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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C |
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管理番号 | 1248505 |
審判番号 | 不服2008-16772 |
総通号数 | 146 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-02-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-07-02 |
確定日 | 2011-12-15 |
事件の表示 | 平成10年特許願第 23091号「6-ビニル-2-t-ブトキシナフタレン及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月17日出願公開、特開平11-222452〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成10年2月4日の出願であって,平成20年2月15日付けで拒絶理由が通知され,同年4月25日に意見書が提出され,同年5月26日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年7月2日に審判が請求され,同年9月24日に審判請求書の手続補正書及び手続補足書が提出され,平成23年7月15日付けで当審において拒絶理由が通知され,同年9月16日に意見書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1,2に係る発明は,本願の願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」といい,上記明細書を「本願明細書」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】下式(1) 【化1】 で表される6-ビニル-2-t-ブトキシナフタレン。」 第3 当審における拒絶の理由の概要 当審における拒絶の理由の概要は,本願発明は,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が日本国内において頒布された下記の刊行物1又は2に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,との理由を含むものである。 第4 刊行物及びその記載事項 刊行物1,2は次のとおりであって,以下の事項が記載されている。 刊行物1:特開平8-259468号公報(当審拒絶理由の刊行物1) 刊行物2:特開平4-330020号公報(当審拒絶理由の刊行物2) (1)刊行物1 (1a)「【請求項1】 式(I) 【化1】 [式中、R^(1a) ?R^(7a) は、互いに独立して、水素、C_(1)-C_(8)-アルキル、アルコキシ-(C_(1)-C_(8))、・・・ R^(8a) は水素、・・・であり、R^(9a) 及びR^(10a)は、互いに独立して、水素、・・・である]で表される単官能、二官能及び多官能芳香族オレフィンを、式(II)【化3】 で表されるハロゲン化芳香族化合物と式(III) 【化4】 で表されるオレフィン:[ 上記両式中、R^(1a )?R^(10a)は上記で定義される通りであり、この際基R^(1a )?R^(7a) のうちの一つはX であってもよく、そしてX はヨウ素、臭素、塩素、・・・である]とを反応させることによって製造する方法であって、式(IV) 【化5】 [ 式中、・・・である]で表されるパラジウム化合物を触媒として使用する上記方法。」 (1b)「【0002】 【従来の技術】芳香族オレフィンは、ファインケミカル、ポリマーのための出発材料、紫外線吸収剤及び活性化合物の前駆体として工業的に重要である。」 (1c)「【0016】本方法は、式(I) 中、基R^(1a) ?R^(7a )のうちの4個、特に5個、好ましくは6個の基が水素である式(I) の化合物の製造に対して特に興味が持たれる。これらのうちで、特に、アルキルオキシビニルナフタレン、ヒドロキシビニルナフタレン、アシルオキシビニルナフタレン、4- (ヒドロキシナフチル) ブト-3- エン(but-3-en)-2- オン、4- (アルコキシナフチル) ブト-3- エン-2- オン、4- (アシルオキシナフチル) ブト-3- エン-2- オン、及び特に6-メトキシ-2- ビニルナフタレン及び4-(6- メトキシナフチル) ブト-3- エン-2- オンの合成が工業的に非常に重要である。」 (1d)「【0026】 ・・・ 実施例2: 2-ビニル-6- メトキシナフタレンの製造 2-ブロモ-6- メトキシナフタレン23.7g(100mmol)をN,N-ジメチルアセトアミド150ml 中に溶解する。2,6-ジ-tert.- ブチルフェノール1mg、NaOAc10g (1.2eq)及びパラダサイクル50mgを添加する。この溶液をV4A 撹拌オートクレーブに移しそして転化が完了するまで20bar のエチレン圧下に140 ℃の温度下に撹拌する。 時間: 10?16時間 転化率: > 95% (GC) 収率: 89% 仕上げ: 室温まで冷却した後、固形物を濾別しそしてDMAc20mlを用いて洗浄する。生成物を、5%HCl 200 ?400ml を用いて母液から析出させる。HCl を添加する間は、この溶液を室温に維持しなければならない。その析出した固形物をMeOHを用いて数回に分けて洗浄しそして高度減圧下に乾燥する。」 (2)刊行物2 (2a)「【請求項1】式: [式中、Rはフッ化水素と反応しないオルトーパラ指向性電子供与基である]で示される2-置換ナフタレン化合物からの6-置換-2-ビニルナフタレンの製造方法であって、次の工程:前記ナフタレンとアシル化剤との混合物を実質的に無水のフッ化水素と、40℃?100℃の温度において、ナフタレン化合物を6-置換-2-アシルナフタレンに実質的に完全にアシル化するために充分な時間、接触させる工程;前記6-置換-2-アシルナフタレン化合物を水素化してカルボニル置換基をヒドロキシ部分に転化させる工程;前記水素化生成物をフリーラジカル抑制剤の存在下で脱水して前記ヒドロキシ部分をオレフィン置換基に転化させる工程;及び脱水後に形成された6-置換-2-ビニルナフタレンを単離する工程を含む方法。」 (2b)「【0006】 6-置換-2-ビニルルナフタレンも芳香族ポリマーの形成のモノマー先駆体として有望な用途を有しているのみでなく、薬剤学的用途及び種々な化学薬品の先駆体としての用途も有している。」 (2c)「【0015】 ・・・本発明の方法のこの初期段階に最も有用な出発物質は式: 【0016】 【0017】[式中、Rはヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、フェノキシ、低級アルキルチオ及びハロから成る群の要素である]によって特徴づけられる。 【0018】 ・・・ 【0019】低級アルコキシはメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソ-プロポキシ、n-ブトキシ、sec-ブトキシ、イソ-ブトキシ及びtert-ブトキシから成る群の要素であることを意味する。」 (2d)「【0040】実施例 段階1:6-メトキシ-2-アセトナフトンの製造 ・・・に2-メトキシナフタレン・・・得た。この固体を氷酢酸と水によって再結晶して、純粋な6-メトキシ-2-アセトナフトン(376g)を得た。 【0041】段階2:1-(6’-メトキシ-2’-ナフチル)エタノールの製造 ・・・1-(6’-メトキシ-2’-ナフチル)エタノール(57g)を得た。 【0042】段階3:6-メトキシ-2-ビニルナフタレンの製造 ・・・6-メトキシ-2-ビニルナフタレン(6.7g)を得た。」 第5 当審の判断 1 刊行物1,2に記載された発明 (1)刊行物1に記載された発明 刊行物1には,式(I)で表される単官能,二官能及び多官能芳香族オレフィンについて記載され(摘示(1a)),式(I)の化合物として,アルキルオキシビニルナフタレン,特に6-メトキシ-2-ビニルナフタレン等の合成が工業的に非常に重要であることが記載される(摘示(1c))とともに,2-ビニル-6-メトキシナフタレンを製造する実施例(摘示(1d))が記載されている。 そうしてみると,刊行物1には, 「2-ビニル-6-メトキシナフタレン」 の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 (2)刊行物2に記載された発明 刊行物2には,「6-置換-2-ビニルナフタレン」について記載される(摘示(2a))とともに,6-メトキシ-2-ビニルナフタレンを製造する実施例(摘示(2d))が記載されている。 そうしてみると,刊行物2には, 「6-メトキシ-2-ビニルナフタレン」 の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているといえる。 2 対比・判断 (1)本願発明と引用発明1との対比・判断 引用発明1は,「2-ビニル-6-メトキシナフタレン」であるが,この化合物は,その対称性からして,「6-ビニル-2-メトキシナフタレン」とも言い換えられる。 そこで,本願発明と引用発明1とを対比すると,6-ビニル-ナフタレンにおいて,その2位の置換基である,「t-ブトキシ」も「メトキシ」も「アルコキシ」であるから,両者は, 「6-ビニル-2-アルコキシナフタレン」 である点で一致し,次の(i)の点で相違する。 (i)「アルコキシ」が,本願発明においては「t-ブトキシ」であるのに対し,引用発明1においては「メトキシ」である点 これを検討するに,刊行物1には,ナフタレンの2位に関する置換基として,「式中、R^(1a )?R^(7a) は、互いに独立して,水素,C_(1)-C_(8)-アルキル,アルコキシ-(C_(1)-C_(8))」なる説明がされている(摘示(1a))。 この説明の「アルコキシ-(C_(1)-C_(8))」という記載から,炭素数が1?8のアルコキシ基は同等の置換基として採用できるものと解され,その中には,当然に「メトキシ」も「t-ブトキシ」も含まれるのであるから,引用発明1において,「メトキシ」を,これと同等の置換基といえる「t-ブトキシ」に代えることは,当業者にとって容易になし得たことと認められる。 (2)本願発明と引用発明2との対比・判断 引用発明2は,「6-メトキシ-2-ビニルナフタレン」であって,この化合物は,その対称性からして,「6-ビニル-2-メトキシナフタレン」とも言い換えられる。 そこで,本願発明と引用発明2とを対比すると,両者は,(1)と同様に, 「6-ビニル-2-アルコキシナフタレン」 である点で一致し,(1)と同様の次の(i’)の点で相違する。 (i’)「アルコキシ」が,本願発明においては「t-ブトキシ」であるのに対し,引用発明2においては「メトキシ」である点 これを検討するに,刊行物2には,ナフタレンの2位の置換基である基Rについて,「式中、Rはヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、フェノキシ、低級アルキルチオ及びハロから成る群の要素である」こと,「低級アルコキシはメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソ-プロポキシ、n-ブトキシ、sec-ブトキシ、イソ-ブトキシ及びtert-ブトキシから成る群の要素であること」が記載され(摘示(2c)),「メトキシ」と「tert-ブトキシ」は同等に採用できる置換基として記載されているから,引用発明2において,「メトキシ」を,これと同等の置換基である「t-ブトキシ」に代えることは,当業者にとって容易になし得たことと認められる。 3 効果について 本願明細書の段落【0001】の「本発明は、医農薬、機能性高分子等の原料として有用と期待される6-ビニル-2-t-ブトキシナフタレン(以下、VTBNと略記する)とその製造方法に関する。例えば、VTBNと類似の構造を有する化合物としてパラ-第3級ブトキシスチレンが知られている。該化合物は、医農薬、機能性高分子等の原料として有用であり、特にレジスト原料として非常に注目されている(特開昭59-199705号公報、特開平3-277608号公報)。VTBNも同様の分野への展開が期待でき、特にレジスト原料としての用途では遠紫外線吸収特性、耐熱性、エッチング耐性等の物性の改善が期待される。」との記載,同【0025】の「本発明で得られるVTBNは、医農薬、機能性高分子等の原料として有用と期待される。」との記載から,本願発明の効果は,「医農薬、機能性高分子等の原料として有用と期待され」,「特にレジスト原料としての用途では遠紫外線吸収特性、耐熱性、エッチング耐性等の物性の改善が期待される。」ものであるといえる。 しかしながら,上述の本願発明の効果は,いずれも本願発明の化合物の有用性が「期待される」というにとどまり,具体的にその有用性の効果を確認したものではないので,上述の本願発明の効果を格別顕著なものと認めることができない。 さらに,刊行物1には,「芳香族オレフィンは、ファインケミカル、ポリマーのための出発材料、紫外線吸収剤及び活性化合物の前駆体」として有用であること(摘示(1b)),刊行物2には,「芳香族ポリマーの形成のモノマー先駆体として有望な用途を有しているのみでなく、薬剤学的用途及び種々な化学薬品の先駆体としての用途も有している」こと(摘示(2b))が,それぞれ記載されているから,本願発明の「医農薬、機能性高分子等の原料として有用と期待され」るとの効果は,これらの刊行物の記載からも当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。 4 まとめ したがって,本願発明は,その出願前に当業者が日本国内において頒布された刊行物1又は2に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。 第6 請求人の主張について 1 請求人の主張の概要 請求人は,審判請求書の手続補正書において, (a)「グリニヤール試薬として用いる保護されたOH基を持つハロゲン化ナフタレンとして、今回、本願発明の6-ハロゲノ-2-t-ブトキシナフタレンとは置換基の位置が異なる4-t-ブトキシ-1-クロロナフタレンの合成検討結果を参考資料1の「実験証明書」として提出します。この結果と本願実施例を比較して頂ければ、置換位置の違いにより、t-ブチル化反応における反応性が異なることは一目瞭然であります。 このように、例え類似の反応であったとしても、実際に行ってみなければ反応が進行するか否かは分からないものであり、また、反応性に関してはグリニャール試薬とハロゲン化ビニルとのカップリング反応においても同様であって、原料として6-ハロゲノ-2-t-ブトキシナフタレンを選択した場合にのみ高収率で目的化合物が得られることは、本願発明者の鋭意検討の結果、明らかになった知見であります。」と主張するとともに,上記「実験成績証明書」には,1-クロロ-4-ナフトールとイソブチレンとのt-ブチル化反応を行い,4-t-ブトキシ-1-クロロナフタレンを合成しているが,1-クロロ-4-ナフトールの転化率が3.0%で,4-t-ブトキシ-1-クロロナフタレンの収率が2.2%であったことが記載されている。 さらに,請求人は,平成23年9月16日に提出された意見書において,以下の主張をしている。 (b)「「メトキシ」と「t-ブトキシ」とは、アルコキシ類の一種であるという点では同じであるものの、本願発明の「t-ブトキシ」は3級アルコキシ基であるのに対し、刊行物1,2の「メトキシ」は1級アルコキシ基である点で構造を異にしており、また、本願発明の目的・特徴である医農薬、機能性高分子等の原料分野、特にレジスト原料としての分野においては、その構造の違いが材料の物性(性質)において非常に特異な効果を発現することになります。具体的には、酸やアルカリへの反応性を利用するレジストの分野において、例えば、「メトキシ」はpH1の領域でも一般的に安定なのに対し、「t-ブトキシ」はその領域下では非常に反応性が高く、脱保護してしまうことが知られています。 このように、同じアルコキシでも、その構造によって反応性が大きく異なることは自明であるため、一概にメトキシ化合物が開示されているからといってt-ブトキシ化合物を容易に想到し、また置き換えられるものではありません。実際に、レジスト材料における挙動を鑑みると、レジスト用途に最適な保護基の選定がなされるべきであり、保護基の選定を示唆するような記載は刊行物1,2に開示されておりません。」 (c)「本願発明である6-ビニル-2-t-ブトキシナフタレンは、その構造からも明らかなように、ビニル基を反応性基として用いて重合反応によりポリマーに誘導した後、フォトレジスト材料として利用されることが想定されます。この場合、本ポリマーのナフタレン環上のOH基がt-ブチル基で保護されているため、アルカリ溶解性が小さい状態になっています。ここで、露光によってt-ブチル基を脱保護(脱離)すると、ナフタレン環上にOH基が露出するため、本ポリマーのアルカリに対する溶解性が向上することが期待されます。 すなわち、本願発明である6-ビニル-2-t-ブトキシナフタレンをフォトレジスト材料として用いた場合、良好なアルカリ現像特性の発現が期待されます。 一方、刊行物1および2においては、アルカリ現像特性に関して何ら言及されておらず、また、それを示唆するような記載もありません。」 2 検討 (1)主張(a)について 請求人の主張は,本願発明の中間体である6-ハロゲノ-2-t-ブトキシナフタレンとはハロゲノ基及びアルコキシ基の置換位置が異なる4-t-ブトキシ-1-クロロナフタレンを合成すると,置換位置が異なるために,反応性が異なることを示し,それによって,類似の反応でも実際に行ってみなければ反応が進行するか否かは分からないとして,本願発明の進歩性を主張するものと解される。 しかしながら,上記の実験証明書の結果は,本願発明とはナフタレンへのt-ブトキシ基及びビニル基の結合位置が異なる化合物の収率が低いことを示すにすぎないから,本願発明と同じ位置にナフタレンへの置換基を有する引用発明からの容易想到性を左右するものではない。 そうすると,主張(a)は,引用発明1,2の6-ビニル-2-アルコキシシナフタレンにおいて,同じ2位のアルコキシ置換基を「メトキシ」から同じアルコキシである「t-ブトキシ」に代えて,「6-ビニル-2-t-ブトキシナフタレン」という化合物とすることの困難性を主張する根拠とはならない。 (2)主張(b)について ア 本願発明の構成の容易想到性について 「第5 2 (1),(2)」で述べたように,刊行物1,2には,ともに6-ビニル-2-アルコキシナフタレンにおいて,2位のアルコキシ置換基として,「メトキシ」の他に「t-ブトキシ」を含むアルコキシ基が示唆され,特に刊行物2には,「t-ブトキシ」について明示の示唆もあるから,これらの示唆に基づいて,「メトキシ」に代えて「t-ブトキシ」とし,「6-ビニル-2-t-ブトキシナフタレン」とすることは,当業者が容易になし得たことと認められる。 請求人の主張するように,「t-ブトキシ」は3級アルコキシ基であるのに対し,刊行物1,2の「メトキシ」は1級アルコキシ基である点で構造を異にし,それによって得られる化合物の物性(性質)が異なるとしても,刊行物1,2に上記の示唆があり,刊行物1,2の記載全体をみても「メトキシ」を「t-ブトキシ」に代えた化合物とすることについて,特段の阻害要因があるとは認められない。 イ 本願発明の効果について さらに,請求人は,「酸やアルカリへの反応性を利用するレジストの分野において、例えば、「メトキシ」はpH1の領域でも一般的に安定なのに対し、「t-ブトキシ」はその領域下では非常に反応性が高く、脱保護してしまうことが知られ」ており,「レジスト用途に最適な保護基の選定がなされ」ていることを主張している。 しかしながら,本願明細書には,「6-ビニル-2-t-ブトキシナフタレン」のレジスト原料の用途の有用性について具体的に確認した記載があるわけではないから,この主張は本願明細書の記載に基づくものではない。 加えて,特開平5-201912号公報(当審拒絶理由の刊行物3)には,「官能基を有すると共にその官能基の脱離前後で溶解性の異なるものが賞用され」,「係るレジスト材料としては、耐プラズマ性に優れているポリスチレン誘導体が特に好適なものとして知られ」(段落【0003】),そのようなポリスチレン誘導体の「製造原料として、4-ヒドロキシスチレンが知られているが、それを用いて狭分散性ポリヒドロキシスチレン(誘導体)を製造する場合には、4-ヒドロキシスチレン中の水酸基を・・・tert-ブチル基で保護し、リビングアニオン重合させた後、これらの保護基を除去しなければならない。」(段落【0006】)ことが記載され,また,本願明細書段落【0001】に引用される特開昭59-199705号公報(特許請求の範囲,第2頁左下欄第5?10行,第3頁左上欄第6?14行,同右下欄第6?10行,実施例1),特開平3-277608号公報(特許の範囲,第2頁右上欄第10?15行,実施例1)にも,パラ-第3級ブトキシスチレンのt-ブチル基がフェノール性水酸基の保護基となり,重合後に脱離して,レジスト原料として用いることが開示されている。 してみると,類似するパラ-第3級ブトキシスチレンをレジスト原料として用いる際に,そのフェノール性水酸基の保護基として「t-ブチル」基を用いて「t-ブトキシ」とし,重合後に脱離することは周知であったといえるから,構造の類似する「6-ビニル-2-t-ブトキシナフタレン」をレジスト原料に用いるときに,上述のようにt-ブチル基に容易に脱離する保護基としての効果を期待することは当業者が十分予想し得るものと認められる。 (3)主張(c)について 本願明細書には,「第5 3」で述べたように,「VTBNも同様の分野への展開が期待でき、特にレジスト原料としての用途では遠紫外線吸収特性、耐熱性、エッチング耐性等の物性の改善が期待される。」との記載はあるものの,「6-ビニル-2-t-ブトキシナフタレンをフォトレジスト材料として用いた場合、良好なアルカリ現像特性の発現」という特定の効果が生じることについては記載がない。 さらに,本願明細書に記載された本願発明の効果は,いずれもその効果を奏することが「期待される」にとどまり,具体的にその効果を確認したものではない。 してみると,主張(c)は本願明細書の記載に基づかないものであるから,これを採用することができない。 3 まとめ 以上のとおりであるから,請求人の主張(a)?(c)はいずれも採用することができない。 第7 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので,本願は,その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-10-12 |
結審通知日 | 2011-10-18 |
審決日 | 2011-10-31 |
出願番号 | 特願平10-23091 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C07C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松澤 優子 |
特許庁審判長 |
井上 雅博 |
特許庁審判官 |
齋藤 恵 東 裕子 |
発明の名称 | 6-ビニル-2-t-ブトキシナフタレン及びその製造方法 |