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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1248896
審判番号 不服2009-20628  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-26 
確定日 2011-12-15 
事件の表示 特願2003-144583「樹脂被覆Snめっき鋼板、それを用いた缶、および樹脂被覆Snめっき鋼板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月 9日出願公開、特開2004-345214〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成15年5月22日に出願されたもので、平成20年4月16日付け拒絶理由通知書が送付され、願書に添付した明細書又は図面についての同年6月18日付け手続補正書が提出されたものの、平成21年7月17日付けで拒絶査定されたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として請求されたもので、上記明細書又は図面についての平成21年10月26日付け手続補正書が提出されている。

2.原査定
原査定の拒絶理由の1つは、以下のとおりのものと認める。
「この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2002-285354号公報に記載された発明及び特開平6-238818号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

「特開2002-285354号公報」、「特開平6-238818号公報」を、以下、それぞれ、「引用刊行物1」、「引用刊行物2」という。

3.当審の判断
3-1.平成21年10月26日付け手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)について
本件補正は、以下に詳述するように、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3-1-1.本件補正の内容
本件補正は、以下の補正事項a、b、cを有するものと認める。
補正事項a;特許請求の範囲の記載につき、以下(cl)を(CL)と補正する。

(cl);「【請求項1】
Snめっき層上にシランカップリング剤塗布層を形成させてなるSnめっき鋼板の少なくとも片面に、コロナ放電処理を施した有機樹脂フィルムを被覆してなる樹脂被覆Snめっき鋼板。
【請求項2】
Snめっき鋼板が、鋼板上にSnめっき層を形成させたままのSnめっき鋼板(ノーリフローSnめっき鋼板)、または鋼板とSnめっき層の間にSn-Fe合金層を形成させてなるSnめっき鋼板(リフローSnめっき鋼板)である、請求項1に記載の樹脂被覆Snめっき鋼板。
【請求項3】
シランカップリング剤の塗布量が、Si量で1?50mg/m^(2)である請求項1または2に記載の樹脂被覆Snめっき鋼板。
【請求項4】
コロナ放電処理が電圧:200V、電流:0.2?8A/25cmの条件で施したものである、請求項1?3のいずれかに記載の樹脂被覆Snめっき鋼板。
【請求項5】
絞り比:1.64の1段絞り加工で径:96mm、高さ:42mmの絞りカップに成形した後の、カップ側壁部の樹脂フィルムの剥離強度が0.05kg/15mm以上であることを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載の樹脂被覆Snめっき鋼板。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の樹脂被覆Snめっき鋼板を絞り加工してなる缶。
【請求項7】
請求項1?5のいずれかに記載の樹脂被覆Snめっき鋼板を絞り加工後さらにストレッチ加工してなる缶。
【請求項8】
請求項1?5のいずれかに記載の樹脂被覆Snめっき鋼板を絞り加工後さらにしごき加工してなる缶。
【請求項9】
請求項1?5のいずれかに記載の樹脂被覆Snめっき鋼板を絞り加工後さらにストレッチ加工としごき加工を併用して加工してなる缶。
【請求項10】
鋼板の少なくとも片面にSnめっき層を形成させ、次いでSnめっき層上にシランカップリング剤を塗布し乾燥させた後、シランカップリング剤塗布層上にコロナ放電処理面が接するようにしてコロナ放電処理を施した有機樹脂フィルムを積層することを特徴とする、樹脂被覆Snめっき鋼板の製造方法。」

(CL)「【請求項1】
Snめっき層上にシランカップリング剤塗布層を形成させてなるSnめっき鋼板の少なくとも片面に、コロナ放電処理を施した無配向の有機樹脂フィルムを被覆してなる樹脂被覆Snめっき鋼板。
【請求項2】
Snめっき鋼板が、鋼板上にSnめっき層を形成させたままのSnめっき鋼板(ノーリフローSnめっき鋼板)、または鋼板とSnめっき層の間にSn-Fe合金層を形成させてなるSnめっき鋼板(リフローSnめっき鋼板)である、請求項1に記載の樹脂被覆Snめっき鋼板。
【請求項3】
シランカップリング剤の塗布量が、Si量で1?50mg/m^(2)である請求項1または2に記載の樹脂被覆Snめっき鋼板。
【請求項4】
コロナ放電処理が電圧:200V、電流:0.2?8A/25cmの条件で施したものである、請求項1?3のいずれかに記載の樹脂被覆Snめっき鋼板。
【請求項5】
絞り比:1.64の1段絞り加工で径:96mm、高さ:42mmの絞りカップに成形した後の、カップ側壁部の樹脂フィルムの剥離強度が0.05kg/15mm以上であることを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載の樹脂被覆Snめっき鋼板。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の樹脂被覆Snめっき鋼板を絞り加工してなる缶。
【請求項7】
請求項1?5のいずれかに記載の樹脂被覆Snめっき鋼板を絞り加工後さらにストレッチ加工してなる缶。
【請求項8】
請求項1?5のいずれかに記載の樹脂被覆Snめっき鋼板を絞り加工後さらにしごき加工してなる缶。
【請求項9】
請求項1?5のいずれかに記載の樹脂被覆Snめっき鋼板を絞り加工後さらにストレッチ加工としごき加工を併用して加工してなる缶。
【請求項10】
鋼板の少なくとも片面にSnめっき層を形成させ、次いでSnめっき層上にシランカップリング剤を塗布し乾燥させた後、シランカップリング剤塗布層上にコロナ放電処理面が接するようにしてコロナ放電処理を施した無配向の有機樹脂フィルムを積層することを特徴とする、樹脂被覆Snめっき鋼板の製造方法。」
ここ「3-1」では、本件補正前の請求項1を旧【請求項1】といい、本件補正後の請求項1を新【請求項1】という。
補正事項b;明細書【0008】につき、以下(b1)を(b2)と補正する。

(b1)「【課題を解決するための手段】
本発明の樹脂被覆Snめっき鋼板は、Snめっき層上にシランカップリング剤塗布層を形成させてなるSnめっき鋼板の少なくとも片面に、コロナ放電処理を施した有機樹脂フィルムを被覆してなる樹脂被覆Snめっき鋼板(請求項1)であり、Snめっき鋼板が、鋼板上にSnめっき層を形成させたままのSnめっき鋼板(ノーリフローSnめっき鋼板)、または鋼板とSnめっき層の間にSn-Fe合金層を形成させてなるSnめっき鋼板(リフローSnめっき鋼板)であること、(請求項2)また シランカップリング剤の塗布量が、Si量で1?50mg/m^(2) であること(請求項3)、さらにまた、コロナ放電処理が電圧:200V、電流:0.2?8A/25cmの条件で施したものであること(請求項4)、さらにまた 上記の請求項1?4のいずれかの樹脂被覆Snめっき鋼板を、絞り比:1.64の1段絞り加工で径:96mm、高さ:42mmの絞りカップに成形した後の、カップ側壁部の樹脂フィルムの剥離強度が0.05kg/15mm以上であること(請求項5)を特徴とする。」

(b2)「【課題を解決するための手段】
本発明の樹脂被覆Snめっき鋼板は、Snめっき層上にシランカップリング剤塗布層を形成させてなるSnめっき鋼板の少なくとも片面に、コロナ放電処理を施した無配向の有機樹脂フィルムを被覆してなる樹脂被覆Snめっき鋼板(請求項1)であり、Snめっき鋼板が、鋼板上にSnめっき層を形成させたままのSnめっき鋼板(ノーリフローSnめっき鋼板)、または鋼板とSnめっき層の間にSn-Fe合金層を形成させてなるSnめっき鋼板(リフローSnめっき鋼板)であること、(請求項2)また シランカップリング剤の塗布量が、Si量で1?50mg/m^(2) であること(請求項3)、さらにまた、コロナ放電処理が電圧:200V、電流:0.2?8A/25cmの条件で施したものであること(請求項4)、さらにまた 上記の請求項1?4のいずれかの樹脂被覆Snめっき鋼板を、絞り比:1.64の1段絞り加工で径:96mm、高さ:42mmの絞りカップに成形した後の、カップ側壁部の樹脂フィルムの剥離強度が0.05kg/15mm以上であること(請求項5)を特徴とする。」

補正事項c;明細書【0010】につき、以下(c1)を(c2)と補正する。
(c1)「また本発明の樹脂被覆Snめっき鋼板の製造方法は、鋼板の少なくとも片面にSnめっき層を形成させ、次いでSnめっき層上にシランカップリング剤を塗布し乾燥させた後、シランカップリング剤塗布層上にコロナ放電処理面が接するようにしてコロナ放電処理を施した有機樹脂フィルムを積層することを特徴とする、樹脂被覆Snめっき鋼板の製造方法が提供される。」

(c2)「また本発明の樹脂被覆Snめっき鋼板の製造方法は、鋼板の少なくとも片面にSnめっき層を形成させ、次いでSnめっき層上にシランカップリング剤を塗布し乾燥させた後、シランカップリング剤塗布層上にコロナ放電処理面が接するようにしてコロナ放電処理を施した無配向の有機樹脂フィルムを積層することを特徴とする、樹脂被覆Snめっき鋼板の製造方法が提供される。」

3-1-2.本件補正の適否
補正事項aは「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」(以下、「限定的減縮」という。)を目的としたものであるが、補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は、以下に述べるように、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

1)新【請求項1】に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、新【請求項1】に記載された事項により特定されるもので、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】Snめっき層上にシランカップリング剤塗布層を形成させてなるSnめっき鋼板の少なくとも片面に、コロナ放電処理を施した無配向の有機樹脂フィルムを被覆してなる樹脂被覆Snめっき鋼板。」

2)本件審判に係る出願前に頒布された刊行物であることが明らかな引用刊行物1には、以下の記載a?cが認められる。
a;「【特許請求の範囲】
【請求項1】 鋼板の片面または両面にSn層と、その上層にシランカップリング剤塗布層を設けてなる、Snめっき鋼板。
【請求項2】 鋼板の片面または両面にFe-Sn合金層と、その上層にSn層と、さらにその上層にシランカップリング剤塗布層を設けてなる、Snめっき鋼板。
【請求項3】 シランカップリング剤の塗布量がSi量で1?50mg/m^(2)である請求項1または2に記載のSnめっき鋼板。
【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載のSnめっき鋼板に有機樹脂皮膜を被覆してなる樹脂被覆Snめっき鋼板。」
b;「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、Snめっき鋼板のSnめっき層上にシランカップリング剤塗布層を設けてなる、有機樹脂層との接着強度に優れたSnめっき鋼板、Snめっき鋼板に樹脂皮膜を被覆してなる樹脂被覆Snめっき鋼板、それを用いた缶、およびSnめっき鋼板と樹脂被覆Snめっき鋼板の製造方法に関する。」
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の欠点を解消し、被覆下地の耐食性に優れ、厳しい加工を施しても被覆した有機樹脂層が剥離することのない、被覆樹脂層の優れた接着強度を有するSnめっき鋼板、Snめっき鋼板に樹脂皮膜を被覆してなる樹脂被覆Snめっき鋼板、それを用いた缶、およびSnめっき鋼板と樹脂被覆Snめっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする。」
c;「【0013】本発明の樹脂被覆Snめっき鋼板は、上記のようにして得られたSnめっき鋼板の片面または両面に、有機樹脂塗料を塗装するか、または有機樹脂フィルムを積層することによって得ることができる。有機樹脂塗料としては、熱硬化性または熱可塑性の樹脂塗料、例えば、フェノール・エポキシ塗料、尿素・エポキシ塗料、アミノ・エポキシ塗料、エポキシ・エステル塗料などの変性エポキシ塗料、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体部分ケン化物、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体などの用いた-ビニル塗料、例えば、エポキシ変性-ビニル樹脂塗料、エポキシアミノ変性-ビニル樹脂塗料、エポキシフェノール変性-ビニル樹脂塗料などの変性ビニル樹脂塗料、アクリル樹脂系塗料、油性塗料、アルキド樹脂塗料、ポリエステル塗料、スチレン-ブタジエン系共重合体などの合成ゴム系塗料などを用いることができる。塗布量としては樹脂被覆Snめっき鋼板を成形加工した後の成形体における塗膜の接着強度、耐食性、および経済性の観点から1?200mg/dm^(2)、好ましくは10?100mg/dm^(2)であることが好ましい。
【0014】有機樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、エチレンテレフタレート・エチレンイソフタレート共重合体、ブチレンテレフタレート・ブチレンイソフタレート共重合体などのポリエステル樹脂、あるいはこれらのポリエステル樹脂の2種類以上をブレンドした樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、およびそれらをマレイン酸変性したもの、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体などのポリオレフィン樹脂、6-ナイロン、6,6-ナイロン、6,10-ナイロンなどのポリアミド樹脂、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、さらに上記のポリエステル樹脂とアイオノマーをブレンドしたものからなる単層の樹脂フィルム、さらにこれらの樹脂の2種類以上からなる複層の樹脂フィルムなどを用いることができる。樹脂フィルムの厚さとしては、フィルム積層作業のし易さ、樹脂被覆Snめっき鋼板を成形加工した後の成形体における樹脂フィルムの接着強度、耐食性、および経済性の観点から10?100μmであることが好ましい。
【0015】これらの樹脂フィルムは、樹脂ペレットを加熱溶融し、それを押出機のTダイから直接上記のSnめっき鋼板上に押し出して積層してもよいし、樹脂ペレットを加熱溶融し、それを押出機のTダイから押し出し、所望の厚さのフィルムに製膜したものを、上記のSnめっき鋼板に熱接着法を用いて接着してもよい。熱接着法は、樹脂が接着する温度範囲に加熱したSnめっき鋼板に樹脂フィルムを当接し、1対のロールで挟み付けて、加圧して圧接する方法である。熱接着法を用いて樹脂フィルムをSnめっき鋼板に熱接着する場合は、樹脂フィルムに延伸加工を施さずに製膜した樹脂フィルムを用いることにより、Snの融点よりかなり低い温度で熱接着することができる。1軸方向、または縦横2軸方向に延伸加工して製膜した樹脂フィルムを積層する場合は、延伸加工後の熱固定をSnの融点よりかなり低い温度で行わないと、樹脂の融点以上の温度より高温に加熱しないかぎりSnめっき鋼板との良好な接着強度が得られないので、融点がSnの融点よりも高い樹脂を用いる場合には、熱接着することが困難になる場合がある。」

3)本件審判に係る出願前に頒布された刊行物であることが明らかな引用刊行物2には、以下の記載a?cが認められる。
a;「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、缶用被覆金属板及びそれから形成されたシームレス缶に関するものであり、より詳細には炭酸飲料の泡吹き出しを有効に防止でき、しかも耐腐食性に優れた絞り缶等及びその製造に用いる被覆金属板に関する。」
b;「【0022】表面処理鋼板としては、冷圧延鋼板を焼鈍後二次冷間圧延し、亜鉛メッキ、錫メッキ、ニッケルメッキ、電解クロム酸処理、クロム酸処理等の表面処理の一種または二種以上行ったものを用いることができる。」
c;「【0029】本発明において、ポリエステルフィルムは単層の形で用いることもできるし、多層の積層フィルムの形で用いることもできる。後者の積層フィルムの場合、金属板側のフィルム層は通常のポリエステル層であり、容器内面側のフィルム層が粒径0.01乃至0.5μmのアンチブロッキング剤を含有するポリエステル層であるのがよい。厚みの比は20:80乃至80:20内にあるのがよい。フィルムの接着性を高めるために、二軸延伸ポリエステルフィルムの表面をコロナ放電処理しておくことが一般に望ましい。」

4)引用刊行物1には、記載aによれば、請求項1を引用する請求項4として、「鋼板の片面または両面にSn層と、その上層にシランカップリング剤塗布層を設けてなり、さらに有機樹脂被膜を被覆してなる樹脂被覆Snめっき鋼板」が記載され、記載cによれば、樹脂被覆として、各種有機樹脂フィルムを用いることができ、樹脂フィルムに延伸加工を施さずに製膜した樹脂フィルムを用いることも記載されているのであるから、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「鋼板の片面または両面にSn層と、その上層にシランカップリング剤塗布層を設けてなり、樹脂フィルムに延伸加工を施さずに製膜した有機樹脂フィルムを被覆してなる樹脂被覆Snめっき鋼板」

5)次に、補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「鋼板の片面または両面」は、補正発明の「鋼板の少なくとも片面」に対応し、更に、引用発明1の「Sn層」は、補正発明の「Snめっき層」に対応しているということができる。
また、引用発明1において、樹脂フィルムに延伸加工を施さずに製膜した樹脂フィルムが、1軸方向、または縦横2軸方向に延伸加工して製膜した樹脂フィルムと対比して記載されていることからして(引用刊行物1記載c)、延伸加工を施していないため無配向の有機樹脂フィルムであることは普通に理解できることである。
以上のことから、補正発明は、引用発明1とは、
「Snめっき層上にシランカップリング剤塗布層を形成させてなるSnめっき鋼板の少なくとも片面に、無配向の有機樹脂フィルムを被覆してなる樹脂被覆Snめっき鋼板」である点で一致し、以下の点において相違していると認められる。

相違点a;無配向の有機樹脂フィルムについて、補正発明は、コロナ放電処理を施したものである点。

6)そこで、相違点aについて検討する。
樹脂被覆Snめっき鋼板の技術において、樹脂フィルムの接着性を高めるために表面をコロナ放電処理しておくことは、樹脂の配向の有無にかかわらず、この出願前、当業者にとって技術常識であり(特開平9-208720号公報【0001】【0013】【0019】には、未延伸の、つまり無配向のフィルムでも一軸または二軸に延伸された延伸フィルムでも表面をコロナ放電処理することが記載されている。)、引用刊行物2には、前記記載a?cから、被覆金属板において、錫メッキ等を行った表面処理鋼板へ積層するフィルム表面をコロナ放電処理することでフィルムの接着性を高める発明が記載されている。
したがって、引用発明1における有機樹脂フィルムが無配向のものであっても、前記技術常識を参照すれば、当業者であれば、引用刊行物1の課題である(引用刊行物1記載b)有機樹脂層との接着強度を、さらに高めることを目的として、同一課題である引用刊行物2に記載されたフィルム表面をコロナ放電処理することでフィルムの接着性を高める技術を適用し、引用発明1の無配向の有機樹脂フィルムの接着性を高めるために、表面をコロナ放電処理をすることは、容易に為し得るものといえ、相違点aは容易に想到し得るものである。
また、適用したことによる補正発明の作用効果を検討しても、引用発明1、引用刊行物2記載の発明、及び前記技術常識からみて、当業者の予測を超える顕著な接着性が得られたとはいえない。

7)してみると、補正発明は、引用発明1及び引用刊行物2記載の発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3-1-3.まとめ
補正事項a?cを有する本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第5項の規定に違反するもので、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3-2.原査定の拒絶理由について
3-2-1.本件の発明
本件補正は、先に「3-1」で述べたように却下すべきものであり、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本件補正前の、願書に添付した明細書の請求項1に記載の事項により特定されるものであって、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。
「Snめっき層上にシランカップリング剤塗布層を形成させてなるSnめっき鋼板の少なくとも片面に、コロナ放電処理を施した有機樹脂フィルムを被覆してなる樹脂被覆Snめっき鋼板。」

3-2-2.引用刊行物1及び2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物1、2及びそれらの記載事項は、前記「3-1-2 2)及び3)」に記載したとおりである。

3-2-3.対比・判断
本願発明は、前記「3-1」で検討した補正発明から「有機樹脂フィルム」の限定事項である「無配向の」との発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する補正発明が前記「3-1-2」に記載したとおり、引用発明1、引用刊行物2記載の発明、及び前記技術常識に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1、引用刊行物2記載の発明、及び前記技術常識に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

3-2-4.まとめ
本願発明は、引用発明1及び引用刊行物2記載の発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、原査定の拒絶理由は、相当である。

4.結び
原査定は、妥当である。
したがって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-12 
結審通知日 2011-10-18 
審決日 2011-10-31 
出願番号 特願2003-144583(P2003-144583)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 一宮 里枝深草 祐一山本 晋也  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 紀本 孝
瀬良 聡機
発明の名称 樹脂被覆Snめっき鋼板、それを用いた缶、および樹脂被覆Snめっき鋼板の製造方法  
代理人 小野 尚純  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 小野 尚純  

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