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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C02F
管理番号 1249097
審判番号 不服2008-8892  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-10 
確定日 2011-12-22 
事件の表示 特願2000- 10367「活性汚泥水処理装置のシミュレーション方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月24日出願公開、特開2001-198590〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年1月17日の出願であって、平成20年2月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成20年4月10日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年4月28日付けで手続補正がなされ、その後、当審からの平成22年11月2日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、これに対し、平成23年1月5日に回答書が提出され、さらにその後、当審において、平成23年3月25日付けで、平成20年4月28日付けの手続補正を却下するとともに拒絶理由を通知し、これに対し、平成23年7月6日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成23年7月6日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という)は、以下のとおりのものである。

複数の嫌気槽と好気槽に区分して仕切られている生物反応槽により流入下水を処理し、処理された下水を沈殿池に導き固液分離した上澄水を放流水として放流し前記沈殿池に沈降した活性汚泥を返送汚泥として前記生物反応槽に返送するようにした活性汚泥水処理装置のシミュレーションを行うものであって、前記シミュレーションの手順は、反応槽寸法設定手段により前記生物反応槽の寸法データを設定し、反応槽分割数設定手段により前記生物反応槽の分割数および分割された各反応槽である嫌気槽、無酸素槽及び好気槽の寸法データを設定し、循環ルート設定手段により前記生物反応槽内での循環ルートを設定し、循環汚泥量設定手段により前記生物反応槽内での汚泥循環量を設定し、流入条件設定手段により流入下水量と流入水質の濃度を設定し、運転条件設定手段により前記生物反応槽への送風量、前記沈殿池から前記嫌気槽への返送汚泥量、余剰汚泥量を含んで運転条件を設定し、前記各設定手段により設定されたシミュレーション条件に基づき、生物モデル演算手段、輸送モデル演算手段および風量モデル演算手段によって前記流入下水、前記生物反応槽を区分した反応槽毎、前記放流水および前記返送汚泥の水質項目をシミュレーション演算により求めて、除去過程を把握する汚濁物質と当該汚濁物質の除去過程を把握するのに必要な他の汚濁物質を前記下水の流下方向順に表示装置の1画面に同時に表示するようにして、さらに次の(A)、(B)及び(C)
(A)放流水の有機物、窒素、リンの値、又は前記の有機物、窒素、リンの除去率が許容範囲内か否か、
(B)前記の嫌気槽、無酸素槽及び好気槽からなる生物反応槽において、前記の好気槽における硝酸性窒素の生成とアンモニア性窒素の減少及び無酸素槽における硝酸性窒素の残量から窒素除去工程が適切か否か、及び
(C)下水の流下方向のリンと有機物の水質変化からリンの放出と摂取のバランス、及び有機物、溶残酸素のバランスが適切か否か、
の判定を行うものであり、前記の生物反応槽の分割、嫌気・好気槽の組合せ、及び運転条件の最適化のために使用されることを特徴とする活性汚泥水処理装置のシミュレーション方法。

なお、請求項1の記載において、「(C)下水の流下方向のリンと有機物の水質変化からリンの放出と摂取のバランス、及び有機物、溶残酸素のバランスが適切か否か」の記載は、【図6】の記載からみて、「(C)下水の流下方向のリンと有機物の水質変化からリンの放出と摂取のバランス、及び有機物、溶存酸素のバランスが適切か否か」の誤記であることが明らかであるから、以下、そのように読み替えるものとする。

3.引用刊行物の記載事項
(A)引用刊行物1:原直樹、木村文智、渡辺昭二,下水道施設維持管理便利技術ガイド シミュレーション技術を利用した生物学的リン・窒素除去プロセスの維持管理,PPM,日本,日工フォーラム社,1997年2月1日,第28巻 第2号,p.49-p.56(以下、「引用例1」という。)
(A-ア)「2-2 シミュレーションの目的
生物モデルに基づいたシミュレーションは,反応槽容積,流入条件,および運転条件をさまざまに変えて試行可能なため,研究や設計はもちろんのこと,維持管理においても適切な運転条件の検討,異常原因の究明や対策などに有用な情報を提供できる。
理論的には環境の異なる2つ以上反応槽の組み合わせによって生物学的なリン・窒素除去を実現可能なため,高度処理導入に当たっては,既存施設上の制限,処理地区や放流先の環境など地域の実情を考慮してさまざまの方式が検討されるであろう。流入負荷と処理水質条件を満たす反応槽の組み合わせや容積などの決定にシミュレーション技術は非常に有用である。
活性汚泥プロセスの生物反応速度は緩やかで,汚泥の滞留時間も長く,運転条件変更の影響は数日を経た放流水質や汚泥状態からでないと判定できない。また,生物のバランスは一度崩れると回復に多くの日数を要すので,より安定した良質の放流水の確保には,プロセスの現状の把握と,運転条件の事前検討が重要である。この観点からも,流入水量と水質条件,異常を誘発するおそれのある運転など実際のプラントでは実施困難な条件も含めたシミュレーションの試行は,適切な運転条件の検討に有効である。特に高度処理では標準活性汚泥法に比べ反応が複雑であり,理論計算による定量的な評価は重要といえる。」(第50ページ左欄27行?右欄13行)
(A-イ)「3-1 反応槽の輸送モデル
下水処理場のような物質の輸送を伴うプロセスのシミュレーションには,リン,窒素に関連する生物モデルのほかに,物質の流動を表す輸送モデルが必要であり,これらのモデルを反応槽と最終沈殿池に展開することによって基質濃度や菌体濃度の計算が可能になる。反応槽における輸送モデルとして完全混合槽列モデルを用いた。【図3】に示すように,完全混合槽列モデルは,隔壁を持つ完全混合槽が複数配置されて反応槽を構成すると仮定して物質の移動や拡散を表現する手法であり,一つの完全混合槽内に流入した基質や菌体は瞬時に均一に混合されるものと仮定している。」(第52ページ左欄2?14行)
(A-ウ)「3-2 最終沈殿池の輸送モデル
最終沈殿池の輸送モデルは,流入した混合液が汚泥柱を形成するモデルと仮定した。【図4】に概要を示す。汚泥柱内の汚泥は所定のSVIにしたがい重力沈降し,やがて上澄み液と汚泥の間に明瞭な汚泥界面を形成する(沈降過程)。沈降した汚泥は沈殿池底から一定の高さまで引き抜かれ,返送汚泥および余剰汚泥になる(かき寄せ,引き抜き過程)。また,汚泥柱は時間とともに流下方向に押し出され,その結果,上澄み液が沈殿池から放流する(移流過程)ものとした。汚泥柱は,好気槽から持ち込まれたDOの影響によって好気,嫌気,および無酸素状態になり,これらの生物生息環境に応じて汚泥柱内では反応槽と同様の生物反応が進行する。」(第53ページ左欄2?15行)
(A-エ)「4-1 A2O法概要
嫌気-無酸素-好気法(A2O法)は,嫌気(Anaerobic)工程,無酸素(Anoxic)工程,および好気(Oxic)の工程において,生物学的脱リン機構と硝化液循環式の脱窒機構を組み合わせてリンと窒素を除去する方法で,1970年代に硝化液循環工程の前段に嫌気工程を配置した修正バーナード法(Phoredox法)により,窒素に加えてリンも除去可能なことが確認された。」(第53ページ左欄17?25行)
(A-オ)「4-2 対象プラント
今回,A2O法を対象に,菌体内部に有機物とリンを蓄積できる生物モデルに基づいたシミュレーターを構築し,実下水パイロットプラントに適用した。A2O法パイロットプラントの概要を【図5】に示す。流入水には実下水の最初沈殿池流出水(沈後水)を使用している。生物反応槽は全容積217lで,開口比率0.5%の仕切板を用いて8槽に等分割されており,嫌気槽と無酸素槽には撹拌器を,好気槽には撹拌器と散気管を設置した。
実験条件を【表2】に示す。流入流量一定,返送率一定にして,槽構成比,循環率,DOの条件を変化させた。実験A,Bの運転条件で約20日間運転した後に各反応槽の水質分析を実施した。」(第53ページ右欄3?16行)
(A-カ)「4-3 シミュレーション条件
シミュレーションに当たり,反応槽は完全混合槽8分割で逆混合なしと仮定してモデル化した。また,流入条件は流入水量を一定にし,流入水質を24時間実測値に基づく変動パターンによって時間変動させた。運転条件は【表2】の実験条件と同一とした。」(第53ページ右欄22?27行)
(A-キ)「4-4 シミュレーション結果
反応槽No.8のMLSSの実測値とシミュレーション計算値を【図6】に示す。【図6】よりMLSSは平均誤差6%以内を示したことから,本シミュレーター上で微生物の増殖と自己分解が再現できたものと考える。
【図7】(a)?(h)にパイロットプラント各反応槽におけるBOD,溶解性リン,硝酸性窒素,およびアンモニア性窒素の実測値とシミュレーション計算値を示す。【図7】の溶解性リン実測値より,嫌気槽における溶解性リンの増加はBODの減少と対応していることから,流入水中の有機物は,脱リン菌のリン放出に伴い菌体に吸着されて蓄積有機物となったと考えられる。次工程の無酸素槽での溶解性リンの減少は,主に循環液による希釈の影響である。好気槽の溶解性リンは流下につれて脱リン菌のリン摂取と微生物増殖により減少傾向にある。実験Aの場合,好気槽後段で溶解性リンを完全に除去できたが,実験Bではリン摂取が不十分なため処理水に1.1mg/l残留している。これは,流入有機物濃度の違いが好気槽におけるリン摂取速度に影響を及ぼしたと推測された。
このような生物反応過程で変動する溶解性リンの実測値とシミュレーション計算値はほぼ一致した。また,実験AとBにおいては,硝化脱窒反応に大きく影響する循環率とDOを変更しているが,いずれの実験条件においてもBOD,硝酸性窒素,およびアンモニア性窒素の実測値と計算値はほぼ一致した。したがって先述した生物モデルと輸送モデルに基づいたシミュレーションはA2O法に適用可能と考えられる。」(第54ページ左欄8行?同ページ右欄11行)
(A-ク)「5-1 反応槽構成比,循環率の検討
実験Aの流入条件(日平均:BOD=60mg/l,溶解性リン=1.6mg/l,全窒素=22mg/l)で,パイロットプラントの運転条件をシミュレーション検討した。【図8】に反応槽の構成比と循環率を変化させたときの除去率のシミュレーション結果を示す。無酸素槽1段の場合,滞留時間が短くなり脱窒が進まず,さらに循環液の持ち込みDOによる脱窒抑制の影響を受けやすいので全窒素除去率は60%に達しない。一方,溶解性リン除去率は無酸素槽1段の場合循環率100%で最低を示し,2段の場合循環量が大きいほど低下している。これは実験Aの流入条件の有機物量では,嫌気槽と無酸素槽の微生物がその大半を吸着消費してしまうので,後段の好気槽ではリン摂取に必要な有機物が不足していたと考えられる。無酸素槽1段のときに循環率100%を境に溶解性リン除去率が向上に転ずるのは,脱窒の抑制によって無酸素槽から流出した微生物に蓄積有機物が多く存在することによる。
リン・窒素除去率60%以上を達成するには,槽構成比は1:2:5,循環率150%が適当と考えられた。」(第54ページ右欄14行?第55ページ左欄21行)
(A-ケ)「6.おわりに
生物モデルを用いたA2O法シミュレーション計算値は実下水によるパイロットプラント実測値とよい一致を得た。この結果から,今回提案した生物モデルによって有機物,リン,および窒素の除去過程を予測できる見通しを得た。また,適切な反応槽構成や運転条件の決定にも利用できると考えられる。下水処理場の設計や維持管理には水質,土木,機械,電気の総合技術が要求されるため,この観点からも各分野の情報を融合できるシミュレーション技術の利用価値は高いといえる。」(第55ページ左欄16行?第56ページ左欄7行)
(A-コ)図5(第53ページ)には、「パイロットプラント概要」として、8槽に等分割された「生物反応槽」の第1槽に、流入水として「沈後水」が流入し、第8槽からの混合液が「終沈」に流入し、「終沈」で汚泥が沈降して上澄み液と分離し、上澄み液が「終沈」から処理水として放流されるともに、「終沈」底部から引き抜かれた汚泥が返送汚泥として第1槽に返送され、さらに、第8槽から循環液が第3槽に循環されると共に、第4?8槽に送気されていることが読み取れる。
(A-サ)図7(第54ページ)には、「生物反応槽の実測値と計算値」として、「実験A」及び「実験B」について、それぞれ(a)?(d)及び(e)?(h)のグラフが示され、グラフの縦軸は左から右へ「I:沈降水」、「1?8:反応槽」、「O:処理水」及び「R:返送汚泥」として各段階の位置を表し、その各段階に対応するBOD、溶解性リン、アンモニア性窒素及び硝酸性窒素の実測値「●」とシミュレーション計算値「○」がグラフ上にプロットして示されていることが読み取れる。
なお、記載事項(A-オ)及び(A-コ)からみて、上記「沈降水」は、「沈後水」の明らかな誤記であるので、以下、そのように読み替えるものとする。

(B)引用刊行物2:坂田澄人ほか4名,上下水道用電気計装システム,技報安川電機,日本,安川オビアス株式会社,第63巻,No.4,1999年12月20日発行,238-248ページ(以下、「引用例2」という。)
(B-ア)「2 システムの基本的考え方
先に述べたニーズへの適合性を高めるため,信頼性,監視・操作性,保全性,拡張性などを重視しシステムの構築を行った。本システムは,監視制御と管理をつかさどる二つのシステムから構成される。システム構成図を図1に示す。
2・1 信頼性の向上
上下水道設備に適用する電気計装システムには高い信頼性が要求される。そのためシステム的な対応として,階層構造及び設備分散形とし,制御システムの自立性を確保する。・・・
2・2 操作・監視性の向上
プロセスの監視・操作においては,適切な判断と確実な操作を行うことが重要となる。そこで,CRT監視制御装置と伝送機能の充実による監視制御の集中化を図る。また,現場の映像や音声など多種多様な情報の表示・再生とプラント全体監視の一覧性を確保し,監視性の向上を図っている。」(第238ページ右欄10?第239ページ左欄9行)
(B-イ)図1(第239ページ)には、「システム構成図」として、管理システムの情報LANに「下水処理水質シミュレータ」が接続されるとともに、監視制御システムの「CRT監視制御装置」も上記「情報LAN」に接続されていることが読み取れる。
(B-ウ)「3 監視制御システム
監視制御システムは,設備や管理形態からくる各種ニーズに対して柔軟に対応し,構築することを可能としている。・・・
3・1 CRT監視制御装置
CRT監視制御装置は,大・中規模用,小規模用と設備にあった機種を適用し,システムを構築することが可能である。・・・
3・1・1 監視・操作性の向上
機器の運転状態や操作モード,流量・水位などのプロセス量といった関連情報を一画面に集め,情報の一覧性を高めることができる。」(第240ページ左欄5行?同ページ右欄2行)
(B-エ)「4 管理システム
外乱要因の多い上下水道プロセスを円滑に運転するには,ベテランの経験と勘に頼るところが非常に多い。・・・
本章では,管理システムを構成する下水道及び上水道向け運転管理支援システム,維持管理支援システムについて述べる。
・・・
4・1・4 下水処理水質シミュレータ
閉鎖性水域の富栄養化防止のために窒素・リン除去などを行う高度処理の必要性が求められている。・・・そのためには,運転方法の変更により,どのように水質が変化するかを確認可能な水質シミュレータが必要である。
そこで,運転方法や制御設定値の変更などによりプロセス各段階の窒素,リン,有機物含有量などの水質がどのように変化するかを予測可能な下水処理シミュレータの開発を行った。・・・図7に,本シミュレータによる水質変動のシミュレーション結果を示す。図から分かるように,アンモニア態窒素,硝酸態窒素,リン酸態リンの予測結果すべてにおいて,本シミュレータによるシミュレーション結果と分析値は,IAWQ推奨パラメータ値による結果よりも良く一致している。」(第242ページ左欄4行?第243ページ右欄17行)
(B-オ)図7(第243ページ)には、a)アンモニア態窒素濃度、b)硝酸態窒素濃度及びc)リン酸態リン濃度について、反応槽流入、1槽ないし6槽までの分析値、自動決定及び推奨の値がそれぞれのグラフで示されていることが読み取れる。

4.引用発明の認定
引用例1には、記載事項(A-ア)によれば、「シミュレーションの目的」として、生物モデルに基づいたシミュレーションは、反応槽容積、流入条件及び運転条件をさまざまに変えて試行可能なことから、流入水量と水質条件、異常を誘発するおそれのある運転など実際のプラントでは実施困難な条件も含めたシミュレーションの試行は、活性汚泥プロセスの研究、設計及び維持管理において有用な情報を提供でき、特に高度処理では標準活性汚泥法に比べ反応が複雑であり、高度処理導入に当たっては、流入負荷と処理水質条件を満たす反応槽の組み合わせや容積などの決定にシミュレーション技術は非常に有用であることが記載されている。
そして、記載事項(A-イ)に、「下水処理場のような物質の輸送を伴うプロセスのシミュレーションには,リン,窒素に関連する生物モデルのほかに,物質の流動を表す輸送モデルが必要であり,これらのモデルを反応槽と最終沈殿池に展開することによって基質濃度や菌体濃度の計算が可能になる。」と記載され、記載事項(A-オ)に、「A2O法を対象に,菌体内部に有機物とリンを蓄積できる生物モデルに基づいたシミュレーターを構築し,実下水パイロットプラントに適用した。A2O法パイロットプラントの概要を【図5】に示す。流入水には実下水の最初沈殿池流出水(沈後水)を使用している。生物反応槽は全容積217lで,開口比率0.5%の仕切板を用いて8槽に等分割されており,嫌気槽と無酸素槽には撹拌機を,好気槽には撹拌機と散気管を配置した。実験条件を【表2】に示す。流入流量一定,返送率一定にして,槽構成比,循環率,DOの条件を変化させた。実験A,Bの運転条件で約20日間運転した後に各反応槽の水質分析を実施した。」と記載され、記載事項(A-ウ)及び(A-コ)によれば、「図5 パイロットプラント概要」として、8槽に等分割された生物反応槽の第1槽に流入水として、沈後水が流入し、第8槽からの混合液が終沈に流入し、終沈で汚泥が沈降して上澄み液と分離し、上澄み液が終沈から処理水として放流されるともに、終沈の底部から引き抜かれた汚泥が返送汚泥として第1槽に返送され、さらに、第8槽からの循環液が第3槽に循環されるとともに、第4?8槽に送気されることから、上記生物反応槽は、第1及び2槽が嫌気槽、第3槽が無酸素槽、第4?8槽が好気槽であるといえる。
上記「A2O法」については、記載事項(A-エ)によれば、嫌気工程、無酸素工程、及び好気工程において、生物学的脱リン機構と硝化液循環式の脱窒機構を組み合わせてリンと窒素を除去する方法であるといえる。
さらに、記載事項(A-カ)に、「シミュレーション条件」として、「シミュレーションに当たり,反応槽は完全混合槽8分割で逆混合なしと仮定してモデル化した。また,流入条件は流入水量を一定にし,流入水質を24時間実測値に基づく変動パターンによって時間変動させた。」と記載されている。
さらに、記載事項(A-キ)及び(A-サ)によれば、「シミュレーション結果」として、【図7】(a)?(h)にパイロットプラント各反応槽におけるBOD、溶解性リン、硝酸性窒素及びアンモニア性窒素の実測値とシミュレーション計算値が示され、図7には、「生物反応槽の実測値と計算値」として、「実験A」及び「実験B」について、それぞれ(a)?(d)及び(e)?(h)のグラフが示され、グラフの縦軸は、「単位:mg/L」であることから、濃度を表すものといえ、その横軸は左から右へ「I:沈後水」、「1?8:反応槽」、「O:処理水」及び「R:返送汚泥」として各段階の位置を表し、その各段階に対応するBOD、溶解性リン、アンモニア性窒素及び硝酸性窒素の実測値「●」とシミュレーション計算値「○」がグラフ上にプロットして示されていることが読み取れる。
これらの記載事項を総合して、本願発明1の記載振りに則して整理すると、引用例1には、「第1及び2槽が嫌気槽、第3槽が無酸素槽、第4?8槽が好気槽である8槽に等分割された生物反応槽に流入水として、実下水の沈後水が流入し、生物反応槽からの混合液が終沈に流入し、終沈で汚泥が沈降して上澄み液と分離し、上澄み液が終沈から処理水として放流されるとともに、終沈の底部から引き抜かれた汚泥が返送汚泥として生物反応槽に返送され、さらに、生物反応槽の好気槽からの循環液が無酸素槽に循環されるとともに、好気槽に送気されるようにした実下水パイロットプラントのシミュレーションに当たり、シミュレーション条件として、生物反応槽は全容積217lで、開口比率0.5%の仕切板を用いて8槽に等分割されるとともに、完全混合槽で逆混合なしと仮定してモデル化し、流入条件は流入水量を一定にし、流入水質を24時間実測値に基づく変動パターンによって時間変動させ、運転条件は、返送率一定にして、槽構成比、循環率、DOの条件を変化させるように設定し、設定されたシミュレーション条件に基づき、リン、窒素に関連する生物モデルと物質の流動を表す輸送モデルによって基質濃度や菌体濃度を計算することにより、実下水パイロットプラントにおける沈後水、生物反応槽の第1?8槽、処理水及び返送汚泥の各段階でのBOD、溶解性リン、アンモニア性窒素及び硝酸性窒素のシミュレーション計算値を、横軸に各段階の位置を表したグラフ上にプロットして示すようにしたシミュレーション方法」の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されていると認める。

5.対比
そこで、本願発明1と引用1発明を対比すると、引用1発明の「第1及び2槽が嫌気槽、第3槽が無酸素槽、第4?8槽が好気槽である8槽に等分割された生物反応槽」、「流入水として、実下水の沈後水」、「終沈」、「汚泥が沈降して上澄み液と分離し、上澄み液が終沈から処理水として放流され」及び「終沈の底部から引き抜かれた汚泥が返送汚泥として生物反応槽に返送され」は、本願発明1の「複数の嫌気槽と好気槽に区分して仕切られている生物反応槽」、「流入下水」、「沈殿池」、「固液分離した上澄水を放流水として放流し」及び「沈殿池に沈降した活性汚泥を返送汚泥として前記生物反応槽に返送する」にそれぞれ相当する。
そして、引用1発明の「実下水パイロットプラント」は、記載事項(A-ア)によれば、活性汚泥プロセスを利用したものであるから、本願発明1の「活性汚泥水処理装置」に相当するものといえる。
さらに、引用1発明の「設定されたシミュレーション条件に基づき、リン、窒素に関連する生物モデルと物質の流動を表す輸送モデルによって基質濃度や菌体濃度を計算する」ことは、本願発明1の「設定されたシミュレーション条件に基づき、生物モデル演算手段、輸送モデル演算手段および風量モデル演算手段によって」「水質項目をシミュレーション演算により求め」ることと、「設定されたシミュレーション条件に基づき、生物モデル演算手段及び輸送モデル演算手段によって水質項目をシミュレーション演算により求め」る点で共通するものといえる。
さらに、引用1発明の「実下水パイロットプラントにおける沈後水、生物反応槽の第1?8槽、処理水及び返送汚泥の各段階でのBOD、溶解性リン、アンモニア性窒素及び硝酸性窒素」において、上記「BOD、溶解性リン、アンモニア性窒素及び硝酸性窒素」は、汚濁物質の種類であり、上記「各段階でのBOD、・・・硝酸性窒素」は、各段階での汚濁物質濃度による水質を示すものであることは明らかであるから、引用1発明の「実下水パイロットプラントにおける沈後水、生物反応槽の第1?8槽、処理水及び返送汚泥の各段階でのBOD、溶解性リン、アンモニア性窒素及び硝酸性窒素」は、本願発明1の「前記流入下水、前記生物反応槽を区分した反応槽毎、前記放流水および前記返送汚泥の水質項目」に相当するものといえる。
以上のことから、両者は、「複数の嫌気槽と好気槽に区分して仕切られている生物反応槽により流入下水を処理し、処理された下水を沈殿池に導き固液分離した上澄水を放流水として放流し前記沈殿池に沈降した活性汚泥を返送汚泥として前記生物反応槽に返送するようにした活性汚泥水処理装置のシミュレーションを行うものであって、設定されたシミュレーション条件に基づき、生物モデル演算手段及び輸送モデル演算手段によって前記流入下水、前記生物反応槽を区分した反応槽毎、前記放流水および前記返送汚泥の水質項目をシミュレーション演算により求める活性汚泥水処理装置のシミュレーション方法」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点a:本願発明1のシミュレーションの手順は、「反応槽寸法設定手段により前記生物反応槽の寸法データを設定し、反応槽分割数設定手段により前記生物反応槽の分割数および分割された各反応槽である嫌気槽、無酸素槽及び好気槽の寸法データを設定し、循環ルート設定手段により前記生物反応槽内での循環ルートを設定し、循環汚泥量設定手段により前記生物反応槽内での汚泥循環量を設定し、流入条件設定手段により流入下水量と流入水質の濃度を設定し、運転条件設定手段により前記生物反応槽への送風量、前記沈殿池から前記嫌気槽への返送汚泥量、余剰汚泥量を含んで運転条件を設定し」ているのに対して、引用1発明は、「シミュレーションに当たり、シミュレーション条件として、生物反応槽は全容積217lで、開口比率0.5%の仕切板を用いて8槽に等分割されるとともに、完全混合槽で逆混合なしと仮定してモデル化し、流入条件は流入水量を一定にし、流入水質を24時間実測値に基づく変動パターンによって時間変動させ、運転条件は、返送率一定にして、槽構成比、循環率、DOの条件を変化させるように設定し」ている点。
相違点b:本願発明1は、「前記各設定手段により設定されたシミュレーション条件に基づき、生物モデル演算手段、輸送モデル演算手段および風量モデル演算手段によって」「水質項目をシミュレーション演算により求めて」いるのに対して、引用1発明は、「設定されたシミュレーション条件に基づき、リン、窒素に関連する生物モデルと物質の流動を表す輸送モデルよって基質濃度や菌体濃度を計算により」求めている点。
相違点c:本願発明1は、「除去過程を把握する汚濁物質と当該汚濁物質の除去過程を把握するのに必要な他の汚濁物質を前記下水の流下方向順に表示装置の1画面に同時に表示するようにした」のに対して、引用1発明は、「沈後水、生物反応槽の第1?8槽、処理水及び返送汚泥の各段階でのBOD、溶解性リン、アンモニア性窒素及び硝酸性窒素のシミュレーション計算値を、横軸に各段階の位置を表したグラフ上にプロットして示すようにした」点。
相違点d:本願発明1は、「次の(A)、(B)及び(C)
(A)放流水の有機物、窒素、リンの値、又は前記の有機物、窒素、リンの除去率が許容範囲内か否か、
(B)前記の嫌気槽、無酸素槽及び好気槽からなる生物反応槽において、前記の好気槽における硝酸性窒素の生成とアンモニア性窒素の減少及び無酸素槽における硝酸性窒素の残量から窒素除去工程が適切か否か、及び
(C)下水の流下方向のリンと有機物の水質変化からリンの放出と摂取のバランス、及び有機物、溶存酸素のバランスが適切か否か、
の判定を行うもの」であるのに対して、引用1発明は、かかる判定を行うことが特定されていない点。
相違点e:本願発明1のシミュレーション方法は、「生物反応槽の分割、嫌気・好気槽の組合せ、及び運転条件の最適化のために使用される」のに対して、引用1発明のシミュレーション方法は、かかる限定が付されていない点。

6.判断
(A)相違点aについて
本願発明1と引用1発明のシミュレーション条件について、その各設定条件ごとに、以下で検討する。
(A-1)まず、生物反応槽の設定条件について、本願発明1では、「反応槽寸法設定手段により前記生物反応槽の寸法データを設定し」、「反応槽分割数設定手段により前記生物反応槽の分割数および分割された各反応槽である嫌気槽、無酸素槽及び好気槽の寸法データを設定し」ているのに対して、引用1発明では、「生物反応槽は全容積217lで、開口比率0.5%の仕切板を用いて8槽に等分割されるとともに、完全混合槽で逆混合なしと仮定してモデル化し」ている。
そこで、本願発明1の「反応槽寸法設定手段」について、発明の詳細な説明をみてみると、「反応槽寸法設定手段32は生物反応槽1の有効幅、有効長さおよび有効水深の寸法データを設定する。」(段落【0035】)と記載されることから、上記「反応槽寸法設定手段」は、生物反応槽の有効容積を設定するものとみることができる。
してみると、引用1発明で「生物反応槽は全容積217l」としたことは、本願発明1で「反応槽寸法設定手段により前記生物反応槽の寸法データを設定し」たことと、生物反応槽の容積を設定している点で相違ないものといえる。
つぎに、本願発明1の「反応槽分割数設定手段」について、発明の詳細な説明をみてみると、「反応槽分割数設定手段33は生物反応槽1の分割数および分割された各反応槽1a,1b,1cの長さを設定する。」(段落【0035】)と記載されることから、上記「反応槽分割数設定手段」は、前記生物反応槽の分割数および分割された各反応槽である嫌気槽、無酸素槽及び好気槽の長さとしての寸法データを設定するものとみることができる。
これに対して、引用1発明では「生物反応槽は・・・開口比率0.5%の仕切板を用いて8槽に等分割される」ことから、生物反応槽の分割数は設定するものの、分割された各反応槽の寸法データを設定するか否かは明記されていない。
そこで、引用1発明の「生物反応槽」は、分割された各反応槽の寸法データを設定することが可能であるか、以下に検討する。
引用例1の記載事項(A-ア)に「理論的には環境の異なる2つ以上反応槽の組み合わせによって生物学的なリン・窒素除去を実現可能なため,高度処理導入に当たっては,既存施設上の制限,処理地区や放流先の環境など地域の実情を考慮してさまざまの方式が検討されるであろう。流入負荷と処理水質条件を満たす反応槽の組み合わせや容積などの決定にシミュレーション技術は非常に有用である。」と記載されることから、引用例1のシミュレーション方法において、生物学的なリン・窒素除去を実施可能な高度処理導入に当たって、流入負荷と処理水質条件を満たす反応槽の組み合わせや容積などの決定にシミュレーション技術が有用であることが示唆されており、シミュレーション条件を設定する際に、環境の異なる2つ以上の反応槽、すなわち、嫌気槽、無酸素槽及び好気槽の組み合わせや各反応槽の容積を考慮すべきことがわかる。
してみると、引用1発明において、生物反応槽を開口比率0.5%の仕切板を用いて8槽に等分割しているが、シミュレーション条件を設定する際に、環境の異なる2つ以上の反応槽、すなわち、嫌気槽、無酸素槽及び好気槽の組み合わせや各反応槽の容積を考慮することが示唆されているのであるから、引用1発明において、生物反応槽を等寸法に分割するか、又はそれぞれ異なる寸法に分割するかは、必要に応じて設定し得る設計的事項であり、そのことによって格別の効果を奏するともいえない。

(A-2)つぎに、生物反応槽内での汚泥循環について、本願発明1では、「循環ルート設定手段により前記生物反応槽内での循環ルートを設定し」、「循環汚泥量設定手段により前記生物反応槽内での汚泥循環量を設定し」ているのに対して、引用1発明では、「運転条件は、・・・、槽構成比、循環率、・・・の条件を変化させるように設定し」ている。
そこで、引用1発明の「槽構成比」についてみてみると、記載事項(A-カ)に「運転条件は【表2】の実験条件と同一とした。」と記載されることから、【表2】をみると、「槽構成比」については、「Aa:Ao:Oo」(嫌気槽:無酸素槽:好気槽)を「実験A」では「1:1:6」とし、「実験B」では「2:1:5」と記載されていることから、「実験A」では、生物反応槽の第2槽を無酸素槽として循環液を循環させ、「実験B」では、生物反応槽の第3槽を無酸素槽として循環液を循環させるものといえる。
してみると、引用1発明の「槽構成比」の条件を変化させることは、本願発明1の「循環ルート設定手段により前記生物反応槽内での循環ルートを設定し」ていることと相違ないものといえる。
同様に、引用1発明の「循環率」については、【表2】をみると、「循環率(%)」を「実験A」では「200」とし、「実験B」では「100」と記載されていることから、「実験A」では、200%の循環率で循環液を循環させ、「実験B」では、100%の循環率で循環液を循環させるものといえる。
してみると、引用1発明の「循環率」の条件を変化させることは、本願発明1の「循環汚泥量設定手段により前記生物反応槽内での汚泥循環量を設定し」ていることと相違ないものといえる。

(A-3)つぎに、流入条件について、本願発明1では、「流入条件設定手段により流入下水量と流入水質の濃度を設定し」ているのに対して、引用1発明では、「流入条件は流入水量を一定にし、流入水質を24時間実測値に基づく変動パターンによって時間変動させ」ている。
そこで、本願発明1の「流入条件設定手段」について、発明の詳細な説明をみてみると、「流入条件設定手段31は流入下水量と流入水質の濃度を設定する。ここで水質とは例えば、有機物(易分解性と難分解性)、アンモニア性窒素、全窒素、リン、浮遊物濃度、アルカリ度、溶存酸素、硝酸性窒素、水温などである。データは24時間変動パターンでもよいし、24時間を通して一定値としてもよい。」(段落【0034】)と記載されることから、上記「流入条件設定手段により流入下水量と流入水質の濃度を設定」することは、引用1発明の「流入条件は流入水量を一定にし、流入水質を24時間実測値に基づく変動パターンによって時間変動させ」ることと、流入下水量と流入水質の濃度を設定している点で相違ないものといえる。

(A-4)つぎに、運転条件について、本願発明1では、「運転条件設定手段により前記生物反応槽への送風量、前記沈殿池から前記嫌気槽への返送汚泥量、余剰汚泥量を含んで運転条件を設定し」ているのに対して、引用1発明では、「運転条件は、返送率一定にして、・・・、DOの条件を変化させるように設定し」ている。
そこで、引用1発明の「DOの条件を変化させる」についてみてみると、「DO」とは、溶存酸素濃度のことであるから、「DOの条件を変化させる」には、生物反応槽への送気量を設定する必要があることが明らかである。
同様に、引用1発明の「返送率一定にして」についてみてみると、「返送率」とは、終沈から生物反応槽への返送汚泥の返送割合であり、【表2】では「返送率50%」と記載されていることから、残りの50%は余剰汚泥として排出されることは明らかである。
してみると、引用1発明の「運転条件は、返送率一定にして、・・・、DOの条件を変化させるように設定し」ていることは、本願発明1の「運転条件設定手段により前記生物反応槽への送風量、前記沈殿池から前記嫌気槽への返送汚泥量、余剰汚泥量を含んで運転条件を設定し」ていることと相違ないものといえる。

(A-5)以上のことから、相違点aにかかる本願発明1のシミュレーション条件は、引用1発明に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

(B)相違点bについて
本願発明1の「風量モデル演算手段」について、発明の詳細な説明には、「風量モデル演算手段53は送風量から好気槽1cに供給される溶存酸素を計算する。」(段落【0039】)と記載されている。
そして、上記「送風量」について、発明の詳細な説明をみてみると、「ブロワ11は、ブロワ風量の制御、好気槽1cの溶存酸素の制御によって運転される。」(段落【0030】)と記載されることから、上記「送風量」は、ブロワ風量を意味するものといえ、好気槽の溶存酸素は、ブロワ風量によって制御されるものとみることができる。
一方、引用1発明では、好気槽の溶存酸素について、記載事項(A-オ)に、「A2O法を対象に,菌体内部に有機物とリンを蓄積できる生物モデルに基づいたシミュレーターを構築し,・・・A2O法パイロットプラントの概要を【図5】に示す。・・・嫌気槽と無酸素槽には撹拌器を,好気槽には撹拌器と散気管を設置した。実験条件を【表2】に示す。流入流量一定,返送率一定にして,槽構成比,循環率,DOの条件を変化させた。」と記載されることから、実験条件として、DO(溶存酸素濃度)を変化させるものといえる。
そこで、どのようにしてDOを変化させるのかをみてみると、記載事項(A-コ)によれば、図5(第53ページ)には、「パイロットプラント概要」として、8槽に等分割された「生物反応槽」の第8槽(好気槽)から循環液が第3槽(無酸素槽)に循環されるとともに、第4?8槽(好気槽)に送気されているといえることから、好気槽のDOは散気管への送気量を制御することによりなされるものとみることができる。
そして、記載事項(A-ク)に「実験Aの流入条件(日平均:BOD=60mg/l,溶解性リン=1.6mg/l,全窒素=22mg/l)で,パイロットプラントの運転条件をシミュレーション検討した。・・・無酸素槽1段の場合,滞留時間が短くなり脱窒が進まず,さらに循環液の持ち込みDOによる脱窒抑制の影響を受けやすいので全窒素除去率は60%に達しない。」と記載されることから、パイロットプラントの運転条件をシミュレーションする場合に、好気槽から無酸素槽への循環液による持ち込みDOの影響を考慮していることがわかる。
してみると、引用1発明において、パイロットプラントの運転条件をシミュレーションする場合に、「生物モデル」及び「輸送モデル」以外に、散気管への送気量に基づいて好気槽のDOを計算するためのモデル、すなわち本願補正発明1の「風量モデル演算手段」に相当するモデルを構築することは、必要に応じてなし得る設計的事項といえる。
したがって、相違点bにかかる本願発明1の「生物モデル演算手段、輸送モデル演算手段および風量モデル演算手段によって」「水質項目をシミュレーション演算により求め」ることは、引用1発明に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

(C)相違点cについて
本願発明1の「除去過程を把握する汚濁物質と当該汚濁物質の除去過程を把握するのに必要な他の汚濁物質を前記下水の流下方向順に表示装置の1画面に同時に表示するようにして」において、「汚濁物質」の意味するところをみてみると、発明の詳細な説明に「下水高度処理において、リン、窒素などの汚濁物質は処理出口に流れながら徐々に減少するのではなく、複雑な増減の挙動を示す。」(段落【0015】)と記載されることから、上記「汚濁物質」とは、リン、窒素などを意味するものといえる。
そして、引用1発明の「沈後水、生物反応槽の第1?8槽、処理水及び返送汚泥の各段階でのBOD、溶解性リン、アンモニア性窒素及び硝酸性窒素のシミュレーション計算値を、横軸に各段階の位置を表したグラフ上にプロット」したことは、本願発明1の「除去過程を把握する汚濁物質と当該汚濁物質の除去過程を把握するのに必要な他の汚濁物質を前記下水の流下方向順に表示装置の1画面に同時に表示するようにした」ことと、「除去過程を把握する汚濁物質と当該汚濁物質の除去過程を把握するのに必要な他の汚濁物質を前記下水の流下方向順に」「同時に表示するようにした」点で共通するものといえる。
以上のことから、相違点cの本質は、本願発明1において、「表示装置の1画面に」表示するようにしたのに対して、引用1発明において、その点が記載されていないことにあるといえる。
そこで、「表示装置の1画面に」表示するようにしたことについて検討すると、引用例2には、記載事項(B-ア)及び(B-イ)によれば、上下水道設備に適用する電気計装システムの基本的考え方として、信頼性、監視・操作性、保全性、拡張性などを重視して、監視制御をつかさどる監視制御システムと管理をつかさどる管理システムの二つからなるシステムを構築し、上記システムの構成図では、管理システムの情報LANに「下水処理水質シミュレータ」が接続されるとともに、監視制御システムの「CRT監視制御装置」も上記「情報LAN」に接続され、プロセスの監視・操作において、適切な判断と確実な操作を行うために、CRT監視制御装置と伝送機能の充実による監視制御の集中化を図り、多種多様な情報の表示・再生とプラント全体監視の一覧性を確保し、監視性の向上を図ることが記載されている。
そして、上記「監視制御システム」について、記載事項(B-ウ)に、監視・操作性の向上として、「機器の運転状態や操作モード,流量・水位などのプロセス量といった関連情報を一画面に集め,情報の一覧性を高めることができる」と記載されるとともに、上記「下水処理水質シミュレータ」について、記載事項(B-エ)及び(B-オ)によれば、窒素・リン除去などを行う高度処理において、運転方法や制御設定値の変更などによりプロセス各段階の窒素、リン、有機物含有量などの水質がどのように変化するかを予測可能な下水処理シミュレータを開発し、図7には、縦軸にアンモニア態窒素濃度、硝酸態窒素濃度及びリン酸態リン濃度のシミュレーション値が示され、横軸に左から反応槽流入、1槽ないし6槽の順でその位置がグラフで示されていることから、下水処理水質シミュレータが接続された監視制御システムにおいて、関連情報を一画面に集めて情報の一覧性を高めることは、従来から上下水道設備に適用する電気計装システムにおいて公知の事項であるといえる。
してみると、引用1発明は、「沈後水、生物反応槽の第1?8槽、処理水及び返送汚泥の各段階でのBOD、溶解性リン、アンモニア性窒素及び硝酸性窒素のシミュレーション計算値を、横軸に各段階の位置を表したそれぞれのグラフ上にプロットして」いるのであるから、上記グラフを表示装置の1画面に同時に表示することを阻害する要因は見当たらない。
したがって、相違点cにかかる本願発明1の「除去過程を把握する汚濁物質と当該汚濁物質の除去過程を把握するのに必要な他の汚濁物質を前記下水の流下方向順に表示装置の1画面に同時に表示するようにした」ことは、引用1発明及び引用例2の記載に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

(D)相違点dについて
本願発明1の「(A)放流水の有機物、窒素、リンの値、又は前記の有機物、窒素、リンの除去率が許容範囲内か否か」の判定を行うについて、発明の詳細な説明には、「ステップS7では、放流水の有機物、窒素、リンの値が許容範囲内かを判定する。放流水質の目標値は処理場によって項目も値も異なるが、・・・程度が目安とされている。ステップS7で許容範囲内と判定するとステップS8に進み、許容範囲外であればステップS4に戻り運転条件を変更して再度ステップS5、S6の処理を繰返し実行する。」(段落【0056】)と記載されている。
つぎに、本願発明1の「(B)前記の嫌気槽、無酸素槽及び好気槽からなる生物反応槽において、前記の好気槽における硝酸性窒素の生成とアンモニア性窒素の減少及び無酸素槽における硝酸性窒素の残量から窒素除去工程が適切か否か」の判定を行うについて、発明の詳細な説明には、「ステップS8において、好気槽における硝酸性窒素の生成とアンモニア性窒素の減少、無酸素槽における硝酸性窒素の残量から窒素除去工程が良好の場合は適切と判断しステップS9に進み、硝化不足あるいは硝化過剰などによって不適と判定した場合は処理が不適と判断しステップS4に戻る。」(段落【0057】)と記載されている。
つぎに、本願発明1の「(C)下水の流下方向のリンと有機物の水質変化からリンの放出と摂取のバランス、及び有機物、溶存酸素のバランスが適切か否か」の判定を行うについて、発明の詳細な説明には、「ステップS9では下水の流下方向のリンと有機物の水質変化からリンの放出と摂取がバランス良く進行している場合は適切と判定し、適切な下水高度処理が決定できたのでシミュレーションを終了する。ステップS9でリン放出が不十分などリン除去工程が不良の場合は、ステップS4に戻る。」(段落【0058】)と記載されているが、「溶存酸素」については、記載されていない。
そこで、「溶存酸素」について、発明の詳細な説明をみてみると、「リン由来の水質汚濁の防止には、嫌気槽でリンを放出する反応と、好気槽でリンを摂取する反応という2つの工程が必要である。・・・また、生物反応槽内の有機物や溶存酸素の流動も十分考慮せねばならない。」(段落【0013】)と記載されることから、リンの放出と摂取には生物反応槽内の溶存酸素濃度が関係することがわかる。
そして、発明の詳細な説明に「図2において、横軸は位置を表し、縦軸は水質を表す。下水の流下方向に向う水質の変動を表現するために横軸は左から右に流入水、反応槽No.1、反応槽No.2、反応槽No.3、反応槽No.4、反応槽No.5、放流水、返送汚泥とし、各位置に於ける溶存酸素(DO)、有機物(T-BOD)、リン(PO4-P)を同時に表示する。」(段落【0044】)と記載されている。
以上のことから、本願発明1の「次の(A)、(B)及び(C)・・・の判定を行う」ことは、シミュレーションの結果得られる下水の流下方向に向う水質の変動を、各位置に於ける溶存酸素、有機物、リン、アンモニア性窒素及び硝酸性窒素の濃度に基づいて、有機物、窒素、リンの除去工程が適切に行われているか否かを判定するとともに、放流水質として有機物、窒素、リンの濃度が目標値とされる範囲内に収まったか否かを判定するものとみることができる。
これに対して、引用1発明のシミュレーション方法において、シミュレーション結果をどのように利用するかについてみてみると、引用例1の記載事項(A-キ)に「4-4 シミュレーション結果」として、「【図7】(a)?(h)にパイロットプラント各反応槽におけるBOD,溶解性リン,硝酸性窒素,およびアンモニア性窒素の実測値とシミュレーション計算値を示す。【図7】の溶解性リン実測値より,嫌気槽における溶解性リンの増加はBODの減少と対応していることから,流入水中の有機物は,脱リン菌のリン放出に伴い菌体に吸着されて蓄積有機物となったと考えられる。次工程の無酸素槽での溶解性リンの減少は,主に循環液による希釈の影響である。好気槽の溶解性リンは流下につれて脱リン菌のリン摂取と微生物増殖により減少傾向にある。・・・したがって先述した生物モデルと輸送モデルに基づいたシミュレーションはA2O法に適用可能と考えられる。」と記載され、さらに、記載事項(A-ケ)によれば、生物モデルを用いたA2O法シミュレーション計算値は、実下水によるパイロットプラント実測値とよい一致を得たことから、このシミュレーション結果によって有機物、リン及び窒素の除去過程を予測でき、適切な反応槽構成や運転条件の決定にも利用できると記載されることから、引用1発明のシミュレーション方法は、シミュレーション結果によって有機物、リン及び窒素の除去過程を予測できるものといえる。
以上のことから、引用1発明のシミュレーション方法において、適切な反応槽構成や運転条件の決定を行う際に、シミュレーション結果を参酌して有機物、リン及び窒素の除去過程が適切であるか否かを判定することは当然に想定されることといえる。
してみると、本願発明1において、上記「次の(A)、(B)及び(C)・・・の判定を行う」ことは、シミュレーション結果を利用する場合、必要に応じてなし得る設計的事項であって、このことによって格別の効果を奏するものともいえない。
したがって、相違点dにかかる本願発明1の「次の(A)、(B)及び(C)・・・の判定を行う」ことは、引用1発明に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

(E)相違点eについて
引用例1の記載事項(A-ケ)に「生物モデルを用いたA2O法シミュレーション計算値は実下水によるパイロットプラント実測値とよい一致を得た。この結果から,今回提案した生物モデルによって有機物,リン,および窒素の除去過程を予測できる見通しを得た。また,適切な反応槽構成や運転条件の決定にも利用できると考えられる。」と記載されている。
そして、上記「適切な反応槽構成」についてみると、記載事項(A-ア)に「シミュレーションの目的」として、「理論的には環境の異なる2つ以上反応槽の組み合わせによって生物学的なリン・窒素除去を実現可能なため,高度処理導入に当たっては,既存施設上の制限,処理地区や放流先の環境など地域の実情を考慮してさまざまの方式が検討されるであろう。流入負荷と処理水質条件を満たす反応槽の組み合わせや容積などの決定にシミュレーション技術は非常に有用である。」と記載されることから、上記「適切な反応槽構成」には、環境の異なる2つ以上の反応槽の組合せ、すなわち、嫌気・好気槽の組合せが含まれるとともに、2つ以上の反応槽の組合せを既存施設で実現するには反応槽を分割する必要が生じることは明らかである。
してみると、引用1発明のシミュレーション方法は、適切な反応槽構成や運転条件の決定にも利用できることが示唆されており、さらに、適切な反応槽構成とするには、生物反応槽の分割や嫌気・好気槽の組合せを最適化することが求められるものといえる。
したがって、相違点eにかかる本願発明1のシミュレーション方法が「生物反応槽の分割、嫌気・好気槽の組合せ、及び運転条件の最適化のために使用される」ことは、引用1発明に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

さらに、本願発明1による効果も、引用例1発明及び引用例2の記載から当業者が予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-28 
結審通知日 2011-07-05 
審決日 2011-11-07 
出願番号 特願2000-10367(P2000-10367)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 紀史  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 斉藤 信人
目代 博茂
発明の名称 活性汚泥水処理装置のシミュレーション方法および装置  
代理人 高田 幸彦  

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