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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1249055
審判番号 不服2009-9304  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-30 
確定日 2011-12-21 
事件の表示 特願2005-358126「ポリマーセメントモルタル配合用短繊維パッケージ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月28日出願公開、特開2007-161514〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年12月12日の出願であって、平成20年11月6日付けで拒絶理由が起案され、平成20年12月26日付けで意見書及び特許請求の範囲に係る手続補正書が提出され、平成21年3月26日付けで拒絶査定が起案され、平成21年4月30日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成20年12月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
【請求項1】セメントと砂とポリマー樹脂から成るポリマーセメントモルタルに配合する補強用の合成樹脂製短繊維を封入したポリマーセメントモルタル配合用短繊維パッケージであって、該合成樹脂製短繊維の多数本を並行に引き揃えた状態に集束すると共に、該各並行に引き揃えた合成樹脂製短繊維間を水溶性接着剤で接着して並行集束短繊維片を形成し、該並行集束短繊維片の集合材中に減水剤を添加すると共に気泡剤を添加し袋内に封入したことを特徴とするポリマーセメントモルタル配合用短繊維パッケージ。

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用した本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-259289号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 減水剤を含有する集束剤により複数本の繊維が結合一体化されていることを特徴とする水硬性成型物補強用集束糸。」(特許請求の範囲 請求項1)
(イ)「【従来の技術】従来、コンクリ-ト、セメントモルタル等の水硬性成型物は、圧縮強度、耐久性、不燃性等に優れると同時に安価であり、建築土木分野に大量に使用されている。しかしながら、引張強度が低く脆性物質であるため、繊維状物を配合して機械的強度を改善する方法等が採用されている。繊維状物を配合すると曲げ強度、タフネス等の機械的強度の向上やひび割れ等の抑制が可能になるが、繊維を均一に分散することが極めて困難であり、混練の際に繊維が絡まって塊状物(ファイバ-ボ-ル)となり、補強材としての効果が損なわれる問題がある。」(段落【0002】)
(ウ)「以上のことから、複数本の繊維を集束剤で結着した集束糸(チョップドストランド)を補強材として使用することが提案され、具体的には、水溶性接着剤で結合された集束糸が特開平5-262543号公報等に開示されている。集束糸を使用した場合、まず集束糸の形態で水硬性材料中に分散し、ついで集束糸が単繊維に解離してそれぞれが分散するため(2段階で分散するため)、集束されていない繊維を混入する場合に比して、分散性に優れファイバ-ボ-ルが形成されにくい特徴を有している。」(段落【0003】)
(エ)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、集束糸を水硬性成型物材料に混入する場合においても、繊維の拘束力によってコンクリ-ト、モルタル等の流動性が著しく低下する問題がある。従って、混練スラリ-を施工する際にポンプ圧送時におけるホ-スの閉塞、型枠への充填不良等の様々な施工上の問題が生じてしまう。水を多量に添加して稀薄のスラリ-にすれば上記の問題は解決されるものの、水硬性成型物の強度は水の含有割合によって大きく左右されるため、成型物の強度低下,骨材分離,ブリ-ジング等が生じることとなる。特開平5-262543号公報には、集束糸を非水溶性微粉末で被覆することが提案されているが、これは集束糸の保存時のべたつきを抑制するものであり、水硬性材料の流動性の低下を抑制することはできない。本発明の目的は、上記の問題を解決し、補強効果及び分散性の双方に優れ、水硬性材料の流動性を低下させない水硬性成型物補強用集束糸を提供することにある。」(段落【0004】)
(オ)「【課題を解決するための手段】本発明は、減水剤を含有する集束剤により複数本の繊維が互いに結合されていることを特徴とする水硬性成型物補強用集束糸を提供するものである。本発明にいう減水剤とは、水硬性材料中の単位水量を減少させ得る界面活性剤の1種である。補強繊維を減水剤に浸漬または付着させた後、その繊維を長さ方向に引揃えて余分の水を乾燥することにより集束糸を得ることができる。減水剤は接着剤としての役割を果たしているが、水硬性成型物材料に配合して混練すると非常に容易に単繊維状に解離して繊維の拘束による流動性の低下もなく、繊維のもつ補強効果を十分に呈することができる。」(段落【0005】)
(カ)「水硬性材料中に占める水の割合が高い場合、水硬性材料の流動性は高い値を示すが、水の割合を高くすれば成型物の機械的強度が低下することとなる。従って、水硬性材料の硬化に必要最小限の水を含む状態とするのが、流動性及び成型物の性能の点で好ましい。従って、本発明の集束糸を使用した場合、従来の集束糸を試用する場合に比して水硬性材料中の単位水量が減少し、材料の流動性を著しく改善することができる。特に流動性の著しい低下を招く繊維補強材周辺において減水剤が効果を発揮し、さらに繊維と水硬性材料間に生じる摩擦が小さくなるため、優れた効果を得ることができる。具体的には、高級多価アルコ-ルのスルフォン酸塩、、ポリオ-ル複合体、オキシカルボン酸塩、β-ナフタリン高縮合トリアジン系化合物等が挙げられる。好適には、アルキルスルホン酸系、ポリカルボン酸系等を使用する。」(段落【0006】)
(キ)「また減水剤として、空気連行性を有するもの(AE減水剤)を使用または併用してもよい。繊維を配合すると水硬性成型物中のエヤ-量が減少して流動性が低下するが、AE減水剤を用いた場合には微細な独立気泡の連行によりボ-ルベアリングの効果で流動性をより向上させることができる。具体的なAE減水剤としては、リグニンスルホン酸塩(リグニンスルホン酸塩カルシウム等)、アルキルアリルスルホル酸高分子重合体、ヒドロキシカルボン酸塩、芳香族炭化水素高分子重合物等が挙げられる。成型物中のエヤ-量が多くなりすぎる場合には、消泡剤を併用するのが好ましい。エヤ-量は、普通コンクリ-トの場合、3?5 vol%(特に4 vol%程度)とするのが好ましい。」(段落【0007】)
(ク)「減水剤のみでは集束力が不十分な場合には、水溶性接着剤を添加した集束剤を用いてもよい。具体的には、ポリビニルアルコ-ル(以下PVAと略す)、変性PVA、酢酸ビニル共重合体、小麦デンプンふのり、カゼイン等が挙げられる。特にPVAが好ましい。しかしながら、水溶性接着剤の使用量が多くなると流動性が低下して好ましくない場合がある。集束剤中における水溶性接着剤の割合は、減水剤の10重量%以下、特に1重量%以下とするのが好ましい。」(段落【0009】)
(ケ)「本発明で用いられる補強用繊維としては、ポリエチレン系繊維、PVA系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリアミド系繊維(アラミド繊維等)、ポリプロピレン系繊維等の合成繊維やガラス繊維等を使用することができる。特に、強度が高く、水硬性成型物との接着性(親和性)に優れたPVA系繊維が好適に使用できる。」(段落【0010】)
(コ)「使用される単繊維の形態は特に限定されるものではないが、繊度100?5000dr、引張強度80kg/mm^(2) 以上、アスペクト比(繊維長さと繊維断面積に相当する円の直径で除した値)20?150程度のものが、分散性及び補強性に優れているため好ましく、かかる単繊維を5?200本、特に10?100本引き揃えて集束糸とするのが好ましい。また扁平状の繊維は、水硬性材料との接着性に優れているため好適に使用することができる。集束糸全体としては、200?100000d程度とするのが好ましい。」(段落【0011】)
(サ)「【実施例】以下、実施例を以てさらに本発明を説明する。
[繊維]
PVA系繊維(株式会社クラレ製 4000drモノフィラメント 長さ3cm アスペクト比45 引張強度 8.5g/d )
・・・。
[実施例1]PVA繊維をポリカルボン酸エ-テル系の高性能AE減水剤(ポゾリス物産製「レオビルトSP-8N」)の40%水溶液に浸漬した後、30?70本引き揃えて120℃×10分で熱風乾燥し、集束剤付着量3%のPVA繊維集束糸を得た。市販の可傾式ミキサ-(50l容量)で1分間混練したコンクリ-トスラリ-に集束糸(1.0vol%=13kg)を添加し、混練量約30lのスラリ-を3分間混練した。繊維添加前後のスランプ値、エヤ-量、混練時の繊維の分散状況(ファイバ-ボ-ルの有無)を測定した結果を表1に示す。」(段落【0014】、【0015】)

3.対比・判断
刊行物1には、記載事項(ア)に「減水剤を含有する集束剤により複数本の繊維が結合一体化されている」「水硬性成型物補強用集束糸」が記載されている。
そして、記載事項(イ)には「コンクリ-ト、セメントモルタル等の水硬性成型物」との記載があり、さらに、記載事項(ケ)には「補強用繊維としては、・・・合成繊維・・・を使用することができる」ことが、記載事項(コ)には「単繊維を5?200本・・・引き揃えて集束糸とする」ことが、記載事項(サ)には、実施例で用いた「[繊維]」について「長さ3cm」であることが記載されている。
これらの記載からみて、刊行物1には、
「長さ3cmの複数本の合成繊維を引き揃え、減水剤を含有する集束剤によりこれら複数本の合成繊維が結合一体化されているセメントモルタル補強用集束糸。」
の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているものと認められる。

本願発明1と刊行1発明を対比すると、
刊行1発明の「合成繊維」は、「合成樹脂製」の「繊維」であることは明らかであり、その長さからみて「短繊維」であることは明らかであるから、本願発明1の「合成樹脂製短繊維」に相当する。そして、記載事項(イ)の「セメントモルタル等の水硬性成型物」について「繊維状物を配合して機械的強度を改善する方法等が採用されている」との記載があることからみて、刊行1発明の「合成繊維」は、「セメントモルタルに配合する補強用」のものであることは明らかである。
また、刊行1発明の「集束剤」は、それに含有される「減水剤」が水溶性であることは明らかであり、記載事項(オ)によれば「接着剤としての役割を果たしている」ものであり、さらに、記載事項(ク)に「減水剤のみでは集束力が不十分な場合には、水溶性接着剤を添加した集束剤を用いてもよい」ことが記載されているから、本願発明1の「水溶性接着剤」に相当するものである。
そして、刊行1発明の「複数本の合成繊維を引き揃え」ることは、本願発明1の「合成樹脂製短繊維の多数本を並行に引き揃えた状態に集束する」ことに他ならず、刊行1発明の「減水剤を含有する集束剤によりこれら複数本の合成繊維が結合一体化されている」ことは、本願発明1の「各並行に引き揃えた合成樹脂製短繊維間を水溶性接着剤で接着して」いることに他ならない。
さらに、刊行1発明の「合成繊維」の長さを考慮すると、刊行1発明の「セメントモルタル補強用集束糸」は、本願発明1の「並行集束短繊維片」に相当し、刊行1発明で複数本の合成繊維を「セメントモルタル補強用集束糸」とすることは、「並行集束短繊維片を形成し」たことに他ならない。

してみると、両者は、
「セメントモルタルに配合する補強用の合成樹脂製短繊維であって、該合成樹脂製短繊維の多数本を並行に引き揃えた状態に集束すると共に、該各並行に引き揃えた合成樹脂製短繊維間を水溶性接着剤で接着して並行集束短繊維片を形成し」た点
で一致し、以下の点で相違する。
相違点a:本願発明1は、合成樹脂製短繊維「を封入した」「短繊維パッケージ」であって、「該並行集束短繊維片の集合材」を「袋内に封入した」「短繊維パッケージ」であるのに対し、刊行1発明は、パッケージについて特定がない点
相違点b:本願発明1は、「短繊維パッケージ」が、該並行集束短繊維片の集合材中に「減水剤を添加すると共に気泡剤を添加し」袋内に封入したものであるのに対し、刊行1発明は、水溶性接着剤に減水剤を含有させており、かかる特定がない点
相違点c:本願発明1は、「短繊維パッケージ」が、「セメントと砂とポリマー樹脂から成るポリマーセメントモルタル」に配合する「ポリマーセメントモルタル配合用」であるのに対し、刊行1発明は、ポリマーセメントモルタルに配合することについて特定がない点

そこでまず、相違点aについて検討する。
モルタル、コンクリート等のセメント混合物において、必要とする性能を得るために所定量の補強材や混和剤を配合することは従来より広く行われていることである。そして、セメント混合物に正確な量の補強材や混和剤を容易に配合するために、補強材や混和剤を所定量包装材内に封入してパッケージとし、このパッケージを使用してセメント混合物に補強材や混和剤を配合することは、例えば、特表2003-531043号公報、特開平9-124970号公報、特開平7-138059号公報、特開2003-71826号公報に記載されているように、本願出願前当該技術分野において広く用いられている技術手段である。特に、特表2003-531043号公報の段落【0021】、特開2003-71826号公報には、補強用の繊維を袋などの包装材内に封入しパッケージとすることが記載されているところである。
してみれば、刊行1発明の「合成繊維」、即ち「合成樹脂製短繊維」も補強のためセメントモルタルに配合するものであるから、セメントモルタルへの定量配合の容易性を考慮して、これを袋内に封入して短繊維パッケージとすること、さらには、並行集束短繊維片の集合材を袋内に封入して短繊維パッケージとすることは、当業者が適宜為し得たことである。

次に、相違点bについて検討する。
刊行1発明において、合成繊維の結合一体化に減水剤を含有した集束剤(水溶性接着剤)を使用した場合、結果として、結合一体化された合成繊維(集束短繊維片に相当)に減水剤が添加された状態となっていることは明らかである。そして、刊行物1の記載事項(オ)の「減水剤は接着剤としての役割を果たしているが、水硬性成型物材料に配合して混練すると非常に容易に単繊維状に解離して繊維の拘束による流動性の低下もなく、繊維のもつ補強効果を十分に呈する」、及び記載事項(カ)の「特に流動性の著しい低下を招く繊維補強材周辺において減水剤が効果を発揮し」との記載から、刊行1発明においても、減水剤は、集束糸と常時接触している状態を形成し、単繊維に解離後も単繊維の周辺で常時減水剤の作用が発揮されることは明らかである。
そして、相違点aについて検討したとおり、並行集束短繊維片の集合材を袋内に封入して短繊維パッケージとすることは当業者が適宜為し得たことであるところ、並行集束短繊維片の集合材と一緒に減水剤を袋内に封入して短繊維パッケージとしておけば、この短繊維パッケージを用いて並行集束短繊維片をセメントモルタルに混合するに際し、減水剤が並行集束短繊維片の周囲に近接して配置されることは明らかである。
さらに、刊行物1の記載事項(キ)には、「減水剤として、空気連行性を有するもの(AE減水剤)を使用または併用してもよい」との記載があり、「繊維を配合すると水硬性成型物中のエヤ-量が減少して流動性が低下するが、AE減水剤を用いた場合には微細な独立気泡の連行によりボ-ルベアリングの効果で流動性をより向上させることができる」ことも記載されている。
そして、例えば、前出の特表2003-531043号公報の段落【0021】、特開2003-71826号公報に記載されているように、補強用の繊維と共に減水剤と空気連行剤を袋などの包装材内に封入しパッケージとしておくことは従来より広く行われていることである。
してみれば、並行集束短繊維片の集合材を袋内に封入して短繊維パッケージとするに際し、並行集束短繊維片の集合材中に減水剤を添加すると共に気泡剤を添加し袋内に封入することは、当業者が容易に想到し得たことである。

最後に、相違点cについて検討する。
モルタルセメントとして「セメントと砂とポリマー樹脂から成るポリマーセメントモルタル」は、ここに例を示すまでもなく本願出願前周知である。
よって、上述の短繊維パッケージをセメントと砂とポリマー樹脂から成るポリマーセメントモルタル配合用とすることは、当業者が必要に応じて適宜為し得たことである。

そして、本願明細書及び図面には、並行集束短繊維片の集合材中に減水剤を添加すると共に気泡剤を添加し袋内に封入した短繊維パッケージを用いたことにより、合成樹脂製短繊維の均一分散性、セメントモルタルの流動性において格別優れた効果が得られることを確認するに足る具体的記載が無く、本願明細書及び図面の記載を検討しても、並行集束短繊維片の集合材中に減水剤を添加すると共に気泡剤を添加し袋内に封入した短繊維パッケージとしたこと、さらには、それをセメントと砂とポリマー樹脂から成るポリマーセメントモルタル配合用としたことにより、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものは認められない。

よって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-12 
結審通知日 2011-10-18 
審決日 2011-10-31 
出願番号 特願2005-358126(P2005-358126)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 相田 悟  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 小川 慶子
目代 博茂
発明の名称 ポリマーセメントモルタル配合用短繊維パッケージ  
代理人 中畑 孝  

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