• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 G10L
管理番号 1249411
審判番号 不服2010-20430  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-10 
確定日 2012-01-04 
事件の表示 特願2004-549444「音声認識システムの動作方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月21日国際公開、WO2004/042698、平成18年 2月 9日国内公表、特表2006-505003〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2003年10月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年11月2日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成21年9月14日付けの拒絶理由通知に対して、平成22年3月29日付けで手続補正がなされたが、平成22年4月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年9月10日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願発明は、平成22年9月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。
なお、平成22年9月10日付けの手続補正は、補正前の請求項2?10を削除する補正である。
「【請求項1】
ユーザの音声信号に含まれた音声情報を認識するために、少なくとも第1と第2の動作モードで前記音声信号を検知し分析する、音声認識システムの動作方法であって、
受信品質を表す受信品質値またはノイズ値を決定し、
前記第1の動作モードで動作中に、前記受信品質値が所与の受信品質閾値より下がったとき、または前記ノイズ値がノイズ閾値より上がったとき、前記音声認識システムが、前記第1の動作モードより低い受信品質値に対応する前記第2の動作モードに切り替わり、
前記音声信号を検知し分析することを特徴とする方法。」

3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の優先権主張の日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願2002-306299号(特開2004-144791号公報)(以下、「先願」という。)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないというものである。

4.先願発明
先願の明細書及び図面には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ユーザによる音声入力の内容に応じて、音声出力あるいは音声出力と他の情報伝達手段との併用によってユーザへ情報を伝達する音声対話システムに関する。特に、音声出力あるいは音声出力と他の情報伝達手段との併用によってユーザへ情報を伝達している途中において、ユーザ音声による割り込みがあった場合、情報伝達を中断してユーザによる割り込み音声入力について処理するバージイン機能を備えた音声対話システムに関する。」

(2)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、エコーについては、様々な方法を用いたエコーキャンセラにより抑圧するのが一般的であるが、通信回線系によっては完全にエコーを抑圧することができず、エコーが残留するケースが多いことも事実である。
【0008】
また、雑音についてはノイズキャンセラで抑圧するのが一般的であるが、定常性雑音については効果的に抑圧することができるのに対して、非定常性雑音については抑圧すること
が困難であるという問題点もあった。
【0009】
さらに、エコーキャンセラあるいはノイズキャンセラの双方について、その抑圧効果を高めるようにパラメタ調整を行うことが多いが、パラメタ調整を行うことによって、同時にユーザによる音声入力自体を歪ませることとなり、結果的に音声認識率が低下してしまうという問題点も残されていた。
【0010】
そして、上記のような理由で発生する残留エコーレベルや非定常性雑音レベルが高い場合においては、従来の音声対話システムでは、バージイン機能を用いることで残留エコーや非定常性雑音をユーザによる音声入力であると誤判断してしまうことから、音声出力による案内等を停止させた上、音声認識が残留エコーや非定常性雑音を誤認識してしまう場合があり、音声対話システムの誤動作を起こす大きな要因の一つにもなっている。
【0011】
本発明は、上記問題点を解決するために、様々なエコーや雑音に起因する不測のバージインと、それに伴う誤認識によるシステムの誤動作の両者を抑止することで、ユーザにとって利便性の高い音声対話システム及び方法を提供することを目的とする。」

(3)「【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明にかかる音声対話システムは、入力された音信号に対して音響的な信号処理を行う音響処理部と、音響的な信号処理後の音信号に含まれる音声の内容を認識する音声認識部と、音声の内容に基づいて、音声出力あるいは音声出力と他の情報伝達手段との併用によって、ユーザへ情報を伝達する音声対話部と、情報を伝達する途中に、音響処理部の入力又は出力あるいは外部入力からの入力信号により、情報の伝達を中止するバージイン機能を有するバージイン制御部を含み、バージイン制御部が、音響処理部の入力又は出力あるいは外部入力からの入力信号から1つ以上の特徴量を検出し、1つ以上の特徴量に基づいてバージイン機能の有効又は無効を決定することを特徴とする。
【0013】
かかる構成により、バージイン制御部において検出される種々の特徴量に応じて、音声認識部におけるバージイン機能の有効/無効を判断することが可能となり、雑音やエコー等に起因する不測のバージインを抑止することができるとともに、雑音区間をユーザ音声区間と判断することに起因する誤認識も回避することができ、結果的に音声対話システムの誤動作を未然に防止することが可能となる。
【0014】
また、本発明にかかる音声対話システムは、1つ以上の特徴量のうち少なくとも1つが雑音特徴量であり、雑音特徴量が所定のしきい値を越えた場合にバージイン機能を無効にすることが好ましい。雑音信号のパワー等の大小に応じてバージインを行うべきか否かを判断できるからである。」

(4)「【0033】
次に、バージイン制御部14は、入力又は音響処理部12の出力、あるいは外部入力のうち、少なくとも1つの特徴量を検出することによって、音声認識部12においてバージインを行うか否か、すなわちバージイン機能を有効にするか、無効にするかを判断するものである。ここで特徴量とは、例えば雑音信号の特徴量、S/N、ユーザの位置情報等が考えられる。
【0034】
また、バージイン制御部14はバージイン機能を備えている。バージイン機能が有効であると判断されている場合、音響処理部11の出力の特徴量と所定のしきい値とを比較することによって、当該バージイン機能がユーザにより入力された音信号の立ち上がり(音声入力の開始)を検出することになる。また、バージイン機能が有効であると判断されている場合には、音声対話部13に対してバージインの発生を通知する。
【0035】
図2は、特徴量を雑音信号の特徴量とした場合のバージイン制御部14の構成図である。図2においては、ユーザにより入力された音信号、あるいは音響処理部11において処理された後の音声信号の、少なくとも1つを入力としている。
【0036】
そして、かかる入力から雑音特徴量を検出する雑音特徴量抽出部141と、雑音特徴量抽出部141で抽出された特徴量を所定のしきい値と比較することにより、バージイン機能を有効にするか否かを判定し、判定結果を音声認識部12及び音声対話部13、あるいは必要に応じて音響処理部11に出力するバージイン判定部142を備えている。
【0037】
雑音特徴量抽出部141において検出される雑音特徴量としては、例えば雑音の特徴量を数値化した雑音の振幅値、あるいはその平均値や変化量を用いることが考えられる。ただし、これらに限定されるものではなく、パワー値や振幅スペクトル値、あるいはパワースペクトル値を用いても良い。」

(5)以上を総合すると、先願の明細書及び図面には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。
「音声出力あるいは音声出力と他の情報伝達手段との併用によってユーザへ情報を伝達している途中において、ユーザ音声による割り込みがあった場合、情報伝達を中断してユーザによる割り込み音声入力について処理するバージイン機能を備えた音声対話システムであって、
入力された音信号に対して音響的な信号処理を行う音響処理部と、
音響的な信号処理後の音信号に含まれる音声の内容を認識する音声認識部と、
音声の内容に基づいて、音声出力あるいは音声出力と他の情報伝達手段との併用によって、ユーザへ情報を伝達する音声対話部と、
情報を伝達する途中に、音響処理部の入力又は出力あるいは外部入力からの入力信号により、情報の伝達を中止するバージイン機能を有するバージイン制御部を含み、
バージイン制御部が、入力から雑音特徴量を検出する雑音特徴量抽出部141と、雑音特徴量抽出部141で抽出された雑音特徴量を所定のしきい値と比較することにより、バージイン機能を有効にするか否かを判定し、判定結果を音声認識部12及び音声対話部13、あるいは必要に応じて音響処理部11に出力するバージイン判定部142を備え、
雑音特徴量が所定のしきい値を越えた場合にバージイン機能を無効にするものである、
音声対話システム。」

5. 対比・判断
(1)本願発明について
ア 本願発明における第1の動作モードと第2の動作モードについて
本願発明における「第1と第2の動作モード」の違いについて、本願の請求項1には「前記第1の動作モードより低い受信品質値に対応する前記第2のモード」と記載されているものの、それ以上に具体的にどのような動作をするモードであるのかは明確には記載されていない。また、本願の明細書には、それらがそれぞれ実施例におけるどのような動作モードに対応するものであるのか直接的な記載はない。
そこで、明細書の記載を参酌すれば、本願発明の「第1の動作モード」は、「バージイン動作モード」に対応し、「第2の動作モード」は、バージイン動作モードではない「代替的な動作モード」に対応することが理解できる。

すなわち、本願の明細書における、
「【0013】特に有利な実施形態において、受信品質が受信品質閾値より下がるとすぐに、該音声認識システムのいわゆるバージイン動作モードが切られる。これは、ユーザがその音声出力(いわゆるプロンプト)に割り込むことができる動作モードから、音声認識システムのプロンプトに反応する前にそのプロンプトの出力が完了するまで待たなければならない「代替的な」動作モードに、該音声認識システムが切り替わることを意味する。」
との記載や、
「【0031】・・・受信品質値SQが所定の閾値より下がるとすぐに、会話制御デバイス10はバージインスイッチング部9にバージイン不活性化信号S_(BA)を送る。バージインスイッチング部9では、スイッチが図1に示した位置に設定される。これは、音声認識システム1が割り込みが許された動作モードから許されない動作モードに切り替わることを意味する。これによる利点は、プロンプト出力中にバックグラウンドノイズの閾値が高すぎる場合、音声認識システム1は、ユーザによらないバックグラウンドノイズのため中断され通しにならなず、プロンプトが中断されないことである。これは、音声認識システム1が、ユーザにとって少し不自然でありそれゆえ快適でもないが、より強くそのときの受信条件に対してより好適なタイプの会話に導く動作モードに切り替わったことを意味する。」
との記載からみて、本願発明の実施例は、受信品質が受信品質閾値より下がったときに(割り込みが許された動作モードである)「バージイン動作モード」が切られ、(割り込みが許されない動作モードであって、バージイン動作モードではない)「代替的な動作モード」に音声認識システムが切り替わるものである。
また、本願の明細書には、「バージイン動作モード」と、バージイン動作モードではない「代替的な動作モード」以外の動作モードに関する記載はない。
それゆえ、本願発明の「第1の動作モード」は、「バージイン動作モード」に対応し、「第2の動作モード」は、バージイン動作モードではない「代替的な動作モード」に対応するということができる。

イ 受信品質値とノイズ値について
本願の明細書には、「受信品質値」と「ノイズ値」に関して、次の記載がある。
「【0006】
この目的は、前記受信品質値が所与の受信品質閾値より下がったとき、または前記ノイズ値がノイズ閾値より上がったとき、前記音声認識システムはノイズに敏感ではない動作モードに切り替わり、および/または前記ユーザにアラート信号を出力することにより達成される。」
「【0020】
本発明による方法を実行するために、本発明による音声認識システムは、一方で、対応する受信品質値またはノイズ値を決定する適当な品質制御デバイスを有する。他方で、該音声認識システムは、受信品質値を所与の受信品質閾値と比較する、またはノイズ値を所与のノイズ閾値と比較するコンパレータを含む。最後に、この種の音声認識システムは、適当な制御手段を要する。その制御手段は、例えば前記受信品質値が前記受信品質閾値より下がったとき、または前記ノイズ値が前記ノイズ閾値より上がったとき、ノイズに敏感ではない動作モードに切り替え、および/または前記ユーザにアラート信号を出力する、スイッチングデバイスまたは好適にプログラムされた会話制御デバイスである。コンパレータは該システムの他の構成要素、例えばボイスアクティビティディテクタや会話制御デバイスと一体でもよい。」
段落【0006】及び【0020】の記載によれば、「受信品質値」と「ノイズ値」とは、そのどちらかを使って動作モードを切り替えるものであって、「受信品質値」と「ノイズ値」とは、動作モードの切り替えにおいて、どちらを用いても良いものであって、対等な並列的な概念である。

一方、次の記載もある。
「【0015】
ボイスアクティビティディテクタにより受信品質値を決定し、それを実際の音声認識デバイスとすることは特に簡単である。そのボイスアクティビティディテクタは、一般的に、入来音声信号を検知するために音声認識システムの入力ですでに使用されている。受信品質値は、例えばユーザの音声ポーズで受信したバックグラウンド信号に基づき決定することもできる。これは、例えば、受信品質の目安として使用するために、ノイズレベルまたは基本信号エネルギーを音声ポーズの間に測定することを意味する。例えば、ユーザが静かな環境または雑音の多い環境にいるかどうかを判断することができる。さらにまた、受信品質値は、認識結果に対して得られた信頼値に基づいて、または例えば認識結果の品質や認識のために要した努力に依存するその他のパラメータに基づいて、実際の音声認識デバイス自体でも決定することができる。」
ここに記載されたことは、受信品質値は、ノイズレベルに基づいて決定することができること、及び、認識結果に対して得られた信頼値など、その他のパラメータに基づいて決定することができることである。
そうすると、「受信品質値」は、「ノイズレベル」以外のものも含むものも含むものであって、「ノイズレベル」に対する上位概念ということができる。

他方、「受信品質値」と「ノイズレベル」との関係に関して、次のように、上述の2通りの理解とはさらに異なる理解をせざるを得ない記載もある。
「【0030】
最後に、会話制御デバイス10は、所定のやり方すなわち所与の会話プロトコルに従って認識結果に応答し、例えば、メモリ12からユーザが所望する情報を選択したり、メモリ12にユーザにより入力された情報を格納したりする。さらにまた、会話制御デバイスはTTSコンバータ8を駆動して、ユーザに出力するプロンプトのデータをTTSコンバータ8に供給する。プロンプトは、TTSコンバータ8からエコーフィルタ4を介してラウドスピーカ3に入力され、そのラウドスピーカ3により出力される。一般的に会話制御デバイス10の構成は、厳密にはアプリケーションに依存する。本発明によると、図面に示した実施形態は両方とも、バージインスイッチング部9に加えて、ボイスアクティビティディテクタ5の一部である品質制御デバイス6を有する。受信品質値SQはその品質制御デバイス6で決定される。この信号はバックグラウンドノイスレベルの逆数値であり、アクティビティディテクタ5がユーザの発話が始まる前か、音声ポーズにおいて測定する。」
ここには、「受信品質値」が「バックグラウンドノイスレベルの逆数値」であることが記載されている。
すなわち、「受信品質値」と「ノイズレベル」とは、1対1の関係にあるものであり、同じ事象を異なる表現で表しているに過ぎないことになる。

「受信品質値」と「ノイズレベル」との関係がどのように明細書に記載されているかについて上述したが、「受信品質」と「ノイズ」とに関しては、次のように記載されている。
「【0004】
音声信号が受信された受信品質は一つのセッション中でも大きく変化することは、ユーザが通信端末により任意の環境からコンタクトすることができる音声認識システムに固有の問題である。受信品質は、ユーザが置かれている環境に依存するバックグラウンドノイズだけではなく、電話リンク等の送信チャンネルの品質にも大きく左右される。受信品質が悪ければ、音声認識システムの動作条件も好ましくないものになることは明らかである。送信チャンネルの副次的ノイズや短い障害や中断により認識結果が悪くなるからである。受信品質が悪くなると、(音声認識システムの感度に応じて)遅かれ早かれ、音声認識システムはある程度満足できる認識結果を提供することができなくなる。音声認識システムのうちユーザの発話に対してできるだけ素早く自然に応答するようなものは、障害に対して非常に敏感に反応するという欠点を有する。他方、音声認識システムのうち、例えば決められた時だけユーザによる発話を可能とし、比較的大きな声で音声を入力することを要し、発話に対して比較的ゆっくりと応答するようなものは、受信品質の劣化に対して強い。」
ここに記載されたことは、受信品質はノイズだけでなく他の要素にも左右されるということであるから、「受信品質」は、「ノイズ」以外のものも含むものであって、「ノイズ」に対する上位概念ということができる。

また、次にも同様な記載がある。
「【0019】
特に快適なシステムにおいて、受信品質値を受信品質閾値より下げている障害のタイプについて、入来信号を詳細に分析する。その場合、ユーザは関連情報を含むアラート信号がプロンプトの形式でユーザに提供される。これは、例えば、ユーザの通信端末と音声認識システム間の接続がよくないのか、それともユーザ付近のバックグラウンドノイズが大きすぎるのか等について分析を実行することを意味する。ユーザは、対応する情報を受け取れば、受信品質を改善するために正しく反応することが容易となる。この分析は、ボイスアクティビティディテクタおよび/または実際の音声認識デバイスにより実行することができる。」
ここには、受信品質値を受信品質閾値より下げている要因として、ユーザの通信端末と音声認識システム間の接続がよくないのか、それともバックグラウンドノイズが大きすぎるのかといったことがあることが記載されている。
そうすると、「受信品質」は、「ノイズ」以外のものも含むものであって、「ノイズ」に対する上位概念ということができる。

以上のとおり、本願の明細書には、「受信品質値」と「ノイズ値」とが、対等な並列的な概念であると認識できる記載、上位下位の関係にある概念であると認識できる記載、及び同じものを称していると認識できる記載がある。
本願の請求項1には、「受信品質値またはノイズ値を決定し、」あるいは、「前記受信品質値が所与の受信品質閾値より下がったとき、または前記ノイズ値がノイズ閾値より上がったとき、」との択一的な記載がなされていることから、請求項1に記載された発明において、「受信品質値」と「ノイズ値」とは、(上述したように明細書に記載された事項のうち)対等な並列的な概念であって、請求項1に記載された発明は、択一的な発明特定事項のうちの一方を備えた発明であるととらえることができる。
また、「受信品質」は、「ノイズ」以外のものも含むものであって、「ノイズ」に対する上位概念である。

ウ 音声信号を検知し分析することと動作モードとの関係について
「音声信号を検知し分析する」こと自体は、音声情報の認識処理に関わることであるが、本願発明において、「第1と第2の動作モードで前記音声信号を検知し分析する」ことと、「音声情報を認識する」ための具体的な処理内容との関係に関して、何ら明示的な規定はなされていない。
一方、本願発明は、「・・・少なくとも第1と第2の動作モードで前記音声信号を検知し分析する、音声認識システムの動作方法」であって、上述したように、本願発明の「第1の動作モード」は、「バージイン動作モード」に対応し、「第2の動作モード」は、「代替的な動作モード」に対応するものである。
そして、通常、バージイン動作をするしないにかかわらず、音声情報の認識処理を行うためのパラメータ等は変わらないものである。
そうすると、本願発明は、「第1の動作モード」と「第2の動作モード」とで音声情報の認識処理を行うためのパラメータ等を異ならせて認識処理を行うものではなく、本願発明は、音声情報の認識処理そのものは、「第1の動作モード」でも「第2の動作モード」でも同じように動作するが、「第1の動作モード」と「第2の動作モード」とに対応して、音声情報の認識処理の作動タイミングが異なるものであって、そのような2つの動作モードにおいて、異なる分析手法で音声情報の認識処理を行うものではなく、共に同様に「音声信号を検知し分析する」と解すべきものである。

このことは、本願の明細書の次の記載からも裏付けられる。
「【0013】
特に有利な実施形態において、受信品質が受信品質閾値より下がるとすぐに、該音声認識システムのいわゆるバージイン動作モードが切られる。これは、ユーザがその音声出力(いわゆるプロンプト)に割り込むことができる動作モードから、音声認識システムのプロンプトに反応する前にそのプロンプトの出力が完了するまで待たなければならない「代替的な」動作モードに、該音声認識システムが切り替わることを意味する。」
すなわち、「バージイン動作モード」と「代替的な動作モード」の2つの動作モードは、「ユーザがその音声出力(いわゆるプロンプト)に割り込むことができる」か、「そのプロンプトの出力が完了するまで待たなければならない」かの、音声情報の認識処理の作動タイミングが異なるにすぎないものであって、「バージイン動作モード」と「代替的な動作モード」とで、異なる分析手法で音声情報の認識処理を行うものではない。

(2)本願発明と先願発明との対比
先願発明の「入力された音信号に対して音響的な信号処理を行う音響処理部と、音響的な信号処理後の音信号に含まれる音声の内容を認識する音声認識部と、音声の内容に基づいて、音声出力あるいは音声出力と他の情報伝達手段との併用によって、ユーザへ情報を伝達する音声対話部と、情報を伝達する途中に、音響処理部の入力又は出力あるいは外部入力からの入力信号により、情報の伝達を中止するバージイン機能を有するバージイン制御部」とを備える音声対話システムは、ユーザの音声信号に含まれた音声情報を認識するために、音声信号を検知し分析する音声認識システムということができる。
そして、この音声認識システムは、バージイン制御をするものであるから、先願発明は、ユーザの音声信号に含まれた音声情報を認識するために、音声信号を検知し分析する音声認識システムの動作方法であるととらえることができる。

本願発明の「第1の動作モード」は、「バージイン動作モード」に対応し、「第2の動作モード」は、バージイン動作モードではない「代替的な動作モード」に対応する。そして、本願発明は、ノイズ値に応じて、2つの動作モードが切り替わるものである。
一方、先願発明は、雑音特徴量が所定のしきい値を越えた場合にバージイン機能を無効にするものであるから、雑音特徴量が所定のしきい値を越えない場合にはバージイン機能が有効であり、雑音特徴量が所定のしきい値を越えた場合にはバージイン機能が無効となるものである。それゆえ、先願発明も、雑音特徴量に応じて、バージイン機能が有効である動作モードとバージイン機能が無効である動作モードとが切り替わるものである。
したがって、先願発明における、バージイン機能が有効である動作モードは、本願発明の第1の動作モードに相当し、先願発明における、バージイン機能が無効である動作モードは、本願発明の第2の動作モードに相当する。
また、先願発明は、「ユーザへ」の「情報の伝達を中止するバージイン機能」を備えるものであって、バージイン機能によって、ユーザへの情報の伝達は中止されるが、音声情報の認識はユーザへの情報の伝達のいかんによらず行われるものである。それゆえ、先願発明は「第1と第2の動作モードで前記音声信号を検知し分析する」ものということができる。
そうすると、本願発明と先願発明とは、「ユーザの音声信号に含まれた音声情報を認識するために、少なくとも第1と第2の動作モードで前記音声信号を検知し分析する、音声認識システムの動作方法」である点で一致する。

なお、出願人は、平成23年2月2日付けの回答書の中で、先願発明は、バージイン機能を「無効」とした場合、「音声信号を検知し分析する」ことができないのに対して、本願発明の「第2の動作モード」は、「音声信号を検知し分析する」のものであるので、先願発明のバージイン機能の「無効」に相当するものではない旨を主張している。
しかし、上述のとおり、先願発明において、バージイン機能を「無効」とした場合、「音声信号を検知し分析する」ことができないものではなく、出願人の主張は失当である。

先願発明における「入力から雑音特徴量を検出する」ことは、本願発明における「受信品質を表すノイズ値を決定」することに相当する。

先願発明における「抽出された雑音特徴量を所定のしきい値と比較することにより、バージイン機能を有効にするか否かを判定し、」「雑音特徴量が所定のしきい値を越えた場合にバージイン機能を無効にする」ことは、本願発明における「ノイズ値が所与のノイズ値より上がったとき、前記音声認識システムが、前記第1の動作モードより低い受信品質値に対応する前記第2の動作モードに切り替わ」ることに相当する。
そして、先願発明は、「雑音特徴量が所定のしきい値を越えた場合にバージイン機能を無効にする」のであるから、雑音特徴量が所定のしきい値を越えていない場合にはバージイン機能が有効、すなわち、本願発明の第1の動作モードにあるということができ、結局のところ、本願発明と先願発明とは、「前記第1の動作モードで動作中に、前記受信品質値が所与の受信品質閾値より下がったとき、または前記ノイズ値がノイズ閾値より上がったとき、前記音声認識システムが、前記第1の動作モードより低い受信品質値に対応する前記第2の動作モードに切り替わり、前記音声信号を検知し分析する」点で一致する。

したがって、本願発明と先願発明とは、ともに、
「ユーザの音声信号に含まれた音声情報を認識するために、少なくとも第1と第2の動作モードで前記音声信号を検知し分析する、音声認識システムの動作方法であって、
受信品質を表す受信品質値またはノイズ値を決定し、
前記第1の動作モードで動作中に、前記受信品質値が所与の受信品質閾値より下がったとき、または前記ノイズ値がノイズ閾値より上がったとき、前記音声認識システムが、前記第1の動作モードより低い受信品質値に対応する前記第2の動作モードに切り替わり、
前記音声信号を検知し分析することを特徴とする方法。」である点で一致し、相違しない。

また、本願発明の発明者が上記先願発明の発明者と同一でなく、また、本願の出願時に、その出願人と上記先願の出願人とが同一でもない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は,先願発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願発明の発明者と同一でなく、また、本願の出願時に、その出願人と上記先願の出願人とが同一でないので、本願発明は、特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-27 
結審通知日 2011-08-02 
審決日 2011-08-22 
出願番号 特願2004-549444(P2004-549444)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (G10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊池 智紀  
特許庁審判長 吉村 博之
特許庁審判官 板橋 通孝
古川 哲也
発明の名称 音声認識システムの動作方法  
代理人 伊東 忠彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ