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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16J
管理番号 1249406
審判番号 不服2010-19039  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-24 
確定日 2012-01-04 
事件の表示 特願2003-180579「密封装置及び密封装置付転がり軸受ユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成17年1月20日出願公開、特開2005-16603〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成15年6月25日の出願であって、平成22年5月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年8月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

II.平成22年8月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年8月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
互いに相対回転する内輪の外周面と外輪の内周面との間を塞ぐ為、これら内輪の外周面と外輪の内周面とのうちの一方の周面に嵌合固定自在な保持部材と、弾性材により造られて、この保持部材にその一部を結合固定したシール材とを備え、このシール材が、その先端縁を側方に存在する相手面に全周に亙り摺接させた軸方向シールリップを備えたものである密封装置に於いて、この軸方向シールリップは、基端部近傍に厚さが最も小さい最小肉厚部が存在し、この最小肉厚部から先端縁に向かう程厚さが漸増しており、この先端縁の近傍に厚さが最も大きい最大肉厚部が存在する形状を有するものであって、この最大肉厚部の厚さが上記最小肉厚部の厚さの2倍以上であり、且つ、基端部の外周面を内径側に凹んだ凹形状とし、この基端部の内周面を内径側に突出した凸形状とすると共に、この凸形状を上記軸方向シールリップの内周面で上記基端部から外れた部分と滑らかに連続させたものである事を特徴とする密封装置。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
互いに相対回転する内輪の外周面と外輪の内周面との間を塞ぐ為、これら内輪の外周面と外輪の内周面とのうちの一方の周面に嵌合固定自在な保持部材と、弾性材により造られて、この保持部材にその一部を結合固定したシール材とを備え、このシール材が、その先端縁を側方に存在する相手面に全周に亙り摺接させた軸方向シールリップを備えたものである密封装置に於いて、この軸方向シールリップは、基端部近傍に厚さが最も小さい最小肉厚部が存在し、この最小肉厚部から先端縁に向かう程厚さが漸増しており、この先端縁の近傍に厚さが最も大きい最大肉厚部が存在する形状を有するものであって、この最大肉厚部の厚さが上記最小肉厚部の厚さの2倍以上であり、且つ、この最小肉厚部を含む基端部の外周面を内径側に凹んだ凹形状とし、この最小肉厚部を含む基端部の内周面を内径側に突出した凸形状とすると共に、この凸形状を上記軸方向シールリップの内周面で上記基端部から外れた部分と滑らかに連続させたものである事を特徴とする密封装置。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
一方、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「サイドリップと呼ばれ、軸方向シールリップに相当する、上記外側シールリップ22bの基端部を、外周面側から厚さ方向中央部に向け括れさせる事により、この基端部に最小肉厚部36を設けている。即ち、この最小肉厚部36の外周面を、内径側に凹んだ凹形状としている。又、この最小肉厚部36の内周面を、内径側に突出する凸形状としている。」(段落【0034】参照)と記載されるとともに、図1?4に外側シールリップ22bの基端部の最小肉厚部36の形状が記載されている。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「基端部」に関し、当初明細書等の記載を根拠として、「最小肉厚部を含む基端部」とその構成を限定的に減縮するものである。
結局、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に該当するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:実願昭62-166474号(実開平1-71272号)のマイクロフィルム
(2)刊行物2:実願平2-105503号(実開平4-62966号)のマイクロフィルム
(3)刊行物3:実願昭63-100731号(実開平2-22467号)のマイクロフィルム
(4)刊行物4:特開2001-215133号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「サイドリップ付シール部材」に関して、図面(特に、第1、2及び6図を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、拗音及び促音は小書きで表記した。
(a)「本考案は、第1の回転部分と、第1の回転部分の径方向外へ突出する第2の回転部分とを有する回転体に装着して使用されるオイルシール、グリースシール及びダストシール等のシール部材、特に第1の回転部分のまわりに装着される環状の本体部分と、本体部分から側方へ環状かつ末広がりに突出するサイドリップとを有し、サイドリップの先端部付近が、第2の回転部分の側面に当接するようになっているサイドリップ付シール部材に関するものである。」(第2頁第14行?第3頁第3行)
(b)「第1図から第3図は本考案の第1実施例のサイドリップ付シール部材を示している。このシール部材は、回転体である乗用車のフロントハブ20に装着された弾性材料からなるオイルシールであり、第8図のオイルシールと同様に、第1の回転部分1のまわりに装着される環状の本体部分3と、本体部分の径方向内方へ突出してフロントハブ20の第1の回転部分1に嵌合するようになっている環状のラジアルリップ、即ち主リップ4及び補助リップ5と、本体部分から側方へ環状かつ末広がりに突出するサイドリップ6Aとを有し、サイドリップ6Aの先端部6b’付近が、第1の回転部分1の径方向外方へ一体に突出する第2の回転部分2の側面に当接するようになっている。しかしてこの実施例においては、第8図のものと異なり、上記サイドリップ6Aが、本体部分3に近接した位置にある薄肉部6dと、サイドリップの長手方向の中央部付近からその先端部6b’付近まで延びる厚肉部6eと、薄肉部6dと厚肉部6eとの間にあり薄肉部の位置から厚肉部の位置へ向けて徐々に肉厚が増加している遷移部6fとを有している。なお、第1図において、21はナックルステアリング、22は止め輪を示している。」(第7頁第3行?第8頁第5行)
(c)「第6図のサイドリップ6Cのように、厚肉部6e”の肉厚が、サイドリップの長手方向の中央部付近からその先端部付近まで徐々に増加し、その肉厚が増加していく割合が、薄肉部6d”から厚肉部6e”まで遷移部6f”の肉厚が増加していく割合に等しくしてもよい。即ちこのサイドリップ6Cは、内周面の傾斜角(θ’)がサイドリップの長手方向に一定の45度から60度程度であり、また外周面の傾斜角(θ_(3))もサイドリップの長手方向に一定であるが、第2の回転部分の側面に対する外周面の傾斜角(θ_(4))が上記傾斜角(θ’)より小さくなっている。この第6図のサイドリップもつぶし代が大きくなったときに点線6C’のように変形するため、第3、4図のものと同様の効果が得られる。」(第11頁第8行?第12頁第2行)
(d)第1及び2図から、互いに相対回転する内輪の外周面と外輪の内周面との間を塞ぐ為、外輪の外周面に止め輪22を介して固定されたナックルステアリング21の内周面に嵌合固定自在な保持部材と、弾性材により造られて、この保持部材にその一部を結合固定したシール部材とを備え、このシール部材が、その先端縁を側方に存在する第2の回転部分2に全周に亙り摺接させたサイドリップ6Aを備えたサイドリップ付きシール部材の構成が看取できる。
(e)第6図から、サイドリップ6Cは、基端部近傍に厚さが最も小さい薄肉部6d”が存在し、この薄肉部6d”から先端縁に向かう程厚さが漸増しており、この先端縁の近傍に厚さが最も大きい厚肉部6e”が存在する構成が看取できる。
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
互いに相対回転する内輪の外周面と外輪の内周面との間を塞ぐ為、外輪の外周面に止め輪22を介して固定されたナックルステアリング21の内周面に嵌合固定自在な保持部材と、弾性材により造られて、この保持部材にその一部を結合固定したシール部材とを備え、このシール部材が、その先端縁を側方に存在する第2の回転部分2に全周に亙り摺接させたサイドリップ6Cを備えたものであるサイドリップ付きシール部材に於いて、このサイドリップ6Cは、基端部近傍に厚さが最も小さい薄肉部6d”が存在し、この薄肉部6d”から先端縁に向かう程厚さが漸増しており、この先端縁の近傍に厚さが最も大きい厚肉部6e”が存在する形状を有するサイドリップ付きシール部材。

(刊行物2)
刊行物2には、「サイドリップシール」に関して、図面(特に、第1図を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(f)「本考案は相互に回転可能な部材間を密封するシール材に関し、具体的には一対の組となって密封力を生じせしめる組合せタイプのシール装置に関するものである。」(第1頁第17行?第2頁第3行)
(g)「本考案は,第1図に示すように軸とハウジング等の相互に可動する二部材間に装着してその内部と外部とを遮断する密封要素(1)とスリンガ-(
2)とからなった組合せ型シールのサイドリップシール(3)であって、前記密封要素(1)のサイドリップシール(3)は前記スリンガ-(2)の側周面に斜摺接するように拡径して突出しており、該サイドリップシール(3)の外周側途中部を膨らませリップ中間部が肉厚となる膨らみ形状(31)に造形したことを特徴としている。」(第3頁第20行?第4頁第9行)
(h)「サイドリップシール(3)は別部材の径方向側周面に弾性を保持し密着と摩耗に対処できるように斜めに摺接しており、従って、該サイドリップシール(3)は外周側に拡径する応力を受ける。この応力に対し、第1図に示すように該サイドリップシール(3)の外周側途中部を膨らみ形状(31)に造形し,他方の内周側をほぼ面形状(32)に形成してその中間部を外方の片肉厚に形成しているので、外径方向の変形応力が働いても外周側の片肉厚部分がそれを受け止めて阻止しリップ基部にその応力を転達するからサイドリップシール(3)そのものの形状変形を許すものでない。この様にリップ基部が支点となってリップ角度が変わるものでありその外先端に位置する接触部は摩耗が進んでも大きな角度変化を表さず密封力を変化させない耐久性の良いものとなる。」(第4頁第13行?第5頁第9行)
したがって、刊行物2にも、引用発明と実質的に同様の発明が記載されているものと認められる。

(刊行物3)
刊行物3には、「密封装置」に関して、図面(特に、第1図を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、拗音及び促音は小書きで表記した。
(i)「本考案は、密封装置、特に油等の密封流体を密封する密封装置に関する。」(第1頁第15及び16行)
(j)「第1図は、本考案の密封装置を示し密封装置の全体を1で示す。この密封装置1はハウジング2と回転軸3との間に装着されるようになっている。密封装置1はシールリップ4を有し、シールリップ4はリップ先端5を有する。リップ先端5は、スリンガー6の内壁部6aと接触しながら流体の漏れを防ぐ作用をする部分である。またリップ先端5はくさび状の断面形状をなし先端部でスリンガー6の内壁部6aの表面を強く押しつけて流体を密封する。リップ先端5がスリンガー6の内壁部6aの表面と接触している幅は小さくスリンガー6の内壁部6aの表面を押付ける力とシールリップ4の材料が流体を密封する力を決定する。
シールリップ4の形状によって機械の振動や密封流体の圧力変動が密封性能に悪い影響を与えるのを防止する。またシールリップ4は、ゴム材料でできており、押し付け力や振動の吸収は、シールリップ4を形成するゴム材料によって左右される。」(第5頁第15行?第6頁第14行)
(k)第1及び2図から、シールリップ4の最大肉厚部の厚さが最小肉厚部の厚さよりもかなり大きい構成が看取できる。

(刊行物4)
刊行物4には、「車輪用軸受」に関して、図面(特に、図1及び4を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(l)「この発明は、自動車等における車輪用軸受に関し、特に回転検出用のエンコーダ格子を一体化した密封構造に関する。」(第2頁第1欄第43?45行、段落【0001】参照)
(m)「第2のシール板12は、第1のシール板11の立板部11bに摺接するサイドリップ16aと円筒部11aに摺接するラジアルリップ16b,16cとを一体に有する。これらリップ16a?16cは、第2のシール板12に加硫接着された弾性部材16の一部として設けられている。これらリップ16a?16cの枚数は任意で良いが、図1の例では、1枚のサイドリップ16aと、軸方向の内外に位置する2枚のラジアルリップ16c,16bとを設けている。この外側のラジアルリップ16bは、例えば、図4に示すようにサイドリップに代えても良く、また省略しても良い。」(第4頁第5欄第29?39行、段落【0014】参照)
(n)「上記実施形態では、図1の例では、1枚のサイドリップ16aと、軸方向の内外に位置する2枚のラジアルリップ16c,16bとを設けたが、この外側のラジアルリップ16bは、例えば、図4に示すようにサイドリップに代えても良く、また省略しても良い。」(第5頁第7欄第28?33行、段落【0024】参照)

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「シール部材」は本願補正発明の「シール材」に相当し、以下同様にして、「第2の回転部分2」は「相手面」に、「サイドリップ6C」は「軸方向シールリップ」に、「サイドリップ付きシール部材」は「密封装置」に、「薄肉部6d”」は「最小肉厚部」に、「厚肉部6e”」は「最大肉厚部」に、それぞれ相当する。また、引用発明の「外輪の外周面に止め輪22を介して固定されたナックルステアリング21」は、外輪と一体化されていることから、本願補正発明の「外輪」に実質的に相当する。本願補正発明の「内輪の外周面と外輪の内周面とのうちの一方の周面」は選択的な記載であることを考慮すると、両者は、下記の一致点、及び相違点1?3を有する。
<一致点>
互いに相対回転する内輪の外周面と外輪の内周面との間を塞ぐ為、これら内輪の外周面と外輪の内周面とのうちの一方の周面に嵌合固定自在な保持部材と、弾性材により造られて、この保持部材にその一部を結合固定したシール材とを備え、このシール材が、その先端縁を側方に存在する相手面に全周に亙り摺接させた軸方向シールリップを備えたものである密封装置に於いて、この軸方向シールリップは、基端部近傍に厚さが最も小さい最小肉厚部が存在し、この最小肉厚部から先端縁に向かう程厚さが漸増しており、この先端縁の近傍に厚さが最も大きい最大肉厚部が存在する形状を有する密封装置。
(相違点1)
本願補正発明は、「この最大肉厚部の厚さが上記最小肉厚部の厚さの2倍以上であ」るのに対し、引用発明は、そのような構成を具備しているかどうか不明である点。
(相違点2)
本願補正発明は、「この最小肉厚部を含む基端部の外周面を内径側に凹んだ凹形状とし、この最小肉厚部を含む基端部の内周面を内径側に突出した凸形状とする」のに対し、引用発明は、そのような構成を具備していない点。
(相違点3)
本願補正発明は、「この凸形状を上記軸方向シールリップの内周面で上記基端部から外れた部分と滑らかに連続させた」のに対し、引用発明は、そのような構成を具備していない点。
そこで、上記相違点1?3について検討する。
(相違点1について)
引用発明及び刊行物3に記載された技術的事項は、ともに密封装置に関する技術分野に属するものであって、刊行物3の第1及び2図から、シールリップ4の最大肉厚部の厚さが最小肉厚部の厚さよりもかなり大きい構成が看取できる。そして、シールリップ4の最大肉厚部の厚さを最小肉厚部の厚さの何倍程度とするかは、当業者における設計変更の範囲内の事項にすぎない。
してみれば、引用発明のサイドリップ6Cに、刊行物3に記載された技術手段を適用して、厚肉部6e”の厚さを薄肉部6d”の厚さの2倍以上とすることにより、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点2について)
引用発明及び刊行物4に記載された技術的事項は、ともに密封装置に関する技術分野に属するものであって、刊行物4の図4から、サイドリップ16aの基端部の外周面を内径側に凹んだ凹形状とし、この基端部の内周面を内径側に突出した凸形状とした構成が看取できる。
さらに、密封装置において、基端部の外周面を内径側に凹んだ凹形状とし、この基端部の内周面を内径側に突出した凸形状とすることは、従来周知の技術手段(例えば、実願昭61-177180号(実開昭63-82867号)のマイクロフィルムにおける従来例を示す第3図には、基端部の外周面を内径側に凹んだ凹形状とし、この基端部の内周面を内径側に突出した凸形状としたシールリップAが記載されている。また、実願昭59-178207号(実開昭61-93669号)のマイクロフィルムの第1図には、端部の外周面を内径側に凹んだ凹形状とし、この基端部の内周面を内径側に突出した凸形状としたサイドリップ8bが記載されている。)にすぎない。
引用発明の薄肉部6d”を含む基端部を具備するサイドリップ6Cに、刊行物4に記載された技術手段、及び従来周知の技術手段を適用したものは、サイドリップ6Cの基端部が径方向及び軸方向の両方向に弾性変位し易くなり、サイドリップ6Cの先端縁の相手面に対する追従性が良好になることは、技術的に自明の事項にすぎない。
してみれば、引用発明の薄肉部6d”を含む基端部を具備するサイドリップ6Cに、刊行物4に記載された技術手段、及び従来周知の技術手段を適用して、薄肉部6d”を含む基端部の外周面を内径側に凹んだ凹形状とし、この薄肉部6d”を含む基端部の内周面を内径側に突出した凸形状とすることにより、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点3について)
上記(相違点2について)の判断の前提下において、サイドリップ6Cの凸形状をサイドリップ6Cの内周面で基端部から外れた部分と滑らかに連続させることは、当業者が適宜なし得る設計変更の範囲内の事項(例えば、実願昭61-177180号(実開昭63-82867号)のマイクロフィルにおける従来例を示す第3図には、凸形状を軸方向シールリップの内周面で基端部から外れた部分と滑らかに連続させたシールリップAが記載されている。)にすぎない。
してみれば、上記(相違点2について)の判断の前提下において、引用発明のサイドリップ6Cの凸形状を、サイドリップ6Cの内周面で基端部から外れた部分と滑らかに連続させ、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。

本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明、刊行物2?4に記載された発明、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1?4に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、当審における拒絶理由に対する平成23年5月26日付けの回答書において、「本願発明(注:本審決の「本願補正発明」に対応する。)の場合、上述の様に、最小肉厚部を含む基端部の内周面を、内径側が突出した凸形状とする構成を採用する事により、前記軸方向シールリップの先端縁の相手面に対する追従性を良好にしています。
即ち、前記最小肉厚部を含む基端部を、軸方向中間部の直径が最も小さくなった断面部分円弧形とする事により、この基端部を径方向及び軸方向の両方向に弾性変位し易くして、前記追従性を良好にしています。」(「(2)回答の具体的内容(H)」の項参照)と本願補正発明が奏する作用効果について主張している。
しかしながら、上記「前記最小肉厚部を含む基端部を、軸方向中間部の直径が最も小さくなった断面部分円弧形とする事」(注:下線は当審において付与した。)は、特許請求の範囲に記載されておらず、審判請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるし、上記(相違点1について)?(相違点3について)において述べたように、本願補正発明は、刊行物1?4に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の上記主張は採用することができない。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成22年8月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成21年10月26日付け手続補正により補正された明細書び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
互いに相対回転する内輪の外周面と外輪の内周面との間を塞ぐ為、これら内輪の外周面と外輪の内周面とのうちの一方の周面に嵌合固定自在な保持部材と、弾性材により造られて、この保持部材にその一部を結合固定したシール材とを備え、このシール材が、その先端縁を側方に存在する相手面に全周に亙り摺接させた軸方向シールリップを備えたものである密封装置に於いて、この軸方向シールリップは、基端部近傍に厚さが最も小さい最小肉厚部が存在し、この最小肉厚部から先端縁に向かう程厚さが漸増しており、この先端縁の近傍に厚さが最も大きい最大肉厚部が存在する形状を有するものであって、この最大肉厚部の厚さが上記最小肉厚部の厚さの2倍以上であり、且つ、基端部の外周面を内径側に凹んだ凹形状とし、この基端部の内周面を内径側に突出した凸形状とすると共に、この凸形状を上記軸方向シールリップの内周面で上記基端部から外れた部分と滑らかに連続させたものである事を特徴とする密封装置。」

1.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物1?4及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の「基端部」に関する限定事項である「最小肉厚部を含む」という構成を省くことにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1?4に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、実質的に同様の理由により、刊行物1?4に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1?4に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?5に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-15 
結審通知日 2011-07-19 
審決日 2011-11-16 
出願番号 特願2003-180579(P2003-180579)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16J)
P 1 8・ 575- Z (F16J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塚原 一久藤村 泰智  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 倉田 和博
常盤 務
発明の名称 密封装置及び密封装置付転がり軸受ユニット  
代理人 特許業務法人貴和特許事務所  

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