• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1249104
審判番号 不服2008-32501  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-24 
確定日 2011-12-22 
事件の表示 特願2003-67194「低誘電率膜用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月7日出願公開、特開2004-277463〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成15年3月12日の出願であって、平成20年1月31日付けの拒絶理由通知に対して、平成20年4月3日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、同年11月19日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年12月24日に審判請求がされるとともに同日付けで手続補正書が提出され、平成22年12月10日付けの審尋に対して、平成23年1月17日に回答書が提出されたものである。

第2 平成20年12月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成20年12月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正
平成20年12月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の請求項1である
「フッ素非含有シロキサン樹脂と、窒素含有成分とを含有する低誘電率膜用組成物を基材上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜に対し第一の熱処理を行って膜を形成する膜形成工程と、該膜に対し第二の熱処理を行って該膜を多孔質化する多孔質化工程とを含み、
前記第一の熱処理が、酸素を1%以上含む雰囲気中で、100?400℃で行われ、
前記第二の熱処理が、不活性雰囲気中、真空雰囲気中、及び酸素を10ppm以上含む雰囲気中のいずれかで、200?500℃で行われる、
ことを特徴とする低誘電率膜の製造方法。」
を、
「フッ素非含有シロキサン樹脂と、窒素含有成分と、金属非含有非イオン性界面活性剤とを含有する低誘電率膜用組成物を基材上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜に対し第一の熱処理を行って膜を形成する膜形成工程と、該膜に対し第二の熱処理を行って該膜を多孔質化する多孔質化工程とを含み、
前記第一の熱処理が、酸素を1%以上含む雰囲気中で、100?400℃で行われ、
前記第二の熱処理が、不活性雰囲気中、真空雰囲気中、及び酸素を10ppm以上含む雰囲気中のいずれかで、200?500℃で行われる、
ことを特徴とする低誘電率膜の製造方法。」
と補正するものである(審決注:補正箇所に下線を付した。)。

2 補正の適否

(1)補正の目的の適否
本件補正は、補正前の請求項1の発明における「フッ素非含有シロキサン樹脂と、窒素含有成分とを含有する低誘電率膜用組成物」を、「フッ素非含有シロキサン樹脂と、窒素含有成分と、金属非含有非イオン性界面活性剤とを含有する低誘電率膜用組成物」と限定しようとする補正であり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

(2)そこで、上記補正後の請求項1に記載された特許を受けようとする発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて、以下に検討する。

ア 刊行物
刊行物1:特開2003-64305号公報(原審における引用文献1)

イ 刊行物の記載事項
刊行物1には、以下の記載がある。
(1a)「【請求項1】(A)下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物および下記一般式(3)で表される化合物の群から選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を、水と触媒の存在下で加水分解し縮合してなり、平均慣性半径が10?30nmの加水分解縮合物少なくとも1種と(B)下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物および下記一般式(3)で表される化合物の群から選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を、水と触媒の存在下で加水分解、縮合してなり、平均慣性半径が前記(A)における加水分解縮合物の平均慣性半径とは3nm以上異なる加水分解縮合物少なくとも1種とを混合することを特徴とする膜形成用組成物の製造方法。
R_(a)Si(OR^(1))_(4-a) ・・・・・(1)
(式中、Rは水素原子、フッ素原子または1価の有機基、R^(1) は1価の有機基、aは1?2の整数を示す。)
Si(OR^(2))_(4) ・・・・・(2)
(式中、R^(2) は1価の有機基を示す。)
R^(3) _(b)(R^(4)O)_(3-b)Si-(R^(7))_(d)-Si(OR^(5))_(3-c)R^(6)_(c) ・・(3)
〔式中、R^(3)?R^(6) は同一または異なり、それぞれ1価の有機基、bおよびcは同一または異なり、0?2の数を示し、R^(7) は酸素原子、フェニレン基または-(CH_(2))_(n)-で表される基(ここで、nは1?6の整数である)、dは0または1を示す。〕
【請求項2】触媒がアルカリ触媒、酸触媒、金属キレート化合物の群から選ばれる少なくとも1種であり、かつアルカリ触媒で合成した加水分解縮合物を少なくとも1種以上含有することを特徴とする請求項1記載の膜形成用組成物の製造方法。
【請求項3】(A)成分と(B)成分の混合重量比(完全加水分解縮合物換算)が15?85:85?15(ただし、(A)成分+(B)成分=100とする)であることを特徴とする請求項1記載の膜形成用組成物の製造方法。
【請求項4】請求項1記載の方法で製造された膜形成用組成物。
【請求項5】請求項4項記載の膜形成用組成物を基板に塗布し、加熱することを特徴とする膜の形成方法。
【請求項6】請求項5記載の方法によって得られるシリカ系膜。」(特許請求の範囲)
(1b)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、膜形成用組成物に関し、さらに詳しくは、半導体素子などにおける層間絶縁膜材料として、塗膜のクラック耐性が高い、かつ比誘電率の焼成温度依存性が小さいシリカ系膜が形成可能な膜形成用組成物に関する。」
(1c)「【0002】【従来の技術】従来、半導体素子などにおける層間絶縁膜として、CVD法などの真空プロセスで形成されたシリカ(SiO_(2))膜が多用されている。そして、近年、より均一な層間絶縁膜を形成することを目的として、SOG(Spin on Glass)膜と呼ばれるテトラアルコキシランの加水分解生成物を主成分とする塗布型の絶縁膜も使用されるようになっている。また、半導体素子などの高集積化に伴い、有機SOGと呼ばれるポリオルガノシロキサンを主成分とする低比誘電率の層間絶縁膜が開発されている。特に半導体素子などのさらなる高集積化や多層化に伴い、より優れた導体間の電気絶縁性が要求されており、したがって、より低比誘電率で、低温焼成が可能であり、かつクラック耐性に優れる層間絶縁膜材料が求められるようになっている。」
(1d)「【0003】低比誘電率の材料としては、アンモニアの存在下にアルコキシシランを縮合して得られる微粒子とアルコキシシランの塩基性部分加水分解物との混合物からなる組成物(特開平5-263045、同5-315319)や、ポリアルコキシシランの塩基性加水分解物をアンモニアの存在下縮合することにより得られた塗布液(特開平11-340219、同11-340220)が提案されているが、これらの方法で得られる材料は、反応の生成物の性質が安定せず、塗膜のクラック耐性が劣ったり、低温焼成で塗膜の比誘電率が上昇してしまうという問題があった。」
(1e)「【0004】【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題点を解決するための膜形成用組成物に関し、さらに詳しくは、半導体素子などにおける層間絶縁膜として、塗膜のクラック耐性が高い、かつ比誘電率の焼成温度依存性が小さいシリカ系膜を提供することを目的とする。」
(1f)「【0007】(A)成分
(A)成分は、上記化合物(1)?(3)の群から選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を特定塩基性化合物の存在下に、加水分解、縮合して得られる。
化合物(1);上記一般式(1)において、RおよびR^(1) の1価の有機基としては、アルキル基、アリール基・・・などを挙げることができる。・・・
【0008】一般式(1)で表される化合物の具体例としては・・・など;
【0009】メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン・・・など;
【0010】・・・など;を挙げることができる。
【0011】化合物(1)として好ましい化合物は、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン・・・などである。これらは、1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0012】化合物(2);上記一般式(2)において、R^(2) で表される1価の有機基としては、先の一般式(1)と同様な有機基を挙げることができる。一般式(2)で表される化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン・・・などが挙げられる。」
(1g)「【0020】本発明の(A)加水分解縮合物を製造するに際しては、上記化合物(1)?(3)の群から選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を加水分解、縮合させる際に、アルカリ触媒、酸触媒、金属キレート化合物を使用する。
【0021】アルカリ触媒としては、例えば・・・テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、・・・テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、アンモニア・・・などを挙げることができ・・・アルキルアミン、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドが最も好ましい。これらのアルカリ触媒は1種あるいは2種以上を同時に使用しても良い。」
(1h)「【0035】その他の添加剤
本発明で得られる膜形成用組成物には、さらにコロイド状シリカ、コロイド状アルミナ、有機ポリマー、界面活性剤、シランカップリング剤、ラジカル発生剤、トリアゼン化合物などの成分を添加してもよい。コロイド状シリカとは、例えば、高純度の無水ケイ酸を前記親水性有機溶媒に分散した分散液であり、通常、平均粒径が5?30nm、好ましくは10?20nm、固形分濃度が10?40重量%程度のものである。このような、コロイド状シリカとしては、例えば、日産化学工業(株)製、メタノールシリカゾルおよびイソプロパノールシリカゾル;触媒化成工業(株)製、オスカルなどが挙げられる。コロイド状アルミナとしては、日産化学工業(株)製のアルミナゾル520、同100、同200;川研ファインケミカル(株)製のアルミナクリアーゾル、アルミナゾル10、同132などが挙げられる。有機ポリマーとしては、例えば、糖鎖構造を有する化合物、ビニルアミド系重合体、(メタ)アクリル系重合体、芳香族ビニル化合物、デンドリマー、ポリイミド,ポリアミック酸、ポリアリーレン、ポリアミド、ポリキノキサリン、ポリオキサジアゾール、フッ素系重合体、ポリアルキレンオキサイド構造を有する化合物などを挙げることができる。
【0036】ポリアルキレンオキサイド構造を有する化合物としては、ポリメチレンオキサイド構造、ポリエチレンオキサイド構造、ポリプロピレンオキサイド構造、ポリテトラメチレンオキサイド構造、ポリブチレンオキシド構造などが挙げられる。具体的には、ポリオキシメチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエテチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、アルキルフェノールホルマリン縮合物の酸化エチレン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどのエーテル型化合物、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩などのエーテルエステル型化合物、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどのエーテルエステル型化合物などを挙げることができる。ポリオキシチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーとしては下記のようなブロック構造を有する化合物が挙げられる。・・・これらは1種あるいは2種以上を同時に使用しても良い。
【0037】界面活性剤としては、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、さらには、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ポリアルキレンオキシド系界面活性剤、ポリ(メタ)アクリレート系界面活性剤などを挙げることができ、好ましくはフッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤を挙げることができる。」
(1i)「【0043】本発明により得られる膜形成用組成物を、シリコンウエハ、SiO_(2) ウエハ、SiNウエハなどの基材に塗布する際には、スピンコート、浸漬法、ロールコート法、スプレー法などの塗装手段が用いられる。この際の膜厚は、乾燥膜厚として、1回塗りで厚さ0.02?2.5μm程度、2回塗りでは厚さ0.04?5.0μm程度の塗膜を形成することができる。その後、常温で乾燥するか、あるいは80?600℃程度の温度で、通常、5?240分程度加熱して乾燥することにより、ガラス質または巨大高分子の絶縁膜を形成することができる。この際の加熱方法としては、ホットプレート、オーブン、ファーネスなどを使用することが出来、加熱雰囲気としては、大気下、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空下、酸素濃度をコントロールした減圧下などで行うことができる。また、電子線や紫外線を照射することによっても塗膜を形成させることができる。また、上記塗膜の硬化速度を制御するため、必要に応じて、段階的に加熱したり、窒素、空気、酸素、減圧などの雰囲気を選択することができる。このようにして得られる本発明のシリカ系膜は、膜密度が、通常、0.35?1.2g/cm^(3)、好ましくは0.4?1.1g/cm^(3)、さらに好ましくは0.5?1.0g/cm^(3) である。膜密度が0.35g/cm^(3) 未満では、塗膜の機械的強度が低下し、一方、1.2g/cm^(3) を超えると低比誘電率が得られない。また、本発明のシリカ系膜は、BJH法による細孔分布測定において、10nm以上の空孔が認められず、微細配線間の層間絶縁膜材料として好ましい。さらに、本発明のシリカ系膜は、吸水性が低い点に特徴を有し、例えば、塗膜を127℃、2.5atm、100%RHの環境に1時間放置した場合、放置後の塗膜のIRスペクトル観察からは塗膜への水の吸着は認められない。この吸水性は、本発明における膜形成用組成物に用いられる化合物(1)のテトラアルコキシシラン類の量により、調整することができる。さらに、本発明のシリカ系膜の比誘電率は、通常、3.1?1.2、好ましくは3.0?1.5、さらに好ましくは3.0?1.8である。」
(1j)「【0047】塗膜の比誘電率
8インチシリコンウエハ上に、スピンコート法を用いて組成物試料を塗布し、ホットプレート上で90℃で3分間、窒素雰囲気200℃で3分間基板を乾燥した。さらにこの基板を420℃ならびに350℃の窒素雰囲気のホットプレートで30分基板を焼成した。得られた膜に対して、蒸着法によりアルミニウム電極パターンを形成させ比誘電率測定用サンプルを作成した。該サンプルを周波数100kHzの周波数で、横河・ヒューレットパッカード(株)製、HP16451B電極およびHP4284AプレシジョンLCRメータを用いてCV法により当該塗膜の比誘電率を測定した。
【0048】塗膜のクラック耐性
8インチシリコンウエハ上に、スピンコート法を用いて組成物試料を塗布し、ホットプレート上で90℃で3分間、窒素雰囲気200℃で3分間基板を乾燥した。この際の塗膜の膜厚は1.8μmに設定した。さらにこの基板を420℃ならびに350℃の窒素雰囲気のホットプレートで30分基板を焼成した。この基板にナイフで傷を付け、80℃の温水に1時間浸漬した後、表面を35万ルクスの光源で観察し、以下の基準で評価した。
○:傷からのクラックの伝播無し。
×:傷からクラックの伝播認められる。」
(1k)「【0049】合成例1
石英製セパラブルフラスコに、蒸留エタノール570g、イオン交換水160gと10%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液30gを入れ、均一に攪拌した。この溶液にメチルトリメトキシシラン136gとテトラエトキシシラン209gの混合物を添加した。溶液を60℃に保ったまま、5時間反応を行った。この溶液にプロピレングリコールモノプロピルエーテル300gを加え、その後、50℃のエバポレーターを用いて溶液を10%(完全加水分解縮合物換算)となるまで濃縮し、その後、酢酸の10%プロピレングリコールモノプロピルエーテル溶液10gを添加し、反応液(1)(審決注:○に1を(1)で表した。以下、(2)等も同じ。)を得た。このようにして得られた縮合物等の慣性半径は、17.8nmであった。」
(1L)「【0050】合成例2
石英製セパラブルフラスコに、蒸留エタノール570g、イオン交換水160gと10%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液60gを入れ、均一に攪拌した。この溶液にメチルトリメトキシシラン136gとテトラエトキシシラン209gの混合物を添加した。溶液を60℃に保ったまま、5時間反応を行った。この溶液にプロピレングリコールモノプロピルエーテル300gを加え、その後、50℃のエバポレーターを用いて溶液を10%(完全加水分解縮合物換算)となるまで濃縮し、その後、酢酸の10%プロピレングリコールモノプロピルエーテル溶液10gを添加し、反応液(2)を得た。このようにして得られた縮合物等の慣性半径は、11.2nmであった。」
(1m)「【0051】合成例3
石英製セパラブルフラスコに、蒸留エタノール570g、イオン交換水160gと10%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液100gを入れ、均一に攪拌した。この溶液にメチルトリメトキシシラン136gとテトラエトキシシラン209gの混合物を添加した。溶液を60℃に保ったまま、5時間反応を行った。この溶液にプロピレングリコールモノプロピルエーテル300gを加え、その後、50℃のエバポレーターを用いて溶液を10%(完全加水分解縮合物換算)となるまで濃縮し、その後、酢酸の10%プロピレングリコールモノプロピルエーテル溶液10gを添加し、反応液(3)を得た。このようにして得られた縮合物等の慣性半径は、5.7nmであった。」
(1n)「【0055】実施例1
合成例1で得られた反応液(1)20gと反応液(2)20gを混合し、0.2μm孔径のテフロン(登録商標)製フィルターでろ過を行い本発明の膜形成用組成物を得た。得られた組成物をスピンコート法でシリコンウエハ上に塗布した。420℃焼成と350℃焼成の塗膜の比誘電率はそれぞれ2.56と2.60であり、比誘電率の焼成温度依存性の小さいものであった。また、塗膜のクラック耐性を評価したところ、420℃焼成、350℃焼成いずれもクラックの伝播は認められなかった。」
(1o)「【0056】実施例2?7
表1に示す組成で膜形成用組成物を作製し、実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表1に併せて示す。
【0057】
【表1】


(1p)「【0062】【発明の効果】本発明により製造した膜形成用組成物は焼成温度依存性が低く、クラック耐性が高く、比誘電率の小さい層間絶縁膜用材料を提供することが可能である。」

ウ 刊行物に記載された発明
刊行物1の請求項5には、
「請求項4項記載の膜形成用組成物を基板に塗布し、加熱することを特徴とする膜の形成方法」
の発明が記載され、その請求項4には、
「請求項1記載の方法で製造された膜形成用組成物」
の発明が記載され、その請求項1には、
「(A)下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物および下記一般式(3)で表される化合物の群から選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を、水と触媒の存在下で加水分解し縮合してなり、平均慣性半径が10?30nmの加水分解縮合物少なくとも1種と(B)下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物および下記一般式(3)で表される化合物の群から選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を、水と触媒の存在下で加水分解、縮合してなり、平均慣性半径が前記(A)における加水分解縮合物の平均慣性半径とは3nm以上異なる加水分解縮合物少なくとも1種とを混合することを特徴とする膜形成用組成物の製造方法。
R_(a)Si(OR^(1))_(4-a) ・・・・・(1)
(式中、Rは水素原子、フッ素原子または1価の有機基、R^(1) は1価の有機基、aは1?2の整数を示す。)
Si(OR^(2))_(4) ・・・・・(2)
(式中、R^(2) は1価の有機基を示す。)
R^(3) _(b)(R^(4)O)_(3-b)Si-(R^(7))_(d)-Si(OR^(5))_(3-c)R^(6)_(c) ・・(3)
〔式中、R^(3)?R^(6) は同一または異なり、それぞれ1価の有機基、bおよびcは同一または異なり、0?2の数を示し、R^(7) は酸素原子、フェニレン基または-(CH_(2))_(n)-で表される基(ここで、nは1?6の整数である)、dは0または1を示す。〕」
の発明が記載されている(摘示(1a))。
そうすると、刊行物1には、請求項5に係る発明として、
「(A)下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物および下記一般式(3)で表される化合物の群から選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を、水と触媒の存在下で加水分解し縮合してなり、平均慣性半径が10?30nmの加水分解縮合物少なくとも1種と(B)下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物および下記一般式(3)で表される化合物の群から選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を、水と触媒の存在下で加水分解、縮合してなり、平均慣性半径が前記(A)における加水分解縮合物の平均慣性半径とは3nm以上異なる加水分解縮合物少なくとも1種とを混合することにより製造した膜形成用組成物を基板に塗布し、加熱する、
膜の形成方法。
R_(a)Si(OR^(1))_(4-a) ・・・・・(1)
(式中、Rは水素原子、フッ素原子または1価の有機基、R^(1) は1価の有機基、aは1?2の整数を示す。)
Si(OR^(2))_(4) ・・・・・(2)
(式中、R^(2) は1価の有機基を示す。)
R^(3) _(b)(R^(4)O)_(3-b)Si-(R^(7))_(d)-Si(OR^(5))_(3-c)R^(6)_(c) ・・(3)
〔式中、R^(3)?R^(6) は同一または異なり、それぞれ1価の有機基、bおよびcは同一または異なり、0?2の数を示し、R^(7) は酸素原子、フェニレン基または-(CH_(2))_(n)-で表される基(ここで、nは1?6の整数である)、dは0または1を示す。〕」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

エ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「膜」は、摘示(1p)によれば、「比誘電率の小さい層間絶縁膜」であり、摘示(1i)によれば、「本発明のシリカ系膜の比誘電率は、通常、3.1?1.2、好ましくは3.0?1.5、さらに好ましくは3.0?1.8である」ものである。一方、本願補正発明の「低誘電率膜」は、平成20年4月3日付け及び同年12月24日付け手続補正により補正された明細書(以下、「本願補正明細書」という。ただし、発明の詳細な説明は補正されていない。)の段落【0059】に「低誘電率膜の誘電率としては、3.0以下であるのが好ましく」と記載されるものである。そうすると、引用発明の「膜」は、本願補正発明の「低誘電率膜」に相当し、引用発明の「膜形成用組成物」は、本願補正発明の「低誘電率膜用組成物」に相当し、引用発明の「膜の形成方法」は、本願補正発明の「低誘電率膜の製造方法」に相当する。
引用発明の「基板」は、本願補正発明の「基材」に相当する。
引用発明の(A)の「下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物および下記一般式(3)で表される化合物の群から選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を、水と触媒の存在下で加水分解し縮合してなり・・・の加水分解縮合物」及び(B)の「下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物および下記一般式(3)で表される化合物の群から選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を、水と触媒の存在下で加水分解、縮合してなり・・・加水分解縮合物」は、摘示(1f)、(1k)?(1m)によれば、一般式(1)?(3)で表される化合物を化合物(1)?(3)と称し、化合物(1)は「メチルトリメトキシシラン」、「メチルトリエトキシシラン」などであり、化合物(2)は「テトラメトキシシラン」、「テトラエトキシシラン」などである。一方、本願補正発明の「フッ素非含有シロキサン樹脂」は、本願補正明細書の段落【0013】?【0033】に「フッ素非含有シロキサン樹脂としては、シロキサン樹脂中にフッ素原子を含まないものであれば特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、下記構造式(1)で表される2官能シラン化合物、下記構造式(2)で表される3官能シラン化合物、及び下記構造式(3)で表される4官能シラン化合物の少なくともいずれかのシラン化合物を重合して得られるシロキサン樹脂が好ましい」と記載され、構造式(2)及び(3)はそれぞれR^(5)Si(OR^(6))(OR^(7))(OR^(8))及びSi(OR^(9))(OR^(10))(OR^(11))(OR^(12))と表記できるものであって、それぞれ「メチルトリメトキシシラン」、「メチルトリエトキシシラン」などや、「テトラメトキシシラン」、「テトラエトキシシラン」などであると記載されるものである。そうすると、引用発明の上記(A)及び(B)の「加水分解縮合物」は、本願補正発明の「フッ素非含有シロキサン樹脂」に相当する。
引用発明の「触媒」は、摘示(1g)によれば、少なくともアルカリ触媒や酸触媒であり、アルカリ触媒としては「テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド」や「アンモニア」が例示された上で「テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドが最も好ましい」とされるとともに、摘示(1k)?(1m)によれば、具体例である合成例1?3でも、「水酸化テトラメチルアンモニウム」(審決注:テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドであり、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドの一種である。)が用いられているから、引用発明は、最も好ましい態様として「触媒」が「テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド」である態様を含むものである。この「テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド」は、「膜形成用組成物」に残留するものであり、そして、含窒素化合物である。一方、本願補正発明の「窒素含有成分」は、本願補正明細書の段落【0033】?【0042】に「窒素含有成分としては、窒素を含有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、低分子量のものであってもよいし、高分子量のものであってもよいが、例えば、窒素含有化合物、窒素含有オリゴマー、窒素含有ポリマー、などが好適に挙げられる」と記載され、窒素含有化合物は「テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド」などであると記載されるものである。そうすると、引用発明は、その好ましい態様として「触媒」が「テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド」である態様を包含し、これは、本願補正発明の「窒素含有成分」に相当する。
引用発明の「膜の形成方法」における「膜形成用組成物を基板に塗布」する工程は、本願補正発明の「低誘電率膜用組成物を基材上に塗布して塗膜を形成」する工程に相当する。
引用発明の「膜の形成方法」における「加熱」する工程は、摘示(1i)によれば、塗膜を形成した後に、「常温で乾燥するか、あるいは80?600℃程度の温度で、通常、5?240分程度加熱して乾燥することにより、ガラス質または巨大高分子の絶縁膜を形成することができる。この際の加熱方法としては、ホットプレート、オーブン、ファーネスなどを使用することが出来、加熱雰囲気としては、大気下、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空下、酸素濃度をコントロールした減圧下などで行うことができる。また、電子線や紫外線を照射することによっても塗膜を形成させることができる。また、上記塗膜の硬化速度を制御するため、必要に応じて、段階的に加熱したり、窒素、空気、酸素、減圧などの雰囲気を選択することができる」というものである。摘示(1n)の実施例1に「420℃焼成と350℃焼成の塗膜の比誘電率はそれぞれ2.56と2.60であり」と記載されるところの「焼成」が該当するものであり、これは、摘示(1j)によれば、「8インチシリコンウエハ上に、スピンコート法を用いて組成物試料を塗布し、ホットプレート上で90℃で3分間、窒素雰囲気200℃で3分間基板を乾燥した。さらにこの基板を420℃ならびに350℃の窒素雰囲気のホットプレートで30分基板を焼成した」というものであるから、引用発明の「加熱」する工程は、乾燥と焼成の二段階で加熱する態様を、実質的に包含している。また、摘示(1i)によれば、「このようにして得られる本発明のシリカ系膜は、膜密度が、通常、0.35?1.2g/cm^(3) ・・・である。膜密度が0.35g/cm^(3) 未満では、塗膜の機械的強度が低下し、一方、1.2g/cm^(3) を超えると低比誘電率が得られない。また、本発明のシリカ系膜は、BJH法による細孔分布測定において、10nm以上の空孔が認められず」というものであり、上記の膜密度0.35?1.2g/cm^(3) はシリカの密度の2.6g/cm^(3) に比して小さいこと、膜密度が塗膜の機械的強度や非誘電率と相関すること、細孔分布測定に言及されていることからすれば、引用発明における「加熱」する工程の後には、多孔質膜が形成されていると認められる。そうすると、引用発明の「加熱」する工程は、実質的な態様として乾燥と焼成の二段階で加熱する態様を包含し、これは、本願補正発明の「該塗膜に対し第一の熱処理を行って膜を形成する膜形成工程と、該膜に対し第二の熱処理を行って該膜を多孔質化する多孔質化工程」とを含む工程に相当する。
そして、引用発明の上記「加熱」を二段階で加熱する態様における後の段階の工程は、上記のとおり、「大気下、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空下、酸素濃度をコントロールした減圧下などで行うことができ・・・窒素、空気、酸素、減圧などの雰囲気を選択することができる」ものであり、シリカ系の多孔質膜が形成される焼成の工程であり、具体例でも「420℃ならびに350℃の窒素雰囲気のホットプレートで30分基板を焼成した」とされているから、これは、本願補正発明の「前記第二の熱処理が、不活性雰囲気中、真空雰囲気中、及び酸素を10ppm以上含む雰囲気中のいずれかで、200?500℃で行われる」ところの「第二の熱処理」に相当する。
そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「フッ素非含有シロキサン樹脂と、窒素含有成分とを含有する低誘電率膜用組成物を基材上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜に対し第一の熱処理を行って膜を形成する膜形成工程と、該膜に対し第二の熱処理を行って該膜を多孔質化する多孔質化工程とを含み、
前記第二の熱処理が、不活性雰囲気中、真空雰囲気中、及び酸素を10ppm以上含む雰囲気中のいずれかで、200?500℃で行われる、
低誘電率膜の製造方法」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願補正発明では、低誘電率膜用組成物が、「金属非含有非イオン性界面活性剤・・・を含有する」と特定されているのに対し、引用発明においてはそのように特定されていない点
(相違点2)
本願補正発明では、「第一の熱処理が、酸素を1%以上含む雰囲気中で、100?400℃で行われ」と特定されているのに対し、引用発明においてはそのように特定されていない点

オ 検討

(ア)相違点1について
刊行物1には、膜形成用組成物に、その他の添加剤として、「界面活性剤」や「有機ポリマー」などの成分を添加してもよいことが記載されており(摘示(1h))、この界面活性剤として、「ノニオン系界面活性剤」が例示されている(摘示(1h))。ノニオン系界面活性剤は、一般にナトリウム、カリウム等の金属塩は含まれないものである。さらに、上記有機ポリマーとして、「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」、「ポリオキシエテチレンアルキルフェニルエーテル」、「ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー」が例示されており(摘示(1h))、これらは、一般には、ノニオン系界面活性剤の範疇に入るものである。
そして、界面活性剤が液状の組成物において混合・分散状態を改善するために広く用いられていることは、周知の事項であり、ノニオン系界面活性剤は、普通に用いられる、代表的な界面活性剤である。
また、引用発明の膜形成用組成物は、上記エでみたとおり、基板に塗布され、焼成されて、多孔質膜が形成されるものであるが、ノニオン系界面活性剤が配合された場合、膜形成用組成物に良く分散され、焼成時に消失して微細な空孔の体積を増やし、膜の低誘電率化に寄与することは、当業者には明らかである。
そうすると、引用発明の膜形成用組成物に、その分散安定性を良くするとの観点及び低誘電率化の観点から、ノニオン系界面活性剤を添加することは、刊行物1の記載に基づいて、当業者が容易に着想し得る。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本願補正発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(イ)相違点2について
本願補正発明の「酸素を1%以上含む雰囲気中で、100?400℃で」行われるところの「第一の熱処理」について、本願補正明細書には、「酸素を1%以上含む雰囲気中(例えば大気中)で、100?400℃、好ましくは100?250℃で行われる」と記載されている(段落【0053】)。また、実施例1?5において、いずれも「大気中、200℃で溶剤乾燥を行った」例が示されている(段落【0069】、【0071】、【0073】、【0075】、【0077】)。
一方、引用発明の「膜の形成方法」における「加熱」する工程は、上記エで検討したとおり、「大気下、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空下、酸素濃度をコントロールした減圧下などで行うことができ・・・窒素、空気、酸素、減圧などの雰囲気を選択することができる」ものである(摘示(1i))。
そうすると、刊行物1に、引用発明の具体例としては「窒素雰囲気200℃で3分間基板を乾燥」した例(摘示(1j))が記載されているとしても、それ以外の、例えば大気下で同様に乾燥する条件を採用することや、窒素雰囲気であるとしても厳密ではなく多少の空気の混入を許容した雰囲気で同様に乾燥する条件を採用することは、操作の簡便の点から、刊行物1の記載に基づいて、当業者が容易に着想し得る。
したがって、引用発明において、相違点2に係る本願補正発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)効果について
本願補正明細書の段落【0088】には「本発明によると、従来の絶縁膜に比べて低誘電率でかつ誘電率安定性に優れ、機械的強度の高い低誘電率膜及びその効率的な製造方法、該低誘電率膜の製造に好適な低誘電率膜用組成物、並びに、該低誘電率膜を層間絶縁膜等として有する高速で信頼性の高い多層配線構造の半導体装置を提供することができる。」と記載されている。
しかしながら、本願補正発明の製造方法により得られる低誘電率膜の、誘電率、誘電率安定性、機械的強度は、引用発明の形成方法により得られる膜の、誘電率、誘電率安定性、機械的強度に比較して、格別優れているということができない。また、製造方法が、引用発明より効率的であるともいえない。
すなわち、誘電率について、本願補正明細書には「3.0以下であるのが好ましく、2.8以下であるのがより好ましい」(段落【0059】)と記載され、実施例に示されたものは2.15?1.95の範囲である(段落【0062】?【0083】)。一方、引用発明は、摘示(1i)によれば、「本発明のシリカ系膜の比誘電率は、通常、3.1?1.2、好ましくは3.0?1.5、さらに好ましくは3.0?1.8である」というもので、実施例に示されたものは2.56などである。上記オ(ア)で検討したとおり、ノニオン系界面活性剤が配合された場合に膜の低誘電率化が期待できることを考慮すると、本願補正発明が引用発明より実質的に優れるとか、予測しがたい効果を奏するものであるとはいえない。
また、誘電率安定性について、本願補正明細書には、従来技術に関し「誘電率を低減するために空隙率を高くすると、吸湿による誘電率上昇や膜強度の低下が生じ」(段落【0004】)と指摘された上で、例えば実施例1において「誘電率を測定したところ、2.08であった。該低誘電率膜を形成した基板を沸騰した水に1時間浸漬して誘電率を再度測定したところ、2.09であり、浸漬前後での誘電率に変化は観られなかった」(段落【0069】)と評価されているところ、引用発明は、摘示(1i)によれば、「本発明のシリカ系膜は、吸水性が低い点に特徴を有し、例えば、塗膜を127℃、2.5atm、100%RHの環境に1時間放置した場合、放置後の塗膜のIRスペクトル観察からは塗膜への水の吸着は認められない」というものである。本願補正発明が引用発明より実質的に優れるとはいえない。
さらに、機械的強度については、本願補正明細書に記載された実施例1?5と比較例1、2の「密着性(kgf/cm^(2))」が同等であることからみて、格別のものとはいえないし、せいぜい、本願補正明細書の上記段落【0004】の従来技術における「吸湿による・・・膜強度の低下」が生じないことを意味すると認められる。本願補正発明が引用発明より実質的に優れるとはいえない。
製造方法についても、本願補正発明が引用発明とで、その工程はほぼ同じであって、本願補正発明が引用発明より実質的に効率的であるとはいえない。

カ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
したがって、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成20年12月24日付けの手続補正は上記第2に記載されたとおり却下されたので、この出願の発明は、平成20年4月3日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「フッ素非含有シロキサン樹脂と、窒素含有成分とを含有する低誘電率膜用組成物を基材上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜に対し第一の熱処理を行って膜を形成する膜形成工程と、該膜に対し第二の熱処理を行って該膜を多孔質化する多孔質化工程とを含み、
前記第一の熱処理が、酸素を1%以上含む雰囲気中で、100?400℃で行われ、
前記第二の熱処理が、不活性雰囲気中、真空雰囲気中、及び酸素を10ppm以上含む雰囲気中のいずれかで、200?500℃で行われる、
ことを特徴とする低誘電率膜の製造方法。」

第4 原査定の理由
原査定の理由である平成20年1月31日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由は、理由1と理由2からなり、その理由2の概要は、この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に頒布された引用例1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。その引用例1は、特開2003-64305号公報(上記第2の2(2)アの刊行物1と同じ。以下、「刊行物1」という。)である。

第5 当審の判断

1 刊行物、刊行物の記載事項、刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、その記載事項及び刊行物1に記載された発明は、上記第2の2ア、イ及びウに記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は、上記第2の2(2)で検討した本願補正発明から、低誘電率膜用組成物が「金属非含有非イオン性界面活性剤」を含有するという発明特定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2の2(2)に記載したとおり、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-18 
結審通知日 2011-10-25 
審決日 2011-11-08 
出願番号 特願2003-67194(P2003-67194)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 敏康  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 小出 直也
橋本 栄和
発明の名称 低誘電率膜用組成物  
代理人 廣田 浩一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ