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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1248586
審判番号 不服2009-13260  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-23 
確定日 2011-12-08 
事件の表示 特願2004-364465「高降伏強度を有する非調質鋼板」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月29日出願公開、特開2006-169591〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年12月16日の出願であって、平成20年8月8日付けで拒絶理由が通知され、同年10月8日付けで手続補正がされ、平成21年4月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年7月23日に拒絶査定不服審判が請求されると共に手続補正がされたものである。
そこで、当審において、平成23年4月22日付けで拒絶理由を通知したところ、同年6月24日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1?6に係る発明は、平成23年6月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
質量%で、
C:0.01?0.08%、
Si:0.05?0.5%、
Mn:0.5?2.5%、
Al:0.01?0.07%、
Cr:0.05?1.5%、
Mo:0.05?1%、
Ti:0.005?0.03%、
B:0.0005?0.003%、および
N:0.002?0.008%を含み、
残部がFeおよび不可避不純物からなり、
板厚の1/4位置における金属組織が、レペラー腐食して観察される島状マルテンサイトを面積率で1%以下(0%を含む)に抑えたベイナイトであることを特徴とする高降伏強度を有する非調質鋼板。
【請求項2】
更に、他の元素として、Nb:0.005?0.03%を含むものである請求項1に記載の非調質鋼板。
【請求項3】
更に、他の元素として、V:0.005?0.05%を含むものである請求項1または2に記載の非調質鋼板。
【請求項4】
更に、他の元素として、Cu:0.05?3%を含むものである請求項1?3のいずれかに記載の非調質鋼板。
【請求項5】
更に、他の元素として、Ni:0.05?3%を含むものである請求項1?4のいずれかに記載の非調質鋼板。
【請求項6】
更に、他の元素として、
Zr:0.0005?0.005%、
Mg:0.0003?0.005%、
Ca:0.0005?0.005%、および
REM:0.0003?0.003%よりなる群から選ばれる1種以上を含むものである請求項1?5のいずれかに記載の非調質鋼板。」

(以下、本願の請求項1?6に係る各発明を「本願発明1?6」という。)。

第3 当審拒絶理由の概要
本願発明1?6は、本願出願前に頒布された刊行物1?5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1 特開2004-232056号公報
刊行物2 特開2001-226737号公報
刊行物3 特開2002-266048号公報
刊行物4 特開2003-160833号公報
刊行物5 特開2003-138345号公報

第4 刊行物の記載事項(以下、審決中:「・・・」は、記載事項の省略を意味する。)
1.刊行物1の記載事項
摘示1-1
「【請求項1】
mass%で、
C:0.005 ?0.030 %、 Si:0.05?0.50%、
Mn:1.5 ?3.0 %、 P:0.050 %以下、
S:0.0050%以下、 Al:0.01?0.08%、
Mo:0.20?1.00%、 Ti:0.005 ?0.05%、
B:0.0003?0.0040%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、面積率で80%以上のベイニティックフェライト相を含む組織とを有し、該ベイニティックフェライト相のパケットサイズが15μm 以下であり、引張強さ:700MPa超えの高強度と、シャルピー衝撃試験の-40℃における平均吸収エネルギー値が47J以上の高靭性を有し、かつ溶接熱影響部靭性に優れることを特徴とする700MPa超級非調質厚鋼板。
【請求項2】
前記組織が、島状マルテンサイトを面積率で2%以下含む組織であることを特徴とする請求項1に記載の700MPa超級非調質厚鋼板。
【請求項3】
前記組成に加えてさらに、mass%で、Cu:0.05?2.0 %、Ni:0.05?2.0 %、Cr:0.05?2.0 %、V:0.003 ?0.080 %のうちの1種または2種以上、および/または、Ca:0.0003?0.0030%、REM :0.0003?0.010 %、Mg:0.0003?0.005 %のうちの1種または2種以上、を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の700MPa超級非調質厚鋼板。」

摘示1-2
「【0032】
また、島状マルテンサイトは、非常に硬い組織であるため、母相と島状マルテンサイトとの界面が剥離しやすく、ここが破壊の起点となりやすいため、さらに本発明では、厚鋼板の組織中に島状マルテンサイトを生成させないか、あるいは面積率で2%以下に低減する。」

摘示1-3
【表3】【表5】には、本発明例の鋼板において島状マルテンサイトの面積率が0(%)であることが記載されている。

摘示1-4
「【表4】鋼No.2B C0.023% Si0.25% Mn2.02% P0.010% S0.0018% Al0.034% Mo0.40% Nb0.014% Cu0.25% Ni0.51% Cr0.35% Ti0.012% B0.0016%」

摘示1-5
「【表6】鋼No.2B 島状マルテンサイト面積率0(%) YS718(MPa)」

摘示1-6
「【0042】・・・
(1)微視組織
各厚鋼板から試験片を採取し、C方向断面の板厚1/2 t位置について、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡により組織を撮像し、画像解析装置を用いて、組織種類の同定、および組織分率を測定した。」

2.刊行物2の記載事項
摘示2-1
「【0047】・・・レペラ腐食にて島状MA組織を現出させた後に、16tの板厚の中心?1/4tの範囲を光学顕微鏡を用いて倍率400倍で写真撮影し、70×90mmの写真全体について画像解析を行った。測定は、島状MAを表す白色の部分のみの面積率を求めた。」

摘示2-2
「【0011】・・・高YSを保持させたまま低YR化を実現させた非調質鋼の開発を期して鋭意研究を進めた結果、金属組織中の島状MA組織の・・・占有率を適正に制御することが有効であることを見出した。」

摘示2-3
「【0013】・・・島状MA組織が、鋼の高強度化及び低YR化に有効である理由は、島状MA組織周辺のフェライトに可動転位が導入されてYSの極端な向上が抑えられると共に、島状MA組織自体が非常に硬いのでTSが向上する為と推察される。」

摘示2-4
「【0018】島状MA組織は、レペラ腐食を施すことで、後述の図2に示す様に白く現出する」

摘示2-5
「【0033】・・・Nは、Tiと高温でTiNを形成し、オーステナイト粒の粗大化を抑制する為、0.001%以上含有させることが好ましい。」

3.刊行物3の記載事項
摘示3-1
「【0029】Ti:0.005?0.03%
Tiは、Nと窒化物を形成して大入熱溶接時におけるHAZ部のγ粒を微細化し、HAZ靭性改善に寄与する点で有用である・・・。
【0030】N:0.0020?0.010%
Nは上記の通り、Tiや、後述するZrと窒化物を形成して大入熱溶接時におけるHAZ靭性改善に寄与する点で有用である。」

4.刊行物4の記載事項
摘示4-1
「【請求項7】 更にN:0.002?0.01%を含有するものである請求項1?6のいずれかに記載の高靭性高張力非調質厚鋼板。」

摘示4-2
「【0026】Ti:0.005?0.1%
TiはNと窒化物を形成して大入熱溶接時におけるHAZのγ粒を微細化し」

摘示4-3
「【0033】N:0.002?0.01%
Nは上記の通り、Tiと窒化物を形成して大入熱溶接時におけるHAZ靭性改善に寄与する点で有用である。」

5.刊行物5の記載事項
摘示5-1
「【0027】
【実施例】・・・組織をレペラ腐食し、光学顕微鏡観察(400倍)したところ、組織はマルテンサイト(M)、ベイナイト(B)およびフェライト(F)で形成されていた。」
第5 当審判断
【当審の第1の判断】
1.刊行物1に記載された発明
刊行物1(摘示1-1、摘示1-2、摘示1-3)には、「mass%で、C:0.005 ?0.030%、Si:0.05?0.50%、Mn:1.5 ?3.0%、P:0.050%以下、S:0.0050%以下、Al:0.01?0.08%、Mo:0.20?1.00%、Ti:0.005?0.05%、B:0.0003?0.0040%、Cr:0.05?2.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、ベイニティックフェライト相を含み、島状マルテンサイトが生成されていない700MPa超級非調質厚鋼板。」の発明が記載されている(以下、「引用発明1」という。)。

2.対比
本願発明1(前者)と引用発明1(後者)とを対比すると、後者の「島状マルテンサイトが生成されていない」は、前者の「島状マルテンサイトを・・・(0%を含む)」に相当する。
また、後者のP、Sは、前者の「不可避的不純物」に相当する(本願明細書【0029】)。
さらに、後者の「ベイニティックフェライト相」、「700MPa超級非調質厚鋼板」は、前者の「ベイナイト」、「高降伏強度を有する非調質鋼板」に相当する。

よって、両者は、「質量%で、C:0.01 ?0.030%、Si:0.05?0.5%、Mn:1.5 ?2.5%、Al:0.01?0.07%、、Cr:0.05?1.5%、Mo:0.20?1%、Ti:0.005?0.03%、B:0.0005?0.0030%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、島状マルテンサイトを0%に抑えたベイナイトである高降伏強度を有する非調質鋼板」の点で一致し、後者には、前者の「レペラー腐食して観察される」ことが規定されていない点(相違点1)、後者には、前者の「板厚の1/4位置における」が規定されていない点(相違点2)、後者には、前者のNが含まれない点(相違点3)で相違する。

3.相違点についての判断
(1)相違点1について
引用発明1の技術分野において、島状マルテンサイトがレペラー腐食を行わせることにより観察できることは、公知であるから(摘示2-1、摘示2-4、摘示5-1参照)、上記相違点1は、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点2について
引用発明1は、「組織中に島状マルテンサイトを生成させない」ものであり(摘示1-2、摘示1-3)、組織中のどこにも島状マルテンサイトは存在しないのだから、当然板厚のいずれの部分においても0%であって、「板厚の1/4位置における」という発明特定事項は、実質的な相違点にならない。

(3)相違点3について
本願発明において、Nは、組織の微細化のためのものであるところ(【0028】)、引用発明1の技術分野において、組織の微細化のためにNを含めることは、公知であるから(摘示2-5、摘示3-1、摘示4-1、摘示4-2、摘示4-3参照)、上記相違点3は、当業者が容易に想到し得ることである。

そうすると、本願発明1は、引用発明1及び刊行物2?5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

【当審の第2の判断】
1.刊行物1には、「mass%で、C0.023% Si0.25% Mn2.02% P0.010% S0.0018% Al0.034% Mo0.40% Nb0.014% Cu0.25% Ni0.51% Cr0.35% Ti0.012% B0.0016%、ベイニティックフェライト相の面積率100%、板厚1/2t位置で島状マルテンサイトの面積率0%、降伏強度が718MPaの非調質厚鋼板。」(摘示1-4、摘示1-5、摘示1-6)の発明が記載されている(以下、「引用発明2」という。)。

2.対比
本願発明5(前者)と引用発明2(後者)とを対比すると、後者の「島状マルテンサイトの面積率0%」は、前者の「島状マルテンサイトを・・・(0%を含む)」に相当する。
また、後者のP、Sは、前者の「不可避的不純物」に相当する(本願明細書【0029】)。
さらに、後者の「ベイニティックフェライト相」、「降伏強度が718MPaの非調質厚鋼板」は、前者の「ベイナイト」、「高降伏強度を有する非調質鋼板」に相当する。

よって、両者は、「質量%で、C0.023% Si0.25% Mn2.02% P0.010% S0.0018% Al0.034% Mo0.40% Nb0.014% Cu0.25% Ni0.51% Cr0.35% Ti0.012% B0.0016%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、島状マルテンサイトを0%に抑えたベイナイトである高降伏強度を有する非調質鋼板」の点で一致し、後者には、前者の「レペラー腐食して観察される」ことが規定されていない点(相違点1)、後者は、前者の「板厚の1/4位置」ではなく、「板厚1/2t位置」である点(相違点2)、後者には、前者のNが含まれない点(相違点3)で相違する。

3.相違点についての判断
(1)相違点1について
引用発明2の技術分野において、島状マルテンサイトがレペラー腐食を行わせることにより観察できることは、公知であるから(摘示2-1、摘示2-4、摘示5-1参照)、上記相違点1は、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点2について
島状マルテンサイトの面積率を板厚の中心から1/4tの範囲で観察することは、公知であり(摘示2-1)、引用発明2において、「板厚1/2t位置」に代えて「板厚の1/4位置」とすることは、設計事項にとどまるから、「板厚の1/4位置」という発明特定事項は、当業者が適宜成し得ることである。

(3)相違点3について
本願発明において、Nは、組織の微細化のためのものであるところ(【0028】)、引用発明2の技術分野において、組織の微細化のためにNを含めることは、公知であるから(摘示2-5、摘示3-1、摘示4-1、摘示4-2、摘示4-3参照)、上記相違点3は、当業者が容易に想到し得ることである。

そうすると、本願発明5は、引用発明2及び刊行物2?5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものである。

第6 請求人の主張に対して
請求人は、意見書で(第4頁)、刊行物1?5には、島状マルテンサイトと降伏強度の関係につき記載も示唆もない旨主張するが、刊行物2には、島状マルテンサイトと降伏強度の関係についての示唆がある上(摘示2-2、摘示2-3)、島状マルテンサイトが多ければ降伏強度が低下することは、周知の技術的事項であるから(特開平10-298703号公報【0007】、特開平7-166235号公報【0005】、特開平7-157824号公報【0005】、特開平7-109545号公報【0005】、特開平7-109518号公報【0005】、特開平7-102340号公報【0005】、特開平5-302117号公報【0009】、特開平5-302116号公報【0009】、特開平5-156354号公報【0009】、特開2004-107714号公報【0061】、特開2001-3136号公報【0007】、特開平11-293390号公報【0027】、特開平10-204578号公報【0024】、特開平9-165621号公報【0057】、特開平9-53142号公報【0020】、特開平5-105952号公報【0009】、特開平4-221015号公報【0002】、特開平2-293390号公報第4頁右下欄、特開昭62-174324号公報第4頁右下欄、特開昭62-174323号公報第3頁左上欄、特開昭62-149812号公報第3頁左下欄、特開昭62-89815号公報第2頁下欄、第1図参照)、上記主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1、5は、刊行物1?5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願発明2?4、6については検討するまでもなく、本願は、当審拒絶の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-28 
結審通知日 2011-10-04 
審決日 2011-10-17 
出願番号 特願2004-364465(P2004-364465)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平塚 義三鈴木 葉子  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 山田 靖
大橋 賢一
発明の名称 高降伏強度を有する非調質鋼板  
代理人 菅河 忠志  
代理人 植木 久彦  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 植木 久一  

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