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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1249126
審判番号 不服2010-6199  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-23 
確定日 2011-12-22 
事件の表示 特願2003-304711「走査型レーザ顕微鏡」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月 8日出願公開、特開2004-110017〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年(2003年)8月28日(特許法第41条に基づく優先権主張 平成14年8月29日)に出願された特願2003-304711号であって、平成21年12月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成22年3月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、当該請求と同時に手続補正がなされた。
その後、当審において、平成23年6月20日付けで拒絶の理由の通知をしたところ、これに対して同年8月17日付けで手続補正がなされた。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年8月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「可視領域にスペクトルを有する第1のレーザ光を試料上で走査して前記試料を励起して蛍光を発生させる第1の走査光学系と、
前記第1の走査光学系内の光路中に配されて前記第1のレーザ光を透過するとともに前記試料からの蛍光を前記第1のレーザ光の光路から分離する第1ダイクロイックミラーと、
第1ダイクロイックミラーで分離された蛍光を検出する光検出器と、
第1ダイクロイックミラーと光検出器との間に配置され前記第1のレーザ光を遮断し前記蛍光を透過する測光フィルタと、
前記試料に特異現象を発現させるための紫外または赤外領域にスペクトルを有する第2のレーザ光を試料上の特定の部位に導入するための第2の走査光学系と、
第1ダイクロイックミラーと光検出器との間に配置され前記第2のレーザ光の透過を制限する吸収フィルタとを備え、前記第1のレーザ光と第2のレーザ光とが前記試料を同時に照射することを特徴とする走査型レーザ顕微鏡。」

第3 引用例
1 当審において通知した拒絶の理由に引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平9-329750号公報(以下「引用例1」という)には、次の事項が記載されている。(丸囲みの数字は、〔 〕の括弧で囲んで記載した。なお、下線は当審において付したものである。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は光走査型顕微鏡に関する。」

「【0006】波長により照射範囲を変える方法としては、従来次の方法が行われている。
〔1〕照射する波長毎に波長に応じた光路をそれぞれ設定し、スキャナを介さずに任意の範囲を照射する。
〔2〕光路毎にスキャナを用意し、各光路を通ったレーザ光の照射範囲を独立に照射する。
〔3〕照射する波長毎に順番に走査を行って照射範囲を変える。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかし、〔1〕の方法では、試料の厚さが非常に薄いため、開裂光と観察光とを同一焦点にする操作(ピント合わせ)が非常に難しい、〔2〕の方法では、複数のスキャナ等を必要とするシステム構成が複雑なものとなって、コストがかかり、システム自体が大きい、光学アライメントをし難くくなってしまい、〔3〕の方法では、UV光と可視光とを生体細胞の異なる範囲に同時に照射することができないため、蛍光試薬と開裂したケイジドコンパウンド試薬とが結合した時の現象をリアルタイムに観察できないという問題があった。
【0008】この発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その課題は煩雑な操作を必要とせず、簡単な構成で複数の波長の光ビームを所定の範囲に同時に照射させることができる光走査型顕微鏡を提供することである。」

「【0018】図1はこの発明の第1実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡のブロック構成図である。
【0019】レーザ走査型顕微鏡1は、光照射系10と、走査装置(走査手段)20と、スキャナ制御回路30と、切換制御回路40と、蛍光検出器(検出手段)50と、画像処理回路(画像取得手段)60と、高速シャッタ(光ビーム切換手段)70と、全反射ミラー2と、ダイクロイックミラー3,4と、バリアフィルタ5とを備える。
【0020】光照射系10は、試料観察用の励起光(第1光ビーム)L1を発する励起用可視レーザ光源11、開裂光(第2光ビーム)L2を発するUVレーザ光源12とからなる。なお、光照射系10は、マルチラインのレーザ光源を用い、ダイクロイックミラーを用いて光路を分離するようにしてもよい。
【0021】走査装置20はステージ80に載置された試料81上で混合レーザ光L12を2次元的に走査させる水平スキャナ21と垂直スキャナ22とからなる。
【0022】スキャナ制御回路30は、CPU90の画像取得開始指令90aに基づいて水平スキャナ21及び垂直スキャナ22の駆動を制御する。
【0023】蛍光検出器50は、試料81の蛍光を検出し、入力した蛍光を光強度を表す信号50aに変換する。
【0024】画像処理回路60は蛍光検出器50の信号50aとスキャナ制御回路30から出力される走査位置情報30a(水平同期信号HD、垂直同期信号VD、ピクセルクロックPC)とに基づいて試料81の画像化を図る。この画像処理回路60は、A/D変換素子、フレームメモリ、D/A変換素子等の画像化するための回路及びCPUからの操作で画像にラインを重ね書きするためのオーバーレイメモリ回路からなる。
【0025】高速シャッタ70は、光照射系10と走査装置20との間の開裂光L2の光路中(ここではUVレーザ光源12と全反射ミラー2との間)に配置され、開裂光L2が試料81へ向かうのを阻止する第1の状態と開裂光L2が試料81へ向かうのを許す第2の状態とに切り換わる。高速シャッタ70としては、例えばAOD(音響光学変調器)、EOD(電気光学変調器)MOD(磁気光学変調器)がある。
【0026】切換制御回路40は、スキャナ制御回路30から得られる走査位置情報30aに基づいて高速シャッタ70の第1の状態と第2の状態とを切り換える。
【0027】ダイクロイックミラー3は、UVレーザ光源12から射出された開裂光L2を反射し、励起用可視レーザ光源11から射出された励起光L1を透過する。
【0028】バリアフィルタ5は、ダイクロイックミラー4で反射されずにダイクロイックミラー4を透過した励起光L1及びL2をカットする。
【0029】上記構成におけるレーザ光の光路を説明する。なお、試料81としては生体細胞が用いられ、細胞内には予め蛍光試薬が注入されている。また、この細胞内の特定部位にはケージドコンパウンド試薬が特定量だけ注入されている。
【0030】励起用可視レーザ光源11から射出され、ダイクロイックミラー3を透過した励起光L1と、UVレーザ光源12から射出され、高速シャッタ70を通過した後、全反射ミラー2及びダイクロイックミラー3で反射された開裂光L2とは、同一光路に導かれ混合光L12となる。
【0031】混合光L12は、ダイクロイックミラー4で反射され、水平スキャナ21及び垂直スキャナ22へ導かれ、スキャナ制御回路30によって試料81上で2次元走査される。この混合光L12のうち、開裂光L1は試料81内のケージドコンパウンド試薬を開裂させ、励起光L2は試料81中の蛍光試薬を励起して蛍光L3を発生させる。
【0032】この蛍光L3は励起光L2と共に同じ光路を逆行し、垂直スキャナ22及び水平スキャナ21でデスキャニングされ、ダイクロイックミラー4を透過し、励起光L2と分離される。ダイクロイックミラー4を透過した蛍光L3はバリアフィルタ5で完全に蛍光L3のみとされ、蛍光検出器50に入射する。」

「【0050】上記第1実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡によれば、励起光L1は水平スキャナ21及び垂直スキャナ22による走査によって細胞全体に照射されるが、開裂光L2は予め設定された矩形の領域だけに照射させることができる。そして、励起光L1と開裂光L2とは同時に照射されるため、試料81に生じた反応をリアルタイムで観察することができる。」

「【図1】



2 引用例1に記載された発明の認定
上記記載において【0031】【0032】における「励起光L2」及び「開裂光L1」は、それぞれ、「励起光L1」及び「開裂光L2」の誤りであることは明らかである点、及び、【図1】にはバリアフィルタ5がダイクロイックミラー4と蛍光検出器50の間に配置されていることが記載されている点も踏まえれば、上記記載(図面の記載も含む)から、引用例1には、
「励起用可視レーザ光源11から射出された励起光L1と、UVレーザ光源12から射出された開裂光L2とは、同時に照射されて同一光路に導かれ混合光L12となり、
混合光L12は、水平スキャナ21及び垂直スキャナ22へ導かれ、スキャナ制御回路30によって試料81上で2次元走査され、
この混合光L12のうち、開裂光L2は試料81内のケージドコンパウンド試薬を開裂させ、励起光L1は試料81中の蛍光試薬を励起して蛍光L3を発生させ、
この蛍光L3は励起光L1と共に同じ光路を逆行し、垂直スキャナ22及び水平スキャナ21でスキャニングされ、ダイクロイックミラー4を透過し、励起光L1と分離され、ダイクロイックミラー4を透過した蛍光L3はバリアフィルタ5で完全に蛍光L3のみとされ、蛍光検出器50に入射し、
バリアフィルタ5は、ダイクロイックミラー4と蛍光検出器50の間に配置され、ダイクロイックミラー4で反射されずにダイクロイックミラー4を透過した励起光L1及びL2をカットするレーザ走査型顕微鏡。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

3 当審において通知した拒絶の理由に引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-330029号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

「【0018】
【発明の実施の形態】(第1の実施の形態) 図1(a)は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ顕微鏡の概略構成を示す側断面図、図1(b)は、同レーザ顕微鏡に用いられる落射照明装置の概略構成を示す上断面図である。図1(a),図1(b)において同一な部分には同符号を付してある。なお、同レーザ顕微鏡は、落射照明観察を可能とした共焦点型レーザ顕微鏡である。
【0019】以下、第1の実施の形態に係るレーザ顕微鏡の主要部の構成について説明する。レーザ光源1は、通常のレーザ光を発する光源と、IR極短パルスレーザ光(IR極短パルスコヒーレント光)を発する光源とからなる。なお、図1(a)では構成を簡略化するために二つの光源を一つで示している。落射照明装置15はレンズ14を有する照明系151を構成しており、後述するミラーユニットの設置部位であるターレット12の筐体部121を近接している。さらに落射照明装置15は、水銀ランプやキセノンランプからなる励起光源13を設けていると共に、照明系151と直交する方向に蛍光検出器30を設けている。この蛍光検出器30は、図1(b)に示すように、レンズ26、測光フィルタ27、シャッタ28、及び光電変換素子29を有している。なお蛍光検出器30は、図1(a)ではターレット12の手前側に突出するよう、すなわち励起光源13とレンズ14を有する照明系151と直交する方向に配置されるため、便宜上図1(a)では図示を省略している。
【0020】落射照明装置15のターレット12は、結像レンズ7と対物レンズ16の間に配置されている。ターレット12は、筐体部121内に軸122を中心として回転する回転体123を有している。ターレット12には、複数の落射照明観察用のミラーユニット8(図では2個)と少なくとも1個の蛍光観察用のミラーユニット25(図では1個)が収容されており、これらは回転体123の周囲に装着されている。ターレット12の回転体123は、操作者が図示しない駆動機構を操作することにより、自在に回転するように構成されている。この回転操作により、複数のミラーユニット8、25のうちいずれか一つが、結像レンズ7と対物レンズ16の間の光路(一点鎖線で示す)上に選択的に位置される。また、ターレット12の筐体部121の所定個所には、光を通過させるための孔が設けられている。各ミラーユニット8は、励起フィルタ9、ダイクロイックミラー10、及び吸収フィルタ11を有している。またミラーユニット25は、IRカットフィルタ36とダイクロイックミラー37を有している。
【0021】図2は、同レーザ顕微鏡に用いられる蛍光検出器30の概略構成を示す側断面図(図1(a),図1(b)の左方から見た断面図)である。図2において、図1(a),図1(b)と同一な部分には同符号を付してある。図2に示すように、ミラーユニット25は、ダイクロイックミラー37とIRカットフィルタ36を有する。レーザ光源1からのIR極短パルスレーザ光(IR極短パルスコヒーレント光)はダイクロイックミラー37を透過し、対物レンズ16を介して標本18上の断面18aに照射される。標本18の断面18aから発せられる蛍光は、対物レンズ16を介してダイクロイックミラー37に入射し、ここで落射照明装置15の照明系151の方向に対し90°の方向へ反射して、IRカットフィルタ36で励起光成分がカットされて蛍光検出器30に入射される。」

「【0032】(第2の実施の形態)図4は、本発明の第2の実施の形態に係るレーザ顕微鏡に用いられる落射照明装置15’の概略構成を示す上断面図である。図4において図1(b)と同一な部分には、同符号を付してある。
【0033】上記第1の実施の形態では、IR極短パルスレーザ光(IR極短パルスコヒーレント光)により標本18から発する蛍光を1つの蛍光検出器30により取得するようにしたが、本第2の実施の形態では、例えばカルシウムイオン蛍光指示薬であるindo-1のように2波長蛍光の比を取るような蛍光指示薬に対して、2個の蛍光検出器を用意する。
【0034】図4に示すように、落射照明装置15’には、ダイクロイックミラー31を介して2つの蛍光検出器30a、30bが設けられている。IR極短パルスレーザ光(IR極短パルスコヒーレント光)により標本18から発せられる蛍光は、対物レンズ16、ダイクロイックミラー37、IRカットフィルタ36を介してダイクロイックミラー31で分離され、蛍光検出器30a、30b内の各レンズ26a,26bを介して各測光フィルタ27a,27bで蛍光波長が選択されて、開けられたシャッター28a,28bを介して各光電変換素子29a,29bにより取得される。
【0035】このように構成すれば、蛍光検出器30a、30b内の各光電変換素子29a,29bにより取得した蛍光量の比を取ることで、レシオ画像を構築することができる。」

「【図4】



第3 対比・判断
1 本願発明と引用発明を対比する。

引用発明の「励起用可視レーザ光源11から射出された励起光L1」は「試料81中の蛍光試薬を励起して蛍光L3を発生させ」るものであることからして、本願発明の(「試料を励起して蛍光を発生させる」)「可視領域にスペクトルを有する第1のレーザ光」に相当する。
また、本願明細書【0002】の「試料の特定の部位に、例えばケージド試薬の開裂のような特異現象を発現させるための第2の走査光学系B」の記載から、本願発明の「特異現象」は「開裂」のことであるといえるから、引用発明の「UVレーザ光源12から射出された開裂光L2」が、本願発明の「前記試料に特異現象を発現させるための紫外または赤外領域にスペクトルを有する第2のレーザ光」に相当する。
したがって、引用発明の「励起用可視レーザ光源11から射出された励起光L1と、UVレーザ光源12から射出された開裂光L2とは、同時に照射されて同一光路に導かれ混合光L12となり、混合光L12は、水平スキャナ21及び垂直スキャナ22へ導かれ、スキャナ制御回路30によって試料81上で2次元走査され」る構成と、本願発明の「可視領域にスペクトルを有する第1のレーザ光を試料上で走査して前記試料を励起して蛍光を発生させる第1の走査光学系」と「前記試料に特異現象を発現させるための紫外または赤外領域にスペクトルを有する第2のレーザ光を試料上の特定の部位に導入するための第2の走査光学系」とは、「可視領域にスペクトルを有する第1のレーザ光を試料上で走査して前記試料を励起して蛍光を発生させ」るとともに「前記試料に特異現象を発現させるための紫外または赤外領域にスペクトルを有する第2のレーザ光を試料上の特定の部位に導入する」「走査光学系」の点で一致する。

引用発明の「蛍光L3は励起光L1と共に同じ光路を逆行し、垂直スキャナ22及び水平スキャナ21でスキャニングされ、ダイクロイックミラー4を透過し、励起光L1と分離され」る構成と、本願発明の「前記第1の走査光学系内の光路中に配されて前記第1のレーザ光を透過するとともに前記試料からの蛍光を前記第1のレーザ光の光路から分離する第1ダイクロイックミラー」とは、「走査光学系内の光路中に配されて前記第1のレーザ光を透過するとともに前記試料からの蛍光を前記第1のレーザ光の光路から分離する第1ダイクロイックミラー」の点で一致する。

引用発明の「ダイクロイックミラー4を透過した蛍光L3」が「入射」する「蛍光検出器50」が、本願発明の「第1ダイクロイックミラーで分離された蛍光を検出する光検出器」に相当する。

引用発明の「ダイクロイックミラー4と蛍光検出器50の間に配置され」、「ダイクロイックミラー4を透過した蛍光L3」を「完全に蛍光L3のみ」とするとともに、「ダイクロイックミラー4で反射されずにダイクロイックミラー4を透過した励起光L1及びL2をカットする」「バリアフィルタ5」と、本願発明の「第1ダイクロイックミラーと光検出器との間に配置され前記第1のレーザ光を遮断し前記蛍光を透過する測光フィルタ」及び「第1ダイクロイックミラーと光検出器との間に配置され前記第2のレーザ光の透過を制限する吸収フィルタ」とは、「第1ダイクロイックミラーと光検出器との間に配置され」、「前記第1のレーザ光を遮断し前記蛍光を透過する」とともに「前記第2のレーザ光の透過を制限する」「フィルタ」である点で一致する。

引用発明の「励起用可視レーザ光源11から射出された励起光L1と、UVレーザ光源12から射出された開裂光L2とは、同時に照射されて同一光路に導かれ混合光L12となり、混合光L12は、水平スキャナ21及び垂直スキャナ22へ導かれ、スキャナ制御回路30によって試料81上で2次元走査され」ることが、本願発明の「前記第1のレーザ光と第2のレーザ光とが前記試料を同時に照射する」ことに相当する。

引用発明の「レーザ走査型顕微鏡」が、本願発明の「走査型レーザ顕微鏡」に相当する。

2 一致点
すると、本願発明と引用発明は、
「可視領域にスペクトルを有する第1のレーザ光を試料上で走査して前記試料を励起して蛍光を発生させるとともに、前記試料に特異現象を発現させるための紫外または赤外領域にスペクトルを有する第2のレーザ光を試料上の特定の部位に導入する走査光学系と、
走査光学系内の光路中に配されて前記第1のレーザ光を透過するとともに前記試料からの蛍光を前記第1のレーザ光の光路から分離する第1ダイクロイックミラーと、
第1ダイクロイックミラーで分離された蛍光を検出する光検出器と、
第1ダイクロイックミラーと光検出器との間に配置され、前記第1のレーザ光を遮断し前記蛍光を透過するとともに、前記第2のレーザ光の透過を制限するフィルタとを備え、前記第1のレーザ光と第2のレーザ光とが前記試料を同時に照射する走査型レーザ顕微鏡。」の発明である点で一致し、以下の各点で相違する。

3 相違点
(1)相違点1
走査光学系に関して、本願発明が「第1のレーザ光」及び「第2のレーザ光」のそれぞれに対応して「第1の走査光学系」及び「第2の走査光学系」を備えるのに対して、引用発明においては、励起光L1(第1のレーザ光)と開裂光(第1のレーザ光)の混合光L12に対応する走査光学系を備える点。

(2)相違点2
第1のレーザ光を遮断し蛍光を透過するとともに第2のレーザ光の透過を制限するフィルタに関して、本願発明が「第1のレーザ光を遮断し蛍光を透過する測光フィルタ」と「第2のレーザ光の透過を制限する吸収フィルタ」を備えるのに対して、引用発明は「ダイクロイックミラー4を透過した蛍光L3を完全に蛍光L3のみとする(蛍光を透過する)とともに、ダイクロイックミラー4を透過した励起光L1(第1のレーザ光)及び開裂光L2(第2のレーザ光)をカットする」(1つの)バリアフィルタ5を備える点。

4 判断
(1)上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
観察用及び開裂用の2つのレーザ光の光路を途中で一致させて試料に照射する走査型顕微鏡において、2つのレーザ光をそれぞれ走査した後に光路を一致させることは、例えば、特開平10-206742号公報、特開2000-275529号公報にも記載されているように周知の技術である。
本願発明のように2つのレーザ光をそれぞれ走査した後に光路を一致させることが上記で示したように周知技術であることに鑑みれば、引用発明のように2つのレーザ光の光路を一致させた後に走査するか、本願発明のように2つのレーザ光をそれぞれ走査した後に光路を一致させるか(すなわち、上記の周知技術を採用するか)は、当業者が必要に応じて適宜選択し得る単なる設計的事項に過ぎないから、上記相違点1は実質的な相違点ということはできない。

この点に関して、請求人は、平成23年8月23日提出の意見書(以下単に「意見書」という。)において、
「引用例1の課題は「煩雑な操作を必要とせず、簡単な構成で複数の波長の光ビームを所定の範囲に同時に照射させることができる光走査型顕微鏡を提供すること」です(【0008】)。従って、2つのレーザ光をそれぞれ走査した後に光路を一致させることが周知技術であったとしても、そのような構成を選択することは、引用文献1の課題の解決にはなりません。即ち、引用例1は、本願のように2つのレーザ光をそれぞれ走査した後に光路を一致させる方式を採用することを阻害しています。」
と主張する。
しかしながら、引用例1の【0006】には、波長により照射範囲を変える方法としては、従来においては「〔1〕照射する波長毎に波長に応じた光路をそれぞれ設定し、スキャナを介さずに任意の範囲を照射する。」ことも行われていたことが記載されており、引用発明において「照射する波長毎に波長に応じた光路をそれぞれ設定」することが可能であることは明らかである。すなわち、引用発明において、励起光L1(第1のレーザ光)と開裂光(第1のレーザ光)の混合光L12に対応する走査光学系を備えることに換えて、励起光L1(第1のレーザ光)と開裂光(第1のレーザ光)それぞれの走査光学系を備えるとすることが可能であることは明らかであり、その点に阻害要因はない。

イ 相違点2について
相違点2に関して、「第1のレーザ光を遮断し前記蛍光を透過するとともに、第2のレーザ光の透過を制限するフィルタとを備え」ることまでは両者において一致していることであるから(上記「2 一致点」の記載参照)、相違点2は、当該「第1のレーザ光を遮断し前記蛍光を透過するとともに、第2のレーザ光の透過を制限するフィルタ」を、本願発明が、「第1のレーザ光を遮断し蛍光を透過する測光フィルタ」と「第2のレーザ光の透過を制限する吸収フィルタ」の別体のフィルタで備えているのに対して、引用発明は一体のフィルタで備えている点で相違するというものである。
一般に、複数の波長のレーザ光を用いる装置において、異なる波長成分をカットするフィルタを、カットする波長成分に応じて別体で複数設けることは周知の技術である。この点に関して、引用例2の【0034】には「IR極短パルスレーザ光(IR極短パルスコヒーレント光)により標本18から発せられる蛍光は、対物レンズ16、ダイクロイックミラー37、IRカットフィルタ36を介してダイクロイックミラー31で分離され、蛍光検出器30a、30b内の各レンズ26a,26bを介して各測光フィルタ27a,27bで蛍光波長が選択されて、開けられたシャッター28a,28bを介して各光電変換素子29a,29bにより取得される。」と記載されている(【図4】参照)。すなわち、複数の波長のレーザ光を用いる装置において、異なる波長成分をカットするフィルタを、カットする波長成分に応じて別体で複数設けることが周知技術であることは、引用例2において、異なる波長の成分をカットするように「IRカットフィルタ36」と「各測光フィルタ27a,27b」の異なる種類のフィルタを別体で備えるものが記載されいることに裏付けられるものである。
1つのフィルタによって複数の特性(遮断領域)を得る場合と複数の別体のフィルタによって複数の特性を得る場合の、設計のしやすさや開発コストを勘案して、引用発明においても、2つの種類の波長のレーザ光に1つのバリアフィルタによって対応していたことに換えて、上記周知の複数の別体のフィルタによって対応させることを試みることに格別の困難性は認められない。すなわち、引用発明に、上記周知技術を適用し、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易になし得たことである。

この点に関して、請求人は意見書において、
『引用例1に開示された1枚のバリアフィルタ5の構成は、実現することが困難な構成です。このことは、審判請求時の理由(方式補正による)に、次のように記載しています。「そもそも、通常の蛍光観察用干渉フィルタとして要求される特性は、蛍光を励起する励起波長は確実に遮断しつつ、蛍光波長帯域はできるだけ透過率が高く、フラットな特性である。本願発明の装置ではさらに、UV又はIRの波長域であるパワーの強い刺激光も遮断する特性を持たせる必要がある。しかし、上記の蛍光顕微鏡用干渉フィルタの特性を確保するだけでも干渉膜の層数が多く必要である上に、UVまたはIR領域まで遮断波長領域を広げることは、さらに膜の層数が増えることになり、本願発明で必要とされるような特性を得るのが困難となることが予想される。その証左に上述のような特性の単一の干渉フィルタは現実には存在していない。」引用例1には、バリアフィルタ5については、このような技術的な実現の可能性についての言及はありません。従って引用例1には、あくまで1枚のフィルタとして構成されていることが開示されているものであり、本願の構成にある2枚のフィルタで実現するとの技術思想は排除されていると思料します。』
と主張する。
しかしながら、「引用例1に開示された1枚のバリアフィルタ5の構成は、実現することが困難」であるならならば、当業者がそれを実現し易くするための試みを行うことは当然である。そして、異なる波長成分をカットするフィルタを、カットする波長成分に応じて別体で複数設けることが、引用例2においても裏付けられるように周知の技術であるといえるから、当業者であれば、実現することが困難であった1枚のバリアフィルタの構成に対して、上記周知技術を踏まえて、実現し易くするためにカットする周波数に応じて複数に分割し、それぞれ別体で構成することは当然に試みることである。
すなわち、引用例1に開示された1枚のバリアフィルタ5の構成が実現困難であるか否かは不明である(請求人は、そのことを裏付ける文献等を何等示していない)が、仮に、それが実現困難であったとしても、そのことは、上記「相違点2について」の判断を覆す根拠とはならない。
また、引用例1には、上記のように「カットする周波数に応じて複数に分割し、それぞれ別体で構成する」ことを排除する記載はなく、上記請求人の「引用例1には、・・・本願の構成にある2枚のフィルタで実現するとの技術思想は排除されている」とする主張はその根拠が不明であり、採用することはできない。

(2)本願発明の奏する作用効果
そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

本願発明が奏する作用効果について、請求人は、意見書において、
「本願発明は、明細書【0047】に記載されているように、吸収フィルタ31と測光フィルタとを用いて構成することで、試料29からの反射光に含まれるレーザ光を確実に除去することができ、鮮明な画像を得ることができます。また、第1のレーザ光と第2のレーザ光の同時照射も可能となります。更に、試料が多重染色されている場合であっても、容易に装置を構成することができます。そして、明細書【0008】に記載したように走査光学系と検出光学系との複雑な制御が不要になり、装置を安価に構成することができます。これらの効果は、第2のレーザ光をカットする吸収フィルタ31と、蛍光を透過して第1のレーザ光をカットする蛍光測光フィルタとの2枚のフィルタを用いて構成することで実現できた効果です。引用例1に示すような実現の困難な測光フィルタと吸収フィルタ31との機能を備えた1枚のフィルタの構成では達成することができない効果です。従って、これらの効果は、決して当業者が予測し得る程度の内容ではありません。」
と主張する。
しかしながら、明細書【0047】に記載の、上記の「吸収フィルタ31と測光フィルタとを用いて構成する」ことによって奏する効果は、引用例1の発明が奏する効果に過ぎず、「第1のレーザ光と第2のレーザ光の同時照射」が可能であるという効果も、引用例1の発明が奏する効果に過ぎない。また、明細書【0008】に記載された「第1のレーザ光と第2のレーザ光の同時照射」によって「複雑な制御が不要」となるという作用効果についても、引用例1の発明が奏する効果に過ぎない。
また、2枚のフィルタを用いたことによる「容易に装置を構成することができる」「装置を安価に構成することができる」等は、「異なる波長成分をカットするフィルタを、カットする波長成分に応じて別体で複数設ける」という引用例2によっても裏付けられる周知技術が奏する作用効果にすぎない。
すなわち、上記の請求人が主張する本願発明の作用効果は、いずれも、引用例1及び周知技術から当業者が予測し得る作用効果に過ぎず、当業者の予測を超える格別の作用効果ということはできない。

(3)したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-20 
結審通知日 2011-10-25 
審決日 2011-11-09 
出願番号 特願2003-304711(P2003-304711)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 樋口 信宏
森林 克郎
発明の名称 走査型レーザ顕微鏡  
代理人 堀内 美保子  
代理人 岡田 貴志  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 砂川 克  
代理人 河野 哲  
代理人 中村 誠  
代理人 白根 俊郎  
代理人 福原 淑弘  
代理人 野河 信久  
代理人 勝村 紘  
代理人 村松 貞男  
代理人 峰 隆司  
代理人 佐藤 立志  
代理人 竹内 将訓  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 河野 直樹  
代理人 市原 卓三  
代理人 山下 元  

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