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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1248952
審判番号 不服2011-1110  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-18 
確定日 2011-12-14 
事件の表示 特願2003-300325「超音波探触子及び超音波診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月17日出願公開、特開2005- 66041〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成15年8月25日を出願日とするものであり,平成22年10月14日付けで拒絶査定がされ,これに対し平成23年1月18日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がされたものである。

第2 平成23年1月18日付けの手続補正についての補正却下の決定

1 補正却下の決定の結論
平成23年1月18日付けの手続補正を却下する。

2 理由
(1)本願補正発明
本件補正は,補正前の特許請求の範囲の請求項1を,特許請求の範囲の請求項1として,「被検体を圧迫した際に体表に与えられた圧力の情報を取得するために超音波送受信面を覆うように圧計測用変形体を有した超音波探触子と,
前記超音波探触子を用いて前記被検体に対して超音波を送信及び受信する超音波送受信手段と,
前記超音波探触子によって受信された反射エコー信号に基づくRF信号フレームデータ,又は前記RF信号フレームデータを信号処理することにより得られる断層像データを利用して前記被検体の体表と前記圧計測用変形体との境界の座標を検出して求められる前記圧計測用変形体の厚さの圧縮量に基づいて計算された前記圧計測用変形体の歪みと,前記圧計測用変形体の既知の弾性率とを用いて,前記被検体の診断部位を圧迫した際に前記被検体の体表に与えられた圧力を演算する圧力演算手段を備えることを特徴とする超音波診断装置。」とする補正を含むものである(下線部は補正箇所を示す。)。

(2)補正要件(限定的減縮)について
上記請求項1についての補正は,補正前の「前記圧計測用変形体の厚さを求め,前記圧計測用変形体の厚さと」を「前記被検体の体表と前記圧計測用変形体との境界の座標を検出して求められる前記圧計測用変形体の厚さの圧縮量に基づいて計算された前記圧計測用変形体の歪みと」とするものであり,「圧計測用変形体の厚さ」の算出手法を「被検体の体表と前記圧計測用変形体との境界の座標を検出して求められる」と限定し,圧力演算手段を「圧計測用変形体の厚さの圧縮量に基づいて計算された前記圧計測用変形体の歪み」を用いるものと限定するといえるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,上記請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3)独立特許要件(進歩性)について

ア 刊行物1およびその記載事項
本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である,特表2001-519674号公報(以下,「刊行物1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている(以下,下線は当審において付記したものである。)。

(ア-1)「本発明は一般にターゲット体のエラストグラフィー診断を実施する方法および装置に関するものである。エラストグラフィーは,弾性組織中の弾性係数および圧縮度分布を測定し撮像するシステムである。またエラストグラフィーは歪プロフィル作成と改良型ソノグラフ測定および撮像とに応用される。このシステムは代表的にはターゲット体の外部圧縮に基づいており,コンプレッサとして作動しまたはコンプレッサと共に作動する単数または複数のトランスデューサを利用して圧縮前後に音パルスを発生し,またターゲット体内部からパルスによるエコー系列(A-ライン)を受ける。圧縮前後のエコー系列対を公差相関しまたは整合させて音パルスの通路に沿った歪を決定し,好ましくはターゲット体の歪プロフィルを作成する。圧縮装置によって加えられた応力を測定し,この応力と歪プロフィルに基づいて弾性係数を計算する事により前記歪プロフィルを圧縮性プロフィルまたはエラストグラムに変換する。」(6頁14?26行)

(ア-2)「 超音波技術は,診断医学分野でしばしば,生体組織(すなわち生きた組織)の特性分析のための非侵略的手段として広く使用されている。人体または動物体は非均質な超音波エネルギー伝播媒体を成す。このようなターゲット体中の密度および/または音速の変動する区域の境界においては,音インピーダンスが変化する。このような境界においては,入射超音波ビームの一部が反射される。組織中の非均質部分が低レベル散乱部位を成し,これらの部位が追加エコー信号を生じる。ターゲット体中の対応点からのエコー系列セグメントの強さに対応してビデオディスプレー上の画素の強さを変調する事により,前記の情報から画像を生じる事ができる。」(8頁3?11行)

(ア-3)「広い意味において本発明は,弾性ターゲット体,特に動物および人間の組織の改良されたエラストグラムとソノグラムとを作成する超音波システムを含む。1つのアスペクトにおいて,本発明のエラストグラフィーはターゲット体の圧縮性を決定するために音装置をターゲット体に音的に接続する段階を含む。この音装置は,超音波信号を発生しまたターゲット体中の音通路にそって戻るエコー系列を受けるために使用される。次にこの音装置は音通路の軸線にそって既知量だけ移動させられ,再び音通路にそってターゲット体に問い合わせる。相異なる音信号から得られるエコー系列中の合同セグメントを好ましくは交差相関しまたは整合させ,また時間ずれを利用して音通路にそった歪を計算する。この手順を複数の音通路について,順次にまたは音列によって繰り返して,ターゲット体の歪プロフィルを作成する。
圧縮度プロフィルを得るため既知の好ましくは均一な弾性率を有する第2ターゲット体をまず前記ターゲット体と音装置との間に音的に接続する。次に前記の段階を使用して両方のターゲット体の歪プロフィルを決定する。次に音装置の運動によって生じた応力を,第2ターゲット体の歪プロフィルと弾性率とから決定する。ターゲット体の圧縮度プロフィルは,このターゲット体の歪プロフィルを前記応力によって割る事によって得られる。このよにして得られた圧縮度は,さらに1つの組織または他のターゲット体の相対圧縮度値のエラストグラム,位置多次元プロットまたは画像として処理する事ができる。」(14頁20行?15頁11行)

(ア-4)「第1a図はターゲット体15に対して音的に接続されたトランスデューサ10とコンプレッサ10aとを示す。ビーム軸線12上のエコーソース25に向かって音ビーム20中を伝播する超音波パルス18が図示されている。パルス18がターゲット15を通して伝播する際に,対応のエコーが発生されて,到着時間がトランスデューサアパチュア11に記録される。ビーム20中の反射から生じるすべてのエコーの組合わせがエコー系列またはパルス18に対応するA-ラインである。
パルス18から得られたA-ラインの無線周波数(”RF”)信号プロットを第1b図に示す。」(17頁8?16行)

(ア-5)「さらに外部コンプレッサと共にまたは単独で内部圧縮ソースを使用する事ができる。心臓または動脈などの内部圧縮ソースの場合,この内部圧縮ソースから生じる応力が時間と共に変動するものであってもその組織を通して実質的に均一となるように,研究される組織は内部圧縮ソースから十分に離間配置される事が好ましい。次にトランスデューサをターゲット体に音的に接続する事ができる。この場合,好ましくは既知の均一弾性を有する弾性体がトランスデューサとターゲット体との間に音的に接続されて,トランスデューサに隣接した組織が内部圧縮源によって圧縮される際に前記の弾性体とトランスデューサとを圧縮し,この内部圧縮源によって組織の中に発生される応力が減少するに従ってトランスデューサおよび弾性体に対する応力が低下するようにする。次に本発明の方法を使用して弾性体と組織の中の歪を音的方法によって測定し,次に弾性体の弾性値および歪測定値から弾性体に対する応力を決定する。最後にこの応力がその組織中の応力レベルとみなされ,測定された歪値と共に使用されて組織中の圧縮プロフィルを決定する。」(19頁5?18行)

(ア-6)「エラストグラフィーの好ましい実施態様は,(1)既知の弾性率と音速とを有する物質をターゲット体表面に音的に接続する段階と,(2)前記物質を通る通路にそってターゲット体の中に超音波エネルギーの第1パルスを放出する段階と,(3)ターゲット体の中から前記第1パルスの結果として生じる複数のエコーセグメントを含む第1エコー系列を検出する段階と,(4)前記物質とターゲット体の間の音的接続を保持しながらターゲット体を移動させる程度に前記物質をターゲット体に対して押しつける段階と,(5)前記物質を通る通路にそってターゲット体の中に超音波エネルギーの第2パルスを放出する段階と,(6)前記第2パルスの結果として発生し,前記第1エコー系列と共通の複数のエコーセグメントを含む第2エコー系列を検出する段階とを含む。既知のヤング率と音速とを有する物質が存在するので,ターゲット体のヤング率を決定する事ができる。」(26頁16?27行)

(ア-7)「第6図について述べれば,ターゲット体204の圧縮度を決定するための装置が略示されている。この装置は,剛性フレーム199と,前記フレーム199に取付けられたモータ200と,第1端と第2端とを有する軸方向部材201であって,前記第1端は前記剛性フレーム199に連結され前記第2端はモータ200に連結されて軸方向部材201と剛性フレーム199の軸方向位置がモータ200を作動する事によって変動されるように成された軸方向部材201と,前記剛性フレーム199上に取付けられた超音波ソース202とを含む。超音波ソース202は,ターゲット体204に音的に接続される面212を有する。ターゲット体204は支持体215上に載置される。
超音波ソース202は単一トランスデューサとし,またはトランスデューサ列とする事ができる。軸方向部材201はウォームギヤとする事ができる。
既知の弾性率と音速とを有する層203の上側面は超音波ソース202の下側面212に接続されている。層203の下側面はターゲット体204に接続されている。
またこの装置は,トランスデューサからの信号を記憶するためにトランスデューサに接続されたデータ記憶媒体を含む。軸方向部材201の運動はモータ200に接続されたモータコントローラ205を使用して精密に制御されるので,モータ200の運動は軸方向部材201を精密に移動させる。
超音波ソース202を生かすために,この超音波ソースに対してトランスミッター206が接続されている。また超音波ソース202に対してレシーバ207が接続され,エコー系列に対応して超音波ソース202によって発生された信号がレシーバ208に伝送される。ディジタイザー209がレシーバ207に接続されて,アナログ信号をデジタルデータに変換する。さらにディジタイザー209に対して公差相関器210を接続する事ができる。コンピュータ208がトランスミッター206をトリガリングするようにトランスミッターに対して接続されている。また公差相関器210はコンピュータ208からデータを受けるようにこのコンピュータに対して接続される。好ましい実施態様においては,公差相関はハードウェア公差相関器210を使用するのでなく,ソフトウェアプログラムを使用して実施する事ができ,従って公知のプログラミング技術によって前記の公差相関アルゴリズムを使用する事ができる。コンピュータ208は,エコー系列を代表するデジタルデータを歪または圧縮度データあるいは歪または圧縮度プロフィルに変換するようにプログラミングされる。歪プロフィルおよび圧縮度プロフィルの画像がコンピュータ208に接続されたモニタ211上に表示される。
モータコントローラ205とモータ200は追加構造に対して剛性的に連結する事ができ,この場合,超音波ソース202は軸方向部材201または追加構造が運動させられる場合にのみ運動させられる事を注意しよう。またモータコントローラ205,モータ200,軸方向部材201,剛性フレーム199および超音波ソース202から成る装置部分を手で保持し,この場合に前記部分が手によってターゲット体204に当接するように保持されている間にモータ200が軸方向部材201と超音波ソース202をを軸方向に移動させる事ができる。」(34頁9行?35頁23行)

(ア-8)第6図は,ターゲット体中の深さに対応する応力変動を実験的に決定するためにコンプレッサがターゲット体に接続された装置の実施態様を示すブロックダイヤグラムであり,この図には,超音波ソース202と,その下面に配置された層203とが,接触する面においての同定度の大きさとされた形態が記載されている。

イ 対比・判断
刊行物1の記載事項(ア-1)?(ア-8)を総合すると,(ア-3),(ア-5),(ア-6)に記載された測定・検出手法が,(ア-7)に記載された装置を用いた測定・検出手法として妥当することは当然の前提と考えられることから,(ア-3)における「第2ターゲット体」,(ア-5)における「弾性体」,(ア-6)における「物質」は,(ア-7)における「層203」を意味するものといえ,(ア-3)における「音装置」は,(ア-7)における「超音波ソース202」を意味するものといえる。
よって,特に,(ア-7)および図6に記載された実施形態からみて,刊行物1には次の発明が記載されているものと認められる。

「ターゲット体204の圧縮度を決定するための装置であり,剛性フレーム199と,前記フレーム199に取付けられたモータ200と,第1端と第2端とを有する軸方向部材201であって,前記第1端は前記剛性フレーム199に連結され前記第2端はモータ200に連結されて軸方向部材201と剛性フレーム199の軸方向位置がモータ200を作動する事によって変動されるように成された軸方向部材201と,前記剛性フレーム199上に取付けられた超音波ソース202とを含み,トランスデューサ列である超音波ソース202は,ターゲット体204に音的に接続される面212を有し,ターゲット体204は支持体215上に載置され,既知の均一な弾性率と音速とを有する層203の上側面が超音波ソース202の下側面212に接続され,層203の下側面はターゲット体204に接続された装置であり,
超音波ソース202が音通路の軸線にそって既知量だけ移動させられる前後において受ける,ターゲット体中の音通路にそって戻るエコー系列に基づいて,ターゲット体204と層203の歪プロフィルを決定し,超音波ソース202の運動によって生じた応力を,層203の歪プロフィルと弾性率とから決定し,ターゲット体204の圧縮度プロフィルを,このターゲット体204の歪プロフィルを前記応力によって割る事によって得る手段を備えた装置」(以下,「刊行物1発明」という。)

そこで,以下に本願補正発明と刊行物1発明を対比する。

(ア)刊行物1発明の「応力」は,「層203の歪プロフィルと弾性率とから決定」されるものである。そうすると,刊行物1発明の「層203」は「応力」の情報を取得するために設けられるものといえ,本願補正発明の「圧力の情報を取得するため」の「圧計測用変形体」に相当する。刊行物1発明において,「層203」が設けられた「超音波ソース202」の「下側面212」が超音波送受信面であるのは明らかである。

また,刊行物1発明は「超音波ソース202」の「音通路の軸線にそっ」た「運動によって生じた応力」を用いて「ターゲット体204の圧縮度プロフィル」を得るものであるから,上記「応力」が,ターゲット体204を圧迫した際にターゲット体204表面に対して与えられるものであるのは明らかである。
一方,本願補正発明に記載された「圧力」について,発明の詳細な説明の【0030】,【0032】,【0039】に,「圧力(応力)」または「応力(圧力)」と記載されており,本願補正発明における「圧力」は「応力」と同義のものと解釈できる。

さらに,刊行物1の(ア-3)「広い意味において本発明は,弾性ターゲット体,特に動物および人間の組織の改良されたエラストグラムとソノグラムとを作成する超音波システムを含む。」(下線は当審において付記したもの。以下,同様。)との記載から,刊行物1発明の「ターゲット体204」に,人体が含まれることが理解される。

そうすると,刊行物1発明の「音通路の軸線にそって既知量だけ移動させられ」その「運動によって」「応力」を生じる「トランスデューサ列である超音波ソース202」であり,「既知の均一な弾性率と音速とを有する層203の上側面」がその「下側面212に接続され」た「超音波ソース202」と,本願補正発明の「被検体を圧迫した際に体表に与えられた圧力の情報を取得するために超音波送受信面を覆うように圧計測用変形体を有した超音波探触子」とは,「被検体を圧迫した際に体表に与えられた圧力の情報を取得するために超音波送受信面の上に圧計測用変形体を有した超音波探触子」である点で共通する。

(イ)刊行物1発明の「トランスデューサ列である超音波ソース202」は「ターゲット体中の音通路にそって戻るエコー系列」を「受ける」ものであるから,本願補正発明の「超音波探触子」に相当する。
また,本願補正発明の「超音波送受信手段」について,本願補正発明においてその構成は具体的に特定されていないが,発明の詳細な説明における「【0020】・・・そして,これらの超音波探触子10,送信回路12,超音波送受信制御回路11,受信回路13,整相加算回路14及び信号処理部15の全体で超音波送受信手段を構成しており,超音波探触子10で超音波ビームを被検体の体内で一定方向に走査させることにより,一枚の断層像を得るようになっている。」との記載を参酌すると,超音波探触子10,送信回路12,超音波送受信制御回路11,受信回路13,整相加算回路14及び信号処理部15が超音波送受信手段を構成するものとして想定されていることが理解される。そして,刊行物1発明の「装置」が上記の各回路や信号処理部と同様の機能を有する構成を備えることは,装置の原理上明らかである。
そうすると,刊行物1発明の「装置」は,本願補正発明の「超音波探触子を用いて前記被検体に対して超音波を送信及び受信する超音波送受信手段」を当然に備えるものといえる。

(ウ)刊行物1の(ア-4)「第1a図はターゲット体15に対して音的に接続されたトランスデューサ10とコンプレッサ10aとを示す。ビーム軸線12上のエコーソース25に向かって音ビーム20中を伝播する超音波パルス18が図示されている。パルス18がターゲット15を通して伝播する際に,対応のエコーが発生されて,到着時間がトランスデューサアパチュア11に記録される。ビーム20中の反射から生じるすべてのエコーの組合わせがエコー系列またはパルス18に対応するA-ラインである。パルス18から得られたA-ラインの無線周波数(”RF”)信号プロットを第1b図に示す。」との記載から,刊行物1発明の「トランスデューサ列である超音波ソース202」により受けられる「エコー系列」は,本願補正発明における「超音波探触子によって受信された反射エコー信号に基づくRF信号フレームデータ」に相当するものといえる。

そうすると,刊行物1発明の「超音波ソース202が」「受ける」「ターゲット体中の音通路にそって戻るエコー系列に基づいて」「層203の歪プロフィルを決定し」「超音波ソース202の運動によって生じた応力を,層203の歪プロフィルと弾性率とから決定」する手段と,本願補正発明の「超音波探触子によって受信された反射エコー信号に基づくRF信号フレームデータ,又は前記RF信号フレームデータを信号処理することにより得られる断層像データを利用して前記被検体の体表と前記圧計測用変形体との境界の座標を検出して求められる前記圧計測用変形体の厚さの圧縮量に基づいて計算された前記圧計測用変形体の歪みと,前記圧計測用変形体の既知の弾性率とを用いて,前記被検体の診断部位を圧迫した際に前記被検体の体表に与えられた圧力を演算する圧力演算手段」とは,「超音波探触子によって受信された反射エコー信号に基づくRF信号フレームデータ」「を利用して」「計算された前記圧計測用変形体の歪みと,前記圧計測用変形体の既知の弾性率とを用いて,前記被検体の診断部位を圧迫した際に前記被検体の体表に与えられた圧力を演算する圧力演算手段」である点で共通する。

(エ)刊行物1発明の「装置」は,上記「(ア)」で検討したとおり「ターゲット体204」として人体も対象とするものであり,超音波エコーに基づきその特性を測定するものであるから,本願補正発明の「超音波診断装置」に相当する。

以上より,本願補正発明と刊行物1発明とは,
「被検体を圧迫した際に体表に与えられた圧力の情報を取得するために超音波送受信面の上に圧計測用変形体を有した超音波探触子と,
前記超音波探触子を用いて前記被検体に対して超音波を送信及び受信する超音波送受信手段と,
前記超音波探触子によって受信された反射エコー信号に基づくRF信号フレームデータを利用して計算された前記圧計測用変形体の歪みと,前記圧計測用変形体の既知の弾性率とを用いて,前記被検体の診断部位を圧迫した際に前記被検体の体表に与えられた圧力を演算する圧力演算手段を備える超音波診断装置。」である点において一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)「圧計測用変形体」の配置形態について,本願補正発明においては「圧計測用変形体」が「超音波送受信面を覆うように」配置されると特定されているのに対して,刊行物1発明においては,「層203の上側面が超音波ソース202の下側面212に接続」されるとしか特定されていない点。

(相違点2)「圧力演算手段」において演算される「圧計測用変形体の歪み」が,本願補正発明においては,「前記被検体の体表と前記圧計測用変形体との境界の座標を検出して求められる前記圧計測用変形体の厚さの圧縮量に基づいて計算」されるものであるのに対して,刊行物1発明においては「層203の歪プロフィルを決定」する際に,上記「境界」を検出することについては特定されていない点。

以下,上記相違点について検討する。

(相違点1について)刊行物1の(ア-8)より,超音波ソース202と,その下面に配置された層203とは,接触する面においての同定度の大きさとして想定されるものといえる。
そして,層203を介した均一な応力付加や,超音波ソース202による効率良いデータ取得の観点から,層203が超音波ソース202の下面を覆うように配置されることが望ましいのは明らかであるから,そのような配置形態を想到することは当業者が適宜なし得ることである。

(相違点2について)刊行物1発明の「既知の均一な弾性率と音速とを有する層203」は,均質な材により構成されるものといえる。
そして,超音波エコーが,材の特性が変化する境界において顕著に生じ,均質な材の内部ではほとんど生じないのは技術常識であり,(ア-2)に「 ・・・このようなターゲット体中の密度および/または音速の変動する区域の境界においては,音インピーダンスが変化する。このような境界においては,入射超音波ビームの一部が反射される。組織中の非均質部分が低レベル散乱部位を成し,これらの部位が追加エコー信号を生じる。」と記載されるとおりである。
そうすると,「歪プロフィル」は境界面の形状を含むことは明らかであり,刊行物1発明においてエコー系列に基づいて層203の歪プロフィルを決定する際に,より精度良いエコー検出のために,均質な層203内部において生じ得るエコーではなく,層203とターゲット体204との境界において生じるエコーを取得すべきことは,当業者にとって明らかである。
よって,刊行物1発明において,「層203の歪プロフィルを決定」するために,層203とターゲット体204との境界の座標が検出されることは明らかといえ,歪みが厚さの圧縮量に基づき計算されることは当然の事項であるから,(相違点2)は実質的な相違点であるとはいえない。

仮に,(相違点2)において実質的に相違するとしても,「層203の歪プロフィルを決定」する際に,層203とターゲット体204との境界の座標を検出することは,技術常識に基づき当業者が容易になし得ることであるといえる。

(本願補正発明の効果について)
本願補正発明の有する効果は,刊行物1の記載事項から当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

したがって,本願補正発明は,刊行物1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)小括
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成23年1月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1ないし5に係る発明は,平成22年5月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「被検体を圧迫した際に体表に与えられた圧力の情報を取得するために超音波送受信面を覆うように圧計測用変形体を有した超音波探触子と,
前記超音波探触子を用いて前記被検体に対して超音波を送信及び受信する超音波送受信手段と,
前記超音波探触子によって受信された反射エコー信号に基づくRF信号フレームデータ,又は前記RF信号フレームデータを信号処理することにより得られる断層像データを利用して前記圧計測用変形体の厚さを求め,前記圧計測用変形体の厚さと前記圧計測用変形体の既知の弾性率とを用いて,前記被検体の診断部位を圧迫した際に前記被検体の体表に与えられた圧力を演算する圧力演算手段を備えることを特徴とする超音波診断装置。」

1 刊行物およびその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1の記載事項は,前記「第2 2(3)」に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は,前記「第2 2(3)」で検討した本願補正発明における,「圧計測用変形体の厚さ」の算出手法についての「前記被検体の体表と前記圧計測用変形体との境界の座標を検出して求められる」との限定事項と,圧力演算手段が「圧計測用変形体の厚さの圧縮量に基づいて計算された前記圧計測用変形体の歪み」「を用い」るとの限定事項を省くものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加し限定したたものに相当する本願補正発明が,前記「第2 2(3)」にて述べたとおり,刊行物1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-13 
結審通知日 2011-10-17 
審決日 2011-10-28 
出願番号 特願2003-300325(P2003-300325)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右▲高▼ 孝幸  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 横井 亜矢子
後藤 時男
発明の名称 超音波探触子及び超音波診断装置  

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