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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1249428
審判番号 不服2011-492  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-11 
確定日 2012-01-04 
事件の表示 特願2008-242280「偏光子、および液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月 2日出願公開、特開2010- 72521〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.経緯
本願は、平成20年9月22日の出願であって、平成22年7月22日付けで拒絶理由が通知され、それに対して、同年9月21日意見書および手続補正書が提出され、その後、同年10月6日付けで拒絶査定がなされ、それに対して平成23年1月11日付けで審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正書が提出され、同年7月4日付けで審尋送付、同年9月5日に回答書が提出されたものである。


第2.平成23年1月11日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成23年1月11日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.補正内容及び補正後の本願発明
平成23年1月11日付けでなされた補正(以下「本件補正」という。)には、特許請求の範囲の請求項1を次のように補正しようとする事項が含まれている。

(補正前)
「【請求項1】
二色性色素と、架橋性モノマーとを含有し、前記二色性色素が配向された状態で架橋性モノマーにより架橋された配向膜を、基板上に形成してなることを特徴とする偏光子。」


(補正後)
「【請求項1】
二色性色素、架橋性モノマー及び溶媒を含有し、前記二色性色素の濃度が0.1?30重量%の溶液を基板上に塗布することにより、前記二色性色素が配向された状態で前記架橋性モノマーにより架橋された配向膜を、前記基板上に形成してなることを特徴とする偏光子。」


(補正の目的の検討)
上記補正事項は、
補正前の請求項1に記載されていた配向膜において、当該配向膜を形成する際に用いる溶液が溶媒を有すること、および、該溶液における二色性色素の濃度を0.1?30重量%に限定するものである。
上記補正事項は補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

2. 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(前記「1.(補正後)」参照。以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(1)刊行物1
本願の出願日前に頒布された特開2001-133630号公報(平成22年10月6日付け拒絶査定における引用文献1。以下、「刊行物1」という。)には以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(1a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 重合性二色性色素の配向を保ち、かつ他の重合性モノマーと共重合体を形成して硬膜をなしていることを特徴とする異方性膜。
【請求項2】 硬膜が、配向処理を行った基板上に重合性二色性色素、他の重合性モノマー、及び重合開始剤を含有する溶液を塗布して溶液に含有されている重合性二色性色素を配向させ、その配向した状態で共重合を行うことにより形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の異方性膜。」

(1b)
「 【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は異方性膜とそれを用いた液晶表示素子に関し、より詳しくは重合性二色性色素の配向を保ち、液晶表示素子の偏光フィルムとして用いることができる異方性膜及びこの異方性膜を偏光フィルムとして用いる液晶表示素子に関する。」

(1c)
「【0012】重合性二色性色素と共重合して共重合体を形成するための他の重合性モノマーとしては、多官能性のモノマーが好ましく、2又は3官能性のモノマーがより好ましい。このような多官能性モノマーを用いることにより、共重合後の硬膜が三次元網目構造を形成し強靱となる。また、その分子量が200以上のモノマーが好ましく、300?2500のものがより好ましい。このように比較的高分子量のものを用いると硬膜が柔軟性をも有する結果となる。即ち、共重合後の硬膜は強靱性と柔軟性を併せ持つ。他の重合性モノマーの好ましい具体例として、下記構造のものを挙げることができる。」

(1d)
「【0026】
【実施例】以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例によって制限されない。
(実施例1)ITO付きガラス基板上に日産化学社製のポリイミド配向膜サンエパー130をスピンコート法によって形成し、250℃で30分間焼成したあと、ラビングを施した。この上に下記組成物1を2-ブタノンに3重量%混合した溶液をバーコート法で塗布した。塗布後溶媒が蒸発していく過程でこの膜はネマチック液晶状態を呈し均一に配向しラビング方向に吸収軸が平行になっていることが確認できた。
【0027】さらに乾燥が進むとガラス状態へと相転移するのが認められた。そこでUVを照射して膜を硬化し、二色性色素の配向を維持した膜厚3.9μmの硬化異方性膜をポリイミド配向膜上に形成した。この膜上にポリイミド配向膜サンエパー130をスピンコート法によって形成し、同様に250℃で30分間焼成したあと、色素の吸収軸方向と平行にラビングを施した。この基板どうしを互いの吸収軸が直交しかつ配向膜面同士が内側で向かい合うようにして、直径7μmの球状スペーサーを混合した熱重合性接着剤で貼り合わせ、液晶表示素子用のセルを作製した。このセルに微量のカイラル剤を混合したメルク社製のネマチック液晶組成物ZLl-1132を注入して液晶表示素子とし、電圧を印可したところ、印可電圧に応じて波長550nmの光透過率の明瞭な変化が観察できた。その様子を図2に示す。この結果は、本発明の異方性膜は液晶表示素子の偏光フィルムとして、セル内に用いることができることを明らかにするものである。
【0028】(実施例2)実施例1において、硬化異方性膜形成後、さらに行われるポリイミド配向膜の形成及びそれに引き続くラビング処理をせず、それ以外は全く実施例1と同じように作製した液晶表示素子に電圧を印可したところ、印可電圧に応じて透過率の明瞭な変化が観察できた。このことは、本発明の異方性膜は、液晶表示素子の偏光フィルムとして、セル内に用いられるのみならず、液晶配向能力があり配向膜としても機能することを明らかにするものである。

…(中略)…



上記組成物1で列記された4つの物質において、1番目と2番目のものが「重合性二色性色素」に、3番目のものが「その他の重合性モノマー」に、それぞれ相当する。最後の材料であるイルガキュアー907は光重合開始剤である。

これらの記載事項によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。


「重合性二色性色素、その他の重合性モノマー及び2-ブタノンを含有し、前記重合性二色性色素の濃度を90wt%とした組成物1を前記2-ブタノンに3重量%混合したITO付きガラス基板上に塗布することにより、前記重合性二色性色素が配向された状態で前記その他の重合性モノマーと共重合することで三次元網目構造を形成した配向膜を、前記ITO付きガラス基板上に形成してなる偏光子。」


(5)対比
本願補正発明と刊行物1記載の発明とを比較する。

刊行物1記載の発明の「重合性二色性色素」、「2-ブタノン」および「ITO付きガラス基板」は、本願補正発明1の「二色性色素」、「溶媒」および「基板」に、それぞれ相当する。
刊行物1記載の発明における「その他の重合性モノマー」は二色性色素と「共重合して三次元網目構造を形成」するものであるから、本願補正発明の「架橋性モノマー」に相当し、さらに、前記「三次元網目構造を形成」することは本願補正発明の「架橋」することに相当する。
さらに、上記刊行物1記載の発明において、二色性色素の濃度を90wt%すなわち90重量%とした組成物1を溶媒に3重量%混合させ溶液とすることから、前記溶液における二色性色素の濃度は2.7重量%と見積もられる。当該見積もられた二色性色素の溶液における濃度は、本願補正発明の「二色性色素の濃度が0.1?30重量%」という数値範囲に含まれる。

したがって、両者は、
「二色性色素、架橋性モノマー及び溶媒を含有し、前記二色性色素の濃度が0.1?30重量%の溶液を基板上に塗布することにより、前記二色性色素が配向された状態で前記架橋性モノマーにより架橋された配向膜を、前記基板上に形成してなる偏光子。」
で、一致し、相違しない。

(6)むすび
以上のとおり本願補正発明1は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3.補正の却下の決定についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
(1)本願発明
平成23年1月11日付けの手続補正は上述のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本件補正前の平成22年9月21日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。(上記「第2.[理由]1.(補正前)」参照)

(2)刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用例1の記載事項は、前記「第2.[理由]2.(1)」に記載した刊行物1のとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、本願補正発明に該配向膜を形成する際に用いる溶液が溶媒を有すること、および、該溶液における二色性色素の濃度を0.1?30重量%とすること、の2つの限定を削除したものである。

してみると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.[理由]2.(1)-(6)」に記載したとおり、刊行物1記載の発明と相違しないものであるから、本願発明も同様の理由により、刊行物1記載の発明と相違しない。


(4)平成23年9月5日付け回答書における補正案について
請求人は、平成23年9月5日付け回答書において、架橋性ポリマーを限定するとともに、配向制御膜を光配向された光配向膜に限定する補正案を提示し、補正の機会を要望している。

しかし、補正の機会を制限する特許法の趣旨に加えて、たとえ、補正されたとしても、
補正案で限定された架橋性ポリマー自体は文献を挙げるまでもなく広く知られたものと認められ、上記刊行物1の記載(特に上記「第2.理由(1c)」参照)に基づいて、上記補正案で限定された架橋性ポリマーを選択することは当業者が適宜なし得る事項であること、および、
光配向膜を用いることは特開平11-236451号公報(平成22年7月22日付け拒絶理由通知における引用例2)の【0006】、【0115】等に記載されているとおり公知な発明であり、上記刊行物1記載の発明に前記公知な光配向膜を用いる発明を適用することは当業者が容易に発明することができる事項にすぎないこと、
から、進歩性が欠如する。
よって、補正の機会を設けることはしない。


(5)むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-20 
結審通知日 2011-10-25 
審決日 2011-11-15 
出願番号 特願2008-242280(P2008-242280)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 理弘  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 金高 敏康
清水 康司
発明の名称 偏光子、および液晶表示装置  
代理人 小林 保  
代理人 小林 保  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  

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