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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1248520
審判番号 不服2008-29881  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-25 
確定日 2011-12-14 
事件の表示 特願2004-526244「改善された防氷剤及び予備湿潤剤」拒絶査定不服審判事件〔平成16年2月12日国際公開、WO2004/013250、平成18年1月12日国内公表、特表2006-501322〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件の出願は、2003年7月31日(パリ条約による優先権主張外国受理庁受理2002年8月1日)にした国際出願であって、平成19年4月16日付けで拒絶理由が通知され、同年7月23日に意見書及び手続補正書が提出され、平成20年8月21日に拒絶査定がされ、これに対し、同年11月25日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年12月9日付けで審判請求書についての手続補正書及び特許請求の範囲についての手続補正書が提出され、平成21年7月16日に上申書が提出され、平成22年10月5日付けで審尋がされ、平成23年1月24日及び同年4月12日に回答書が提出されたものである。

第2 平成20年12月9日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年12月9日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
平成20年12月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成19年7月23日付けで手続補正がされた特許請求の範囲の、
「【請求項1】
防氷剤組成物であって、水を含まない基準で
1.0から70重量パーセントの糖蜜固形分、
0.1から40重量パーセントの塩化マグネシウム、
0から30重量パーセントの腐食抑制剤、及び
グルコン酸ナトリウム
を含む防氷剤組成物。
【請求項2】
組成物が、45重量パーセント未満の糖蜜固形分を含む、請求項1に記載の防氷剤組成物。
【請求項3】
組成物が、25重量パーセント未満の塩化マグネシウムを含む、請求項1又は2に記載の防氷剤組成物。
【請求項4】
腐食抑制剤がリン酸塩である、請求項1?3のいづれか一項に記載の防氷剤組成物。
【請求項5】
リン酸塩が、オルトリン酸塩、ポリリン酸塩、ピロリン酸塩、有機ホスホン酸塩及びそれらの組合わせから成る群から選択される、請求項4に記載の防氷剤組成物。
【請求項6】
リン酸塩が、リン酸二アンモニウム、リン酸一ナトリウム及びリン酸カルシウムから成る群から選択される、請求項5に記載の防氷剤組成物。
【請求項7】
組成物がリン酸塩を0.5から2.0重量パーセント含む、請求項4?6のいづれか一項に記載の防氷剤組成物。
【請求項8】
腐食抑制剤がトリエタノールアミンである、請求項1?3のいづれか一項に記載の防氷剤組成物。
【請求項9】
組成物が、更に固体防氷剤を含む、請求項1?8のいづれか一項に記載の防氷剤組成物。
【請求項10】
固体防氷剤が、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、尿素、酢酸塩及びそれらの組合わせから成る群から選択される、請求項9に記載の防氷剤組成物。
【請求項11】
組成物が、0重量パーセントより多くかつ10重量パーセント未満のグルコン酸ナトリウムを含む、請求項1?10のいづれか一項に記載の防氷剤組成物。
【請求項12】
組成物が、0重量パーセントより多くかつ5重量パーセント未満のグルコン酸ナトリウムを含む、請求項1?10のいづれか一項に記載の防氷剤組成物。
【請求項13】
組成物が、0.5から1.5重量パーセントのグルコン酸ナトリウムを含む、請求項1?10のいづれか一項に記載の防氷剤組成物。
【請求項14】
防氷剤組成物であって、水を含まない基準で
少なくとも0.5重量パーセントの塩化マグネシウム、
少なくとも0.5重量パーセントの糖蜜固形分、
少なくとも80重量パーセントの塩化ナトリウム、及び
10重量パーセント未満のグルコン酸ナトリウム
を含む防氷剤組成物。
【請求項15】
組成物が、水を含まない基準で
0.5から13重量パーセントの塩化マグネシウム、
0.5から3.0重量パーセントの糖蜜固形分、及び
85から96重量パーセントの塩化ナトリウム
を含む、請求項14に記載の防氷剤組成物。
【請求項16】
防氷剤が、0.5から1.5重量パーセントのリン酸一ナトリウムを含有する、請求項14に記載の防氷剤組成物。
【請求項17】
防氷剤が、2.0重量パーセントまでのリン酸二アンモニウムを含有する、請求項14に記載の防氷剤組成物。
【請求項18】
防氷剤組成物であって、
a)1種又はそれ以上のリン酸塩、
b)糖蜜固形分、
c)塩化ナトリウム以外の塩化物塩、及び
d)塩化ナトリウム
を含む防氷剤組成物。
【請求項19】
組成物が、水を含まない重量を基準として
少なくとも0.5重量パーセントのリン酸塩、
少なくとも0.5重量パーセントの糖蜜固形分、
少なくとも2.0重量パーセントの塩化マグネシウム、及び
少なくとも70重量パーセントの塩化ナトリウム
を含む、請求項18に記載の防氷剤組成物。
【請求項20】
リン酸塩が、リン酸一ナトリウムを含む、請求項19に記載の防氷剤組成物。
【請求項21】
リン酸塩が、リン酸二アンモニウムを含む、請求項19に記載の防氷剤組成物。
【請求項22】
組成物が、水を含まない重量を基準として
0.5から2.0重量パーセントのリン酸塩、
0.5から2.0重量パーセントの糖蜜固形分、
2.0から6.0重量パーセントの塩化マグネシウム、及び
80から97重量パーセントの塩化ナトリウム
を含む、請求項18に記載の防氷剤組成物。」
を、
「【請求項1】
防氷剤組成物であって、水を含まない基準で
0.5から13重量パーセントの塩化マグネシウム、
0.5から3.0重量パーセントの糖蜜固形分、
85から96重量パーセントの塩化ナトリウム、
0重量パーセントより多くかつ5重量パーセント未満のグルコン酸ナトリウム
及び
0.5から2.0重量パーセントのリン酸塩、
を含む防氷剤組成物。」
と補正するものである。

2 補正の適否
(1)補正後の請求項1に対応する補正前の請求項
補正後の請求項1に対応する補正前の請求項は1?22のうちいずれかであり得、例えば、固体防氷剤を含むものである、補正前の請求項14の、
「防氷剤組成物であって、水を含まない基準で
少なくとも0.5重量パーセントの塩化マグネシウム、
少なくとも0.5重量パーセントの糖蜜固形分、
少なくとも80重量パーセントの塩化ナトリウム、及び
10重量パーセント未満のグルコン酸ナトリウム
を含む防氷剤組成物。」
であり得る。

(2)目的要件の検討
本件補正は、補正前の請求項14に記載した発明を特定するために必要な事項である「塩化マグネシウム」、「糖蜜固形分」、「塩化ナトリウム」、及び「グルコン酸ナトリウム」の組成範囲を限定し、「…を含む防氷剤組成物」を「0.5から2.0重量パーセントのリン酸塩、を含む防氷剤組成物」と限定するものともいえる。
そして、その補正前の請求項14に記載された発明とその補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、検討する。

進歩性について>
ア 刊行物
・国際公開第01/64811号
(原査定で引用された引用文献1。以下、「刊行物1」という。)
・米国特許第5531931号明細書
(原査定で引用された引用文献2。以下、「刊行物2」という。)

イ 刊行物に記載された事項
(ア)刊行物1
刊行物1は、本件出願の優先権主張日(2002年8月1日)前である、2001年9月7日に頒布された刊行物であり、そこには以下の事項が記載されている(該当箇所の記載内容を仮訳にて示す。)。
・摘示1a
「発明の属する技術分野
本発明は、改良された除氷剤組成物に関する。さらに詳細には、本発明は、改良された腐食耐性を有し、除氷剤として直接使用、または、固形除氷剤に対するプレ含浸剤として使用に適した、糖蜜を含む除氷剤に関する。」(1ページ7?11行)
・摘示1b
「従来技術
岩塩(塩化ナトリウム)等のような固形除氷剤および砂等のような研磨剤は、通常、冬季数ヶ月の間、道路および他の地表に使用される。これらの固形除氷剤および研磨剤は、しばしば、保管または使用される前に、プレ含浸される。プレ含浸とは、前記固形除氷剤または研磨剤に、向上した凝固耐性、改良された保管特性、流動性および除氷能力を与えるため、液体を付加することを意味する。この目的のために、塩化ナトリウム、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムが、多くの場合使用される。不幸なことに、これらの塩化物を基礎とした物質は、自動車、保全設備およびインフラストラクチャーの腐食を加速する傾向がある。それゆえ、単独で使用でき、または、プレ含浸剤として固形除氷剤に加えることができる除氷剤組成物を含む、腐食性の少ない改良された除氷剤が必要とされている。」(1ページ13?24行)
・摘示1c
「ここで、「固形糖蜜」という用語は、水ではない、例えば、さまざまな炭水化物(例えば、糖等)およびタンパク質等である糖蜜の成分を指す。本発明で使用する市販品レベルの糖蜜組成物は、好ましくは、約40?95%が固形糖蜜であり、より好ましくは、約70?85%が固形糖蜜である。特に好ましい糖蜜の組成物は、約80%が固形である。」(3ページ4?10行)
・摘示1d
「固形塩化ナトリウム除氷剤への処置における、前記糖蜜および苦汁と他の腐食防止剤との相乗効果を、前記液体除氷剤組成物を固形塩化ナトリウムのプレ含浸剤として使用し、テストした。前記プレ含浸剤は、50%の甘しょ糖蜜および50%の(30%が塩化マグネシウムである)苦汁を含む。腐食性をテストするために、ASTM規格F436、タイプ1を満たす、1/2インチ平鋼ワッシャを、異なる固形調合物の3体積%希釈液にさらした。3組のワッシャを、10分間のテスト溶液への含浸とそれに続く50分間の風乾という繰り返し周期に、72時間さらした。このテストの結果を下記表2に示す。
表2.
除氷剤組成物 腐食率(MPY)
100 %塩化ナトリウム 51
99.1%塩化ナトリウム、0.9%MSP 30
95.7%塩化ナトリウム、4.3%プレ含浸剤 42
94.8%塩化ナトリウム、4.3%プレ含浸剤、0.9%MSP 15」(6ページ7?24行)
・摘示1e
「【特許請求の範囲】

【請求項16】 除氷剤組成物であって、
a)1以上のリン酸塩、
b)固形糖蜜、
c)塩化物塩、および、
d)塩化ナトリウム
を含む除氷剤組成物。

【請求項20】 水を含まない状態を基準として、
0.5?2.0重量%のリン酸塩、
0.5?2.0重量%の固形糖蜜、
2.0?6.0重量%の塩化マグネシウム、および
80?97重量%の塩化ナトリウム
を含む請求項16記載の除氷剤組成物。」(8?10ページ)

(イ)刊行物2
刊行物2は、本件出願の優先権主張日前に頒布された刊行物であることが明らかなものであり、そこには以下の事項が記載されている(該当箇所の記載内容を仮訳にて示す。)。
・摘示2a
「塩化ナトリウムによる腐食を低減する低コストの除氷組成物を提供するという重大な必要性が残っている。従って、高速道路や橋梁だけでなく、そこを走行する車の腐食を防止する、低コストで腐食に対する残留物の影響がかなり少ない塩ベースの除氷組成物を開発することは非常に望ましい。このような代替塩系凍結防止剤組成物の腐食防止剤が比較的少量であれば、環境への懸念が少なく、非常に望ましいであろう。このような代替塩系凍結防止剤組成物中の腐食防止剤が塩の除氷率に影響せず、コンクリート剥離も加速しなければ、非常に望ましいであろう。本発明の組成物及び方法は、一般的にこのような特性を提供する。」(1欄38?52行)
・摘示2b
「好ましい凍結防止塩は塩化ナトリウムである。これらの塩ベースの除氷組成物は水溶性希土類塩及び/又はグルコン酸塩、アスコルビン酸塩、酒石酸塩、及びサッカリン塩からなる群から選択される水溶性有機酸塩の腐食防止剤を含有する。除氷組成物には、単一の腐食防止剤(すなわち、水溶性希土類塩又は水溶性有機酸塩のいずれか)、より好ましくは、水溶性希土類塩と水溶性有機酸塩の混合物が含まれる。好ましい水溶性希土類塩は、ランタン塩又はランタン塩を含有する希土類塩の混合物である。好ましい水溶性有機酸塩は、グルコン酸塩である。本発明の除氷組成物は、道路、高速道路、橋梁、歩道及び他の除氷用途における除氷のための塩化ナトリウム又は他の塩ベースの除氷組成物(すなわち、リン酸抑制された塩化ナトリウム組成物)の好適な代替物を提供する。」(2欄50?67行)
・摘示2c
「好ましい水溶性有機酸塩は水溶性グルコン酸塩であり、特に好ましくは、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸マグネシウム、グルコン酸カルシウム、及びグルコン酸亜鉛である。本発明の除氷組成物においては、単一の水溶性有機酸塩又はそれらの混合物を使用することができる。」(4欄42?53行)
・摘示2d
「実施例1

除氷組成物 腐食抑制の程度
5%グルコン酸ナトリウム 125
95%塩化ナトリウム

2.5%グルコン酸ナトリウム 110
97.5%塩化ナトリウム 」
(5欄59行?6欄64行)

ウ 刊行物1に記載された発明
刊行物1は、「改良された腐食耐性を有し、除氷剤として直接使用、または、固形除氷剤に対するプレ含浸剤として使用に適した、糖蜜を含む除氷剤」(摘示1a)について記載するものであり、その【請求項20】(摘示1e)には、
「水を含まない状態を基準として、
0.5?2.0重量%のリン酸塩、
0.5?2.0重量%の固形糖蜜、
2.0?6.0重量%の塩化マグネシウム、および
80?97重量%の塩化ナトリウム
を含む請求項16記載の除氷剤組成物。」が記載されている。なお、「請求項16記載の除氷剤組成物」とは、
「除氷剤組成物であって、
a)1以上のリン酸塩、
b)固形糖蜜、
c)塩化物塩、および、
d)塩化ナトリウム
を含む除氷剤組成物。」(摘示1eの【請求項16】)であって【請求項20】の組成物の成分、量範囲を規定しないものであるから、結局、刊行物1には、【請求項20】として、
「水を含まない状態を基準として、
0.5?2.0重量%のリン酸塩、
0.5?2.0重量%の固形糖蜜、
2.0?6.0重量%の塩化マグネシウム、および
80?97重量%の塩化ナトリウム
を含む除氷剤組成物」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

エ 対比
本件補正発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「0.5?2.0重量%のリン酸塩」、「0.5?2.0重量%の固形糖蜜」、「2.0?6.0重量%の塩化マグネシウム」、及び、「80?97重量%の塩化ナトリウム」は、それぞれ、本件補正発明の「0.5から2.0重量パーセントのリン酸塩」、「0.5から3.0重量パーセントの糖蜜固形分」、「0.5から13重量パーセントの塩化マグネシウム」、「80?97重量%の塩化ナトリウム」にそれぞれ一致ないし包含され、引用発明1の「除氷剤組成物」は、本件補正発明の「防氷剤組成物」にほかならない。
そうすると両者は、
「防氷剤組成物であって、水を含まない基準で
0.5から13重量パーセントの塩化マグネシウム、
0.5から3.0重量パーセントの糖蜜固形分、
80から96重量パーセントの塩化ナトリウム、
及び
0.5から2.0重量パーセントのリン酸塩、
を含む防氷剤組成物。」
において一致し、次の点A(以下、「相違点A」という。)において相違するといえる。

A 本件補正発明は、「0重量パーセントより多くかつ5重量パーセント未満のグルコン酸ナトリウム」を含むのに対して、引用発明1は、含まない点

オ 判断
(ア)本件補正発明における「グルコン酸ナトリウム」の技術的意義
相違点Aについての検討に先立ち、本件補正発明における「グルコン酸ナトリウム」の技術的意義を検討する。
本件補正後の明細書の発明の詳細な説明における「グルコン酸ナトリウム」に関する記載は、以下のみである。
「【0015】
更に別の適当な組成物は、2.2%甘蔗糖蜜、2.2%液状塩化マグネシウム(30%塩化マグネシウム)、7.0%塩化マグネシウム六水和物、1.2%リン酸二アンモニウム、1.1%グルコン酸ナトリウム(その代わりに、約0.10%から5.0%を成す)及び処方物の残余の塩化ナトリウムの混合物である。また、マグネシウムは、硫酸マグネシウム又は硝酸マグネシウムのような他の可溶性マグネシウム塩で置き換えられ得る。いくつかの実施態様において、組成物は、微量のグルコン酸ナトリウムからほぼ100%までのグルコン酸ナトリウムの範囲にある。より典型的には、グルコン酸ナトリウムの量は100パーセントよりはるかに低く、そして10パーセント未満に及びそれどころか5パーセント未満により近い。いくつかの実施態様において、グルコン酸ナトリウムの量は3パーセント未満であり、そしてしばしば組成物の約1から2パーセント又は0.5から1.5パーセントを成す。」
「【0021】
追加の実験データは、次の処方物及びそれらの相対的腐食保護を含む。
処方物 %腐食保護
100%塩 0

1.2%DAP、2.15%糖蜜、2.15%液状MgCl_(2)、
6.9%MgCl_(2)・6H_(2)O、87.6%塩化ナトリウム 80.5%

1.2%DAP、2.15%糖蜜、2.15%液状MgCl_(2)、
6.9%MgCl_(2)・6H_(2)O、0.25%グルコン酸ナトリウム、
87.4%塩化ナトリウム 84.5%

1.2%DAP、2.15%糖蜜、2.15%液状MgCl_(2)、
6.9%MgCl_(2)・6H_(2)O、0.5%グルコン酸ナトリウム、
87.1%塩化ナトリウム 86.7%

1.2%DAP、2.15%糖蜜、2.15%液状MgCl_(2)、
6.9%MgCl_(2)・6H_(2)O、0.75%グルコン酸ナトリウム、
86.9%塩化ナトリウム 86.7%

1.2%DAP、2.15%糖蜜、2.15%液状MgCl_(2)、
6.9%MgCl_(2)・6H_(2)O、1.15%グルコン酸ナトリウム、
86.5%塩化ナトリウム 90.4%」
(審決注:「DAP」は、「リン酸二アンモニウム」と認められる。)

段落【0021】の記載によれば、「1.2%DAP、2.15%糖蜜、2.15%液状MgCl_(2)、6.9%MgCl_(2)・6H_(2)O」と残余塩化ナトリウム、グルコン酸ナトリウムを含む点は同じで、グルコン酸ナトリウム量のみが異なる第3番目から第6番目の処方物の「%腐食保護」の値が、グルコン酸ナトリウムを含まない点が異なる2番目の処方物に比し大きいことから、腐食からの保護の程度が向上していることが認められる。
そうすると、本件補正発明における「グルコン酸ナトリウム」は、具体的に文言で説明する文章はないが、このような防氷剤組成物における腐食抑制の程度を向上させる成分であると認められる。
(イ)刊行物2には、塩化ナトリウムベースの「除氷剤組成物」の腐食抑制に、従来知られたリン酸塩に代え又は加えて「水溶性希土類塩及び/又はグルコン酸塩、アスコルビン酸塩、酒石酸塩、及びサッカリン塩からなる群から選択される水溶性有機酸塩の腐食防止剤」(摘示2b)を添加することが有効であることが記載されている。そして、「単一の腐食防止剤(すなわち、水溶性希土類塩又は水溶性有機酸塩のいずれか)」であってよく、水溶性有機酸塩では「グルコン酸塩」が好ましく(摘示2b)、特に好ましいのは、「グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸マグネシウム、グルコン酸カルシウム、及びグルコン酸亜鉛」であること(摘示2c)、が記載され、具体的実施例1(摘示2d)の塩化ナトリウムベースの「除氷剤組成物」において、水溶性有機酸塩として「グルコン酸ナトリウム」が用いられている。
そして、実施例1において、2.5及び5重量%の「グルコン酸ナトリウム」を含む塩化ナトリウム除氷剤組成物の腐食抑制が向上することが示されていると認められる。
引用発明1には「除氷剤組成物」の腐食抑制の程度を改良するという課題があることが示され(摘示1a)、腐食抑制の程度はより高いことが望ましいことは当然のことであるから、刊行物2の上記記載に接した当業者であれば、引用発明1の「除氷剤組成物」において、より腐食抑制の程度を改良を期待して、グルコン酸ナトリウムを適宜量、例えば0.5?5重量%程度添加することは、容易になし得ることである。そして、本件補正発明の効果は、刊行物1及び2に記載された事項から予測されるところを超えて優れているとは認められない。
したがって、本件補正発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

カ まとめ
よって、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、請求項1についての上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成20年12月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、この出願に係る発明は、平成19年7月23日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし22に記載された事項により特定されるとおりのものである(第2[理由]1の項参照。これらの発明を請求項の番号に従い、それそれ「本願発明1」、「本願発明2」などという。)。

第4 原査定の理由
拒絶査定における拒絶の理由は、「この出願については、平成19年 4月16日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、「備考」の欄に、
「・理由1
・請求項18、19、22
先の拒絶理由に示した引用文献1には、本願発明のものと同一の組成を有する防氷剤が記載されている(Claim17,20)。」及び、
「・理由2
・請求項1-17
先の拒絶理由に示した引用文献2には、…グルコン酸ナトリウムが具体的に挙げられている…引用文献1に記載の防氷剤にグルコン酸ナトリムを配合して本願発明のような構成とする程度のことは当業者なら容易に想到し得ること…」との記載がある。
その「理由1」、「理由2」、「引用文献1」及び「引用文献2」は、以下とおりのものである。
「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明…であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」
「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明…に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
「1.国際公開第01/64811号」
「2.米国特許第5531931号明細書」

第5 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願発明14は上記引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、さらに、本願発明18、19は上記引用文献1に記載された発明である、と判断する。
なお、これら引用文献1、2は、第2[理由]2(3)の項アにおける、それぞれ「刊行物1」、「刊行物2」と同じ文献である。以下、同様に「刊行物1」、「刊行物2」という。

1 刊行物、刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明
刊行物1,2は、第2[理由]2(3)の項における「刊行物1」、「刊行物2」であり、それらに記載された事項は、それぞれ同項イ(ア)、(イ)に記載したとおりである。
そして、刊行物1には、同項ウに示したとおりの、
「水を含まない状態を基準として、
0.5?2.0重量%のリン酸塩、
0.5?2.0重量%の固形糖蜜、
2.0?6.0重量%の塩化マグネシウム、および
80?97重量%の塩化ナトリウム
を含む除氷剤組成物」
の発明(以下、同様に「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
さらに、刊行物1には、【請求項16】(摘示1e)として、
「除氷剤組成物であって、
a)1以上のリン酸塩、
b)固形糖蜜、
c)塩化物塩、および、
d)塩化ナトリウム
を含む除氷剤組成物。」
の発明(以下、「引用発明1’」という。)が記載されているといえる。

2 対比・判断
(1)本願発明14について
本願発明14は、第2[理由]2(1)の項に記載したとおり本件補正発明において「0.5から2.0重量パーセントのリン酸塩」との特定がないものに相当する。
そして、上記特定のある本件補正発明が第2[理由]2(3)のとおり、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記特定がない本願発明14も、同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本願発明18について
本願発明18は、
「防氷剤組成物であって、
a)1種又はそれ以上のリン酸塩、
b)糖蜜固形分、
c)塩化ナトリウム以外の塩化物塩、及び
d)塩化ナトリウム
を含む防氷剤組成物。」というものである。
本願発明18と引用発明1’とを対比すると、引用発明1’の「1以上のリン酸塩」、「固形糖蜜」、「塩化物塩」、「塩化ナトリウム」及び「除氷剤組成物」は、それぞれ本願発明18の「1種又はそれ以上のリン酸塩」、「糖蜜固形分」、「塩化ナトリウム以外の塩化物塩」、「塩化ナトリウム」、「防氷剤組成物」に相当し、本願発明18と引用発明1’とに相違点はない。
よって、本願発明18は、刊行物1に記載された発明である。

(3)本願発明19について
本願発明19は、
「組成物が、水を含まない重量を基準として
少なくとも0.5重量パーセントのリン酸塩、
少なくとも0.5重量パーセントの糖蜜固形分、
少なくとも2.0重量パーセントの塩化マグネシウム、及び
少なくとも70重量パーセントの塩化ナトリウム
を含む、請求項18に記載の防氷剤組成物。」
というものである。なお、「請求項18に記載の防氷剤組成物」とは、上記(2)のとおりのものであって、本願発明19の組成物の成分、量範囲を規定しないものであるから、結局、本願発明19は、
「組成物が、水を含まない重量を基準として
少なくとも0.5重量パーセントのリン酸塩、
少なくとも0.5重量パーセントの糖蜜固形分、
少なくとも2.0重量パーセントの塩化マグネシウム、及び
少なくとも70重量パーセントの塩化ナトリウム
を含む、防氷剤組成物。」といえる。
本願発明19と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「0.5?2.0重量%のリン酸塩」、「0.5?2.0重量%の固形糖蜜」、「2.0?6.0重量%の塩化マグネシウム」、及び、「80?97重量%の塩化ナトリウム」は、それぞれ、本願発明19の「少なくとも0.5重量パーセントのリン酸塩」、「少なくとも0.5重量パーセントの糖蜜固形分」、「少なくとも2.0重量パーセントの塩化マグネシウム」、「少なくとも70重量パーセントの塩化ナトリウム」にそれぞれ包含され、引用発明1の「除氷剤組成物」は、本願発明19の「防氷剤組成物」にほかならないから、本願発明19と引用発明1とに相違点はない。
よって、本願発明19は、刊行物1に記載された発明である。

3 まとめ
したがって、本願発明14は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により、また、本願発明18、19は、刊行物1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、それぞれ特許を受けることができないものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明14,18,19は特許を受けることはできないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-13 
結審通知日 2011-07-19 
審決日 2011-08-01 
出願番号 特願2004-526244(P2004-526244)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09K)
P 1 8・ 575- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 滝口 尚良油科 壮一木村 敏康  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 小出 直也
橋本 栄和
発明の名称 改善された防氷剤及び予備湿潤剤  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 永坂 友康  
代理人 小林 良博  
代理人 古賀 哲次  

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