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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1249186
審判番号 不服2008-30360  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-28 
確定日 2011-12-21 
事件の表示 平成 9年特許願第519238号「哺乳類の合成α?N?アセチルグルコサミニダーゼおよびそれをエンコードする遺伝子配列」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 5月29日国際公開、WO97/19177、平成12年 2月 2日国内公表、特表2000-500972〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明

本願は,平成8年11月22日(パリ条約による優先権主張1995年11月23日,オーストラリア)を国際出願日とする特許出願であって,平成20年8月25日付で拒絶査定がなされ,同年11月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,その後, 当審において平成23年3月2日付で拒絶理由が通知され,これに対し,同年6月15日に意見書及び手続補正書が提出されたもので,本願の請求項1?21のうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は,平成23年6月15日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「【請求項1】配列番号(SEQ ID NO):2, 4, 5, または6に記載されたアミノ酸配列の少なくとも1つを備えたヒトのα-N-アセチルグルコサミニダーゼをエンコードする, あるいは, エンコードする配列に相補的なヌクレオチドの配列を含む単離核酸分子。」

第2 当審の判断

1.引用例
(1)引用例4について
本件の優先権主張日(1995年11月23日)前に発行され, 当審において通知した上記平成23年3月2日付の拒絶理由通知書で引用された刊行物であるAm. J. Hum. Genet., 1995.Oct., Vol.57, No.4, Suppl., p.A185, 1059(以下,「引用例4」という。)には,以下の事項が記載されている。

ア.「α-N-アセチルグルコサミニダーゼをコードする遺伝子とサンフィリッポB型症候群の基礎にある変異」(標題)

イ.「リソソーム酵素α-N-アセチルグルコサミニダーゼの欠損は,重度の神経変性を伴うムコ多糖蓄積症であるサンフィリッポB型症候群(MPS IIIB)の基礎となる。我々は,ウシ睾丸から精製した酵素のトリプシン消化ペプチドから,この酵素をコードするヒト遺伝子及びcDNAをクローン化した。我々がNAGLUと名付けたその遺伝子は,長さ約9kbであり,4つのイントロンを含む。その3’末端はEDH17Bの上流隣接領域(染色体17q21,GenBank M84472 nt1-6511)にある。ノーザン解析により,約3kbのmRNAが示された。種差を斟酌すると,そのcDNAには,12のウシペプチドのうちの11が含まれている。(イントロンであろう約93のヌクレオチドについて,いくつかの不確定性が残されるものの,)それは743アミノ酸のタンパク質をコードしている。精製された酵素のN末端は,23アミノ酸のシグナルペプチドに続いて始まる。6つの潜在的なN-グルコシル化部位がある。
我々は,ゲノムDNAのPCR増幅断片のSSCP分析を用い,サンフィリッポB型患者の細胞における変異を特徴付けている。異常な電気泳動移動度を示す断片に配列分析を行い,制限酵素を用いた消化によって変異を確認する。アラブ系の2名の患者のDNAにホモ接合型のG>A転移(R674H)が発見された。;同じ民族由来の94の染色体及び他民族由来の106の染色体にはこの転移が認められなかったことから,それは多型というよりもむしろ疾病に関連していることが示唆される。2つのサンフィリッポB型細胞株が,中途終止対立遺伝子を有していることが見出された。:Human Genetic Mutant Cell Repositoryより得たGM156は,R626Xに対してホモ接合であり,GM2552はR297Xにヘテロ接合である。他の細胞株において,いくつかのミスセンス変異が見つかっているが,病原性を示してはいない。」(本文)

上記記載事項ア及びイによれば,引用例4には,サンフィリッポB型症候群の基礎となるヒトα-N-アセチルグルコサミニダーゼ(以下,「NAGLU」という。)の遺伝子(ゲノムDNA)及びcDNAをクローン化したこと,NAGLU遺伝子の3’末端の配列情報として,「GenBank M84472 nt1-6511」が記載され,cDNAは23アミノ酸残基のシグナルペプチドを含む743アミノ酸残基のタンパク質をコードしていたこと,及びサンフィリッポB型症候群患者由来細胞では,NAGLU遺伝子にSSCP分析で検出される変異が存在したことが記載されている。

2.本願発明と引用例4との対比

本願発明について, 本願発明1は, その選択肢として, 「単離核酸分子」が「配列番号(SEQ ID NO):2」に記載されたアミノ酸配列を備えたヒトのα-N-アセチルグルコミニダーゼをエンコードする場合を包含するものであり, 以下, この選択肢(以下, 「本願発明1’」という。)と引用例4に記載された事項を比較する。

本願発明1’のα-N-アセチルグルコミニダーゼは,本願明細書を参照すると,サンフィリッポB型症候群の発病要因となる酵素であり(背景技術,実施例10),23アミノ酸残基のシグナルペプチドを含む743アミノ酸残基からなるタンパク質である(実施例4,配列表 配列番号2)。
他方,引用例4に記載されたヒトのNAGLUも,サンフィリッポB型症候群の発病要因となる酵素であり,23のシグナルペプチドを含む743アミノ酸残基からなるタンパク質である。
そして,引用例4においてクローン化されたヒトNAGLU遺伝子及びcDNAは,その塩基配列及びコードするアミノ酸配列が決定されていることから,単離された核酸分子であることは明らかである。
よって,本願発明1’と引用例4に記載された事項とは,「ヒトのα-N-アセチルグルコサミニダーゼをエンコードする単離核酸分子」である点で一致し,以下の点で相違する。
相違点:本願発明1’は,配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を備えたNAGLUをエンコードするのに対し,引用例4に記載された事項では,配列番号:2に記載されたアミノ酸配列が記載されておらず,配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を備えたNAGLUをエンコードするか否か不明である点。

3.判断

上記相違点について検討する。
引用例4には,NAGLUの具体的なアミノ酸配列については,サンフィリッポB型症候群患者に見られる「R674H」,「R626X」「R297X」の変異の記載があり,これらの記載は,674番目,626番目及び297番目のアミノ酸が,通常はR(Arg)であるのに対し,変異体ではH(His)やX(その他)となっていたことを意味するから,引用例4に記載されたNAGLUの674番目,626番目及び297番目のアミノ酸がArgであって,本願発明1’における配列番号:2に記載されるアミノ酸配列と一致している。
引用例4には,上記のもの以外のアミノ酸配列は記載されていないが,NAGLU遺伝子の塩基配列については,全長の約9kbの塩基配列のうち,3’末端側の6511塩基が,GenBankのアクセッション番号「M84472」に登録された塩基配列の「1-6511」のヌクレオチドであることが記載されている。
ここで,本願優先日前の1995年8月10日に登録されたM84472の登録情報を参照すると(URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/806392?sat=OLDID=1656605), 本願優先日前に,当業者であれば,GenBankに登録される上記情報にアクセスして,NAGLU遺伝子の3’末端における6511塩基の塩基配列情報を取得できることは明らかであり, NAGLU遺伝子が3’末端において隣接しているEDH17Bはヒト第17染色体上に存在することも記載されている。
また, 本願優先日当時,遺伝子の一部の塩基配列情報を用いて,それをコードするゲノムDNAをクローニングし,遺伝子の全長の塩基配列を決定することは,周知技術であった。
してみると,引用例4に記載されるNAGLU遺伝子について,引用例4に記載された「GenBank M84472 nt1-6511」から取得できる3’末端側の6511塩基の塩基配列情報をもとにプローブを作成し,ヒト第17染色体由来のゲノムライブラリーから隣接する5’末端側を含むクローンを選択してNAGLU遺伝子の全長約9kbの残りの約3kbの塩基配列を決定し,NAGLU遺伝子がコードする743残基のアミノ酸配列を明らかにすることは当業者が容易になし得たものである。
そして,上記M84472の配列情報を参照すると,その1-7700のヌクレオチドが,本願明細書に記載される配列番号3の塩基配列の2675-10380のヌクレオチドとほぼ一致していること,及びNAGLUが23アミノ酸のシグナルペプチドを含む743アミノ酸残基からなるペプチドであるという引用例4の記載が,本願発明1’の遺伝子のコードするペプチドと一致すること, 引用例4で明らかにされている674番目,626番目及び297番目のアミノ酸が一致していることから,引用例4に記載された遺伝子は本願発明1’と同一の遺伝子である蓋然性が高い。
よって,引用例4の記載を基に,本願発明1’の遺伝子を取得し, アミノ酸配列を決定することは,当業者が容易になし得たものである。

4.請求人の主張

請求人は, 平成23年6月15日付意見書において, 以下のように主張している。

(1)「引例4(合議体注:引用例4に相当)にはα-N-アセチルグルコサミニダーゼをコードするヒト遺伝子(NAGLU)及びcDNAを得たことは記載されているが, それらを得るための過程については一切記載されていない。」

(2)「本件の引例6(合議体注:平成23年3月2日付の拒絶理由通知書の文献6であるProc.Natl.Acad.Sci.,USA, June 1996, Vol.93, p.6101-6105)は, 要約された引例4に対応するノーカットの論文であることが分かった(引例6の第6101頁右欄8?9行参照)。・・・したがって, まず, 引例6に記載されたクローン化方法について検討する。・・・そこで, 引例6では, ヒト睾丸cDNAライブラリを選別するため, ヒトRT-PCR産物の配列から合成された41塩基長が使用されている。そして実際に約3×10^(6)のファージが選別され, 6つの陽性クローンを得たとしているが, いずれも5’末端を失っていることが分かったと記載されている(第6102頁右上欄参照)。すなわち, 引例6では, 前記した増幅産物とのハイブリッド形成と同様, 逆転写のためのプライマーとして使用されるオリゴヌクレオチドも, NAGLU蛋白質のアミノ酸配列に基づいている。引例4において, (NAGLUの674番目, 626番目, 297番目のアミノ酸が一般にArgであり, B型サンフィリッポ症候群の患者においてHis又はその他に変異するという事実以外)いかなるNAGLUアミノ酸配列も記載(合議体注:「されて」が脱落しているものと認められる。)いないことを考慮すると, 本願の優先日である1995年11月23日以後においても, 引例4を掌握する当業者は, 5’末端を含むNAGLU遺伝子配列の全長を得るために, cDNA又はゲノムライブラリを選別することはできなかったと考えられる。」

(3)「ここで最も重要なことは, M84472に欠けている部分が, NAGLU遺伝子の最も5’側の領域を包含しているということである。前述した引例6記載の技術からも明らかなように, 内部配列に基づいてNAGLU遺伝子全長をクローン化しようとしても, 5’末端を含むものを得ることはできない。つまり, 例え当業者が, M84472のNAGLU重複部分に基づいてオリゴヌクレオチドを設計及び合成し, さらにそれを使用することができたとしても, NAGLU遺伝子の不確定な5’末端を含むクローンをハイブリッド形成により選別することはできなかったと考えられる。」

(4)「引例6では, 前記遺伝子の最上流の塩基配列を他者から提供されたコスミドから得, 他の重複断片やM84472と組み合わせて配列を推定したのみで, 結局のところ5’末端を含む全長クローンは作成されていない。しかも, 引例4には, これらの(引例6の方法で配列を推定するのに)決定的な情報さえも開示されていないのであるから, 参考文献のような周知技術を有していたかどうかに係わらず, 引例4に記載されている内容のみから何らの試行錯誤も経ずに, 引例6記載の技術を想到するどころか, 後述する本発明に係る「単離核酸分子」を得ることが可能であったとは到底考えられない。・・・前述のとおり, 後に発行された引例6からも明らかなように, 引例4の著者は「NAGLU遺伝子の5’開始コドンを含む遺伝子のクローン化に成功していなかった」のである。正しくは, 彼らは一つの(5’開始コドンを含む)部分的なゲノムNAGLU配列と, 2つの部分的なcDNAとの重複する断片をクローン化することに成功したのであり, 1996年6月の引例6の発行日時点では, 決してNAGLUクローンの全長を構築していない。」

(5)「コスミドベクターを利用する遺伝子ライブラリの選別の手順は, 確かに公知であったかもしれない。しかし, NAGLUの5’末端領域を選別及び単離するのに必要とされるプローブは, 決してそうではない。前記プローブは, 本願の実施例3の精製されたα-N-アセチルグルコサミニダーゼポリペプチドから得られた部分的なアミノ酸配列に基づいて設計されたものである。前述したとおり, 引例4も, 参考文献(Analytical Biochemistry, 1995, June, Vol., 228, p. 1-17)も, GenBank受入番号M84472も, NAGLUの5’末端部分を単離するためのプローブを設計するために必要な情報は一切もたらしていない。すなわち, プローブを作成したり, そのプローブを使って選別(スクリーニング)を行う技術自体は, 本願出願時に知られていたとしても, NAGLUの5’末端領域を特定するためのプローブをどのように設計するかは, 周知技術等から得られる範囲ではない。したがって, 例えば, M84472の配列を含む引例4に記載の情報と, 当時の周知技術のみからNAGLUのクローン化を行おうとすれば, 実際に引例6において行われているように, 5’末端の特定において必ず行き詰ることになり, 本願におけるような試行錯誤なくしては全長クローンを得るには至らないのである。なお, NAGLUの5’末端部分を単離するためのプローブを設計するため, 本発明者らが行った複雑な手順については, 平成22年4月19日付提出の審尋回答書の第10?12頁に記載された<工程1>?<工程6>を参照されたい。」

上記請求人の主張を検討する。

請求人は(1)乃至(3)及び(5)において, NAGLUの5’側領域をクローニングすることが困難であったことを主張しているが, その困難性の主張はcDNAにおける5’側領域の取得困難性についての主張であり, 平成22年4月19日付提出の審尋回答書の第10?12頁に記載された<工程1>?<工程6>を見てもcDNAライブラリーから5’末端を含むクローンの取得が困難であったことしか読み取れず, ゲノムライブラリーにおける取得困難性が具体的に主張されているわけでもないから, これらの主張は, ゲノムDNAのクローニングの困難性を否定するものではない。
そして, 引用例4にはNAGLU遺伝子の配列そのものは記載されていないが,第2の1.(1)イの欄に記載したように, 本願優先日前にその情報にアクセスすることが可能であったGenBankに登録された塩基配列のアクセッション番号M84472から, 3’側の塩基配列情報は取得できたものであるから, 例え, 引用例4に全長遺伝子の具体的な取得方法やクローニングに用いるプローブやプライマーの配列の記載がなくても, 第2の3.に述べたように,GenBankに登録された3’側の塩基配列情報をもとにプローブを作成し, 引用例4に記載されたNAGLU遺伝子(ゲノムDNA)をクローニングすることは当業者が容易に想到し得たものであり, 配列が不明な5’側を含むゲノムDNAをクローニングするために, より5’側に近い部分をもとにプローブを作成するなどの通常の工夫を行えば隣接する部分をクローニングし, NAGLUのコード領域の配列を明らかにすることが格別困難であったものでもない。
さらに, 本願においても, <工程5>, <工程6>をみると, 5’末端を含むクローンは第17染色体ライブラリーから選出されており, その点において上記第2の3.において述べた方法と変わりはなく, 格別の工夫が必要であったとはいえない。

(4)について, 請求人は, 引例4の著者は引例6の時点においてすら全長を含むクローンを取得していなかったことをもって, 単離核酸分子を得ることが容易であったとは到底考えられないと主張している。
しかし, 引例6には, NAGLUの全アミノ酸配列が, cDNA及びゲノムクローンの配列に基づいて決定されている(第6103頁左欄下から第16?13行, FIG.2)。すなわち, 少なくともコード領域全体を含む核酸分子が製造可能なものとして記載されていることは明らかである。このことから, 引例6においても, NAGLU遺伝子の塩基配列に基づいてゲノムDNAをクローニングし, 遺伝子の全長の塩基配列を決定しているのであり, 引例6の記載を根拠に本願発明1’が困難性を有するということはできない。

なお, 「単離核酸分子」がNAGLUの全長を含むゲノムDNAクローンを意味するとした場合, 全長を含むクローンを取得することが容易であるかについて検討してみても, 例えば, 本願優先日前に頒布された刊行物であるCancer Research,1994,Vol.54,p.6374-6382のFig.3には, 第17染色体上に存在するα-N-アセチルグルコサミニダーゼを含むYACクローン303G8が記載されており, 該クローンを用いて, 上記公知の配列をもとに全長遺伝子を取得することが困難であるとはいえない。

以上であるから,請求人の主張はいずれも採用することはできない。

5.小括

したがって, 本願発明1’は, 当業者が引用例4の記載, ならびに周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第3 むすび

以上のとおりであるから, 本願発明1’をその選択肢として含む本願請求項1に係る発明は, 特許法第29条第2項の規定により, 特許を受けることができないものであり, 他の請求項に係る発明について検討するまでもなく, 本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-22 
結審通知日 2011-07-26 
審決日 2011-08-09 
出願番号 特願平9-519238
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 名和 大輔光本 美奈子三原 健治  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 平田 和男
六笠 紀子
発明の名称 哺乳類の合成α?N?アセチルグルコサミニダーゼおよびそれをエンコードする遺伝子配列  
代理人 岩橋 祐司  

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