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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007800236 審決 特許
不服200824338 審決 特許
不服200625545 審決 特許
不服200829241 審決 特許
不服200722835 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1248503
審判番号 不服2008-15319  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-17 
確定日 2011-12-14 
事件の表示 特願2002-525117「グリコゲンシンターゼキナーゼ3のインヒビター」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月14日国際公開、WO02/20495、平成16年 5月20日国内公表、特表2004-514656〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,2001年 9月 6日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理 2000年 9月 6日 アメリカ合衆国(US)〕を国際出願日とする出願であって,その発明の名称は「グリコゲンシンターゼキナーゼ3のインヒビター」というものである。本願については,平成18年12月25日付けで拒絶理由通知があったのち,平成19年 6月26日付けで意見書及び手続補正書が提出され,平成20年 3月17日付けで拒絶査定がなされたため,これに対し,平成20年 6月17日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに,平成20年 7月10日付けで手続補正書が提出されている。そして,平成22年10月22日付け(発送日:平成22年10月25日)で指定期間を3ヶ月とする審尋がされたが,出願人側からは指定期間を経過しても何ら回答がなかった。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願は明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項に規定する要件を満たしておらず,また,特許請求の範囲の記載が同法36条6項1号に規定する要件を満たしていないというものである。

3.本願請求項に記載された発明
平成20年 7月10日付け手続補正書による特許請求の範囲についての補正は,実質的には請求項の削除を目的とするものと認められる。
本願発明は,平成20年 7月10日付け手続補正書により補正された明細書(以下,これを「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?64に記載されたとおりのものと認められ,請求項1?64の記載は以下のとおりである(なお,以下,本審決においては,上付・下付の小さい文字も通常の大きさの文字で表記している。)。

「 【請求項1】 以下の構造:
【化1】
(式は省略)
を有する化合物またはその薬学的に受容可能な塩であって、
ここで:
Wは、必要に応じて置換された、炭素または窒素であり;
XおよびYは、窒素であり;
Aは、以下の式:
【化2】
(式は省略)
を有し、
ここで、R8およびR9は、水素、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、シアノ、ハロ、チオアミド、アミジノ、オキサミジノ、アルコキシアミジノ、イミジノ、グアニジニル、スルホンアミド、カルボキシル、ホルミル、低級アルキル、アミノ低級アルキル、低級アルキルアミノ低級アルキル、ハロ低級アルキル、低級アルコキシ、ハロ低級アルコキシ、低級アルコキシアルキル、低級アルキルアミノ低級アルコキシ、低級アルキルカルボニル、低級アラルキルカルボニル、低級ヘテロアラルキルカルボニル、アルキルチオ、アリール、および、アラルキルからなる群より独立して選択される;
R1、R2、R3、およびR4は、水素、ヒドロキシル、ならびに必要に応じて置換された、低級アルキル、シクロ低級アルキル、環状アミノアルキル、アルキルアミノアルキル、低級アルコキシ、アミノ、アルキルアミノ、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アラルキルカルボニル、ヘテロアリールカルボニル、ヘテロアラルキルカルボニル、アリールおよびヘテロアリールからなる群より独立して選択され、そしてR’2およびR’3は、水素、および必要に応じて置換された低級アルキルからなる群より独立して選択され;
R5およびR7は、水素、ハロ、ならびに必要に応じて置換された、低級アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アミノ、アミノアルコキシ、アルキルアミノ、アラルキルアミノ、ヘテロアラルキルアミノ、アリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、シクロイミド、ヘテロシクロイミド、アミジノ、シクロアミジノ、ヘテロシクロアミジノ、グアニジニル、アリール、ビアリール、ヘテロアリール、ヘテロビアリール、ヘテロシクロアルキル、およびアリールスルホンアミドからなる群より独立して選択され;
R6は、以下の構造:
【化4】
(式は省略)
を有するモノケトピペラジニル基であり、
ここで、R15およびR16は独立して、水素、低級アルキル、低級アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アリール低級アルキル、低級アルキルアリール低級アルキル、ハロ低級アルキル、ハロアリール低級アルキル、炭素環および複素環からなる群から選択されるか;あるいは、R16は、別のR16またはR15とともに、炭素環、複素環またはアリール環を形成し得;そしてoは1と6との間の整数である、
化合物。
【請求項2】 請求項1に記載の化合物であって、ここで、Aが、アミノピリジル、ニトロピリジル、アミノニトロピリジル、シアノピリジル、アミノシアノピリジル、トリフルオロメチルピリジル、メトキシピリジル、メトキシニトロピリジル、およびメトキシシアノピリジルからなる群より選択される、化合物。
【請求項3】 請求項1に記載の化合物であって、ここで、R1、R2、R’2、R3、R’3、およびR4のうち少なくとも1つが、非置換または置換の、低級アルキル、ハロ低級アルキル、ヘテロシクロアミノアルキルおよび低級アルキルアミノ低級アルキルからなる群から選択される、化合物。
【請求項4】 請求項3に記載の化合物であって、ここで、R1、R2、R’2、R3、R’3、およびR4のうち少なくとも1つが、低級アルキルアミノ低級アルキルである、化合物。
【請求項5】 請求項3に記載の化合物であって、ここで、R1、R2、R’2、R3、およびR’3が水素でありそしてR4が水素、メチル、エチル、アミノエチル、ジメチルアミノエチル、ピリジルエチル、ピペリジニル、ピロリジニルエチル、ピペラジニルエチルおよびモルホリニルエチルからなる群から選択される、化合物。
【請求項6】 請求項1に記載の化合物であって、ここで、R5およびR7のうちの少なくとも1つが、置換および非置換の、アリール、ヘテロアリールおよびビアリールからなる群より選択される、化合物。
【請求項7】 請求項6に記載の化合物であって、ここで、R5およびR7のうちの少なくとも1つが、以下の式:
【化3】
(式は省略)
の置換または非置換部分であり、
ここで、R10、R11、R12、R13およびR14は独立して、水素、ニトロ、アミノ、シアノ、ハロ、チオアミド、カルボキシル、ヒドロキシ、ならびに必要に応じて置換された、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルコキシアルキル、ハロ低級アルキル、ハロ低級アルコキシ、アミノアルキル、アルキルアミノ、アミノアルキルアルキニル、アルキルアミノアルキルアルキニル、アルキルチオ、アルキルカルボニルアミノ、アラルキルカルボニルアミノ、ヘテロアラルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、ヘテロアリールカルボニルアミノ、アミノカルボニル、低級アルキルアミノカルボニル、アミノアラルキル、低級アルキルアミノアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロへテロアリール、アラルキル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アラルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシアルキル、アルキルカルボニルオキシアルキル、ヘテロアリールカルボニルオキシアルキル、アラルキルカルボニルオキシアルキルおよびヘテロアラルキルカルボニルオキシアルキルからなる群から選択される、化合物。
【請求項8】 請求項7に記載の化合物であって、ここで、R10、R11、R13およびR14が水素であり、そしてR12がハロ、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、ハロ低級アルキル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニルおよびシアノからなる群から選択される、化合物。
【請求項9】 請求項7に記載の化合物であって、ここで、R11、R13、R14が水素であり、そしてR10およびR12が独立して、ハロ、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、ハロ低級アルキルおよびシアノからなる群から選択される、化合物。
【請求項10】 請求項7に記載の化合物であって、ここで、R10、R11、R13、およびR14が、水素であり、そしてR12が、ヘテロアリールである、化合物。
【請求項11】 請求項7に記載の化合物であって、ここで、R10、R11、R13、およびR14が、水素であり、そしてR12が、ヘテロシクロアルキルである、化合物。
【請求項12】 請求項7に記載の化合物であって、ここで、R10、R11、R12、R13、およびR14のうちの少なくとも1つが、ハロであり、そしてR10、R11、R12、R13、およびR14の残りが、水素である、化合物。
【請求項13】 請求項7に記載の化合物であって、ここで、R5およびR7のうち少なくとも1つは、ジクロロフェニル、ジフルオロフェニル、トリフルオロメチルフェニル、クロロフルオロフェニル、ブロモクロロフェニル、エチルフェニル、メチルクロロフェニル、イミダゾリルフェニル、シアノフェニル、モルホリノフェニルおよびシアノクロロフェニルからなる群から選択される、化合物。
【請求項14】 請求項1に記載の化合物であって、ここで、R15が低級アルキルである、化合物。
【請求項15】 請求項14に記載の化合物であって、ここで、R15が、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、n-ブチル、イソ-ブチルまたはt-ブチルからなる群から選択され得る、化合物。
【請求項16】 請求項1に記載の化合物であって、ここで、R15が、R16と一緒になって、以下の構造:
【化5】
(式は省略)
を有する基を形成する、化合物。
【請求項17】 請求項1に記載の化合物であって、ここで、R15が、R16と一緒になって、以下の構造:
【化6】
(式は省略)
を有する基を形成する、化合物。
【請求項18】 以下の構造:
【化7】
(式は省略)
を有する化合物またはその薬学的に受容可能な塩であって、
ここで、
Xが、窒素であり;
R1、R2、R3、およびR4は、水素、ヒドロキシル、ならびに必要に応じて置換された、低級アルキル、シクロ低級アルキル、環状アミノアルキル、アルキルアミノアルキル、低級アルコキシ、アミノ、アルキルアミノ、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アラルキルカルボニル、ヘテロアリールカルボニル、ヘテロアラルキルカルボニル、アリールおよびヘテロアリールからなる群より独立して選択され;
R5は、水素、ハロ、ならびに必要に応じて置換された、低級アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アミノ、アミノアルコキシ、アルキルアミノ、アラルキルアミノ、ヘテロアラルキルアミノ、アリールアミノ、ヘテロアリールアミノシクロイミド、ヘテロシクロイミド、アミジノ、シクロアミジノ、ヘテロシクロアミジノ、グアニジニル、アリール、ビアリール、ヘテロアリール、ヘテロビアリール、ヘテロシクロアルキル、およびアリールスルホンアミドからなる群より独立して選択され;
R6は、以下の構造:
【化8】
(式は省略)
を有するモノケトピペラジニル基であり、
ここで、R15およびR16は独立して、水素、低級アルキル、低級アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アリール低級アルキル、低級アルキルアリール低級アルキル、ハロ低級アルキル、ハロアリール低級アルキル、炭素環および複素環からなる群から選択されるか;または、R16は別のR16またはR15とともに、炭素環、複素環またはアリール環を形成し得;そしてoは1と6との間の整数であり;
R8およびR9は、水素、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、シアノ、ハロ、チオアミド、アミジノ、オキサミジノ、アルコキシアミジノ、イミジノ、グアニジニル、スルホンアミド、カルボキシル、ホルミル、低級アルキル、アミノ低級アルキル、低級アルキルアミノ低級アルキル、ハロ低級アルキル、低級アルコキシ、ハロ低級アルコキシ、低級アルコキシアルキル、低級アルキルアミノ低級アルコキシ、低級アルキルカルボニル、低級アラルキルカルボニル、低級ヘテロアラルキルカルボニル、アルキルチオ、アリール、および、アラルキルからなる群より独立して選択され;
R10、R11、R12、R13およびR14は独立して、水素、ニトロ、アミノ、シアノ、ハロ、チオアミド、カルボキシル、ヒドロキシ、ならびに必要に応じて置換された、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルコキシアルキル、ハロ低級アルキル、ハロ低級アルコキシ、アミノアルキル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アルキルカルボニルアミノ、アラルキルカルボニルアミノ、ヘテロアラルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、ヘテロアリールカルボニルアミノ、アミノカルボニル、低級アルキルアミノカルボニル、アミノアラルキル、低級アルキルアミノアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロへテロアリール、アラルキル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アラルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシアルキル、アルキルオキシカルボニルアルキル、ヘテロアリールカルボニルオキシアルキル、アラルキルカルボニルオキシアルキルおよびヘテロアラルキルカルボニルオキシアルキルからなる群から選択される、化合物。
【請求項19】 請求項18に記載の化合物であって、ここで、R8およびR9のうちの少なくとも1つが、ニトロ、アミノ、シアノ、トリフルオロメチル、および低級アルコキシからなる群より選択される、化合物。
【請求項20】 請求項18に記載の化合物であって、ここで、R1、R2、R3およびR4のうちの少なくとも1つが、非置換または置換の低級アルキル、ハロ低級アルキル、ヘテロシクロアミノアルキル、アミノ低級アルキルおよび低級アルキルアミノ低級アルキルからなる群より選択される、化合物。
【請求項21】 請求項18に記載の化合物であって、ここで、R1、R2、R3およびR4のうちの少なくとも1つが、低級アルキルアミノ低級アルキルである、化合物。
【請求項22】 請求項18に記載の化合物であって、ここで、R1、R2、およびR3が、水素であり、そしてR4が、水素、メチル、エチル、アミノエチル、ジメチルアミノエチル、ピリジルエチル、ピペリジニル、ピロリジニルエチル、ピペラジニルエチルおよびモルホリニルエチルからなる群から選択される、化合物。
【請求項23】 請求項18に記載の化合物であって、ここで、R5が、水素、ならびに置換および非置換の、アリール、ヘテロアリールおよびビアリールからなる群より選択される、化合物。
【請求項24】 請求項18に記載の化合物であって、ここで、R10、R11、R13およびR14が水素であり、そしてR12がハロ、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、ハロ低級アルキル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニルおよびシアノからなる群から選択される、化合物。
【請求項25】 請求項18に記載の化合物であって、ここで、R11、R13、R14が水素であり、そしてR10およびR12が独立して、ハロ、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、ハロ低級アルキル、アミノカルボニルおよびシアノからなる群から選択される、化合物。
【請求項26】 請求項18に記載の化合物であって、ここで、R10が水素またはハロであり、R11、R13、およびR14が、水素であり、そしてR12が、ヘテロアリールである、化合物。
【請求項27】 請求項18に記載の化合物であって、ここで、R10が水素またはハロであり、R11、R13、およびR14が、水素であり、そしてR12が、ヘテロシクロアルキルである、化合物。
【請求項28】 請求項18に記載の化合物であって、ここで、R10、R11、R12、R13、およびR14のうちの少なくとも1つが、ハロであり、そしてR10、R11、R12、R13、およびR14の残りが、水素である、化合物。
【請求項29】 請求項18に記載の化合物であって、ここで、R10、R11、R12、R13、およびR14が、構造IVのフェニル環と一緒になって、ジクロロフェニル、ジフルオロフェニル、トリフルオロメチルフェニル、クロロフルオロフェニル、ブロモクロロフェニル、エチルフェニル、メチルクロロフェニル、イミダゾリルフェニル、シアノフェニル、モルホリノフェニルおよびシアノクロロフェニルからなる群から選択される部分を形成する、化合物。
【請求項30】 請求項18に記載の化合物であって、ここで、R15が、低級アルキルである、化合物。
【請求項31】 請求項30に記載の化合物であって、ここで、R15が、メチル、 エチル、n-プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、n-ブチル、イソブチルおよびt-ブチルからなる群から選択され得る、化合物。
【請求項32】 請求項18に記載の化合物であって、ここで、R15が、R16と一緒になって、以下の構造:
【化9】
(式は省略)
を有する基を形成する、化合物。
【請求項33】 請求項18に記載の化合物であって、ここで、R15が、R16と一緒になって、以下の構造:
【化10】
(式は省略)
を有する基を形成する、化合物。
【請求項34】 以下の構造:
【化11】
(式は省略)
を有する化合物またはその薬学的に受容可能な塩であって、
ここで:
Xが、窒素であり;
R1、R2、R3、およびR4は、水素、ヒドロキシル、および必要に応じて置換された低級アルキル、シクロ低級アルキル、環状アミノアルキル、アルキルアミノアルキル、低級アルコキシ、アミノ、アルキルアミノ、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アラルキルカルボニル、ヘテロアリールカルボニル、ヘテロアラルキルカルボニル、アリールおよびヘテロアリールからなる群より独立して選択され;
R5は、水素、ハロ、および必要に応じて置換された低級アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アミノ、アミノアルコキシ、アルキルアミノ、アラルキルアミノ、ヘテロアラルキルアミノ、アリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、シクロイミド、ヘテロシクロイミド、アミジノ、シクロアミジノ、ヘテロシクロアミジノ、グアニジニル、アリール、ビアリール、ヘテロアリール、ヘテロビアリール、ヘテロシクロアルキル、およびアリールスルホンアミドからなる群より選択され;
R6は、以下の構造:
【化12】
(式は省略)
を有するモノケトピペラジニル基であり、
ここで、R15およびR16は独立して、水素、低級アルキル、低級アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アリール低級アルキル、低級アルキルアリール低級アルキル、ハロ低級アルキル、ハロアリール低級アルキル、炭素環および複素環からなる群から選択されるか;または、R16は別のR16またはR15とともに、炭素環、複素環またはアリール環を形成し得;そしてoは1と6との間の整数であり;
R8およびR9は、水素、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、シアノ、ハロ、チオアミド、アミジノ、オキサミジノ、アルコキシアミジノ、イミジノ、グアニジニル、スルホンアミド、カルボキシル、ホルミル、低級アルキル、アミノ低級アルキル、低級アルキルアミノ低級アルキル、ハロ低級アルキル、低級アルコキシ、ハロ低級アルコキシ、低級アルコキシアルキル、低級アルキルアミノ低級アルコキシ、低級アルキルカルボニル、低級アラルキルカルボニル、低級ヘテロアラルキルカルボニル、アルキルチオ、アリール、および、アラルキルからなる群より独立して選択され;そして
R10、R11、R12、R13およびR14は独立して、水素、ニトロ、アミノ、シアノ、ハロ、チオアミド、カルボキシル、ヒドロキシならびに必要に応じて置換される低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルコキシアルキル、ハロ低級アルキル、ハロ低級アルコキシ、アミノアルキル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アルキルアミノ、アラルキルアミノ、ヘテロアラルキルアミノ、アリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、アミノカルボニル、低級アルキルアミノカルボニル、アミノアラルキル、低級アルキルアミノアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロへテロアルキル、アラルキル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アラルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシアルキル、アルキルカルボニルオキシアルキル、ヘテロアリールカルボニルオキシアルキル、アラルキルカルボニルオキシアルキルおよびヘテロアラルキルカルボニルオキシアルキルからなる群から選択され、
R17は、水素、ニトロ、シアノ、アミノ、アルキル、ハロ、ハロ低級アルキル、アルキルオキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルスルホニルおよびアリールスルホニルからなる群より選択される、化合物。
【請求項35】 請求項34に記載の化合物であって、ここで、R8およびR9のうちの少なくとも1つが、ニトロ、アミノ、シアノ、トリフルオロメチル、および低級アルコキシからなる群より選択される、化合物。
【請求項36】 請求項34に記載の化合物であって、ここで、R1、R2、R3およびR4のうちの少なくとも1つが、非置換または置換の低級アルキル、ハロ低級アルキル、ヘテロシクロアミノアルキル、および低級アルキルアミノ低級アルキルからなる群より選択される、化合物。
【請求項37】 請求項34に記載の化合物であって、ここで、R1、R2、R3およびR4のうちの少なくとも1つが、低級アルキルアミノ低級アルキルである、化合物。
【請求項38】 請求項34に記載の化合物であって、ここで、R1、R2、およびR3が、水素であり、そしてR4が、水素、メチル、エチル、アミノエチル、ジメチルアミノエチル、ピリジルエチル、ピペリジニル、ピロリジニルエチル、ピペラジニルエチルおよびモルホリニルエチルからなる群から選択される、化合物。
【請求項39】 請求項34に記載の化合物であって、ここで、R10、R11、R13およびR14が水素であり、そしてR12がハロ、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、ハロ低級アルキル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニルおよびシアノからなる群から選択される、化合物。
【請求項40】 請求項34に記載の化合物であって、ここで、R11、R13、R14が水素であり、そしてR10およびR12が独立して、ハロ、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、ハロ低級アルキル、アミノカルボニルおよびシアノからなる群から選択される、化合物。
【請求項41】 請求項34に記載の化合物であって、ここで、R10が水素またはハロであり、R11、R13、およびR14が、水素であり、そしてR12が、ヘテロアリールである、化合物。
【請求項42】 請求項34に記載の化合物であって、ここで、R10が水素またはハロであり、R11、R13、およびR14が、水素であり、そしてR12が、ヘテロシクロアルキルである、化合物。
【請求項43】 請求項34に記載の化合物であって、ここで、R10、R11、R12、R13、およびR14のうちの少なくとも1つが、ハロであり、そしてR10、R11、R12、R13、およびR14の残りが、水素である、化合物。
【請求項44】 請求項34に記載の化合物であって、ここで、R10、R11、R12、R13、およびR14が、構造IVのフェニル環と一緒になって、ジクロロフェニル、ジフルオロフェニル、トリフルオロメチルフェニル、クロロフルオロフェニル、ブロモクロロフェニル、エチルフェニル、メチルクロロフェニル、イミダゾリルフェニル、シアノフェニル、モルホリノフェニルおよびシアノクロロフェニルからなる群から選択される部分を形成する、化合物。
【請求項45】 請求項34に記載の化合物であって、ここで、R15が低級アルキルである、化合物。
【請求項46】 請求項45に記載の化合物であって、ここで、R15が、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、n-ブチル、イソブチルまたはt-ブチルからなる群から選択される、化合物。
【請求項47】 請求項34に記載の化合物であって、ここで、R15が、R16と一緒になって、以下の構造:
【化13】
(式は省略)
を有する基を形成する、化合物。
【請求項48】 請求項34に記載の化合物であって、ここで、R15が、R16と一緒になって、以下の構造:
【化14】
(式は省略)
を有する基を形成する、化合物。
【請求項49】 薬学的に受容可能なキャリアとともに、ヒト被験体または動物被験体に投与される場合に該ヒト被験体または動物被験体におけるGSK3活性を調節するのに有効な量の請求項1に記載の化合物を含む、組成物。
【請求項50】 薬学的に受容可能なキャリアとともに、ヒト被験体または動物被験体に投与される場合に該ヒト被験体または動物被験体におけるGSK3活性を調節するのに有効な量の請求項18に記載の化合物を含む、組成物。
【請求項51】 薬学的に受容可能なキャリアとともに、ヒト被験体または動物被験体に投与される場合に該ヒト被験体または動物被験体におけるGSK3活性を調節するのに有効な量の請求項34に記載の化合物を含む、組成物。
【請求項52】 ヒト被験体または動物被験体におけるGSK3活性を阻害するための請求項49に記載の組成物。
【請求項53】 ヒト被験体または動物被験体におけるGSK3活性を阻害するための請求項50に記載の組成物。
【請求項54】 ヒト被験体または動物被験体におけるGSK3活性を阻害するための請求項51に記載の組成物。
【請求項55】 細胞を処理するための組成物であって、該組成物は、細胞中においてGSK3活性を阻害するのに有効量の請求項1に記載の化合物を含有する、組成物。
【請求項56】 細胞を処理するための組成物であって、該組成物は、細胞中においてGSK3活性を阻害するのに有効量の請求項18に記載の化合物を含有する、組成物。
【請求項57】 細胞を処理するための組成物であって、該組成物は、細胞中においてGSK3活性を阻害するのに有効量の請求項34に記載の化合物を含有する、組成物。
【請求項58】 ヒト被験体または動物被験体におけるGSK3媒介障害を処置するための組成物であって、該組成物は、該被験体におけるGSK3活性を阻害するのに有効な量で投与するのに適切である、組成物。
【請求項59】 請求項58に記載の組成物であって、該組成物が、経口投与、皮下投与、経皮投与、経粘膜投与、イオン導入投与、静脈内投与、硬膜下腔内投与、頬腔投与、舌下投与、鼻腔内投与、および直腸投与からなる群から選択される、投与形態によって投与される、組成物。
【請求項60】 請求項58に記載の組成物であって、前記GSK3媒介障害が、糖尿病、アルツハイマー病、肥満症、アテローム性動脈硬化心臓血管疾患、本態性高血圧症、多嚢胞性卵巣症候群、症候群X、虚血、外傷性脳損傷、双極性障害、免疫欠損および癌からなる群から選択される、組成物。
【請求項61】 請求項60に記載の組成物であって、該組成物は、1以上のさらなる活性剤を含有する、組成物。
【請求項62】 請求項61に記載の組成物であって、前記GSK3媒介障害が、糖尿病であり、そして前記さらなる活性剤が、インスリン、トログリタゾン、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、グリピジドおよびメトホルミンからなる群から選択される、組成物。
【請求項63】 医薬として使用するための、請求項1、18または34に記載の化合物。
【請求項64】 以下を処置するための医薬の製造における、請求項1、18または34に記載の化合物の使用:糖尿病、アルツハイマー病、肥満症、アテローム性動脈硬化心臓血管疾患、本態性高血圧症、多嚢胞性卵巣症候群、症候群X、虚血、外傷性脳損傷、双極性障害、免疫欠損または癌。」

4.特許法36条4項への適合性について

(1)特許法36条4項の規定
特許法36条4項は「発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」と規定する。発明の実施とは,物の発明の場合には,その物の生産,使用等をいい,方法の発明の場合には,その方法の使用をいうと解されている。 したがって,明細書の発明の詳細な説明の記載が36条4項の規定に適合するためには,請求項に物の発明が記載されている場合には,明細書の記載に基づき,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)がその物を生産でき,使用できる程度の記載が必要であり,請求項に方法の発明が記載されている場合には,その方法を使用できる程度の記載が必要であるといえる。
そして,一般に,化合物の構造からその薬理作用を予測することは困難であるから,ある化合物の特定の薬理作用を利用して医薬として用いるための組成物の発明,いわゆる医薬用途発明の場合,その医薬組成物を使用できるというためには,通常は当該薬理作用を確認した薬理試験の結果などを記載して,当該有効成分が実際に目的とする薬効を示すものであると当業者が客観的に理解できるように明細書に記載されている必要がある。

(2)特許法36条4項への適合性の判断
上記(1)をふまえ,本願明細書の発明の詳細な説明の36条4項への適合性を以下で検討する。

(2-1)
本願明細書の請求項の上記記載からみて,請求項1?48,63に記載された発明は化合物の発明であると認められるので,まず,これら請求項に記載された発明についての本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討する。

本願明細書の【0030】に列挙されている化合物名の中には,以下の化合物名の記載がある。

(ア) 「1-[2-{[2-({6-アミノ-5-[ヒドロキシ(オキシド)アミノ]-2-ピリジニル}アミノ)エチル]アミノ}-4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-ピリミジニル]-2-ピペラジノン」(以下,「例示化合物1」という。)
「1-[6-{[2-({6-アミノ-5-[ヒドロキシ(オキシド)アミノ]-2-ピリジニル}アミノ)エチル]アミノ}-2-(2,4-ジクロロフェニル)-3-ピリジニル]-4-メチル-2-ピペラジノン」(以下,「例示化合物2」という。)

本願明細書には,以下のピペラジン環を有する化合物の実施例が記載されている。

(イ) 「【0362】
(実施例93)
([4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-ピペラジニルピリミジン-2-イル]{2-[(5-ニトロ(2-ピリジル))アミノ]エチル}アミンの調製)
【0363】
【化109】
(式は省略)
(1.tert-ブチル 4-[2-(2,4-ジクロロフェニル)-2-オキソエチル]ピペラジンカルボキシレートの調製)
DMF中の1mmolの2,4-ジクロロフェナシルクロライドを、DMF中の1.mmolのtert-ブチルピペラジンカルボキシレートおよび1.2mmolのCs2CO3に、室温で14時間滴下した。この反応混合物を真空中で濃縮し、そして水およびエチルアセテートで希釈した。この溶液をエチルアセテートで3回抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、そして50%エチルアセテートおよび50%ヘキサンを用いて溶出するカラムクロマトグラフィーによって精製し、tert-ブチル 4-[2-(2,4-ジクロロフェニル)-2-オキソエチル]ピペラジンカルボキシレートを得た。
(途中略)
【0365】
(3.tert-ブチル 4-[4-(2,4-ジクロロフェニル)-2-({2-[(5-ニトロ(2-ピリジル))アミノ]エチル}アミノ)ピリミジン-5-イル]ピペラジンカルボキシレートの調製)
1mmolのtert-ブチル 4-{2-(2,4-ジクロロフェニル)-1-[(ジメチルアミノ)メチレン]-2-オキソエチル}ピペラジンカルボキシレート、1mmolのアミノ{2-[(5-ニトロ(2-ピリジル))アミノ]-エチル}カルボキサミジンおよび3mmolのCs2CO3を、DMF中に溶解させ、90℃まで14時間加熱した。この反応混合物を真空中で濃縮し、そして水およびエチルアセテートで希釈した。この溶液をエチルアセテートで3回抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、そして5%?10%メタノール/メチレンクロライドを用いて溶出するカラムクロマトグラフィーによって精製し、tert-ブチル 4-[4-(2,4-ジクロロフェニル)-2-({2-[(5-ニトロ(2-ピリジル))アミノ]エチル}アミノ)ピリミジン-5-イル]ピペラジンカルボキシレートを得た。
【0366】
(4.[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-ピペラジニルピリミジン-2-イル]{2-[(5-ニトロ(2-ピリジル))アミノ]エチル}アミンの調製)
1mmolのtert-ブチル 4-[4-(2,4-ジクロロフェニル)-2-({2-[(5-ニトロ(2-ピリジル))アミノ]エチル}アミノ)ピリミジン-5-イル]ピペラジンカルボキシレートを、MeOH中の3MのHCl中で、60℃まで1時間加熱し、そして真空中で濃縮し、[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-ピペラジニルピリミジン-2-イル]{2-[(5-ニトロ(2-ピリジル))アミノ]エチル}アミンを得た。
【0367】
HPLC:7.683分(純度100%)
MS:MH+=489.1。
【0368】
(実施例94)
(1-[2-({2-[(6-アミノ-5-ニトロ(2-ピリジル))アミノ]エチル}アミノ)-4-(2,4-ジクロロフェニル)ピリミジン-5-イル]-4-メチルピペラジン-2,6-ジオンの調製)
(途中略)
【0374】
(6.1-[2-({2-[(6-アミノ-5-ニトロ(2-ピリジル))アミノ]エチル}アミノ)-4-(2,4-ジクロロフェニル)ピリミジン-5-イル]-4-メチルピペラジン-2,6-ジオンの調製)
1mmolの[5-アミノ-4-(2,4-ジクロロフェニル)ピリミジン-2-イル]{2-[(6-アミノ-5-ニトロ(2-ピリジル))アミノ]エチル}アミンおよび2mmolのメチルイミノ二酢酸、4mmolのHBTUおよび5mmolのN,N-ジイソプロピルエチルアミンを溶液に添加し、室温で6時間攪拌した。この反応混合物を真空中で濃縮し、そして水およびエチルアセテートで希釈した。この溶液をエチルアセテートで3回抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、そして5%?10%メタノール/メチレンクロライドを用いて溶出するカラムクロマトグラフィーによって精製し、1-[2-({2-[(6-アミノ-5-ニトロ(2-ピリジル))アミノ]エチル}アミノ)-4-(2,4-ジクロロフェニル)ピリミジン-5-イル]-4-メチルピペラジン-2,6-ジオンを得た。
【0375】
HPLC:7.560分(純度99%)
MS:MH+=546.1。」

本願明細書の実施例265には,無細胞アッセイを使用する、GSK3阻害活性についてのスクリーニング方法を説明する記載に続き,以下の記載がある。

(ウ) 「【0863】
次いで、本発明の化合物は、このアッセイに従って、GSK3に対する阻害性活性をスクリーニングされる。以下の化合物が、この無細胞アッセイにおいて、GSK3に関して、10μM以下のIC50を示した:(4-フェニルピリミジン-2-イル)(2-(2-ピリジル)エチル)アミン、・・・
(途中略)
1-[2-{[2-({6-アミノ-5-[ヒドロキシ(オキシド)アミノ]-2-ピリジニル}アミノ)エチル]アミノ}-4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-ピリミジニル]-2-ピペラジノン,・・・
(途中略)
1-[6-{[2-({6-アミノ-5-[ヒドロキシ(オキシド)アミノ]-2-ピリジニル}アミノ)エチル]アミノ}-2-(2,4-ジクロロフェニル)-3-ピリジニル]-4-メチル-2-ピペラジノン,・・・
(途中略)
【0865】
従って、これらの結果は、本発明の化合物が、GSK3に対して阻害性活性を示すことを実証する。」

請求項1において,一般式中のWが炭素または窒素であり,X,Yはともに窒素であり,Aは式(II)で表される2-ピリジル基であり,基R6は【化4】で表されるモノケトピペラジニル基であると定義されているから,請求項1に記載された発明の化合物は,Wが窒素または炭素である場合に応じて,それぞれ,(a)2-(2-ピリジルアミノエチルアミノ)-5-(2-ピペラジノン)-ピリミジン部分構造または(b)2-(2-ピリジルアミノエチルアミノ)-5-(2-ピペラジノン)-ピリジン部分構造を有するとともに,請求項中に定義された縮合や置換基を有する場合があるものと認められる。また,請求項18に記載された化合物は,上記2種類の化学構造のうち,上記(a)の構造を有し,請求項34に記載された化合物は上記(b)の構造を有するものであると認められる。
本願明細書の記載をみると,上記(ア)に記載された例示化合物1は,請求項1及び18に記載された化合物の定義に該当し,例示化合物2は請求項1及び34の定義に該当するものであると認められ,本願明細書には,請求項1,18及び34に記載された化合物の定義に該当する化合物の名称が記載されているということはできる。
しかし,本願明細書における化合物の製造に関する記載を検討すると,上記例示化合物1,2を実際に製造した実施例は記載されておらず,上記(a)または(b)の構造を有する化合物を製造した実施例は一切記載されていない。
また,本願明細書におけるその他のピペラジン環構造を有する化合物の製造に関する記載をみると,(イ)で指摘した(実施例93)には,([4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-ピペラジニルピリミジン-2-イル]{2-[(5-ニトロ(2-ピリジル))アミノ]エチル}アミンを調製した参考例が記載され,(実施例94)には,(1-[2-({2-[(6-アミノ-5-ニトロ(2-ピリジル))アミノ]エチル}アミノ)-4-(2,4-ジクロロフェニル)ピリミジン-5-イル]-4-メチルピペラジン-2,6-ジオンを製造した参考例が記載されている。
実施例93の化合物は,ピペラジン環の炭素原子に置換基を有しておらず,請求項1に記載された一般式におけるR6が環炭素原子上にオキソ基を有しない点で,本願請求項1に記載の化合物とは相違する。実施例93の化合物の製造においては,ピペラジン環を有し,ピリミジン環を有していない化合物であるtert-ブチルピペラジンカルボキシレートから出発して,tert-ブチル 4-{2-(2,4-ジクロロフェニル)-1-[(ジメチルアミノ)メチレン]-2-オキソエチル}ピペラジンカルボキシレートを得て,これをアミノ{2-[(5-ニトロ(2-ピリジル))アミノ]-エチル}カルボキサミジンと反応させ,ピリミジン環を形成することによって,tert-ブチル 4-[4-(2,4-ジクロロフェニル)-2-({2-[(5-ニトロ(2-ピリジル))アミノ]エチル}アミノ)ピリミジン-5-イル]ピペラジンカルボキシレートを製造している。本願明細書には,この反応に準じて,実施例93に記載された化合物のピペラジン環に対応する置換基としてモノケトピペラジン構造を有する化合物を製造する場合に,どのような中間体を用いて,どのような反応条件で反応を行えばよいのかを説明する記載はない。また,実施例93に記載された化合物のように,オキソ基を有していないピペラジン化合物から,どのようにすれば他の置換基に影響を与えずにピペラジン環上の炭素原子の2位に1個だけオキソ基を導入することができるのか,その方法を説明する記載はない。
実施例94の化合物は,ピペラジン環の炭素原子にオキソ基が結合したケトピペラジン構造を有しているが,ピペラジン環の炭素原子に2個のオキソ基が置換しており,当該基が1個のみである(a)の構造を有する請求項1及び18に記載された化合物とは相違する。実施例94に記載された製造方法では,ピペラジン環の形成をピリミジン中間体の5-位に結合したアミノ基とメチルイミノ二酢酸の二つのカルボキシル基の反応によって行った結果,メチルイミノ二酢酸の2つのカルボキシル基に対応して2つのオキソ基を有するピペラジン環構造が生じており,メチルイミノ二酢酸の代わりにカルボキシル基が1個の化合物を用いると,ピペラジン環の環構造に閉環することができないため,原料化合物を選択してこの実施例の反応を行っても,モノケトピペラジン環構造を有する化合物を得ることはできない。
本願明細書全体の記載をみても,上記(a)のモノケトピペラジン環構造が結合するピリミジン環上の2位に特定の置換基が結合した構造を有する化合物を製造するための原料化合物,反応の順序や条件等の記載はなく,本願明細書には何らの手がかりとなる記載もないといわざるを得ない。出願時の技術常識を考慮しても,このような本願明細書の記載に基づき(a)の構造を有する請求項1,18に記載された化合物を製造するには,当業者に通常期待される程度をこえる試行錯誤を要するものであって,請求項1,18に記載された化合物を製造することができるように本願明細書の発明の詳細な説明に明確かつ十分な記載がされているとはいえない。
また,本願明細書の記載を検討しても,上記(b)の構造を有する請求項34に記載された化合物を製造するための手がかりとなるような記載が見出せず,出願時の技術常識を考慮しても,当業者に通常期待される程度の試行錯誤をこえる負担なしには本願明細書の記載に基づき,請求項34に記載されたモノケトピペラジン環構造を有する化合物を製造できるとはいえないから,本願明細書の発明の詳細な説明には請求項34に記載された化合物を製造できる程度の記載がされているとはいえない。
請求項2?17,19?33,35?48,63に記載された発明も,請求項1,18,34を直接または間接的に引用して記載され,上記(a)または(b)のいずれかの構造を有する化合物の発明であるから,本願明細書の発明の詳細な説明に当業者が請求項2?17,19?33,35?48,63に記載された化合物を製造できる程度の記載がされているとはいえない。

(2-2)次に,請求項49?57,64に記載された発明について,本願明細書の発明の詳細な説明の記載の36条4項への適合性を検討する。ここで,請求項の上記記載からみて,請求項49?57,64に記載された発明は,化合物の特定の薬理作用を利用した医薬用途発明であると認められる。

i) 上記(2-1)でのべたように,出願時の技術常識を考慮しても,本願明細書の発明の詳細な説明には,請求項1,18,34に記載された化合物を製造して入手できる程度に記載されているとはいえないのであるから,これら請求項を直接または間接的に引用し,当該化合物を含む組成物の発明として記載された請求項49?57に記載された発明についても,本願明細書の発明の詳細な説明にその物を製造できるように記載されているとはいえない。同様に,請求項1,18,34に記載された化合物を使用する請求項64に記載された医薬の製造における化合物の使用の発明について,当該発明に使用される化合物を入手できるように本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていないのであるから,本願明細書の発明の詳細な説明には,請求項64に記載された発明を使用できる程度の記載がされているとはいえない。

ii) 請求項49?57,64に記載された発明のような医薬用途発明については,明細書に当該組成物または医薬が目的とする薬効を発揮し,その医薬用途に使用できる程度の記載をする必要があり,通常は,化合物が特定の薬理作用を示し,目的とする薬効を示すことを確認した薬理試験等の結果を記載して,当業者が客観的に理解できるように明細書に記載する必要がある点については,(1)ですでに述べたとおりである。
そこで,さらに,請求項49?57に記載された組成物及び請求項64における医薬について,本願明細書における薬効の客観的な評価に関する記載を検討する。
上記(2-1)(ウ)で指摘した本願明細書の実施例256には,【0863】の「次いで、本発明の化合物は、このアッセイに従って、GSK3に対する阻害性活性をスクリーニングされる。以下の化合物が、この無細胞アッセイにおいて、GSK3に関して、10μM以下のIC50を示した:」との記載に続いて,請求項1に記載された化合物に該当する化合物とその他の化合物の名称が公表公報の頁数にして14頁に亘って列挙されている。
上記実施例256の記載は,その評価結果がIC50で10μM以下という上限で規定された数値範囲で記載されているが,本願明細書には,請求項49?57,64に記載された医薬用途において,10μM以下のIC50が薬効の評価上どの程度の意味をもつのかについて説明する記載がなく,【0119】に化合物を治療的有効量で投与する場合の量について,約0.1mg/kg/日?約100mg/kg/日という漠然とした記載があるにとどまる。
出願人は平成20年7月10日に提出した手続補正書によって補正した審判請求書において,実施例256に記載された化合物についてのIC50の具体的な値を提示しているが,これらの値は,0.01μMのオーダーのものが大部分であり,本願明細書に記載された10μM以下という記載から認識できる範囲の数値ではない。したがって,審判段階で具体的IC50の数値が明らかにされたことをもって,請求項1に記載された化合物が実際にGSK阻害作用を有し,当該化合物を医薬の有効成分とした場合に所期の薬効を示すと客観的に判断することができるように本願明細書に記載されているということはできない。
したがって,本願明細書の発明の詳細な説明には,医薬用途発明である請求項49?57に記載された発明の組成物及び請求項64における医薬の製造のための使用方法が使用できる程度の記載がされているとはいえない。

(3)特許法36条4項への適合性についてのむすび
本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,請求項1?57,63?64に記載された発明について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから,特許法36条4項の規定に適合するものではない。

5.特許法36条6項1号への適合性について

(1)特許法36条6項1号の規定
特許法36条6項1号は,特許請求の範囲の請求項に記載された発明について,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」を求めている。36条6項1号の規定の適合性,いわゆる明細書のサポート要件については,以下のように解されている。
「特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(特許拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の原告)又は特許権者(平成15年法律第47号附則2条9項に基づく特許取消決定取消訴訟又は特許無効審判請求を認容した審決の取消訴訟の原告,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の被告)が証明責任を負うと解するのが相当である。」(平成17年11月11日知的財産高等裁判所判決(平成17年(行ケ)第10042号特許取消決定取消請求事件))

(2)特許法36条6項1号への適合性の判断
上記5.(1)をふまえ,本願明細書の特許請求の範囲の記載の36条6項1号への適合性を,以下で検討する。

(2-1)
本願明細書の請求項の上記記載からみて,請求項1?48,63に記載された発明は化合物の発明であると認められるので,まず,これら請求項に記載された発明について36条6項1号への適合性を検討する。
本願明細書には,以下の記載がある。

(エ)「【0001】
(発明の分野)
本発明は、グリコゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)の活性を阻害する、新規なピリミジン誘導体およびピリジン誘導体に関し、そしてこの化合物を含む薬学的組成物に関し、そしてこの化合物および組成物を、単独でかまたは他の薬学的に活性な因子と組合せて使用することに、関する。本発明により提供される化合物および組成物は、GSK3活性により媒介される障害(例えば、糖尿病、アルツハイマー病および他の神経変性障害、肥満、アテローム性動脈硬化症性心血管疾患、本態性高血圧症、多嚢胞性卵巣症候群、X症候群、虚血(特に大脳虚血)、外傷性脳損傷、双極性障害、免疫不全、ならびに癌)の処置において有用性を有する。」

請求項1?48,63において,化合物自体の発明が記載されていること及び本願明細書の上記(エ)に「グリコゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)の活性を阻害する、新規なピリミジン誘導体およびピリジン誘導体に関し」と記載されていることからみて,当該請求項に記載された発明は,グリコゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)の活性を阻害する医薬への応用が期待される新規化合物を提供するという課題を解決しようとしたものであると認められる。
上記課題に対し,本願明細書には,本願明細書に参考例として記載された実施例2?255に,化合物の製造を記載した具体的製造例が記載されている。これら製造例に記載された化合物は,請求項1?48,63に記載された化合物の定義には該当しないものである。そして,出願時の技術常識を考慮しても,本願明細書に記載された化合物の製造方法を請求項1?48,63に記載された化合物の製造に適用することができない点については,すでに上記4.(2)(2-1)においてのべたとおりである。
このように,請求項1?48,63において定義された構造を有する化合物は,発明の詳細な説明の記載から,実際に提供可能なものとして当業者が認識することができないものであるから,請求項1?48,63に記載された化合物の発明は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者がグリコゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)の活性を阻害する医薬としての有用性が期待される新規化合物を提供するという課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできず,また,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。

(2-2)次に,請求項49?57,64に記載された医薬用途発明について,36条6項1号への適合性を検討する。
請求項49?57,64の記載及び本願明細書の上記5.(2)(2-1)(エ)で指摘した記載からみて,請求項49?57,64に記載された発明は,請求項1,18,34に定義された化学構造を有する化合物のグリコゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)の活性を阻害する薬理作用を利用して,GSK3活性により媒介される障害である糖尿病などを処置するために用いる医薬を提供するという課題を解決しようとしたものと認められる。
しかし,上記4.(2)(2-2)i)でのべたように,請求項49?57,64に記載された医薬用途発明における化合物を入手することができるような記載が本願明細書においてされていないのであり,上記4.(2)(2-2)ii)でのべたように,請求項49?57,64に記載された発明における化合物が実際にGSK阻害作用を有し,当該化合物を医薬の有効成分とした場合に所期の薬効を示すと客観的に判断することができるように本願明細書に記載されていないのであるから,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から,請求項49?57に記載された医薬組成物及び請求項64に記載された化合物の使用によって,GSK3活性により媒介される障害である糖尿病などを処置するための医薬を提供するという課題を解決できると当業者に認識できるということはできず,また,請求項49?57に記載された医薬組成物及び請求項64に記載された化合物の使用によって,当該課題を解決できることが出願時の技術常識から当業者に認識できるということもできない。
したがって,請求項49?57,64に記載された発明は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当該発明の課題を解決できると当業者に認識できる範囲のものでなく,また,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。

(3)36条6項1号への適合性についてのむすび
請求項1?57,63?64に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明における課題を解決できると認識することができる範囲のものでなく,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないから,本願明細書の特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号に適合するものではない。

6.むすび
以上のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法36条4項に適合するものでなく,また,特許請求の範囲の記載は同条6項1号に適合するものではないから,本願は特許法36条4項及び同条6項に規定する要件を満たしていない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-19 
結審通知日 2011-07-20 
審決日 2011-08-04 
出願番号 特願2002-525117(P2002-525117)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C07D)
P 1 8・ 536- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新留 素子岡部 佐知子榎本 佳予子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 松本 直子
齋藤 恵
発明の名称 グリコゲンシンターゼキナーゼ3のインヒビター  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 安村 高明  

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