ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C11D 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C11D 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C11D 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C11D |
---|---|
管理番号 | 1249052 |
審判番号 | 不服2008-30239 |
総通号数 | 146 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-02-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-11-27 |
確定日 | 2011-12-21 |
事件の表示 | 特願2000-511840「洗濯した布地の外観および状態を改良する、環状アミン系重合体を含む洗濯用洗剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成11年3月25日国際公開、WO99/14300、平成13年10月2日国内公表、特表2001-516798〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、1998年9月15日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理 1997年9月15日 米国(US)〕を国際出願日とする出願であって、平成20年2月4日付けの拒絶理由通知に対して、平成20年8月5日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされたが、平成20年8月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年11月27日に審判請求がなされるとともに、平成20年12月26日付けで2件の手続補正書の提出がなされ、その後、平成21年1月6日付けで上申書の提出がなされ、平成22年10月5日付けの審尋に対し、平成23年2月8日付けで回答書の提出がなされたものである。 なお、平成21年1月6日付けの上申書の『請求人は、平成20年12月26日に、特許請求の範囲を補正する手続補正書を二度にわたり提出しております。これは、同日付けで先に提出した手続補正書において削除されるべき請求項7が誤って残されたままであったことによるものであり、同日付けで後に提出した手続補正書において、請求項7を削除したこと以外は先に提出した手続補正書と同様の補正を行っております。従いまして、平成20年12月26日付けで二度にわたって提出した特許請求の範囲を補正する手続補正書につきましては、同日付けで後に提出した手続補正書に基づいて審理をして頂きますようお願い申し上げます。』との釈明からみて、平成20年12月26日付けの2件の手続補正書については、受付番号50802752970の手続補正書(請求項の数7)による手続補正(以下、「手続補正(その1)」という。)が先であり、受付番号50802756074の手続補正書(請求項の数6)の手続補正(以下、「手続補正(その2)」という。)が後であると認める。 第2 手続補正(その1)についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 手続補正(その1)を却下する。 [理由] 1.補正の内容 手続補正(その1)は、補正前の請求項1に記載された 「組成物から形成された洗浄溶液で洗濯した布地および織物の外観および状態を改良する ための洗剤組成物であって、 a)1?80重量%の、非イオン系、陰イオン系、陽イオン系、両性、双生イオン系界面活性剤およびそれらの混合物からなる群から選択された界面活性剤、 b)0.01?80重量%の洗剤用ビルダー、および c)0.01?5.0重量%の下記の一般式の環状アミン系の、平均分子量が約1,000未満を超える分子である重合体、平均分子量が約1,000未満である分子であるオリゴマーまたは2種以上の異なったモノマーを同時に又は連続的に重合させた重合体または共重合体である共重合体の混合物 【化1】 [式中、 各Tは、独立して、H、C_(1)?C_(12)アルキル、置換アルキル、C_(7)?C_(12)アルキルアリール、 【化2】 およびR_(2) Q からなる群から選択され、 Wは、 【化3】 からなる群から選択された少なくとも1種の環状成分を含んでなり、少なくとも1種の環状成分に加えて、Wは、一般構造 【化4】 の脂肪族または置換脂肪族部分も含んでなることができ、 -各Bは、独立して、C_(1)?C_(12)アルキレン、C_(1)?C_(12)置換アルキレン、C_(3)?C_(12)アルケニレン、C_(8)?C_(12)ジアルキルアリーレン、C_(8)?C_(12)ジアルキルアリーレンジイル、および-(R_(5)O)_(n)R_(5)-であり、 -各Dは、独立して、C_(2)?C_(6)アルキレンであり、 -各Qは、独立して、ヒドロキシ、C_(1)?C_(18)アルコキシ、C_(2)?C_(18)ヒドロキシアルコキシ、アミノ、C_(1)?C_(18)アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、トリアルキルアミノ基、複素環式モノアミノ基およびジアミノ基からなる群から選択され、 -各R_(1)は、独立して、H、C_(1)?C_(8)アルキルおよびC_(1)?C_(8)ヒドロキシアルキルからなる群から選択され、 -各R_(2)は、独立して、C_(1)?C_(12)アルキレン、C_(1)?C_(12)アルケニレン、-CH_(2)CH(OR_(1))-CH_(2)、C_(8)?C_(12)アルカリーレン、C_(4)?C_(12)ジヒドロキシアルキレン、ポリ(C_(2)?C_(4)アルキレンオキシ)アルキレン、H_(2)CH(OH)CH_(2)OR_(2)OCH_(2)CH(OH)CH_(2)-、およびC_(3)?C_(12)ヒドロカルビル部分からなる群から選択されるが、ただし、 R_(2)がC_(3)?C_(12)ヒドロカルビル部分である場合、前記ヒドロカルビル部分は2?4個の、一般構造 【化5】 の分岐部分を含んでなり、 -各R_(3)は、独立して、H、R_(2)、C_(1)?C_(20)ヒドロキシアルキル、C_(1)?C_(20)アルキル、置換アルキル、C_(6)?C_(11)アリール、置換アリール、C_(7)?C_(11)アルキルアリール、およびC_(1)?C_(20)アミノアルキルからなる群から選択され、 -各R_(4)は、独立して、H、C_(1)?C_(22)アルキル、C_(1)?C_(22)ヒドロキシアルキル、アリールおよびC_(7)?C_(22)アルキルアリールからなる群から選択され、 -各R_(5)は、独立して、C_(2)?C_(8)アルキレン、C_(2)?C_(8)アルキル置換アルキレンからなる群から選択され、 Aは、相容性がある1価または2価または多価の陰イオンであり、 Mは、相容性がある陽イオンであり、 b=電荷を釣り合わせるのに必要な数であり、 各xは、独立して、3?1000であり、 各cは、独立して、0または1であり、 各qは、独立して、0?6であり、 各nは、独立して、1?20であり、 各rは、独立して、0?20であり、 各tは、独立して、0?1である] を特徴とする洗剤組成物。」を、補正後の請求項1に記載された 「組成物から形成された洗浄溶液で洗濯した布地および織物の外観および状態を改良する ための洗剤組成物であって、 a)1?80重量%の、非イオン系、陰イオン系、陽イオン系、両性、双生イオン系界面活性剤およびそれらの混合物からなる群から選択された界面活性剤、 b)0.01?80重量%の、有機の非リン系ビルダー、無機の非リン系ビルダー、およびそれらの混合物から選択される洗剤用ビルダー、および c)0.01?5.0重量%の下記の一般式の環状アミン系の、平均分子量が1,000未満である分子であるオリゴマーの混合物 【化1】 [式中、 各Tは、独立して、H、C_(1)?C_(12)アルキル、置換アルキル、C_(7)?C_(12)アルキルアリール、 【化2】 およびR_(2) Q からなる群から選択され、 Wは、 【化3】 からなる群から選択された少なくとも1種の環状成分を含んでなり、少なくとも1種の環状成分に加えて、Wは、一般構造 【化4】 の脂肪族または置換脂肪族部分も含んでなることができ、 -各Bは、独立して、C_(1)?C_(12)アルキレン、C_(1)?C_(12)置換アルキレン、C_(3)?C_(12)アルケニレン、C_(8)?C_(12)ジアルキルアリーレン、C_(8)?C_(12)ジアルキルアリーレンジイル、および-(R_(5)O)_(n)R_(5)-であり、 -各Dは、独立して、C_(2)?C_(6)アルキレンであり、 -各Qは、独立して、ヒドロキシ、C_(1)?C_(18)アルコキシ、C_(2)?C_(18)ヒドロキシアルコキシ、アミノ、C_(1)?C_(18)アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、トリアルキルアミノ基、複素環式モノアミノ基およびジアミノ基からなる群から選択され、 -各R_(1)は、独立して、H、C_(1)?C_(8)アルキルおよびC_(1)?C_(8)ヒドロキシアルキルからなる群から選択され、 -各R_(2)は、独立して、C_(1)?C_(12)アルキレン、C_(1)?C_(12)アルケニレン、-CH_(2)CH(OR_(1))-CH_(2)、C_(8)?C_(12)アルカリーレン、C_(4)?C_(12)ジヒドロキシアルキレン、ポリ(C_(2)?C_(4)アルキレンオキシ)アルキレン、H_(2)CH(OH)CH_(2)OR_(2)OCH_(2)CH(OH)CH_(2)-、およびC_(3)?C_(12)ヒドロカルビル部分からなる群から選択されるが、ただし、 R_(2)がC_(3)?C_(12)ヒドロカルビル部分である場合、前記ヒドロカルビル部分は2?4個の、一般構造 【化5】 の分岐部分を含んでなり、 -各R_(3)は、独立して、H、R_(2)、C_(1)?C_(20)ヒドロキシアルキル、C_(1)?C_(20)アルキル、置換アルキル、C_(6)?C_(11)アリール、置換アリール、C_(7)?C_(11)アルキルアリール、およびC_(1)?C_(20)アミノアルキルからなる群から選択され、 -各R_(4)は、独立して、H、C_(1)?C_(22)アルキル、C_(1)?C_(22)ヒドロキシアルキル、アリールおよびC_(7)?C_(22)アルキルアリールからなる群から選択され、 -各R_(5)は、独立して、C_(2)?C_(8)アルキレン、C_(2)?C_(8)アルキル置換アルキレンからなる群から選択され、 Aは、相容性がある1価または2価または多価の陰イオンであり、 Mは、相容性がある陽イオンであり、 b=電荷を釣り合わせるのに必要な数であり、 各xは、独立して、3?1000であり、 各cは、独立して、0または1であり、 各qは、独立して、0?6であり、 各nは、独立して、1?20であり、 各rは、独立して、0?20であり、 各tは、独立して、0?1である] を特徴とする洗剤組成物。」に補正することを含むものである。 2.補正の適否 (1)はじめに 上記請求項1についての補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定する為に必要な事項である「b)0.01?80重量%の洗剤用ビルダー」及び「c)0.01?5.0重量%の下記の一般式の環状アミン系の、平均分子量が約1,000未満を超える分子である重合体、平均分子量が約1,000未満である分子であるオリゴマーまたは2種以上の異なったモノマーを同時に又は連続的に重合させた重合体または共重合体である共重合体の混合物」の各々を、「b)0.01?80重量%の、有機の非リン系ビルダー、無機の非リン系ビルダー、およびそれらの混合物から選択される洗剤用ビルダー」及び「c)0.01?5.0重量%の下記の一般式の環状アミン系の、平均分子量が1,000未満である分子であるオリゴマーの混合物」に改めるものであって、 当該b)に関する補正については、「洗剤用ビルダー」の種類を「有機の非リン系ビルダー、無機の非リン系ビルダー、およびそれらの混合物から選択される」ものに限定するものであり、 当該c)に関する補正についても、「共重合体の混合物」の選択肢のうち「平均分子量が約1,000未満を超える分子である重合体」及び「2種以上の異なったモノマーを同時に又は連続的に重合させた重合体または共重合体」を削除して、「平均分子量が約1,000未満である分子であるオリゴマー」に関するものに限定するものである。 してみると、上記請求項1についての補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とする補正に該当する。 そこで、補正後の請求項1に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。 (2)明確性要件について 補正後の請求項1に記載された「各Tは、…R_(2) Qからなる群から選択され」という発明特定事項の「R_(2) Q」との記載部分については、具体的にどのような置換基を意味するのか明確ではなく、 同じく「Wは、【化3】…の環状成分を含んでなり、…加えて、Wは、一般構造【化4】…も含んでなることができ」という発明特定事項の【化3】及び【化4】のN原子については、これが第4級窒素の場合(例えば、c=1の場合など)に「+」に帯電しているものとして表記されていないという点において技術的に不明確であり、 同じく「-各R_(2)は、…、H_(2)CH(OH)CH_(2)OR_(2)OCH_(2)CH(OH)CH_(2)-、…から選択される」という発明特定事項も、末端部分の原子価が科学的にありえない化学構造になっている(おそらくは、炭素原子一個が欠落している。)という点において技術的に不明確であり、 同じく「-各R_(3)は、独立して、H、R_(2)、…から選択され」という発明特定事項の「R_(2)」については、一般式においてR_(2)が2価の置換基であると位置づけられていることから、その記載に矛盾があり、 同じく「Mは、相容性がある陽イオンであり」という発明特定事項については、その前後に「M」に相当するものが存在しないので技術的に不明確である。 してみると、補正後の請求項1の記載は、その「一般式の環状アミン系」の化学構造が明確に特定されているものではなく、特許を受けようとする発明が明確ではない。 したがって、補正後の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。 (3)サポート要件について ア.次に、特許法第36条第6項第1号に規定する「サポート要件」の適否については、『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。 イ.そこで、補正後の請求項1に記載された発明が「発明の詳細な説明に記載された発明」であって、なおかつ、補正後の請求項1に記載された事項により特定されるもの全てが、補正後の本願明細書の段落0009に記載された「本発明の環状アミン系重合体、オリゴマーまたは共重合体材料を含んでなる洗浄溶液中で布地や織物を洗濯すると、布地の外観および状態が改良される。」という課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて、以下に検討する。 ウ.第一の観点として、補正後の本願明細書の段落0068?0078には、例1?10として、環状アミン系の共重合体についての具体例が記載されているところ、例1の縮合物は分子量が「約12,500」であり、例2の縮合物は分子量が「約2000」であり、例3?10の「反応混合物」ないし「環状アミン系重合体」についてはその分子量が不明であり(ただし、補正後の本願明細書の段落0012の「重合体は平均分子量が約1,000を超える分子として定義する。」との記載からみて、例7?10の「重合体」と明記された具体例については、少なくとも約1,000を超える平均分子量にあることまでは看取できる。)、補正後の本願明細書の段落0079?0084の例11において使用されている「表に示す重合体/オリゴマー」についてもその分子量が不明であるから、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明には、補正後の請求項1に記載された「平均分子量が1,000未満である分子であるオリゴマー」という発明特定事項を満たし得る具体例が、実質的に記載されているとは認められない。 エ.第二の観点として、補正後の本願明細書の段落0079?0084には、「例11:顆粒状洗剤試験組成物の製造」として、その表11の例6?23に示されるとおりの化学構造を有する「表に示す重合体/オリゴマー」を含む顆粒状洗剤組成物の「例」と、これを含まない「比較例」が記載されているものの、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明には、これら「組成物」の具体例についての物性などの実験データが示されていないので、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明には、補正後の請求項1に記載された「洗濯した布地および織物の外観および状態を改良するための洗剤組成物」という発明特定事項を満たし得る具体例が、実質的に記載されているとは認められない。 オ.第三の観点として、補正後の請求項1の「一般式の環状アミン系」の化学構造の選択肢について、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明に、実施例として具体的に記載されている「環状アミン系重合体」の化学構造については、 【化1】 の式中、 Tが、独立して、H、及び から選択され(ただし、Q=H、R_(1)=Hである。)、 Wが、1,4-ピペラジン残基、及び1,3-イミダゾール残基から選択され〔ここで、Wの【化3】のDは、アルキレン(例7など)であり、Wが【化4】の一般構造を含んでいる場合には、Bが、アルキレン(表11の例22など)、及び置換アルキレン(表1の例23など)である。〕、 Qが、独立して、ヒドロキシ、及び複素環式モノアミノ基(例3及び表11の例14?19など)から選択され、 R_(1)が、H、及びヒドロキシアルキル(表11の例9及び10)から選択され、 R_(2)が、-CH_(2)CH(OR_(1))CH_(2)-、及び-CH_(2)CH(OH)CH_(2)OR_(2)OCH_(2)CH(OH)CH_(2)-(表11の例9及び10)から選択され(ただし、R_(2)がC_(3)?C_(12)ヒドロカルビル部分である場合、前記ヒドロカルビル部分は2?4個の分枝部分を含んでいない。)、 R_(3)が、独立して、H、ヒドロキシアルキル(例9及び10)、アルキル(表11の例13、16及び17)、アルキルアリール(表11の例12、18及び19)、及びアミノアルキル(表1の例23)から選択され、 R_(4)が、Hであるもの、 並びに、これと酷似するものに限られている。 このため、これら以外の化学構造の選択肢(例えば、R_(3)が「R_(2)」である場合や、R_(2)が「C_(8)?C_(12)アルカリーレン」である場合など)のものについては、本願所定の課題を解決できると認識できる程度の記載が、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明なされているとは認められない。 また、当該「これら以外の化学構造の選択肢」のものが、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が本願の出願時の技術常識に照らし本願所定の課題を解決できると認識できる範囲にあるとも認められない。 カ.してみると、上記第一及び第二の観点からみて、補正後の請求項1に記載された発明が実質的に「発明の詳細な説明に記載された発明」であるとは認められず、上記第三の観点をも踏まえると、補正後の請求項1に記載された事項により特定されるもの全てが、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明の記載ないし本願出願時の技術常識により当業者が本願所定の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。 キ.したがって、補正後の請求項1の記載は、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明に発明として実質的に記載していない範囲についてまで特許を請求しようとするものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではない。 (4)請求人の主張について ここで、平成23年2月8日付けの回答書において、審判請求人は、『拒絶査定において、「一般式の化合物の製造が可能であっても、明細書の記載からみて、一般式に表される広範な化合物を使用した場合の全てにおいて、この出願の発明の所期の効果が奏されるとは認められない。」との認定がなされていますが、この認定は妥当性を欠くものと請求人は考えます。第一に、当業者の高い技術レベルを勘案しますと、請求項に化学構造が明確に特定されており本願発明の範囲を十分に画定することができる以上、当業者は本願明細書を熟読することにより本願発明の組成物を作れ、かつ実施できることは明らかです。第二に、拒絶理由通知においても「いくつかの特定の付加物」について「発明の詳細な説明、特に実施例において製造され、その効果について具体的に記載されている」と認められている以上、そのいくつかの特定の付加物と同等ないしそれに準じた効果を与えるものと解される程度において請求項1には「環状アミン系オリゴマーの混合物」が化学構造式とともに具体的に特定されているのであるから、そのように請求項に特定された本願発明は発明の詳細な説明に記載されたものであることは明らかです。したがって、本願の発明の詳細な説明は当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、かつ本願発明は発明の詳細な説明に記載されたものであり、ご指摘の記載不備には当たらないものと請求人は考えます。』との主張をしている。 しかしながら、上記2.(2)に示したように、補正後の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、上記「請求項に化学構造が明確に特定されており本願発明の範囲を十分に画定することができる以上、当業者は本願明細書を熟読することにより本願発明の組成物を作れ、かつ実施できる」との主張ないし上記「化学構造式とともに具体的に特定されているのであるから、そのように請求項に特定された本願発明は発明の詳細な説明に記載されたものであることは明らか」との主張は妥当ではなく、これを採用できない。 (5)先願との関係について ア.はじめに 補正後の本願請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)は、上記2.(2)に示したように特許を受けようとする発明が明確ではないことから、先願の明細書等に記載された発明との同一性の判断を厳格にはなし得ないものではある。 しかしながら、補正後の本願請求項1に記載された発明特定事項について、その不明確な記載部分を善解し、かつ補正後の本願明細書(並びに当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書)に実質的に記載されているものと善解した上で、以下、補正発明と先願の明細書等に記載された発明との対比を行う。 イ.先願A及び先願明細書の記載事項 優先権の主張を伴う特許出願であって、千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約第二十1条に規定する国際公開(国際公開第98/17762号)がされた特願平10-518904号(以下、「先願A」という。)の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。なお、記載箇所については、対応する特表2001-503089号公報の頁数行数で示す。)には、次の記載がある。 摘記1a:請求項1及び4 「1.(a)ピペラジン、アルキル基中にC-原子1?25を有する1-アルキルピペラジン、アルキル基中にC-原子1?25を有する1,4-ジアルキルピペラジン、1,4-ビス-(3-アミノプロピル)-ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、アルキル基中にC-原子2?25を有する1-(2-ヒドロキシアルキル)ピペラジン、イミダゾール、C_(1)?C_(25)-C-アルキルイミダゾール又は前記化合物の混合物と(b)アルキレンジハロゲニド、エピハロゲンヒドリン及び/又はビス-エポキシドとを1:0.8?1:1.1のモル比で縮合させ、かつ場合によりこの縮合生成物をC3?C25-アルキル化剤を用いて4級化することにより、又は酸性触媒の存在下でトリエタノールアミン又はトリイソプロパノールアミンを加熱し、かつこの縮合生成物をC_(4)?C_(25)-アルキル化剤を用いて4級化することにより得られるポリカチオン性縮合生成物の、洗剤及び洗濯物後処理剤への色移り抑制及び色溶出減少性添加物としての使用。… 4.縮合生成物は、500?100000の分子量を有する、請求項1又は2に記載の使用。」 摘記1b:第8頁第4行?下から3行目 「更に、本発明の目的物は、(i)非イオン性界面活性剤少なくとも1種1?50重量%(ii)アニオン性界面活性剤0?4.0重量%、有利に2.5%まで及び(iii)…ポリカチオン性縮合生成物少なくとも1種0.05?2.5重量%を含有する洗剤である。」 摘記1c:第9頁下から8?5行目 「洗剤組成物はエチレンオキシド3?12モルでエトキシル化されたC_(10)?C_(18)-アルコール、特に有利にエトキシル化された脂肪アルコールを非イオン性界面活性剤として含有するのが有利である。」 摘記1d:第10頁第12行?第11頁第14行 「粉末-又は顆粒状の洗剤は、更に1種以上のビルダーを含有していてよい。無機質ビルダー物質としては、例えば全ての通常の無機ビルダー、例えばアルミノ珪酸塩、珪酸塩、炭酸塩及び燐酸塩が好適である。好適な無機ビルダーは、…例えばゼオライトである。…殊にゼオライトA、…それらのNa-塩の形…で好適である。…他の好適な無機ビルダー物質は、炭酸塩及び炭酸水素塩である。…殊に炭酸ナトリウム及び/又は炭酸水素ナトリウムを使用するのが有利である。無機ビルダーは、洗剤中で0?60重量%の量で、場合により使用されるべき有機コビルダーと一緒に含有していてよい。…粉末状又は顆粒状又は他の固体洗剤組成物中に、有機コビルダーが0?20重量%、有利に1?15重量%の量で無機ビルダーと一緒に含有している。粉末状又は顆粒状ヘビーデュテイ洗剤は、更にその他の慣用成分、例えば少なくとも1種の漂白剤を、場合によっては漂白活性化剤及び/又は漂白触媒及び他の慣用の成分、例えば汚れ放出ポリマー、灰色化防止剤、酵素、無機増量剤、例えば硫酸ナトリウム、錯化剤、光学的明化剤、色素、香油、消泡剤、腐蝕防止剤、燐酸塩及び/又はホスホン酸塩と組み合わせて常用量で含有していてよい。」 摘記1e:第13頁第9?25行 「実施例中の百分率は重量%を意味する。 実施例 次のカチオン性縮合生成物を使用した: ポリマー1 ピペラジンとエピクロルヒドリンとを1:1モル比で縮合させ、かつこの反応生成物をピペラジンに対して1.4モル当量の塩化ベンジルを用いて4級化することにより製造されたポリカチオン性縮合生成物。分子量は3500(1%水溶液中、20℃での粘土測定により測定)であった。このカチオン性縮合生成物は、24%水溶液の形で存在した。 ポリマー2 イミダゾール、ピペラジン及びエピクロルヒドリンの1:1:2のモル比での反応により製造されたポリカチオン性縮合生成物。この水性ポリマー溶液は、分子量2200を有するカチオン性縮合生成物50%を含有した。 ポリマー3 水溶液中でのイミダゾールとエピクロルヒドリンとの1:1のモル比での反応により製造されたポリカチオン性縮合生成物。このポリマー溶液は分子量1400を有する縮合生成物50%を含有した。」 摘記1f:第16頁下から17行目?第17頁下から5行目 「次の例で、ポリマー1?ポリマー4の作用を種々の洗剤組成物中で説明する。… 洗剤組成(%) (洗剤A) 10EOを有するC_(13)/C_(15)- オキソアルコールエトキシレート 6.3 ゼオライトA 55.0 炭酸-Na 6.0 クエン酸-Na 9.0 アクリル酸70%とマレイン酸30%とからの コポリマー、分子量70000、Na-塩 4.0 カルボキシメチルセルロース 0.5 硫酸ナトリウム 5.8 水 全量 100 洗濯: 洗剤: 洗剤A 量: 5.0g/l 浴液量: 250g … 第2表 例 ポリカチオン性 量 色移り抑制率 色落ち率 縮合生成物 [%] [%] [%] 6 1 0.5 97 8 7 1 1.0 99 5 … 色移り抑制作用の測定を1回洗濯後に、色溶出の測定を5回洗濯後に、それぞれ白色織物又は着色織物の色濃度を用いて、柔軟すすぎ剤中での使用の際に記載されていると同様に行った。本発明により使用すべきポリマー1及び4を用いる結果は、アニオン性界面活性剤不含の洗剤中のポリマーが非常に良好な色移り抑制作用を示すことを示している。更に、着色織物からの染料溶出は明白に減少され、これにより着色繊維製品の洗濯時の色あせが著しく減少される。」 ウ.先願明細書に記載された発明 摘記1aの「1.(a)ピペラジン、…イミダゾール、…又は前記化合物の混合物と(b)…エピハロゲンヒドリン…とを1:0.8?1:1.1のモル比で縮合させ、かつ場合によりこの縮合生成物をC_(3)?C_(25)-アルキル化剤を用いて4級化することにより…得られるポリカチオン性縮合生成物の、洗剤及び洗濯物後処理剤への色移り抑制及び色溶出減少性添加物としての使用。…4.縮合生成物は、500?100000の分子量を有する、請求項1又は2に記載の使用。」との記載、摘記1bの「本発明の目的物は、(i)非イオン性界面活性剤少なくとも1種1?50重量%(ii)アニオン性界面活性剤0?4.0重量%…(iii)…ポリカチオン性縮合生成物少なくとも1種0.05?2.5重量%を含有する洗剤である。」との記載、摘記1dの「洗剤は、更に1種以上のビルダーを含有していてよい。…無機ビルダーは、洗剤中で0?60重量%の量で、場合により使用されるべき有機コビルダーと一緒に含有していてよい。…粉末状又は顆粒状又は他の固体洗剤組成物中に、有機コビルダーが0?20重量%…の量で無機ビルダーと一緒に含有している。」との記載、摘記1eの「ポリマー1 ピペラジンとエピクロルヒドリンとを1:1モル比で縮合させ、かつこの反応生成物をピペラジンに対して1.4モル当量の塩化ベンジルを用いて4級化することにより製造されたポリカチオン性縮合生成物。分子量は3500」との記載、摘記1fの「例7」の具体例についての記載、及び摘記1fの「本発明により使用すべきポリマー1及び4を用いる結果は、アニオン性界面活性剤不含の洗剤中のポリマーが非常に良好な色移り抑制作用を示すことを示している。更に、着色織物からの染料溶出は明白に減少され、これにより着色繊維製品の洗濯時の色あせが著しく減少される。」との記載からみて、先願明細書には、 『非イオン性界面活性剤少なくとも1種1?50重量%、アニオン性界面活性剤0?4.0重量%、500?100000の分子量を有し、(a)ピペラジン、イミダゾール又は前記化合物の混合物と(b)エピハロゲンヒドリンとを1:0.8?1:1.1のモル比で縮合させ、かつ場合によりこの縮合生成物をC_(3)?C_(25)-アルキル化剤を用いて4級化することにより得られるポリカチオン性縮合生成物少なくとも1種0.05?2.5重量%、並びに無機ビルダー0?60重量%及び有機コビルダー0?20重量%を含有する着色繊維製品の洗濯時の色あせが著しく減少される洗剤組成物。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 エ.対比 補正発明と引用発明とを対比する。 まず、引用発明の「非イオン性界面活性剤少なくとも1種1?50重量%、アニオン性界面活性剤0?4.0重量%」は、補正発明の「a)1?80重量%の、非イオン系、陰イオン系、陽イオン系、両性、双生イオン系界面活性剤およびそれらの混合物からなる群から選択された界面活性剤」に相当する。 次に、引用発明の「500?100000の分子量を有し、(a)ピペラジン、イミダゾール又は前記化合物の混合物と(b)エピハロゲンヒドリンとを1:0.8?1:1.1のモル比で縮合させ、かつ場合によりこの縮合生成物をC_(3)?C_(25)-アルキル化剤を用いて4級化することにより得られるポリカチオン性縮合生成物少なくとも1種0.05?2.5重量%」は、 その「(a)ピペラジン、イミダゾール又は前記化合物の混合物と(b)エピハロゲンヒドリンとを1:0.8?1:1.1のモル比で縮合させ、かつ場合によりこの縮合生成物をC_(3)?C_(25)-アルキル化剤を用いて4級化することにより得られるポリカチオン性縮合生成物」が、環状アミン類として「ピペラジン」ないし「イミダゾール」の構造単位を有しているという点において「環状アミン系」に該当し、 その「500?100000の分子量」を有する「ポリカチオン性縮合生成物少なくとも1種」には、分子量が500以上1000未満の「オリゴマーの混合物」の場合も包含されることから、 補正発明の「c)0.01?5.0重量%の環状アミン系の、平均分子量が1,000未満である分子であるオリゴマーの混合物」に相当する。 そして、引用発明の「無機ビルダー0?60重量%及び有機コビルダー0?20重量%」は、摘記1dの「好適な無機ビルダーは、…殊にゼオライトA、…殊に炭酸ナトリウム…である。」との記載からみて、非リン系ビルダーを使用していることが明らかであることから、補正発明の「b)0.01?80重量%の、有機の非リン系ビルダー、無機の非リン系ビルダー、およびそれらの混合物から選択される洗剤用ビルダー」に相当する。 また、引用発明の「着色繊維製品の洗濯時の色あせが著しく減少される洗剤組成物」は、摘記1fの「例7」の具体例において、その「洗剤A」をリッター当たり5.0gの量で使用し、浴液量250gの条件で洗濯をしていることから、洗剤Aの組成物を洗浄溶液の形態にした上で洗濯に供しているものと認められ、かつ、繊維製品の洗濯時の色あせが著しく減少されるという作用は、洗濯した繊維製品の外観および状態を改良するという作用に該当することから、補正発明の「組成物から形成された洗浄溶液で洗濯した布地および織物の外観および状態を改良するための洗剤組成物」に相当する。 してみると、補正発明と引用発明とは、 「組成物から形成された洗浄溶液で洗濯した布地および織物の外観および状態を改良するための洗剤組成物であって、 a)1?80重量%の、非イオン系、陰イオン系、陽イオン系、両性、双生イオン系界面活性剤およびそれらの混合物からなる群から選択された界面活性剤、 b)0.01?80重量%の、有機の非リン系ビルダー、無機の非リン系ビルダー、およびそれらの混合物から選択される洗剤用ビルダー、および c)0.01?5.0重量%の環状アミン系の、平均分子量が1,000未満である分子であるオリゴマーの混合物 を特徴とする洗剤組成物。」である点で一致し、 環状アミン系が、補正発明においては、補正後の請求項1の「一般式」により定義されるものであるのに対して、引用発明においては、「(a)ピペラジン、イミダゾール又は前記化合物の混合物と(b)エピハロゲンヒドリンとを1:0.8?1:1.1のモル比で縮合させ、かつ場合によりこの縮合生成物をC_(3)?C_(25)-アルキル化剤を用いて4級化することにより得られるポリカチオン性縮合生成物」である点において一応相違する。 オ.判断 上記相違点について検討する。 まず、補正後の請求項1に記載された「一般式」の記載ないし定義については、上記2.(2)に示したように明確性要件を満たし得ないものではあるが、当該「一般式」の環状アミン系の実質的な内容については、補正後の本願請求項1を引用する本願請求項3の「環状アミン系重合体、オリゴマーまたは共重合体が、イミダゾールとエピクロロヒドリンの付加物、…ピペラジンとエピクロロヒドリンの付加物ならびにそのベンジル第4級物質およびメチル第4級物質、イミダゾール、ピペラジンおよびエピクロロヒドリンの付加物、…からなる群から選択される、請求項1または2に記載の洗剤組成物。」との記載、並びに補正後の本願明細書の段落0081?0084の例6?例24の化学構造についての記載からみて、これらの化学構造を有する環状アミン系を包含するものと善解できる。 これに対して、引用発明の「ポリカチオン性縮合生成物」としては、摘記1eの「ポリマー1 ピペラジンとエピクロルヒドリンとを1:1モル比で縮合させ、かつこの反応生成物をピペラジンに対して1.4モル当量の塩化ベンジルを用いて4級化することにより製造されたポリカチオン性縮合生成物」が例示されるところ、 当該「ポリマー1」は、補正後の本願請求項3に記載された「ピペラジンとエピクロロヒドリンの付加物ならびにそのベンジル第4級物質」に相当するものであって、 補正後の本願明細書の段落0082の例12の「ピペラジンとエピクロロヒドリンの付加物(比1:1)、ベンジル第4級物質」と同様な化学構造を有するポリマーであり、 同様に、引用発明の「ポリカチオン性縮合生成物」としては、摘記1eの「ポリマー2 イミダゾール、ピペラジン及びエピクロルヒドリンの1:1:2のモル比での反応により製造されたポリカチオン性縮合生成物」が例示されるところ、 当該「ポリマー2」は、補正後の本願請求項3に記載された「イミダゾール、ピペラジンおよびエピクロロヒドリンの付加物」に相当するものであって、 補正後の本願明細書の段落0083の例21の「イミダゾール、ピペラジンおよびエピクロロヒドリンの付加物(比1:1:2)」と同様な化学構造を有するポリマーであり、 同様に、引用発明の「ポリカチオン性縮合生成物」としては、摘記1eの「ポリマー3 イミダゾールとエピクロルヒドリンとの1:1のモル比での反応により製造されたポリカチオン性縮合生成物」が例示されるところ、 当該「ポリマー3」は、補正後の本願請求項3に記載された「イミダゾールとエピクロロヒドリンの付加物」に相当するものであって、 補正後の本願明細書の段落0081の例6の「イミダゾール:エピクロロヒドリンの比1:1、例1の重合体」と同様な化学構造を有するポリマーである。 してみると、上記相違点は、実質的な差異ではない。 したがって、補正発明は、引用発明と同一であり、しかも、本願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本願の出願の時にその出願人が当該他の特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 カ.請求人の主張について 平成20年12月26日付けの手続補正により補正された審判請求書の請求の理由において、審判請求人は、『拒絶査定において、請求項1?7に係る発明に関して、「先願7の当初明細書の第3表には、界面活性剤成分とビルダーに該当する成分を含有する洗剤組成物が記載されている。したがってこの出願の発明は、先願7の当初明細書に記載された発明である。」との認定がなされています。しかしながら、先願7(特願平10-518904号(特表2001-503089号))の当初明細書に記載される発明は、補正後の本願発明と同一ではありません。というのも、先願7の第3表に具体的に開示されるポリマー1?3はいずれも1400以上の分子量を有するものであり(13頁12?26行)、本願請求項1において特定される「平均分子量が1,000未満である分子であるオリゴマー」とは明確に分子量が異なるからです。したがって、補正後の本願発明は、先願7の当初明細書に記載された発明ではありません。』と主張している。 ここで、当該「先願7」と上記「先願A」は同一の特許出願を意味するところ、先願Aの請求項4には、「縮合生成物は、500?100000の分子量を有する」との記載があり(摘記1a)、先願明細書には、平均分子量が1000未満の場合も記載されているものと認められるから、上記請求人の主張は採用できない。 (6)小括 以上総括するに、補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1?2号に適合するものではないから、補正後の本願は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、また、補正発明は引用発明と実質的に同一であるから、同法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 したがって、手続補正(その1)の請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていない。 3.まとめ 以上のとおりであるから、手続補正(その1)の請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、手続補正(その1)は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 手続補正(その2)についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 手続補正(その2)を却下する。 [理由] 1.補正の内容 手続補正(その2)は、実質的に手続補正(その1)の特許請求の範囲の請求項7のみを削除するものであって、手続補正(その1)の請求項1に記載された発明特定事項と、手続補正(その2)の請求項1に記載された発明特定事項は、相互に同一であって、異なるところがない。 そして、手続補正(その1)は上記第2のとおり却下されたので、手続補正(その2)の請求項1についての補正の内容は、上記第2 1.に示したものと実質的に異なるところがない。 2.補正の適否 そうしてみると、手続補正(その2)の請求項1についての補正は、上記第2 2.(1)に示したものと同様に、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とする補正に該当する。 しかして、上記第2 2.(2)?(6)に示したものと同様の理由により、手続補正(その2)の請求項1に記載された発明は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、また、同法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、手続補正(その2)の請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていない。 3.まとめ 以上のとおりであるから、手続補正(その2)の請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、手続補正(その2)は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第4 本願発明について 1.本願発明 手続補正(その1)及び手続補正(その2)は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成20年8月5日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりものであると認める。 2.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、『この出願については、平成20年2月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由2,3,5?7によって、拒絶をすべきものです。』というものであって、このうち、 理由2の内容は、『2 この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。』というものであり、 理由3の内容は、『3 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。』というものであり、 理由7の内容は、『7 この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。』というものである。 そして、平成20年2月4日付けの拒絶理由通知書の「記」には、 理由2及び3に関して、『請求項1?5、10には、本発明で使用される「環状アミン系重合体、オリゴマーまたは共重合体混合物」が一般式を用いて記載されているが、発明の詳細な説明、特に実施例において製造され、その効果について具体的に記載されているのは、いくつかの特定の付加物のみであり、それ以外の上記一般式に該当する成分であって上記特定の付加物とは化学構造や製造方法が異なる成分を使用する発明について、同様に効果が奏されるとはいえず、そのようなものを当業者が容易に実施できるとはいえない。また、上記特定の付加物の例から、請求項1?5、10に特定されるものが拡張ないし一般化できるともいえない。よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?5、10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、請求項1?5、10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。』との指摘がなされ、 理由7に関して、当該「下記の請求項」として「請求項1?5、10」が指摘され、当該「下記の特許出願」として上記第2 2.(5)イ.に「先願A」として示した「特願平10-518904号」が「先願7」として引用され、さらに、『先願7の当初明細書に記載されるポリカチオン性縮合生成物は、本発明のb)成分に相当する。』との指摘がなされている。 また、平成20年8月26日付けの拒絶査定の備考欄においては、 理由2及び3に関して、『一般式の化合物の製造が可能であっても、明細書の記載からみて、一般式に表される広範な化合物を使用した場合の全てにおいて、この出願の発明の所期の効果が奏されるとは認められない。』との指摘がなされ、 理由7に関して、『先願7の当初明細書の第3表には、界面活性剤成分とビルダーに該当する成分を含有する洗剤組成物が記載されている。したがってこの出願の発明は、先願7の当初明細書に記載された発明である。』との指摘がなされている。 3.当審の判断 (1)理由7について ア.先願明細書の記載事項、及び引用発明 原査定で引用された「先願7」及び先願明細書の記載事項については、前記第2 2.(5)イ.で示したとおりである。 また、先願明細書には、前記第2 2.(5)ウ.に示したとおりの「引用発明」が記載されている。 イ.対比・判断 本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「補正発明」の「b)0.01?80重量%の、有機の非リン系ビルダー、無機の非リン系ビルダー、およびそれらの混合物から選択される洗剤用ビルダー」及び「c)0.01?5.0重量%の下記の一般式の環状アミン系の、平均分子量が1,000未満である分子であるオリゴマーの混合物」という発明特定事項の各々を、1についての補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定する為に必要な事項である「b)0.01?80重量%の洗剤用ビルダー」及び「c)0.01?5.0重量%の下記の一般式の環状アミン系の、平均分子量が約1,000未満を超える分子である重合体、平均分子量が約1,000未満である分子であるオリゴマーまたは2種以上の異なったモノマーを同時に又は連続的に重合させた重合体または共重合体である共重合体の混合物」という発明特定事項に置き換えたものであって、ここで、補正発明は、本願発明に対して、限定的減縮がなされたものに該当するから、本願発明には、補正発明の全ての選択肢が包含されているものである。 そうしてみると、上記第2 2.(5)において示したのと同様の理由により、本願発明と引用発明とに実質的な相違点は認められない。 したがって、本願発明は、引用発明と同一であり、しかも、本願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本願の出願の時にその出願人が当該他の特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。 (2)理由2及び3について ア.一般に特許法第36条第6項第1号に規定する「サポート要件」の適否については、『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。 イ.そこで、本願発明が「発明の詳細な説明に記載された発明」であって、なおかつ、本願請求項1に記載された事項により特定されるもの全てが、本願明細書の段落0009に記載された「本発明の環状アミン系重合体、オリゴマーまたは共重合体材料を含んでなる洗浄溶液中で布地や織物を洗濯すると、布地の外観および状態が改良される。」という課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて、以下に検討する。 ウ.本願請求項1の「一般式の環状アミン系」の化学構造についての多数の選択肢について、本願明細書の発明の詳細な説明に、その製造について具体的に記載されているのは、本願明細書の段落0068?0078の例1?10、及び同段落0081?0084の表に示す例6?23の化学構造にあるもののみであり、それ以外の上記一般式に該当する成分であって上記特定の付加物とは化学構造が異なる成分を使用する場合のものが、本願請求項1に記載された「洗濯した布地および織物の外観および状態を改良するための洗剤組成物」という発明特定事項を満たし、上記「本発明の環状アミン系重合体、オリゴマーまたは共重合体材料を含んでなる洗浄溶液中で布地や織物を洗濯すると、布地の外観および状態が改良される。」という本願所定の課題を解決し得ることについては、本願明細書の発明の詳細な説明に、科学的に一般化できる程度の説明がなく、その具体例についての実験データも示されていない。このため、当該「それ以外の上記一般式に該当する成分であって上記特定の付加物とは化学構造が異なる成分を使用する場合」については、「発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」であるとは認められない。 エ.また、平成20年8月26日付けの拒絶査定の備考欄においては、『一般式においてR_(2)は2価の置換基であるから、これを化合物として限定する請求項7は、その記載に矛盾がある点にも留意されたい。』との指摘がなされているところ、例えば、本願請求項1の「-各R_(3)は、独立して、H、R_(2)、C_(1)?C_(20)ヒドロキシアルキル、…からなる群から選択され」という発明特定事項については、R_(2)が2価の置換基であるという点において科学的に成り立ち得ず、当業者の技術常識に照らし、本願所定の課題を解決し得ないことは明らかである。このため、当該「それ以外の上記一般式に該当する成分であって上記特定の付加物とは化学構造が異なる成分を使用する場合」の少なくとも一部については、「その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」であるとは認められない。 オ.してみると、本願請求項1に記載された事項により特定されるもの全てが、本願明細書の発明の詳細な説明の記載ないし本願出願時の技術常識により当業者が本願所定の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められないから、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 カ.さらに、本願請求項1の「一般式の環状アミン系」の化学構造の選択肢については、上記第2の2.(2)で述べたように、科学的に成り立ち得ないものも含まれていることから、当業者といえども、本願請求項1に記載された事項により特定されるもの全てを実施することは不可能である。そして、例えば、『公開の裏付けとなる明細書の記載の程度は,「その物」の全体について実施できる程度に記載されていなければならないのは当然であって,「その物」の一部についてのみ実施できる程度に記載されれば足りると解すべきではない。したがって,原告の上記主張はその前提において失当である。』との判例〔平成20(行ケ)10272号〕を参酌するに、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載しているものとは認められないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものではない。 キ.なお、平成23年2月8日付けの回答書において、審判請求人は、『請求項に化学構造が明確に特定されており本願発明の範囲を十分に画定することができる以上、当業者は本願明細書を熟読することにより本願発明の組成物を作れ、かつ実施できることは明らかです。』等の主張をしているが、本願請求項1の「一般式の環状アミン系」の化学構造の選択肢については、科学的に成り立ち得ないものも含まれていることから、上記主張は妥当ではなく、これを採用できない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願は、その請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、そして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、その余の事項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-07-25 |
結審通知日 | 2011-07-26 |
審決日 | 2011-08-11 |
出願番号 | 特願2000-511840(P2000-511840) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(C11D)
P 1 8・ 161- Z (C11D) P 1 8・ 575- Z (C11D) P 1 8・ 537- Z (C11D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中島 庸子 |
特許庁審判長 |
井上 雅博 |
特許庁審判官 |
木村 敏康 小出 直也 |
発明の名称 | 洗濯した布地の外観および状態を改良する、環状アミン系重合体を含む洗濯用洗剤組成物 |
代理人 | 紺野 昭男 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 横田 修孝 |
代理人 | 吉武 賢次 |
代理人 | 高村 雅晴 |