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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1249432
審判番号 不服2011-2313  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-01 
確定日 2012-01-04 
事件の表示 特願2000-75583「柱と柱の接合構造」拒絶査定不服審判事件〔平成13年9月26日出願公開,特開2001-262700〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成12年3月17日に特許出願されたものであって,平成22年10月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成23年2月1日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同時に提出された手続補正書により明細書の補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。
その後,平成23年6月16日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年8月8日付けで回答書が提出されたものである。

第2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は,明細書の特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正することを含むものである(下線は,補正前の請求項1の記載からの変更箇所に付した)。
「端部内壁に接合用の突出し係合部を有する鋼管柱同士を相互に接合する柱と柱の接合構造であって、
これ等の鋼管柱同士の接合時に前記突出し係合部が組合わされ、該組み合わされる突出し係合部同士を相互に把持し、かつ該鋼管内壁に向けて引き付けた時に該突出し係合部同士を緊結する凹所を有する締結部材と、
一端の螺合部が該締結部材の凹所に形成されるネジ孔に取り外し可能に螺合されかつ前記鋼管柱同士の接合部面において形成される挿通孔に挿通され他端の螺合部が前記鋼管柱の外側に突出される引付けボルトと、
該引付けボルトの他端の螺合部に螺合されるナットと、
の組合せより構成される
ことを特徴とした柱と柱の接合構造。」

本件補正により,補正前の請求項1に発明を特定するために必要な事項(以下,「発明特定事項」という。)として記載された「締結部材」が,「凹所を有」し,ネジ孔がその「凹所」に形成されると限定された。
したがって,本件補正は,平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である
特開平6-180026号公報(以下,「引用例1」という。)
には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審にて付与)。

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 鋼管柱の端部内壁に接合用の突出し係合部を有した鋼管柱同士をジョイントする柱と柱の接合構造であって、上記鋼管柱同士の接合時に上記係合部同士も組合わさり、該組合わさる係合部同士を把持し且つ該鋼管内壁に向けて引き付けた時に該係合部同士を緊結する締結部材と、上記締結部材に一端を取付け或いは一体形成させ、上記鋼管柱同士の接合部面において形成される挿通孔に挿通して他端の螺合部が上記鋼管柱の外側に配せられる引付ボルトと、上記引付ボルトの螺合部に螺合するナットとにより接合されることを特徴とする柱と柱の接合構造。」

(1b)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、柱と柱の接合構造に関するものであり、詳しくは、角形鋼管柱や丸形鋼管柱等のいわゆる端部が接合時に閉鎖型断面となる柱と柱の接合構造に関するものである。」

(1c)「【0006】
【実施例】<略>
【0007】図1に示す如く、本実施例に係る柱と柱の接合構造10は、角形鋼管柱2の端部内壁に接合用の突出し係合部4を有した鋼管柱2同士をジョイントする柱と柱の接合構造であって、鋼管柱2、2同士の接合時に係合部4、4同士も組合わさり、組合わさる係合部4、4同士を把持し且つ鋼管柱内壁に向けて引き付けた時に係合部4、4同士を緊結する締結部材5と、締結部材5に引付ボルト7を挿通し、鋼管柱2、2同士の接合部面3A、3Aで形成された挿通孔8に挿通されて螺合部7Bが鋼管柱2の外側に配せられる引付ボルト7と、引付ボルト7の螺合部7Bに螺合するナット9とにより接合される。また、鋼管柱2の接合端部の係合部4は、該鋼管柱2の端部に溶接接合された接合ピース3を介して形成されている。」

(1d)「【0008】本実施例の柱と柱の接合構造10を更に説明すると、図1に示す如く、上階の角形鋼管柱2の下端、及び下階の角形鋼管柱2の上端に各接合ピース3が予め工場内等で溶接されている。接合ピース3は角形鋼管柱2の径に合わせて角形筒に鋳鋼又は鍛鋼で成形され、図4に示す如く、端部内壁3Bに突き出し係合部4が形成されている。また、接合ピース3同士の接合面3Aは、端面及び係合部4の側壁面から形成され、その角部の接合面3Aには、接合ピース3同士が組合わさって、引付ボルト7の挿通孔8を形成する凹部8Aそれぞれが形成されている。一方、接合面3Aと成らない係合部4の反対側の側壁面4Aはテーパ面となっている。更に、接合面3Aの所定の位置には、接合ピース3同士のずれを防止し、且つ位置決めを容易にする凹凸部11が形成されている。
【0009】建設現場では、下階角形鋼管柱2が立設された後、図1に示す如く溶接時に用いた接合ピース3内の裏当金具12に受け板13が設けられ、受け板13に締結部材5がそれぞれの隅部に載置される。図5に示す如く、締結部材5は、側面が略コの字形状に形成され、その凹部6で、接合ピース3の互いに合わさった係合部4、4を把持するようになっている。また、締結部材5には引付ボルト7の挿通孔14が形成され、引付ボルト7は挿通孔14に挿通した時にボルト頭7Aで締結部材5に取付けられることになっている。
【0010】引付ボルト7は締結部材の挿通孔14に挿通された後、接合ピース3の接合面3Aの凹部8A内に載置され、螺合部7Bの一部が角形鋼管柱2の外部に突き出して設けられる。このような状態で、上階の角形鋼管柱2がレッカー等で吊り上げられて、その端部の接合ピース3が下階の接合ピース3と組合せられる。従って、このような構成において、角形鋼管柱2の外部に突き出た引付ボルト7の螺合部7Bにナット9を螺合し、引付ボルト7を引付けることにより締結部材5の緊結が可能となり、角形鋼管柱2同士の端部が接合時に閉鎖型断面となり、柱と柱の接合が現場溶接を必要とせずに確実にできる。また、角形鋼管柱2、2同士が確実に接合し、また、角形鋼管柱2の外部には、接合プレートの突出部分といったものが生じず、意匠上及び施工上の問題にもならない。」

(1e)「【0013】
【発明の効果】本発明に係る柱と柱の接合構造は、現場溶接等が不要で、且つ柱外壁に意匠上又は施工上の邪魔になるような突出物を生じない。」

(1f)【図5】には,符号「6」で示される「凹部」に,符号「14」で示される「挿通孔14」が形成されていることが記載されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例1には以下の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「端部内壁に接合用の突出し係合部4を有する鋼管柱2,2同士をジョイントする柱と柱の接合構造であって,
上記鋼管柱2,2同士の接合時に上記突出し係合部4,4同士も組み合わさり,該組み合わされる突出し係合部4,4同士を把持し,且つ,該鋼管内壁に向けて引き付けた時に該突出し係合部4,4同士を緊結する凹部6を有する締結部材5と,
一端のボルト頭7Aで該締結部材5に取付けられ,該締結部材5の凹部6に形成される挿通孔14に挿入され,且つ,前記鋼管柱同士2,2の接合面3A部において形成される挿通孔8に挿通され,他端の螺合部7Bが上記鋼管柱2,2の外部に突き出た引付ボルト7と,
上記引付ボルト7の他端の螺合部7Bに螺合されるナット9と,
の組合わせにより構成される柱と柱の接合構造。」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である
特開平9-195385号公報(以下,「引用例2」という。)
には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審にて付与)。

(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】?【請求項2】<略>
【請求項3】 互いに嵌合する鋳鋼製の内側接合金物と外側接合金物とでなり、いずれか一方の接合金物は上側角形鋼管柱の下端に、他方の接合金物は下側角形鋼管柱の上端に各々溶接されるものであり、前記外側接合金物は、断面8角形の筒状であって、その外面の4面が角形鋼管柱の4側面と略同一平面に位置し、かつ残り4面が角形鋼管柱の各角部から控えた位置となる形状とされ、前記内側接合金物は外面が外側接合金物に内嵌する8角形状とされて角形鋼管柱角部と対応する4面の管壁部分が厚肉とされ、この厚肉となった管壁部分およびこの管壁部分に重なる外側接合金物の管壁部分に、互いに整合するボルト挿通孔が形成された角形鋼管柱接合金物。
【請求項4】?【請求項5】<略>」

(2b)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、鉄骨造建物等における角形鋼管柱の接合構造および接合金物に関する。」

(2c)「【0009】
【発明の実施の形態】この発明の一実施形態を図1ないし図3と共に説明する。図1(A),(B)はこの実施形態の角形鋼管柱の接合構造の斜視図および水平断面図であり、図2はその分解斜視図である。この接合構造は、上側角形鋼管柱1の下端に溶接した鋳鋼製の内側接合金物3を、下側角形鋼管柱2の上端に溶接した同じく鋳鋼製の外側接合金物4に内嵌させ、両接合金物3,4をワンサイドボルト5で接合したものである。
【0010】外側接合金物4は、断面8角形の筒状であって、その外面の4つの面4aが角形鋼管柱1,2の4面と略同一平面に位置し、かつ残り4つの面4bが角形鋼管柱1,2の各角部から控えた位置となる形状とされる。前記4つの面4bには両接合金物3,4を前記ワンサイドボルト5で接合するための複数のボルト挿通孔6が形成される。前記内側接合金物3は、その外面が外側接合金物4に内嵌する8角形状とされ、かつ角形鋼管柱1,2の各角部と対応する4つの面3bの管壁部分が厚肉とされる。その4つの面3bには外側接合金物4の前記ボルト挿通孔6と整合するボルト挿通孔7が形成される。」

(2d)「【0016】また、前記実施形態では接合ボルトとしてワンサイドボルト5を使用したが、図4に水平断面図で示すように両切りボルト8とナット8aを使用してもよい。この場合、内側接合金物3の4面3bには、ボルト挿通孔6に代えて、前記両切りボルト8をねじ込むねじ孔9を形成する。その他の構成については先の実施形態と同様である。両切りボルト8およびナット8aに代えて通常の頭付きのボルトを用いても良いが、前記のように両切ボルト8を用いた場合、規定の締め付け軸力を得るための施工管理が容易となる。」

(3)引用例3
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である
実願平2-44060号(実開平4-4103号)のマイクロフィルム(以下,「引用例3」という。)
には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審にて付与)。

(3a)「3.考案の詳細な説明
[産業上の利用分野]
本考案は、四角形断面を有する角形柱あるいは円形断面を有する円形鋼管柱のような密閉形鋼管柱の梁との接合部や柱同士の接合部に用いられる接合部材に関する。」(明細書第1頁第15?19行目)

(3b)「[考案が解決しようとする課題]
しかし、このような密閉形鋼管を柱として用いた場合には、断面形状が閉じた形であるため柱内で締結作業を行うことが困難であり、I字鋼のように開いた断面形状を有する鋼材を用いた場合に比較すると、ボルト、ナット等の締結部材により柱と梁あるいは柱同士を容易に接続することができないという問題がある。
これに対して、タップを切った金具を予め密閉形鋼管柱内の接合箇所に配置し、該柱と梁あるいは別の柱とを接続した後に、外部からボルト接合することが考えられる。」(明細書第2頁第6?17行目)

(3c)「しかし、この場合、ある程度以上のトルク(回転力)がボルトに作用すると、タップを切った金具がボルトと共に回転する所謂「共回り」が生じ、十分な締結力が得られなくなってしまうという問題がある。また、ボルトの軸部はトルクと引張力とを受けるので、望ましい応力状態ではなくなる。」(明細書第2頁第17行目?同第3頁第3行目)

(3d)「[課題を解決するための手段]
本考案の密閉形鋼管柱の接合部材は、密閉形鋼管柱の梁との接合部や柱同士の接合部に用いられる密閉形鋼管柱の接合部材において、両端部に相互の勾配又はピッチが異なるねじ山がそれぞれ成形されているボルトと、一方のねじ山に螺合し端部につめが設けられているナットと、密閉形鋼管柱内部の接合箇所に設置されかつ他方のねじ山に螺合するねじ孔が形成されている断面L字状のタップ付金具とを備えている。」(明細書第3頁第8?17行目)

3.対比
本願補正発明と引用発明1とを対比すると,引用発明1の「ジョイントする」ことは,本願補正発明の「相互に接合する」ことに相当し,以下同様に,
・「突出し係合部4,4同士を把持」することは,「突出し係合部同士を相互に把持」することに,
・「凹部6」は,「凹所」に,
・「接合面3A部において形成される挿通孔8」は,「接合部面において形成される挿通孔」に,
・「外部に突き出た」態様は,「外側に突出される」態様に,
それぞれ相当する。
また,引用発明1の「一端のボルト頭7Aで締結部材5に取付けられ,該締結部材5の凹部6に形成される挿通孔14に挿入され」る態様と,本願補正発明の「一端の螺合部が締結部材の凹所に形成されるネジ孔に取り外し可能に螺合され」る態様とは,「一端が締結部材に取付けられ」る態様において共通する。

してみると,両発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「端部内壁に接合用の突出し係合部を有する鋼管柱同士を相互に接合する柱と柱の接合構造であって,
これ等の鋼管柱同士の接合時に前記突出し係合部が組合わされ,該組み合わされる突出し係合部同士を相互に把持し,かつ該鋼管内壁に向けて引き付けた時に該突出し係合部同士を緊結する凹所を有する締結部材と,
一端が該締結部材に取付けられかつ前記鋼管柱同士の接合部面において形成される挿通孔に挿通され他端の螺合部が前記鋼管柱の外側に突出される引付けボルトと,
該引付けボルトの他端の螺合部に螺合されるナットと,
の組合せより構成される柱と柱の接合構造。」

[相違点]
「引付けボルト」の「一端」と「締結部材」との取付け態様に関して,本願補正発明では「一端」に「螺合部」が設けられ,該「螺合部が締結部材の凹所に形成されるネジ孔に(引付けボルトが)取り外し可能に螺合され」ているのに対して,引用発明1では「一端」に「ボルト頭7A」が設けられ,該「ボルト頭7Aで締結部材5に取付けられ,該締結部材5の凹部6に形成される挿通孔14に(引付けボルト7が)挿入され」ている点。

4.判断
(1)相違点に係る構成の容易想到性について
上記相違点について以下に検討する。

引用例2の上記摘記事項(2d)には,鋼管柱同士の接合に当たり,「通常の頭付きのボルトを用いても良いが、…両切ボルト8を用いた場合、規定の締め付け軸力を得るための施工管理が容易となる。」と記載されている。
また,引用例3の上記摘記事項(3b)には,密閉形鋼管柱同士の接合では,「断面形状が閉じた形であるため柱内で締結作業を行うことが困難であ」ることから,「外部からボルト接合することが考えられる。」と記載され,さらに,上記摘記事項(3c)には,このように「外部からボルト接合する」と,「ボルトの軸部はトルクと引張力とを受けるので、望ましい応力状態ではなくなる。」と記載されている。そして,そのような問題を解決するための手段として,上記摘記事項(3d)には「両端部に…ねじ山がそれぞれ成形されているボルト」を用いて,「一方のねじ山に…ナット」を螺合し、「他方のねじ山」に,「密閉形鋼管柱内部の接合箇所に設置され…ている断面L字状のタップ付金具」を螺合する構成が開示されている。

さらに,引用発明1並びに引用例2及び3に記載された発明は,上記摘記事項(1b),(2b)及び(3a)に記載されるように,いずれも鋼管柱同士をボルト及びナットを用いて結合するという共通の技術分野に属する発明である。

してみると,引用発明1の「一端」に「ボルト頭7A」が設けられた「引付けボルト7」に代えて,
(α)引用例2に記載されるように,「規定の締め付け軸力を得」やすくするために,「両切りボルト8」を用いるようにし,「締結部材」への取付けを螺合により実現すること,
又は,
(β)引用例3に記載されるように,「外部からボルト接合」できるようにするため,若しくは,ボルトの軸部で「トルクと引張力とを受け」ないようにするために,「両端部にねじ山がそれぞれ成形されているボルト」を用いるようにし,「締結部材」への取付けを螺合により実現すること
により,上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。
ここで,「締結部材」への取付けを螺合により実現することにより,「締結部材」と「ボルト」とが「取り外し可能」になることは自明である。

(2)審判請求人の主張について
(イ)組み合わせの動機付けについて1
審判請求人は,審判請求書の第5?8頁にかけての「(4)本願発明と引用発明との対比」欄において,引用発明1と引用例2又は3に記載された発明とを対比し,両発明間で,
・「技術分野に関連性があるとはいえない。」
・「課題の共通性も存在しない。」
・「ボルトの作用や機能も著しく相違する。」
と述べ,「引用文献1?引用文献4には、引用発明の引付けボルトとして頭付きボルトに換えて両切りボルトを採用する点についての動機付け乃至これの契機となる記載は一切存在しない。」と主張している(当審注:当該主張中の引用文献1?3は,本審決における引用例1?3にそれぞれ対応し,同様に,引用発明は引用発明1に対応する。また,引用文献4は,本願の請求項2に係る発明に対して,原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された別の刊行物である。)。
しかしながら,引用発明1の「引付けボルト7」を,引用例2に記載された「両切りボルト8」又は引用例3に記載された「両端部にねじ山がそれぞれ成形されているボルト」に置き換えることの動機付けの存在については,上記(1)欄に記載したとおりであり,請求人の上記主張は合理性を欠くから採用できない。

(ロ)組み合わせの動機付けについて2
審判請求人は,回答書の第4?5頁において,「引用文献2の開示にあるとおり、両切りボルトは、ボルト装着の際、頭部を保持して軸部をボルト孔等に挿入した後には当該軸部先端側を保持することができないといった、ボルト挿通孔の向こう側には手を回すことができない閉鎖断面的な部分で一方側からしか作業できない場合に用いるのが一般的であ」るのに対し,「本願発明は、ボルト挿通孔にボルトを挿通後であってもボルト軸部先端側に手をまわすことができる部位に両切りボルトを採用しており」,「ボルト挿通孔の両側にアクセスすることができる引用文献1の構成に、ボルト挿通孔に一方側からしか作業することができない部位に両切りボルトを採用している引用文献2に開示の構成を組み合わせることは、当業者であっても到底容易に想到し得るものではありません。」と主張している(当審注:当該主張中の引用文献1及び2は,本審決における引用例1及び2にそれぞれ対応している)。
しかしながら,本願補正発明の「引付けボルト」すなわち「両切りボルト」は,本願明細書の段落【0009】?【0011】に記載されるように,従来技術において,柱と柱との接合後に「引付けボルト56の交換を行うためには」,鋼管柱内に位置するボルトの「頭部56a」にアクセスできるようにする必要があるが,「その作業には膨大な労力と時間が必要である問題があった」という課題を解決するための手段として採用されたものである。そして,本願補正発明も引用発明1も,柱と柱との接合後において,請求人が主張する「両切りボルト」の一般的な用法である,「向こう側には手を回すことができない閉鎖断面的な部分で一方側からしか作業できない場合」となっていることは明らかである。
請求人の上記主張は,柱と柱との接合後ではなく,本願補正発明の課題とは関係のない,本願補正発明及び引用発明1の柱と柱との接合途中において,一時的に,「ボルト挿通孔の両側にアクセスすることができる」ことを根拠とするものであるから採用できない。

(ハ)締結部材とボルトの着脱可能性について
審判請求人は,審判請求書の「(4)本願発明と引用発明との対比」欄において,「引用文献2?引用文献4には、締結時の移動を伴う締結部材にボルトを着脱可能に一体とする点についての示唆乃至契機も存在しない」ものであり,「引用文献1にも締結時の移動を伴う締結部材にボルトを着脱可能に一体とする点について充分に示唆があるとはいえない。」と主張している。
しかしながら,引用発明1の「引付けボルト7」を,引用例2に記載された「両切りボルト8」又は引用例3に記載された「両端部にねじ山がそれぞれ成形されているボルト」に置き換えることにより,「締結部材」と「ボルト」とが「取り外し可能」になることは,上記(1)欄に記載したとおり自明であり,請求人の上記主張は採用できない。

(3)作用・効果の予測性について
また,本願補正発明の全体構成により奏される作用・効果は,引用発明1及び引用例2又は3に記載された技術的事項から,当業者が予測できた範囲内のものである。

(4)まとめ
よって,本願補正発明は,引用発明1及び引用例2又は3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

5.むすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明の認定
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成22年4月9日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「端部内壁に接合用の突出し係合部を有する鋼管柱同士を相互に接合する柱と柱の接合構造であって、
これ等の鋼管柱同士の接合時に前記突出し係合部が組合わされ、該組み合わされる突出し係合部同士を相互に把持し、かつ該鋼管内壁に向けて引き付けた時に該突出し係合部同士を緊結する締結部材と、
一端の螺合部が該締結部材に形成されるネジ孔に取り外し可能に螺合されかつ前記鋼管柱同士の接合部面において形成される挿通孔に挿通され他端の螺合部が前記鋼管柱の外側に突出される引付けボルトと、
該引付けボルトの他端の螺合部に螺合されるナットと、
の組合せより構成される
ことを特徴とした柱と柱の接合構造。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された各引用例及びその記載事項は,上記第2.[理由]2.欄に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は,上記第2.欄で検討した本願補正発明の発明特定事項として記載された「締結部材」から,「凹所を有」し,ネジ孔がその「凹所」に形成されるとの限定を削除したものに相当する。

そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が,上記第2.[理由]4.欄に記載したとおり,引用発明1及び引用例2又は3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様な理由により,これらに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-28 
結審通知日 2011-11-01 
審決日 2011-11-17 
出願番号 特願2000-75583(P2000-75583)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E04B)
P 1 8・ 121- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野 忠悦  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 宮崎 恭
仁科 雅弘
発明の名称 柱と柱の接合構造  
代理人 特許業務法人中川国際特許事務所  

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