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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1249324
審判番号 不服2008-27156  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-24 
確定日 2011-12-26 
事件の表示 特願2004-101628「光化学反応装置および光化学反応方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月13日出願公開、特開2005-279595〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年3月31日の特許出願であって、平成20年6月23日付けの拒絶理由通知に対し、平成20年8月22日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで特許請求の範囲に係る手続補正がなされたが、平成20年9月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年10月24日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに平成20年11月25日付けで特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正がなされた後、平成23年5月16日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、これに対し、平成23年7月19日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成20年11月25日付けの特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年11月25日付けの特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正を却下する。

[理由]
2-1.補正の目的
平成20年11月25日付けの特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、平成20年8月22日付けの手続補正により補正された以下の記載(1)を、以下の記載(2)に補正するものである。

(1)補正前の特許請求の範囲の記載
「 【請求項1】
反応分子を含む液体を流通させる微細な反応流路を有し、光透過性材料より形成された反応器と、
前記反応流路に光を照射する光照射装置とを備えており、
前記反応流路の流路径が10?2000μmに構成されていると共に、
前記反応器が複数個、互いに離間して直列に連結配置されていることを特徴とする、光化学反応装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光化学反応装置において、前記反応流路に光触媒が設けられていることを特徴とする、光化学反応装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光化学反応装置において、前記反応器が複数個並列配置されていることを特徴とする、光化学反応装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の光化学反応装置を用いて反応を行うことを特徴とする、光化学反応方法。」

(2)補正後の特許請求の範囲の記載
「 【請求項1】
分解対象物質としてビスフェノールAを含む水溶液を流通させる微細な反応流路を有し、光透過性材料より形成された反応器と、
前記反応流路に設けられた光触媒と、
前記反応流路に光を照射する光照射装置とを備えたビスフェノールA分解用の光化学反応装置であって、
前記反応流路の流路径が10?2000μmに構成されていると共に、
前記反応器が複数個、互いに離間して直列に連結配置されていることを特徴とする、ビスフェノールA分解用の光化学反応装置。
【請求項2】
請求項1に記載のビスフェノールA分解用の光化学反応装置において、前記反応器が複数個並列配置されていることを特徴とする、ビスフェノールA分解用の光化学反応装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のビスフェノールA分解用の光化学反応装置を用いて反応を行うことを特徴とする、ビスフェノールA分解用の光化学反応方法。」

上記記載(2)を上記記載(1)に照らしてみると、本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を削除するとともに、同請求項2?4に記載された発明の発明特定事項である「反応分子を含む液体」を「分解対象物質としてビスフェノールAを含む水溶液」に減縮し、また、同発明特定事項である「光化学反応装置」及び「光化学反応方法」を「ビスフェノールA分解用」のものに減縮するものとみることができるから、本件補正において、特許請求の範囲についてする補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号及び第2号に規定する請求項の削除及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

2-2.独立特許要件
そこで、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否かについて以下に検討する。

(1)本願補正発明
本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「分解対象物質としてビスフェノールAを含む水溶液を流通させる微細な反応流路を有し、光透過性材料より形成された反応器と、
前記反応流路に設けられた光触媒と、
前記反応流路に光を照射する光照射装置とを備えたビスフェノールA分解用の光化学反応装置であって、
前記反応流路の流路径が10?2000μmに構成されていると共に、
前記反応器が複数個、互いに離間して直列に連結配置されていることを特徴とする、ビスフェノールA分解用の光化学反応装置。」

(2)刊行物及びその記載事項
本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平11-239717号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「被浄化物が流入する複数の流入口を備えた流入面、被浄化物が流出する複数の流出口を備えた流出面、および前記流入口と前記流出口を繋ぐ複数の孔を有するとともに、光が前記孔の伸延方向に交差して入射される光透過性の多孔体と、
前記多孔体内の前記流入面、前記流出面及び前記孔の内壁面に設けられ、前記光が照射された際に活性化される光触媒と、
を備えることを特徴とする浄化装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)
(イ)「前記孔の伸延方向と交差する方向から前記多孔体に前記光を入射させる光ファイバを有することを特徴とする請求項1?請求項4の何れか一項記載の浄化装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項5】)
(ウ)「【発明の属する技術分野】本発明は、光触媒の酸化還元反応を用いて汚染物質などを浄化する浄化装置および浄化方法に関するものである。
【従来の技術】酸化チタン等の光触媒には、紫外線等の光が照射されると強力な酸化還元反応を生じ、種々の有機物を分解するという特性がある。・・・・」(段落【0001】?【0002】)
(エ)「【発明の実施の形態】以下、本発明に係る浄化装置および浄化方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
まず、本発明に係る第一の実施形態を図1乃至図3を用いて説明する。図1は、本実施形態の浄化装置1の全体を示す斜視図である。また、図2は、図1のII-II断面図である。・・・・
多孔体2は、紫外線透過率の高い石英ガラスで形成されている。・・・・
・・・・
また、本実施形態においては、・・・・孔3の径は約80μmである。被浄化物9の種類が変わる場合は、これらの寸法を被浄化物9の種類に応じて変化させればよい。例えば、被浄化物9が下水のように、比較的孔3が詰まり易い物質の場合は、孔3の径および多孔体2の外径の寸法を大きくすればよい。また、下水等と比較して、被浄化物9が排煙のように、孔3内で詰まりにくい物質の場合には、孔3の径および多孔体9の外径の寸法を小さくでき、浄化装置1全体の小型化を図ることができる。さらに、被浄化物9の汚染度が高い場合は、流入面5から流出面6までの長さ、すなわち孔3の長さを長くすることにより被浄化物9と光触媒4の接触面積を広くし、浄化性能の向上を図る。・・・・
尚、実験により、・・・・孔3の径が6?100μmの範囲にある場合に、浄化効率の良いことが分かった。」(段落【0018】?【0024】)
(オ)「続いて、本実施形態に係る浄化装置1の作用を説明する。・・・・
・・・・
一方、下水や焼却炉の排煙等の被浄化物9は、・・・・孔3へ流し込まれる。被浄化物9は、この孔3の中を通る際に光触媒4に接触し、光触媒4の酸化還元反応によって浄化され、・・・・」(段落【0027】?【0029】)
(カ)図1、図2として以下の図面が記載されている。


(3)刊行物1に記載された発明
ア 刊行物1には、記載(ア)からみて、「被浄化物が流入する複数の流入口を備えた流入面、被浄化物が流出する複数の流出口を備えた流出面、および前記流入口と前記流出口を繋ぐ複数の孔を有するとともに、光が前記孔の伸延方向に交差して入射される光透過性の多孔体」と「前記多孔体内の前記流入面、前記流出面及び前記孔の内壁面に設けられ、前記光が照射された際に活性化される光触媒」とを備えた「浄化装置」が記載されているといえる。
イ そして、上記「浄化装置」は、記載(イ)によれば、「前記孔の伸延方向と交差する方向から前記多孔体に前記光を入射させる光ファイバ」を備えたものとすることができる。
ウ さらに、上記「浄化装置」の第一の実施形態の説明である記載(エ)によれば、上記「多孔体」は、「紫外線透過率の高い石英ガラスで形成され」たものとすることができ、上記「孔」は、その径を「80μm」とすることができる。そして、上記「浄化装置」の同実施形態を図1及び図2として示す図面である記載(カ)によれば、上記「孔」は、その断面形状が楕円形であることがみてとれる。
エ さらに、上記「浄化装置」の同実施形態の作用の説明である記載(オ)によれば、上記「被浄化物」は、「孔3の中を通る際に」「光触媒4の酸化還元反応によって浄化され」る。また、上記「被浄化物」は、例えば「下水」であり、この場合、上記「浄化装置」は、「下水浄化装置」に他ならない。
オ 上記ア?エで検討したところを踏まえ、刊行物1の記載事項を整理すると、刊行物1には、
「下水が流入する複数の流入口を備えた流入面、下水が流出する複数の流出口を備えた流出面、および前記流入口と前記流出口を繋ぐ複数の孔を有するとともに、紫外線透過率の高い石英ガラスで形成され、光が前記孔の伸延方向に交差して入射される光透過性の多孔体と、前記多孔体内の前記流入面、前記流出面及び前記孔の内壁面に設けられ、前記光が照射された際に活性化される光触媒と、前記孔の伸延方向と交差する方向から前記多孔体に前記光を入射させる光ファイバを備え、前記孔の断面形状が楕円形であり、前記孔の径が80μmであり、前記下水が前記孔の中を通る際に前記光触媒の酸化還元反応によって浄化される下水浄化装置」
の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているといえる。

(4)対比
ここで、本願補正発明1と刊行1発明とを対比する。
ア 本願補正発明1では、「微細な反応流路」を有することが特定されている。そして、この「微細な反応流路」がどの程度に「微細な」ものを意味しているのかについては、当該事項のみからは判然としないが、本願補正発明1では、「反応流路の流路径が10?2000μmに構成されている」ことも特定されていることを併せみれば、本願補正発明1の「微細な反応流路」とは、「反応流路の流路径が10?2000μmに構成されている」ものを意味していると解するのが自然である。そして、このように解することは、本願明細書の段落【0007】の「流路径が10?2000μmと微細な反応流路に液体を流通させながら」との記載に裏付けられているといえる。
イ また、本願補正発明1では、「反応流路の流路径が10?2000μmに構成されている」ことが特定されているところ、この「反応流路の流路径」に関し、本願明細書の段落【0019】には、「ここで、「反応流路の流路径」とは、反応流路のサイズを規定する長さであり、例えば反応流路の断面が四角形における短辺の長さ、円形における直径、楕円形における短直径を意味するものである。」と記載されている。かかる記載は、本願補正発明1の「反応流路の流路径」を定義するものに他ならないから、本願補正発明1の「反応流路の流路径」を解釈するにあたっては、この定義に基づいて解すべきであるといえる。
ウ 刊行1発明の「孔」は、下水が流入する流入口と下水が流出する流出口を繋ぐものであって、下水がその中を通るものである。このことから、刊行1発明の「孔」は、流路であるといえる。また、刊行1発明では、下水がこの「孔」の中を通る際に光触媒の酸化還元反応によって浄化されることを踏まえると、刊行1発明の「孔」は、反応流路であるとみることができる。
そして、刊行1発明の「多孔体」は、この反応流路としての「孔」を有するものであることから、反応器であるとみることができる。
しかし、刊行1発明の「孔」は、その断面形状が楕円形であり、その径が80μmであるところ、刊行1発明の「孔の径」とは、断面形状が楕円形である孔に関し、どの長さを意味するのかについて、刊行物1の記載全体をみても明らかでない。
エ 刊行1発明の「紫外線透過率の高い石英ガラス」は、紫外線が光であることを踏まえると、光透過性材料であるといえる。
オ 刊行1発明の「光ファイバ」は、孔の伸延方向と交差する方向から多孔体に光を入射させるものであるところ、この多孔体は、光が孔の伸延方向に交差して入射される光透過性のものであることから、刊行1発明の「光ファイバ」は、孔に光を照射する光照射装置であるといえる。
カ 刊行1発明の「下水浄化装置」は、光が照射された際に活性化される光触媒を備え、この光触媒の酸化還元反応によって下水が浄化されるものである。このことから、刊行1発明の「下水浄化装置」は、下水浄化用の光化学反応装置であるとみることができる。
キ 刊行1発明では、下水が浄化される。そして、下水が浄化されるということは、下水に含まれる物質が処理されることに他ならないから、刊行1発明の「下水」は、「被処理物質を含む水」であるとみることができる。そうすると、刊行1発明の「下水」は、「被処理物質を含む水」である点で、本願補正発明1の「分解対象物質としてビスフェノールAを含む水溶液」と共通するといえる。
ク 上記ア?キで検討したところを踏まえ、本願補正発明1と刊行1発明とを対比すると、両者は、「被処理物質を含む水を流通させる反応流路を有し、光透過性材料より形成された反応器と、前記反応流路に設けられた光触媒と、前記反応流路に光を照射する光照射装置とを備えた光化学反応装置」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:本願補正発明1は、「ビスフェノールA分解用」の光化学反応装置であって、「分解対象物質としてビスフェノールAを含む水溶液」を反応流路に流通させるのに対し、刊行1発明は、「下水浄化装置」であって、「下水」を孔の中に通している点。
相違点2:本願補正発明1は、「反応器が複数個、互いに離間して直列に連結配置されている」のに対し、刊行1発明では、「多孔体」に関し、かかる事項が特定されていない点。
相違点3:本願補正発明1は、「反応流路の流路径が10?2000μm」であるのに対し、刊行1発明は、「孔の径が80μm」である点。

(5)相違点についての検討
(a)相違点1について
光触媒には、種々の有機物を分解する特性があることは、例えば、刊行物1の記載(ウ)に記載されているように、技術常識であり、このような特性を有する光触媒の用途として、水中のビスフェノールAを分解するということも、例えば、特開2001-327961号公報(以下、「周知例1」という。特に段落【0050】?【0051】参照。)や特開2003-71440号公報(以下、「周知例2」という。特に【請求項1】、段落【0001】参照。)に記載されているように周知の用途である。
そして、ビスフェノールAは微量であっても環境ホルモンとして生体に悪影響を及ぼす有害物質であり、これを酸化分解等により処理すべきことは、一般的な課題であるから(例えば、周知例2の段落【0003】参照。)、上記周知の用途を刊行1発明に照らしてみれば、光触媒を利用して下水を浄化する刊行1発明において、光触媒により分解されるビスフェノールAを分解対象物質とし、上記相違点1に係る本願補正発明1の発明特定事項を導くことは、当業者であれば容易に想到し得ることであると認められる。

(b)相違点2について
反応器を複数個、直列に連結配置することは、例えば、特開2001-17963号公報(以下、「周知例3」という。特に【請求項1】(第2頁左欄19行)、【図7】参照。)や特開平10-272459号公報(以下、「周知例4」という。特に段落【0073】?【0086】、【図5】?【図7】参照。)に記載されているように周知の技術である。
そして、刊行物1には、「多孔体」に関し、「複数個、互いに離間して直列に連結配置」することについて記載されていないものの、刊行1発明の「多孔体」は、上記(4)ウで検討したように「反応器」とみることができるものであり、また、刊行物1には、例えば記載(エ)に、「被浄化物9の汚染度が高い場合は、流入面5から流出面6までの長さ、すなわち孔3の長さを長くすることにより被浄化物9と光触媒4の接触面積を広くし、浄化性能の向上を図る。」と記載されているように、被浄化物の汚染度に応じて孔の長さを長くすることなどの工夫をすることにより浄化性能の向上を図ることは、当業者が通常行うことであるから、上記周知の技術を刊行1発明に照らしてみれば、刊行1発明において、「多孔体(反応器)」を複数個、直列に連結配置することは、当業者が容易に想到し得ることであるといえる。また、このことを具体化する際に、「多孔体(反応器)」を「互いに離間して」連結配置することも格別困難なこととはいえない(例えば、周知例3の【図7】、周知例4の【図5】参照。)。
よって、刊行1発明において、上記相違点2に係る本願補正発明1の発明特定事項を導くことは、当業者であれば容易に想到し得ることであると認められる。

(c)相違点3について
本願補正発明1の「反応流路の流路径」は、上記(4)イで検討したように、その断面形状が楕円形のときは短直径、円形のときは直径を意味するものである。
一方、刊行1発明の「孔の径」は、上記(4)ウで検討したように、断面形状が楕円形である孔に関し、どの長さを意味するのか明らかでない。
しかしながら、孔の断面形状が楕円形である刊行1発明において、「孔の径」とは、楕円の「短直径」より小さいものや「長直径」より大きいものを表していると解するのは不自然であるから、楕円の「短直径」以上「長直径」以下の範囲内のものと解される。そして、このように解することは、断面形状が楕円のように円以外の形状を有する場合にその断面の大きさを「径」という一つの指標で表すとき、真円に換算した「相当直径」を用いることが普通に行われている(例えば、特開2001-303355号公報の段落【0008】参照。以下、この公報を「周知例5」という。)ことからみても自然なことである。
また、刊行物1の記載(カ)によれば、刊行1発明の「孔」の断面の楕円は、長直径と短直径の比が2?3程度の楕円であり、この比は大きくみてもせいぜい4であるから、刊行1発明の「孔」は、その断面形状が、長直径と短直径の比が4以下の楕円であることは明らかである。
これらのことを踏まえると、刊行1発明において、「孔の径」が80μmであるということは、その「孔」は「短直径」でみて、20μm以上80μm以下のもの(「長直径」でみて、80μm以上320μm以下のもの)であるといえる。
そうすると、刊行1発明の「孔」の「短直径」に関する上記数値範囲は、断面形状が楕円形のときは「短直径」を意味する本願補正発明1の「反応流路の流路径」の「10?2000μm」との数値範囲に完全に含まれるものであるから、上記相違点3は、実質的なものではないといえる。
仮にそういえないとしても、流路の断面形状を例えば円形にすること、また、流路の大きさを最適化することは、いずれも極めて普通のことであるから(前者については、例えば刊行物1の図4、後者については、例えば刊行物1の段落【0023】参照。)、刊行1発明において、孔の断面形状を例えば円形にするとともに、その直径の最適な範囲を検討し(例えば80μm)、上記相違点3に係る本願補正発明1の発明特定事項を導くことは、当業者であれば容易になし得ることであると認められる。また、本願補正発明1の「反応流路の流路径が10?2000μm」であることに関し、本願明細書及び図面の記載をみてみても、その数値範囲の限定に臨界的意義を見いだせない。

(d)相違点についての検討まとめ
上記相違点1?3に係る本願補正発明1の発明特定事項を総合することにより奏される効果について、本願明細書及び図面の記載を精査しても格別なものは見いだせない。
そうすると、以上の検討から、本願補正発明1は、刊行物1に記載された発明及び周知例1?5に例示される周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると認められる。

2-3.補正却下についてのむすび
以上のとおりであるから、本願補正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成20年11月25日付けの特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正は、上記2.のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成20年8月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであると認められる。そして、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「反応分子を含む液体を流通させる微細な反応流路を有し、光透過性材料より形成された反応器と、
前記反応流路に光を照射する光照射装置とを備えており、
前記反応流路の流路径が10?2000μmに構成されていると共に、
前記反応器が複数個、互いに離間して直列に連結配置されていることを特徴とする、光化学反応装置。」

4.刊行物及びその記載事項
本願の出願日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1及びその記載事項は、上記2-2.(2)に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明1を本願補正発明1に照らしてみると、本願発明1は、本願補正発明1の発明特定事項のうち、(1)「分解対象物質としてビスフェノールAを含む水溶液」を「反応分子を含む液体」と拡張し、(2)「ビスフェノールA分解用の」ものであることの特定をしないものに拡張し、(3)「前記反応流路に設けられた光触媒」を備えることの特定をしないものに拡張したものであるとみることができるから、本願発明1は、本願補正発明1を拡張し、それを包含するものであるといえる。
してみれば、本願補正発明1が、上記2-3.で述べたように、特許を受けることができないものである以上、本願補正発明1を包含するものである本願発明1も、本願補正発明1と同様の理由により、特許を受けることができないものであるといえる。すなわち、本願発明1は、本願補正発明1と同様、刊行物1に記載された発明及び周知例1?5に例示される周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上検討したところによれば、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-19 
結審通知日 2011-10-26 
審決日 2011-11-08 
出願番号 特願2004-101628(P2004-101628)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C02F)
P 1 8・ 575- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齊藤 光子  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 目代 博茂
小川 慶子
発明の名称 光化学反応装置および光化学反応方法  
代理人 石井 博樹  

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