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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1249051
審判番号 不服2008-19945  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-06 
確定日 2011-12-19 
事件の表示 特願2005- 77588「文書管理装置及び文書管理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月28日出願公開、特開2006-260239〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年3月17日の出願であって、平成20年1月22日付けの拒絶理由通知に対して、同年3月21日付けで手続補正書が提出されたが、同年7月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年9月2日付けで手続補正がなされたものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は,上記9月2日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「電子ファイルとタイムスタンプデータとを管理する文書管理装置において、
電子ファイルに対しタイムスタンプを付与する付与範囲を、電子ファイル中のデータアドレスにより指定する範囲指定手段と、
前記範囲指定手段で指定した付与範囲に対し、タイムスタンプを付与する付与手段と、
前記付与範囲がタイムスタンプの付与済み範囲を含む時には、これを検出すると共に、前記付与済み範囲に対応するタイムスタンプデータを検証する検出手段とを設けて、
前記付与範囲が前記付与済み範囲を含むように、新たなタイムスタンプを前記付与手段で付与することにより、複数回のタイムスタンプを同一の電子ファイルに付与自在に構成したことを特徴とする、文書管理装置。」

2.引用例
(1)当審において、平成23年6月22日付けで通知した拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)に引用した本願の出願日前の平成15年11月21日に頒布された、特開2003-333038号公報(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】近年、電子化された文書(以下、「電子文書」という。)について、ある時点について当該電子文書が存在していたこと(存在性)、および当該電子文書が改ざんされていないこと(完全性)を証明する技術が開発されている。特に、稟議書やカルテ(診断記録)などのように、オリジナルの電子文書に対して逐次、後から付け足して内容を変更するという追記が付され、かつ最終的な決裁または確定処理を行った後、ある程度長期間保存される電子文書の存在性および完全性の検証技術が開発されている。このような追記が付される電子文書の存在性および完全性の検証のための方式としては、タイムスタンプ方式とヒステリシス署名方式が従来から知られている。
【0003】タイムスタンプ方式とは、ユーザが電子文書の生成、追記および決裁・確定処理を行うごとに、電子文書に対するタイムスタンプをネットワーク上のタイムスタンプサーバなどから取得して保存しておき、タイムスタンプによって電子文書の生成、追記、決裁・確定を行ったユーザおよび時刻を検証するものである。」
「【0005】このように従来の方式では、ユーザが電子文書の生成、追記、決裁・確定を行うごとに、タイムスタンプや署名を取得してタイムスタンプや署名の履歴を利用して追記される電子文書の存在性および完全性を検証していた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来のタイムスタンプ方式やヒステリシス署名方式では、次のような問題点がある。まず、タイムスタンプ方式の場合には、ユーザが電子文書に追記、決裁または確定処理を行う前に、最後の追記者または決裁・確定者からタイムスタンプを入手する段階と、電子文書の検証を行う段階の2段階の処理を行う必要がある。また、タイムスタンプ方式の場合には、追記、決裁・確定処理ごとにその時点におけるタイムスタンプをネットワーク経由でタイムスタンプサーバなどから取得する必要がある。このように、タイムスタンプ方式では、電子文書の存在性、完全性の検証処理の効率が悪化するという問題がある。また、タイムスタンプ方式では、電子文書の作成、追記、決裁・確定ごとに、タイムスタンプを取得してそれぞれの段階について取得したタイムスタンプを保存しなければならないため、一つの電子文書に対して追記回数、決裁・確定回数の分だけ取得したタイムスタンプを保存する記憶装置の容量が増大するという問題がある。」

上記摘記事項から、以下のことを掲げることができる。
ア 上記で摘記した【0006】によれば、タイムスタンプ方式では、ユーザが電子文書に追記、決裁または確定処理を行う前に、最後の追記者または決裁・確定者からタイムスタンプを入手する段階と、電子文書の検証を行う段階の2段階の処理を行う必要があること、換言すれば、電子文書に対して追記及び決裁・確定処理を行う前に、該追記及び決裁・確定処理前の電子文書のタイムスタンプを入手し、該電子文書の検証を行うことが開示されている(以下、「開示事項A」という。)。また、該検証を行う電子文書が、該入手したタイムスタンプが付与済みの電子文書であることは自明であるから、該検証を行う際に、該入手したタイムスタンプが付与済みの電子文書であることを検出しているといえるものである。
イ 上記開示事項Aと上記で摘記した【0003】とから、引用例1には、電子文書に対して追記及び決裁・確定処理を行う前に、該追記及び決裁・確定処理前の電子文書のタイムスタンプを入手し、該電子文書の検証を行い、その後該電子文書に追記及び決裁・確定処理を行い、また新たなタイムスタンプを付与することが、示唆されているといえる。
ウ 上記で摘記した【0006】によれば、一つの電子文書に対して追記回数、決裁・確定回数の分だけ取得したタイムスタンプを保存する、換言すれば、同一の電子文書に対して複数回のタイムスタンプを付与することが開示されている(以下、「開示事項B」という。)。
エ 引用例1には、電子文書及びタイムスタンプを管理していることが示唆されていることも明らかである。

したがって、上記「ア」乃至「エ」から,引用例1には,以下の発明(以下,「引用例1発明」という。)が記載されているといえる。
「電子文書とタイムスタンプとを管理し、
追記及び決裁・確定処理を行う電子文書に対して前記追記及び決裁・確定処理を行うごとにタイムスタンプを付与し、
前記電子文書に対応するタイムスタンプの付与範囲がタイムスタンプの付与済みの文書であることを検出し、
前記タイムスタンプが付与された電子文書に対して前記タイムスタンプを検証するものであって、
前記追記及び決裁・確定処理を行う前に電子文書に対するタイムスタンプを入手し、前記追記及び決裁・確定処理前の電子文書の検証を行い、その後追記及び決裁・確定処理を行った電子文書に対して新たなタイムスタンプを付与することにより、同一の電子文書に対して複数回のタイムスタンプを付与可能にした装置。」

(2)同じく、当審拒絶理由に引用した本願の出願日前の平成16年9月16日に頒布された、特開2004-260664号公報(以下「引用例2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0048】
次に、このように構成された第1の実施の形態に係るタイムスタンプ付与機能をもつXML署名生成システムの動作について、図1ないし図3を参照して説明する。
【0049】
まず、電子文書入力部11は、電子文書保存の依頼者から保存対象の電子文書を入力として受け付ける(ステップA1)。
【0050】
次に、XML署名対象設定部12は、XML署名の生成対象となる電子文書の一部分あるいは全部を設定する(ステップA2)。
【0051】
続いて、XML署名生成部13は、設定されたXML署名の生成対象となる電子文書の一部分あるいは全部に対してXML署名を生成し(図3の[s01]?[s16],および[s21]?[s22])(ステップA3)、XML署名記憶部21に記憶する(ステップA4)。
【0052】
次に、ハッシュ値計算部14は、生成されたXML署名の<SignatureValue>タグ(図3の[s13])を対象としてハッシュ値を計算し、ハッシュ値送信部15に渡す(ステップA5)。
【0053】
続いて、ハッシュ値送信部15は、渡されたハッシュ値をタイムスタンププロバイダ3へ送信する(ステップA6)。
【0054】
次に、タイムスタンプ受信部16は、タイムスタンププロバイダ3からタイムスタンプを受信し、タイムスタンプ付与部17へ渡す(ステップA7)。
【0055】
タイムスタンプ付与部17は、渡されたタイムスタンプをXML署名記憶部21に記憶されているXML署名の<SignatureProperty>タグの中に付与し(図3の[s15]?[s21])、XML署名出力部18に渡す(ステップA8)。
【0056】
XML署名出力部18は、渡されたタイムスタンプ付与済みのXML署名を出力する(ステップA9)。」

以上の記載事項から、引用例2には、電子文書(ファイル)の一部分あるいは全部を設定(指定)し、その設定(指定)した範囲に対して、タイムスタンプを付与するようにした技術が開示されている。

3.対比
本願発明と引用例1発明を対比すると、以下の対応関係を導き出すことができる。
ア 引用例1発明の「電子文書」は、本願発明の「電子ファイル」に相当する。
イ 引用例1発明も、タイムスタンプによって電子文書の検証を行い、かつそれらを管理するものであるから、本願発明でいう「タイムスタンプデータ」を含むものである。
ウ 引用例1発明は、「追記及び決裁・確定処理を行う電子文書に対して前記追記及び決裁・確定処理を行うごとにタイムスタンプを付与し、前記電子文書に対応するタイムスタンプの付与範囲がタイムスタンプの付与済みの文書であることを検出し、前記タイムスタンプが付与された電子文書に対して前記タイムスタンプを検証するもの」であるところ、該付与、検出、検証のそれぞれの処理を行うに当たって、当然そのための手段を有するものであることは、明らかである。
エ 本願発明と引用例1発明は、タイムスタンプの付与範囲について下記相違点に掲げる違いはあるものの、実質的に、電子ファイルに対応するタイムスタンプの付与範囲がタイムスタンプの付与済みの文書であることを検出すると共に、該電子ファイルに対応するタイムスタンプデータを検証する点において共通するものであり、また、該検出と該検証の両機能を一つの手段にまとめることに格別の技術的意義はなく、また、それを本願発明のように検出手段とすることも何ら格別のものではない。
オ 引用例1発明においては、追記及び決裁・確定処理を行う前の電子文書に対してタイムスタンプは付与済みであるから、該追記及び決裁・確定処理を行った電子文書に対して新たなタイムスタンプを付与する際に、その付与対象となる電子文書の範囲は先に付与済みの電子文書の範囲を含むことは自明である。
カ 引用例1発明の「同一の電子文書に対して複数回のタイムスタンプを付与可能にした」点も、本願発明の「複数回のタイムスタンプを同一の電子ファイルに付与自在に構成した」点も、その技術的に意味するところに格別の差異はない。
キ 引用例1発明の「装置」も、電子文書とタイムスタンプとを管理するものであるから、本願発明の「文書管理装置」に相当する。

したがって、上記「ア」乃至「キ」の対応関係から、本願発明と引用例1発明との一致点、及び、相違点を整理すると、以下のようになる。
(一致点)
電子ファイルとタイムスタンプデータとを管理する文書管理装置において、
前記電子ファイルに対し、タイムスタンプを付与する付与手段と、
前記電子ファイルに対応するタイムスタンプの付与範囲がタイムスタンプの付与済みの文書であることを検出すると共に、
前記電子ファイルに対応するタイムスタンプデータを検証する検出手段とを設けて、
付与対象となる電子ファイルは前記タイムスタンプが付与済みの電子ファイルの範囲を含むように、新たなタイムスタンプを前記付与手段で付与することにより、複数回のタイムスタンプを同一の電子ファイルに付与自在に構成した文書管理装置。

(相違点)
電子ファイルに対して付与手段により付与するタイムスタンプの付与範囲について、本願発明は、該付与範囲は電子ファイル中のデータアドレスにより範囲指定手段が指定し、該指定した付与範囲に対し付与手段によりタイムスタンプを付与するのに対して、引用例1発明は、該付与範囲は追記及び決裁・確定処理分を含めた電子ファイルであり、該電子ファイルに対し付与手段によりタイムスタンプを付与するもので、該電子ファイル中のデータアドレスにより範囲指定手段が該付与範囲を指定することは示されていない点。

4.当審の判断
上記3.で抽出した相違点等について、以下に検討する。
(1)相違点について
引用例1発明には、タイムスタンプを付与する対象である電子ファイルを、記憶手段に対してどのような手法により格納及び呼び出しを行うかについては格別示されていないが、一般に、電子ファイルの格納(書き込み)及び呼び出し(読み出し)に関して、記憶手段のアドレスを格段意識せずにファイル名等の識別子を指定することにより格納及び呼び出しを行う手法も、記憶手段のアドレスを指定することにより格納及び呼び出しを行う手法も、共に情報処理分野においては周知慣用手段であり、どちらを採用するかは適宜設計事項といえるから、引用例1発明において、電子ファイルの格納及び呼び出しを行う際に、そのデータアドレスを指定することによりその範囲指定を行うようにすることは、何ら排除されるものではなく、それを阻害する要因も見当たらない。
そして、上記2.の(2)で説示のとおり、電子ファイルの一部分あるいは全部を指定し、その指定した範囲に対してタイムスタンプを付与するようにした技術は、引用例2に記載されているように本願の出願日前公知技術である。
そうすると、引用例1発明において、電子ファイルに対するタイムスタンプの付与範囲を該電子ファイルのデータアドレスを用いて指定し、その指定のために範囲指定手段を設けるようにすることに、格別の技術的困難性を見い出すことはできない。
したがって、引用例1発明において相違点2に係る構成とすることは、上記公知技術及び周知慣用手段から、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)本願発明の効果について
本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用例1発明、引用例2に記載の公知技術及び上記周知慣用手段から、当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

(3)請求人の主張について
請求人が平成23年8月5日付け意見書において主張する内容は、以下のとおり採用することはできない。すなわち、
ア 「…引用文献1の記載では、すでに付されたタイムスタンプの有無をチェックしておらず、タイムスタンプの検証も行わず、新たな追記に対してタイムスタンプを付与することが記載されています。言い換えれば、生成、追記、決済、確定のそれぞれの段階のタイムスタンプを付与し保存することが記載されているに過ぎません。」と主張するが、上記2.の(1)の開示事項Aで説示したとおり、引用例1には、電子文書に対して追記及び決裁・確定処理を行う前に、該追記及び決裁・確定処理前の電子文書のタイムスタンプを入手し、該電子文書の検証を行うことが開示されているから、この主張は引用例1の記載内容を正解したものではなく、失当である。
イ 「引用文献1の図3の各々の要素毎にタイムスタンプは付与しません。タイムスタンプは追記ごとに付与せずに、決済・確定後の最新の追記によるキャッシュ値(審決注;「ハッシュ値」とすべき誤記)に付与します。」と主張するが、上記2.の(1)の「ア」で摘記したとおり、引用例1には、電子文書に対する追記、決裁・確定処理ごとにタイムスタンプを付与することも開示されているから、この主張も失当である。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は,引用例1発明、引用例2に記載の公知技術及び上記周知慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-25 
結審通知日 2011-10-26 
審決日 2011-11-08 
出願番号 特願2005-77588(P2005-77588)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今村 剛  
特許庁審判長 岩崎 伸二
特許庁審判官 小曳 満昭
本郷 彰
発明の名称 文書管理装置及び文書管理方法  
代理人 塩入 みか  
代理人 塩入 明  

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