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審決分類 |
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B41C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41C 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41C |
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管理番号 | 1249402 |
審判番号 | 不服2010-18235 |
総通号数 | 146 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-02-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-08-12 |
確定日 | 2012-01-04 |
事件の表示 | 特願2003-410730「インキジェット記録を用いるフレキソ印刷版の製造」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 8日出願公開、特開2004-188983〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願は、平成15年12月9日(パリ条約による優先権主張:2002年12月11日、欧州特許庁)の出願であって、平成21年12月1日付けの拒絶理由通知に対して、平成22年3月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月1日付けで拒絶査定がなされたものである。 これに対して、平成22年8月12日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に、特許請求の範囲についての手続補正がなされ、その後、当審において、平成22年12月1日付けで審判審尋を行ったところ、平成23年4月4日付けで回答書が提出された。 第2 平成22年8月12日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [結論] 平成22年8月12日付けの手続補正を却下する。 [理由1] 平成22年8月12日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、次のように補正された。 「【請求項1】 基質上にインキジェット印刷システムによりインキの像通りの少なくとも2つの層を順次適用し、ここで、各層の適用段階を、適用された層をその次の層が適用される前に不動化するための不動化段階と組み合わせ、それによって基質上に印刷領域を含んでなる印刷レリーフを得ることによりインキジェット印刷システムを用いてフレキソ印刷版を製造する方法であって、レリーフが垂直方向に対して第一の角度をなす線状の側面を有する上部と垂直方向に対して第二の角度をなす線状の側面を有する底部を有する印刷領域を含み、第二の角度が第一の角度と異なることを特徴とする方法。 【請求項2】 上部の線状の側面が、第一の角度が垂直方向に対して0°である垂直断面を有する請求項1に記載の方法。 【請求項3】 インキジェット印刷システムの印刷ヘッドと印刷レリーフの記録表面の間の距離を一定に保つ請求項2に記載の方法。 【請求項4】 少なくとも1つの像通りに適用された層の高さを測定し、それによって測定データを生ぜしめる段階をさらに含んでなる請求項1?3のいずれかに記載の方法。 【請求項5】 該像通りの層の該測定データをフィードバックループに供給し、次の適用される層の像内容を調節する請求項4に記載の方法。」 (下線は補正箇所を示し、本件補正において付されたとおりである。) 本件補正の前の補正である平成22年3月5日付け手続補正(以下「補正前補正」という。)による特許請求の範囲は、次のとおりである。 「【請求項1】 基質上にインキジェット印刷システムによりインキの像通りの少なくとも2つの層を順次適用する段階を含んでなるインキジェット印刷システムを用いてフレキソ印刷版を製造する方法であって、各層の適用段階を、適用された層をその次の層が適用される前に不動化するための不動化段階と組み合わせることを特徴とする方法。 【請求項2】 不動化段階をインラインで行なう請求項1に記載の方法。 【請求項3】 少なくとも1つの像通りに適用された層の高さを測定し、それによって測定データを生ぜしめる段階をさらに含んでなる請求項1または2に記載の方法。 【請求項4】 該像通りの層の該測定データをフィードバックループに供給し、次の適用される層の像内容を調節する請求項3に記載の方法。 【請求項5】 小さいドットの周りの傾斜が非線状である請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。」 本件補正と補正前補正との各請求項(以下、本件補正の請求項を「新請求項」と、補正前補正の請求項を「旧請求項」という。)の対応関係について検討すると、新請求項1は旧請求項1に、新請求項4は旧請求項3に、新請求項5は旧請求項4に、それぞれ対応している。 しかしながら、新請求項2及び3は、その特定事項からみて、旧請求項の何れとも対応していない(この点は、補正箇所を示すアンダーラインが新請求項2及び3の全文に付されていることからみても明らかである。)。 また、旧請求項2の特定事項である「不動化段階をインラインで行なう」点、旧請求項5の特定事項である「小さいドットの周りの傾斜が非線状である」点は、新請求項1ないし5のいずれにも記載されていない。 そうすると、本件補正は、旧請求項2及び5を削除し、新たな請求項2及び3を追加する補正であり、このように新たな請求項を追加する補正は、特許法第17条の2第4項各号に規定される補正の目的の何れにも該当しない。 なお、審判請求人は、新請求項2及び3について、概略、次の様に主張する(平成23年4月4日付け回答書の3頁15?21行参照) 請求項2は、請求項1記載の印刷レリーフの第1の角度を具体的に特定したものであり、請求項3は、請求項1記載の印刷ヘッドと記録表面との距離を具体的に特定したものである。 確かに、同一の請求項において、即ち、新請求項1において、上記新請求項2或いは3に係る技術事項を特定する手続補正であれば、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 しかしながら、上記技術事項を、新たに追加した請求項において、特定することは、特許法第17条の2第4項各号に規定される補正の目的の何れにも該当しないものといわざるを得ない。 したがって、請求の主張は採用できない。 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 [理由2] 上記のとおり、新請求項2及び3に係る補正事項は、新たな請求項を追加するものであるところ、仮に、新請求項1に係る補正事項を、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとして、次に、本件補正が独立特許要件を満たしているか否かについて検討する。 1.補正後の請求項1に係る発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された(以下「本件補正発明」という。)。 「基質上にインキジェット印刷システムによりインキの像通りの少なくとも2つの層を順次適用し、ここで、各層の適用段階を、適用された層をその次の層が適用される前に不動化するための不動化段階と組み合わせ、それによって基質上に印刷領域を含んでなる印刷レリーフを得ることによりインキジェット印刷システムを用いてフレキソ印刷版を製造する方法であって、 レリーフが垂直方向に対して第一の角度をなす線状の側面を有する上部と垂直方向に対して第二の角度をなす線状の側面を有する底部を有する印刷領域を含み、第二の角度が第一の角度と異なることを特徴とする方法。」 (下線は補正箇所を示し、本件補正において付されたとおりである。) 本件補正は、「印刷レリーフ」について、該レリーフが「垂直方向に対して第一の角度をなす線状の側面を有する上部と垂直方向に対して第二の角度をなす線状の側面を有する底部を有する印刷領域を含み、第二の角度が第一の角度と異なる」ものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、即ち、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下、検討する。 2.引用刊行物とそれに記載された事項及び発明 (1)本願優先日前に頒布された刊行物である、欧州特許出願公開第641648号明細書(以下「引用文献1」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。 なお、引用文献1の翻訳は当審で行ったものであり、又、以下、下線は審決において付すものである。 ア.明細書1欄1?5行 「FIELD OF THE INVENTION The present invention concerns a method and apparatus for direct production of photopolymeric printing plates by ink-jet printing techniques. 」 (発明の技術分野 本発明は、インキジェット印刷技術により、感光性樹脂の印刷版を直接製造する方法および装置に関する。) イ.同2欄10?14行 「OBJECT OF THE INVENTION It is thus the object of the present invention to provide a rapid, environment-friendly and material-saving method for the direct production of printing plates. 」 (発明の目的 したがって、本発明の目的は、印刷版を直接製造するための、環境に負担をかけずに材料を節減する方法を提供することである。) ウ.同2欄16?27行 「SUMMARY OF THE INVENTION The above object is achieved by the present invention, which provides a method for the production of photopolymeric printing plates comprising: forming a positive and/or negative image on a substrate by inkjet printing with a photopolymeric ink composition, optionally preheated to a temperature of about 30-260℃; and subjecting the resulting printed substrate to UV radiation, thereby curing said ink composition forming said image. 」 (発明の要約 上記の目的は、必要に応じて、約30?260℃の温度で予熱される感光性樹脂インキを用い、インキジェット印刷により、基質上に、ポジまたはネガの画像を形成し、該画像を形成する前記インキを、紫外線放射により硬化させて、印刷された基質とすることを含む、感光性樹脂の印刷版の製造方法を提供する、本発明によって達成される。) エ.同2欄28?42行 「The present invention also provides an apparatus for carrying out the method of the present invention. Said apparatus comprises: i)A rotatable drum adapted for retaining on its inner or outer surface a substrate to be printed; ii) a carriage, displaceable axially in respect of said drum; iii) a container for a photopolymeric ink composition; iv) at least one nozzle communicating with said carriage for ejecting said photopolymeric ink composition; and v) a U.V. source located so as to expose the printed surface of the substrate to UV radiation. 」 (本発明は、また、本発明の方法を実行する装置も提供する。 前記装置は、以下の構成要素からなる。 i)基質の印刷される内表面または外表面を保持する回転ドラム、 ii)上記ドラムに対して軸方向に移動可能なキャリッジ、 iii)感光性樹脂インキ組成物の容器、 iv)上記キャリッジと連結され、上記感光性樹脂インキ組成物を噴出するための、少なくとも1つのノズル、 v)基質の印刷される面を紫外線放射にさらすために配置されている紫外線光源。) オ.同2欄56行?3欄6行 「The substrates on which the image is formed according to the present invention may be made of steel, polyester, or any other rigid material, coated or uncoated. The printing plates obtained by the method of the present invention may be adapted to different types of printing such as letter-press, dry-offset, gravure, flexographic printing techniques or any other printing technique such as silk-screen printing. 」 (本発明に従って画像が形成される基質は、コーティングされたまたはコーティングされていない鋼鉄、ポリエステル、あるいは他の剛性材料で作成することができる。 本発明の方法によって作成される印刷版は、活版印刷、乾式オフセット、グラビア印刷、フレキソ印刷などの様々な種類の印刷技術、またはシルクスクリーン印刷などの他の印刷技術に適用することができる。) カ.同3欄22?26行 It should be emphasized that the image obtained by the method of the present invention is "grown" or "built up" from the substrate, as contrasted with any other conventional method for producing photopolymeric images on plates for the printing industry. 」 (本発明の方法で作成される画像は、印刷業界において版上に感光性樹脂画像を生成する従来のどの方法とも対照的に、基質から「盛り上がる」または「積み上がって」いる。) キ.同3欄41行?4欄22行 「DETAILED DESCPIPTION OF THE DRAWINGS The present invention will further be described in detail with reference to the accompanying non-limiting drawings, in which: Fig. 1 is a partial schematic view (in perspective) of one embodiment of the apparatus according to the invention; and Fig. 2 is a partial schematic view (in perspective) of an alternative embodiment of the apparatus according to the invention, including a flat-bed table 11 instead of the drum in Fig. 1. As seen in Fig. 1, the photopolymeric printing apparatus, generally referenced as 1, comprises: a drum 2 rotatable around a horizontal axis 3 supporting the printing substrate 4; a carriage 5 carrying a pair of nozzles 6 and horizontally displaceable on a pair of tracks 7, its motion being governed by a computer (not shown). A photopolymeric ink composition is fed to the nozzles 6 from an ink container 8 via flexible tubes 9 having sufficient slack to allow free movement of the carriage 5. If necessary, the photopolymeric ink is preheated before it reaches the nozzles 6 by any suitable heating means (not shown). The photopolymeric ink may be fed under pressure to the nozzles 6 from the ink container 8 by a pump (not shown). The ink is intermittently ejected from the nozzles 6, also by command of the computer in a conventional manner, so as to form the desired image on the substrate 4. The photopolymeric ink droplets ejected from the nozzles 6 are computer-controlled in any known manner to form the latent image on the substrate. For example, the ink droplet can be deflected by electrostatic field or, when the photopolymeric material comprises a ferromagnetic powder, by a magnetic field. The image thus produced is cured by ultraviolet radiation provided by a UV source 10. 」 (図面の詳細な説明 本発明はさらに、添付される次の図面により詳細に説明される。 図1は、本発明に従った装置の1つの実施例の部分的な概略図(遠近画法)である。 図2は、図1のドラムの代わりに平台テーブル11を含む、本発明に従った装置の他の実施例の部分的な概略図(遠近画法)である。 図1に示されるように、番号1が付与される感光樹脂性印刷装置は、印刷基質4を支持する水平軸3の周りを回転可能なドラム2と、一組のノズル6と、コンピュータ(図示せず)で制御される一組のトラック7上で水平移動可能なキャリッジ5と、からなる。 感光性樹脂インキ組成物は、キャリッジ5が自由に動作できるような十分な緩みを有する可撓管9を通してインキ容器8からノズル6に供給される。必要に応じて、感光樹脂インキは、ノズル6に達する前に、適切な加熱手段(図示せず)で予熱される。 感光性樹脂インキは、ポンプ(図示せず)で圧力をかけてインキ容器8からノズル6に供給することができる。 基質4上に所望の画像を形成するために、インキはノズル6から断続的に噴出され、また、この動作は従来の方法のコンピュータ命令によっても行われる。 ノズル6から噴出される感光性樹脂インキの液滴は、既知の方法のコンピュータ制御によって基質上に潜像を形成する。例えば、インキ液滴は静電場によって偏向されたり、感光性樹脂材に強磁性粉末が含まれる場合は磁場によって偏向される。 このようにして生成される画像は、紫外線光源10から供給される紫外線放射によって硬化される。) ク.同4欄26?40行 「Example 1 A photopolymeric ink composition (XV5049, Ciba-Geigy) was warmed to 40℃ and 3% by weight of a very fine iron powder were added. The mixture thus obtained was inserted into a container of a ink-jet carriage. A steel sheet 0.25 mm thick was used as a substrate for the image produced by said ink composition droplets ejected from the nozzles placed on the carriage. The image was cured by ultraviolet radiation and a plate carrying the projected image having a hardness of 80°A(Shore) was obtained in a ready to print form. This plate can be used for letterpress or dry-offset printing. 」 (実施例1 感光性樹脂インキ組成物(XV5049、Ciba-Geigy)は、40℃まで暖められて、重量で3%の微細鉄粉が加えられた。このようにして生成された混合物が、インキジェットキャリッジの容器に挿入された。0.25mmの厚さの鋼板が、キャリッジ上に配置されているノズルから噴出される上記インキ組成物の液滴によって生成する画像の基質として使用された。 画像は紫外線放射によって硬化されて、80°A(ショア)の硬さを有する投影画像を支える刷板が作成されて、版を印刷できる準備が整った。この版は、活版印刷またはドライオフセット印刷で使用できる。) ケ.同4欄50行?5欄1行 「Example 3 The procedure was the same as in Example 1, except that the photopolymeric ink used was "Polymer Resin Hercules 500 SK" (Hercules, USA) which was pre-heated to 70℃. The substrate was a 0.25 mm thick polyester plate, havine one rough face for carrying the image. After curing, the plate had a hardness of 25°A (Shore) and can be used for flexographic printing. 」 (実施例3 使用される感光性樹脂インキが70℃まで予熱された「ポリマー樹脂ハーキュリーズ500SK」(ハーキュリーズ社、米国)であったことを除き、手順は、例1と同じであった。基質は、画像を支持する1つの粗面を有する0.25mmの厚さのポリエステルプレートであった。硬化された後、版は、フレキソ印刷に使用できる25°A(ショア)の硬さを有していた。) 上記記載事項及び図1等からみて、引用文献には、次の発明(以下「引用文献1記載発明」という。)が開示されていると認められる。 「コーティングされたまたはコーティングされていないポリエステル材料の基質上に、インキジェット印刷技術により、ノズルから噴出する感光性樹脂インキの液滴によって、基質から盛り上がる画像を形成し、紫外線放射により、前記感光性樹脂インキを硬化させて、フレキソ印刷に適用できる印刷版を製造する方法。」 (2)同じく本願出願前に頒布された刊行物である、特開平2-307731号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。 コ.公報3頁右上欄5?11行 「本発明によれば、インキジェットヘッドから吐出される光硬化性樹脂液滴を飛翔中に部分硬化させた上で、積層硬化させるので、インキジェットヘッドの目詰まりを防止することができて、メンテナンスの負担が軽減されると同時にたれ等のない寸法精度に優れた成形品が得られる。」 サ.同3頁左下欄14?20行 「インキジェットヘッドから吐出された低粘度の光硬化性樹脂液滴は樹脂硬化用照射手段33によって任意の程度まで硬化された後に、成形ステージ31上に一層毎に積層され、光源32からの光照射によって完全に硬化固定される。この工程の繰り返しによって成形物が成形される。」 (3)同じく本願出願前に頒布された刊行物である、特開平2-307730号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。 シ.公報2頁右上欄7?9行 「短時間で低コストで、且つ容易で、しかも精密に成形を行うことが可能である三次元成形装置を提供することを」 ス.同2頁右下欄7?9行 「色の混じることが無いとかたれ等の無い成形精度の良い成形などが可能となった。」 セ.同3頁右上欄4?7行 「インキジェットヘッドから吐出された光硬化性樹脂の液滴は一層ごとに成形ステージ31上に積層され、光源32の照射によって、当該樹脂が硬化される。」 3.対比 本件補正発明と引用文献1記載発明とを対比する。 引用文献1記載発明の「盛り上がる画像」は、本件補正発明の「印刷レリーフ」に相当する。 ここで、本件補正発明に言う「適用」が、何を意味するか、検討する。 本件補正発明の「基質上にインキジェット印刷システムによりインキの像通りの少なくとも2つの層を順次適用し」、「適用された層をその次の層が適用される前に不動化する」との記載、本願明細書の段落【0026】の「滴は印刷版上で生成しようとする所望するパターンに応じて噴射されて、滴により形成される層を生ずる。この層の上に第二層をその後に加えることができる。」(2?4行)等の記載からみて、本件補正発明に言う「適用」とは、基質上にインキジェット印刷システムによりインキ滴を噴射することと解される。 同様に、本件補正発明に言う「不動化」についても検討する。 上記と同じく、本願明細書の段落【0026】の「不動化段階 インキジェット印刷ヘッドによる滴の沈着直後に、それらは硬化性放射線に例えば露出される。これが不動化をもたらし、そして劣悪な像を生ずるであろう滴の流出を防止する。不動化は、次の層が記録された層の上に加えられる前に、行なわれる。」(5?7行)の記載からみて、インキジェット印刷ヘッドから噴出されたインキ滴が、例えば、硬化性放射線(段落【0027】の記載によれば「紫外線」であることは明らかである。)により硬化することと解される。 結局、本件補正発明の「2つの層を順次適用し、ここで、各層の適用段階を、適用された層をその次の層が適用される前に不動化する」とは、インキ滴が噴射された層、即ち、第一の層が不動化(硬化)してから、その次の層(第二の層)となるインキ滴を、順次噴射することと解される。 なお、このように解しても何ら矛盾はない。 他方、引用文献1記載発明もインキジェット印刷技術により、フレキソ印刷のための版を形成するものであって、基質上にインキ滴を噴射する段階、それを硬化させる段階を有しているから、引用文献1記載発明も、適用段階と不動化段階とを組み合わせて版を作成するものである。 ただし、インキの層が「少なくとも2つの層」であるか否か定かではないので、この点は相違点として検討する。 以上の点からみて、本件補正発明と引用文献記載発明とは、次の点で一致する一方、次の点で相違している。 《一致点》 基質上にインキジェット印刷システムによりインキの像通りの層を適用し、該適用段階を不動化段階と組み合わせ、それによって基質上に印刷領域を含んでなる印刷レリーフを得ることによりインキジェット印刷システムを用いてフレキソ印刷版を製造する方法。 《相違点1》 印刷レリーフを得る点について、本件補正発明では、「少なくとも2つの層を順次適用し」、「各層の適用段階を、適用された層をその次の層が適用される前に不動化するための不動化段階と組み合わせ」ているのに対して、引用文献1記載発明では、そのような適用段階と不動化段階を組み合わせたものではない点。 《相違点2》 印刷レリーフが、本件補正発明では、「垂直方向に対して第一の角度をなす線状の側面を有する上部と垂直方向に対して第二の角度をなす線状の側面を有する底部を有する印刷領域を含み、第二の角度が第一の角度と異なる」ものであるに対して、引用文献1記載発明では、どのような形状か定かでない点。 4.判断 (1)相違点1について 上記引用文献2、3には、インクジェットシステムにより、三次元(立体)の成形を行う際、精密で、たれ等のない寸法精度に優れた成形品を得るために、光硬化性樹脂液滴を、一層毎に積層し、光照射によって完全に硬化させ、この工程の繰り返しによって立体を成形することが記載されている。 即ち、精密で寸法精度に優れた立体を成形するために、一層毎に、光硬化性樹脂の吐出と硬化を繰り返すことは、インクジェットの技術を用いた三次元の成形を行う分野において周知の技術事項である。 他方、引用文献1の3欄22?26行(上記カ参照)には、従来の感光性樹脂により形成された版の画像とは対照的に、「本発明の方法で作成される画像は、基質から「盛り上がる」または「積み上がって」いる。」と記載されており、この記載からみて、引用文献1記載発明の印刷版の画像は、基質より盛り上がるように、或いは、積み上げるように形成されているものであって、立体的に形成されているものと解される。 又、引用文献1記載発明により製造される版は、フレキソ印刷のための版であるから、精密な印刷精度が要求されることは自明の課題であるところ、上記のとおり、引用文献1記載発明の画像は、立体的な画像であり、該立体的な画像を、精密で精度の良いものとして形成するために、引用文献1記載発明に上記周知のインクジェット技術を採用し、一層毎に吐出(噴出)と硬化を繰り返し、本願補正発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。 (2)相違点2について 上記相違点2に係る「レリーフが第一の角度をなす線状の側面を有する上部と第二の角度をなす線状の側面を有する底部を有する印刷領域を含み、第二の角度が第一の角度と異なる」ことの技術的意義について検討する。 「角度」に関して、本願明細書及び図面を参酌すると、段落【0005】と段落【0040】とに、「角度α」に関する記載があり、又、図1及び図5に、「α」と指示される角度が記載されている。 この内、段落【0005】と図1の記載は、先行技術に係るものであって、本件補正発明において特定される「角度」には関与しないことは明らかであるから、本件補正発明に言う「角度」とは、図5の右側の突起について、「α」と指示される角度のことであり、又、段落【0040】に記載される「角度」のことと解される。 そして、図5に記載される「α」は、底部を構成する側面の角度であるから「第二の角度」であり、上部の側面の角度が「第一の角度」であって、両者の角度が異なるものである。 なお、図5の中央の突起について、「α」なる表記はないが、下部の傾斜面の角度が「α」、即ち、第二の角度であることは明らかであり、又、高さdで表される上部の側面のなす角度が第一の角度である。 因みに、図5及び請求項2によれば、第一の角度は「0°」である。 そこで、段落【0040】について更に検討するに、4?11行に「印刷領域の周りの傾斜は、特に印刷する必要がある小さいドットに関しては、印刷領域の特性に部分的に影響を与える。従って、小滴の周りの傾斜には鮮明なドットを与えるが印刷中にドットに充分な物理的支持を与えて、非線状特性を与えることが可能である。…(略)…。図5には、高さdを有する垂直部分はドットの側面に対するインキ付着による像汚染を少なくするが、傾斜した部分は印刷中にドットを支持する。」との記載がある。 上記記載からみて、本件補正発明において、線状の側面を有する上部(高さdを有する垂直部分)を第一の角度(実施例では0°)とする理由は、ドットの側面に対するインキ付着による像汚染を少なくするためであり、線状の側面を有する底部(傾斜した部分)を第二の角度(α)とする理由は、印刷する必要のある小さいドットを印刷中に物理的に支持するためである。 即ち、本件補正発明における、第二の角度をなす線状の側面を有する底部(傾斜した部分)は、小さいドットを印刷するレリーフの補強のために設けられていることは明らかである。 ところで、フレキソ印刷を始めとする凸版印刷において、小さい点や細い線を印刷するための凸部(レリーフ)は印刷時に変形し易いという課題を有しており、その変形を防止するために、レリーフの下部に補強部を設けることは、例えば、特開昭61-137744号公報(周知文献1:2頁左上欄、第2、5、8図等参照)、特開平9-15837号公報(周知文献2:段落【0002】等参照)等に記載されるように、当該技術分野における周知の技術事項である。 してみると、同様にフレキソ印刷の版の製造法に係る発明である、引用文献1記載発明においても、小さい点や細い線を変形させずに印刷するために、印刷レリーフの下部に補強部を設けることは、当業者が容易に想到し得ることと認められる。 さらに、角度を異ならせる点について検討する。 補強部という以上、上部の印刷部より、その径が大きくなることは当然であり、その結果、上部の印刷部と下部の補強部との間には、傾斜部(本件補正発明)や(丸みを帯びた段状の)肩部(周知文献1の第5図、周知文献2の図1(b)、図3(c))、或いは、円形の膨出部(周知文献1の第8図)が形成されることになるところ、これら補強部の形状の違いによって、印刷部を補強するという効果に格段の差が生じるとも認められない。 即ち、補強部の形状は、当業者が適宜決定し得る設計事項と認められ、又、そうであれば、補強部を傾斜面とすること、即ち、第一と第二の角度を異ならせることに、格別な意義、或いは、創意工夫は認められない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、上記各相違点に係る特定事項は、当業者が適宜想到可能なものであり、それにより得られる作用効果も当業者であれば容易に推察可能なものであって、格別なものとは言えない。 したがって、本件補正発明は、引用文献1記載発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成22年3月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。 「基質上にインキジェット印刷システムによりインキの像通りの少なくとも2つの層を順次適用する段階を含んでなるインキジェット印刷システムを用いてフレキソ印刷版を製造する方法であって、各層の適用段階を、適用された層をその次の層が適用される前に不動化するための不動化段階と組み合わせることを特徴とする方法。」 2.引用刊行物及びその記載事項と発明 原審における拒絶理由に引用された刊行物及びその記載事項と発明は、上記「第2[理由2]2.」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明の「適用」、「不動化」については、上記「第2[理由2]3.」に記載したとおりであるから、結局、本願発明と引用文献1記載発明とは、次の点で一致する一方、次の点で相違している。 《一致点》 「基質上にインキジェット印刷システムによりインキの像通りの層を適用する段階を含んでなるインキジェット印刷システムを用いてフレキソ印刷版を製造する方法であって、適用段階と不動化段階を組み合わせる方法。」 《相違点》 本願発明では、「少なくとも2つの層を順次適用する段階を含み、各層の適用段階を、適用された層をその次の層が適用される前に不動化する」のに対して、引用文献1記載発明では、そのような適用段階と不動化段階を組み合わせたものではない点。 4.判断 上記相違点についての判断は、上記「第2[理由2]4.」の(1)に記載したとおりである。 したがって、本願発明は、引用文献1記載発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-07-14 |
結審通知日 | 2011-07-26 |
審決日 | 2011-08-15 |
出願番号 | 特願2003-410730(P2003-410730) |
審決分類 |
P
1
8・
57-
Z
(B41C)
P 1 8・ 121- Z (B41C) P 1 8・ 575- Z (B41C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石井 裕美子 |
特許庁審判長 |
長島 和子 |
特許庁審判官 |
菅野 芳男 笹野 秀生 |
発明の名称 | インキジェット記録を用いるフレキソ印刷版の製造 |
代理人 | 特許業務法人小田島特許事務所 |