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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1249308
審判番号 不服2010-1002  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-18 
確定日 2011-12-22 
事件の表示 平成10年特許願第532939号「水分散性/再分散性の疎水性ポリエステル樹脂およびコーティングにおけるそれらの応用」拒絶査定不服審判事件〔平成10年8月6日国際公開、WO98/33646、平成13年7月31日国内公表、特表2001-510498〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成10年(1998年)1月27日(優先権主張 平成9年(1997年)1月31日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成17年1月25日付けで手続補正書が提出され、平成19年4月6日付けで拒絶理由通知がなされ、同年10月15日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成20年2月14日付けで拒絶理由通知がなされ、同年8月26日付けで意見書が提出されたが、平成21年9月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年1月18日に拒絶査定に対する審判請求書及び手続補正書が提出され、同年3月10日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年8月31日付けで前置報告がなされ、当審において同年11月9日付けで審尋がなされ、平成23年5月10日に回答書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、平成22年1月18日に提出された手続補正書によって補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「式:
I_(n)-P-A_(m)
を有する水分散性かつ疎水性のポリエステル樹脂であって、
式中、Iはポリ酸単量体により樹脂中に導入されるカルボン酸基から導かれるイオン性分子であり;n=1?3はイオン性分子の数であり;Pはポリ酸及び多価アルコールを使用して製造される直鎖もしくは分子鎖状のポリエステル幹であり;Aは直鎖もしくは分子鎖状の、6?24個の炭素鎖の樹脂酸もしくはそのトリグリセリドからなる脂肪酸の脂肪酸基(fatty aliphatic group)であり;m=3?8は脂肪酸の脂肪酸基の数であり、また、式中、Iはイオン化し得る少なくとも2つのカルボキシル基を含有する化合物の1%から20重量%までの量で存在し;ポリエステル幹は30%から80重量%までの量で存在し、かつ、脂肪酸の脂肪酸基は10%ないし60重量%の量で存在し;前記ポリエステル樹脂は、一滴の水が前記樹脂で被覆されているセルロース性支持体の表面に適用される場合に少くとも98の最初の接触角により示されるような高い撥水性を表わす樹脂。」

第3.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた、平成20年2月14日付け拒絶理由の概要は次のとおりである。
「1.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」
そして、拒絶査定には、概略、以下のとおり記載されている。
「この出願については、平成20年 2月14日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2、3によって、拒絶をすべきものです。
・・・。
備考
理由1、2について、出願人は平成20年8月26日付け意見書において「発明の詳細な説明の実施例に記載された生成物が、請求項に係る発明に従うものであります。本願明細書の第14頁第5行?同第15頁第2行目には、疎水性のポリエステル樹脂を製造するための2つの経路が記載されております。……nやmの数および組成物中の種々のフラクションの重量は、本発明の組成物を用いるときのこれらの周知の方法を用いることによって、発明の詳細な説明の記載および技術常識に基づいて、容易に実施することができるものであります。」と述べると共に、実施例1及び樹脂2141が本発明に属するものである旨を主張する。
しかし、発明の詳細な説明には実施例1及び樹脂2141の原料についての記載はあるもののその原料からの反応生成物である樹脂が「式 I_(n)-P-A_(m) を有する水分散性かつ疎水性のポリエステル樹脂であって・・・n=1?3はイオン性基の数であり・・・m=3?8は脂肪酸の脂肪酸基の数であり・・・式中、Iは1%から20重量%までの量で存在し、ポリエステル幹は30%から80重量%までの量で存在し、かつ、脂肪酸の脂肪酸基は10%ないし60重量%の量で存在し・・・樹脂。」の下線部の規定を満足するものであることは示されていない。そして一般に化学反応においては原料がすべて反応する(未反応物が残存しない)ことはあり得ないことが技術常識であるので、実施例1及び樹脂2141が本発明の上記下線部の規定を満足するものであるとは確認できない。
さらに、本願発明の詳細な説明には、上記n、mの規定を満足させるために、当該請求項に係る発明樹脂の製造方法において如何なる操作・工程が必要であるのか記載されておらず、また、出願時の技術常識に基づいても、その規定を満足する樹脂を製造する手段を見出すためには当業者に通常期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要すると認められる。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?7に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとは認められず、また、本願請求項1?7に係る発明は、本願発明の詳細な説明に記載されたものであるとも認められない。
理由3について、出願人は平成20年8月26日付け意見書において「(a)請求項1の記載は、文字通りの意味内容を有するものであり当業者が容易に理解できるものと信じます。……。」と述べる。
しかし、請求項1に記載される「Iはポリ酸単量体により樹脂中に導入されるカルボン酸基から導かれるイオン性基」という規定では化学構造が明確ではない。しかも、「Iは・・・カルボン酸基から導かれるイオン性基であり、n=1?3はイオン性基の数であり・・・Iは1%から20重量%までの量で存在し・・・樹脂。」との規定についても、請求項1に記載された式においてPがポリエステル幹でありAが6?24個の炭素鎖の樹脂酸もしくはそのトリグリセリドからなる脂肪酸の脂肪酸基であるとされているにもかかわらず、分子中に1?3個存在するイオン性基が樹脂全体に対して「1%から20重量%までの量で存在」するということは、「イオン性基」が通常の「基」の概念には当てはまらない大きさを有することになるので、その点でも「イオン性基」が不明確である。
(以下、略)」

第4.原査定の拒絶の理由の妥当性についての検討
1.本願明細書の記載事項
ア.「

PET、ペンタエリトリトール、ネオペンチルグリコールおよびTPTを反応器中に添加し、そして窒素ブランケット下で200?270℃に加熱する。エステル交換反応は30ないし180分かかり、そして澄明な球の存在によりモニターされる。その後、ステアリン酸およびスズ酸モノブチルを添加し、そして酸値が10未満になるまで反応させる。その後、無水トリメリツト酸を添加し、そして30分間摂氏160?180度で反応させる。反応全体は5ないし12時間持続する。得られる樹脂を希アンモニウム溶液中に分散する。使用される水酸化アンモニウムの量は最終的な分散された樹脂のpHに依存する。この方法を使用して、樹脂の白色の分散体もしくは乳濁液を得る。」(第17頁12行?第18頁8行(本件公表公報第21頁3行?下から6行))

イ.「実施例10
接触角の比較
(中略)
手順
(中略)
結果
以下のチャートは被覆されない紙および多様なコーティング処方を使用しての結果を反映する。

上の表において、本発明の樹脂組成物を以下のように定義する。すなわち
樹脂2161:この樹脂は、38.57重量%のPET、43.17重量%の脂肪酸(6.50重量%のステアリン酸;10.22重量%のオレイン酸および26.45重量%の水素化された獣脂グリセリド)、8.10重量%のペンタエリトリトールならびに10重量%の無水トリメリツト酸の反応生成物である。
(中略)
樹脂2141:この樹脂は、34.27重量%のイソフタル酸、25.86重量%のステアリン酸、7.07重量%のペンタエリトリトール、19.18重量%のネオペンチルグリコール、3.35重量%のジエチレングリコールおよび10.17重量%の無水トリメリツト酸の反応生成物である。」(第30頁7行?第32頁19行(本件公表公報第31頁3行?第33頁14行))

2.合議体の判断
(1)特許法第36条第6項第1項違反について
上記第2.に記載のとおり、本願発明1は、概略、「樹脂」、すなわち、化学物質自体に係るものであって、その発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)として、「式:I_(n)-P-A_(m)を有する水分散性かつ疎水性のポリエステル樹脂であって、式中、Iはポリ酸単量体により樹脂中に導入されるカルボン酸基から導かれるイオン性分子であり;n=1?3はイオン性分子の数であり;Pはポリ酸及び多価アルコールを使用して製造される直鎖もしくは分子鎖状のポリエステル幹であり;Aは直鎖もしくは分子鎖状の、6?24個の炭素鎖の樹脂酸もしくはそのトリグリセリドからなる脂肪酸の脂肪酸基(fatty aliphatic group)であり;m=3?8は脂肪酸の脂肪酸基の数であり」との事項(以下、「発明特定事項a」という。)、「式中、Iはイオン化し得る少なくとも2つのカルボキシル基を含有する化合物の1%から20重量%までの量で存在し;ポリエステル幹は30%から80重量%までの量で存在し、かつ、脂肪酸の脂肪酸基は10%ないし60重量%の量で存在し」との事項(以下、「発明特定事項b」という。)及び「前記ポリエステル樹脂は、一滴の水が前記樹脂で被覆されているセルロース性支持体の表面に適用される場合に少くとも98の最初の接触角により示されるような高い撥水性を表わす」との事項(以下、「発明特定事項c」という。)を備えるものである。
まず、本願発明1に係る「樹脂」は、発明特定事項aのとおり、「式:I_(n)-P-A_(m)を有する」と規定されているから、その1分子中に、1個の「P」と、n(1?3)個の「I」と、m(3?8)個の「A」とを有してなるものである。
これに対して、本願明細書の発明の詳細な説明には、例えば、「実施例1」(記載事項ア)に、「再循環されたPET」:598.8g(56.29重量%)、ペンタエリトリトール:71.4g(6.71重量%)、ネオペンチルグリコール:27.7g(2.6重量%)、ステアリン酸:300.4g(28.24重量%)、無水トリメリツト酸:63.8g(6重量%)、並びに、チタン酸テトラプロピル(TPT)及びスズ酸モノブチルを、反応原料として用いること、また、「PET、ペンタエリトリトール、ネオペンチルグリコールおよびTPT」を反応させ、「その後、ステアリン酸およびスズ酸モノブチルを添加」して反応させ、さらに、「その後、無水トリメリツト酸を添加」して反応させて、反応生成物である「樹脂」を得ることが記載されている。
しかし、出発原料である「再循環されたPET」の平均分子量が記載されていないことから、その「598.8g」との使用量からモル数(「PET分子」の個数)を算出することができない。
また、「PET、ペンタエリトリトール、ネオペンチルグリコールおよびTPT」の反応において、「ペンタエリトリトール」が1分子中に4個の水酸基(OH)を有していること、また、前記反応はアルコーリシス反応(すなわち、加アルコール分解ないしエステル交換反応)であって、その反応条件の違いによって、PETの鎖切断の度合い及びペンタエリトリトールエステル化の度合いが大きく変化しうるものであると解されることからみて、前記反応後の「ポリエステル」の分子量が不明であり、その化学構造(例えば、前記反応後の「ポリエステル」の1分子当たりの水酸基(OH)の個数)についても的確に把握することができない。
すると、前記反応後の「ポリエステル」と「ステアリン酸」との反応によって、「ステアリン酸」由来の上記部分構造「A」(例えば、ヘプタデシル基:C_(17)H_(35)-)が導入され、ついで、「無水トリメリット酸」との反応によって、「無水トリメリット酸」由来の上記部分構造「I」(例えば、3,4-ジカルボキシフェニル基〔(HOOC)_(2)-C_(6)H_(3)-〕)が導入されるとしても、前記反応後の「ポリエステル」の分子量が不明であるから、該「ポリエステル」の1モル(これが、上記「式:I_(n)-P-A_(m)」中の「P」に対応すると解される。)に対する「ステアリン酸」ないし「無水トリメリット酸」の使用モル数(モル比)を算出することはできない。
しかも、一般に化学反応において、原料のすべてが過不足無く定量的に100%反応し、未反応物が残らないように調整することが困難であることは、当業者にとって技術常識であり、そして、「PET、ペンタエリトリトール、ネオペンチルグリコールおよびTPT」の反応、前記反応後の「ポリエステル」と「ステアリン酸」との反応、さらに、「無水トリメリツト酸」との反応においても、その反応率(ないし、収率)が100%であるか、確認できない。
したがって、該「実施例1」に記載されている「再循環されたPET」を含む反応原料の使用量(g)(及び使用割合(重量%))のデータに基づいて、上記「式:I_(n)-P-A_(m)」に対応して、該「実施例1」で得ている「樹脂」の「P」1個に対する、「I」の個数「n」、及び「A」の個数「m」を算出・確認することはできない。
また、本願発明1に係る「樹脂」は、発明特定事項bのとおり、「式中」、すなわち、「式:I_(n)-P-A_(m)」で表される「樹脂」の1分子中に、「I」が「1%から20重量%までの量で存在し」、「P」が「30%から80重量%までの量で存在し」、かつ、「A」が「10%ないし60重量%の量で存在し」と規定されているものと解される。
しかし、上記のとおり、上記「P」に対する「ステアリン酸」ないし「無水トリメリツト酸」の使用モル数(モル比)を算出することはできないこと、一般に化学反応において、原料のすべてが過不足無く定量的に100%反応し、未反応物が残らないように調整することが困難であること、並びに、「I」に係る定義・規定が明確でないことから、該「実施例1」で得ている「樹脂」の、上記「式:I_(n)-P-A_(m)」に対応する「P」、「A]及び「I」の存在量(重量%)を算出・確認することができない。
さらに、該「実施例1」で得ている「樹脂」について、発明特定事項cに係る「接触角」のデータは示されていない。
したがって、本願発明1の上記発明特定事項aないしcが、該「実施例1」によって、具体的かつ十分に裏付けられているものではない。
そして、「実施例2」ないし「実施例9」について検討してみても、「実施例1」と同様に、発明特定事項aないしcが具体的かつ十分に裏付けられていない。
次に、「実施例10」(記載事項イ)には、「接触角」について、「試料サンプル」及び「最初の角度」のデータが記載されている。
しかし、記載事項イのとおり、例えば、「樹脂2161」について「この樹脂は、38.57重量%のPET、43.17重量%の脂肪酸(6.50重量%のステアリン酸;10.22重量%のオレイン酸および26.45重量%の水素化された獣脂グリセリド)、8.10重量%のペンタエリトリトールならびに10重量%の無水トリメリツト酸の反応生成物である。」、また、「樹脂2141」について「この樹脂は、34.27重量%のイソフタル酸、25.86重量%のステアリン酸、7.07重量%のペンタエリトリトール、19.18重量%のネオペンチルグリコール、3.35重量%のジエチレングリコールおよび10.17重量%の無水トリメリツト酸の反応生成物である。」と記載されているのみであって、該「樹脂2161」等が、発明特定事項a及びbを満足するものであることは、具体的かつ十分に裏付けられていない。
そして、一般に化学反応において、原料のすべてが過不足無く定量的に100%反応し、未反応物が残らないようにすることが困難であることは、当業者にとって技術常識である。
さらに、反応原料の組成「重量%」のデータから、発明特定事項aに係る「式:I_(n)-P-A_(m)」中の「n」及び「m」の個数とともに、発明特定事項bに係る「式:I_(n)-P-A_(m)」中の「P」、「A]及び「I」の存在量(重量%)を算出できることが、具体的かつ明確に開示されているとは認められない。
(なお、請求人は、平成22年3月10日提出の審判請求書の手続補正書(方式)等において、本願明細書に記載の「実施例1」等の具体例における「樹脂」の、「式:I_(n)-P-A_(m)」に対応する「n」及び「m」の個数、並びに、「P」、「A]及び「I」の存在量(重量%)のデータについて、何ら、具体的数値を示していない。)
したがって、「実施例1」ないし「実施例10」等の具体的開示事項からみて、発明特定事項aないしcを備える本願発明1が、実質上、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
よって、この出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)特許法第36条第6項第2項違反について
(2-1)請求項1には、「式:I_(n)-P-A_(m)を有する水分散性かつ疎水性のポリエステル樹脂」及び「式中、Iはポリ酸単量体により樹脂中に導入されるカルボン酸基から導かれるイオン性分子であり;n=1?3はイオン性分子の数であり」と記載されている。
しかし、「式:I_(n)-P-A_(m)を有する」、「樹脂」自体が「分子」であって、「I」は、その部分をなすべきことは明らかであるから、前記「I」が独立した(イオン性)「分子」であるとする前記記載が明確であるとはいえない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、上記「I」は、一応、無水トリメリット酸、無水マレイン酸等に由来する部分構造であると解することができる。また、例えば、無水トリメリット酸は、上記「ポリ酸単量体」に対応すると解される。
さらに、上記「カルボン酸基」は、カルボキシル基(-CO_(2)H)であると解される。
しかし、上記のように「ポリ酸単量体」及び「カルボン酸基」を解したとしても、「I」に係る上記「ポリ酸単量体により樹脂中に導入されるカルボン酸基から導かれるイオン性分子」の記載は、文理・論理上、意味不明であり、しかも、かかる分子の構造を特定するための技術的事項も不明であるから、「I」に係る上記部分構造を確定しえないものである。
また、「I」の定義が不明確であるために、「n=1?3はイオン性分子の数であり」との規定に関し、「n」として、何の個数をカウントすべきか明確ではない。

(2-2)請求項1には、「式中、Iはイオン化し得る少なくとも2つのカルボキシル基を含有する化合物の1%から20重量%までの量で存在し」と記載されている。しかし、前記数値は、「I」の「式:I_(n)-P-A_(m)」中の存在量ではなく、「イオン化し得る少なくとも2つのカルボキシル基を含有する化合物の」(100重量%に対して)「1%から20重量%までの量で存在し」の趣旨であるのか、不明である。
そして、仮に、上記記載を『式中、Iはイオン化し得る少なくとも2つのカルボキシル基を含有する化合物であって、1%から20重量%までの量で存在し』との意味と解したとしても、上記(2-1)のとおり、「I」は「樹脂」の部分をなすと解されるから、これを「化合物」であるとする記載は、明確ではない。
さらに、上記(2-1)のとおり、「Iはポリ酸単量体により樹脂中に導入されるカルボン酸基から導かれるイオン性分子であり」と規定されているから、該規定と「Iはイオン化し得る少なくとも2つのカルボキシル基を含有する化合物」である旨の規定とは、整合しておらず、明確ではない。

(2-3)まとめ
上記(2-1)及び(2-2)のとおり、「式:I_(n)-P-A_(m)」中の「I」及びその前記式中の存在量に係る記載は、明確であるとはいえない。
したがって、この出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(なお、「式:I_(n)-P-A_(m)」中の「A」については、「fatty aliphatic group」との記載を根拠に、概略、「脂肪族基」(アルキル基、アルケニル基等)であると解することができる。)

第5.審判請求人の主張についての検討
審判請求人は、平成22年3月10日に提出した審判請求書の手続補正書(方式)の[3](1)(ii)の項において、以下の主張をしている。
「当業者は、請求項1に記載されたInがイオン性基を表し、そのようなイオン性基は無水トリメリット酸のようなポリ酸モノマーによりポリエステルPに導入され得る(本願明細書第12頁第8行?23行目参照)、こと理解している。また、当業者は、請求項1に記載されたAmが脂肪酸基を表し、そのような脂肪酸基が脂肪酸やトリグリセリドを用いることによりポリエステルPに導入され得ることを理解している(本願明細書第13頁第21行?同第14頁第4行目参照)。本願明細書に記載されているイオン性基や脂肪酸基を選択することにより数平均分子量(nやm)を計算することは、当業者にとって基礎化学である。例えば、当業者は、1モルの無水トリメリック酸を1モルのPに加えることによりn=2となることを理解している。同様に、当業者は、1モルの無水マレイン酸を1モルのPに加えることによりn=1となることを理解している。」(なお、前記「無水トリメリック酸」は、「無水トリメリット酸」の誤記である。)
しかし、仮に、「P」(ポリエステル幹)1モルと無水トリメリット酸1モルとの反応生成物を想定したとして、「I」が、無水トリメリット酸に由来する、3,4-ジカルボキシフェニル基〔(HOOC)_(2)-C_(6)H_(3)-〕、3,4-ジカルボキシフェニルカルボニル基〔(HOOC)_(2)-C_(6)H_(3)-CO-〕、3,4-ジカルボキシフェニルカルボニルオキシ基〔(HOOC)_(2)-C_(6)H_(3)-COO-〕等の部分構造であるとすれば、n(「I」の個数)=1となり、請求人の上記「n=2」及び「n=1」に係る理解に関する主張は、そのように理解される技術的根拠が不明であり、採用することができない。

第6.むすび
以上のとおりであるので、本件出願は、特許法第36条第6項第1号ないし第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、原査定の拒絶の理由とされた、上記理由2ないし3は妥当なものであるので、本件出願は、原査定の拒絶理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-08 
結審通知日 2011-07-19 
審決日 2011-08-04 
出願番号 特願平10-532939
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 純村上 騎見高  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 小野寺 務
藤本 保
発明の名称 水分散性/再分散性の疎水性ポリエステル樹脂およびコーティングにおけるそれらの応用  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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