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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C06D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C06D
管理番号 1248782
審判番号 無効2011-800062  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-04-15 
確定日 2011-12-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第3476771号発明「エアバッグ用ガス発生剤成型体の製造法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 請求の趣旨・手続の経緯

1.本件特許について

(1)本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第3476771号の各請求項に係る発明についての出願(以下「本件出願」という。)は、平成7年10月6日にされた特願平7-259953号及び特願平8-192294号を優先権主張の基礎とする特願平8-201802号の一部を新たな特許出願とした特願2000-386678号として、本件審判被請求人ダイセル化学工業株式会社(旧名称:以下「被請求人」という。)により平成12年12月20日になされ、平成15年9月26日に特許権の設定登録がされた(設定登録時の請求項の数は11であった。)ものである。

(2)本件特許の設定登録から本件審判請求までの経緯
本件特許につき、平成19年10月19日付けで本件審判請求人(以下「請求人」という。)でもある日本化薬株式会社から、本件特許の請求項1ないし11に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、という趣旨の2007年審判800229号事件(以下「別件」という。)が請求された。
当庁は、別件につき審理を行ったが、その審理の過程において被請求人により請求項の数を7とする訂正請求が行われた後、当庁は、平成20年10月15日付けで、訂正を認める、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を行った。
その後、当該審決を取り消す趣旨の審決取消訴訟が請求人により提起され、知的財産高等裁判所において平成20年(行ケ)10438号事件として審理された結果、請求を棄却する旨の判決がなされ、同判決に対する上告受理申立が決定をもって却下されることにより、当該判決及び審決が確定した。
したがって、本件特許について上記訂正請求による明細書の訂正が確定し、本件審判請求時の請求項の数は7である。(この訂正確定後の明細書を以下「本件特許明細書」という。)

2.本件請求の趣旨及びその理由の概要

(1)本件審判請求書における趣旨及び無効理由の概要
請求人は、本件特許第3476771号の特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明(以下、併せて「本件特許発明」ということがある。)についての特許が、いずれも、概略、下記【無効理由1】ないし【無効理由3】の各理由により特許法第123条第1項第1号又は同条同項第4号の規定に該当し、無効とする、との審決を求め、下記証拠方法を提示し、本件審判を請求した。
【無効理由1】
本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、本件特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
【無効理由2】
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第4項に適合するものではないから、本件特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
【無効理由3】
本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。

<請求人提示の証拠方法(請求時)>
甲第1号証:2007年審判第800229号(別件事件)の審決
甲第2号証:平成20年(行ケ)第10438号の判決
甲第3号証:平成19年(ワ)第10364号の判決
甲第4号証:日本化学会誌(化学と工業化学)、2002、No.3、第281?288頁
甲第5号証:特開2000-103692号公報
甲第6号証:Juhaszら著、”The Closed Bomb Technique for Burning Rate Measurement at High Pressure”、「EXPERIMENTAL DIAGNOSTICS IN COMBUSTION OF SOLIDS」、1978年、American Institute of Aeronautics and Astronautics発行、第129?151頁
甲第7号証:甲第6号証の全訳文

(2)無効理由の追加及び撤回
請求人は、平成23年9月29日付け口頭審理陳述要領書において、下記証拠方法(甲第8号証及び甲第9号証)を提示した上で、「予備的主張」(口頭審理陳述要領書第2頁下から第4行?第7頁第16行及び同書第7頁下から第9行?第8頁第3行)を行ったが、平成23年10月20日に行われた第1回口頭審理において、当該「予備的主張」及び証拠方法を撤回した。
また、請求人は、上記第1回口頭審理において、上記【無効理由3】を撤回した。

<追加された証拠方法>
甲第8号証:特開平7-61313号公報
甲第9号証:中村英嗣作成「意見書」

(3)答弁の趣旨
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める、とし、請求人が主張する上記無効理由は、いずれも理由がない旨答弁した。
なお、被請求人は、上記第1回口頭審理において、請求人の上記(2)に示した無効理由、主張及び証拠方法の撤回につきいずれも同意した。

3.以降の手続の経緯
本件審判は、上記2.(1)の請求の趣旨及び理由により、平成23年4月15日に請求されたものであり、以降の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成23年 4月15日 審判請求書・甲第1号証?甲第7号証提出
平成23年 7月11日 答弁書
平成23年 8月 5日付け 審理事項通知書(両当事者へ)
平成23年 9月29日 口頭審理陳述要領書
甲第8号証・甲第9号証提出(請求人)
平成23年10月 3日 本件特許の登録名義人の表示変更登録
(被請求人「株式会社ダイセル」)
平成23年10月13日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成23年10月20日 口頭審理(第1回)
同日 審理終結

第2 当審の判断
当審は、
請求人が主張する上記【無効理由1】及び【無効理由2】についていずれも理由がない、
と判断する。
以下、各無効理由ごとに詳述する。

1.前提事項
上記各無効理由につき判断するにあたり、前提として、本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。

(1)特許請求の範囲
特許請求の範囲には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 アジ化物を除く含窒素有機化合物を含み、70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度が5?12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体であり、単孔円筒状成型体の厚みWが、W=(R-d)/2(Rは外径、dは内径)で求められ、厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上のもので、該ガス発生剤組成物の70kgf/cm^(2)の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と、単孔円筒状成型体の厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体であって、前記ガス発生剤組成物が含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーと、必要に応じスラグ形成剤を添加してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項2】 前記単孔円筒状成型体の厚みに対する長さの比が1?9.62である請求項1記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項3】 前記単孔円筒状成型体の長さが0.5?5mmである請求項1又は2記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項4】 前記含窒素有機化合物がニトログアニジン、前記酸化剤が硝酸ストロンチウムであり、前記水溶性バインダーがカルボキシメチルセルロースナトリウム塩、前記スラグ形成剤が酸性白土である請求項1?3の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項5】 前記含窒素有機化合物がジシアンジアミドであり、前記酸化剤が硝酸ストロンチウム及び酸化銅であり、前記水溶性バインダーがカルボキシメチルセルロースナトリウム塩である請求項1?3の何れか1項記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項6】 ジシアンジアミドを8?20重量%、硝酸ストロンチウムを11.5?55重量%、酸化銅を24.5?80重量%、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を0.5?8重量%含有させる請求項5記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。
【請求項7】 前記水溶性バインダーが多糖誘導体からなる請求項1記載のエアバッグ用ガス発生剤成型体。」

(2)発明の詳細な説明
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。

(a)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エアバッグシステムを膨張させるために燃焼してガス成分を供給するガス発生剤成型体及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、自動車、航空機等に搭載される人体保護のために供せられるエアバッグシステムにおいて作動ガスとなるガス発生剤の新規な組成物及びその剤形に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車等の車両が高速で衝突した際に、慣性により搭乗者がハンドルや前面ガラス等の車両内部の硬い部分に激突して負傷又は死亡することを防ぐために、ガスによりバッグを急速に膨張させ、搭乗者の危険な箇所への衝突を防ぐエアバッグシステムが開発されている。このエアバッグシステムに用いるガス発生剤に対する要求は、バッグ膨張時間が非常に短時間、通常40乃至50ミリ秒以内であること、さらにバッグ内の雰囲気が人体に対して無害すなわち車内の空気組成に近いものであることなど非常に厳しい。
・・(中略)・・
【0005】更に特公平6-57629にはテトラゾール、トリアゾールの遷移金属錯体を含むガス発生剤が示されている。また、特開平5-254977にはトリアミノグアニジン硝酸塩を含むガス発生剤が、特開平6-239683にはカルボヒドラジドを含むガス発生剤が、特開平7-61885には酢酸セルロースとニトログアニジンを含む窒素含有非金属化合物を含むガス発生剤が示されている。更に、USP5,125,684 では15?30%のセルロース系バインダーと共存するエネルギー物質としてニトログアニジンの使用が開示されている。また、特開平4-265292ではテトラゾール及びトリアゾール誘導体と酸化剤及びスラグ形成剤とを組み合わせたガス発生剤組成物が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところが、含窒素有機化合物は一般的に燃焼において、化学当量分、すなわち化合物分子中の炭素、水素その他の元素の燃焼に必要な量の酸素を発生させるだけの酸化剤を用いる際、アジド系化合物に比べて発熱量が大きいという欠点を有する。エアバッグシステムとしては、ガス発生剤の性能だけでなく、そのシステム自体が通常の運転に際して邪魔にならない程度の大きさであることが必須であるが、ガス発生剤の燃焼時の発熱量が大きいと、ガス発生器を設計する場合除熱のための付加的な部品を必要とし、ガス発生器自体の小型化が不可能である。酸化剤の種類を選択することにより発熱量を低下させることも可能であるが、これに対応して線燃焼速度も低下し、結局ガス発生性能が低下することになる。
【0007】上記の如く、含窒素有機化合物から成るガス発生剤組成物は一般的に燃焼において、化学当量分、すなわち含窒素有機化合物分子中の炭素、水素その他の酸化される元素の燃焼に必要な量の酸素を発生させるだけの酸化剤を用いる際、無機アジド系化合物を用いたガス発生剤組成物に比べて発熱量が大きく、燃焼温度が高く、更に線燃焼速度が小さいという欠点を有していた。
【0008】この様に、燃焼温度が高いことから生ずる問題は、組成物中の酸化剤成分から発生するアルカリ性ミストと一般的に多用されているステンレススチール製のクーラントとの化学反応を含むクーラントのエロージョンにより、冷却部で新たに発生する高温熱粒子と共にインフレータ外に放出されバッグの損傷を生じることである。しかし、酸化剤成分から発生するアルカリ性ミスト及び新たに発生する高温熱粒子を冷却部に到達する前に燃焼室内にスラグを形成させることにより燃焼室内部に止めることができれば、高温ガスであってもガスの熱容量が小さいため少ないクーラントを用いてバッグに決定的な損傷を与えることなくインフレータシステムを成立させることができる。このことにより、より小型形状のインフレータが成立可能となる。
【0009】テトラゾール誘導体をはじめ、各種含窒素有機化合物を用いた非アジド系ガス発生剤組成物が従来から検討されてきた。組成物の線燃焼速度は組み合わされる酸化剤の種類によって異なるが、一般的に30mm/秒以下の線燃焼速度を有する組成物がほとんどである。
【0010】線燃焼速度は、所望の性能を満足させるためのガス発生剤組成物の形状に影響を与える。ガス発生剤組成物の1個の形状において、肉厚部分の厚みの最も小さい厚み距離とそのガス発生剤組成物の線燃焼速度とによってガス発生剤組成物の燃焼時間が決定される。インフレータシステムに要求されるバッグ展開時間はおおよそ40?60ミリ秒にある。
【0011】多用されているペレット形状及びディスク形状のガス発生剤組成物をこの時間内に燃焼完了させるためには、例えば厚み2mmで線燃焼速度20mm/秒の時100m秒の時間を必要とし、所望のインフレータ性能を得ることができない。従って、線燃焼速度が20mm/秒前後のガス発生剤組成物では厚み1mm前後でなければ性能を満足できない。線燃焼速度が10mm/秒前後及びそれ以下の場合、より肉厚部の厚みが小さいことが必須条件となる。
【0012】線燃焼速度を向上させるため硝酸ナトリウム及び過塩素酸カリウムのような酸化剤を組み合わせる手段が知られているが、硝酸ナトリウムでは酸化ナトリウムが、過塩素酸カリウムでは塩化カリウムが液状又は固体微粉状でインフレータ外に放出され、スラグ形成剤のない場合通常のフィルターで許容されるレベルまで放出量を抑えることは至難の技である。
【0013】線燃焼速度が10mm/秒前後及びそれ以下で、肉厚部の厚みを多用されているペレット形状及びディスク形状で達成するためには0.5mm前後及びそれ以下の厚みが必須となるが、長期間の自動車の振動に耐え且つ工業的に安定した状態でペレット形状及びディスク形状にガス発生剤組成物を製造することは事実上不可能に近い。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記した問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、線燃焼速度の小さいガス発生剤組成物を成型することにより、所定の時間内に燃焼させうること、その性能はエアバッグ用ガス発生剤として十分適用しうることを見出し、本発明に至った。」
(b)
「【0035】一般に火薬組成物をバインダーを用いて特定の厚みに成型するためには従来より知られる方法、例えば打錠成型、押出成型等を適用することができるが、本発明のようにエアバッグ用ガス発生剤として使用する場合には、線燃焼速度の点から、比較的薄い成型体にすることが好ましく、かつ必要な強度を持たせるためには、成型体を単孔円筒状に成型し、この成型を圧伸成型法を適用して行うことが好ましい。
【0036】本発明においては上記のガス発生剤組成物を乾式混合した後、水を加え十分均一になるまでスラリー混合し、金型を備えた圧伸成型機を用いて成型し、適当な長さに裁断し、乾燥することにより、エアバッグシステムへの適用が十分可能な性能のガス発生剤成型体が得られた。
【0037】圧伸成型の後に適当な長さに裁断することにより、ガス発生剤を図1に示すような単孔円筒状に加工できる。更に圧伸成型法では、金型を用いて外径を一定に保ち内径を変化させることにより厚さを調整することが可能である。
【0038】このような形状にすることにより、発熱が抑えられかつ円筒の外面及び内面からの燃焼が可能であり、エアバッグに適用するに足る優れた線燃焼速度が得られる。単孔円筒状成型体の外径(R)、内径(d)及び長さ(L)はガス発生器への応用が可能な範囲で適宜設定できるが、実用性や燃焼速度を考慮すると、外径が6mm以下、厚みW=(R-d)/2に対する長さの比(L/W)が1以上であることが望ましい。従来このような形状を有する成型体は発射薬、推進薬の分野では知られているが、エアバッグ用ガス発生剤に応用した例はない。本発明の成型体を用いた場合、線燃焼速度が小さい場合でも所望の燃焼時間内に燃焼し、且つスラグ形成剤の併用により、除熱のための付加的な部品を必要とせず、ガス発生器自体の小型化が可能である。」
(c)
「【0043】
【実施例】以下実施例及び比較例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0044】実施例1
高比重ニトログアニジン(以下、NQと略す)35部(以下、部は重量部を示す)に組成物全体の量に対して15部に相当する水を添加し混合捏和する。別に硝酸ストロンチウム50部、酸性白土5部及びカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩10部を乾式で混合し、前記の湿混合粉に添加後さらに捏和する。ついで捏和混合物を外径2.5mmφ、内径0.80mmφの金型を通して圧力80kg/cm^(2)の加圧条件下で押出し単孔円筒状の紐状体をつくる。更に、この紐状体を裁断機により2.12mmの長さに裁断し、水分を十分に乾燥してガス発生剤成型体とした。このガス発生剤成型体38gを用いた室温における60リットルのタンク試験結果を以下に示した。尚、本ガス発生剤組成物の線燃焼速度は8.1mm/秒であった。タンク最大圧力1.83kg/cm^(2)、最大圧力到達時間55ミリ秒であった。また、タンク内のミスト量は700mg以下でタンク内は非常にきれいで、微量のCO及びNO_(x)等のガス濃度は自動車メーカーの要求値内であった。
【0045】実施例2?4、A及び比較例1?2
各成分の重量部又は成型体の形状を表1に示す如く変えた以外は実施例1と同様にしてガス発生剤組成物成型体を作った。
【0046】
【表1】


【0047】実施例1?4、A及び比較例1?2の各ガス発生剤組成物の線燃焼速度と一定のガス発生量を発生するに必要な組成物量を用いた時の総発熱量を表2に示した。
【0048】
【表2】


【0049】タンク試験の結果を表3に示した。
【0050】
【表3】


【0051】実施例5
ジシアンジアミド12部、硝酸ストロンチウム53部、酸化銅30部、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩5部の各粉末を乾式でよく混合し、更に水12.5部を加えて十分均一になるまでスラリー混合を行った。スラリー混合後、外径1.6mmφ、内径0.56mmφの金型を備えた圧伸成型機を用いて、成型圧力60乃至70kgf/cm^(2)、圧伸速度薬0.2cm/分で圧伸成型を行い、長さ約5mmに裁断した。裁断後、50℃、15時間以上の乾燥を行い、ガス発生剤組成物(線燃焼速度7.4mm/秒、総発熱量22.2Kcal)とした。重量収率80%以上でガス発生剤組成物が得られた。このガス発生剤組成物54gを用いて所定のタンク試験(特公昭52-3620、特公昭64-6156記載の方法)を行った。タンク圧力1.22kg/cm^(2)、最高圧力到達時間50m秒が得られ、金属製除熱剤及びフィルターの損傷なく実用に供される所望の範囲の値を示した。
【0052】実施例6
ジシアンジアミド10部、硝酸ストロンチウム35部、酸化銅50部、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩5部に添加量を変え、組成物の重量を65gとした他は実施例5と全く同様にしてガス発生剤組成物を製造し(線燃焼速度7.6mm/秒、総発熱量22.1Kcal)、実施例5と同様にしてタンク試験を行った。タンク圧力1.31kg/cm^(2)、最高圧力到達時間55m秒が得られ、金属製除熱剤及びフィルターの損傷なく実用に供される所望の範囲の値を示した。
【0053】実施例7
ジシアンジアミド13部、硝酸ストロンチウム32部、酸化銅50部、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩5部に添加量を変え、実施例5と同様にしてガス発生剤組成物を製造し、外径1.15mmφ、内径0.34mmφ、長さ0.52mmに成型した。線燃焼速度6.1mm/秒、総発熱量22.2Kcal)。この成型体67gを用いて実施例5と同様にしてタンク試験を行った。タンク圧力1.67kg/cm^(2)、最高圧力到達時間47m秒が得られ、金型製除熱剤及びフィルターの損傷なく性能調整可能幅のより広い結果が得られた。
【0054】比較例3
実施例5と全く同様の組成にてスラリー混合を行い、スラリー混合後通常の打鍵成型機で径5mmφ、厚み1mmで薄片ペレット状に成型したが、仕込み重量に対して薄片ペレットの重量収率が20%以下で且つペレットは実用に耐える強度を示さなかった。
【0055】比較例4
ジシアンジアミド23部、硝酸ストロンチウム57部、酸化銅20部の各粉末を水10部を加えて十分均一に混合し、調湿後通常の打鍵成型機で径5mmφ、厚み2mmで薄片ペレット状に成型した(線燃焼速度24.0mm/秒、総発熱量28.6Kcal)。組成物50gを用いて実施例5と同様にしてタンク試験を行ったが、フィルターの損傷が著しく所望のタンク圧力を得ることができなかった。
【0056】比較例5
ジシアンジアミド19部、硝酸カリウム31部、酸化銅50部とした以外は比較例1と全く同様にしてペレット状に成型し(線燃焼速度9.1mm/秒、総発熱量25.3Kcal)、成型体60gを用いて実施例5と同様にしてタンク試験を行った。燃焼完了時間が100m秒以上となり実用上の性能を満たすことができなかった。
【0057】実施例5?7の各ガス発生剤組成物の線燃焼速度と一定のガス発生量を発生するに必要な組成物量を用いたときの総発熱量を表4に示した。
【0058】
【表4】



(d)
「【0059】
【発明の効果】本発明によると従来安全性の面からは注目されつつも線燃焼速度が小さく満足できる性能を出し得なかったガス発生剤組成物において、低い発熱量及び高い燃焼性能を示すガス発生剤成型体とすることが可能であり、含窒素有機化合物及び酸化剤を含む新規なエアバッグ用ガス発生剤組成物及びこれを用いた成型体が提供される。本発明により、ガス発生器を小型化しエアバッグシステムへ適用する道が開かれた。」

2.各無効理由についての検討

(1)無効理由1について

ア.本件特許発明の解決しようとする課題
本件特許明細書の発明の詳細な説明の上記摘示(a)及び(d)の記載からみて、本件特許発明の解決しようとする課題は、
「発熱量に対する冷却装置の簡素化などの他の点では有利であるが、発熱量を抑えると、線燃焼速度が小さくなるガス発生剤組成物について、成型を工夫することにより必要な時間内に良好に燃焼させることができるエアバッグ用ガス発生剤成型体の提供」
であると認められる。

イ.請求人の主張についての検討

(ア)主張の内容
本件審判請求書(第6頁第1行?第17頁第5行)の主張からみて、無効理由1に係る請求人の主張は、
本件特許発明における「W/(2・r)」が、
(ア-1)単孔円筒状成型体の燃焼時間を表すこと、
(ア-2)「ガス発生剤成型体の(平均的な)「燃焼時間(s)」を表すパラメータである」との別件の審決における認定、
(ア-3)「W/(2・r)がガス発生剤組成物成型体が燃焼しきる時間、すなわちエアバッグの展開時間(又はその近似値)を示す指数である」との当該別件の審決取消訴訟の判決における判示、及び
(ア-4)「「単孔円筒状」という形状を一般的に開示した上、その厚み(W)を、長さ(L)や線燃焼速度(r)との関係において一定の範囲にすることにより、発熱を抑え、かつ円筒の外面及び内面からの燃焼を可能とし、エアバッグに適用するに足る優れた燃焼速度が得られるとしている」との本件特許に係る侵害訴訟の判決における判示、
に基づき「円筒の外面及び内面から同時に着火する」との技術的意義を包含しているとの前提に立って、単孔円筒状成型体の内径(d)が小さい場合又は長さ(L)が大きい場合につき「円筒の外面及び内面から同時に着火」しないことを指摘した上で、たとえ本件特許に係る出願時の当業者の技術常識に照らしても、当該内径又は長さが特定されない本件請求項1ないし7に記載された数値範囲全体にまで拡張又は一般化できないものであるから、特許法第36条第6項第1号に違反する、というものと認められる。

(イ)検討
a.しかるに、技術常識からみて、可燃物の単一の表面に着火する場合であっても、当該表面の離れた複数の点につき厳密に(ミリ秒のオーダーである。)同時点で着火する条件となる確率は、極めて低いことが当業者に自明である。
まして、本件特許発明に係るガス発生剤組成物成型体につき検討すると、単孔円筒状成型体の場合、外面と内面という2つの面が表裏になっているものであり、外面の着火と内面の着火が厳密に同時点に起こる確率は、さらに極めて低いものであることが当業者に自明であるから、単孔円筒状成型体の外面と内面につき同時に着火するとはいえない。
してみると、本件特許発明のガス発生剤成型体の着火は、その表面部位により着火時点が異なるのであるから、本件特許発明における「W/(2・r)」は、厳密な意味での燃焼時間自体を表すものではなく、平均的な燃焼時間(の程度)を表す指数(パラメータ)であるとするのが相当である。
(上記(ア-2)の別件審決及び(ア-3)の判決における判示も上記の事項をいうものと認められる。)
したがって、請求人の「単孔円筒状成型体の燃焼時間を表すこと」及びもって「「円筒の外面及び内面から同時に着火する」との技術的意義を包含している」ことを前提とした上記主張については、その前提自体が当を得ないものであるから、採用することができない。

b.また、本件特許発明は、単孔円筒状エアバッグ用ガス発生剤成型体に関するものであるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明のエアバッグシステム装置の小型化傾向(上記摘示(a)の【0006】参照)及びペレット型ガス発生剤成型体の問題点(上記摘示(a)の【0011】及び【0013】参照)に関する記載からみて、単孔円筒状ガス発生剤成型体について、長さ(L)を極端に長くすれば、システム装置の小型化を阻害するであろうし、内径(d)につき、極端に小さくすればペレット形状(無孔円柱状)に類する形状になり「単孔円筒状」としたことの技術的意義を失うことが明らかであるとともに、極端に大きくすればペレット状のものと同様に自動車の振動などに成型体の破損が生じるであろうことは、いずれも当業者に自明である。
してみると、ガス発生剤成型体の形状・寸法につき長さ(L)及び内径(d)などが極端な場合について、そもそも本件特許発明の範囲に実質的に包含されないことは、上記本件特許明細書の従来技術の問題点に係る記載に照らして、当業者が当然に認識することができる事項であるといえる。

c.そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(上記摘示(b)参照)を検討すると、実施例及び比較例の対比において、不完全燃焼がなく、インフレータ容器の破損もない良好な燃焼状態で、エアバッグシステム用のガス発生剤として好適な38?62ミリ秒なる最大圧力到達時間(実質的な「燃焼時間」に相当。甲第4号証「Fig.7」など参照)で燃焼・ガス発生できるガス発生剤成型体が得られるという、上記ア.に示した本件特許発明の解決課題に対応する効果が奏されることが記載されている。
してみると、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして、上記b.に示した当然に除外される範囲を除く請求項1ないし7に記載した事項で特定される発明が、上記ア.に示した本件特許発明の解決課題を解決できると認識できるものといえる。

ウ.まとめ
したがって、本件特許に係る請求項1ないし7に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものというべきである。
よって、請求人が主張する無効理由1は理由がない。

(2)無効理由2について

ア.請求人の主張の内容
本件審判請求書(第17頁第6行?第18頁第4行)の主張からみて、無効理由2に係る請求人の主張は、
請求項の記載から本件特許発明はいかなる長さ・内径の単孔円筒状ガス発生剤成型体をも包含するが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、特定の内径や長さなどを有する成型体の場合についてのみ実施可能に記載されているにすぎないところ、甲第4号証ないし甲第7号証のとおり、成型体の内面及び外面に同時着火せず、「W/(2・r)」で計算される(燃焼時間)値では燃焼完了しない場合が存在すると合理的に推察できるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された上記特定の場合は、本件特許発明に含まれる特異点であると理解すべきであって、当業者が、本件特許明細書の他の記載及び出願時の技術常識に照らしても、請求項1ないし7に記載された事項で特定される本件特許発明のうち、特異点である上記特定の場合以外の場合につきその実施をすることができないので、平成14年改正前の特許法第36条第4項の規定に違反する、というものと認められる。

イ.検討
しかるに、本件特許明細書の発明の詳細な説明(上記摘示(b)参照)の「火薬組成物をバインダーを用いて特定の厚みに成型するためには従来より知られる方法、例えば打錠成型、押出成型等を適用することができる」、「本発明のようにエアバッグ用ガス発生剤として使用する場合には、・・成型体を単孔円筒状に成型し、この成型を圧伸成型法を適用して行うことが好ましい」、「金型を備えた圧伸成型機を用いて成型し、適当な長さに裁断し、乾燥することにより、・・ガス発生剤成型体が得られた」及び「圧伸成型法では、金型を用いて外径を一定に保ち内径を変化させることにより厚さを調整することが可能である」などの記載からみて、成型体が圧伸成型法などの成型方法により製造することができること及び本件特許発明の成型体において、長さLが適当な長さに裁断すること並びに外径Rや内径dを金型を用いて変化させて厚さWを調整することにより、それぞれ、所望の範囲に調整できることも記載されているから、本件特許の各請求項に記載された事項を具備する成型体の製造方法は、当業者が、技術常識及び周知慣用の技術などを適用することにより、適宜製造できる程度に記載されていることが明らかである。

また、上記(1)イ.(イ)a.でも説示したとおり、本件特許発明でいう「W/(2・r)」は、厳密な意味での燃焼時間自体を表すものではなく、平均的な燃焼時間(の程度)を表す指数(パラメータ)である。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明(特に実施例及び比較例に係る部分)の記載からみて、厳密な意味で「W/(2・r)」で計算される値では燃焼完了しない場合が存在するとしても、当該場合の「W/(2・r)」なる指数(パラメータ)が請求項1に記載された範囲のものであれば、インフレータシステムに要求されるバッグ展開時間である40?60ミリ秒程度を達成できる燃焼時間で燃焼完了するであろうと、当業者が認識できるように記載されている。
(ちなみに、「実施例A」を除く各実施例では、「W/(2・r)」の値(0.033?0.053(秒))よりそれぞれ最大圧力到達時間が長くなっており、47?62ミリ秒である。)
してみると、請求人の上記本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例などの特定の場合は本件特許発明に含まれる特異点であるとの主張は、その技術的根拠を欠くものである。
(なお、上記(1)イ.(イ)b.で説示したとおり、ガス発生剤成型体の形状・寸法につき長さ(L)及び内径(d)などが極端な場合について、そもそも本件特許発明の範囲に実質的に包含されないことは、上記本件特許明細書の従来技術の問題点に係る記載に照らして、当業者が当然に認識することができる事項であるといえるから、当該極端な場合については、明細書の発明の詳細な説明において、当業者が実施できるように記載することを要しないものである。)

ウ.まとめ
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許に係る請求項1ないし7に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない、ということができない。
よって、請求人が主張する無効理由2は理由がない。

第3 むすび
以上のとおりであるから、本件特許は、請求人の主張する無効理由及び証拠方法では、無効とすることができない。
本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-11-01 
出願番号 特願2000-386678(P2000-386678)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (C06D)
P 1 113・ 536- Y (C06D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 敏康  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 橋本 栄和
井上 雅博
登録日 2003-09-26 
登録番号 特許第3476771号(P3476771)
発明の名称 エアバッグ用ガス発生剤成型体の製造法  
代理人 小野 誠  
代理人 坪倉 道明  
代理人 金山 賢教  
代理人 重森 一輝  
代理人 吉澤 敬夫  
代理人 三村 量一  

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