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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1248550
審判番号 不服2009-18032  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-25 
確定日 2011-12-14 
事件の表示 特願2006-518465「記録可能な光記録担体」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月20日国際公開、WO2005/006318、平成19年 9月20日国内公表、特表2007-527080〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年7月2日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理2003年7月11日,欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成20年12月4日付で通知した拒絶の理由に対し、平成21年3月9日付で手続補正されたが、同年6月15日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年9月25日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明について
(1)本願発明
本願の請求項1乃至6に係る発明は,平成21年3月9日付で手続補正された特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。

「波長λを有し、記録可能光記録担体の入射表面に入射する放射ビームを用いて情報を記録する該記録可能光記録担体であって、
前記入射表面に面する保護層と、
有機色素材料の記録層及びグルーブ構造と、前記入射表面に面さない前記記録層の側面上に配置される金属反射層とを有する第1の記録スタックと、
隣接する記録スタックの間に挟まれる透明スペーサ層と、
記録層を有する第2の記録スタックと、
を上述の順番で有し、
グルーブの位置における少なくとも前記第1の記録スタックの前記記録層の厚さは、50乃至100nmの範囲にあり、
少なくとも前記第1の記録スタックの前記記録層は、0.3乃至0.49の範囲における水平化率を示し、該水平化率は、前記グルーブ深さによって正規化される、グルーブ位置における前記記録層の厚さとランド位置における前記記録層の厚さとの差として決定され、
前記金属反射層は、Agから実質的に形成され、
前記金属反射層の厚さは、25nm未満の範囲にある記録担体。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である、特開2001-23237号公報(以下、「第1引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(a)
「【請求項1】 第1の透明基板に、少なくとも第1記録層と半透過膜層が順に積層されてなる第1の情報記録再生部と、第2の透明基板に、少なくとも反射膜層と第2記録層が順に積層されて成る第2の情報記録再生部と、前記半透過膜層と前記第2記録層を向き合わせて貼り合わせる透明接着層とを備えることを特徴とする情報記録媒体。
【請求項2】 前記第1記録層と前記第2記録層のそれぞれに、情報書込み用のグルーブ部と前記グルーブ部に隣接するランド部が形成され、前記第1記録層と前記第2記録層の前記各グルーブ部の厚みがほぼ等しく、前記第1記録層と前記第2記録層の前記各ランド部の厚みがほぼ等しく、前記各グルーブ部の厚みが前記各ランド部の厚みより大きいことを特徴とする請求項1に記載の情報記録媒体。」
(b)
「【0006】特に、大量の情報を高密度で記録可能とする片面二層型DVD-Rを実現するためには、互いに対向して重なり合っている各記録層にビーム光を入射させ、各記録層に対して排他的に情報書き込みを行う必要から、その構造が極めて重要となっている。」
「【0013】図1は、本実施形態に係るDVD-Rの要部構造を示す縦断面図である。より詳細に言えば、円盤状のDVD-Rを半径方向に沿って厚み方向に切断したときの断面構造を示している。
【0014】同図において、本DVD-Rは、後述するビーム光が入射される第1の透明基板1上に、第1記録層2、半透過膜層3、接着層4、第2記録層5、反射膜層6及び第2の透明基板7が積層された一体化構造を有しており、全体として約1.2mmの厚みとなっている。
【0015】透明基板1は、約0.55mm程度の厚みを有し、光ピックアップ(図示省略)に設けられている対物レンズ9,10を介して入射される記録ビーム光又は読取りビーム光(以下、これらの光を単にビーム光と総称する)11,12に対して透明な硬質プラスチック等の硬質材で形成されている。
【0016】尚、図1には説明の便宜上、2個の対物レンズ9,10によってビーム光11,12をそれぞれ個別に入射させるようにしているが、実際の光ピックアップでは、1つの対物レンズで第1,第2記録層5,6に対する焦点調整を行うことにより、ビーム光の入射が行われることになる。
【0017】第1記録層2は有機色素系材料にて成膜され、透明基板1に対し一体に積層されている。
【0018】半透過膜層3は、ビーム光11,12に対して半透明性を有するSiC(炭化珪素)等の誘電体薄膜やAu(金)で成膜され、第1記録層2に対して一体に積層されている。
【0019】そして、これら透明基板1と第1記録層2及び半透過膜層4によって第1の情報記録再生部(符号省略)が構成されている。
【0020】透明基板7は、約0.6mm程度の厚みを有し、透明基板1と同様に硬質プラスチック等の硬質材で形成されている。
【0021】反射膜層6は、上記対物レンズ9,10を介して入射するビーム光11,12を全反射するAl(アルミニウム)等で成膜されている。」
「【0027】ここで、第1記録層2には、情報記録又は情報再生の際にビーム光11によって走査される方向(いわゆるトラック方向)に沿って螺旋状に延びるグルーブ(Groove)Gとランド(Land)Lが形成されている。第1記録層2におけるグルーブGは半径方向に沿って並び、透明基板1側(図中下側)に向けて凸の形状に形成され、ランドLはそのグルーブGに対して透明基板1側(図中下側)に向けて凹の形状に形成されている。また、図示していないが、ランドLの側壁には、物理的フォーマットを規定するためのウォブル(Wobble)が形成されている。」
「【0032】すなわち、第1の情報記録再生部の製造工程にあっては、リソグラフィによって透明基板1の表面にグルーブGを形成するための螺旋溝を形成し、次に、スピンコート法を用いて透明基板1上に第1記録層2を成膜する。これにより、上記螺旋溝の谷の部分に溜まった有機色素系材料によってグルーブGが形成され、上記螺旋溝間の山の部分付着する有機色素系材料によってランドLが形成される。
【0033】ここで、グルーブGの厚みdG1とランドLの厚みdL1は、図2に拡大して示すように、dG1>dL1に設定されており、スピンコーティングの際の回転速度、有機色素系材料の濃度等を調整することで、スピンコーティングを行うだけで自動的にdG1>dL1の関係が得られるようにしている。」
「【0040】より具体的には、第1記録層2におけるグルーブGとランドLのそれぞれの厚みdG1とdL1を、ほぼ、dG1=0.1738μm、dL1=0.1039μmとし、更に、ランドLの下面に対するグルーブGの上面までの高さd1を、ほぼd1=0.14μmに設定した。」
「【0062】尚、第1,第2記録層2,5におけるグルーブGとランドLのそれぞれの厚みdG1,dG2とdL1,dL2と、ランドLの下面に対するグルーブGの上面までの高さd1,d2を、上記の具体的な数値で示したが、これらの数値は、本発明の典型例の一つとして示したものであり、これらの数値に限定されるものではない。つまり、第1,第2記録層2,5のそれぞれのグルーブGの厚みdG1,dG2とランドLの厚みdL1,dL2の関係を、dG1>dL1、dG2>dL2に設定し、また、グルーブGの厚みdG1,dG2とランドLの厚みdL1,dL2の凹凸構造を互いに逆位相にすればよい。」

上記記載事項および図面の記載を総合勘案すると、上記第1引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「第1の透明基板に、少なくとも有機色素系材料にて成膜された第1記録層とビーム光に対して半透明性を有しSiC(炭化珪素)等の誘電体薄膜やAu(金)で成膜された半透過膜層が順に積層されてなる第1の情報記録再生部と、
第2の透明基板に、少なくとも反射膜層と第2記録層が順に積層されて成る第2の情報記録再生部と、
前記半透過膜層と前記第2記録層を向き合わせて貼り合わせる透明接着層とを備えることを特徴とする情報記録媒体であって、
前記第1記録層に、情報書込み用のグルーブ部と前記グルーブ部に隣接するランド部が形成され、
第1記録層2におけるグルーブGとランドLのそれぞれの厚みdG1とdL1を、ほぼ、dG1=0.1738μm、dL1=0.1039μmとし、更に、ランドLの下面に対するグルーブGの上面までの高さd1を、ほぼd1=0.14μmに設定した
DVD-R。」

(3)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(あ)
引用発明の「DVD-R」が「波長λを有し、記録可能光記録担体の入射表面に入射する放射ビームを用いて情報を記録する該記録可能光記録担体であって」「記録担体」を満足することは明らかである。
(い)
本願の発明の詳細な説明および図面の記載(特に、段落【0017】-【0022】、【図1】)を参照すると、「前記入射表面に面する保護層」は、「保護層を形成し、入射表面に面する基板層2」に該当する。また、該「基板層2」は、底面にプリグルーブ構造を備えている。
したがって、引用発明の「第1の透明基板」は、本願発明の「前記入射表面に面する保護層」に相当する。
(う)
引用発明の「有機色素系材料にて成膜された第1記録層」は、本願発明の「有機色素材料の記録層」に相当する。
(え)
本願発明の「記録担体」は、「第1の記録スタック」を透過した「波長λを有し、記録可能光記録担体の入射表面に入射する放射ビーム」を用いて「第2の記録スタック」に「情報を記録する」ものであり、「金属反射層」は、「第1の記録スタック」に含まれているから、本願発明の「金属反射層」は、その名称は反射層となっているが、該「波長λを有し、記録可能光記録担体の入射表面に入射する放射ビーム」を一部透過する(半透明性を有する)ことは明らかである。
一方、引用発明の「ビーム光に対して半透明性を有し」「半透過膜層」が「ビーム光」を一部反射すること(反射層としても機能すること)は、明らかである。
したがって、引用発明の「ビーム光に対して半透明性を有し」「半透過膜層」と、本願発明の「金属反射層」は、ともに「波長λを有し、記録可能光記録担体の入射表面に入射する放射ビーム」を一部透過するとともに一部反射する点で一致しているから、引用発明の「ビーム光に対して半透明性を有し」「半透過膜層」は、本願発明の「金属反射層」に相当する。
(お)
本願の発明の詳細な説明および図面の記載(特に、段落【0017】-【0022】、【図1】)を参照すると、「有機色素材料の記録層」は、「基板層2」の底面に設けられており、「記録層3」の「金属反射層4」側の面の形状は、「基板層2」の底面に形成された「プリグルーブ構造」を反映してグルーブとランドが形成された形状となっている。そして、「グルーブ構造」とは、該「「プリグルーブ構造」を反映してグルーブとランドが形成された形状」のことを意味していると判断することが妥当である。
したがって、引用発明の「前記第1記録層に、情報書込み用のグルーブ部と前記グルーブ部に隣接するランド部が形成され」は、本願発明の「グルーブ構造」「とを有する」に相当する。
(か)
引用発明の「第1の情報記録再生部」は、「第1の透明基板に、少なくとも」「第1記録層と」「半透過膜層が順に積層されて」なり、本願発明の「第1の記録スタック」は、「前記入射表面に面する保護層」と「記録層及びグルーブ構造」と「前記記録層の側面上に配置される金属反射層とを有する」から、引用発明の「第1の情報記録再生部」は、本願発明の「第1の記録スタック」に相当する。
(き)
引用発明の「前記半透過膜層と前記第2記録層を向き合わせて貼り合わせる透明接着層」は、本願発明の「隣接する記録スタックの間に挟まれる透明スペーサ層」に相当する。
(く)
引用発明の「第2の透明基板に、少なくとも反射膜層と第2記録層が順に積層されて成る第2の情報記録再生部」は、本願発明の「記録層を有する第2の記録スタック」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは次の点で一致する。

<一致点>
「波長λを有し、記録可能光記録担体の入射表面に入射する放射ビームを用いて情報を記録する該記録可能光記録担体であって、
前記入射表面に面する保護層と、
有機色素材料の記録層及びグルーブ構造と、前記入射表面に面さない前記記録層の側面上に配置される金属反射層とを有する第1の記録スタックと、
隣接する記録スタックの間に挟まれる透明スペーサ層と、
記録層を有する第2の記録スタックと、
を上述の順番で有する記録担体。」

一方、次の点で相違する。

<相違点>
[相違点1]
本願発明は、「グルーブの位置における少なくとも前記第1の記録スタックの前記記録層の厚さ」が「50乃至100nmの範囲」に限定されているのに対し、引用発明は、(「dG1=0.1738μm」であるから)173.8nmである点。
[相違点2]
本願発明は、「記録層」に関し、「少なくとも前記第1の記録スタックの前記記録層は、0.3乃至0.49の範囲における水平化率を示し、該水平化率は、前記グルーブ深さによって正規化される、グルーブ位置における前記記録層の厚さとランド位置における前記記録層の厚さとの差として決定され」であるのに対し、引用発明は、「dG1=0.1738μm、dL1=0.1039μm」「d1=0.14μm」に基づき本願発明の「水平化率」を計算すると、(0.1738-0.1039)/0.14=)0.4992である点。
[相違点3]
本願発明の「金属反射層」は、「Agから実質的に形成され」、「厚さは、25nm未満の範囲にある」のに対し、引用発明の「半透過膜層」は、「SiC(炭化珪素)等の誘電体薄膜やAu(金)で成膜され」ており、厚さが特定されていない点。


(4)判断
[相違点1]について
記録層の好ましい厚さの範囲を決定することは実施に当たり当然行われる事項であるところ、記録層の厚さとして「50乃至100nmの範囲」の範囲は周知(例えば、拒絶理由通知書に記載した特開2003-25726号公報の段落【0034】の「記録層のその溝部での層厚は、厚過ぎるとピットが広がり易くなるため、40?230nmの範囲にあることが好ましく」を参照。)である。
本願発明に関し、なぜ「グルーブの位置における少なくとも前記第1の記録スタックの前記記録層の厚さ」の下限値を50nmとし、上限値を100nmとしたのかに関する説明や、「50乃至100nmの範囲」でない場合と具体的に比較したデータが記載されていないことを勘案すると、記録層の厚さをこのように特定することに格別の技術的意義は見いだせず、「グルーブの位置における少なくとも前記第1の記録スタックの前記記録層の厚さ」を「50乃至100nmの範囲」に限定することは適宜なし得ることである。
[相違点2]について
本願発明の「水平化率」の上限値に関し、発明の詳細な説明には「水平化の好適な範囲は、30乃至50%であり、好適には、35乃至40%である。」(段落【0024】)と記載されているのみであること、発明の詳細な説明および図面のいずれにも上限値を「0.49」とすることに関し根拠となる記載が無いこと、「水平化率」に関し本願発明の「0.49」と引用発明の「0.4992」とは極めて近い値であること、水平化率が「0.3乃至0.49の範囲」の場合(本願発明)と0.4992の場合(引用発明)とはともに「水平化の好適な範囲」である「30乃至50%」に含まれており技術的に格別の差異があるものとは認められないことから、上限値を「0.49」とすることは当業者であれば適宜設定しうる程度の事項にすぎない。
したがって、相違点2は、実質的に相違点に該当しない。
[相違点3]について
「金属反射層」の材質や厚さの好ましい範囲を決定することは実施に当たり当然行われる事項であるところ、「金属反射層」の材質として「Ag」は周知であり、厚さとして「25nm未満の範囲」も周知である(例えば、拒絶理由通知書に記載した特開2003-25726号公報の「反射層の材料である光反射性物質は、Ag、Au、」(段落【0036】)、「反射層の層厚は、好ましくは10?350nmの範囲であり、」(段落【0038】)を参照。)。「Ag」ではない場合や「25nm未満の範囲」ではない場合の具体的なデータとの比較により当業者が予測できない格別顕著な効果が奏されることを確認できるような根拠も示されていないことを勘案すると、「金属反射層」について「Agから実質的に形成され」、「厚さは、25nm未満の範囲にある」に限定することは適宜なし得ることである。

したがって,本願発明は,引用例1に記載された発明、および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,第1引用例に記載された発明、および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-15 
結審通知日 2011-07-19 
審決日 2011-08-02 
出願番号 特願2006-518465(P2006-518465)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡部 博樹  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 月野 洋一郎
酒井 伸芳
発明の名称 記録可能な光記録担体  
代理人 伊東 忠彦  

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