分析を行い、日本産の米酢或いは粕酢との比較を行った。その結果、一般成分については各成分共含量が多く、色については黒褐色で、沈でんが見られる製品が多いこと、・・・が分った。・・・
本報では前報^(1))に引き続き、中国酢11点の遊離アミノ酸、有機酸、香気成分について分析を行い、日本産の米酢と比較した。また、香味の官能試験を行った結果を併せて報告する。」

(摘記3c)第292頁?第293頁上欄 Table3
(Table3 左側)


(Table3 右側)



(摘記3d)第292頁右欄
「次にアセトインは、江米香醋の747ppmが一番多く、他は203?573ppmであった。ジアセチルは老陳醋に少なく、他は31?52ppmであった。日本の米酢のアセトインは、15ppmから多い物で355ppm、ジアセチルは4?15ppmなので、中国酢の方がはるかに多い値であった。アセトインやジアセチルについては、「むれ香」と称する不快臭である事は古くから知られている・・・。食酢中のアセトインやジアセチルの含量は、使用する原料により異なるが、特に米や麦芽等の穀類を原料とした食酢に多く含まれ、アルコール酢ではアルコールにわずかな栄養源のみしか添加しないので含量は少ない^(6))。筆者らはアセトイン生成の主要因の一つとして、乳酸を指摘している^(6))。前述の有機酸分析において、中国酢の乳酸含量は、全有機酸量に対して42.1?72.1%であることから、中国酢にアセトイン含量が多いのも当然と考えられる。前報^(1))において、中国酢の製造法について解説したが、乳酸はアルコール発酵と固体酢酸発酵時において生成すると思われる。アセトインやジアセチル生成の大きな要因になっているものと思われる。」

(2-4)甲6
(摘記4a)第271頁右欄「壺酢の里 福山町」の欄
「この糖化とアルコール発酵に加えて、同時に酸発酵を営みながら酢を造る、昔ながらの製法が、鹿児島県福山町に、その姿を変えることなく200年来伝えられている。それが壺酢である。」

(摘記4b)第272頁左欄?右欄「壺酢作りのキー 振り麹」の欄
「先にも述べたように、壺酢は一つの壺で全行程を処理し、色つきでしかも味がまろやかで、薄めずにそのまま飲める酢である。・・・
壺酢の特徴は、米酢で、米、麹、水を原料として壺に仕込み、最後に液面に振り麹をする点にある。・・・完成品は黒褐色に着色した酢(黒酢)となる。」

(摘記4c)第274頁右欄?第275頁右欄「発酵中での微生物の淘汰」の欄
「・・・そこで、筆者らは、1989年、夏仕込もろみ中の微生物フローラの変化を調べた^((6))。
・・・これら菌の作る乳酸は、酢酸菌によりアセトインやジアセチルなどのカルボニル化合物に代謝される。多量に存在すると酢に重い不快臭を付与する^((7?10))。
・・・」

(2-5)甲8
(摘記5a)第25頁?第26頁「食物嗜好」の欄
「ショウジョウバエを採集する万国共通法は、バナナトラップである。・・・
ショウジョウバエは糖の発酵臭に惹きつけられるのだから、糖源はなんでもよい。イースト菌がどんどん殖えてくえれば、バナナであろうがブドウであろうがミカンであろうが・・・。
彼らは、バケツにティッシュペーパーを数枚投げ込んで、市販の天然果汁をじゃー。それを野外に放置する。イースト菌は天からのもらいもの(自然飛散)。リンゴ・ブドウ・オレンジの三種類の果汁トラップを互いに一メートルほど離して、三島市の街中と郊外に置く。街中はキイロショウジョウバエが多く郊外はオナジショウジョウバエが多かったところである。結果は表2・2の通り。」

(摘記5b)第26頁「表2.2」




(摘記5c)第46頁「3 バナナが好き」の欄
「万国共通の採集法として、バナナトラップを使用することは述べた。しかし、採集法はこれに限らないことも果汁トラップという方法で述べた。・・・
急いで採集したいときは、皮をむいたバナナをビニール袋に入れ、・・・バナナベイトができ上がる。それを適当な容器にしぼり出すとでき上がり。・・・
台湾中央研究院の林飛桟氏の採集方法は、短時間ですばらしい偉力があった。バナナトラップを木かげに置いて、生暖いビール瓶をよく振ってから栓を抜く。ビールは指のすき間から勢いよく吹き出し、霧状にバナナトラップの四方数メートルの草むらに降りそそぐ。待つこと一時間。ビールとバナナに誘われてどこからともなくショウジョウバエがやってくる。・・・
中国昆明動物研究所の甘運興氏のトラップは、バナナを使わない。糖蜜と焼酎と酢がブレンドされた、どろどろの液体であった。「詳細な成分は?」と聞くと企業秘密だといって笑ったが、適当量でいいみたい。酢の強烈な匂いは、ショウジョウバエにとって、たまらない誘引物のようだ。・・・」

(2-6)刊行物1
(摘記6a)目次
「特集 大発明・珍発明500集
・・・
身近な発明300 ・・・ 37
珍発明150 ・・・ 63」
(摘記6b)第42頁「ハエ取りビン」





(2-7)刊行物2
(摘記7a)タイトル
「^(13)C-NMR法による黒酢の分析」

(摘記7b)第600頁右欄
「本研究では、黒酢に注目した。黒酢は、江戸時代より鹿児島県福山町で製造されてきた米酢であり、この地方でしか製造されない。・・・そこで、上述した^(13)C-NMR法の特性を利用して黒酢中の主要成分を明らかにすることを試みた。」

(摘記7c)第601頁右欄「結果および考察」の欄
「1.黒酢の^(13)C-NMR
黒酢は他の食酢に比べ大変特徴的なスペクトルを与えた(Fig.1)。・・・香気成分として報告されているアセトインは多量に含まれており、主要成分であることが判明した。・・・
市販の数社の黒酢の^(13)C-NMRスペクトルを比較することにより、同じ黒酢として販売されていても、その構成成分に大きな違いがあることが判明した(Fig.2)。・・・アセトインや、エタノールの量にも差がみられる。アセトインが多い黒酢は乳酸も多く、エタノールが多い黒酢には乳酸が含まれていない。
アセトインやそれから生成するジアセチルは、酵母によるアルコール発酵中に副成する乳酸からピルビン酸、アセト乳酸を経て生成すると推定されているが^(10))、これらは日本人の嗜好には適さないといわれる。そこで食酢の場合これらの生成量を抑えるために、酵母によるアルコール発酵をさせず、アルコールを抽出液に加え酢酸発酵させる製法がある^(10))。これらのことから、アセトインの多い黒酢は、酵母によるアルコール発酵が行われたもの、エタノールが多いものは、アルコールを後から加えたものであると予想され、アセトインやエタノールの含量の差は製造法の違いを表していると考えられる。
伝統的製法で黒酢を製造している同一メーカーのlotの異なる黒酢の^(13)C-NMRスペクトルを比較したところ、2,3-ブタンジオールのDL体とmeso-体の比をはじめほとんど同じであり、同一の方法で作られていることが推測され、本分析法の品質管理への応用が期待される。」

(2-8)刊行物3
(摘記8a)タイトル
「ハエの防除法」

(摘記8b)第221頁左欄?右欄
「2.装置の種類と防除方法
(1)トラップ方式
1)誘引液によるもの
毒餌法(ベイト法)に準ずる。簡易で誰にでもできる方法といってよい。
容器にペットボトルを用いるのが一般的で、経費の節減に役立っている。容器の中には誘引液(剤)をいれることが原則となるが、この誘引液にはさまざまあり、なかには輸入されているものもある。効果はまちまちで、ほとんど認められないものもある。
ハエ発生期間中、連続して常時使用しなければならない農家や、一般住民も気安く利用できることを考慮した場合、誘引液の価格の低廉であることが、利用の決めてになるといってよい。
その低廉化を目的として、表1の誘引液の比較実験例がある。いずれも殺虫剤1%混入の誘引液は、図1のペットボトルにいれる。結果の一部は図2,3のとおりである。
市販誘引液は、誘引の持続性が特徴のようである。また、赤ワインは、誘引することはできるが、市販誘引液およびリンゴジュースに比べてあきらかに劣ることがわかっている。
一方、リンゴジュースは、設置して2日ほどは誘引しないが、その後は市販誘引液よりはるかに強い誘引を示し、効果を一ヵ月以上も持続させることが可能である。リンゴジュースが3日目頃から誘引効果が発現されるのは、常温にさらされて液中の微生物により分解される過程で、一部が臭気となり、これに誘引されるものと推察している。
価格は表1にあるとおり、容器1本に投入する誘引液400mlの1カ月当たりで比較したとき、リンゴジュースは市販誘引液の1/9の費用で済み、効果も合わせ評価したとききわめて低廉である。
畜舎内およびその周辺のハエを退治し、絶対数を減らすことはいうまでもないが、このリンゴジュースによる誘引は、入手が容易でかつ安価なため、ハエの飛来に困っている住民でも利用できる方法である。」

(摘記8c)第221頁上欄
「 表1 供試液の性状および価格



(摘記8d)第221頁右欄
「図2




(摘記8e)第222頁上欄
「図3




(2-9)刊行物4
(摘記9a)第63頁?第65頁
「1 種類について
・・・
どのような食品にどんなハエがたかるのかを総括的にしらべた研究は、あまりみられないようであるが、鳥取大学医学部の村江通之氏が、米子地方の食品加工場並びに小売店で、七月から十二月にわたって捕獲したハエを分類しているので、結果の一部を表1に示した。
ハエは一三種を数え、数量的にはイエバエ、ミドリキンバエが大部分を占めていて、ニクバエ類がこれについでいる。クロバエ類も食品によくたかるハエであるが、ここではあまり捕獲されていない。この理由は、さきに述べたように、調査期間が七月から十二月なので、一般にクロバエが多い季節(次節、「その一生」に詳述する。)からずれているため、少ない結果が出たのであろう。
このように、季節によって差異があらわれるほか、捕獲の方法、つまり、ハエとりリボンを使ったか、どのような誘引物を入れたハエとり器(たとえば、酒粕か、魚のあらか)を使ったかによっても、また、調査の場所が都市か農・漁村か、寒い地方か暖かい地方か、平地か高い所かによっても捕獲されるハエは異なってくる。
・・・」

(摘記9b)第91頁?第94頁
「5 どのようにして餌をとるか
・・・
ところで、ハエの摂餌が、嗅覚と味覚によることは、餌になる物質がその嗅覚を刺戟し、また味覚を刺戟したのであるが、嗅覚を刺戟した因子と味覚を刺戟した因子とが同一物とは考えにくい。そのような場合もあろうが、同じものではないと考えた方が妥当であろう。前者は揮発性の高いにおいでなければならないが、後者はその必要がない。また、前者はかなり多種類であることが望ましいが、後者は限られているはずである。そこで、ハエの餌になるものは、彼らの嗅覚を刺戟する物質と、味覚を刺戟する物質とがいっしょになっているのであろう。ハエの方でも、本能、さらには経験によって、これこれのにおいがすると、そこにはごちそうがあると知っているものと思われる。しかし、実際の現象を説明することはむずかしい。
たとえば、ショウジョウバエが醗酵または腐敗した果実に集まり、これを食べるという事実がある。このことは、果実はショウジョウバエを誘引した、果実はショウジョウバエに食べられたという二つの現象からなり立っているが、果実という言葉の意味する内容は、複雑である。腐った果実にできたアルコール臭やエステル臭に誘引され、果実にできた糖類(もちろん、糖だけでなく、生長促進物質などいろいろのものを食べているのであるが、一応糖だけとした)を食べたと考えれば、簡単であるが、腐った果実にできた酵母から発散しているエステル臭に誘引され、酵母にある糖類を食べたとも考えられる。糖類がハエの味覚をもっともよく刺戟することはさきに述べたが、糖自体は無臭なので、嗅覚を刺戟するものではない。しかし天然物の場合、糖類が固体として物質中に存在しているのではなく、溶液として存在しているのであるから、かなり誘引物質となっていると考えてよい。まして、腐った果実では、醗酵した糖類が自分のにおいでハエを誘引し、かつ、食べられていると考えることができる。
このように、いろいろな考え方があって、ハエにたかられる物質とハエの感覚との関係は、なかなか複雑である。・・・」

(摘記9c)第94頁?第98頁
「6 好むにおい
嗅感覚の発達しているこん虫は、ある物質のもっているにおいによって異性を求め、餌をとっている。しかも、これらの物質は、こん虫の種類によって、それぞれ特異なものである場合が多い。そこで、このような物質を明らかにすることは、害虫の場合では、「たかる機構」がわかったことから、逆に「たからないようにする対策」を講じることができ、さらに、この誘引物質(天然物からの抽出、あるいは化学合成物)を使って、こん虫を誘殺することができ、益虫、たとえばカイコであれば、桑の葉の代用品を作るなどして、この虫をますます利用することが可能となるのである。
・・・
食品にたかるハエ類についても、これを誘殺する試みは古くから行なわれ、今日に至るまで多数の研究がある。一九一〇年代に、イエバエを捕殺するには、ハエとり器にどのような誘引物質を使ったらよいかを、リチャードソン氏らがしらべていて、酢やアルコールに砂糖を加えると効果的なことがわかった。・・・
さて、このように多数の研究が行なわれたものの、ハエが誘引される物質はなにかと言われても、強力なものはみ出されていない。これも誘引力があるこれもある、という程度にすぎない。さきに述べたカイコのように決まった餌をとるこん虫や性に誘引されるものは、決め手になる誘引物質が存在するはずであり、事実、研究の結果、これが確認されつつあるが、ハエのように、雑多なものを餌としているこん虫では、誘引の決め手となる物質の存在は疑わしい。
ハエは野菜屑、糞、果物、動物死体、草木の花など多くのものに集まっているが、これらに共通して含まれているなんらかの有香物質があって、これがハエを誘引しているとは考え難く、これらの餌がもっているそれぞれのにおいが、ハエを誘引しているとみるべきであろう。
ハエの誘引物質と言えるほど強力な作用を示す物質は、存在しないようであるが、ともかくハエを誘引する物は、かなり多数ある。一般に、アルコール類(エチル、メチル、アミル、プロピールアルコールなど)、アルデヒドおよびケトン類(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトンなど)、揮発性脂肪酸(酢酸、酪酸、バレリアン酸など)、エステル類(酢酸エステル、酪酸エステルなど)、硫黄化合物(ピリジン、メルカプタンなど)、窒素化合物(インドール、スカトールなど)、有機酸アンモニウム塩(酢酸アンモン、バレリアン酸アンモンなど)が知られている。
さきに述べたハエの餌は、これらの物質のどれかを含んでいて、ハエはこれらの物質が発散するにおいに誘引されて集まっているとみなしてよいであろう。たとえば、野菜屑、草木の花、果物は、アルコール、エステルのにおいなど、糞はスカトールのにおいなど、堆肥はアンモニウム塩のにおいなど、動物死体はかなり複雑であるが、脂肪酸のにおいなどを有している。もっとも、さきに例示したショウジョウバエの場合のように、誘引の本質は、むずかしいものと思わなければならない。
しかも、こうした有香物質に対するハエの反応は、決して単純なものではない。まず、ハエは種類によって好むにおいを異にしている。表1に示した村江氏の結果にもみられたように、店屋の種類によって、集まってくるハエの種類が異なるのは、店屋がそれぞれ異なるにおいを発散しているからである。
・・・
また、においの強さによっても好みを異にする。つまり、ハエを誘引するにおいであっても、そのにおいがあまり強いと逆に嫌われる場合があって、酢酸、エチルアルコール、アンモニアなどがこの例である。ショウジョウバエは酢酸の〇.五%溶液、エチルアルコールの一〇%溶液をもっとも好み、イエバエは空気中のアンモニア濃度〇.〇一二%をもっとも好み、これらより濃度が高い場合あるいは低い場合には、嫌われるか好かれていない。お酢やお酒がハエに好まれることは、古くから知られていて、ハエとり器にこれらが使われてハエの誘引物となっているのは、これらがちょうどハエに好まれる程度の酢酸やエチルアルコールを含んでいるためである。これは、過ぎたるは及ばざるが如しのたとえで、ほどほどなのが一番好かれることをよく示している。」

(摘記9d)第156頁?第159頁
「4 誘殺ということ
・・・
一般にハエとり器内に置く誘引物質としては、酒粕とか魚のあらを使うのが普通で、これで十分ことが足りていたが、このような物質をそのまま毒餌製品に使うことはできない。とり扱いに便利なもの、長期間放置しておいても変質しないものでなければならない。それは、酒粕エキスとか魚あらエキスとでもいうべきものである。したがって、天然物からエキスを製造するか、これに類似したにおいを化学合成することである。
・・・」

(摘記9e)第176頁?第179頁
「1 つけ物は好まれる
・・・
つけ物は、原料自体がハエに好かれるだけでなく、調味に使う酒粕、みそ、砂糖、こうじ、醤油、ぬかなどもそれぞれハエの種類によって多少の差はあっても好かれるものである。そのため、原料にこれらのものを付着させただけでも、十分たかられる可能性がある(・・・)。しかも、大部分のつけ物は醗酵食品であって、醗酵したものがハエの好物であることは古くから知られた現象である。
つけ物の醗酵にとって、もっとも重要なのは乳酸醗酵で、これは乳酸菌によって糖類が乳酸に変わる。また、アルコール醗酵は、酵母によって、糖類がアルコールと炭酸ガスに変わる。これらの醗酵に際してできる乳酸、アルコール、炭酸ガスは、それぞれハエに好まれると言われている。
いっぽう、つけ物としては歓迎しない醗酵に、酢酸発酵とか酪酸醗酵がある。前者は、アルコールがアルデヒドになり、さらに酢酸に変わる現象で、後者は、炭水化物、たん白質、乳酸が酪酸菌によって酪酸、炭酸ガスに変わる現象である。これらの場合にできるアルデヒド、酢酸、酪酸もまたハエの好物である。このほか、プロピオン酸もできるが、これも多少ハエに好まれると言われている。さらに、乳酸やアルコールからできるエステルは、特有の香気をもっていて、ハエの好物である。
このように、どのような醗酵が起ろうとも、ハエの好物を製造しているのと同じで、しかも、醗酵が進んで生成物が複雑になればなるほど、ハエにとっては思う壷と言うことになる。これをみても、発酵食品とハエとは、とうていきれそうにない宿命的な因縁をもち合っている。
・・・」

(2-10)刊行物5(なお、下記摘記中の下線部は、原文が旧かな遣い又は旧字体であるところを改めたもの)
(摘記10a)公報第1頁
「本案器ハ図面実線ノ状態ニ之レヲ机上若クハ床上ニ据置シ器殻ノ内底ニ酒酢其他ノ餌料(0)ヲ収メ置クトキハ蠅ハ器殻ノ底部透孔ヨリ其内部ニ進入スルニ従ヒ其逃口ヲ失ヒ遂ニ悉ク捕獲セラルルニ至ルモノトス」

(摘記10b)公報第2頁
「第1図




(2-11) 刊行物6
(摘記11a)第81頁
「ショウジョウバエは、理科の時間に遺伝の研究のときに話をきくハエです。なんとなく赤くて大きいハエを想像しますが、実は2?3mmの小さな小さなハエで、台所では漬物桶の周囲などにむらがっています。コップにビールを入れたもの、ブドウの食べかすなど、放置しておくと発酵臭をかぎつけて冬でもどこからともなくやってきます。」

(2-12) 乙1
(摘記12a)「図表1-16-1 食酢の種類別生産量の推移(平成2年?14年)




(3)刊1に記載された発明
刊1には、「ハエ取りビン」が、「ビンの中に酢を入れておくと、ハエが中に入って出られなくなる器具」であって、「入るのは自由で、出られないという構造の工夫」がされたものとして紹介されている(摘記6b)。すなわち、そのハエ取りビンとは、ビンの中に酢が入っていることによりハエがビンの中に入り、そのビンの構造により一旦入ったハエは外に出られないことによりハエ取りが可能となるビンであるといえる。
したがって、刊1には、
「ビンの中に酢が入っていることによりハエが中に入る、ハエ取りビン」
に係る発明(以下、「刊1発明」という。)が記載されている。

(4)訂正発明1についての対比・判断
(4-1)対比
訂正発明1と刊1発明とを対比する。
刊1発明において、「ハエが」「ハエ取りビン」の「中に入る」のは、「ビンの中に酢が入っていること」によるものであるので、ビンの中の「酢」は、ハエを誘引するためのものといえる。
一方、訂正発明1における「有効成分」とは、「ハエ誘引剤」の有効成分であるので、ハエを誘引するものである。
してみると、刊1発明におけるビンの中の「酢」は、訂正発明1における「ハエ誘引剤」でありその「有効成分」であるといえる。
また、訂正発明1の「黒酢」が食酢の一種であることは明らかである。
一方、刊1には、刊1発明の「酢」としてどのような酢を用いるか明記されていない。しかしながら、刊1発明は「身近な発明」の項目に掲載されていることから(摘記6a)、その酢は身近にある酢すなわち食酢を指すものと認められる。
してみると、刊1発明における「酢」も、訂正発明1における「黒酢」も、ともに「食酢」であるといえる。

よって、訂正発明1と刊1発明とは、
「食酢を有効成分としたハエ誘引剤」
である点で一致し、次の点で相違している。

(相違点1)「食酢」が、訂正発明1では「黒酢」であるのに対し、刊1発明の「酢」はその種類が明らかでない点

(相違点2)「ハエ誘引剤」が、訂正発明1では黒酢に加え、「果実、果実加工品、及び醸造酒からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用した」ものであることを規定するのに対し、刊1発明には酢以外の成分を併用する点について規定のない点

(4-2)判断
ア 相違点1について
食酢には種々の種類があることが知られており、黒酢は、本件特許出願の優先日前において周知の食酢であって(必要ならば、下記*1を参照されたい。)、酢酸そのものとは異なる、アセトインやジアセチル等を含む臭い(異臭)を有することが知られている食酢である(必要ならば、下記*2を参照されたい。)。
他方、「ハエを誘引する性質」(以後、この性質を、本件訂正明細書で使用している「誘引活性」という語を用い、対象をより明確化する意味で「ハエ誘引活性」という。なお、本件訂正明細書の記載に言及する場合には「誘引活性」ということもある。)を有する物質に関して記載する甲1及び甲2には、アセトインやジアセチルは、特に高いハエ誘引活性を有する物質であることが示されている(甲1:「特にジアセチル・・・が非常に高い誘引性を有することを発見した」との記載(摘記1c)、甲2:「簡潔に述べると、いくつかの化学物質が特に誘引剤として効力があることがわかった。ジアセチル・・・である。アセトイン・・・はジアセチルと同等の誘引性があった」との記載(摘記2d)などを参照されたい。)。

刊1発明のビンの中の「食酢」は、上記(4-1)のとおりハエを誘引するためのものであるから、刊1発明のハエ誘引に用いる「食酢」として、より高いハエ誘引活性であろう「食酢」を選択することが当業者の通常の発想であると認められるところ、甲1、2に接した当業者は、より高いハエ誘引活性があることを期待して、刊1発明のハエ誘引に用いる「食酢」として、本件特許出願の優先日前においてよく知られた食酢であるとともに、その臭いにアセトインやジアセチルを含有する食酢である「黒酢」を選択することは、容易に想到し得たこといえる。

*1 例えば、甲6(「黒酢」である「壺酢」(摘記4b)は「200年来伝えられている」(摘記4a)との記載)、刊2(「黒酢は、江戸時代より・・・製造されてきた米酢」(摘記7b)との記載)、乙1(「食酢の種類別生産量の推移(平成2年?14年)」(摘記12a)の右から3列目の「玄米酢黒酢等」の欄における「平成2年度」から「10」の年度の欄の生産量の記載、甲3(「中国の食酢」は「色については黒褐色」(摘記3b)であることから「黒酢」といえる。)など

*2 例えば、甲6(前記「壺酢」について「酢酸菌によりアセトインやジアセチルなどのカルボニル化合物に代謝される。多量に存在すると酢に重い不快臭が付与される」(摘記4c)との記載)、刊2(「黒酢は、他の食酢に比べて大変特徴的・・・香気成分として報告されているアセトインは大量に含まれ」、「アセトインやそれから生成するジアセチルは、酵母によるアルコール発酵中に副生する乳酸から生成する・・・これらは日本人の嗜好には適さないといわれている」(摘記7c)との記載)、甲3(「色に付いては黒褐色」(摘記3b)であるので黒酢といえる「中国酢」について、「香気成分について」分析した結果(摘記3a、摘記3c)、「日本の米酢のアセトインは・・・ppm、ジアセチルは・・・ppmなので、中国酢の方がはるかに多い値であった。アセトインやジアセチルについては「むれ香」と称する不快臭である」(摘記3b)との記載)など

イ 相違点2について
ハエ誘引活性のある物質として、「果実及び果実加工品」及び「醸造酒」は、いずれも広く知られている。
すなわち、「果実及び果実加工品」については、
例えば、「ハエ誘引活性」を有する物質についての文献である甲1及び甲2(「通常、つぶしたバナナ、メロンまたはその他の果物をトラップ内に置いて、適切な場所に曝す」(摘記1b)、「バナナ」(摘記2a))、甲8(「ショウジョウバエを採集する万国共通法は、バナナトラップである。」、「リンゴ・ブドウ・オレンジの三種類の果汁トラップ」(摘記5a)、「リンゴ、ブドウ、オレンジ果汁を用い・・・採集されたショウジョウバエ(摘記5b)との記載)、「ハエの防除法」と題する文献である刊3(「リンゴジュース・・・果汁100%」(摘記8c)の記載)、「ハエ」と題する書籍である刊4(「果実」(摘記9b)、「果物」(摘記9c)の記載)、刊6(「ショウジョウバエは・・・ブドウの食べかすなど・・・をかぎつけてどこからともなくやってきます」(摘記11a)との記載)等に示されるとおりである。
「醸造酒」については、
醸造酒とは、原料を酵母によりアルコール発酵させて作られた酒であって、ビール、ワイン、日本酒などが含まれるところ、
例えば、甲8(「ビール・・・に誘われて・・・ショウジョウバエがやってくる」(摘記5c)との記載、刊3(「赤ワインは、誘引することはできる」(摘記8b))、刊6(「ショウジョウバエは・・・コップにビールを入れたもの・・・をかぎつけてどこからともなくやってきます」(摘記11a))、刊4(「お酒」(摘記9c)の記載)、刊5(「酒」(摘記10a)の記載)等に示されるとおりである(なお、上記「酒」あるいは「お酒」は日本酒を意味すると認められる。)。

また、刊1発明には、酢以外の成分を併用する点が規定されていないが、より高いハエ誘引活性を期待して、ハエ誘引活性のある物質を併用することも、当業者において慣用のことである(必要ならば、下記*3を参照されたい。)。

してみると、上記アのとおり、刊1発明のハエ誘引に用いる「ハエ誘引剤」として、より高いハエ誘引活性であろう物質を選択することが当業者の通常の発想であると認められるところ、刊1発明において、より高いハエ誘引活性を期待して、ハエ誘引活性のある物質として知られた「果実、果実加工品、及び醸造酒からなる群から選ばれる少なくとも1種」を食酢と併用することに、格別の困難性はない。

*3 例えば、「ハエ誘引活性」を有する物質についての甲1及び甲2(「より可能性の高い化合物および混合物を・・・テストした」、「単体化合物よりも混合物の方が効果的である」(摘記1a)、表III「誘引性化学物質の混合物によるテスト」における「インドール(indol)+アセトアルデヒド+アセチルメチルカルビノール」(摘記2e)、の記載)、甲8「ビールとバナナに誘われて・・・ショウジョウバエがやってくる」(摘記5c)、「糖蜜と焼酎と酢がブレンドされた、どろどろの液体」(摘記5c)の記載)など
(さらに必要あれば、特開昭51-139621号公報(「酒の醸造課程における発酵原液又はこの抽出成分を主成分とし、これに果樹に適した果汁あるいは芳香製品を転化して成ることを特徴とする果汁吸収性及び訪花性害虫の誘殺液」(特許請求の範囲)で「ハエ」が捕獲された例(実施例)が示される)等も参照されたい。)

(4-3)効果について
ア 黒酢の効果について
上記(4-2)アにも指摘したとおり、刊1には「(食)酢」のハエ誘引活性が示されているところ、黒酢は「食酢」の一種にほかならず、しかも黒酢はその異臭の成分であるアセトインやジアセチルにもハエ誘引活性があることも知られていることであるから、食酢によるハエ誘引活性に加えてその臭いに含まれるアセトインやジアセチルによるハエ誘引活性により、食酢のなかでも黒酢が優れたハエ誘引活性を示すであろうことは、当業者であれば予測可能な範囲内にある。

イ 併用物の効果について
上記(4-2)イにも指摘したとおり、「果実及び果実加工品」及び「醸造酒」にはハエ誘引活性があり、さらに、ハエ誘引活性のある物質を併用するとより高いハエ誘引活性が期待できることは当業者において周知のことであるから、ハエ誘引活性のある物質の併用物がハエ誘引活性を有するであろうことは当業者が予測可能な範囲内のことである。

ウ まとめ
よって、訂正発明1のハエ誘引活性は予測可能な範囲内のものであり、格別であるとはいえない。

(5)訂正発明1についての被請求人の主張について
(5-1)「黒酢の顕著なハエ誘引性」を主張する点について
被請求人は、答弁書、上申書、口頭審理陳述要領書、口頭審理及び意見書第20頁(iii)等において、「黒酢の顕著なハエ誘引性」を主張するが、以下に示すとおり、格別な効果であるということはできない。

ア 本件訂正明細書の記載に基づく格別な効果の主張について
被請求人は、訂正発明1が有する顕著な効果として、「米酢及び穀物酢に対する黒酢の顕著なハエ誘引性」を主張する(例えば、答弁書第4頁(2-2-2)、意見書第20頁(iii)等)。
そこで、誘引活性において、米酢及び穀物酢よりも黒酢が顕著に優れていることの根拠が本件訂正明細書にあるかどうか、以下検討する。

本件訂正明細書には、米酢及び穀物酢よりも黒酢が誘引活性に優れるという直接的な文言の記載はなされていない。また、米酢及び穀物酢と黒酢とを直接対比した試験例の記載もない。
被請求人は、本件訂正明細書の第3表に示される参考実施例3を黒酢のハエ誘引活性、第4表に示される参考実施例4を米酢のハエ誘引活性、参考実施例5を穀物酢のハエ誘引活性として、それぞれトリコセン比7.6倍、5.5倍、4.5倍(経過時間60分)であることから、米酢及び穀物酢よりも黒酢の誘引活性が優れている点を主張する。
しかしながら、本件訂正明細書には、これら参考実施例の評価として、「参考実施例1及び参考実施例3は、トリコセンよりも誘引活性に優れて」いること(段落【0018】)、「参考実施例4,5は参考実施例3と同様にトリコセンよりも優れた誘引活性を示した」こと(段落【0020】)、そしてその総括として、「以上の結果から、アセトインと黒酢からなる参考実施例3が、ハエの誘引活性が特に顕著であり、相乗的なものであった」(段落【0020】)ことが文言で示されるのみである。
そして、これらの例は、本件訂正明細書においては、酢とアセトインとの混合物を誘引剤とした際に、いずれの酢との混合物であってもトリコセンより優れた誘引活性を有していたこと、及び、黒酢をアセトインとの混合物とした際に相乗的な誘引活性を有していたことが、実験及び考察されているものにすぎない。つまり、第3表及び第4表に示される結果は、黒酢、米酢、穀物酢のそれぞれ単独での誘引活性についての試験ではなく、また黒酢、米酢、穀物酢のそれぞれ単独での誘引活性の優劣について着目したものとしての記載も考察もなされていない。
よって、当該被請求人の、各酢単独のハエ誘引活性の優劣に関する主張には根拠がない。

なお、そもそも、異なる実験条件である第3表と第4表との試験結果を対比することが適切であるとも考えられない。なぜなら、第3表は参考実施例1(アセトイン)、参考実施例3(アセトイン+黒酢)、トリコセンの三者で試験した場合にこの3つの誘引箇所にてどのようにハエが捕獲されるか、という試験であり、また、第4表も同様に、参考実施例4(アセトイン+米酢)、参考実施例5(アセトイン+穀物酢)、トリコセンの三者でのハエ誘引頭数を比較する試験である。各実験は、それぞれ、同一閉鎖空間内での誘引物質間でのハエ捕獲頭数について対比するためのものである。別の閉鎖空間内における別個の誘引物質間(第3表での試験例の一つと、第4表での試験例の一つ)のハエ捕獲頭数について比較検討するためのものではないからである。
仮に、第3表と第4表との結果を同列に扱うことができたとしても、第3表及び第4表の結果より、黒酢、米酢、穀物酢の三者の単独の誘引活性の優劣について類推することは困難である。それは以下の理由による。
参考実施例1と参考実施例4との誘引頭数の違いに着目してみると、参考実施例4(米酢5%アセトイン95%)は、参考実施例1(アセトイン95%)とほとんど変わらない誘引頭数であるため、アセトインに対する米酢添加の影響は不明であり、また米酢自体の誘引活性の程度も類推できず不明である。また参考実施例1と参考実施例5との誘引頭数の違いに着目してみると、参考実施例5(穀物酢5%アセトイン95%)は、参考実施例1(アセトイン95%)よりも若干低い誘引頭数となっているため、参考実施例5からは穀物酢添加の影響はむしろアセトインの誘引活性を若干阻害する方向に働くようにも解釈され得る一方、穀物酢自体の単独の誘引活性の程度も類推できず不明である。してみると、本件訂正明細書の第3表及び第4表の記載を見ても、参考実施例4及び参考実施例5のそれぞれから、米酢及び穀物酢のそれぞれの誘引活性の優劣について類推できるとはいえない。また、参考実施例1と参考実施例3との誘引頭数の違いに着目してみると、確かに参考実施例3(黒酢5%アセトイン95%)のほうが、参考実施例1(アセトイン95%)よりも誘引頭数は多いが、参考実施例3は混合物であり、本混合物の場合、本件訂正明細書では相乗的だと評価されており、相乗的と相和的とは異なるから、混合物の誘引頭数から、各構成成分単独すなわち黒酢単独の誘引活性の程度を評価することも困難である。このような前提に基づくと、第3表及び第4表に示される、混合物の誘引頭数の結果から、各混合物を構成する個別の成分すなわち黒酢、米酢及び穀物酢のそれぞれ個別の誘引活性の優劣について論ずることはできない。
トリコセン比で標準化することにより、第3表の結果の一つと第4表の結果の一つとを比較ができるようにも一見思える。しかし、生物対象の実験は一般的にその捕獲数にばらつきが出るものであることは口頭審理において両当事者も主張したとおりであり、また、甲1(摘記1e、「反復テスト」の結果に「かなりの多様性」)に示されるように周知の事項でもある。また本実験でのトリコセンの捕獲頭数はわずか2頭あるいは3頭であるため、対照側であるトリコセン側の捕獲頭数の1頭の差によって、試験側のトリコセン比値は顕著に異なるものとなる。そうすると、ただ1回の試験の結果である第3表及び第4表の結果を、わずかな誘引頭数しかないトリコセンに対する比の値で比較することで、参考実施例3、参考実施例4及び参考実施例5の結果から誘引活性の優劣を一般的なものとして論じることが、適切であるともいえない。

イ 実験成績証明書に基づく格別な効果の主張について
被請求人が提示した実験成績証明書である乙6には、試験1として、黒酢と米酢を対比した場合に黒酢のほうが誘引活性が高いことが、また、試験2として、黒酢と穀物酢を対比した場合にも黒酢のほうが誘引活性が高いことが示される。
しかしながら、上記アに示したように、本件訂正明細書には、黒酢、米酢及び穀物酢の単独の誘引活性の優劣について記載も示唆もない。よって、本件訂正明細書の開示の範囲を超えた乙6の試験結果を根拠とした主張は採用することはできない。

(5-2)提示文献からは黒酢が示唆されないとする点について
被請求人は意見書第18頁末行から第20頁第1行にかけて、主張の(ii)として、「提示」した「文献からは、果実、果実加工品、及び醸造酒に、ハエ誘引成分として黒酢ではなく、むしろ米酢、穀物酢等を組合わせようとすることを示唆する記載がされているものと思料」するとして、まず、以下2点の事項を指摘し、また主張する。
(指摘主張事項1a) 「前述」したように「甲1」には「1%ジアセチル及び1%アセタールに0.1%アセトアルデヒドを組合わせると、2成分の組み合わせ(審決注:1%ジアセチル及び1%アセタール)よりもハエ誘引効果が大幅に減少してしまうことが開示」されている点の指摘に引き続く、「甲3のTable3に記載のように、中国酢には、アセトインだけでなく、その他のハエ誘引効果が不明な成分も多数含んでおり」「また、上述」したような「ハエ誘引効果を減少させてしまうことが甲1に記載されているアセトアルデヒドも白米醋(ホワイトビネガーに相当します)より多く含んでい」る点の指摘

(指摘主張事項1b) 「第8号証」の「酢の強烈な匂い」とは、「酢の刺激臭」であるとの解釈を示し、そしてその「酢の刺激臭」とは「酢酸の刺激臭」であるとの解釈を示し、さらに「酢酸の刺激臭」に「ハエ」は「誘引」されるものであるとの解釈を示したうえで、甲3,甲4より「中国酢」は「刺激臭が少ない」ものであること、「黒酢は酢酸の強い刺激臭が抑制されて」いることから、「刺激臭の少ない黒酢ではなく、刺激臭のより強い一般的な米酢及び穀物酢を選択しようとするもの」であるとの主張

以下、この指摘主張事項1a及び1bについて検討する。

ア 指摘主張事項1aについての検討
まず、主張の前提となる甲1の記載について検討する。
意見書の「前述」の「甲1」に「開示」された事項とは、意見書第7頁?第8頁における甲1の翻訳文の表4「変性Muscaエサの誘引性レーティング」における誘引剤のテスト結果である。この甲1表4の誘引剤の2つの試験結果を対比して被請求人は「ハエ誘引効果を減少させてしまうことが甲1に記載されているアセトアルデヒド」としている。

しかしながら、そもそも、甲1において、アセトアルデヒドは誘引活性のある成分として示されているものであり(摘記1c、1d)、甲1の表4に関する記述を検討しても、被請求人が主張するような「アセトアルデヒド」が「ハエ誘引効果を減少させてしまう」との具体的認識は示されていない。
確かに甲1表4では、Muscaエサにさらに「1%ジアセチル及び1%アセタールに0.1%アセトアルデヒドを組合わせ」た例はD.melanogasterを平均140頭、D.virilisを平均36頭誘引したのに対して、Muscaエサにさらに「2成分の組み合わせ」すなわち1%ジアセチル及び1%アセタールを加えた例はD.melanogasterを平均217頭、D.virilisを平均56頭誘引しており、この2例だけを見れば、2成分添加例に対して「0.1%アセトアルデヒド」をさらに加えた3成分添加例では誘引頭数が減っている。しかしながら、「3成分」の添加も、「2成分」の添加も、基本となるMuscaエサそれ自体の誘引頭数(D.melanogasterが平均98頭、D.virilisが平均27頭、誘引されている)に対してはプラスの数値が得られたものである。また、Muscaエサに「1%アセタール」のみを添加した例(D..melanogasterを平均240頭、D.virilisを平均77頭誘引)と、Muscaエサに「1%アセタールに0.1%アセトアルデヒド」を添加した例(D.melanogasterを平均253頭、D.virilisを平均83頭誘引)とを対比すると、「0.1%アセトアルデヒド」をさらに添加したことで、表4に示されるなかでは最大の誘引頭数が得られている。してみると、甲1の表4には、被請求人が主張するような「アセトアルデヒド」が「ハエ誘引効果を減少させてしまう」と一般化できる事項は示されていない。しかも、甲1には、表4等の結果より「Muscaエサと1%アセタール及び0.1%アセトアルデヒドの組み合わせを最初のフィールドテスト用に選択した」と示されるように(翻訳文第9頁本文最終文)、アセトアルデヒドを含有する誘引剤を選択し、その次のテストに使用したことが記載されている。
以上のとおりであるから、甲1の表4における個別のテスト結果の部分的な対比においては、被請求人の指摘するような誘引頭数の相違はあっても、甲1には、全体としては、アセトアルデヒドを含有する誘引剤は、ハエ誘引活性を有するとの認識が開示されているものといえる。

してみると、被請求人が主張するように、「甲3」の「中国酢」が「アセトアルデヒド」を「白米醋」より「多く含んでい」るからといって、そのことから直ちに、「中国酢」は「アセトアルデヒド」を含んでいるから「ハエ誘引効果」が減じられてしまうものであると当業者であれば認識するはずの事項であって、「中国酢」を選ぼうとはしない、ということはできない。

また、酢にハエ誘引活性のあることは、刊1発明のとおり周知の事項である。そして、これは、酢の多様な成分の全てにハエ誘引活性があるから酢にハエ誘引活性がある、という前提での周知事項ではなく、酢というものにはハエ誘引活性があるものだ、という周知事項である。
よって、「中国酢」に「ハエ誘引効果が不明な成分」が「多数含」まれているからといって、「酢」の一種である中国酢や黒酢のハエ誘引活性は不明であるとまでいえず、酢の一種である中国酢や黒酢もハエ誘引効果はあると考えることが当業者にとって自然であるというべきである。
したがって、被請求人の指摘主張事項1aは当を得ないものであり、採用することがでいない。

イ 指摘主張事項1bについての検討
被請求人が意見書第19頁に指摘するように、甲8には、その第47頁11行?12行に、「酢の強烈な匂いは、ショウジョウバエにとってたまらない誘引物のようだ」と記載されている。甲8の該文章を含む段落全体は、摘記5cの後半部分に示したとおりであり、該箇所を再掲すれば以下のとおりである。
「中国昆明動物研究所の甘運興氏のトラップは、バナナを使わない。糖蜜と焼酎と酢がブレンドされた、どろどろの液体であった。「詳細な成分は?」と聞くと企業秘密だといって笑ったが、適当量でいいみたい。酢の強烈な匂いは、ショウジョウバエにとって、たまらない誘引物のようだ。」

被請求人は、この「酢の強烈な匂い」が「ショウジョウバエにとって」「誘引物のようだ」との記載より、「酢酸の刺激臭」に「ハエ」が「誘引される」ので、ハエの誘引に用いる「酢」として「刺激臭の少ない黒酢ではなく、刺激臭のより強い一般的な米酢及び穀物酢を選択しようとする」と結論付ける。

すなわち、被請求人は、酢に含有される酢酸の刺激臭すなわち酢酸臭にハエが誘引されることは周知であるので、ハエ誘引に用いる酢として、当業者であれば酢酸臭の強い米酢及び穀物酢を選択しようとするものであり、酢酸臭の少ない中国酢及び黒酢を選択しようとはしない点を主張している。

該主張について検討する。

甲8には「酢の強烈な匂い」とある。通常、酢の酢たるにおいは「酸臭」であり、その「酸」は主として「酢酸」であると考えられるから、甲8の「酢の強烈な匂い」といえば通常「酢酸臭」を指すと考えられる。してみると、甲8の該記載より、酢の酢酸臭にハエが誘引されるであろうことは類推し得る。すなわち、被請求人のいうとおり、酢酸の刺激臭にハエが誘引されるとされる点に異論はない。
しかしながら、甲8に記載された「強烈な匂い」とは、甲8のトラップ用液体に対して、筆者は酢のにおいが際だっていると感じたという意味合いでの主観的な評価にすぎず、酢酸臭が強いものほどハエを誘引するという事項を指摘するものではない。
また、一般に、単一の化学物質は、濃度やにおいが濃いほどハエ誘引活性に優れるものであるともいえない(例えば、甲1摘記1d、刊4摘記9c等)。
よって、甲8の「酢の強烈な匂い」との記載が、酢酸臭が強いほどハエが誘引されることを示しているとも、ハエ誘引剤として酢酸臭のより強い酢を選ぼうとする動機付けが周知であることを示しているともいえないのであるから、被請求人が主張するように、酢酸臭の主観的な強弱をもとに、当業者であれば、黒酢よりも、刺激臭のより強い、一般的な米酢、醸造酢を選択しようとする、ということはできない。

したがって、被請求人の指摘主張事項1bについても当を得ないものであり、採用することはできない。

(5-3)果実、果実加工品、醸造酒併用の点について
ア 答弁書、上申書、口頭陳述要領書及び口頭審理における主張について
黒酢に他の成分を併用する点について、被請求人は、答弁書、上申書、口頭陳述要領書及び口頭審理において、そもそも黒酢をハエ誘引剤として用いる点が各号証には記載がない点を主張するのみである(例えば、答弁書第13頁?第14頁(4-3-3)、3月25日付け上申書第12頁等)。
しかしながら、黒酢をハエ誘引剤の有効成分として用いる点については、すでに上記(4-2)ア及び(4-3)アにおいて検討したとおりであり、当該主張は当審の上記検討結果を左右するものではない。

イ 被請求人の意見書第18頁における主張(i)について
被請求人は、意見書第18頁(i)において、以下の事項を指摘・主張し、「本件特許の請求項1に係る発明の効果、すなわち、黒酢に、果実、果実加工品、及び醸造酒からなる群から選ばれる少なくとも1種を組合わせたことによる、黒酢と果実、果実加工品、及び/又は醸造酒との相乗効果による、顕著なハエ誘引効果は、いかに当業者といえども、ハエ誘引物質の相乗効果について開示のない刊1、刊2、甲6、乙1、甲3、甲2、甲1、甲8及び刊3から6から容易には予想し得るものでは」ないと結論付ける。

(指摘主張事項2a)「本件特許の請求項1に係るハエ誘引効果は、有効成分として、黒酢と、果実、果実加工品、及び醸造酒からなる群から選ばれる少なくとも1種とを併用することを特徴とし、黒酢と、果実、果実加工品、及び/又は醸造酒とが相乗効果を生じさせ、非常に高いハエ誘引効果を示すものである」点

(指摘主張事項2b)「刊1、刊2、甲6、乙1、甲3、甲2、甲1、甲8及び刊3から6に、黒酢と果実、果実加工品及び/又は醸造酒との組み合わせの具体的な開示がないばかりか、複数のハエ誘引物質を組み合わせた場合の相乗効果について一切開示がない」点

(指摘主張事項2c)「乙1には、各種食酢の種類別生産量の数値が記載されているにとどまり、黒酢自体のハエ誘引効果についても、黒酢とその他の成分を組み合わせた場合の相乗効果についても示唆すらされてい」ない点

(指摘主張事項2d)「刊3等に記載のように、ワイン等の醸造酒のハエ誘引効果が単独では非常に低いこと及び醗酵前の果実等がハエ誘引効果をほとんど有さないことは前述の通り」である点

以下、この指摘主張事項2aないし2dについて検討する。

(ア)指摘主張事項2aについての検討
指摘主張事項2aについて、本件訂正明細書の記載を検討する。
本件訂正明細書の実施例6?17には「果実加工品添加の相乗効果を確認するため」の実験手法及びその結果として第5表に捕獲頭数が示され、結論として「併用の効果が認められた」との記載がある。
また同実施例18?19には、「醸造酒(紹興酒、ワイン)添加の相乗効果を確認するため」の実験手法及びその結果として第6表に捕獲頭数が示される。
これらの実施例はいずれも黒酢単体を対照例とし、黒酢及び添加物の総量をほぼ同一体積(30ml)として行われ、結果は、黒酢単体の捕獲数を1として標準化して示されている。

確かに、本件訂正明細書の第5表及び第6表を参照すると、添加物のある実施例6?19の捕獲頭数は、対照例である黒酢単体よりも多くなっている。しかし、酢、果実、果実加工品及び醸造酒は、いずれもハエ誘引活性のある物質として知られており、ハエ誘引活性物質を併用することで、ハエ誘引活性が優れたものとなるであろうことは通常期待される事項であるから、実施例6?19のハエ捕獲頭数が、対照例である黒酢単体の捕獲頭数よりも多いという結果は、当業者の予測可能な範囲内にある。

また、被請求人は「相乗効果」の点を主張するが、実施例6?19で添加された果実加工品又は醸造酒それぞれ単体の誘引活性について同時に試験されていないため、実施例6?19のハエ誘引剤の効果が、各誘引剤の構成成分、すなわち黒酢及び添加併用成分それぞれ単体の誘引活性ないし誘引活性の相加程度の効果であるのか、それらをはるかに超えた、相乗の効果であるのか不明であって、「相乗効果」であると認識することができない。
したがって、指摘主張事項2aは当を得ないものである。

(イ)指摘主張事項2bについての検討
ハエ誘引活性のある複数の物質を組み合わせたものを、ハエ誘引活性があるものとしてハエ誘引に用いる点は、従前よりなされている事項であり、それは上記(4-2)イで指摘したとおり、甲1、甲2、甲8、刊8等においても示されている。
しかし、本件訂正明明細書の実施例及び参考実施例の誘引頭数結果を参照しても、上記(ア)に指摘したように、そもそも本件訂正発明1の効果が予測を超えた「格別」で「相乗」的なものであるとはいえない。
よって、各刊行物に、特定成分の組み合わせの奏する「格別」の「相乗」効果について記載がないからといって、本件訂正発明1の効果は刊行物から予測可能な範囲内にないとはいえない。
したがって、指摘主張事項2bも当を得ないものである。

(ウ)指摘主張事項2cについての検討
乙1についての記載事項は、被請求人の主張するとおりである。しかしながら、乙1はそもそも無効理由Aにおいて、黒酢が、本件特許出願の優先日前において酢として周知のものであるとする点を裏付ける文献であって、「黒酢のハエ誘引効果」や「黒酢とその他の成分を組み合わせた場合の相乗効果」を裏付ける文献として提示したものではない。
よって被請求人の指摘は当を得たものではない。

(エ)指摘主張事項2dについて
指摘主張事項2dの「前述」とは、意見書第3頁?4頁のことと考えられるところ、該箇所には、果実、果実加工品に関しては、以下の指摘及び主張がなされている。

「発酵、腐敗前の果実等は、ほとんどハエ誘引効果を示しません。このことは、例えば、刊行物3に記載されております」とすることを前提に、「訂正明細書第5表に明確に示されているように、黒酢と、単体ではハエ誘引効果をほとんど有さない果実等とを組合わせることによって、黒酢単体と比較して2倍以上ものハエ誘引効果が生じています」との主張がなされている。加えて、「第5表の検体には、イースト菌等の果実の発酵を促進するような物質を添加しておらず、かつ試験開始から2時間しか経過していないことから、果実等の発酵、腐敗が生じていないことは明らかである」とする。さらに、「粉末」「果汁」について、「乾燥によりさらに腐敗しにくくなるだけでなく、乾燥工程により香気成分が揮発してしまっているため、ハエ誘引効果は果汁よりさらに低くなることは明らか」であるとしたうえで、「かかる状況にもかかわらず、いずれの実施例も、黒酢と比較して、非常に高いハエ誘引効果を示したことから、上記果実等と黒酢とが相乗的なハエ誘引効果をもたらしたことは明らか」と主張する。

また、同じく意見書第3頁?4頁において、醸造酒に関しては、以下の指摘及び主張がなされている。

「刊行物3の記載から、上記果汁よりも赤ワイン等の醸造酒のハエ誘引作用が非常に引くと認識されていたことは明らか」であるとし、「ワイン等の醸造酒は、単体では、ハエ誘引効果が非常に低いことが知られている」ので「黒酢と当該醸造酒とを組み合わせることによる上記ハエ誘引効果は、黒酢と醸造酒との相乗効果によりもたらされているものと考え」る点を主張する。

(エ-1)刊3に関して
被請求人は、「刊行物3」に関して、意見書第3頁に、「その221頁、左欄、下から8行目?最終行に、『リンゴジュースは、設置して2日ほどは誘引しない』こと及び『リンゴジュースが3日目頃から誘引効果が発現されるのは、常温にさらされて液中の微生物により分解される過程で、一部が臭気となり、これに誘引される』ことが記載されて」いることから、「刊行物3には、発酵前の果実等がハエ誘引効果をほとんど有さないことが記載されて」いると結論付けるとともに、意見書第4頁に、「その221頁、左欄、下から11?9行目に、赤ワインのハエ誘引性が、『市販誘引液およびリンゴジュースに比べてあきらかに劣る』ことが記載」されていることから、「刊行物3の記載から、上記果汁よりも赤ワイン等の醸造酒のハエ誘引効果が非常に低いと認識されていたことは明らか」であると結論付ける。

確かに刊3には、被請求人の指摘したような記載がある。そこで、その誘引試験について検討する。
刊3の誘引試験で用いる供試液は表1(摘記8c)にまとめてあり、それは「原体は液体で若干の粘性があり、果実臭がある」「市販誘引液」、「市販品(アルコール14%未満」の「赤ワイン」及び「市販品(果汁100%、濃縮還元)」の「リンゴジュース」、の3種である。誘引試験では「殺虫剤1%混入」した上記3種の供試液を誘引液として、図1のペットボトルに入れた「誘引液」による「トラップ方式」て行い、その「結果の一部は図2,3のとおり」とされる(摘記8b)。その図2及び図3には、「誘引液別捕殺結果(成牛舎前)」として、捕殺頭数(ただし「捕殺数が大量のため大型及び中型1に対して小型のハエは0.1として示」されている)の経日的変化が図示されている(摘記8d、8e)。
このことから、刊3には、その試験が、既存の成牛舎に飛翔している多数のハエが、誘引液を入れたトラップによって誘引され何頭が捕殺されるかを実地で試験したものであること、具体的には、成牛舎前に、供試液に殺虫剤を入れた3種(図2、摘記8d)或いは2種(図3、摘記8e)の誘引液をペットボトルに入れたトラップを設置し、該トラップにて捕殺されたハエの数を、経日変化として追った屋外の試験であること、そしてその3種の供試液としては、果実臭のある市販誘引液、市販赤ワイン及び市販リンゴジュースの三者、2種の供試液は、果実臭のある市販誘引液及び市販リンゴジュースを、それぞれ採用したものであること、が示されているといえる。
そして、その試験結果としては、「市販誘引液は、誘引の持続性が特徴のようである」こと、「赤ワインは、誘引することはできるが、市販誘引液およびリンゴジュースに比べてあきらかに劣ることがわかっている」こと、「リンゴジュースは、設置して2日ほどは誘引しない」こと、「リンゴジュースが3日目頃から誘引効果が発現されるのは、常温にさらされて液中の微生物により分解される過程で、一部が臭気となり、これに誘引されるものと推察している」こと、が示されている(摘記8b)。

これらの事項から、被請求人の主張する「刊行物3には、発酵前の果実等がハエ誘引効果をほとんど有さないことが記載されて」いるといえるか、また、「刊行物3の記載から、上記果汁よりも赤ワイン等の醸造酒のハエ誘引効果が非常に低いと認識されていたことは明らか」であるといえるか、以下検討する。

(エ-1-1) まず、「刊行物3には、発酵前の果実等がハエ誘引効果をほとんど有さないことが記載されて」いるといえるかどうかについて検討する。
確かに、リンゴジュースに関する上に指摘した刊3の記載からは、発酵前あるいは腐敗前のリンゴジュースに誘引効果はないようにみえる。しかしながら、刊3の試験は、周辺環境として、そもそもハエ問題がある畜舎に対しての、リンゴジュースの誘引効果に関する屋外試験である。すなわち、刊3から理解されるのは、対照となる成牛舎は、問題となるほどにハエ誘引効果があるものであり、そのような強力な対照に対して、市販のリンゴジュースそれ自体は新鮮な状態では非力であるが、発酵が進行しあるいは腐敗が進行して誘引効果が増すことで、3日目程度からは成牛舎に対抗し得る程度にハエ捕殺が可能となる、という事項である。
ハエ誘引頭数は誘引効果の強弱に対応する、ということは、誘引比較試験において前提となる事項であり、対照があまりに強力な場合(成牛舎)には、試験物(発酵前あるいは腐敗前のリンゴジュース)への誘引頭数が極めて少ないことは自然に理解されることであり、刊3の該試験から直ちに、発酵前あるいは腐敗前のリンゴジュース単体はハエ誘引効果を有さないと結論付けることはできない。

よって、刊3には、「常温にさらされて液中の微生物により分解される」前の「リンゴジュース」が、成牛舎に対して、「ハエ誘引効果をほとんど有さないこと」は記載されているが、そのことから、「発酵前の果実等が」「ハエ誘引効果をほとんど有さないことが記載されて」いると結論付けることはできない。

ところで、すでに指摘したように、刊3の市販誘引液は、「果実臭がある」ことが記載されているものである。ハエの誘引液とは、一般ににおいによって誘引するものであるから、その市販誘引液は「果実臭」でハエを誘引するものといえる。してみると、刊3には、むしろ、果実等が(発酵前であっても)有する「果実臭」にハエ誘引活性があることを示唆する記載があり、また、「果実臭」は市販誘引液に採用される程度にハエ誘引活性のあるものとして周知の事項であるともいえる。
加えて、刊4にあるように、ハエを誘引するにおいの一つとして「エステル類(酢酸エステル、酪酸エステルなど)」(摘記9c)も知られている。これらエステル類は、熟した果実のにおいに含まれる物質であり、果実が発酵あるいは腐敗することによって初めて発生するものではない。
(発酵前の果実にハエが誘引される点について、さらに必要であれば、行成正昭、「ヤマモモ果実を加害するショウジョウバエの観察例」、日本応用動物昆虫学会誌、第32巻 第2号、pp.146?148、1988年(ショウジョウバエの果実への産卵は果実のにおいに誘引されて行われるものであるが、本論文では、ショウジョウバエが、「外観上全く無傷に見える」すなわち傷んで発酵や腐敗の見られたものではない、「成熟期」に近づいた、「樹上」の「生果」に産卵することが、ヤマモモについては観察例として、その他の果物については私信として知られていることが、それぞれ指摘されている)、合田修三ほか「高床式鶏舎におけるハエ防除技術」、京都府畜産研究所試験研究成績第33号(1983)、pp.117?120(誘引物質としてジューサーミキサーですりつぶした果実類を用いた点、リンゴは日数の経過とともに腐敗し、その腐敗臭「も」好まれた点、オレンジは日数が経過するとともに芳香が薄れそれとともに誘引する力が弱くなる傾向が示された点が示される)、特開昭59-156232号(「バナナ等の食品のにおいに模した芳香剤」をはえ等の補虫装置に用いた点が示される)等を参照されたい)。
したがって、発酵前の果実等であっても、ハエ誘引活性があるものといえる。

なお、本件訂正発明1に係る被請求人の主張は、訂正発明1の「果実、果実加工品」が、あたかも「発酵前」のもののみを意味するものであるかのように受け取れるが、本件訂正明細書の段落【0007】には、果実、果実加工品として、「部分的に発酵させたもの」もその定義のなかに入っており、また、果実、果実加工品は、経時的に発酵等変質しやすいものであることは明らかである。よって、本件訂正発明1の「果実、果実加工品」は、本件訂正明細書からは「発酵前」のものに限られるものではなく、当初から、あるいは経時的に、果実、果実加工品の発酵が始まったものをも含んだものである。よって、被請求人の、発酵前の果実等のハエ誘引活性の有無に基づく主張は、訂正発明1に記載した事項のごく一部にのみ対応したものであり、全体に対応したものであるとはいえない。

(エ-1-2) 次に、「刊行物3の記載から、上記果汁よりも赤ワイン等の醸造酒のハエ誘引効果が非常に低いと認識されていたことは明らか」といえるかどうかについて検討する。

確かに、刊3には、赤ワインは「市販誘引液およびリンゴジュースに比べてあきらかに劣ることがわかっている」と記載されている。しかし、「赤ワインは、誘引することはできる」とも記載されている(摘記8b)。
ここで図2(摘記8d)を見ると、赤ワインは、グラフ開始日である5/18では市販誘引液の8割程度もの捕殺頭数でありこれは当初の捕殺頭数の少ないリンゴジュース区よりもはるかに多い捕殺頭数を示しているから、少なくとも「リンゴジュースに比べてあきらかに劣る」とはいえない。また5/22及び5/26には、市販誘引液区の2倍程度の捕殺頭数を示しているから、「市販誘引液に比べてあきらかに劣る」とはいえない。5/30?6/8は、数百頭レベルの捕殺数は維持しているが、三者中最下位である。
これらのことから、刊3の、「赤ワイン」が「市販誘引液およびリンゴジュースに比べてあきらかに劣る」との記載は、数週間という長期の効果持続性における全体的評価であると理解される。

これに対して、本件訂正明細書は、誘引物質の誘引効果を、実施例の実験開始から最大で2時間程度の誘引捕獲数を基礎として計測している。そして、実験開始当初の誘引効果をみれば、刊3に記載の赤ワインの当初捕殺頭数は、市販誘引液区に迫り、また、リンゴジュース区よりはるかに高い結果が示されているといえる。
してみると、刊3には、赤ワインにハエ誘引活性があることは記載されているといえるが、その全記載を参照しても、被請求人が主張するような「ワイン等の醸造酒は」「単体では、ハエ誘引効果が非常に低いことが知られている」ということはできない。

(エ-2)まとめ
したがって、被請求人の上記指摘主張事項2dは当を得ないものである。

(5-4)果実加工品に関して意見書のその他の箇所における主張について
被請求人は、意見書第3頁?第4頁において、本件訂正発明1の効果の主張の一環として、上記(5-1)?(5-3)に指摘した主張のほかに、本件訂正発明1の具体例である「第5表の検体」が「粉末」の果汁を用いたものである点をもとに「相乗的なハエ誘引効果」を指摘主張するので、以下この点について検討する。

ア 「粉末」「果汁」の「ハエ誘引効果は生の果汁よりさらに低くなることは明らか」とする点について

果実の香気成分にハエ誘引活性があることは、(エ-1-1)に指摘したように、刊3の市販誘引液が「果実臭」を有することや、刊4にハエを誘引するにおいの一つとしてエステル臭が開示されていることからみて、本件特許出願の優先日前に周知の事項である(さらに必要であれば、該箇所に周知例として指摘した論文において、樹上の無傷の成熟生果にショウジョウバエが誘引されて産卵した結果や、私信にて既知の事項として果実にショウジョウバエが誘引産卵する点が開示されている点も参照されたい)。
また果実が発酵することでハエ誘引活性が向上することも、上記(エ-1-1)に指摘したように刊3のリンゴジュースが2日以降に誘引効果が大きく上がることや、その他、発酵した果実にハエが集まるという各文献の記載からみて、本件特許出願の優先日前に周知の事項である。

被請求人の意見書第4頁における「粉末」「果汁」についての主張において、「乾燥によりさらに腐敗しにくくなるだけでなく、乾燥工程により香気成分が揮発してしまっているため、ハエ誘引効果は果汁よりさらに低くなることは明らか」であるとする主張は、果実は発酵によりハエ誘引活性が向上するとする該周知事項、及び、果実の香気成分すなわち果実臭、エステル臭にハエ誘引活性があるとする該周知事項を前提とした主張であると考えられる。

該前提にたてば、製造工程で香気成分の揮発分のある粉末果汁は、香気成分の残存量が(審決注:原料である生の)果汁よりも少ないので、(審決注:原料である生の果汁と比して)ハエ誘引活性に劣ると考えられ、「粉末」「果汁」の「ハエ誘引効果は」、原料である生の「果汁よりさらに低くなる」という被請求人の主張は筋がとおったものと考えられる。

このことは、訂正明細書の第5表において示された実験結果、すなわち、生の果実を加工した物質を添加した実施例6?8が4?78(比率)の捕獲であるのに対し、粉末果汁を添加した実施例9?17が2?11(比率)の捕獲であることから、その誘引効果の優劣の傾向を裏付けるものといえなくもない。
ただし、実施例6?8の果実加工品は、実施例9?17の粉末果汁と、果実そのものが異なるうえに、実施例9?17に使用された粉末果汁がどのようなものであるか、すなわちその製造の詳細、濃縮倍率、商品名等が明らかでなく、自然の果汁をそのまま乾燥したものであるのか、その製造を通じてどの程度香気成分が揮発したものであるか、最終的に製品となる前に香気・香料成分、甘味成分、その他の成分がどの程度添加されたものであるのか、30mlの黒酢に溶かした際に何%の果汁相当濃度となったものであるか等が不明であるため、粉末果汁の生の果汁に対する誘引活性の優劣について、第5表から厳密には類推することはできない。

イ 果実加工品のハエ誘引効果の低さを基礎として相乗効果を主張する点について
被請求人は意見書第4頁において、「かかる状況」すなわち「発酵、腐敗が生じていない」「果実等」あるいは「香気成分が揮発」している「粉末」「果汁」であるにもかかわらず、「いずれの実施例も、黒酢と比較して、非常に高いハエ誘引効果を示したことから、上記果実等と黒酢とが相乗的なハエ誘引効果をもたらしたことは明らか」であると結論付ける。
しかし、上記文章の前半と後半とは論理的につながるものとはいえない。
上記(5-3)(エ-1-1)及び上記アに指摘したように、「発酵、腐敗が生じていない」「果実等」あるいは「香気成分が」部分的に「揮発」している「粉末」「果汁」であってもハエ誘引活性があるであろうことは、刊3等の記載によってもなお周知事項である。
すなわち、発酵、腐敗が生じた果実系及び果実加工品、あるいは香気成分が揮発していない果実及び果実加工品と比して、実施例6?17で添加された果実加工品の誘引活性は劣るかもしれないが、実施例6?17で添加された果実加工品単体にもハエ誘引活性はある、とみるのが通常である。
一方、ハエ誘引活性のあることが周知の酢と、ハエ誘引活性のあることが周知の果実系材料を併用したものに、ハエ誘引活性があるであろうことは、当業者であれば通常予測する事項である。

本件訂正明細書の記載を参照しても、本件訂正明細書の実施例6?17で添加された各果実加工品単体の誘引効果は、本件訂正明細書において明らかにされていない。そのため、本件訂正明細書の実施例6?17の混合物が黒酢単体と比較して2倍?78倍のハエ誘引効果を示したからといって、それが添加された各果実加工品単体の誘引効果と同程度であるのか、黒酢単体の誘引効果及び添加された各果実加工品単体の誘引効果を相和した程度の効果であるのか、両者をはるかに超えた格別な、相乗的な、予測不能な効果であるのかは、本件訂正明細書の記載及び技術常識をもってしても明らかであるとはいえない。
よって、被請求人が主張するような、「上記果実等と黒酢とが相乗的なハエ誘引効果をもたらしたことは明らか」であると結論付けることはできない。

(5-5)醸造酒に関して意見書のその他の箇所における主張について
被請求人は意見書第4頁において、「上記のように、ワイン等の醸造酒は、単体では、ハエ誘引効果が非常に低いことが知られて」いるので「黒酢と当該醸造酒とを組み合わせることによる上記ハエ誘引効果は、黒酢と醸造酒との相乗効果によりもたらされているものと考えられ」ると結論付ける。

しかし、上記(5-3)(エ-1-2)に指摘したように、「赤ワイン」が「単体では、ハエ誘引効果が非常に低いことが知られて」いるとはいえない。よって、赤ワインを含む醸造酒一般が、「単体では、ハエ誘引効果が非常に低いことが知られて」いるとはいえない。
してみると、被請求人の上記結論は誤った前提に立ってなされたものであり、「黒酢と当該醸造酒とを組み合わせることによる上記ハエ誘引効果は、黒酢と醸造酒との相乗効果によりもたらされているものと考えられ」るとの結論を導きだすことはできない。

(5-6)訂正発明1についての被請求人の主張についてのまとめ
以上のとおりであるので、訂正発明1についての被請求人の主張はいずれも採用することができない。

(6)訂正発明1についてのまとめ
以上のとおりであるので、訂正発明1は、刊1、甲1?3、6、8及び刊2?6に記載の発明及び技術常識並びに乙1に記載の技術常識より、当業者であれば容易になし得たものである。

(7)訂正発明2についての対比・判断
(7-1)対比
訂正発明2と刊1発明とを対比する。
訂正発明2は訂正発明1を引用したものであるので、訂正発明1を引用した部分の対比は上記(4-1)において述べたのと同じである。してみると、訂正発明2と刊1発明とは、
「食酢を有効成分としたハエ誘引剤」
である点で一致し、上記(4-1)に示した相違点1に加え、以下の点で相違している。

(相違点2’)「ハエ誘引剤」が、訂正発明2では黒酢に加え、「果実;該果実の加工品」「ならびに」「醸造酒」「からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用した」ものであって、その「果実」として「メロン、イチゴ、バナナ、パイン、ピーチ、パッション、アプリコット、パパイヤ、梨、ガバァ及びハイビスカスからなる群より選択される少なくとも1種」のものを、また、その「醸造酒」として「紹興酒及びワインからなる群より選択される少なくとも1種」のものを、それぞれ規定するのに対し、刊1発明には酢以外の成分を併用することについて規定のない点

(7-2)判断
ア 相違点1について
相違点1について検討するに、その内容は上記(4-2)アにおいて検討したのと同じであり、刊1発明のハエ誘引に用いる「食酢」として「黒酢」を選択することは、当業者であれば容易になし得たものである。

イ 相違点2’について
相違点2’について検討するに、「食酢」に、「果実;該果実の加工品」、「醸造酒」「からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用する」点については、上記(4-2)イにおいて相違点2に関して検討したのと同じであって、ハエ誘引活性のある物質として周知である「果実;該果実の加工品」「ならびに」「醸造酒」「から選ばれる少なくとも1種」を併用することに、格別の困難性はない。
そして具体的な「果実;該果実の加工品」及び「醸造酒」として、訂正発明2に列記されたもののうち、バナナ、メロン及び赤ワインは、上記(4-2)イにも示したとおり、ハエ誘引活性のある物質として既に知られたものである(バナナ:甲2摘記2a、甲1摘記1b、甲8摘記5a、メロン:甲1摘記1b、赤ワイン:刊3摘記8b)。
またこれら三者に限ることなく、「果実;該果実の加工品」、「醸造酒」或いはそれらに通常含まれる成分にハエ誘引活性があることもよく知られた事項であるから(例えば、リンゴ:甲8摘記5a、刊3摘記8c、オレンジ:甲8摘記5a、ブドウ:甲8摘記5a、刊6摘記11a、ビール:甲8摘記5c、日本酒:刊4摘記9c、刊5摘記10a、果実:刊4摘記9b、果物:甲1摘記1b、刊4摘記9c、果実臭:刊3摘記8c、アルコール類、エステル類:刊4摘記9c 等参照)、バナナ、メロン以外の「果実;該果実の加工品」及び赤ワイン以外の「醸造酒」を具体的に規定することは当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内の事項である。
よって、「果実;該果実の加工品」の果実として「メロン、イチゴ、バナナ、パイン、ピーチ、パッション、アプリコット、パパイヤ、梨、ガバァ及びハイビスカスからなる群より選択される少なくとも1種」のものを規定すること、また、「醸造酒」として「紹興酒及びワインからなる群より選択される少なくとも1種」のものを規定することに、格別の困難性はない。

(7-3)効果について
上記(4-2)イにも指摘したとおり、「果実;該果実の加工品」及び「醸造酒」にはハエ誘引活性があり、さらに、ハエ誘引活性のある物質を併用することより高いハエ誘引活性が期待できることは当業者において周知のことであるから、ハエ誘引活性のある物質の併用物がハエ誘引活性を有するであろうことは当業者が予測可能な範囲内のことである。そして、「果実;該果実の加工品」及び「醸造酒」を特定の「群から選ばれる少なくとも1種」とすることが、格別な効果を奏するものともいえない。
よって訂正発明2に規定される併用物のハエ誘引効果は、予測可能な範囲内のものであり、格別であるとはいえない。

(7-4)訂正発明2についてのまとめ
以上のとおりであるので、訂正発明2は、刊1、甲1?3、6、8及び刊2?6に記載の発明及び技術常識並びに乙1に記載の技術常識より、当業者であれば容易になし得たものである。

(8)訂正発明3についての対比・判断
訂正発明3は、訂正発明1又は2のハエ誘引剤を誘引剤としたハエ取り用トラップであることを規定した発明である。

(8-1)対比
訂正発明3と、刊1発明とを対比する。
訂正発明3は、訂正発明1又は2のハエ誘引剤を誘引剤とするものであり、その点に対する対比は上記(4-1)及び(7-1)において述べたのと同じである。しかも訂正発明3の「ハエ取り用トラップ」及び刊1発明の「ハエ取りビン」はいずれもハエ取り用装置であるといえるから、訂正発明3と刊1発明とは、
「食酢を有効成分としたハエ誘引剤を誘引剤としたハエ取り用装置」
である点で一致し、上記(4-1)及び(7-1)に示した相違点1、相違点2又は相違点2’に加え、以下の点で相違している。

(相違点3)「ハエ取り用器具」が、訂正発明3では「ハエ取り用トラップ」であるのに対し、刊1発明は「ハエ取りビン」である点

(8-2)判断
相違点1、相違点2及び相違点2’については、上記(4-2)及び(7-2)で検討したとおりである。
相違点3について検討するに、刊1発明のハエ取りビンは、「ハエが中に入って出られなくなる器具」(摘記6b)であるので、ハエ取り用のトラップであるともいえ、相違点3は実質的な相違であるとはいえない。また、ハエ誘引剤をトラップに仕込んでハエを捕獲することは、甲1(摘記1a、1b)、甲2(摘記2b、2c)、甲8(摘記5a、5c)、刊1(摘記6b)、刊3(摘記8b)、刊4(摘記9a)、刊5(摘記10a、10b)にあるように周知の事項であるから、ハエ取りビンをハエ取り用トラップとすることは、当業者であれば適宜なし得たものであり、その効果も格別でない。

(8-3)訂正発明3についてのまとめ
以上のとおりであるので、訂正発明2は、刊1、甲1?3、6、8及び刊2?6に記載の発明及び技術常識並びに乙1に記載の技術常識より、当業者であれば容易になし得たものである。

(9)無効理由Aについてのまとめ
以上のとおり、訂正発明1?3は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊1、甲1?3、6、8及び刊2?6に記載された発明及び技術常識並びに乙1に記載された技術常識に基づいて、本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、よって、訂正発明1?3についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。


2 無効理由Bについて
無効理由Bの概要は、訂正発明1?3は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証、甲第1?3、6、8号証及び刊行物1?6に記載された発明及び技術常識に基づいて、本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、よって、訂正発明1?3についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、というものである。

(1)刊行物
無効理由Bに係る刊行物は、上記第4の2(2)の証拠方法ア?サに示した甲1?3、6,8号証及び刊行物1?6である。

(2)刊行物の記載事項
各刊行物の記載事項は、上記第6の1(2)に示したとおりである。

(3)甲2に記載された発明
甲2には、「ハエ」を「誘引する臭いの研究に着手し」(摘記2b)、「化学物質」での「誘引性テスト」に際して、「その化学物質を飼料」として用いたこと(摘記2b)、その「化学物質が特に誘引剤として効力があることがわかった」ものの例として「ジアセチル」「アセトアルデヒド」が挙げられるとともに、「アセチルメチルカルビノール(同義語:アセトイン、3-ヒドロキシ-2-ブタノン)はジアセチルと同等の誘引性があった」こと、が示される(摘記2d)。そして、「誘引性化学物質の混合物によるテスト」の「実験A」として、「アセチルメチルカルビノール」単独の試験例が示される(摘記2e)。
したがって、甲2には、
「ハエを誘引するにおいを有する化学物質を、アセトインとする、誘引剤」
に係る発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

(4)訂正発明1についての対比・判断
(4-1)対比
訂正発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「誘引剤」とは、「ハエ」を「誘引」するものであるので、訂正発明1の「ハエ誘引剤」に相当する。
訂正発明1の「有効成分」とは、「ハエ誘引剤」におけるものであるから、「ハエ」を「誘引」する物質である。よって、甲2発明の「誘引剤」における「ハエを誘引するにおいを有する化学物質」とは、訂正発明1の「有効成分」に相当する。

してみると、訂正発明1と甲2発明とは、
「有効成分を有するハエ誘引剤」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点4)「有効成分」が、訂正発明1では「黒酢」であるのに対し、甲2発明では「アセトイン」である点。

(相違点5)「ハエ誘引剤」が、訂正発明1では黒酢に加え、「果実、果実加工品、及び醸造酒からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用した」ものであることを規定するのに対し、甲2発明にはそのような規定のない点

(4-2)判断
ア 相違点4について
甲2発明を開示する甲2には、アセトインのハエ誘引活性が、表IIIの実験Aにおいて単独で試されるほか、実験Bにおいて混合物の一成分として含まれるものとしても試されており、後者の混合物は天然飼料と比べて「あまり劣っていない」との評価がなされている(摘記2f)。
また、同じく甲2には、「アセトイン」は「ジアセチルと同等の誘引性があった」ことが示される(摘記2d)。
したがって、甲2発明を開示する甲2には、アセトインは単独でも混合物の成分としても誘引活性を有するとの示唆があるとともに、アセトインとジアセチルとは同等の誘引性があったことが示されている。

また、(食)酢にハエ誘引活性があることは、本件特許出願の優先日前において周知である(必要ならば、下記*4を参照されたい。)。

そして、食酢には種々の種類があることが知られており、黒酢は本件特許出願の優先日前において周知の食酢であって(必要ならば、上記1(4)(4-2)アの*1を参照されたい。)、酢酸そのものとは異なる、アセトインやジアセチル等を含むにおい(異臭)を有することが知られた食酢である(必要ならば、上記1(4)(4-2)アの*2を参照されたい。)。

甲2発明には、アセトイン以外の成分を併用する点が規定されていないが、より高いハエ誘引活性を期待して、ハエ誘引活性のある物質を併用することは、当業者において慣用のことである(その根拠は、上記1(4-2)イに示したとおりである)。

してみれば、甲2発明に記載の「ハエ誘引剤」において、「アセトイン」を単独で有効物質とするのではなく、該アセトインに加えてハエ誘引活性の知られたジアセチルをともに異臭として含む食酢として周知の黒酢を、「ハエ誘引剤」の「有効成分」とすることは、当業者であれば容易になし得たものである。

*4 例えば、甲2(「Burrow(1907)・・・エチルアルコール-酢酸混合物でDrosophila誘引に成功」(摘記2g)との記載)、甲8(「焼酎と酢がブレンドされた、どろどろの液体」との記載(摘記5c))、刊1(「ビンの中に酢を入れておくと、ハエが中に入って出られなくなる」(摘記6b)との記載)、刊4(「一九一〇年代に・・・酢やアルコールに砂糖を加えると効果的・・・」(摘記9c)、「お酢・・・がハエに好まれることは、古くから知られていて、・・・ハエの誘引物になっている」(摘記9c)との記載)、刊5(「酒酢其ノ他ノ餌料」(摘記10a)との記載)など

イ 相違点5について
ハエ誘引活性のある物質として、「果実、果実加工品」及び「醸造酒」は、いずれも広く知られている(その根拠は、上記1(4-2)イに示したとおりである。)。

甲2発明には、アセトイン以外の成分を併用する点が規定されていないが、より高いハエ誘引活性を期待して、ハエ誘引活性のある物質を併用することは、当業者において慣用のことである(その根拠は、上記1(4-2)イに示したとおりである。)。

してみると、甲2発明において、より高いハエ誘引活性を期待して、ハエ誘引活性のある物質として知られた、「果実、果実加工品、及び醸造酒からなる群から選ばれた少なくとも1種」を併用することに、格別の困難性はない。

(4-3)効果について
ア 黒酢の効果について
上記(4-2)アにも指摘したとおり、甲2には「アセトイン」のハエ誘引活性が示されているところ、黒酢はその臭いの成分にアセトインを含むものにほかならず、しかも、黒酢はさらにハエ誘引活性の知られたジアセチルをその臭いの成分にさらに含むものである。加えて、黒酢は食酢の一種にほかならないところ、食酢にハエ誘引効果があることも周知の事項である。
してみると、ハエ誘引活性のあるアセトイン臭及びジアセチル臭を有するうえにハエ誘引活性が周知の食酢でもある、「黒酢」が、優れたハエ誘引活性を示すであろうことは、当業者であれば予測可能な範囲内にある。

イ 併用物の効果について
上記(4-2)イにも指摘したとおり、「果実、果実加工品、及び醸造酒」には「ハエ誘引活性」があること、さらに、ハエ誘引活性のある物質を併用するとより高いハエ誘引活性が期待できることは当業者において周知のことであるから、ハエ誘引活性のある物質の併用物がハエ誘引活性を有するであろうことは当業者が予測可能な範囲内のことである。

(5)訂正発明1についての被請求人の主張について
(5-1)「黒酢の顕著なハエ誘引性」を主張する点について
被請求人は答弁書、上申書、口頭審理陳述要領書、口頭審理及び意見書において、「黒酢の格別なハエ誘引性」を主張するが、以下に示すとおり、格別な効果であるということはできないので、当該主張は当を得ないものである。

ア 本件訂正明細書の記載に基づく格別な効果の主張について
被請求人は、訂正発明1が有する顕著な効果として、「アセトインに対する黒酢の顕著なハエ誘引性」を主張する(例えば、答弁書第3頁(2-2-1)、意見書第12頁?14頁(iii)及び(iv)、意見書第17頁(iii)等)。
そこで、誘引活性において、アセトインよりも黒酢が顕著に優れていることの根拠が本件訂正明細書にあるかどうか、以下検討する。

本件訂正明細書には、アセトインよりも黒酢が誘引活性に優れるという直接的な文言の記載はなされていない。また、アセトインと黒酢とを直接二者で対比した試験例の記載もない。
被請求人は、本件訂正明細書の第2表に示される実験1をアセトインのハエ誘引活性、実験2を黒酢のハエ誘引活性として、それぞれトリコセン比5.6倍、16.5倍であることから、アセトインよりも黒酢の誘引活性が優れている点を主張する。
しかしながら、実験1及び実験2は、それぞれ単独でトリコセンに対して試験したものである。段落【0016】には「参考実施例1はトリコセンの5.6倍、実施例2はトリコセンの16.5倍のショウジョウバエが誘引された」と考察があるが、各実施例の結果の並記に過ぎず、アセトインと黒酢とを対比させ両者の誘引活性の差異に着目した考察はなされていない。
実験1及び実験2に関して、第2表に示される生データをみると、実験1はアセトイン溶液28頭捕獲に対して実験2は黒酢溶液33頭捕獲であり、その差は5頭である。対照のトリコセン溶液側は、実験1の5頭捕獲に対して実験2は2頭捕獲であり、その差は3頭である。また、実施例18?19においては平均値を取ったものであることが明記されているが実験1及び2に対してはそのような記載のないことから、第2表の結果は、1回の実験の結果と考えられる。生物対象の実験は一般的にその捕獲数にばらつきが出るものであることは口頭審理において両当事者も主張したとおりであり、また、甲1第3頁(「かなりの多様性」)に示されるように周知の事項でもある。してみると、上述の1回の試験における数頭程度の差は誤差の範囲でないとはいえない。
加えて、実験1及び実験2はともに対照側へのハエ誘引数が5頭以下と比較的少ないことから、トリコセン側の捕獲頭数1頭の差によってトリコセン比値が顕著に異なるものとなるものであり、ただ1回の試験である実験1と実験2とをトリコセン比で比較することでアセトインと黒酢の誘引活性の優劣を一般的なものとして論じることが適切であるともいえない。また実験1と実験2とで、試験側へのハエ誘引数(実数)はともに30頭前後で大きく違ってはいないことから、アセトインと黒酢との捕獲頭数の差は実験1及び実験2との直接の対比によって顕著であるともいえない。

仮に、実験1及び実験2より、トリコセン比として、アセトインに対して黒酢が3倍近いハエ誘引結果が示されているといえるとしても、なお、実験1及び実験2より、アセトインに対する黒酢の格別の効果が認められるとはいえない。その理由は次のとおりである。
実験1及び実験2の誘引頭数は、アセトイン5%水溶液である参考実施例1と、黒酢95%水溶液である参考実施例2とを、それぞれ試験したものである。
これに対して、有効成分の濃度によってハエ誘引活性が大きく異なる場合があることは、当業者においてよく知られた事項である。このことは、例えば甲1(摘記1d)において、「誘引性があった」とされる物質であっても濃度によってその誘引活性に違いがあり場合によっては忌避的にまで作用することもあることが示されており、また、例えば刊4(摘記9c)において、「ハエを誘引するにおいであっても、そのにおいがあまり強いと逆に嫌われる場合」があり、「・・・%溶液・・をもっとも好み、・・・これらより濃度が高い場合あるいは低い場合には、嫌われるか好かれていない」「過ぎたるは及ばざるが如しのたとえで、ほどほどなのが一番好かれることをよく示している」ことが示されているとおりである。
確かに上記参考実施例1と参考実施例2との対比である実験1及び実験2においては、トリコセン比で上記の3倍程度の誘引活性の差が出ているといえるが、それはアセトイン5%水溶液である参考実施例1と黒酢95%水溶液である参考実施例2との対比結果にすぎない。濃度が異なるとハエ誘引活性の程度も異なるというのが上述したように技術常識であるので、例えばアセトイン水溶液の濃度を5%から変化させ、或いは黒酢の濃度を95%から変化させれば、そのハエ誘引頭数も、それぞれ実験1及び実験2の誘引頭数から増減し、参考実施例1及び参考実施例2とは異なった結果が得られると考えるのが自然であり、それに伴いトリコセン比値も上がり、あるいは下がり得ると考えられる。そして、アセトイン水溶液の誘引効果が最大となるのが5%水溶液であるといった技術常識や、黒酢の誘引活性の最大が95%水溶液であるといった技術常識、アセトイン5%水溶液がアセトインをハエ誘引剤の有効成分として用いる場合の標準的な濃度である或いは黒酢95%水溶液が黒酢をハエ誘引剤の有効成分として用いる場合の標準的な濃度であるといった技術常識もない。このように、物質のハエ誘引活性には濃度依存性がある前提からみれば、参考実施例1及び参考実施例2という、それぞれ特定の濃度でのみ試験したものの対比結果である実験1及び実験2だけの結果が、被請求人が主張するような、アセトインが黒酢に対して格別の誘引活性があることの根拠となる試験であるということはできない。

イ 試験報告書に基づく格別な効果の主張について
被請求人は、乙6の試験8、12及び13、及び乙13の試験3において、アセトイン水溶液(乙6のサンプル8は5%水溶液、サンプル9は203ppm水溶液、サンプル10は747ppm水溶液、乙13のサンプル4は5%水溶液)及び黒酢(乙6及び乙13のいずれにも特記がないので本件訂正明細書第2表の実施例2と異なり水で薄められていないものと考えられる)を直接対比した結果を提示する。そしてその結果として、アセトイン5%水溶液と対比した場合には黒酢は3倍程度、アセトイン203ppm水溶液と対比した場合は10倍程度、アセトイン747ppm水溶液と対比した場合は9倍程度(30分後の結果)の捕獲頭数の違いを主張する。

しかし、アセトイン及び黒酢を直接対比した結果は、本件訂正明細書にそもそも記載のないものであり、上記アに指摘したように、本件訂正明細書の記載より黒酢のアセトインに対する格別の効果は認められない以上、本件訂正明細書の記載より認めることのできない数倍もの効果の差異を主張する該試験報告書に基づく主張は採用できない。

ウ 意見書第12頁?13頁の考察について
被請求人は、意見書第12頁?13頁において、「第3表」の「アセトイン5%及び精製水95%からなる参考実施例1」と「アセトイン5%及び黒酢95%からなる参考実施例3」を対比させ、両者の「効果の差は、黒酢の成分のうち、アセトイン以外の成分に起因するものと考えられます」と考察する。
しかしながら、「効果の差」が、なぜ「アセトイン以外の成分に起因」するものと考えられるか、その根拠は明らかにされていない。
また、「上記甲1等に示されているように、複数の誘引成分を組合わせた場合、通常、混合物の誘引数は、単体の誘引数の合計に満たないことが理解されます」と考察するが、その「上記甲1等に示される」という記載が意見書7頁?8頁に指摘された甲1の記載事項に関するものであると理解するならば、その甲1の表4には、それ自体が混合物であるMuscaエサと、そのMuscaエサに対してさらに特定化合物を特定量添加した変性Muscaエサの、「ハエ誘引性レーティング」が示されているものであって、「混合物の誘引数」と「単体の誘引数」についての結果が示されているものではないから、その「理解」には根拠がない。
よって、「従って、上記第3表の結果から、黒酢の誘引力は、5%アセトインと同程度ではなく、アセトインよりも非常に高いことは明らかです」とのまとめは、その結論に至る過程が不明であり、また誤った前提に立つものであるから、適切ではない。

エ 黒酢とアセトインのハエ誘引活性について
アセトインにハエ誘引活性があることは、甲2において知られている。
また酢にハエ誘引効果があることも、本件特許出願の優先日前に周知の事項である。
誘引効果のある物質を併用すれば誘引効果がより補強されるであろうことは、当業者において通常期待し得る事項である。
してみると、アセトイン臭があり、しかも酢であるもの(黒酢)は、単にアセトイン臭のあるもの(アセトイン単体)よりも、ハエ誘引効果が高いであろうことは、当業者であれば通常期待し得るものといえる。

オ まとめ
以上のとおりであるので、黒酢の顕著なハエ誘引活性についての被請求人の主張は採用できない。

(5-2)提示文献からは黒酢が示唆されないとする点について
被請求人は意見書第11頁から第12頁に記載される(ii)及び同第16頁?第17頁に記載される(ii)において、以下の事項を指摘し、また主張する。

(指摘主張事項3a) 被請求人は、「提示」した「文献には、ハエ誘引成分としてアセトイン以外にも多数の香気成分を含有する黒酢よりも、アセトイン単体を選択することを示唆する記載がある」点を指摘する。すなわち、「黒酢は、アセトインの他に数倍の量の量の香気成分を含むため、当業者は、ハエ誘引効果が知られているアセトインに加えて、ハエに対する効果が不明な香気成分をアセトインの数倍の量含有する黒酢を敢えて用いようとはしないもの」であり「むしろ、甲1を読んだ当業者は、上記アセトイン以外の成分との相互作用によりアセトインのハエ誘引効果が減少してしまうと予想し、黒酢よりもむしろアセトイン単体を用いようとするもの」と主張する。
その主張の根拠として、被請求人は、「甲3」の「Table3」には「白米醋以外の各中国酢の香気成分の含有量全体に対するアセトイン含有量の割合を算出したところ、2.7?6.6%にすぎ」ない点を指摘するとともに、「前述」のように「例えば」、「甲1」には「1%ジアセチル、0.1%アセトアルデヒド及び1%アセタールのうち、3成分を組合わせると、2成分の組合わせよりもハエ誘引効果が大幅に減少してしまうことが開示」されている点を指摘し、「黒酢のように香気成分を多数含む物質の場合、これらの全ての成分が混ざり合った複合的な香気によりハエに誘引又は忌避の効果」がもたらされるものであり、「その多数の成分のなかに、アセトインが少量含まれるからといって、混合物全体としてハエを誘引するとはかぎら」ず、「その他の成分の影響により混合物全体としてむしろハエの誘引効果が減少することも予想し得」ると結論付ける。

以下、該指摘主張事項3aについて検討する。

ア 黒酢中のアセトインの含有量について
被請求人は甲3のTable3より黒酢の香気成分におけるアセトインの含有量が数%であることを指摘する。また、被請求人は、「黒酢」は「香気成分を多数含む」ものであり「複合的な香気」を有する点を指摘する。
確かに甲3Table3より黒酢の香気成分におけるアセトインの含有量が算出可能である。また、黒酢が香気成分を複数含み、複合的な香気を有するものである点に異論はない。
しかし、上記(4-2)に指摘したように、黒酢には、アセトインに起因するにおいのあることが従前より認識されているものであり、その香気成分のうちの数%に過ぎないからといって、黒酢のにおいにアセトイン臭があることが否定されるものではない。
よって、アセトイン臭にハエ誘引効果があることから、アセトイン臭のある黒酢にハエ誘引効果があるであろうことは、当業者であれば予測可能な事項である。

イ 甲1の記載について
意見書の「前述」の「甲1」に「開示」された事項とは、意見書第7頁?第8頁における甲1の翻訳文の表4「変性Muscaエサの誘引性レーティング」における誘引剤のテスト結果である。この甲1表4の誘引剤の2つの試験結果を対比して被請求人は「1%ジアセチル、0.1%アセトアルデヒド及び1%アセタールのうち、3成分を組合わせると、2成分の組み合わせよりもハエ誘引効果が大幅に減少してしまうことが開示」されているとの認識を示している。

確かに甲1表4では、Muscaエサにさらに「1%ジアセチル、0.1%アセトアルデヒド及び1%アセタール」の「3成分」を添加した例はD.melanogasterを平均140頭、D.virilisを平均36頭誘引したのに対して、Muscaエサにさらにこのうちの「2成分」の「組合わせ」を添加した例はD.melanogasterを平均217頭から257頭、D.virilisを平均56頭から83頭誘引している。よって、上の3成分添加例はそのうちの2成分添加例よりも、誘引頭数が少ない傾向がみられる。しかしながら、「3成分」の添加も、「2成分」の添加も、基本となるMuscaエサそれ自体(D.melanogasterが平均98頭、D.virilisが平均27頭、誘引されている)よりも誘引頭数は多くなっていることから、混合物に誘引性はあるといえる。
すなわち、甲1の表4には、確かに複数成分の「複合的な香気」による「ハエ」の誘引頭数を確かめた試験結果が示されており、被請求人が主張するように、「3成分」をさらに追加した「組合わせ」は、「2成分の組合わせよりもハエ誘引効果が」「減少して」いるが、同時に、甲1の表4からは「3成分」を加えたものも、「2成分」を加えたものも、追加成分なしの「Muscaエサ」単体に比してハエ誘引頭数が多いことが示されているといえる。
してみると、甲1の表4を参照しても、ハエ誘引物質の複数併用が、ハエ誘引頭数の「大幅」な減少をもたらしそれが「忌避の効果」であるとまで、一般化できる事項は示されていない。むしろ、甲1の表4には、個別の誘引結果に被請求人の指摘するような誘引頭数の相違はあっても、全体としては、複数の誘引成分を含有するものは誘引活性を有し誘引剤として有用であるとの前提あるいは認識が開示されているものといえる。

以上のとおりであるから、被請求人が主張するように、甲1の記載より、「複合的な香気」が「ハエに」「忌避の効果」をもたらすものであり、複数の「成分の影響により混合物全体としてむしろハエの誘引効果が減少する」ことは、当業者が通常「予想し得」るものであるとはいえない。

ウ 黒酢中の成分にハエ誘引効果不明なものがある点について
被請求人は、「黒酢は、アセトインの他に数倍の量の量の香気成分を含むため、当業者は、ハエ誘引効果が知られているアセトインに加えて、ハエに対する効果が不明な香気成分をアセトインの数倍の量含有する黒酢を敢えて用いようとはしないもの」と主張する。

確かに、黒酢にはハエに対する誘引効果が不明な香気成分が含まれている。
しかし、ハエ誘引効果の知られた成分のほかに、ハエ誘引効果の不明な成分が含まれているからといって、効果の知られた成分に着目しそれをハエ誘引剤に用いてみようとする当業者の試みがそもそも成り立たないといえるものではない。
また、上記イに指摘したように、甲1の記載をみても、「複合的な香気」は通常ハエに対して「忌避の効果」あるいは「誘引効果」を「減少」させるものであるという技術常識があるとはいえないから、黒酢が複数の香気成分による「複合的な香気」を有するからといって黒酢をハエ誘引に用いようとしないことが通常であるともいえない。
たとえ甲1より「誘引性」の成分を多数併用することにより誘引効果が減少する或いは逆に忌避的に働くといえたとしても、それは「誘引性」の成分の過多使用に関する事項であり、誘引効果の不明な成分の併用に関する事項ではない。よって、黒酢中の成分にハエ誘引効果の不明なものが含まれているからといって、その成分の含有がハエ誘引効果を減少させあるいは忌避的に働くであろうという推察は成り立たず、「黒酢を敢えて用いようとはしない」とする請求人の主張は根拠のあるものであるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおりであるので、提示文献からは黒酢が示唆されないとする被請求人の主張は当を得ないものである。

(5-3)果実、果実加工品、醸造酒併用の効果について
ア 答弁書、上申書、口頭陳述要領書及び口頭審理における主張について
黒酢に他の併用成分を組み合わせる点について、被請求人は、答弁書、上申書、口頭陳述要領書及び口頭審理において、そもそも黒酢をハエ誘引剤として用いる点が各号証には記載がない点を主張するのみである(例えば、答弁書第13頁?第14頁(4-3-3)、3月25日付け上申書第12頁等)。しかしながら、黒酢をハエ誘引剤として用いる点については、すでに上記(4-2)ア及び(4-3)アにおいて検討したとおりであり、当該主張は当審の上記検討結果を左右するものではない。

イ 意見書第6頁?第10頁における主張(i)について
被請求人は、意見書第6頁?第10頁に記載の(i)において、以下の事項を指摘及び主張し、「本件特許の請求項1に係る発明の効果、すなわち、黒酢に、果実、果実加工品、及び醸造酒からなる群から選ばれる少なくとも1種を組合わせたことによる、黒酢と果実、果実加工品、及び/又は醸造酒との相乗効果、及びその結果としての顕著なハエ誘引効果は、いかに当業者といえども、ハエ誘引物質の相乗効果について開示のない甲1,2及び8、ならびに刊行物3?6から容易には予想し得るものでは」ないと結論付ける。

(指摘主張事項4a) 甲1,2及び8ならびに刊3?6には、2種類のハエ誘引物質を組合せた場合の相乗効果について一切開示がない。

(指摘主張事項4b) 甲1,2及び8ならびに刊3?6には、むしろ、ワインなどの醸造酒が単体ではハエ誘引効果が非常に低いこと、及び発酵、腐敗前の果実等にはハエ誘引効果がないことが記載されている。

(指摘主張事項4c) 一方、本件特許発明によれば、単体ではハエ誘引性が低いと認識されている発酵前の果実、果実加工品、及び/又は醸造酒であっても黒酢との相乗効果によって、非常に高いハエ誘引効果を得ることができる。

本指摘主張事項4a?4cについて検討するに、本指摘主張事項4a?4cは、上記1(5)(5-3)の指摘主張事項2a、2b、2d、上記1(5)(5-4)及び上記1(5)(5-5)に指摘した主張事項と重複したものであり、その検討内容も、すでに上記1(5)の(5-3)?(5-5)において検討したとおりであるから、被請求人の主張は採用することができない。

(6)訂正発明1についてのまとめ
以上のとおりであるので、訂正発明1は、甲2、甲1、3、6、8、及び刊1?6に記載の発明及び技術常識より、当業者であれば容易になし得たものである。

(7)訂正発明2についての対比・判断
(7-1)対比
訂正発明2と甲2発明とを対比する。
訂正発明2は訂正発明1を引用したものであるので、訂正発明1を引用した部分の対比は上記(4-1)において述べたのと同じである。してみると、訂正発明2と甲2発明とは、
「有効成分を有するハエ誘引剤」
である点で一致し、上記(4-1)に示した相違点4に加え、以下の点で相違している。

(相違点5’)「ハエ誘引剤」が、訂正発明2では黒酢に加え、「果実;該果実の加工品」「ならびに」「醸造酒」「からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用した」ものであって、その「果実」としては「メロン、イチゴ、バナナ、パイン、ピーチ、パッション、アプリコット、パパイヤ、梨、ガバァ及びハイビスカスからなる群より選択される少なくとも1種」のもの、また、その「醸造酒」としては「紹興酒及びワインからなる群より選択される少なくとも1種」のものを規定するのに対し、甲2発明にはそのような成分を併用することについて規定のない点

(7-2)判断
ア 相違点4について
相違点4について検討するに、その内容は上記(4-2)アにおいて検討したとおりであり、甲2発明のハエ誘引剤の有効成分である「アセトイン」に替えて、ハエ誘引活性のあるアセトイン及びジアセチルを異臭として含む周知の食酢である「黒酢」を採用することは、当業者であれば容易になし得たものである。

イ 相違点5’について
相違点5’について検討するに、「黒酢」に、「果実;該果実の加工品」、「ならびに」、「醸造酒」「からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用する」点については、上記(4-2)イにおいて相違点5に関して検討したのと同じであって、ハエ誘引活性のある物質として周知である「果実;該果実の加工品」または「醸造酒」を併用することに、格別の困難性はない。
そして具体的な「果実;該果実の加工品」または「醸造酒」について検討するに、その検討内容は上記1(7)(7-2)イにて既に検討したとおりであり、その「果実」として「メロン、イチゴ、バナナ、パイン、ピーチ、パッション、アプリコット、パパイヤ、梨、ガバァ及びハイビスカスからなる群より選択される少なくとも1種」のものを規定すること、また、「醸造酒」として「紹興酒及びワインからなる群より選択される少なくとも1種」のものであることを規定することに、格別の困難性はない。

(7-3)効果について
上記(4-2)イにも指摘したとおり、「果実;該果実の加工品」及び「醸造酒」にはハエ誘引活性があり、さらに、ハエ誘引活性のある物質を併用するとより高いハエ誘引活性が期待できることは当業者において周知のことであるから、ハエ誘引活性のある物質の併用物がハエ誘引活性を有するであろうことは当業者が予測可能な範囲内のことである。そして、「果実;該果実の加工品」及び「醸造酒」を特定の「群から選ばれる少なくとも1種」とすることが、格別な効果を奏するものともいえない。
よって訂正発明2に規定される併用物のハエ誘引効果は、予測可能な範囲内のものであり、格別であるとはいえない。

(7-4)訂正発明2についてのまとめ
以上のとおりであるので、訂正発明2は、甲2、甲1、3、6、8、及び刊1?6に記載の発明及び技術常識より、当業者であれば容易になし得たものである。

(8)訂正発明3についての対比・判断
訂正発明3は、訂正発明1又は2のハエ誘引剤を誘引剤としたハエ取り用トラップであることを規定した発明である。

(8-1)対比
訂正発明3と、甲2発明とを対比する。
訂正発明3は、訂正発明1又は2のハエ誘引剤を誘引剤とするものであり、その点に対する対比は上記(4-1)及び(7-1)において述べたのと同じである。
してみると、訂正発明3と甲2発明とは、上記(4-1)及び(7-1)に示した相違点4、相違点5又は相違点5’に加え、以下の点で相違している。

(相違点6)訂正発明3にはハエ取り用トラップについて規定されているが、甲2発明にはその規定のない点

(8-2)判断
相違点4、相違点5及び相違点5’については、上記(4-2)及び(7-2)で検討したとおりである。
相違点6について検討するに、甲2発明のハエ誘引剤は、甲2に示されるようにハエを採集するためのトラップに使用することが想定されているものであり(摘記2c)、また、ハエ誘引剤をトラップに仕込んでハエを捕獲することは、甲1(摘記1a、1b)、甲8(摘記5a、5c)、刊1(摘記6b)、刊3(摘記8b)、刊4(摘記9a)、刊5(摘記10a、10b)等にあるように周知の事項であるから、ハエ誘引剤を誘引剤としたハエ取り用トラップとすることは、当業者であれば適宜なし得たものであり、その効果も格別でない。

(8-3)訂正発明3についてのまとめ
以上のとおりであるので、訂正発明3は、甲2、甲1、3、6、8、及び刊1?6に記載の発明及び技術常識より、当業者であれば容易になし得たものである。

(9)無効理由Bについてのまとめ
以上のとおり、訂正発明1?3は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証、甲第1?3、6、8号証及び刊行物1?6に記載された発明及び技術常識に基づいて、本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、よって、訂正発明1?3についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。


第7 結び
以上のとおり、無効理由A及びBにはいずれも理由があり、訂正発明1?3についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ハエ誘引剤及びハエ取り用トラップ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒酢を有効成分とし、果実、果実加工品、及び醸造酒からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用したことを特徴とするハエ誘引剤。
【請求項2】
メロン、イチゴ、バナナ、パイン、ピーチ、パッション、アプリコット、パパイヤ、梨、ガバァ及びハイビスカスからなる群より選択される少なくとも1種の果実;該果実の加工品;ならびに紹興酒及びワインからなる群より選択される少なくとも1種の醸造酒;からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用したことを特徴とする請求項1記載のハエ誘引剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のハエ誘引剤を誘引剤としたハエ取り用トラップ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハエ誘引剤及びハエ取り用トラップに関する。
【0002】
【従来技術】
従来、ハエを誘引して捕獲、防除する方法として、ハエ取りリボン、ハエ取り紙などのハエ取りトラップを用いる方法がある。そしてこれらの方法に使用される誘引物質として、トリコセン、フチオコール、マロン酸等が知られているが、その誘引活性が満足されるものは少ない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来から知られた誘引物質よりも強い誘引活性を有し、ハエの捕獲、防除に用いるものとして満足できる誘引物質、及びこれを用いたハエ取り用トラップを提供することを目的としたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を満足するため鋭意検討した結果、黒酢がハエに対して強い誘引活性を有すること、さらに果実及び果実加工品;及び醸造酒;からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用することで、誘引活性が増強されたものとなることを見い出した。
すなわち本発明は、以下の手段によって上記課題を解決することができたものである。
(1)黒酢を有効成分とし、果実、果実加工品、及び醸造酒からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用したことを特徴とするハエ誘引剤。
(2)メロン、イチゴ、バナナ、パイン、ピーチ、パッション、アプリコット、パパイヤ、梨、ガバァ及びハイビスカスからなる群より選択される少なくとも1種の果実;該果実の加工品;ならびに紹興酒及びワインからなる群より選択される少なくとも1種の醸造酒;からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用したことを特徴とする上記(1)記載のハエ誘引剤。
(3)上記(1)又は(2)記載のハエ誘引剤を誘引剤としたハエ取り用トラップ。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明のハエ誘引剤において有効成分であるアセトイン及び黒酢は、芳香をもつ液体であり、少量でハエを十分に誘引することができる。
これらはそのまま用いてもよく、製剤化して用いることもできる。そしてそれぞれ単独で用いてもよいが、組合わせることで誘引活性を相乗的に強めることができる。これらを組み合わせる場合には、アセトインに対して黒酢を重量で9倍以上、好ましくは100倍以上とするのがよい。
【0006】
また製剤化(そのまま用いる場合も含む)する場合には、これらを0.1?100重量%、好ましくは0.5?95重量%を含有させればよく、公知の製剤、例えば、液剤、ゲル状剤、ゾル状剤、ゼリー状剤、ペースト状剤、顆粒剤、粉末剤等とすることができる。
なかでも芳香による誘引活性を有効に得るためには、液剤とするのが好ましく、担体として水、アルコール類(エタノール等)を用いることができる。
【0007】
本発明において、好ましいものとしてさらに、純米酢、穀物酢からなる群から選ばれる少なくとも1種の酢(以下、「特定の酢」ともいう);果実及び果実加工品;及び醸造酒、蒸留酒及び酒粕;からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用したものがあげられる。果実としては、例えば、メロン、バナナ、パイナップル、イチゴ、ブドウ、リンゴ、スイカ、グレープフルーツ、ハイビスカス、パッション、アプリコット、キウイ、パパイヤ、ガバア、マンゴー、桃、梨などがあげられ、果実の加工品としては果実を砕いたり又は潰したりしたもの;生ジュース、濃縮ジュース等の果汁又はその乾燥品(例えば真空凍結乾燥品)、例えば粉末ジュース;果物を必要に応じ潰して砂糖の存在又は非存在下で加熱又は濃縮したもの又は部分的に発酵させたもの、例えばジャム、ペースト、ピューレ等;があげられる。醸造酒としては、清酒、にごり酒;果実あるいはそのしぼり汁を発酵させてつくった醸造酒であるワイン(赤、白、ロゼ等)、梅酒、シェリー酒等の果実酒;味醂;紹興酒;ビール;リキュール類;焼酎、ウィスキー、スピリッツ類等の蒸留酒;雑酒等があげられる。これらの中でも特に紹興酒が好ましい。醸造酒粕としては例えば日本酒の酒粕があげられ、醸造酒粕は乾燥粉末化したものでもよい。
上記の酢;果実、果実加工品;醸造酒、蒸留酒、酒粕;の少なくとも1種を併用する場合には、これらは誘引剤全体に対して各々、2?90重量%、好ましくは5?80重量%が好ましい。
上記のハエ誘引剤は前記のように製剤化したものであってもよい。
【0008】
本発明のハエ誘引剤を使用する際には、ハエ誘引剤を収納するものとして、特に制限はないが、例えば、有効成分が放出される開口等を有する容器、毛細作用を利用して有効成分を放出できる容器、カプセル等を用いることができる。ハエを誘引して捕獲、防除するトラップとしては各種のトラップを採用することができ、例えば水没式トラップ;ハエ取りリボン、ハエ取り紙、ハエ捕獲器などの粘着式トラップ等のハエ取りトラップを用いることができる。誘引活性を有効に得るためには、液剤で用いる水没式トラップとするのがよい。
【0009】
本発明のハエ誘引剤は、ショウジョウバエ、ノミバエ、ハヤトビバエ、イエバエ、クロバエ、キンバエ、ニクバエ等のハエを対象に用いることができ、特にショウジョウバエ等のコバエに対して高い誘引活性を有するものである。
【0010】
また発明の効果を妨げない限り、各種の添加剤を併用してもよく、例えば、殺虫剤、殺菌剤、殺黴剤、保存剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、展着剤、キレート剤、増粘剤、誤食防止剤、香料、色素等が挙げられる。
【0011】
さらにハエに対して誘引活性を高めるうえで有利に作用する各種誘引剤を併用してもよく、例えば、ハチ密、砂糖、液糖、牛乳、脱脂粉乳、米糠、ふすま、トウモロコシ粉、小麦粉、家畜飼料等の食餌成分:アネトール、リナノール、カルボン等の芳香成分:性フェロモン等が挙げられる。
【0012】
この他にもハエの誘引活性を高めるために、製剤を赤色系等に着色したりしてもよい。
そして製剤化に際して、これら各種の添加剤を均一に混合、分散、溶解させるために非イオン系、陽イオン系、陰イオン系の界面活性剤や有機溶剤を用いることができる。この場合には、毒性があったり、刺激臭が強いものは誘引活性に悪影響があるので使用しない方がよい。
【0013】
【実施例】
以下に実施例において本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0014】
参考実施例1?3
誘引試験
第1表記載のハエ誘引剤(参考実施例1又は2)とトリコセンとを各々、ペーパーディスク(直径8mm)に100mg含浸させて、10cmの正方形の別個の粘着層の中央に各々、設置し2つの検体とした。
そしてプラスチック容器内(70cm×70cm×70cm)にショウジョウバエ100頭を放し、容器内の底面に前記2つの検体を20cmの間隔となるように配置し、密閉して30分後に粘着層に捕獲されたショウジョウバエを数えた。
【0015】
【表1】

【0016】
試験の結果は第2表に示した。参考実施例1及び2はいずれもトリコセンよりも誘引活性に優れており、参考実施例1はトリコセンの5.6倍、参考実施例2はトリコセンの16.5倍のショウジョウバエが誘引された。
【0017】
【表2】

【0018】
次に第1表記載の参考実施例1、参考実施例3の誘引剤及びトリコセンとを直接比較するために、これら3つを同一のプラスチック容器内に置いて、上記と同様の試験方法にて誘引活性を調べた。なおショウジョウバエは70頭とした。
試験の結果は第3表に示した。参考実施例1及び3は、トリコセンよりも誘引活性に優れており、経過時間60分で参考実施例1はトリコセンの3.6倍、参考実施例3はトリコセンの7.6倍のショウジョウバエが誘引された。
【0019】
【表3】

【0020】
参考実施例4?5
さらに参考実施例3の黒酢を、米酢に代えた誘引剤(参考実施例4)、穀物酢に代えた誘引剤(参考実施例5)について、上記と同様の誘引試験を実施した。
その結果を第4表に示した。参考実施例4、5は参考実施例3と同様にトリコセンよりも優れた誘引活性を示した。
以上の結果から、アセトインと黒酢からなる参考実施例3が、ハエの誘引活性が特に顕著であり、相乗的なものであった。
【0021】
【表4】

【0022】
実施例6?17
黒酢に対する果実加工品添加の相乗効果を確認するために以下の実験を行った。
試験室(約10m^(2)、25°C)にショウジョウバエ約300頭を放ち、黒酢単独(黒酢30ml;参考例1)、黒酢(30ml)と下記第8表に示す各種の果実加工品の併用(実施例6?17)を各々、検体が等距離になるように設置して試験を行った。2時間後、各容器に捕獲されているショウジョウバエの数を観察し、捕獲数を比較した。捕獲数は2回の繰り返しの試験の合計により求めたものである。結果を第5表に示す。表5の捕獲数の数値は黒酢単独の捕獲数を1とした場合の捕獲割合を示す。
【0023】
【表5】

【0024】
試験の結果、黒酢単独(参考例1)と比較して、いずれの果実加工品も併用の効果が認められた。
【0025】
実施例18?19
黒酢に対する醸造酒(紹興酒、ワイン)添加の相乗効果を確認するために以下の実験を行った。
試験室(約10m^(2)、25°C)にショウジョウバエ約300頭を放ち、黒酢単独(黒酢30ml;参考例2)と、黒酢(20ml)と紹興酒(10ml)の併用(実施例18)又は黒酢(15ml)と巨峰ワイン(15ml)の併用(実施例19)を各々容器に充填し、参考例2と実施例18又は19との2つの検体を等距離になるように設置し、30分後及び1時間後の捕獲数を比較した。捕獲数は2回の繰り返しの試験の平均により求めたものである。結果を第6表に示す。表6の捕獲数の数値は黒酢単独の捕獲数を1とした場合の捕獲割合を示す。
【0026】
【表6】

【0027】
以下に本発明の誘引剤の組成例を示す。酢、果実又は果実加工品、醸造酒、蒸留酒および酒粕は適宜、任意の量で組み合わせることができる。
【0028】
処方例1
アセトイン 0.1重量%
黒酢 95.4重量%
エデト酸二ナトリウム 0.5重量%
ソルビタン脂肪酸エステル 1.0重量%
フルーツ系香料 3.0重量%
【0029】
処方例2
黒酢 92.2重量%
安息香酸ナトリウム 0.2重量%
ソルビタン脂肪酸エステル 0.1重量%
4%アセトイン配合フルーツ香料 2.5重量%
精製水 5.0重量%
【0030】
処方例3
アセトイン 0.5重量%
黒酢 80.0重量%
99.5%エタノール 10.0重量%
黒砂糖 5.0重量%
精製水 4.5重量%
【0031】
処方例4
アセトイン 0.1重量%
黒酢 99.7重量%
香料 0.2重量%
【0032】
処方例5
黒酢 80.0重量%
黒砂糖 10.0重量%
99.5%エタノール 5.0重量%
精製水 5.0重量%
【0033】
処方例6
米酢 60.0重量%
アセトイン 0.5重量%
糖密 1.0重量%
99.5%エタノール 20.0重量%
パイナップル香料 0.1重量%
精製水 18.4重量%
【0034】
処方例7
アセトイン 0.1重量%
黒酢 48.7重量%
ソルビタン脂肪酸エステル 1.0重量%
安息香酸ナトリウム 1.0重量%
パイナップル果汁 50.0重量%
【0035】
処方例8
アセトイン 0.1重量%
黒酢 93.7重量%
ソルビタン脂肪酸エステル 1.0重量%
安息香酸ナトリウム 0.2重量%
粉末メロン果汁 2.0重量%
香料 3.0重量%
【0036】
処方例9
アセトイン 0.1重量%
黒酢 38.7重量%
ソルビタン脂肪酸エステル 1.0重量%
安息香酸ナトリウム 0.2重量%
焼酎 60.0重量%
【0037】
処方例10
アセトイン 0.1重量%
黒酢 85.7重量%
ソルビタン脂肪酸エステル 1.0重量%
安息香酸ナトリウム 0.2重量%
粉末ピーチ果汁 2.0重量%
酒粕 3.0重量%
香料 3.0重量%
精製水 5.0重量%
【0038】
【発明の効果】
本発明のハエ誘引剤は、ハエ、特にコバエに対して高い誘引活性を有するものである。特にアセトインと黒酢とを併用すると、誘引活性を相乗的に強めることができるので好ましい。アセトイン及び/又は黒酢(好ましくは黒酢)に、さらに特定の酢;果実及び果実加工品;及び醸造酒、蒸留酒及び酒粕;からなる群から選ばれる少なくとも1種を併用することで、誘引活性がさらに増強されたものとなる。上記のハエ誘引剤を誘引剤としたハエ取りトラップを用いることにより効果的にハエを駆除することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2011-09-21 
結審通知日 2011-09-26 
審決日 2011-10-19 
出願番号 特願2000-189595(P2000-189595)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 太田 千香子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 東 裕子
橋本 栄和
登録日 2010-06-25 
登録番号 特許第4536223号(P4536223)
発明の名称 ハエ誘引剤及びハエ取り用トラップ  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 沖中 仁  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 田中 信治  

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